＜光芒パルティーレ＞薄暗き水の底から

オープニング

●シーホイル号の遭難
　シピシュの咆哮。
　突如襲い来る嵐により、天候が読めないエリアとして知られるダガヌ海域のエリアの１つである。
　近年、両国間の大規模航路となっている【フェデリア島】近辺の【ダガヌ海域】で遭難事故が続発。多くの船が難破し、帰らぬものとなっていたが……シーホイル号もまた、シピシュの咆哮により難破してしまったというわけだ。
　シーホイル号は自力航行不能、修繕するには破損個所が多すぎ、救助を待つのが一番良い方法であると思われた。
　幸いにもシーホイル号の航行予定については事前に海洋に提出済であり、昨今の風潮を考えれば比較的早めの救助が望める状況であった。
　シーホイル号の船長は状況を整理すると、生き残った船員たちを集めて号令をかける。
「皆、よく聞け。現在の状況とこのエリアを考えるに、シーホイル号に残るのは悪手だ。幸いにも、この島は緑の多い場所のようだ。此処には印と手紙を残し、ひとまずの風雨をしのげる場所を探そう……食糧のほうはどうだ？」
「問題ありません。多少海水に浸かりはしましたが、ちゃんと食えます。水とワインも無事です」
「よし、なら各自準備を開始しろ。今日中には仮拠点を設営するぞ」
　言いながらも、船長は仮拠点に関しても然程の労力は必要ないだろうと思っていた。
　どういったものかは不明だが……明らかに何らかの手が入った痕跡がある。
　まあ、今は無人島かもしれないが使える建物などが残っている可能性だって充分にある。
　多少の期間を耐え抜くには充分だと……そう、感じていた。
　……結果から言うとそれは正解でもあり間違いでもあったのだが。

●無人島調査
「シーホイル号が行方不明になりました」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック（p3n000201）はは集まった面々にそう切り出す。
　交易船シーホイル号。海洋から豊穣へ向け出航したその船が消息不明になってより、すでに数日。
　しかし先日、とあるボトルメールが届いた。
　それは消息不明になったシーホイル号の船員からと思われるものであり、彼等はとある島に難破し流れ着いたようなのだ。
　無人島であるらしきその場所だが……どうにも怪しげな気配が漂っており、早めの救助を願いたい、と。
　そんな内容が記されている。
「海流の流れ、日時などより大体の場所は把握できているです」
　恐らくはその場所にシーホイル号が流れ着いた島があると思われる。
　しかし、そこに住人がいたという記録は少なくとも公的には存在しない。
　もし存在したとして相当に昔の話であるだろうし、今は無人島である可能性は非常に高い。
　だが……「何か」が起こっている可能性は否めないだろう。
　それが何かまでは分からないのだが……調査しなければならない。
　もしかすると過去に住んでいた人々の痕跡などがあるのかもしれないし、もっと大きな問題があるのかもしれない。
「……きなくせえ話ではあるです。充分に気をつけていくですよ」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●恐るべき島へ
「近年、海洋の海もだいぶ広がったが…まだこんな場所が残っていたか。なにやらうすら寒いものを背筋に感じるが、まずは行方不明になった船員の救出か」
　見えてきた島を前に、『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ（p3p000066）は船上でそう呟く。
　ダガヌ海域。船が何隻も行方不明になるこの場所にようやく人の手が入った……といえば聞こえはいいが。
　実際には、薄暗い未知へと踏み込む恐ろしい一歩ではあるだろう。
「行方をくらました筈の交易船、救助依頼、無人島……これで何も起こらねぇと思えって方が難しいわな。罠って可能性もありそうだが……ま、とりあえず行かねぇことには何も始まらねぇか。やれやれ……」
　『幻蒼海龍』十夜 縁（p3p000099）はレンタルした船を操船しながら、これからすべきことを考える。
　此処に来る前、自身のコネクションと海洋での名声の高さを活かして港の漁師から件の無人島についての情報を集めていた。
　噂話なり、尾ひれどころか背びれまでついて勢いよく泳ぎ出しそうなジンクスなり、何も知らねぇまま行くよりはマシだろうさ……とのことだが、思ったよりも情報が集まらない……「船がよく行方不明になる場所」という程度しか分からなかったのが、実に不気味だった。
　言ってみれば、縁達こそが生きて帰れるならば初めての「詳細な情報」を持ち帰る者達になる可能性すらあった。
「実に――嗚呼、連中じみた『やり方』だと思わないか。我等『物語』だった頃を想起させる、お約束どもの咆哮だ。宜しい。貴様等が望むならば幾等でも戯れて魅せよう」
　第四の壁と同一奇譚を発動させる『同一奇譚』オラボナ＝ヒールド＝テゴス（p3p000569）は、此処ではない何処かに話しかける。
「GM(ゲームマスター)！！！　其処の貴様、奴等は何処に在る」
　勿論、答える声などあるはずもない。
　波の音がザザザ……と響くだけ。
「難破も大変だし、この海ってなんだかんだ危険が多いしね。船員のヒトたちの安全もだけど、気を付けていこう」
　『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）もそう言いながら、上陸地点を見据える。
　大型船……事前に聞いていたシーホイル号と特徴の合致する船がそこにあるのが見えるが、完全に座礁している。
　良く此処までもったものだという破損具合ですらある。
「行方不明になった人達はできれば早く見つけて生き永らえて欲しいものですが、ここに危険な生物がいるなら、全くの無事とはいかないでしょうね。それはどうしようもないから、遺体を連れ帰って丁重に弔うしかないですね」
「やる事自体は、何度かこなした海難救助そのものなのだが。やはり、ボトルメールの内容が気になるな。怪しげな気配か……。オラボナが何かしら感じているようだが。これは、何かしらの未知に遭遇するパターンもあり得そうだな？」
　『夢語る李花』フルール プリュニエ（p3p002501）と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈（p3p002831）がそんなことを言うのに、『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ（p3p008299）も「コャー」と頷く。
「何事もなければ数日サバイバルはできそうに思われるけれども、どうにも不安になるの。ただ、生き残っているなら早めに探し出したいところなのよ」
　ますます近づいてくる島は、緑も豊富でサバイバルには向いていそうだ。
　だが、なんだろう。得体の知れない不安が沸き上がるような……そんな感覚を胡桃もフルールも感じていた。
「困っている人がいるなら助けよう。それが海洋の国益にもなるならなおさらね」
　『若木』寒櫻院・史之（p3p002233）もそれが当然だと呟く。
「それにしてもダガヌ海域か。一体此処で何が起きたんだ……なんだか神話的な恐怖を感じる島だけれど、今回はホンモノ（オラボナさん）が仲間に居てくれるから心強いね」
「優先すべきは『生き残っている』船員の救助か。常に『後光』を散らす事で此方の存在をアピールするとしようか。その場合『敵対するもの』も此方を『見て』しまうが――我が身としては望むところ。元々『かなり狙われやすい』のだよNyahahahaha!!!」
　実に頼りになる明るさだが、船はシーホイル号の横を通るようにして浜辺に着眼する。
　ギイ……と揺れて音を鳴らすシーホイル号は、それ自体が不吉の象徴のようで。
　史之とフルール、胡桃はファミリアーを呼び出し斥候に使う事にした。
「無人島とは言え、精霊がいないとも限りませんし、精霊がいれば周囲に人がいなかったかとか、人が追いかけられてたとか、行先とか……とにかく情報を得ましょう」
　そう、まずは情報を得なければならない。僅かな不安をそのままに、名もなき島の探索は始まった。

●名もなき島にて
「海岸にシーホイル号が流れ着いているなら、所持品とか匂いが分かるものがあれば、辿る時にやりやすいと思うの。後は船員さんの辿った跡とか見つけられれば、かしら。おそらく、雨風を凌ぐのに建造物跡を利用したと思われるので、その辺りも見つけたいの。もちろん、敵がいるかもしれないので、そこも警戒しつつ明らかにヒトのものではない痕跡とかあればそちらにも注意なの」
　そんな胡桃の示した案はもっともであり、まず最初にシーホイル号の探索が行われた。
　生活に必要な幾つかの物資は持ち出されており、そうではない物資……たとえば持ち運びの出来ない武器、砲弾などは残されたままになっていた。
「手掛かりは、この手紙か……」
　アクセルは船長室に置かれていた手紙を開き、シーホイル号の面々が島の中に仮拠点を作ろうとしていたことを知る。
「シーホイル号にとどまっていないのと、すぐ仮拠点を作ろうとしていたのを考えると島にあって海岸部から離れてない建造物や神殿とかを借りに行ったのは確定、か。そこに隠れているか「なんらかの危険」に会って建造物を離れたかが迷うけど、まず建造物までのところで外を歩いて探索して、手掛かりがなさそうなら建造物を調べるしかないかな」
　シーホイル号に留まらなかったのは、この海域で突然起こる嵐を警戒したからかもしれない。
　海のすぐ側よりは、島の中の方が幾らか安全なのは間違いない。
「雨風を凌いだり、安全を確保するなら目につく建造物跡を順に調べていきゃぁ誰かしら見つかりそうな気もするが……さーて、何が出るかねぇ」
　縁の言うとおり。ならば何処にいるかだが……史之はファミリアーで水場を探そうと考えていた。
「水は生活必需品。飲料水やワインだけでは不足するはず……それにシーホイル号から一度に持ち出せる量はしれている。だから雨露がしのげて真水が手に入る近くに船員はいるはずだ」
　見たところ、小さな川らしきものが流れているのが見える。その近くに人影は、見えない。
　だが、そこを起点にしている可能性はあるだろうか？
「何にせよ、まずは救助対象を迅速に発見せねば話にならん。周囲の様子は広域俯瞰で探りつつ、救助対象の痕跡を探していくとしよう」
　言いながら汰磨羈も広域俯瞰を発動させていく。
「ボトルメールを送る事で早めに救助を呼ぼうとするくらいだ。何かしらの、『私達が救助対象を見つける為の目印』くらいは設置している筈。もしそれが無かったとしても、焚火の痕などの痕跡を辿れば……願わくば、夥しい血痕や死体そのものを見つける羽目にならない事を祈る」
　だが、その願いは通じない。一体のスケルトン兵士が明らかに死んでいる船員らしき死体をザクザクと突き刺している様子が、広域俯瞰の視点に映る。
　それはもう、助ける事は出来ない。出来ないが……そこに急行することはできる。
「貴様、貴様等、真逆、私を迂回(ンカイ)するとは莫迦な事を。贄として、餌として、動きの鈍い『肉』を残すと謂うのか――この愚か者め！」
　付近に急行し辿り着くと同時、オラボナはアムド・コアを発動させスケルトン兵士の前へと躍り出る。
　そんなオラボナにスケルトン兵士は迷うことなく剣を振り下ろし……周囲から現れた他のスケルトン兵士がオラボナへと襲い掛かっていく。
「オラボナの奴、随分と引き付ける気満々のようだな。ならば、私がやるべき事は一つ……！」
　汰磨羈は和魂と荒魂の一部を刀身内へ注ぎ込み、疑似的な太極を生成し、絶照・勦牙無極を放つ準備をする。
「邪魔だ！」
　レイヴンも『ステイシス』を放つが……スケルトン兵士たちはかなりタフであるようで、一撃で倒すことは出来ない。
「近くに船員連中は……チッ！」
　近くに他の船員の死体がある事を縁は見つけるが……血は乾いている。殺されてから大分たったのだろう、元から救えた命ではない。ないが……怒らないわけでは、ない。
「まだ生きてる人はいるはず……なら、此処で！」
　アクセルのルーン・Hが不可避の雹を生み出し降り注ぐ。そこに史之のH・ブランディッシュが命中するが……そこに、無数の触手が襲い掛かる。
「くっ……！」
　距離すら関係なしに襲い掛かってくる触手の先にいたもの……それはタコのようで、明らかに違う何かであった。
　全長２ｍほどの巨体の……タコにも似て、しかしタコではないと本能で理解する類の何か。
　それを前にしてフルールは、油断せずその姿を睨みつける。
「ふむ、タコ……いいえ、違いますね。あの『何か』にスケルトンが従っているのですね。『何か』は死者を従わせる能力があるのでしょうか？　まぁ倒してしまえば問題ないでしょう。オールレンジ攻撃は私と一緒なのだけど、その触手は伸びるんですね？」
　見ていると悍ましさばかりが先に立つ『何か』を前に、精霊天花・焔を発動し紅蓮閃燬を放つ。
「まずはスケルトン兵士から全滅させてやるの」
　オーラクラッシュ・オーバーレイと狂イ梅、毒泉を使用した胡桃のこやんふぁいあ〜が放たれるが……それにしても、何とも怖気を感じる姿か。
　こうして直接見ても「何」であるかを測りかねるというのは、実に恐ろしいものだ。
「っ……文字通りの「名状しがたきモノ」と言ったところか」
「なるほど、オラボナが反応するわけだ。まるで、どこぞの邪神に従う眷属めいた姿だな……！」
　レイヴンと汰磨羈が叫び、縁も青刀『ワダツミ』を構え「忌まわしき蛸の如きモノ」とでも呼ぶべきソレに対峙する。
「何にせよ、此処で倒しておかねえとな……！」
　幾度かの交差の末、ついに汰磨羈の一撃が忌まわしき蛸の如きモノを打ち倒し……そうして、痕跡を辿り辿り着いた神殿のような場所の部屋の中に、生き残った船員が３人いるのを確認できた。
　船長らしき男は……すでに外で殺されていて、船員たちもすでに正気でもないように見受けられた。
　しかし、生きていればいずれ正気を取り戻す事もあるだろう。それよりも……この遺跡は、一体なんだというのか？
「遺跡……とは言われていたが、なんだろうなこの不気味さは」
　レイヴンは言いながら建物材質や壁に文字や絵が掛かれていないかも確認するが……そこには丁度、先程であった「忌まわしき蛸の如きモノ」や、あるいは別の怪物らしきものを描いたかのような壁画が残されていた。
　あまりにも劣化が激しく、どういう意図の絵かまでは分からないが……少なくとも、それなりに根が深い問題である事は確かなようだ。
「ここらの神と言えばリヴァイアサンや"水神様"だが……いや、モスカも宗教系かそういえば」
「あのタコもどきといい、人が住んでねぇことといい……邪教の類じゃねぇといいんだが」
　縁もそう呟くが、この廃墟と化した神殿……のような場所といい、全体的に長居したくない雰囲気が漂っている。
「善き哉！　奥へと踏み込めば『深淵』とでも表現すべきか？」
　オラボナは嬉しそうだが、狂気漂うこの場所は船員たちのように切羽詰まってなければ入る事は通常ないだろう。
「手掛かりは、この絵かあ……」
　アクセルも絵を見るが、そこから何かを読み解くのは非常に正気を削るような行いであるかのようにも感じられた。
「こんなに怪しいのもまた珍しいけど……少なくとも良いモノではなさそうだね」
「そうですね……味方ではないでしょう」
　史之にフルールも頷く。精霊の存在しないこの島だが……この絵に描かれているような存在たちを恐れて近づかないのだろうか、と思わざるを得なかった。
「神殿のように見えて墳墓だったりすることもあるし用途が不明の遺跡は何が出るかわからぬの」
「本当に実在する神を崇めていた、などと言ってくれるなよ。その手の話は、どこぞの真性怪異絡みで腹いっぱいなのだがな？」
　胡桃と汰磨羈はそんなことを言い合うが……少なくとも今調査できる範囲では、この壁画以外に怪しげなものはない。
　あるのは瓦礫のみ。特に持ち帰って調べられるものもなさそうだが……まさか、この瓦礫に大した意味があるというわけでもないだろう。
「オラボナ、御主の感覚はどう言っている？　止せというなら置いていくが」
　そう言いながら汰磨羈はオラボナへと視線を向けて。
「貴様――随分と愉快な物語(ウィアード)だとは思わないか。連中は愉しくも我等と同類か、暗黒に近しい設定を抱えている。ラスト・シーンを先に読み、資料を捲るのも素晴らしい『ゲーム』の在り方だ。貴様の第四の壁も組み込む事で混沌らしさを化身(み)たすとする。おや――これは。貴様が大好きな一般的な、欲有る展開ではないか。Nyahahahaha!!!　さて、読者諸君、我等との同化を――神意を望むべく群がると良い！！！」
　どうやらまた第四の壁をどうこうしているらしいオラボナを見て、しばらくはあのままだろうと放置する。
「とにかく今は戻ろうか。命あっての物種だからね」
　助けた船員のこともある。史之の提案に全員が同意し、名もなき島を離れる。
　此処にかつていたかもしれない「何か」は何を知っていたのだろうか？
　あの壁画の意味は？
　神殿らしきものは実際にはなんだったのか？
　分からない。分からないが……あの怪物が一体ではないだろうことだけは……確かだった。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

名状しがたき怪物との遭遇と戦闘。
その先にあるものは一体何なのでしょうか……？

それでは皆様、次のシナリオでお会いしましょう！