PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>だるまさんが転んだしながら、ミラーボールを穿て!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その古代獣のクローンは割と不幸だった。城内に関する最低限の知識を刷り込実がうまくいかなかったのだ。
 こんなところに入り込んでしまわなければ、それなりの武功を立てられたかもしれないのに。
 入り込んだとたんに扉が閉まった。慌てて戻ろうとした所、足元からすさまじい痛みが脳天まで突き上げた。外相はないが体の中がずきずきと痛い。損傷しているのが分かった。
 足元は時折色を変える。踏むと色が変わるが、足を放した途端、また痛みが走る。そのまますくみ上っていると痛みは走らない。動くなということかと思ったとたん、またすさまじい痛みが走る。いつの間にか足元から色が消えていた。
 色のついたタイルを踏んだままでいなくてはならないのだ。そして、ずっとそこにいることもできない。色がなくなるからだ。一定の速度で色の代わりタイルの上を進んだり止まったりしなければならないのだ。出口から外に出るまで。
 それを守らないと――。
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん!
 じゃおっ!
 吹きすさぶ風のように、光がドーム内を駆け巡った。
 鏡面仕立ての壁に乱反射する光から逃れる術はない。
 古代獣のクローンの意識はそこで途切れた。
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん。ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん。
 一定の間隔をあけて光は何度も照射され、後には灰も残らなかった。
 古代獣のクローンは四足歩行だったのだ。
 せめて二足歩行だったら、入り口脇の出っ張りに巧妙に隠されたパネルとハンドルが付いているのに気づけたかもしれないのに。


「鉄帝国のあー歌手調査、順調なんだってさ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、チーズクッキーをかみ砕いている。
 鉄帝国南部の街ノイスハウゼンの上空に発見された伝説の浮遊島アーカーシュには鉄帝国の食料事情を改善する期待がかかっており、また特務軍人は軍事力を更なる強化するという期待をかけている。いずれにせよ、鉄帝国には重要である。
「んでも、あそこ厄ネタと背中合わせなのも聞いてるでしょ?」
 現代人が『アーカーシュ』と呼んでいるこの島は、厳密には超古代アーカーシュ文明と呼ぶべき高度な精霊都市『レビカナン』であり、さらにはやがて無人になり滅び去ったその都市を、これまた古い勇者アイオンの時代に魔王イルドゼギアなる存在が魔王城を建造したことが分かった。魔王イルドゼギアは勇者アイオンによって討伐されて久しいが、この地にあるのはいわば『後詰めの城』であり、勇者アイオンは到達していない。要するに『未踏破の裏ダンジョン』のようなものである。
 つまり、寝ているDLC――裏ボスを起こすことになりかねない。
「ふるーい歴史が交錯している土地だから、どっかを軟化看過すると将棋倒しになるから慎重に進めた方がいいと思うんだよね。俺個人はね」
 他には遺跡深部へ通じる道なども発見され、踏破が急がれている。
 そして、独走気味というか、暴走気味というか、様子がおかしいとささやかれ始めているのが特務大佐パトリック・アネル。
 彼の独断行動により、彼率いる『特務派』とそれに反感を抱く『軍務派』との間で派閥が別れた状態になっている。
「レリッカの村長を強権的に軍属復帰させ村から追い出したり、またアーカーシュの何かに関わるユルグという少年を突如『保護』名目で連行するなど奇怪な動きが確認されてる」
 情報屋は、ぐびぐびと茶を飲んだ。
「彼は突如『地上にあるノイスハウゼン基地との通信網を遮断』、そして『力をもってイレギュラーズを作戦から排除する』行動に出た。ローレットとしては即応が要求される。『軍務派』はまあ当てにしていいだろ」
 それにしてもだ。と、情報屋は、難しい顔をして茶を茶碗にそそぐ。
「集めた情報を分析すると。パトリックは有能な軍人だった。鍛え上げた壮健な肉体と聡明な頭脳、人好きこそしないが一掴の出世欲や野望も抱き、国益を最優先する、至って健全な人物。ま、でなきゃ、こんな作戦に推挙されないわな」
 これで、彼の帝国軍人としての出世街道は閉ざされた。というか、破滅の道が舗装されたといっていい。
「イレギュラーズの推測として――あくまで推測にすぎないけどな――特務大佐は、おそらく反転している。大きな声で吹聴するなよ。あくまで推測だ。外交問題に発展しかねん厄ネタだ」
 情報やなついだちゃにミルクを流し込んだ。透明な茶が白く濁ってそこが見えなくなった。
「彼は元来決して『人好きのする性格ではなかった』が、『国益に忠実』ではあったはずだ。けれど今はなぜだろうか、異常としか思えない。何か得体の知れない『怒り』のようなものを感じたんだと」
 事態の背景に横たわるものとは、一体何であるのか。
 反転という現象は、魔種による『原罪の呼び声』というものが引き起こす。ならば、その原因となる『魔種』とは、具体的には一体何者であるのか。
「特務の派閥に組み込まれた帝国軍人達は、あくまで軍人であり、余程でなければパトリックの『命令』に従わざるを得ない。中には好き好んで戦いを挑んでくる者も居るかもしれないが、当然そうではない者は多いだろう。人質取られてるようなもんだな」
 
「パトリックが魔種になってしまったことを暴けば、この帝国軍人同士の無駄な争いに終止符を打つ算段が立つはずだ。殺していいのとそうでないのをできる限りより分けながら、自分の命を最優先で。障害を取り払い、アーカーシュを制圧するってのが基本方針だ。ここまでいいか?」
 イレギュラーズは特務派軍人達を相手取りながら、アーカーシュの制圧作戦を完遂せねばならない。


「で。皆にはエピトゥシ城に行ってもらう」
 黒曜石のような不思議な素材で出来たとげとげしく禍々しい城と報告されている。
「内部はやはり艶やかな漆黒で、ところどころに水晶があり、水晶内で光る紫の電流が灯りになってるってさ」
 情報屋はさらに焼き菓子を口に放り込む。
「ここ、後詰の城だから本陣への挟撃対策。本陣落とされた後は戦力的撤退の受け入れ、再起まで絶対落とされてはいけない現場になるから、兵力少なくても機能するようにできてんだよ」
 兵がいなくても敵を削る――つまり。
「構造は迷宮のようになっており、様々なフロアで罠や敵が待ち構えています」
 迷宮。それは絶対殺す為にて気を侵入させる構造物という名の戦場。
「もともとに古代獣(エルディアン)の製造プラントがあったから、その防衛システムを流用してるんだな。鉄帝関係者、これ今後の昇進試験に出るぞ」
製造プラントは破壊命令が出ています。液体に満たされたガラスの円柱に、魔物が浮かんでいたら有無を言わさずぶっ壊し、念のため息の根を止めて下さい。
「皆さんに同行していただきたいのは、こちらの区画になります」
 そんなに広くないドームの攻略だ。床が幾何学模様。中央の円柱の上にキラキラ輝く金属製の思しき二十面体。
「ここ、ガード固いんだよね。床が光るのに合わせて該当箇所を踏まないと、ダメージを受ける床。というか、光ってるとこだけが安全地帯でそこ以外を定期的に焼く。そんで、誰かが焼けたら侵入者とみなし、円柱状の金属多面体が回り出して動いたら安全地帯以外目掛けて範囲攻撃チュドーン」
 そんな、侵入者絶対殺す空間。
「皆さんには、後続の露払いとして物騒な金属多面体をぶっ壊してもらいます」
 メクレオの依頼。こんなんばっか。露払い。それがメクレオの担当カテゴリ。
「ものが金属なんでめっちゃ固い。斬撃は効率が悪い。打撃もいまいち。刺突、射撃系がいいと思うんだけど、的が小さい。10センチ四方だから射撃の的としては気にならない? でも動くんだよ。んで点滅する」
 凝視するのに向かないように作られている。
「後、非生命体なので精神系とか毒とか体液喪失系BSはつかない。電撃系は対策されてる。攻撃は面じゃなくて点で。構造上、明らかに脆弱な個所が複数個所あるんだ。経年劣化で色が変わってるはず」
 使用合金の差異によって発生。本来なら保守交換されるべきパーツだ。文明が滅びてなければ。
「それと、床は攻撃するな。一定量の物理ダメージを与えると底が抜ける落とし穴仕様になってるっぽい。そのままなに溶けてるかわからない排水路にドボン」
 転落死、中毒死、溺死、激突死、衰弱死が想定される。板子一枚下は地獄。
「最初は、床踏まなきゃいいから飛行戦闘状態からの一撃必殺狙撃を考えたんだけど、距離が近すぎて弾速が上がり切らないんだよ。ゼロ距離だと相応ダメージ覚悟。スナイパーに無理はさせられない。当然飛んでる空間も攻撃範囲だから万が一ダメージ食らって姿勢制御できなくなって墜落すると落下ダメージと床からのダメージも入るから大分ギャンブルになるんだよ。でも、有効っちゃ有効」
「範囲攻撃は、柱の直下は死角じゃねえかなと思ったんだけど、壁が鏡面仕立てで乱反射するのね。死角なし。床とビームのダメージ食らいつつ柱へし折るのもありっちゃありだけど、それなりの頑健さと手厚い回復用意しないと」
 何とも言えない空気の中、メクレオがぐびぐび茶を飲む音だけが響く。
「もちろん、面子次第ってことだし、俺が思いつかない冴えた攻略法があるに決まってる。むしろ、あってほしい。ぜひ、思いついてくれ。俺の案では被害がでかすぎる」
 薬師はやれやれと息をつく。
「こういうところって、一応保険として安全装置とかフリーパスみたいなの絶対あるはずなんだよね。それ探してみる? あるかないかわからないし、防犯上初めからありかがわからなきゃ無理なくらい巧妙に隠されてるに決まってるんだけど」
 あ、これは言っておかなきゃ。と、情報屋は言った。
「金属製多面体の範囲攻撃のタイミングだけはわかった。「ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん」だ。
 四拍子。

GMコメント

 田奈です。
 謎の古代遺跡を流用した放棄されたお城のデストラップを破壊する心の準備はOK?
 だるまさんが転んだをしながら、ミラ―ボールを壊すお仕事です。

目的:柱のてっぺんの金属多面体の機能停止。攻撃してこなくなったら成功とします。

戦場:中央に柱が立っているドーム。
 四方に出入り口がありますが、イレギュラーズが侵入した時点で閉ざされています。破壊するには大分時間がかかるでしょう。
 直径20メートル。中央に5メートルの柱。その上に直径1メートルの多面体。床は不規則に光るタイル。天井の高さは最大9メートル。ドームは全面鏡面仕上げ。光学系のものは色々乱反射します。

*敵
 光る床:1ターンごとに踏み込み続けていないと作動するデススイッチトラップです。(『床を踏み込む』で補助動作を消費します)
 毎ターン点灯する位置が変わります。普通に歩いて移動するには何の苦労もなく通り抜けられますが、その場にい続けようとするとかなり難しくなります。

<特殊判定>
 床の店頭場所の変更を攻撃扱いとし、回避判定に失敗すると別のタイルを踏んだという扱いとします。

 光っていない部分を踏むと、物理ダメージを受けます。
 光っているところとその上空は安全地帯となって、金属多面体の攻撃範囲外になります。
 つまり、誰かはタイルを踏んでいないと空中のすべては金属多面体の攻撃範囲になります。ですが、一か所だとトーテムポール状態になりますからだいぶ笑える状態になります。
 空中戦を挑む場合は、そのあたりも考える必要があります。

 金属多面体:光ります。70年代のディスコティークのミラーボールをイメージして下さい。
 明らかに変色している部位がありそこしか有効打が入れられません。10センチ四方で全方位に複数あります。
 ミラーボールですので光りますし、回ります。壁面の鏡面に反射して狙いを定めるのが難しいでしょう。命中判定にマイナス補正が入ります。対策してください。
 範囲攻撃のタイミングは、床を間違えて踏んだタイミングから「ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん」です。ドーム内の安全地帯以外の全てを攻撃します。

安全装置
構造上、どこかにはあるはずですが探すのに専念しなくてはなりませんし、その間戦闘に参加することはできません。床は点滅していますから、行きたいところにすぐ行ける訳でもありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <Stahl Eroberung>だるまさんが転んだしながら、ミラーボールを穿て!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
セス・サーム(p3p010326)
星読み

リプレイ


「なんだぁこの部屋……」
『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)がうめいた。
 一定間隔で床はランダムに点滅を繰り返し、石柱の上で鏡面多面体――再現性東京に出入りしている者ならこういうだろう――ミラーボールが回転している。
「なんというか……見た目の賑やかさに比べてえげつない仕掛けのある部屋ですな!」
『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が陽気な調子で声を上げた。
 将来的には誰もが楽しく気軽に冒険のスリルと浪漫を体験できるテーマパークを作るのが昨今の夢のヴェルミリオにとっては一つのテーゼだ。
「ダッシュしたり静止したりとハードワークだな、この任務は」
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)に割り振られた役割は重要なものだ。もっとも床の点滅と仲良くしなくてはならない。足を踏み外した途端、作戦の難易度が上がる。
「それにしても対処法が幼な子の遊戯のような動きですね」
『星読み』セス・サーム(p3p010326)は、指定位置への移動・停止から椅子取りとだるまさんが転んだを想起している。
「城にトラップを仕掛けるのはわかるがなんでこんなトラップなんだ?」
『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の疑問はもっともだ。圧倒的に効率が悪い。
「レビカナンとやらの遺物なのか誰かが手を入れたのか……気が緩みそうだけど面倒な機構してんのねぇ。さっさと終わらせたいところだけど」
 コルネリアが渋い顔をする。聞きしに勝る面倒さだ。
「鉄帝的に考えると罠は突撃して破壊するのが模範解答とされるが、果たしてここでは如何であろうか」
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は癒しきれぬ傷を抱えてなお美しい。
 包帯美少女はもとより、表面的にはわからねども中身がズタズタで喀血の危険があるというのもまた別の風情がある。
「古代人とはいえ地理的には鉄帝人、古代から頭鉄帝でもおかしくないと思うのである!」
 地政学的にありだろうか。風土が民族性を作るのはおおむね間違いではないが。
 視線の先に、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がドームの中を見回している。
「このお部屋、キラキラしていて綺麗なのだけれど、すごく目に痛いですわね……」
 唇が小さく動いている。神に聖句を奉っているのだろう。
「早く破壊してしまいましょう。主に私達の目の健康のために!」
 満面の笑顔だ。手には天使の翼をかたどったメイス。
 こう――すがすがしいまでに罠の土俵に乗ろうとしない。
「……いや、鉄帝人なら安全装置とか付けぬな多分」
 百合子は確信を持った。
 壊れた機械は殴って止める。それが鉄帝クオリティ。ギアバジリカもそうでした。
 だから、これは純度100%古代遺跡。と、イレギュラーズは判断した。大体あっていた。


 踏み出しやすいところに点滅した時がスタートの合図だ。乗るしかない。このタイトなリズムに。
「露払いは大変? ノンノン。引き受けるからには楽しませて戴きますよ」
『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)、古来より、先駆けは戦の華。
「さぁ再現性歌舞伎町No.1ホスト、冥夜のファビュラスな舞をお楽しみください!」
 淑女がとろける魁見せるがホストの本懐。
「70年代のディスコは嗜みです。今日の俺は音で攻めます」
 呪符に組み込まれた一角獣がいななく。反響する音に超越個体の脳内マッピングが始まる。攻撃対象と自分との距離は、無限ライダー2号、必殺の間合い。
 時計の針のような光の剣が劣化し鈍い残響を上げる箇所に吸い込まれる。初劇に続くインパクトが個所に小さなひびを入れる。
 踏んでいた床の色が変わる。その刹那に、ファビュラスなホストの足は次の色の上に立つのだ。次なる姫のテーブルに着くときのように迅速かつ幾分もったいを付けて。
「移動を制限し、強力な攻撃で薙ぎ払う……見た目はちょっと愉快であるが実にいやらしい罠よ」
 百合子は、やれやれと首を横に振った。
「足こそが戦闘の要。それを潰されては誰しもカカシにすぎぬ」
 立つべき時に立つべき場所に立つのが戦闘の絶対優位条件であるならば、それを強制された戦場出の勝ち目は絶望的に下がる。
「だが、吾は設計者の想定外になってみせよう!」
 清楚な白百合がふわっと空中に現れる。それを踏みしだく罪も百合子なら赦される。美少女であるがゆえに。
 自分の限界をでたらめコードで吹き飛ばし、多面体への移動と攻撃回数を安定させる。
 まずは三段、続いて一撃、更に可能性あるうちでもっともダメージ与えられる可能性を手繰り寄せるようにして更なる一撃。
 ピーンと音の余韻が消える前に、百合子は冥夜の上に影を落とす。
「間合いに入ることご容赦願う」
 長身の冥夜の頭上に立っては万一の落下ダメージは免れない。高度を落とし、床のタイルからはみ出さないように若干窮屈な感じになる。
「いえ。姫のお側近くに侍るのは騎士だけじゃないってことですよ」
 節度をもって「姫」に侍り、安心していただいてこそ、良きホスト。財布のひもは太陽を浴びる旅人のごとく喜んで緩めていただかなくては長いお商売にならない。
「一撃の有効性は周囲に劣れども、吾は数で勝負するのである!」
 心意気が姿かたちに現れ、美となるならば。
「例えダメージが十分に与えられずとも、連撃で回避を鈍らせ防御力を削れば後に続く者がやってくれるはず!」
 百合子のそれは、まさしく美々しい。
「仲間が調査をしてくれてる間、少しでも装置を攻撃するのが私の役目。死ぬ事以外は掠り傷。空元気でも意地を張るのがホストというもの!」
 足元はお任せください。と、変身ヒーローは笑った。

「まずは鏡面の反射対策をするつもりでしてよ!」
 頭上からワイバーンに乗ったヴァレーリヤの声。青天の霹靂に匹敵するヤバさだ。
 具体的には、古代遺跡の外から持ち込んだ泥を壁面の鏡に投げつけて回ることで反射を防ぐつもりでございますわー!)
「ふふ、泥団子遊びだなんて、子供の頃以来ですわね」
 ヴァレーリヤ、会心の泥団子投擲。泥が付着した途端、鏡の上部から液体が滝のように落ちる。一定以上の汚れは洗浄されるらしい。セルフメンテナンスモードは頑固な汚れのタンパク質と脂で汚れることが前提の永続機械式トラップには必須だ。そこらの泥で止まるようにはできていない。
「ちっ――ですが、ちょっとの間だけは反射は止まるのはわかりましたわ。十分ですわっ! せめて、どこら辺が変色しているのかは目に焼き付けましてよ!」
 柱の横をワイバーンが通過し踵を返す。
「おおよそは覚えました。攻撃開始でしてよっ!」


 ワイバーンが頭上を通り過ぎていく。巻き起こった空気の尾瀬で髪がふわりと躍り上がった。
「では、セス殿。手分けをして安全装置の【捜索】をいたしますぞ! 位置はかぶらないように、スケさんは侵入を防ぐ目的であるなら出口の付近、あるいは金属多面体がある柱、いっそ壁のどこか……こういう部屋は隠し扉があることが多い気がしますぞ」
 そういう感じで! と、ヴェルミリオは光る床に飛び込んでいった。
「見つからなかった場所には印を付けておきますからな!」
 この骸骨、ダンジョン探索の気遣いが行き届いている。
「全攻撃が永遠に停止する保証はありませんが、多面体を破壊するまでの被害を抑えられると良いですね」
 背中に機械仕掛けの翼を背負ったセスは、念のため服の裾が床につかないことを確認した。
 ほんの少しだけ浮いて床のデススイッチを回避することにしたのだ。迅速に移動するのが仲間を助ける最適解になる。
「安全地帯が彼方此方に変わるこの場所で、行き来に危険が伴う中心部に安全装置を設置する可能性は低いでしょう」
「確かに行き来に時間がかかる場所に安全装置を設置するのは考えにくいな」
 モカは注意深く床の店頭部分を踏みながら相槌を打った。
 よほどのバカでない限りそんなものは作らないし。よしんば作ったとしても設計時点で差戻しだ。今日までこの施設が稼働状態ということはよほどのバカは存在しなかったということだ。
「となれば入り口付近を重点的に」
 モカとセスの意見は一致した。
 透視できる場所はもとより、むしろできない所も気にかけて、罠の有無を考えつつセスは視線を走らせる。
「設定時間内に見つからない時は戦闘行動に合流する」
「承知しています」
 誰も全く失敗しないというのは夢を見過ぎだ。早晩全周攻撃は来る。それまでに何とか――。
「――こちらでしょうか」
 セスが壁の一部を指示した。
 装飾として、あってもおかしくないがなくてもいいでっぱり。どう考えてもこれだがどうしたら発動するか見ただけではわからない。
「よし。解除を試みよう」
 執念深く執拗な生体アンドロイドと冷静沈着で平常心の塊であるレガシーゼロが額を突き合わせるようにして安全装置の発動を試み始めた。許された時間まであとほんのわずかだ。


 コルネリアは思い出せずにいた。こう、喉元まで出ているんだが。
 例えば、孤児院に新しい誰かが来たときとか、慰問でどこかの高貴なご婦人がお子様連れで来るとか。余所余所しい空気を和やかにする手段としてやる。
「こんな所でオリエ? レク? なんでもいい! なんとかテーションやってる場合じゃない……ってのよ!」
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん! こち。ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん! こち。
 床は出口まで人の歩幅で流れていく。時々左右にずれるのは簡単な指示しか理解できないゴーレムや召喚獣などが大量突入させたとき用の対策だろう。
だから同じ位置を維持するためには、時々、八艘飛び的大ジャンプが必要になるのだ。
 今が自分の全盛期! と己を奮い立たせて床を蹴る。乗るだけではだめだ。床をきっちり踏みしめる。銃口を金属多面体に向け、ピーン!で次に踏むべきタイルを見定め、終焉を笑って受け入れるしか他はない一撃を放つ。万全の距離ではないが取り返しがつかないダメージを入れる自信はある!
 割れた金属片が点灯していないタイルに降り注ぐ。
「接触確認。重量、規定値未達成」
 かかっと音がしたような気がした。
 ミラーボールから照射された光が鏡面の壁に乱反射しドーム中をなめる。
 辺りは白に包まれ――かけ、四分の一が暗闇に没した。


 モカとセスは安全装置を無事作動させた手ごたえを感じた。だが、床が点滅を止め、壁が鏡面であることをやめた。むしろ真っ黒になって光を吸収している。しかし、そうなったのはきっちり四分の一だけだ。装置はまだ動き続けている。反射されなくなった分威力は落ちているが柱周辺ではまだ猛攻が続いている。
「これは、すべての入り口で同様の処理をしなくてはならないということでは?」
 出入口は四つある。どこか一か所ではこの装置は完全には止まらないのだ。
「このいかにもとってつけたようなポッチリがスイッチと思うのですが、合ってますかなー!?」
 出口を見に行くといっていたヴェルミリオが叫んでいる。
「それです!」
 ヴェルミリオが間髪入れずにスイッチに触れる。また四分の一、床の点滅が止まる。
 セスは、ドーム内を見回した。レイザータクトの完全布陣に穴はない。今こそ、最適の位置を割り出す時だ。
「見つかった!?」
 足場は近い方がいいだろうと、モカとセスの近くの床を踏んでいたコルネリアが振り返る。
 セスは、綱渡りを決意した。
「コルネリア様! 九時の方向!入り口横の突起を打ち抜いていただきたいのです! 冥夜様は六時の方向!」
 その場にいるものをこき使ってこそ。星辰が言っている。ことここに至ってはセスにできるのは戦い続けている仲間を賦活し生き残るための道筋を指し示すことだ。
「おや、ご指名ですか? 私を席に呼ぶのは高くつきますよ!」
 冥夜の手から打ち出される光の剣がスイッチに向けて放たれる。
「壊さない程度のいい感じにってことだよね!」
 銃弾が打ち出される。
 その時と前後して、突如、宙に炎の壁が出現したのだ。


 銃弾が打ち出される少し前。
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん! じゃこ! ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん! じゃこ!
 視界が焼け付く光の嵐の中、ぽっかりとあいた安全地帯。
 自分の影にワイバーンの影が落ちることに、ブレンダは安堵した。
「剣を拾ってまいりましたわ」
 ブレンダは執拗にミラーボールに必中の投擲を食らわせ続けていた。
「べこべこになってます」
 図らずも観測手兼補充役と持ちつ持たれつ良好なタッグが完成していた。
「感謝するヴァレーリヤ殿。私の真上は絶対安全だ。あなたの安全は私が保証する。ワイバーンを落ち着かせてしまえば。後はこちらのものだろう?」
 ワイバーンに騎乗しているヴァレーリヤは空中でロデオ状態だ。絶対安全領域であるブレンダの上空を絶対キープ。
「そのとおりですわ!」
 恐慌に陥るワイバーンを御すると、修道女は神に聖句を奉った。
「『主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる』――泥は渇いて吹き飛んだ。だが、神の炎は払えぬと知れ!」
 柱に向けてかざす手の先に炎の壁が出現する。紅蓮の炎が光線を遮り、つかの間の隙が発生する。ぴ、ぴ、ぴ、ぴーん! の後の静寂が神経を研ぎ澄ませているイレギュラーズにとって値千金の無敵時間だ。
「安全装置、発動ですぞっ!」
 全ての床が点滅しなくなった。無力化した以上。後は粛々とミラーボールをぶっ壊せばいいだけだ。
「さーあ、ぶっちかましますわよーっ!」
 吹き上がる炎が指向性をもって触れるものすべて灰燼と帰す、守ることも歯向かうことも回復することも許さない、一切呵責もなく有象無象の別もない公平な神の苛烈な赦しを現す奇跡である。
 赤毛の修道女は長い長い聖句の詠唱に入ろうとした――が、周囲を見回せば、道理を無理でひっこめさせた仲間があちこちに散開している。そも宙を飛ぶ花を踏みしだいて飛ぶ百合子は重傷を押しての参陣だ。ここでぶっぱなしてはどちらに向けて撃っても誰かを巻き込む。
「飛行ペナルティ、なにするものぞー!」
 ヴァレーリヤはメイスを握りなおした。
『――後に続く者がやってくれるはず!』
 百合子が先ほど言っていた言葉をかみしめ、メイスを振りかぶり、この一撃を神に捧げる。
「どっせえーーい!!!」
 ヴァレーリヤの神よ、ご照覧あれ。あなたの魂の娘は仲間の思いに報いるものである。
「安全装置が起動出来たらこっちのものです」
 華麗なステップで至近に迫り、全身のホスト金を魔力に変換し攻撃集中で食らわせ一気に畳みかける。
「ひゃっはぁ! こっからはパーティーの始まりだ!」
 普段はツンとすましたトップホストのヒャッハアで、姫の寿命が一年延びます。
「……ぐぬぅ……遠いですな……いっそ金属多面体に取り付けられれば良いのですが!」
 ヴェルミリオの念糸が多面体にできたひびにめり込み、楔となって、みきみきと割り広げていく。
「この小癪な無機物に吾の力を見せてくれるわ!」
 ブレンダと冥夜と百合子がコツコツと積み重ね、そこを起点にヴァレーリヤが大きくひしゃげさせ、更にその上から完膚なきまで執拗に割崩して、ミラーボールはキラとも光らぬガラクタと化したのだった。


 イレギュラーズたちが出す音以外は何も聞こえてこない。ワイバーンのはばたきが収まるとなおさらだ。
「はぁ……後で湿布貼っとかないと……」
 普段なら軽やかに駆けるところを床を踏み込みつつやらなくてはならず、普段使わない筋肉を酷使したのだ。そこに「九時の方向を撃て」と言われて、足はそのまま腰だけ回転させたのだ。背筋もひきつる。
「回復して差し上げますね」
 と、セスが癒しの翼を広げた。筋肉痛に効くことを祈るばかりだ。
「百合子殿も」
 完全に安全地帯に入り切れなかった部分を痛めていた。しかし、幸い古傷は痛むが悪化してはいない。
「この部屋を抜ければ終わりだと良いのだけれど、まさかまた似たような部屋があったりしませんわよね?」
 開いた扉の向こうを恐る恐る確認するヴァレーリヤ。おっかなびっくりタイルを踏むが光る気配はない。
 ブレンダは投げた剣を回収し、数を数えている。
 あちこちに分岐する回廊の起点。なるほど、下手に侵入を許すとあっという間に本陣まで浸透される要所。無遠慮に突入してきた大軍を焼き払うための施設だったというわけだ。
「ミラーボールは壊れてしまったが、ここはクラブに雰囲気が似ているな」
 モカのつぶやきに、戦闘の興奮冷めやらない冥夜が大きく頷いて応じる。
「いやぁ、まだ踊り足りませんね。皆さんこの後、一緒にクラブに行きませんか?」
「まあ! おごっていただけるなんて嬉しい!」
 酒場経営者と酒屋を呑み潰した実績持ちのお酒をたしなむシスター二人が食い気味に科白をかぶせて、唇をほころばせた。
 再現性東京の花形ホストが店にバンスする事態にならないことを切に祈らねばならない事態。。
「……そんな余裕は無さそうだ。先を急ごう」
 モカが先を促した。そう。今は作戦進行中だ。勝利の美酒に酔いしれ、七色の光に身を任せるのは制圧確認した後の宴までのお楽しみだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。ナイス露払い。当該ドームは大量虐殺トラップとしての機能を失い、結果、他チームの移動が容易になりました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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