シナリオ詳細
<Stahl Eroberung>あの日あこがれた何になれるかな?
オープニング
●ビックリユウレイウオ
天よりも空高く、美しい空にその島はあった。
鉄帝国南部。ノイスハウゼンの上空に突如現れた、伝説の浮遊島アーカーシュ。
豊富な生態系と未知のいきものたち。一介の学者である私の心は弾んだ。世界というのはなお広く、まだまだ知らないことばかりなのだと思い知った。
私は空を飛ぶことはない。軍人として戦い、足を失った。いや、それを言い訳にするのは違うかもしれない。体力の衰えや、その他の要因によるものであると、彼ら……イレギュラーズ……を見ると思うのだ。
それからは研究者という第二の人生を歩み始めた私に、アーカーシュは新たな風を運んできてくれた。
報告書に記された新たなアーカーシュ・アーカイブスを読み、申請手続きに目を通すのが私の日課である。このひとときは、何者にも代えがたく愛おしい。
それなのに、やれ、ものものしい魔王城だとか、魔王イルドゼギアだとか、勇者アイオンだとか……。特務大佐パトリック・アネルの乱心だとか、あるいは珍妙怪奇なオーバーテクノロジーだとか、鉄帝国は騒がしいことこの上なかった。
止められるとするならば、彼らであろう。
幽霊魚……「ビックリユーレイウオ」は、透明な幽霊魚である。人の悲鳴がだーいすき。怖がらせるのが大好き。人がおっかながる様子がだいすき……だったはずなのだが……どういうわけか、イレギュラーズという面白い存在を前に、変質してしまったようである。
きわめて平和な方向に。
ところで、イレギュラーズから手柄を横取りしようとした不届きなヤツがいた。
なんでもそいつは鉄帝のごろつきで、「ビックリユーレイウオ」の話を聞くやなんとかして手柄を横取りしようとしたそうなのである。何にでも化けるものであるから、少々別の生き物として申請してやってもいいだろうと思ったらしいのだ。
しかしながら、そいつらは、その男に呼ばれてもまっーたく反応しなかった。「それで?」という感じで無視してすいすい泳ぎ去ってしまったのだそうだ。
これはそんな意思など存在するかどうか不明であるが、私に言わせれば、ビックリユーレイウオというお名前が気に入ってしまったのだろう。男がつけようとした名前はギザギザドクロフィッシュだったか。まあ、どうだっていい。
おさかなどもはビックリというのが大変よろしい、と思っているようで、ゆらゆらと揺らめいては新鮮な驚きを探している。
(出会ったひとがいたらなかよくしてほしいなって、ニルは思うのです)
研究者らしからぬ生き生きとした所見、小さなメモに思わず微笑んでしまった。
●ゆゆゆ
ゆゆゆ。ゆゆゆゆ……。
この文字列を見ていると魚に見えないだろうか? そんなことはない?
これはアーカーシュで発見されし神秘の話。
名前を、ビックリユウレイウオのお話である。
「おーっ、よくうつってる」
協力者:『希望の軽空母』ケイク=ピースメイカーの飛ばした偵察機のカメラが捉えた二つの写真を、ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)はのぞき込む。
「どうですか?」
「うーん、やっぱ俺が見たやつとは違うなあ。トゲトゲしてるっつーか」
アーカーシュには、ガラッフィー(悪霊鳥)という鳥がいる。亡霊を引き連れた不吉な鳥の怪物だ。
一般的なモンスターだが、ビックリユウレイウオの群れの一部が、それをまねしてしまったのだ。まねてついて行ってみた。
とはいえ言葉もなにもない、下等生物であるので察するだけであるが、今や二つの群れがあった。新たな種類と偽って申告しようとしたごろつきの策謀の通りになったのである。
ひとつ。その名の通り、ちょっとかわいい、かわいげのあるものに化けて生きている群れ。
あろうことか、デカ盛り食品に化けたり「カロリーが怖い!」なんて言われながらおいしくいただかれたり(それもまたよしなのである)して楽しんでいた。
もう一方は、ちょっと色が暗い、血とゴスと闇にまみれた血みどろホラーのロックなビックリユウレイウオたち。悪霊とつるんでなにやらグレている、ちょっとワルな幽霊魚である。背びれがちょっととげとげしている……。
「恩人であるあなたのためなら身を課してでも」
まっすぐな目をしたケイクに、ジュートは頭をかいた。
「あ、そうだ。んじゃあさ、カメラでももって、撮影をだな。上からどーんってばーんって構図で……景気づけに!」
人を傷つけるガラッフィーを倒し、「怖くない」と知らしめてやればこの騒動もおさまるだろう。
いやいや、もちろん。亡霊どもの全部を吹き飛ばしてしまったって、「それは仕方のないことだ」ということにはなるのだろうが。
痛みをあまり理解していないようであるし、それもまた生存競争であるから。
- <Stahl Eroberung>あの日あこがれた何になれるかな?完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月24日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●何になろうかな?
「なになに。ガラッフィーや悪霊の討伐はいいとして、怖いもののお手本……?」
『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は奇妙な依頼書をいぶかしげに見つめている。
「なるほどビックリユーレイウオ……色々とゆるーい生き物なんだね」
『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、少し目を細めて小さなサカナの影を見つめたのだった。
「何と興味深いことか。亡霊共とは付き合いは深いが、亡霊のふりをしている魚とは」
『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)は大げさに感嘆してみせた。
ハリエットは慎重に確かめる。とくに、裏はなさそうな依頼だ。
「浮遊島なんてものからしてビックリファンタジーも良い所だけど」
大きな帽子を傾けて、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は空を見上げる。
魔女もファンタジーと言えばそうだし、この格好はどう映るのだろう?
「ひとを脅かすのが好きな幽霊魚なんて、不思議過ぎる生き物だわ。こういうのが沢山居るのですってね、このアーカーシュには」
「ローレットって、たまによく分からない仕事が舞い込むよね。たまにじゃない気もするけど、まぁいいか」
●空の世界
「よし、行くか!」
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)は力強く羽ばたいて、ケイク=ピースメイカーの横を鋭い速さで通り過ぎていく。ケイクは、一度頷くと自身も高度を上げていった。きっと力になると、そう信じて……。
「いつもありがとな」
「え?」
「いや、ケイクちゃんには、いつも支えて貰ってばっかだりな」
「いえ、そんなことは……」
今だって、手伝いたいと思いながらも、まだ足りないと思っていたのに。
「恩人だからなんて気負いせずに、目の前の事を一緒にやり遂げようぜ!」
明るく言ってのけるジュートに、ケイクは頷いた。おまじないをかけてもらったようなあたたかな気持ち。
「うおっと」
向かい風が吹く。それでもジュートは気持ちよさそうだった。
あれは道しるべ。
下にはセレナのカンテラが、誘導灯のように揺れている。
「少し悪ぶりたい年頃、か」
一方で、地の上では 幽霊たちにまぎれてリースヒースは歩む。煤の帳が揺れている。その姿はまるで何年もそこにいたかのように溶け込んでいる。
(怖いものになろうとしてるらしいけど……)
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の前にふわふわしたお化けが漂っている。
あれ、ぜんぜん怖くない。きょとんとしていると、上手くいったと思ったのか嬉しそうに揺れた。
怖いというよりは……。
「なんだかこう……ズレてるよね?」
イレギュラーズたちの前に姿を現すビックリユーレイウオ。
リュコスのことをかっこいいと思ったのだろうか、影響された個体の一匹のヒレがちょっとずつそろそろと伸びていった。でもこれは「かわいい」にあたるのではないだろうか、と議論しているのか……は定かではないが、長さを調節してやめる。
(かわいい……)
とってもやりづらい。リュコスはふるふると頭を振ると、嘘つきになることを決めた。
(ここは穏便に……そう! 丸め込もう!)
「ビックリユーレイウオさんたち
お名前、気に入ってくれたのですか?」
『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)のことばを、彼らはわかっているのかいないのか……。ただ、さざ波だつように揺れた。ニルもすこしだけぴょんとはねて、うれしさを表現してみせた。
「ニルはとってもとってもうれしいです!
それに、また会いにこれてうれしいのです」
「あの子たちは、ワルイ子のモノマネをしちゃったんだねえ」
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はしみじみと言った。
「まあ、そういうこともあるものだよね?」
自分には経験がないけれど、アレクシアは思う。……ちょっとワルイことに憧れちゃうときってあるらしい。
「「怖い」ものなら、世界にはもっと色んな物があるってこと、知ってもらいましょう!」
「ああ。そうだな。良かろう。手本を見せてやろうではないか」
リースヒースはふっと笑う。その姿はどちらかといえば恐ろしいと言うよりは浮世離れしたものでちょっと感化されたサカナたちが真似をしようとしたけれど、上手くはいっていない。
「ビックリユーレイウオさんたちが。
ワルっていうよりは仲良しな感じでビックリさせられるようになってほしいと、ニルは思うのです」
「ああ、全部吹き飛ばしちまうのは悲しいもんな」
それに、と、ジュートはちらっと空を見る。
ケイクちゃんにもいいとこ見せてーし、なんて思っているのはナイショである。
●ガラッフィーと亡霊たち
「あれが、ガラッフィーか」
たしかに一つ、抜きん出ているボスなのだろう。連れている亡霊はおどろおどろしいものだ。
「俺は何かを避けて攻撃したり数を相手にしたりする戦いは苦手でね」
ヴェルグリーズのことばに、ハリエットが軽く笑って武器を構えた。
「数が多いといろいろと面倒だから、手っ取り早く倒せそうな悪霊から倒していくね」
「頼もしいね」
それで、問題はどこを狙うかということだ。
「うーん、……お嬢ちゃんの情報によると……群れはアレか。あっちのほうだな」
ジュートは目をすがめる。ビックリユーレイウオには、たいした敵意はないはずだ。
「敵意のねぇヤツがビックリユーレイウオで。それ以外は悪霊って寸法だ!」
ガラッフィーがうなり声を上げ、隊列を変えるが、それでも大体の位置がわかれば問題はない。
「どんなにお前達が不幸を呼んでも、ラッキーな俺が看破しちゃうぜ!」
ぴん、とはねあげたコインは、意思を持って鳥を撃ち落とす。どちらかというとガラッフィーのもつような、いや、それよりも強力な呪いめいた力だった。それが、重力となって亡霊に降りかかる。
運悪く一体が生き残ったが……。
「あれね」
ハリエットがいた。
ハリエットは銃口の向く先を変える。目の前から、空へと。
すさまじい精度で、ヒット&クライ曲式IIIから放たれる弾丸の雨が、亡霊のみを的確に撃ち抜いていった。
「おおっ、やっぱ、俺は今日はツイてるぜ」
鉛玉の雨の行く手を追いかけて。まぜこぜになる敵を見据えて、ニルはこくりと頷いた。
(ニルはしっかり覚えていたのです。覚えていたいと、思ったから)
ちょっとずつ違う。個体差がある。透け具合だとか、あとは……説明のつかない違いがある。
面白そうに笑う声、だとか。
(たのしそうなのは、ただ、たのしいんですね)
幽霊どもはばりばりと地面を削るけれども、あのおさかなは、音がでて、楽しそうならいいのだろう。ニルは取り返しがつかないことが起こらないように、丁寧に保護結界をかける。
ほら、ぶつかった亡霊は悔しそうでもなくて、ただ、かまってもらえるのが楽しそうだ。
「うん、君と君、だね!」
おっかないだろうと胸を張る亡霊に、アレクシアは向き直った。アレクシアもきっちりと覚えていたのだ。
「ねえ知ってる?魔女ってこわ~いものなんだよ。
森の奥に住んでいて、迷い込んできた人に魔法をかけちゃうの!
こんな風にね!」
アレクシアは手を差し伸ばすと、唱える。
ひらひらと、見たことのない花。誘争の赤花があたりを包み込む。
「キレイに見える? でも、お花はキレイに見えて、実は怖がられてるものもたくさんあるんだ」
くるくるとあざやかに跳ねる花は、どこか、楽しそうなリズムを伴って。はじけて咲いていく。
「だから、こうやってパッと咲かせてみれば、みんなきっと「うわっ!」ってビックリしてくれるよ!」
ぱぱっと亡霊が減って、花をまねる。それはどこかいびつだけれども……。
「さあ、魔女の魔法をご覧あれ!」
「魔女と聞いたら、黙ってはいられないわね」
怒り狂い、けたたましく怒鳴り散らすガラッフィーの顎を、彗星のように何かが横切った。セレナのマギシュートだった。
ほうきが揺れる。カンテラがふらふらと、暗闇に浮いている。ぱっぱと一瞬だけそれをまねたビックリユーレイウオ……の、となりの悪霊。
「火力は正義なのよ」
セレナの影が伸びた。それに同調するような、九告鐘の奏でる音。
その不吉な音に、ガラッフィーは一瞬だけ立ち止まった。
自分のモノであるはずの影がさあっと引いて、暗闇の中に魔方陣が浮かび上がった。それは、亡霊の不吉な声をただぎゃあぎゃあというわめき声に貶めるような迫力があった。
指を差しのばす。それが当然であるかのように、命じる。
『影の武具よ来たれ』
風……ではなく、影にたなびくマントが、すべての光を吸い取るかのようにそこにあった。
リースヒースの黒ずくめの鎧姿がそこにあった。数匹の亡霊の動きが完璧に止まった。
(あ)
アレクシアは思った。
あれだ。
あれがワルというやつだ。
などと思っているのかは定かではないが、ビックリユーレイウオは一生懸命にマントをひらひらさせる練習をしている。
漆黒の騎士はゆっくりと手を動かしてささやいた。飛んでいく影達が仲間よりも一歩早く動く。予告するように。その通りに動く。
そうはさせまいと羽ばたいたガラッフィーを、何かが引きずり下ろす。
視覚の外から。影すらもよけて。落下の影などまったく見えなかった。
喉元を食い破るような勢いのリュコスが、空から降ってきた。
「こっち……」
でしょ? だよね、と、リュコスはジュートの方に耳を澄ませる。
「おうよ!」
元気の良い声が返ってきた。
もっと近づいて、もっと。判別をつけないととケイクは高度を下げる。少し目を離した隙に、亡霊の怨嗟が飛んでくる。
(! しまった……)
「可愛コちゃんに手だしはさせねぇ!」
きらん、と黄金が跳ねた。No.79。コインの魔力に惹かれて攻撃は起動をジュートの方へと変える。
「今日はツイてる」
「また助けられてしまいました……」
「お互い様だろ?」
怖いとは恐ろしいこと。
強いこと。
「さてと」
不意に、敵が意識を外していたヴェルグリーズの雰囲気が鋭くなった。排除しなくては、とガラッフィーはがなるが、その声は届かず、ただ、堅さを増した美しい一振りの斬があたりを薙いだ。
それは静かで、がなりたてるものではなく。ただ研ぎ澄まされて致命的だった。何度も何度も、サカナたちも亡霊も、そのときばかりは動きに対応できずにそれを見つめているしかなかった。
八つの剣がひらめいている。飾りの玉が揺れる。
「こんなもの剣を振れば倒せるよくいる魔物だからね」
ヴェルグリーズはあっさりと言ってのけてしまう。まるで簡単な調理でもするように。おそろしい、というよりは現象ただそのもので。どちらかといえばきれいな当たり前のモノ。
「イレギュラーズにとってはそう怖いものではないよ」
ビックリユーレイウオは黙って考えていた。
リュコスはあえて引かず、近づいて食らいつく。
違いが、だんだんとわかってきた。呼吸が少し違う。
(この子は、ちがう)
怖くはない、だから攻撃はさっとかわすだけ。悪いのはこっち。後ろで、背中から襲おうとしていた悪霊を見ないでたたきのめす。
「OK。まとめておくよ」
ハリエットの威嚇射撃が倒すべき敵を一カ所に集めていく。
リュコスの影がゆらゆらと動いた。リースヒースのものとは、また別のリズムを伴って、ぼんとはじけるように一撃。
「落ち着け、よーく見てみろ。奴ら相手には怖がらないのが一番だからな!」
ジュートの号令があたりに満ちる。
(ゆっくりにしてから)
ニルは息を止め狙いをつける。
その姿からは想像もできないほどの威力の魔力が、ガラッフィーに炸裂する。
「うん、大丈夫」
アレクシアの作り出す、小さく柔らかき薄紅の花。それは、ほんとうに小さいものなのに、仲間達を包み、癒やしていく。
●レッスン:怖いもの
「つまり、悪霊に擬態してるビックリなんとかを他の何かに擬態させれば、見分けがつくようになるってことね」
ハリエットはしばし考えを巡らせて、ぴんとひらめいた。
「おっかない……あ、あれだ。この前本で読んだことがあるよ『まんじゅうこわい』て感じでやればいいかな」
「ニルは、ええと、もっとこわいもの知ってますよ!
こわいもの、ワルっぽくて、かっこよくて……」
「は。カレー! 色も暗い? ですし、ピリって辛いのはワルっぽくて、ニルはとってもとってもおい……こわいと思います!」
カレー、とは、どういうものだろうか。ぴょんと一体が暗い皿になった。
「ああ……ああ! やめてくれ! そんなものを見たらデザートを避けられないではないか!」
リースヒースは苦悶の表情を浮かべた。
懐から取り出したるはアイスクリーム。
「おお、なんと恐ろしき甘味であろうか。このような夏の暑い日に見かけてしまったならば、一日中食べて腹を壊すことは間違いなく……。げにアイスクリームとは恐ろしきもの。放置していると溶けるあたりも恐ろしい。このような悪がこのように存在していいのか。太る上に虫歯にもなり食べ過ぎれば頭痛となる……!!」
「カキ氷もこわい、チョコレートもこわい
ガラッフィーなんかよりも、もっとずっとこわいのです
だからガラッフィーなんて、こわくないのです」
ニルはふるふると首を振った。
「だから、もっと楽しい感じで、ビックリさせてください」
(全部食べるのはマズイみたいだし、食べ物は程々にしてそれ以外……あっ、そうだわ!)
セレナはぽんと手をたたくと、びしっと向き直る。
「いい、幽霊魚たち。今時悪霊なんて誰も怖がらないのよ!
なにしろ夏には肝試しなんて言って、好んでお化けが出る所に遊びに行く位なんだから!」
そんな……。
ユウレイウオたちは身を震わせる。
「それよりも、そうね
風鈴なんて怖いわよ。こっちの世界にもあるかしら?」
フウリンとはなんなのか。
セレナは小さく頷いて、解説する。
「小さなガラスの容器から短冊を吊るして、それが風に揺れて、繋がってる部品がガラスに当たって音を鳴らすの
涼しげな音がして、揺れる短冊が風流で……そう、寒気がするのよ、夏の物なのにね!」
こうだろうか、と一匹がクラゲのように身を膨らませる。
「そう。それでここをこう……」
ガラッフィーが怒鳴る。
けれども、ガラッフィー率いる亡霊は瓦解して、見向きもされなくなったようだ。
「どこにいけばいいか、わからなくなっちゃったんだね」
アレクシアはうなずき、今度は、小さくも激しい炎を生み出した。
葬送の霊花が、道を作り出す。
「それじゃあね」
ヴェルグリーズが送り出した。ハリエットの弾丸が、最後の亡霊を貫いた。
「そういえば黒に惹かれるお年頃なビックリユーレイウオもいるんだっけ」
リースヒースに集まっているのはその類いだろう。ただ、闇になりきれていない個体もいる。
「黒くて怖いもの……と……いえば……チョコレートかな」
ヴェルグリーズはふうっと溜息をついた。
「あんなに甘いものたくさん食べたら太ってしまうからね……おっかないよね。おやこんなところにここに来る前に買って来たチョコレートが……」
見るだけでも怖いしこのチョコレート独特の甘い香り……こわいこわい」
香りを似せようと努力しているサカナたち。
(えっと冷たいものや甘いものの名前が出てるしここは……)
リュコスはいっしょうけんめいに考えた。
「こんなやつより、パフェの方がこわいぞー! 知らないの? アイスにフルーツにクリームがいっぱい乗っててすごくあっとーてき。しかも頭がキーンって……ぶるるっ」
ぽん、とパフェがでてきて、コーンフレークの割合を議論している。
「はー。かき氷って怖いな。この時期になると出てくるんだよ」
(棒読みなのは仕方ないよね。こういうの慣れてないんだから)
それに大げさに乗ってくれる仲間もいることだし……と、ハリエットはジュートを見た。
「か、かき氷だってぇ!? 俺はやっぱ、練乳かかったいちごのヤツがおっかねぇな……アイスもおっかねぇ! だってほら、ヒヤッとするだろ?」
「そうよね?」
「チョコレートもおっかねぇよな~! キンキンに冷えたミルクチョコとか、ホラーすぎるじゃん!」
「冷たい氷に甘いシロップがかかっているんだよ。一目見たら食べたくなって仕方なくなるんだって。
怖いよね」
「夏の暑い時には食べたくなるから本当に怖いよね」
「はぁ。かき氷食べたくなってきちゃった」
ハリエットはつぶやいた。
●さわがしい食卓
フウリンが揺れる。ちょっとだけ魔女のランプに似ている。
「ケイクちゃんは何が怖い? 食べるんなら一緒に食べちゃおうぜ。味は保証できねぇけどさ!」
「え、た、食べるんですか?」
「……少しだけ、少しだけ食べちゃおうかしら?」
セレナもそおっと一さじをすくった。
「それにするの?」
アレクシアをまねた花が咲いている。何匹かは、花として生きていくことに決めたらしい。
「刺身にして食べたくはあるが、この愛らしさを見ると、食べる気が無くなってしまうな」
アイスクリームを片手に、リースヒースは新しくできた弟子達を見回す。
「共にアイスクリームでも食べようではないか、魚よ。心地よい驚きを知るのも、驚かせるのには必要だからな。かき氷も無論良いし、チョコレートも良い。全て合わせるのもまた良いな……」
リースヒースを師匠とあおぐサカナたち。
「確かにダークはよい。そういったものは、王道だ。しかし、暗闇の中に一筋の光を見つけて輝くような、そんなダークさも良いのではないかね」
将来有望そうだ。
「具体的には、ダークヒーロー。病み上がり……じゃなくて闇上がり。
反抗するならば、世界にではなく……さらに深い闇にだ」
「食べ物の方が怖かったよ!」
リュコスはふるふると震えてみせる。
「ニルがこわいのは、ビックリユーレイウオさんたちと会えなくなること、かもしれません
もしかしたらビックリユーレイウオさんまで傷つけちゃうかもっていうのが、ニルはこわいのです」
ビックリユーレイウオたちは、なんだか。はじめてびっくりしたようにだまった。まだまだいるよ、というように引っ込むと、群れを連れて帰ってくる。
「こういう感じじゃなくって、もっと楽しくてほんわかするような、ビックリしたあとに笑っちゃうような、そんな感じのものに化けてもらえたら嬉しいのです」
「チョコレートに化けたビックリユーレイウオくんはチョコレートの味がするのかな」
ヴェルグリーズは興味深そうに色とりどりのユウレイウオを見ている。
「うまい!」
「……おいしいですね……怖いくらいに」
「こっちはメロン味で、こっちはイチゴってとこかな。これはなんか、トロピカルで、これは……うげっ」
ちょっと苦いのもあった。
おどろかせたことで、ビックリユーレイウオはたいそうご満悦である。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ビックリユーレイウオたちは新たな珍味として名をはせることになりそうです。
怖いもののレッスン、お疲れ様でした!
GMコメント
ゆゆゆ<しかたないね
ビックリユーレイウオは「寝物語にゴーストハント(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7735)」に登場したものです。
とりあえず、化けて人を驚かすのが大好きな魚だと思ってください。
●目標
・ガラッフィー(悪霊鳥)および亡霊の討伐
・ビックリユーレイウオに、「お手本」を見せてやる
●状況
アーカーシュ島、ショコラ・ドングリス遺跡前。天候は良く晴れています。
フィールドは浅い湖です。幽霊魚たちはふらふら浮いています。少し霧が出ています。
●敵
ガラッフィー(悪霊鳥)
無数の悪霊を二十体ほど引き連れた、不吉な鳥の怪物です。悪霊はそれぞれ別の魔物です。 陰湿な性格の魔物です。無数の悪霊をけしかけて攻撃してきます。
悪霊の群れ✕30(うち、半数程度はビックリユーレイウオの擬態?)
ガラッフィーに率いられた悪霊の群れです。神秘遠距離攻撃やMアタックを仕掛けてきます。不吉、懊悩、暗闇などのBSを保有しています。ビックリユーレイウオはBSを持ちません。
幽霊魚の半数は悪霊の群れに交じって「悪霊」に擬態しているようです。このおっかないものの真似をする性質が結構厄介で、ほうっておけば亡霊をまねして危ない能力を持ちかねません。
とはいえビックリユーレイウオたちは全ての群れがそうでもなく、今暴れているのはごく一部だそうです。あんな鳥はおっかなくないと、「お手本」を見せてあげてください。そっちをまねしたがったりするかもしれません。
ビックリユウレイウオたちは群体ですし、そんなに個々とした感じの生き物ではないので何匹かふっとんでも大丈夫ではあります。げんきです。そういう生き物です。ちょっとワルに反発したい個体もいるようですが、仲良くしたいお年頃。お刺身でもいける。
ゆゆゆ<ぜんめつは
ゆゆゆ<ちょっと
ゆゆゆ<やだなー
(※生態系保護のため、全部は食べないでください)
●NPC
『希望の軽空母』ケイク=ピースメイカー
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)様の関係者です。救われて以来恩義を感じ、今回は空の旅ということで志願したんだとか。とりあえず、空からある程度の情報を伝えてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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