シナリオ詳細
にぎみたまの末裔
オープニング
●晴天の呪い
今年の梅雨も空梅雨だった。
空は憎々しい青のまま夏へ入り、地は干からびカラカラと乾いていく。その村はもう何年もそうだった。やせ細った土地で、為す術もなく枯れていく作物。飲み水にも事欠き、ぼうふらのわいた瓶の水を煮立てて飲む日々。昔は豊かだったのだと古老は言う。昔は、と、古老は遠い目で言う。若いものは熱波による惨状しかしらない。井戸はとうに枯れ果てた。歩いて半日かかる沢へ水を汲みに行く。泥まみれのその沢は、いまにも消えてしまいそうだ。来年か、再来年か、それとも今年か。逼迫する水事情。もう土地を捨てるしかないのか。生まれ育った、ここを出て、流浪の民になるしかないのか。行く先々で笑われ、嘲られ、投げ捨てられた小銭をありがたって這いつくばる存在になるしかないのか。
ああ、雨、雨、雨さえ降れば。すべては水に流せるのに。今日もまた晴天を振り仰いで絶望する。
龍神様よ、お怒りなのか。我等がいったい何をしたのだ。それとも僕が俺が私が息をしていることこそが罪なのか。罪ならばどうか許し給え。龍神よ、幸わえ給え。我等の咎を祓い給え、清め給え。守り給え。どうか見捨てたもうな。見捨てたもうな。
●雨乞い
「さぐめ、さぐめや」
「はぁい、ととさま」
「だいじはないか」
「ありませぬ」
そろそろ花咲こうかという乙女が座敷牢に捕らわれている。
村一番のべっぴんさん。掃き溜めの鶴。瓦礫に混じった玉。とんからりと機を織っているのがお似合いの、その唇はひび割れ、笑みはぎこちない。
ええこだなや。と、皆は言う。
龍神様の嫁になってくれるのだから。
明日、枯れてしまった滝裏の社で、婚礼の儀式は行われる。鋼の小刀で喉をつき、御神酒代わりに鮮血を撒き散らして龍神を呼び戻す。熱狂の宴の始まりだ。屍は皆の慰みものだ。踊れや踊れ、雨が来るまで踊り狂え。秘蔵のどぶろくも恐悦の清水も祭の期間は飲み放題だ。明日をもしれぬ命なら、明日など投げ捨て気が触れよう。みなで踊れば怖くなかろう。根源的恐怖も権現的豆腐も知ったことじゃないともさ。米粒かき集めろ。倉の鼠ごと炊いてしまえ。腹に入ったなら似たようなものよ。雨だ、雨だ、雨をよこせ。飴玉なんぞで満たされやしない。生きるのは辛いが死ぬのはもっと辛いのだ。針の山登ろうと生にしがみついていたいのだ。そのためなら贄のひとりやふたり、喜んで差し出すとも龍神様よ。
からっぽの社は何も答えない。我等の熱狂を吸って肥え膨れてくれ頼むから。
異様な興奮に包まれた村で、しかしさぐめの父は泣き明かしていた。男手一つで育ててきた掌中の玉、それを手放さなければならない苦痛。墓すら建てられない。面影を追うこともゆるされない。村のために犠牲になるのだ。これを誇らしいと呼ばずしてなんと呼ぼう。それでも心中は複雑で。手に手を取って逃げ出す勇気すらない。
屍すらなくなるだろう祭りの刻限がじわじわと近づいてくる。舞い戻れ時よと願ったそのとき、父は神使を見かけた。おお娘を救いに来てくれたのか、神使よ。そうに決まっている。決まっているとも。
浮舟 帳(p3p010344)。
偶像の血脈の末路。折り重なった祈りの集大成。美しき破滅と喜ばしき再生の予感。
ひと目見た時わかった。この子こそ龍神様にふさわしい。さぐめ、さぐめや。父は見つけたぞ。極上の贄を見つけたぞ。だから出ておいで、鍵なら受け取ってきた。その子なら気絶させてきた。ほら、背負っているだろう。ごらん、この血色の良い頬を。のびやかな手足を。白無垢はこの子の肌にさぞかし映えるだろう。出ておいでさぐめ。皆々納得してくれたんだよ。おまえの代わりにこの子を、この子を。
●
『……妙だな』
松元 聖霊(p3p008208)はいぶかしんでいた。
豊穣の辺境の村で、あなたたちは小さな依頼を片付けたばかりだった。滝裏の社付近へ現れる魔物、それを退治する。簡単な依頼だった。すぐに終わらせた後、感謝の宴会がひらかれた。聖霊はにこにこ顔の村人たちに囲まれながら、貧しい膳を前に座っていた。聖霊があなたへアイコンタクトを送る。あなたもこくりとうなずいた。
帳が、帰ってこない。
依頼が終わったあと、帳にだけ手伝って欲しい事があるなどと言われ一人別の場所に連れていかれたのだった。本人は大喜び。「衝撃スクープ撮ってくるね!」などとのたまっていた。
だがそんな刻限だろうか。そろそろ太陽は山の端に飲まれようとしている。空は赤く染まり、不気味なほど静まり返っている。宴会からはひとりふたりと村人が消えていき、あなたたちの前から膳がさげられた。老婆が深々と頭を下げる。
「ありがとうございました神使様がた。おかげさまで安心して祭りを執り行うことが出来ます。それではお達者で」
「待ってくれ、帳はどこだ」
「帳さまは明日には発たれます。すぐに皆様へ追いつくことでしょう」
嘘の匂いを感じ取り、聖霊は最後に残った老婆へ詰め寄った。
「帳はどこにいる」
「ですから、帳様にしか出来ないことをお手伝いしていただいております」
「帳は、どこに、いる」
聖霊は老婆の襟元を掴み上げた。棒切のように細い体を揺する。
「ひっ」
「もう一度だけ聞く、帳は、どこにいる?」
怒りを込めた瞳でねめつけると、老婆はとうとう白状した。帳は依頼場所であった枯れた滝裏の社へ連れて行ったそうだ。
「……嫌な予感がする」
聖霊を先頭に、あなたたちはその場へ急いだ。
ぴーひゃらどんどこ。ぴーひゃらどこどん。
神楽の音が響き渡るそこは異様な空間だった。一心不乱に太鼓を叩き、笛を鳴らしているのは神職か。その退屈な音色に合わせて、村人たちが酒を浴びるように飲みながら踊り狂っている。ゆらゆらと揺れ動くさまは、千鳥足なのかすらもわかったものではない。それよりもさきほどから気になるのは場に満ちた異様な香りだ。村人たちの汗が混じり合った臭気の中でもたしかに感じ取ることができる、錆びた鉄のような……。
「帳!」
聖霊は声を大にして呼んだ。とたんにぴたりと村人たちの動きが止まった。ギラついた視線が刃のようにあなたたちへ突き刺さる。次の瞬間、村人たちが襲いかかってきた。
「帳は滝裏の洞窟の奥だ! まちがいない!」
聖霊があなたへ叫んだ。目の色を変えて殴りかかってくる村人たち。死にものぐるいであなたたちへかぶりついてくる。まずはこれを突破しなくては、一秒でも早く。さもないと……。
「きっとあのギフトが発動したんだ。おそらく帳は、生贄にされようとしている!」
聖霊の予言に、あなたもうなずいた。
- にぎみたまの末裔完了
- GM名赤白みどり
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年07月16日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(まずいなあこれは……)
半ば他人事のように『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は思った。そうでもしないと意識を保っていられなかった。陰りゆく視界、遠くなっていく。震える手でそうっと印を結び、「たすけて」と誰にあてるでもなくつぶやいた。すると、帳を青白い光が取り巻き、村人の刃の通りを鈍くする。
「おお見ろ、なんという奇跡」
「まちがいない、この子を龍神様へ捧げればきっと、きっと雨が」
帳の必死の抵抗は、村人たちの狂気を煽った。何本もの刃物が帳へ向けて振り下ろされる。襲い来る痛みに耐えるため、帳は思考を続けた。
(……ちょっと、気を抜きすぎてたかなぁ。しばらく、発動してなかったから、油断、してたなぁ。そうだよね、そうあれと願われてきた血だ)
その恩寵(ギフト)は、はたして彼自身が望んだものだろうか。混沌の神は何者にも答えない。
(そんなボクが、此処みたいな所に来たら、こうなるに決まってた。こんな呪い(ギフト)で苦しんでた人達を、更に狂わせた。そんなボクがこうなるのは、自業自得なんだろうな)
諦念が帳を支配している。それでも抵抗をやめないのは、きっと……。
(……嗚呼でも、きっとみんなは助けようとしてくれてるんだろうな。だって、イレギュラーズは、優しい人が多いから。なら、頑張って、耐え抜かないと。耐え抜いて、みんなに謝って、村の人達も、気休めじゃなくてちゃんと救ってあげないとだね)
帳自身のまっすぐで優しい心根があるから。これだけは血の呪縛にもギフトにも縛られない、帳だけのもの。
(脚が動かない……足速いのはちょっとだけ自慢だったんだけどな。でも耐えるよ、村の人はこんな苦しみじゃないもんね、痛くても、辛くても、ボクのこれは今だけのモノだ。村の人達みたいにずっとじゃない。なら、ちゃんと耐えられるよ)
脆弱な体に反した意志の強さ、それが帳の輝きだった。ゆえに帳の瞳が絶望に染まることはない。
●
「あ~これは完全にイっちゃってる感じだね……」
『咎狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)がため息交じりに吐き出した言葉が状況を的確に表していた。
村人は己が身を凶器に変えてイレギュラーズへ襲い来る。力量差は激しく、無謀と呼ぶより他にない。それを老いも若きも関係なく血眼になって数を頼みにやってくる。
「……あ~ほんとマジで……」
ラムダは両手をクロスさせた。胸をそらし、空間を引き裂くように腕を開く。同時に足元から無数の鎖が沸き起こり、村人の体を縛り上げていく。神獣すら拘束する魔力で練り上げられた漆黒の鎖。それでもなお抗おうとする村人。
「うっとおしいったら!」
ラムダはその村人を掌底一発で吹き飛ばした。
(……参ったなぁ。咎人認定してコロコロでもボクは構わないけど情状酌量の余地もあるしねぇ)
生命の根幹をなす食が脅かされている現状で、無知な村人が原始的な暴挙に走るのもしょーがないと、ラムダは思った。
(みんな普段はいい人なんだろうな。すれ違ったらお互いに挨拶なんかしちゃったりしてさ。まだ村が豊かだった頃は取れたものをおすそわけしあうような、そんな仲だったりしたんだろうけど……)
だがそれは過去の話だ。絡みついてくる村人の腕の細さが哀れを誘った。
「まったく……良かったね? 他の仲間が善良で……一応、手加減はしてあげるけど、君たちは今境界線に立っている……その一線を越えたらボクは全力を持って君たちを排除することになるとだけ言っておくよ」
ラムダは鋭い視線でもって村人たちをねめつけた。
ラムダが開いた道を『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が疾駆する。黒いマントがはためき、フードがずれる。アーマデルの頭があらわになったとき、彼は大音声を発した。
「我こそは『一翼の蛇』の加護を刻んだ者、おまえたちを救いにやってきた! 縋りたい者は縋れ! いずことも知れぬ龍神よりはあてになるぞ!!!」
龍神をバカにされた怒りか、それとも真剣にアーマデルに救いを求めているのか、村人たちがアーマデルへ群がる。そこへ耳をふさぎたくなるような不協和音が響いた。蛇銃剣と蛇鞭剣がこすりあわされると、身の毛もよだつ音が立つ。思わず耳をふさいだ村人たち、歴史に埋もれた聖女の慈悲か、それとも恨みか、村人たちは気絶し、バタバタと倒れていく。
(眠れ、今は。眠るそのときだけはすべての悩みから開放される。おまえたちを覆う狂気もひっそりと姿を消す)
それがわずかな時間であっても、眠るときだけは誰もが自由になれる。いまや悪夢と成り果てた村の現状からして、眠っていたほうがまだましだろうとアーマデルは怨嗟に満ちた英霊の残響を聞かせ続ける。石がぶつけられようと、髪の毛を掴まれようと、アーマデルはひるまない。むしろいっそうの気迫を込めて名乗りをあげる。
(俺がおまえたちの受け皿となろう。どうしようもないおまえたちの罪を測る天秤となろう。外から来た俺達だからこそ気づけることもある。いやきっと、そのために俺たちはここへ来たのだ)
アーマデルが村人をかき集めている間に『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が走り抜ける。
「アーマデル殿、助力感謝します!」
「ああ、一歩でも近く、一瞬でも早く、帳のもとへ駆けつけてやってくれ」
「了解であります! はあっ!」
ムサシは地を蹴り、村人の胸板めがけてドロップキック。その勢いで前に立ちふさがる別の村人相手に右、左、右。すばやくパンチを打ち込む。血を吐いてよろけた村人に若干の心の痛みを覚えつつ、ムサシは走っていく。けれども左右からゾンビのようにわらわらと村人が集まってくる。次々と攻撃の手が振り下ろされ、ムサシの身体に重い打撃をくらわせる。
「宇宙保安官、真価! 発揮!」
ムサシは拳を高く掲げた。足元から光が溢れ出し、まぶしいほどのオーラとなってムサシを包む。ヴァルキリーオファーの癒やしの力が内面からムサシの体力を充実させ、不調を取り除いていく。
「新生! 宇宙保安官ムサシ! 帳さんの確保に全力全力であります!」
走るムサシの脚が急に重くなる。足元を見れば、決死の形相をした老婆がすがりついていた。
「離してください!」
「だめじゃ! 龍神様へ生贄を捧げねばならんのじゃ!」
落ち窪んだまなこの黄色くなった白目がいやにムサシの目についた。
(追い込まれてしまってその選択肢しか思い浮かばなかった事には同情の余地があるであります。でも……それが理由で誰かの命を犠牲にすることを、自分は毛頭許すつもりはない……!)
ムサシは負けずに目を見開いた。ヘッドパーツのアイガードが呼応して輝きを灯す。
「あなたがたを殺人者になどさせないし、帳さんを犠牲になんかさせないであります! それが宇宙保安官たる者の使命であると考えるであります!」
その頃、上空をひとりの男が飛翔していた。
「まさか、チヨ婆さんから面白半分に教えてもらった歩法が役に立つとは、人生何があるかわからんぜ」
そうぼやきつつも瞳は真剣だ。
(……わかんねぇよ。帳はこいつらに何ひとつ悪いことしてねぇのに酷ぇ目に遭わされてるじゃねぇか。己れより『獣』だろ、こいつら)
村人を見下ろし、『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)は理不尽さのあまり歯噛みする。村人のコトワリは彼には理解しがたいものだった。命にとって人生はシンプルなものだった。それゆえの強さを命は持っている。己が信念のみをきりりと抱き、命はうそぶく。
「己れは『やるべきこと』をやるぜ」
目指すは最短・最速で帳のもとへ行き着くこと。しかし命の姿を見た村人たちが洞窟前に集まってきた。見たところ洞窟の天井は低く、浮くことはできそうだが障害物も多そうだった。それに加えて村人たちが殺気もそのままに集っている。
「あ~あ、相手するしかねぇか」
命はふわりと地へ舞い降りた。同時に村人たちが壁となって殺到する。
「どけや、どけやぁ!」
鬼のような大喝を浴びせ、壁を破壊する。悲鳴をあげる村人の両足を鷲掴みジャイアントスイング。村人たちの頭骨と頭骨がぶつかり合う音が聞こえる。なにがどうなろうと命の知ったことではない。彼らはなんの罪もない帳を死なせようとしているのだ。
「閻魔にでも謝るんだな!」
はっきりと言い放ち、命は洞窟へ入り込んだ。深く暗い洞窟だ。天然のものらしく、まがりくねっているうえに鍾乳石がちらばってい行く先を遮っている。しかし命はその鍾乳石ごと村人を爆破した。裏に隠れていた神職のうめき声、それから泣き声。
「びいびい泣いてる余裕があるとはうらやましいこったな、帳の身にもなってみろよ!」
その命へ続いたのは『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)。次から次へと押し寄せてくる村人の群れがウォリアへ襲いかか……否、それは特攻に等しい。異界のと付けど神は神、その威容は村人たちを内心怖気づかせるに十分だった。ウォリアは神託をくだす。
「偽りの狂気に縋る愚かな命。命と呼ぶにもおこがましく、同情の余地など存在する筈も無い。生にしがみつく? 死ぬのは辛い? ――流浪を選べないだけの『我欲』があるのだろう? それは『妄信』という『罪』。竜の系譜として、渡来なれど神の一柱として。その有様――断じて赦さん!」
ウォリアの宣言の後、痛烈な攻撃が続く。叫びまわる村人たちは既に足元もおぼつかない。ウォリアへの一挙一投足への畏怖が龍神信仰よりも勝り、葛藤から狂気に陥る。だがしかしその攻撃は苛烈ながらも深き慈悲を秘めていた。ウォリアは自らの権能を存分に振るい、村人を気絶させていく。
「見定めさせて貰うぞ聖霊、オマエの傲慢がこの澱みを救えるのか否かを」
低く唸ったウォリアの前には血まみれの祭壇があった。
●
閉じていたまぶたを薄っすらと開けた。誰かが呼んでいる気がしたから。
「帳! 帳!!」
ここだよと手を伸ばす、その腕すら折れてくらげみたいにぐんにゃりとしている。それを見た『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)はあまりの痛ましさに歯ぎしりをした。村人たちの暴行がここまでひどいとは。聖霊は白衣を広げた。ずらりと並んだ内ポケットから必要な医療器具を取り出す。帳はひしゃげた唇の端を笑みにしてみせた。
「いい。無理はするな、安静にしろ。応急手当を施す」
まずは骨折の整復からだ。打撃痕から優先すべき場所を探し出す。幸いというべきか骨が飛び出るには至っていないが、粉砕骨折の可能性は十分にある。帳の容態は最悪だ。このままでは死に至るだろう。だがその死へ抗うのが、最後の最後まで抗い続けるのが、松本聖霊という男なのだ。
「信仰、信仰かよ。生きる希望になりうることもあるそれを俺は否定しねぇ。だが人の生命犠牲にして成り立ってんなら話は別だ……!」
「見たいモノを見、信じたいモノをこそ信ずる。信仰とはヒトがヒトの為に生むモノなれば。」
『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)が聖霊を守るように村人を退ける。しかし村人たちはしぶとく、帳を付け狙っている。
(しかし一体誰が贄を捧げよと口にしたのか。元より龍神様が嫁取りの逸話でも持っていたのかねえ。龍神信仰の話を聞いておければ後に活かせそうではあるが、さて。)
村人はまだまだ集まってくる。
「帳! もう大丈夫だぜ。己れが此処にいる」
命をはじめ仲間がつぎつぎ駆け付けるが対処が追い付かない。帳の意識も途切れがちだ。ここは一芝居うつか、と陵鳴は喉を鳴らして笑った。
「おお……」
村人たちがひるんだ。陵鳴の背後から後光がさしていた。美しく清明なる光は村人たちのすさんだ心へ注がれていく。
「龍神様のお越しだべか」
「いかにも。」
矛で地を打った陵鳴の声が洞窟を揺るがした。村人たちが血相を変えてさらに集まってくる。いつしか祭壇の周りは村人たちで埋め尽くされていた。誰もがみな陵鳴を見上げている。
「我はアラミサキ。龍神様より遣いを仰せ付かりし御先である。」
おお、と村人が喜びの声をあげる。
「雨を、どうか雨を」
ふりしぼるような祈りに、陵鳴は首を振った。
「嫁とは、贄とは、誰が為に捧ぐモノか。なあ、ヒトの子らよ。此の地と未だ縁遠き者を、望まぬ儘に殺める事で何を請うか。龍神様の眠る神聖なる地をヒトの血で穢す不信心なる者共よ。皆々とくとその手を胸に当て、あるべき姿を思い描くが善い。」
「もう、やめてください……!」
ムサシが悲痛な声をはりあげた。
「こんなことをして何になる……? 命を奪ったところで何の奇跡だって起きやしないであります!」
「だがこのままでは!」
村長らしき古老もまた、心に抱えているものを吐き出すように叫ぶ。
「わしらは皆飢え死にしてしまう!」
それを合図に若い衆がムサシへ向かってくる。ムサシは拳を握り締めた。
「目を……覚ませぇぇっ!!!!」
ムサシの拳が若者を殴り飛ばす。倒れこんだ仲間をかばうように若い衆が動きを止める。
「お互いに思いあう気持ちが、まだあるのなら! ……こんなことをしている場合ではないであります!」
「そのとおりだ!」
ウォリアが続ける。憤怒を隠さぬ表情で。
「生贄を捧げれば雨が降る? 怠惰な夢を見て、お前達の穢い妄想を押し付けるな……。もう十分に苦しんだから自分達に救いがあるとでも? 同じ事を、目をそらさず帳にも言えるのだな? 生きる事に向き合わぬその腐った性根に弁解はあるか!」
「しかし……」
村人たちはうなだれた、狂乱は過ぎ去り、理性が戻っている。すがる先を失い途方に暮れた顔で。
「ボクの、これはね……」
小さな声が村人たちの耳へ届いた。誰であろう、生贄にされかけた帳自身だった。添え木と包帯まみれの姿で命に背負われたまま、帳は一生懸命に言葉をつむぐ。
「ただの、気休めにしかならないんだ。でも辛いのは、すごく伝わったよ、生きたいのも、見てて分かった。なら、ちゃんと前を見て、みんな、やさしい人達だから、前を見て進む力になってくれるよ」
気休め、気休めだと? 村人たちの間に動揺が走る。それを見て取った聖霊が怒鳴りつける。
「ああ、気休めだ。ただの現実逃避だ。だいたい龍神様、龍神様っていうがよ。本当にその龍神様が望んだのか? そういったのか?」
村人は後光を放つ陵鳴と聖霊を見比べる。
「雨が降らなかったことはお前らの所為じゃない。生きたいと思う気持ちは否定しない、当たり前だ。だがな、他人の生命犠牲にして助かったとしてどうやって生きていくんだ? 殺人ってのは無かったことにはできねぇ。往きつく先は地獄だぜ。自分達が助かりたいがために人殺したんだから、その覚悟はあんのか? ……ねぇよな、生きたかっただけだもんな」
聖霊は一歩踏み出し、がなりたてた。
「だから、てめぇらが縋るのは俺らだ! 医者だ! ローレットだ! 全員きっちり助けてやるよ! 生きたいと願え、助けてくれって俺達に言え! あと帳とさぐめに謝れ!!」
陵鳴がゆっくりと後光を収めていく。そこに残ったのは鬼を祓う矛、一柱の武神だった。すがるべき存在ではないと、村人たちが気づいたのか、それとも聖霊の言霊が届いたのか、彼らは涙を浮かべ始めた。
「思うのだがな」
そんな村人たちへアーマデルが語りかける。
「帳殿を選んだのはギフトの効果であるとしても、だ。贄でヒトの願いを叶えるようなモノが、素直に対価を払う訳が無かろう? 一度や二度は気まぐれで叶えるかもしれないが、その代価はどんどん重くなるだけだ。……力あるモノほど軽々しくその力を振るうことは出来ない。そうだろう、アラミサキ殿」
陵鳴が深くうなずく。アーマデルはうなずき返して続けた。
「長期に渡って雨が降らず、まずすべきことは、お上へ事実を申し出る事だろう? 雨が降らぬのはここだけか? 近隣の他の集落ではどうなのか? そういう広い視野で物事を考えて対処するのは、集落ひとつでは手も眼も足りないからな」
「そうそう」
ラムダがアーマデルの後ろからひょこりと顔を出した。
「ここの領主はほとほと無能らしいってのが本音だけど相手は天候だしね……。どうだろう、豊穣にはボクが拝領してる領地があるからキミたちそこに移住するかい? 少なくとも此処みたく水に困ることはないし多少は便宜もはかることもできるよ」
ラムダの言葉に村人たちはざわざわと話し合い始めた。やがて古老と若い娘が祭壇へ昇ってくるなり土下座をした。村長とさぐめだろう。
「……すまぬことをいたしました。帳様、神使の方々、もはや我ら進退窮まり万事休す。どうか、どうかお助けくだされ、このとおりですじゃ」
ふたりに倣い、村人たちが次々と土下座をする。波が静まり返っていくように。
「決まりだね♪ キミ達みんなボクの所で受け付けるよ」
ラムダがウインクした。命が帳を背負ったまま歩き出す。村人たちは深く頭を下げたままだ。それを横目に見ながら、ウォリアはそっと印を結んだ。
「なんだ今のは」
「なんでもない、アーマデル」
祈雨術を施すも、空はしらばっくれたように乾いた青。洞窟を出た一行へ、ぞろぞろとついてくる村人たちの不安と希望に揺れる顔を眺め、ウォリアは彼ら哀れな「定命の存在」達へ、ほんの少しの慈悲を祈り続けた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでしたー!
帳さん救出作戦、無事終了です!
MVPは龍神の使いかもねなあなたへ。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
ハローハローみどりです。
ご指名ありがとうございました。
皆さんは依頼豊穣の村を訪れたのですが、じつはその村は日照り続きで生贄を出すところまで逼迫していました。さぐめという娘が雨乞いの生贄になるはずだったのですけれども、ここでたまたまご一緒していた帳さんのギフト「誰かの救い」が発動。村人たちは帳さんを連れて行ってしまいました。あなたたちは一刻も早く彼を助け出さないといけません。
やること
1)まず枯れた滝裏の洞窟奥を目指す
2)ズタボロになっている帳さんを救出し、村人の囲いを突破する
洞窟最奥まで突撃して、全員揃って洞窟の外のフィールド外へ出ることができればクリアになります。
●名声
豊穣名声が入りますが、希望者がプレへ「悪名希望」と記載した場合は悪名が入ります。村人は生死不問だからです。やってることがやってることだからコロコロしちゃってもいいよ。相談で各位納得の上で、ご検討ください。
●エネミー
村人:外・25人・洞窟内40人 BS【懊悩】持ち マーク・ブロックもしてきます
高EXFの村人たちです。タンクからヒーラーまでそろっており、4~5人ほどのPTになって、老いも若きも狂ったように攻撃してきます。龍神に生贄を捧げなければ未来がないと思いこんでいるのです。攻撃には【麻痺】【滂沱】【停滞】などのBSが乗っているようです。APが尽きればBSのない通常攻撃しかしてきません。
説得は難易度が高いでしょうが、まったく可能性がないわけではありません。プレの内容で判断します。
●戦場
洞窟の外は、縦幅100m、横幅30mのフィールドです。帳さんが居る洞窟の中は、縦幅200m、横幅10mとなります。また、洞窟内には神職が潜んでおり、毎ターン開始時に【重圧】付与の判定が行われます。
●特殊スタート 浮舟 帳(p3p010344)さん専用
あなたは洞窟の最奥にある祭壇で、動けないよう両足を折られた状態からスタートします。6人の村人たちからボコられ続けており毎ターン開始時にHP減少+【失血】【致命】付与の処理がなされます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。でもやることが多いので、役割分担はしっかりと!
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