PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Stahl Eroberung>セレストは幕を下ろす

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●セレスト
渾身の演技に反応する不思議なツタです――異世界の『青空、空色』を意味する言葉がイメージされ、発見者Tricky・Stars(p3p004734)より命名されました。

――アーカーシュアーカイブスより

●アーカーシュを制覇せよ!
 浮遊城アーカーシュの全容が、イレギュラーズの手によって明らかになりつつあった。
 鉄帝国とローレットの連合軍をもって、島を完全に征服する。
 作戦名:『Stahl Eroberung』により、イレギュラーズたちは魔王イルドゼギアの『エピトゥシ城』、および、強力な防衛機構を持つ遺跡深部『ショコラ・ドングリス遺跡』を攻略するはずだった。
……はずだった。

「そちら、応答せよ。応答せよ、応答せよ」
 ノイスハウゼン基地は慌ただしくなっていた。上空、遙か彼方のアーカーシュ島にいるものたちと連絡が取れないのだ。イレギュラーズたちの前に立ち塞がったのは、遺跡をともに攻略し、背中を預け合うはずの鉄帝国の軍人だったのだ。
 いったい、どうして……。
 特務の派閥に組み込まれた帝国軍人達は、あくまで軍人であり、余程でなければ『命令』に従わざるを得ない。
 しかし、目の前のアーカーシュを放置することもまたできないのだった。

●セレストが呼んでいる
 エピトゥシ城の一角。ぽっかりと穴の開いた、その場所は蔦に覆いつくされている。エピトゥシ城とはいっても、放棄された実験場。……ただ、古代獣(エルディアン)の製造プラントが残っていることを考えると、イレギュラーズにとって、無視はできない場所であった。
 さび付いた機械を覆いつくす蔦。致命的に欠けた歯車の機構はかみ合わないまま、蒸気が内部機構から流出していた。
 けれども、それでよかったのかもしれない。
 その機械はいつまで経っても壊れることはないくらいには頑丈で、狂うこともできないくらいには頑丈で。
 それから、自己破壊は許されていなかった。その無骨なただの兵器に、心があるかは不明である。

 さわさわとセレストが動き出す。機械仕掛けのオルゴールが、日光を浴びて歌い出した。

 セレストの色は何の色。
 セレストは空を知っているの?
 セレストの色は空の色。
 セレストの色は空の青色……。

 誰かが残したオルゴール。音色に導かれるように、ツタに絡め取られていた機械が動き出した。
『自動修復プログラム……自動修復プログラム……21.11パーセント完了……』

「イ、イ、イルドゼギア。勇者、勇者イイイイイイル……」
 古代兵器セレストアームズ(天空機兵)。そのなれの果て。ハイアームズ(天空闘騎)でありながらも「役立たずのゴミ」の烙印を押されたそれは、突撃命令により半壊し、もうどうしようもないまでに故障していた。あたりをセレストが覆いつくしている。
 舞台に上がることは二度とない……はずだった。枯れ落ちるセレストにまみれて、そのまま落ちて砕け散るだけのはずだった。

 セレストが、ざわめくように揺れたのはいったいいつぶりだっただろう。渾身の演技でゆらゆら揺れて、楽しそうに……。
 急に起動したのは、そのせいなのか。
 あるかもわからない心は所詮はコマンドに反応するだけのものなのか。思考は闇に沈んでいく。
「イ、イ、イルドゼギア。勇者、勇者イイイイイイル……アアアア」
 かつてのイルドゼギアの気まぐれで作られた、失敗作のセレストアームズだった。正義のためならば人は力を出せるという。ならば前提条件を覆してしまえば、とした魔王の催眠。
「勇者、勇者のために、正義のために、正義のために……」
 その機械は致命的なまでに壊れていた。善と悪は入れ替わる。自分は正義の兵器である、と、確信しているのである。その致命的なバグのために、ものものしいビームサーベルを持った右手がツタを振り払う。炎牛獣ラ=ルーカが一匹、また一匹と吠えた。
「殺す、殺す、勇者のタメニ!」
 廃棄場の穴を覆いつくすすり鉢状のセレストは、色あせて枯れている。そのセレストアームズが暴れだせば、たぶん、勝手に……支えきれずに、地上に落ちていくのではないだろうか?
 誰にも知られず、ツタに覆われた檻の中で、一度だって空の青さを知ることはなく。

 この悲劇を止める理由はある。ここは鉄帝国の領土である。地上に被害が出るかもしれない。

GMコメント

布川です。水分補給は大切に!

●目標
・暴走セレストアームズの討伐
・「演技」でもいいので、真剣に戦ってあげてください。

●敵
暴走ハイアームズ×1
「正義のタメニ……誰かのタメニ! アア、でも、その誰かッテ……?」

暴走ハイアームズ(天空闘騎)はすでに「壊れた」機体です。最後の馬鹿力なのか、結構戦えるようです。重いキャタピラのような脚で移動し、壊れかけたコアからビームを出し、一本しかない右腕でビームサーベルを振るいます。
古代獣(エルディアン)を引きつれ、「勇者イルドゼギア」のために!
イレギュラーズたちは、「魔王アイオンの手先」と思い込んでいます。
飛行機能は破損しています。活動を停止するのも時間の問題でしょう。
時間を稼ぎ、地上に落っこちないように戦ってください。

ラ=ルーカ(炎牛獣)×10
燃えさかる牛のような怪物です。四メートルほどの巨体です。数体ほど群れを成し、獲物を待ち構えます。
体当たりによる吹き飛ばし攻撃や、巨体による踏み潰し、鋭い角で致命や出血を伴う攻撃をしてきます。

●状況
その足場は今も枯れ果てたセレスト(ツタ)で編まれています。
セレストで編まれたかごはくずれそうで、今にも落っこちそうです。飛べるとちょっと嬉しいですね。
落下を防ぐためには、セレストを活性化させる必要があります。
要するに渾身の演技をお願いします。演技を聞いたセレストは揺れますが、頑丈で、きっと時間をくれることでしょう。

悪役っぽいふるまいだとセレストアームズが喜びますが、正義と正義のぶつかり合い……みたいな方面でも大丈夫ですし、普段みないキャラをやってみるのもいいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <Stahl Eroberung>セレストは幕を下ろす完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵

リプレイ

●鉄の役割
 イレギュラーズがやってくるまでは、ここは舞台というよりも処刑場だった。
 この場所にも、あの機械にも、残された時間は多くはない。
「演技に反応するとは面白い植物もあるんだね。興味深いな……なんて、言ってるわけにいかないか」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、この光景を過剰に恐れることも、あるいは美化することもなかった。
 思うところがないわけではない。
 ただ、事象を事象として――少しだけ人とは違う目線で見つめているのだった。
『アアアアアアイオン、魔王、魔王アイオン……』
 今にも壊れそうなほどの、ぼろぼろのハイアームズが立ち上がる。
 その周りではラ=ルーカが地面を蹴っていた。
 鉄帝国の騒動とあれば、そこに『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が招集されないわけはなかった。緊急事態にいつでも対処できるよう、武器を持ち、油断なく見つめている。
 ……地上に被害を出さない為に、というのは、もはや建前だろう。
 この戦いは、正義だとか、断罪とか、そういうこととはまた違う気がする。
 けれども、きっと、別の終わり方があるはずだ。
(セレスト 自ラヲ役立タズノゴミトシテ 無為無念 最後 迎エサセル フリック 嫌)
『青樹護』フリークライ(p3p008595)のまとった植物は、新しい土地の空気を吸っている。セレストのツタが揺れ、知らない風がフリークライを撫でていく。
 ここは空の上。
(セレスト 負ケルモ 成果 得タト 思ッテ欲シイ。
正義ノ為 誰カノ……フリック達ノ為 ナッタト思ッテ眠ッテ欲シイ)
 壊れ果てた機械の目に、何が映るのかはわからないけれど、それでも。
(ソレデモ フリック 願ウ。
一生懸命 使命果タソウトシタ セレスト “心” 報ワレテ欲シイ 思ウ)
 フリークライの姿を見て、ハイアームズは明らかに反応した。
『同朋ヨ、ナゼ』
 自分と同じものであると、勘違いしているようだった。

 ああ、だから呼ばれたのか。
『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)は思った。
 この場所に呼ばれた気がしていたのだ。錆びた機械の、歯車の軋みに。
 まったく、運命というのはよくできている。
(魔王、か。かつて私もそのように呼ばれる未来を目指した……)
 結果は、言わないでおこう。自分が今ここにいる、その事実が重要なのだから。
「魔王アイオンの手先、ねえ……」
 魔力宝珠『神風』の風が、この天空の大地でいつもとは違う流れを纏っていた。下は空。『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は相手を見据えていた。
 戦争で士気を上げるために洗脳を用いることもあると聞く。これも、その類いのものなのだろう。
 そして、あれはもう永くはない。
『なるほど、ここは舞台で。席にはお客様と』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は手を振った。
『今回のお客様は冷酷非道な悪役をお望みなワケだね! そういうことなら虚くんに任せておきなさーい!』
「ああ、一つ乗ってやろうじゃんよ、その気高い誇りと正義にね」
(……悪いものだと見られるのは慣れていますから)
『ラストドロップ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は、どこかに置いてきた胸の痛みを少しだけ思い出しながら、ぽっかりと浮かんだ大地を踏みしめる。
「地に穢れを。呪いの蔓延る地こそ魔王様に相応しい」
 ジョシュアは唐突に薬瓶を振りまく。まるで呪いであるかのように。ヴォアレの紫薬を浴びたセレストは伸び、色を鮮やかに変質させていった。
『データニハナイ、浸食、大地ノ……大地ノ……オノレ、オノレ』
 壊れた機械は、美しい花が咲いたことにも気づかないのだ。その花を踏むことにも気が付かないのだ。
(僕が一時過ごしたあの家は鉄帝国にあって、小さな理由でも墜落させるわけにはいかないのです)
「なれば、今ひとたびアイオンの手先として。
御身が望むよう、最期へと導く者として、殺戮の宴を繰り広げようではないか!」
 リースヒースは闇へと歩み、影を引き寄せる。巨大な鎧は、太陽の光をすべて取り込んで冥府のような暗さを閉じ込めている。
「今の私は死を看取るもの。それが無機物であろうと、かわらない」
『敵、脅威ヲ、発見……直チニ、直チニ』
「サセナイ」
 唸り声。
 大切な誰かのために、悪者にだってなってやろうという気概。
 低い声。ゆっくりとアルヴァの体は変化していく。鋭い爪。暗い色の毛色。まるでお前は不自由だと言わんばかりに空のすれすれを飛び、アルヴァは不敵な笑みを浮かべてやった。

(え〜!? お父さん。無茶だよ)
『できるできる!』
 ヨエルは泣き言をあげたが、「また」目が合った。これも、演技の実践だというのか?
「我は魔王アイオン様の幹部、アルヴァ。勇者イルドゼギアを討ち果たしに来た!」
「怖いよー! 助けて勇者様〜!!」
 アルヴァの攻撃は演技だが、その声につられて、もう動かないはずのセレストが動く。作られた義憤によって、役割を果たそうと歯車がわずかにかちあって、ようやく機体は動き出す。
「愚かな、そのまま落ちてしまえばよかったものを!」
 ワイバーンに乗った骸骨、『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が呪詛を吐く……。
 なかなか堂に入った演技ではないか、とリースヒースは笑った。
「ワイバーンにのった骸骨とはしゃれている」
「コレでも元は本職の魔王の手先。“勇者の仲間”など恐るるに足らず!」
「魔王アイオン様に逆らう愚か者が。俺達の手で始末してくれる! 覚悟しろ!」
 不思議なことに、どうやらこういうしぐさというのは、ここでは生きながらえさせる意味を持つらしいから。
 ヴェルグリーズはさらりと言ってのける。

●正々堂々たる宿敵たちよ
「我ガ名ハ フリークライ。
勇者ノ守護者デアル 貴様ヲ倒ス為 貴様ヲ元ニ 作ラレタ兵器」
 フリークライはおごそかに宣言する。無機質な声に聞こえたことだろう。
『役割ヲワスレ……敵ニ寝返ルカ!』
(ええ、そうでしょう。ここで倒れては困りますから……)
 ヴェルミリオは頷いた。
 つまりじぶんたちがやるべきは、本気で戦うことなのだ。
「役立たずのゴミ」の烙印を押されても、そんなものじゃあないと告げるのは都合の良いやられ役じゃない。しっかりと渡り合ってこそ、だ。
 堂々たる敵。宿敵として、である。
 怒りを帯びたハイアームズが、ヴェルミリオを向いて放射を行った。それはおとりで、本格的な攻撃を行うつもりであった。
 だが、思惑を外して、ヴェルミリオはその場から動かなかったのだ。
 白煙が上がる。
「フハハハ! ぬるい! ぬるいぞ! この程度の“正義”で我を倒せるなどと思わぬことだ!!」
 不気味なガイコツは頭蓋を震わせ、笑ってみせる。
 零れ落ちたかにみえたわずかな傷は、回復していくではないか。
 これが絶望だとでもいうのか。
(倒すべき悪は大きくあるべきと存じます。であれば、攻撃を避けるなど“魔王の手先”としては三流でございましょう?)
『グウウ……』
「勇者様……っ」
『!』
 守るべき、保護するべき対象であるヨエルがいた。いや、もうそれを認識してはいないのかもしれないが、守るべき対象がいることでハイアームズは動いている。
 自身の役割がまだある。人のためなら動けるのだ。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオ……』
 セレストは持ち直す。それでこそ、と、ヴェルミリオは内心でにんまり笑う。だからこそ手加減は、しない。
「クハハハ!! なかなかやるではないか!だが、まだ我を倒すには至らぬぞ!」
 ヴェルミリオが全身から放つ闘気の糸が、ハイアームズを押さえつける。

 ラ=ルーカがうなりをあげていた。
「……まったく、厄介な……」
 ジョシュアはほの暗い表情を浮かべた。厄介なツタだ。これだけ手を尽くしているのに、どうしてももろい所がある。それなのにラ=ルーカも、あのハイアームズもお構いなしに暴れる。
 注意深く観察し、位置取りを確保すると息を整える。
「気を付けてくださいね」
 一斉に解き放たれた鋼の雨が降り注いだ。
 影が這い、ちぎれたツタをよりあわせるようにぎゅっと結ばれた。
 一歩間違えば足をすくわれる場所で、リースヒースは巧みに影を侍らせる。奇妙な魔術でラ=ルーカをあしらい、指を振れば九振りの魔剣が影に仕える。
 対照的なのは、ヴェルグリーズの剣守皇だった。八つの剣は身を守り、こちらは高い音を奏でる。
 ヴェルグリーズの剣と影が重なり、実体のように交錯する。
「うん、なかなか豪勢だ」
「サマになっているであろう?」
 ここから、二人には、ハイアームズと相対するヴェルミリオの様子が見える。巧みに負傷を押し隠し、それでもなお、高笑いする彼の後ろ姿。
「そうだね、あちらからは、そう見えているのだろうね。不屈の魔王の手先、とでも」
 なら、そういうことでいい。
 ヴェルグリーズは幻想を纏う。
「魔王アイオン様より授かりしこの力、受けるがいい!!」
 エクス・カリバー。それでも繕うセリフが、セレストを頑丈に編み上げていくのだ。
「その身に受ける刃を数えるが良い」
 リースヒースの影が離れ、ラ=ルーカを葬り去ってゆくのであった。

 一瞬だけ目を離した隙に、ハイアームズは風の音がないことに気が付いただろう。
 アルヴァの『神風』の音が止んでいた。
 いや、次なる攻撃のため、力を蓄えていた。油断した。
「まずは雑魚共を蹴散らしてやろう。貴様は最後のお楽しみだ」
 低い、低い声が響き渡る。
 アルヴァは慎重に、仲間の様子を見定めながら、位置取りを見定めていた、この攻撃が生かせる一直線に。
 隻腕での戦い方を学んだでいた。
 風が空間に穴をあける。
 貫き穿つ疾風の槍が、ラ=ルーカの3体を一気に仕留め、それから、また空へと舞い戻る。あっという間だった。追撃をしようとするとジョシュアの射撃が腕を貫く。
「よそ見をしている暇がありますかな?」
 ヴェルミリオは叫んだ。
 ジョシュアが教えてくれた、……というよりはあえて余計に撃ったあの一帯への射撃は、自分への合図だとわかったのだ。
 あっちは脆くなっているから、寄るなということなのだろう。
 自身も結界を張り巡らせてはいるものの、強度は十分ではない。
(攻撃こそ浪漫ですぞ! 終わりを時間に任せたりなどはしません!)
 怒り狂うハイアームズをひきつけ、やはりヴェルミリオは叫んだ。ハイアームズの強烈なパンチを受け止める。死んでいるはずの骨だけの手が、生命をつかみとってまた戻る。
「貴様はなんのために戦う! 誰のために戦う!」
 思い出せ、そう言っているかのようにガイコツは叫ぶ。
……思い出せ。
 思い出せ、どうして生まれたのかを。
 足が錆びついたことを思い出したように、ハイアームズは動かなくなる。
「なんだ、貴様らの正義とやらはこの程度なのか。拍子抜けだな?」
『!』
 離脱したと思われたアルヴァが、懐に飛び込んできた。いや、ラ=ルーカと一緒に、一気にまとめて貫いたのだ。負傷を厭わず――すなわち、アルヴァはまだ余裕がある。
 ハイアームズが振り向くと、アルヴァはもうそこにはいない。
『オオオオオ! アアアアアアア!』
 矛盾について考える隙はもはやなかった。
 ……一体でも倒せるのなら、かまわない。出力を上げた熱光線があたりを薙いだ。
 かすめるだけだ。ハイアームズがとらえたのは、アルヴァの残像にすぎなかった。
 重い攻撃も当たらなければ意味はない。だが、少しは……。
「修復プログラム 開始」
 無慈悲なフリークライの声が響き渡った。
『……オノレ……オノレ……』
「笑止。我 永久機関 搭載。
我 修復プログラム 改良型 貴様ヨリ上。
諦メロ 絶望セヨ!」
 しない、それはできない。できないはずだった。
『命令、ヲ』
 言葉はない。ハイアームズは、どうしたらいいかわからない。声を。役割を見失って目の前が真っ暗になる。
『ああ、立ち上がるっていうんだね! この状況でもなお!』
 だから、虚はセリフを重ねた。
 虚実を重ねる。そうだ、と思った。そう、それを実行したいのだ。セリフで言われるまでわからなかった。
『それでも、戦うというんだね!』
 そうだ。そうしないと。言われて気が付いた。
『あと少しばかりの時間を使って、それでも』

●喜劇、悲劇、あるいはひとつのための劇
「壊れかけのくせに正義正義としつこいんですよ」
 ジョシュアが言うと、セレストが揺れた。それは演技であったから。
 ハイアームズは、ジョシュアの射撃に追いつめられるように、舞台の中央に誘導されていく。
「その程度で俺達を倒そうだなんて片腹痛いね。今度はこちらからいくよ」
 ヴェルグリーズの構える剣の刃からは、青白いオーラが立ち上る。
 青い何か――あれに似た色を形容することばは、ハイアームズにはない。
 本当は、時間などは残っていなかったのかもしれない。
 けれども演技の力というのは、嘘を本当にすらしてしまう魔力を持っていた。
『さあ、あとちょっとで決着がつくだろうね!』
 そういわれるたびに、動かないはずの体が動いた。
 雄たけびを上げて組み付くと、ヴェルミリオが倒れる。倒れたのか。倒れたのだろう。
「敵ながら見事なり」
「喪って久しい血肉が沸き立つようであったぞ……認めよう、汝は正しく“強敵”であったと…そして、使命を立派に果たしたとな……」
 ハイアームズ自身もまた、限界だった。
(試せること全部試そう)
 ぐらり、足場が揺らいでも。虚はどかない。ここはまだ舞台の上であるから。
 イレギュラーズの誰しも後退を見せない。起き上がって、身を守ろうとしない。
 まだ、これは続いているから。
「演じることは生きること! 存在を証明するってことだよ!
お前の中に溢れた気持ち、全部俺達にぶつけてこい!!」

 熱い、回路が焼ききれてしまうかのように。それでも静寂よりはずっと良い。
 自分が何者かも忘れているよりはマシで、だからこそハイアームズは動けている。
『絶対に悲しい気持ちになんかさせないから。最期まで楽しんでいってくれよな!』

「さあ、この地に残ったのは御身一人よ、クズ人形め」
「こちらは八人、よもや貴様一人で勝てるとでも思うまいな?」
 リースヒースの剣が、アルヴァの槍が、一斉にハイアームズを向いた。
「我らの快進撃を止められると思うな」
 ここに観客はいない。聞いているのはセレストだけだ。
「光は闇に覆われ、地上は影の国となるだろう。生者は影に従い、影が主人となろう。
御身はこの空の見えぬ場所でただ朽ち果てればいいのだ……」
 この奇妙な音は何だろう。
 フリークライの歌声。ハイアームズはこの音を知らない。苦痛だとインプットされているはずだ。けれどもなぜかずっと聞いていたいような気持ちにすらなる、音。
(ずっと長い間”そう”思い込んでたんだ、今更彼という存在に本当の事を教えるのも残酷というものだ。
それがアンタの正義というならば、せめてその正義の中で眠らせてやろう)
 アルヴァは槍を握りしめる。
「安らかに、ここで眠ってくれ」
 セレストはアルヴァの演技で十分と言えるほどに茂っていたけれど、アルヴァのその言葉にだけには、セレストは反応しなかった。
「何故そうまでして……キミはただの駒としか扱われていないだろうに」
 これはいわゆる光堕ち? というのだったかな、とヴェルグリーズは冷静な頭で考えている。さて、どっちがよかったとか、自分は断定することはない。
「キミの戦いぶりを見て心が救われた気分だ。これが勇者の仲間の戦いなんだね……」

 揺れる足場は。今にも崩れ落ちそうな足場は、虚の声で。身振りで。息を呑む音すら吸って生き生きと生い茂っている。
 終焉の帳が、幕を下ろす。セレストが絡みついて離さない。
 だから、この話はまだ続く。
 ジョシュアは狙った。
 デッドエンドワンは、一つのピリオド。
 ゆっくりと崩れる壁から、小さな日光がこぼれた。
「グ グオオオ。
ナ ナンダ コレハ?」
 フリークライがうめき声をあげた。
 陽光で、静かにフリークライの花が開いていった。
「我ガ装甲ニ 生命 煌メキガ……。
ソ ソレニ コノ心ニ生ジルモノハ……コレガ 正義?
ソウカ……貴様ヲ元ニ作ラレタノダ……。
正義 覚醒メル 必然カ……」

 どさりと、虚が地面に倒れる。
「助けてくれてありがとう」
 ヨエルの言葉。ハイアームズはそれだけははっきりと聞こえた。
「見事ダ。
正義ノ為ニ戦イ続ケタ者ヨ。
コレガ コノ空ガ。
フリック達 覚醒メシ正義ガ。
君ガ取リ戻シタ光ダ」
 リースヒースが倒れ、笑った。
「いや……光なくして影はないことを、私は忘れていた……。
あっぱれ、名もなき人形よ。ああ、あの青は、空の色か……。
光はこんなにも暖かいのだな……」
 耐えきれなくなったセレストが朽ち、壁が崩れていく。空の色。空とは何だろうか。
「ぁ。僕、僕は何を……? 魔王に操られ……申し訳、ありません」
 ジョシュアは手を伸ばす。かまわない、とハイアームズは手をひっこめた。満足をしているらしいのだった。
「後ハ 任セテ。
フリック達 “魔王” 倒スカラ」
 フリークライの優しい声。
「いえいえ、まだですぞ!」

●葬送
「まだやることがあります! そこに“意思”などないのかもしれませぬ。セレストの影響に過ぎないのかもせれませぬ。それでも、何かがあると信じたいのです!」
 ヴェルミリオがワイバーンにつかまり、飛翔すると、天井の蔦へと目いっぱい打ち払った。それは成長したセレストでなくては。十分に演技を尽くさなくてはいけなかったものだ。
(どうか、空の青さがこの存在に届きますように!)
 太陽の光に焼けて、燃え尽きる。
 希望に満ちて、光にあふれて。
 空をとらえて、歯車が落ちていく。
 果たしたのだ、とセレストは思っただろうか。
 役割をすべて終え、落下していくハイアームズに、アルヴァが手を指し伸ばす。
「もしアンタが仲間だったら、きっと仲良くなれただろうな」
 そして、コアをつかみ取った。
「生まれ変わったら、次はきっと仲良くなろう」

 目の前に広がっているのは、最後の空。その中でハイアームズは動きを止めた。

「勇者と魔王、価値観の違いから起きる争いはきっとお互い異なる正義があるんだろうけど、ハイアームズを洗脳していた感じオリジナルの魔王はろくでもない奴だったんだろう」
 アルヴァはなんだかんだ、コアを律儀に持って帰ってやっていた。柄にもないことをして、結構疲れたと思う。
(俺みたいに精霊種になって自我を持ったものはともかく
物や道具に正義や悪といった大義は関係あるのかな……)
 ヴェルグリーズはただ空を眺めていた。
 正義も、悪も。勇者も、魔王も。この結末ですら個人的なもので、きっと。これは、あの機械のためだけの舞台だったと、そう思う。
(結局は使う側の心次第、そういう話に落ち着くのが常だけれど
もし物や道具にも想いというものが生まれるならば
それを全うする最期を迎えさせてあげたいものだよね)
「ン」
 フリックは小さくうなずいていた。
「Dr.フィジック――主ノ友達 偉大ナ科学者 常々 口ニシテイタ。
「機械に対する我々の最後の役目は創造主として“責任”を取ること」デアルト」
フリック フィジック信念 今 “心”デ理解シタ」
 フリークライは強くこぶしを握りしめる。
「イルドゼギア 創造主 責任 放棄シタ。
セレスト 今モ尚 使命 遂行シヨウトシテイルノニ」
「責任――そっか、責任か」
「フリック 怒ッテル。
イルドゼギア責任放棄 怒ッテル」

「そのツタは……生きているか」
 ジョシュアは頷き、一株を差し出した。栄養剤のおかげだろうか。この箇所だけは生き生きとしている。
 リースヒースはハイアームズのコアを手にしていた。
「私のセンチメンタルだ。それは分かっている。
……それでも、思う所はあるのだ」
 リースヒースは、ひっくり返った青空を目にしたセレストと、コアを手にして去っていった。
「アーカーシュの空のよく見える場所へと埋めよう。やがて空の色に囲まれて、御身の孤独が癒されるよう」

成否

成功

MVP

ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵

状態異常

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)[重傷]
キミと、手を繋ぐ
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)[重傷]
陽気な骸骨兵

あとがき

空の青さを見つめながら、今度は安らかに眠ることになるでしょう。
お疲れさまでした!

PAGETOPPAGEBOTTOM