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シナリオ詳細

アルトゥライネル、砂漠の旅路。或いは、月刊ヌーを読んだヘイズル…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大物狩り
 山羊に乗った女が1人、その隣にはパカダクラに乗る小柄な男。
 ラサのどこか、名前も知らぬ砂漠の旅路。
「なぁ、どこまで行くんだ? そもそも、何のために砂漠の旅を?」
 そう問うた男の名前はアルトゥライネル(p3p008166)。
 隣を行く山羊に乗った女……灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫の名はヘイズルという。
 ヘイズルは、赤い瞳をアルトゥライネルへと向けて、はて? と首を傾げたのである。
「どこまで? 何のために? ……うん?」
「うん? うん? って何だ? 俺はアンタから“手を貸せ”と言われてここにいるんだぞ?」
「あぁ、そうだったか。……そうだったか? 気のせいでなく?」
「気のせいでなく。そうだったんだよ。用事が無いなら帰還するが?」
「帰還?」
 ふふん、と得意げに鼻を鳴らして、ヘイズルは両腕を左右へと広げ天を仰ぐ。
 空高くには燦々と輝く大きな太陽。
 右も左も、見渡す限りの砂の海原。
 人の姿も、動物の姿も、街や都市の影さえない。
 あるのはサボテンと、骨になった何かの遺体ばかりである。
「砂嵐に飲まれ、方位磁石も地図も失い、食料はそもそも用意していない。残ったのは己の身体と山羊と……それは何だ? ラクダか?」
「パカダクラだ。従順で強靭、のんびり屋。しかし軍馬に勝るとも劣らない騎乗動物だよ。むしろ俺たちからすれば、山羊に乗っている奴の方が珍しい」
 はぁ、とため息を1つ零して、アルトゥライネルは視線を足元へと落とす。
 頬を流れた汗が1滴、砂に黒い染みを作った。
「アンタ本当に、何の用事で俺を連れ出した?」
「いや。知った顔だったからな。思い出したが……狩りに行くのだった。狩りなら知り合いに声をかけるのは当然だろう? なにしろ狩りは祭りだからな」
「…………」
 知らない文化の話をされても困るのだ。
 言ったところで、意味はないのは重々承知しているか。

 ヘイズル。
 アルトゥライネルとは、これまで数度、依頼の中で顔を合わせた既知である。
 ラサの砂漠の遥か果て、終わらぬ砂塵を超えた先にある未開の地より来た女。世界を知るべく、己の故郷を旅立って、ラサの地で新たに己自身の力で部族を立ち上げるつもりであるという。
 そんな彼女と、偶然に街で顔を合わせた。
 急いでいる風だった彼女はアルトゥライネルを認めると「話は後だ! 手を貸せ! 砂漠へ出るぞ!」と半ば強引に彼を連れ出したのである。
 緊急事態かと、パカダクラを駆り砂上を走った。
 数時間ほど走った先で砂塵に飲まれ、地図と荷物を失った。
 何の目的で砂漠へ出たのかも分からないまま、こうして2人は遭難者へと成り果てた。
 事の経緯を説明するなら、以上のようなものとなる。

「まぁ、いい。それで、狩りとは一体、何を狩るんだ?」
 帰り道が分からないなら、ヘイズルの目的だけでも達成したい。
 さもなくば、何のために砂漠を彷徨い歩いているのか、いよいよもって分からないからだ。
 そう考えて、アルトゥライネルはパカダクラを停止させた。
 同じように山羊を停めたヘイズルは、懐から1枚の紙片を取り出す。どうやらそれは、雑誌の切り抜き記事らしい。
「狩るのはこれだ。砂漠を這うワニの魔物。なんでも遥か太古に滅んだ名も無き都市を巣にしており、人前に姿を現すことはまれらしいのだが、つい最近になって目撃情報が相次いでいるらしい」
「……それを狩ってどうする?」
「大物狩りはバロメットの誉れだ。新たな集落を起こすに辺り、族長たる私にも1つ箔が欲しいところだろう? ついでに、巣にしているらしい都市とやらも奪えれば、そこを新たなバロメットとする」
 バロメットとは、ヘイズルの故郷の言葉で“集落”や“部族”を意味するものだ。
 愛用の銃を指さして、ヘイズルはにやりと笑ってみせる。
 だが、アルトゥライネルはヘイズルの言葉に素直に頷けないでいる。
「その雑誌の名前は?」
「月刊ヌーだが?」
 一部の好事家に愛読され続けている、オカルト雑誌の名前であった。

●5日後、夕暮れ
 五日。
 朝露で渇きを潤し、砂漠で見かける蛇やトカゲ、サボテンなどを口にして、2人はどうにか生き延びていた。
 月刊ヌーの信憑性も定かではないオカルト情報だけを頼りに、ワニの魔物を探す旅路も、気づけば長く続いたものだ。
 その甲斐あって、2人はついにワニの魔物の痕跡らしきものを見つける。
 砂漠に残された巨大な足跡。
 尻尾を引き摺ったような痕跡。
 そして、胴体の一部を食いちぎられたサンドワームの渇いた死体。
「ヌーには何とあった?」
「全長はおよそ5メートルから8メートル。【ブレイク】【必殺】【滂沱】を備えた顎と爪に、獲物を遠くへ弾き【飛】ばす強靭な尾を持つという。知性は高く、簡単な人語を理解する魔物だとか……それから、狩りをするのは決まって住処の直上らしい」
「住処の直上ということは、この地面の下に名も無き都市があるのか?」
 何度も言うが、信憑性は定かではない。
 だが、ここまで来て引き返すの負けた気がするし、何よりヘイズルがやる気に満ち溢れている。
 既知の女性を見捨てて1人、帰還するのも気が引けるのだ。
「名も無き都市の特性は? 何か書いてあったか?」
「酸素が薄く、天井が低い都市とある。空気は【毒】に汚染されていて【窒息】の危険もあるとか。空気に関しては天井に穴を空ければ、どうにかなると思うか?」
「ワニに見つかるだろうがな」
「望むところだ。よし、アルトゥライネルよ、気合を入れろ。狩りの準備は万全か?」
「万全ではない。2人だけでやるのは危険すぎるだろうが」
 貸せ、とヘイズルの手から月刊ヌーを横取りし、該当の記事に目を通す。
 書かれている内容は、先ほどヘイズルが口にしたそれと同じ。
 追加の情報と言えば、名も無き都市の道路は全て黄金で、並ぶ家屋は古い時代の生物の骨で出来ているという点ぐらいか。
 そんな都市に、ワニの魔物は住みついているのだ。
「まずは地下へ降りる方法を探す。それからワニの倒し方も決めておくべきだろう。後は頭数が必要だが……」
「それなら、ほら。あっちに人影が見えるぞ。彼らを誘ってみよう」
 そう言ってヘイズルは、砂漠の向こうを指さした。
 そこには数人分の人影。
 遭難者か。
 それとも、遭難したアルトゥライネルとヘイズルを、探しに来た者たちか。

GMコメント

こちらの依頼は「囚人護送任務発令。或いは、砂漠の奥から来た女…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7464

●ミッション
ワニの魔物の討伐

●ターゲット
・ワニの魔物×1
月刊ヌーに存在が示準されていた巨大なワニの魔物。
砂漠の底にあるという名も無き都市を住処にし、都市の上を通りかかった獲物を襲う習性がある。
体長は5メートルとも8メートルとも言われている。
見た目の割に知能が高く、人語を理解するという。

爪や牙による攻撃は威力が高く【ブレイク】【必殺】【滂沱】が付与される。
尻尾による殴打を受ければ、幾らかのダメージと【飛】を受ける。

●同行者
・ヘイズル・アマルティア
灰を被ったようなウルフカットの髪型と、その両脇から伸びた捻れた角が目を引く女丈夫。
砂漠の奥深く、砂塵を超えた先にある未開地よりやって来た。
身体能力は高いが、常識に欠ける。
砂ワニの討伐と、集落候補地の下見を目的に砂漠へと出かけた。
また「気に入ったものがあれば持ち帰る」主義。

●フィールド
ラサ。砂漠の果て。
見渡す限り一面の砂。
しかし、砂の下には名も無き都市が眠っている(と、月刊ヌーには書かれている)
都市の道は黄金で、都市の家屋は古い生き物の骨で出来ている(と、月刊ヌーには書かれている)
都市の天井は低く、高く飛んでも砂ワニの攻撃から逃れられるほどではないだろう。
また、都市の空気は淀んでおり【毒】【窒息】が付与される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 

  • アルトゥライネル、砂漠の旅路。或いは、月刊ヌーを読んだヘイズル…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神
アインス・レオ・ロクシナ(p3p010707)
幻想の冒険者

リプレイ

●砂漠の果て
 燦々と降り注ぐ陽光。
 乾いた砂が、風に煽られサラサラと舞った。
「太古の地下都市ねぇ。聞くからに眉唾だが魔物の話は合っているときたか。分かった、ここまで来たんだし手伝うよ」
「そうか……はあ、助かった。いやまだ助かってはいないし、いっそここからが本番だが」
 『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の手から保存食と水を受け取り、『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)は盛大な溜め息を吐いた。
「まぁとにかく! 見つかってよかったのですよ! これで一緒に帰れ……ないのでもう一回遭難出来るのです」
 『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は、砂の上にシートを広げてお茶とお菓子を用意している。彼女のギフトによるものだ。よほどに飢え渇いていたのだろう、ヘイズルは早速、シートに座って紅茶とクッキーを摘んでいる。
 遠慮もなにもあったものではないけれど、ルシアの機嫌は良いみたいなので問題はきっとないのだろう。
「でももう飢えも乾きも気にしなくて大丈夫でして!」
「うん。頼りになるな! では、いざや地底へ赴こう!」
 辺境より来た獣種の女・ヘイズルによって、アルトゥライネルが街から彼が連れ去られたのは数日前。そのまま帰ってこなかったことにより、ラダをはじめとした捜索隊が編成された。捜査の果てにヘイズルとアルトゥライネルを発見したのだが、本当の事件はここからだった。
 2人が探しているのはオカルト雑誌“月刊ヌー”に記されていた砂漠の地底都市である。その手掛かりを発見し、いざや調査という段階でイレギュラーズの捜索隊と合流したというのが事の顛末である。
「砂漠っていろんなの埋まってるよな。俺が住んでたところとかもまさか砂漠に……はならねぇか」
「砂漠の隠された都市か。冒険心が唸るな」
 突発的な残業ではあるが『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)と『奏で伝う』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は乗り気のようだ。
 地底遺跡の調査などは慣れたものだ。つい最近は、空に浮かぶ島の調査などにも手を出している。
「砂漠に隠された都市なんて冒険心ワクワク、ってものだわね。化け物以外にどんな品物が出てくるか物凄く楽しみだわ!」
 サンドワームの遺体を見やり『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はそう言った。
 干からびた遺体の胴には巨大な歯型が残っている。
 地底都市に住まうワニの魔物に齧られたのだ。
「未だ発見されていない古代の遺跡、ですか。何とも夢のある話です」
 月刊ヌーの頁を捲り『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は頬を緩めた。
「なんだ? 笑っているのか? 興味があるのか? お前も私のバロメットに入るか?」
「ふふっ、笑っているのではありませんよ。僕はそういったロマンに満ちた話は好きな方です」
 乾いた砂へ手を触れて、ハインは地面へ視線を落とす。
 この大地の下に、黄金と骨で出来た都市があるという。そして、そこには巨大なワニの魔物が住まう……嘘か真か、これまでそれを調べ尽くした者はいない。自分たちがその第一人者になれるのかと思えば、それなりに胸が高鳴る気もする。
「俺は呼吸を必要としないので、多分毒と窒息にはならない。地下はそう言う場所なのだろう?」
『幻想の冒険者』アインス・レオ・ロクシナ(p3p010707)がそう告げて、懐から魔本を取り出した。
 いざ捜査開始。
 まずは、地下へと降りるルートの確立だ。

●名も無き地底都市
 砂漠の上を歩き回った。
 地下へと続く出入口を見つけるためだ。
 サンドワームの遺体を中心として、ヘイズルを含めた9人が砂漠へと散らばる。
 右へ左へ……己の勘や、色彩感覚、音を頼りに調査を続け……気づけば全員が、同じ位置へと集まっていた。
「この辺、砂の色が違うよな?」
「苔……か何かの声が聞こえた。多分こっちの方からだな」
 サンディとアルトゥライネルが言葉を交わす。
 2人の言っていることが理解できないのだろう。何となく集まって来たヘイズルが、脚の蹄で砂を蹴り上げる。
 ざ、っと砂が撒きあがり風に吹かれて流れて行った。
「掘るのか?」
「ならば行き方はルシアにお任せでして!」
 ふわり、と地上へ降り立って。
 狙撃銃を取り出して、ルシアはその銃口を地面へ向ける。
 りぃん、と空気の震える音。
 魔力の光がルシアの銃へ集まっていく。
 地面へ向けて魔砲を放つつもりだろう。なるほど、それなら確かに地面に穴が空くと思われるが、一緒に自分たちも落ちてしまわないだろうか
「待て。頼むから……可能ならワニは地上で幾らか弱らせたい」
「……あっ、ダメですよ? 分かったのです」
 慌ててラダがルシアを止める。
 地下都市の空気は淀んでいるのだ。何の対策もないまま落ちてしまえば、悲惨なことになりかねない。
 それに、落ちた先にワニの魔物がいないとも限らないのだ。
「月刊ヌーの記述は眉唾ものですが、名も無き古代の遺跡が存在することそのものは事実のようです。もしかしたら、古代のお宝が眠っていたり、歴史的な発見があるかもしれません」
 ハインの憶測が当たっているかは定かではない。
 しかし、万が一にも歴史的な価値の高い物があったのなら、魔砲で穴を空けるのは悪手だ。貴重品を壊してしまう可能性もある。
「音で誘き出してみよう。ルシアにも手を貸してもらう」
 ラダとルシアが、銃口を空へと向けた。
 撃ち出されたのは音響弾と破式魔砲クラッカーだ。ひゅるる、と空へと上がったそれらが、爆音と閃光を撒き散らす。

 地面が揺れた。
 継続的な長い揺れ。一定のリズムで大地が震え、それは次第に大きく、近くなって来る。
「離れろ!」
「何か来るのだわ!」
 サンディとイナリが同時に叫ぶ。
 サンディはアルトゥライネルを、イナリはハインを脇に抱えてその場を離れた。
 直後、爆弾でも落ちたみたいに地面が揺れて、津波のように砂が飛び散る。逃げ遅れたヤツェクとアインスが砂に飲まれる。
 地下から現れたそれは、巨大なワニだ。
 頭から被った砂が、ゴツゴツとした体表を流れ落ちる。
「やっぱそこだったか」
 地下へと続く、通路は坂になっているらしい。
 入口は砂に埋もれていたのだ。
 体長は8メートルに近いだろうか。地上へ飛び出して来た砂ワニは、動きを止めて視線を左右へ巡らせた。
 轟音を聞きつけ、様子を見に出て来たのだろう。
「これは、地下都市ありますね……少なくとも、危険な魔物の存在が確定した以上、それが根城にしている棲家の存在もまた然りです」
「弱らせるんだっけ? じゃあ逃がしちゃならねぇよな! おら、こっちだ!」
 ハインをその場に残して、サンディは駆ける。
 砂の大地は走りにくいが、砂ワニの巨体を撒く程度のことは十分に可能だ。体格差もあり、牙や爪、尾の一撃を受ければダメージは大きいだろうが、多少の傷なら慣れたもの。今更臆する理由もなかった。
 サンディの声を聞きつけて、砂ワニが移動を開始した。
 1歩、太い脚で地面を踏み締める度に辺りが揺れる。
 横薙ぎに振るわれた爪を、サンディは地面に伏せて回避。
「敵真正面から攻撃しろ。ワニはそこが死角と聞いた事がある」
 ライフルを構え、ラダは言う。
 狙いを定め、引き金を絞った。
 銃声が1つ。
 火薬が爆ぜて、撃ち出された弾丸は空中で孕んだ魔力の奔流を解き放つ。黒い魔力の濁流が、砂ワニの鼻先を撃ち抜いた。
 硬い皮膚が爆ぜ、肉片と血が飛び散る。
「体が大きすぎるな。今のでも、肉の一部を抉っただけか」
 砂ワニの背を駆け抜けながらアルトゥライネルはそう告げた。
 魔力を孕んだ長布を一閃。
 硬い背へと叩きつけるが、皮膚に小さな傷が刻まれるに終わる。
 サンディが注意を引き付けている間が勝負だ。
 その間に、どれだけダメージを負わせられるか……叶うのならば、地上で決着を付けてしまいたいところだ。

 爪の端がサンディの背を切り裂いた。
 飛び散る鮮血。
 姿勢が崩れたその直後、空気を押し退け大質量の尾が迫る。ゴツゴツとした尾に打ちのめされて、サンディの身体が地面を転がる。
 砂を撒き散らしながら転がったサンディは、どうにか姿勢を立て直す。その額から顎にかけて、だくだくと血が流れている。
「サンディさんは治療を!」
 ハインが叫ぶ。
「あ? 引き付け役はどうするんだ?」
「おれに代われ。老骨ではあるが、人間だしな。食いものには違いないだろ」
 サンディに代わって、ワニの引き付け役を買って出るヤツェク。砂を押し分け、這い出して来たのだ。
 ギターをじゃらんと掻き鳴らし、光線にも似た魔弾をワニへと撃ち込んだ。
 ワニの視線がヤツェクへ向く。
 地面を揺らし、ワニが身体を反転させた。
 その後頭部へ、ラダやハインが魔弾を撃ち込む。
「っと……走り出すと駄目だな」
 ワニの背から、アルトゥライネルが飛び降りる。
「アルトゥライネル君もこっちへ。治療する」
 サンディの治療をするために、アインスが後衛へと駆けていく。
 燐光が散って、まずはアルトゥライネルの傷を、次いでサンディの傷を癒した。

 ワニの動きは単調だ。
 けれど、知能が高いのか絶妙に回避しづらいタイミングで爪や尾を振るうのだ。
 そして、姿勢が崩れたところで……顎を開けて、喰らい付く。
 だが、しかし……。
「いい位置だ」
 ヤツェクが、片手をあげて合図を送った。
「外皮がいくら硬くても……眼球はそうじゃないはずなのだわ!」
 ワニの尾から、背へと向けてをイナリが駆ける。
 1歩、2歩と進むたびにイナリの走る速度があがった。飛ぶような速さで、あっという間にワニの顔の位置へと到達。
 駆け抜ける勢いそのままに、眼球へ向け逆手に構えた小太刀を一閃、叩き込む。
 ザクン、と肉の避ける音。
 悲鳴をあげて、ワニが身体を仰け反らせた。
 がむしゃらに振り回す尾に打ちのめされて、イナリの身体が地面へ落ちた。落下したイナリを放置して、ワニは砂を掘り始めた。
 眼球への攻撃は、ワニにとって想定外のものだったのだろう。
「地下都市へ逃げるつもりだ! 止めろ!」
 ラダの号令が響く。
 直後、空気が大きく震えた。
 放たれた魔力の砲が、地面を抉り突き進む。
「ひたすら破式魔砲でして!」
 1発。
 2発。
 続けざまに、魔力の砲を浴びながらワニは地下へと潜っていった。

●名も無き地下都市
 淀んだ空気に満ちていた。
 黄金の通路に、巨大な生物の骨で出来た家屋。
 それから、地面には血の痕跡。
 ワニは都市の奥へと逃げて行ったようだ。
「俺は呼吸を必要としないので、多分毒と窒息にはならない。暗視も少しできるので暗い都市内もある程度見えるだろうが……皆はどうだ?」
 口元を押さえアインスが問うた。
 直後、辺りに淡い魔光がふわりと飛び散る。
「これで大丈夫のはずです。探索しましょう。どんな住民がどのような生活を送っていたのか、非常に興味深いですから」
 ハインのサポートから外れないよう、一行はひと塊に都市の奥へと目指して進む。

「黄金の道は、まあ……大体は偽物だな。本物は……稀にあるか? 何かイイ物があったならば、ある程度確保して持ち帰りたいが」
「面白そうな品物を見かけたら声をかけてほしいのだわ。鑑定できるので」
 入れるし、と建物の壁に手を触れてイナリは言った。
 ヤツェクの目の前で、イナリの腕がするりと壁の内へ沈んでいく。物質を透過し、建物の内部を覗いたイナリはそこでピタリと動きを止めた。
「どうした? 罠でもあったか?」
 サンディが問う。
 建物から顔を抜いたイナリは、目を閉じて横に首を振った。
「……干からびた遺体があったのだわ。家族かしら、寄り添うように」
「都市が砂に沈んで、外に出られなくなったのかな」
 住人たちは、最後の時を家族で寄り添って過ごすことにしたのだろう。
 すでに何百年、或いは千年以上も昔の話だ。
 それは、遠い昔に滅んだ都市の最後の記憶……。
「どうだ、ここは。バロメットになりそうか?」
 アルトゥライネルは、ヘイズルへとそう問いかけた。
 ヘイズルは一瞬の間も置かないままに、首を横へ振った。
「いや。ここは彼らの都市で、墓所だ。私たちが暴き立てていい場所ではないだろう」
「もーちょっと空気がよけりゃ涼しそうでいい立地の中継都市とか、隠しアジトとかにも出来そうなんだがなぁ。惜しい……いやなんでもねーよ!」
 人知れず、砂漠の地下にある都市だ。
 隠れ家には持ってこいだろうが、どちらにせよ澱んだ空気をどうにかせねば、利用することは出来ないだろう。
 けほ、と1つ咳を払って、サンディは通りの奥へ視線を向ける。
 そこには、ぐったりと地面に横たわる巨大なワニの姿があった。

「都市の破壊も少なく済めば……と贅沢か?」
 長布を垂らし、アルトゥライネルはそう言った。
 誰も彼の言葉に否を唱えはしない。
 魔砲を撃とうとしていたルシアさえ、引き金にかけた指を止めたほどである。
「撃ちまくるのは止めておいた方がいいのですよ? 撃っていれば建物も崩れて、逃げられなくなるですよ?」
「壊してしまうのはしのびないですからね」
「せめてワニを持ち帰ろう。財布、バック、はたまた鎧に出来たらいいが」
 どちらにせよ、ワニは既に満身創痍。
 仕留めるのに、大した労力は必要ないだろう。
 ハインは大鎌を掲げ、アインスは手に持つ本を開いた。
 辺りへ飛び散る燐光が、仲間たちの傷や気力を回復させる。
 2人の魔力に反応したのか。
 手負いのワニが身を起こす。

 咆哮と共に、ワニが通りを疾駆する。
 振り回す尾が建物を砕き、黄金の道を深く抉った。
「うわっ……!?」
 飛んで来た土砂に足を潰され、アインスが地面に倒れ込む。
 その眼前を傷だらけの尾が一閃。
 衝撃に、土砂ごとアインスが後方へ飛んだ。
「右目が見えていないのだろう?」
 ワニの右方向へ、ラダとイナリが回り込む。
 一方、サンディとヤツェクはワニの左へ。
「こっちだ、こっち!」
「おれたちは、そう易々とは落とされんぞ」
 唸り声を零したワニが、顔を左へと向けた。
 刹那、ラダが銃弾を放つ。
 意識外から撃ち込まれた弾丸が、ワニの左目を射貫いた。
 飛び散る鮮血。
 地下都市を震わせる咆哮。
 手足や尾を振り回し、暴れるワニの足元へイナリが滑るように駆け寄る。
 逆手に構えた小太刀を一閃。
 ワニの右脚を斬りつけた。
 腱を切断されたのか、ワニの巨体が地面に倒れる。
 頭の位置が低くなれば、ワニはもうおしまいた。
「いけ!」
 ワニの口を、アルトゥライネルが長布で縛る。
 その眼前に、ヘイズルとルシアが迫った。
 ヘイズルの蹴りが、ワニの眉間に叩き込まれる。硬い皮膚が削がれ、血と肉片が辺りに飛び散る。
 傷口へ、ルシアが狙撃銃を突きつけ……。
「これならもう逃げられないのでして!」
 轟音。
 魔力の砲がワニの頭蓋を撃ち砕き、脳漿を辺りへ飛び散らす。

 ワニの遺体を引き摺って、一行は都市から外に出た。
 名も無き地下都市の存在は、ワニがいなければ誰にも見つけられることはないだろう。
「いずれバロメットを率いる次期族長殿に進言だ。誰かを伴っての狩りは命を預かるのと同義だ」
 ワニの皮を剥ぎ取りながら、アルトゥライネルはそう告げる。
 ヘイズルは黙って、彼の話を聞いていた。
「大物ならば特に、目標を周知し編成を組むのが最善だと俺は考える」
「……提言、傷み入る」
 ヘイズル1人では、地下都市は見つけられなかった。
 ワニを倒すことも出来なかっただろう。
 単身、故郷を離れたことで、幾らか焦りと不安もあったのかもしれない。
 それが彼女の心から、余裕を奪っていたのだろう。
「仲間を集めねばならんな。それから、バロメットの候補地も選び直しだ」
 なんて。
 月刊ヌーの頁を捲り、ヘイズルは言う。
「まぁ、少なくとも、その雑誌はイマイチ信憑性に欠けますので」
 参考にしない方がいい。
 ハインの言葉に、ヘイズルは「なぜ?」と首をかしげた。
 ひょっとすると、オカルトの概念をヘイズルは理解していないのかもしれない。

成否

成功

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

状態異常

アインス・レオ・ロクシナ(p3p010707)[重傷]
幻想の冒険者

あとがき

お疲れ様です。
名も無き地下都市の調査は終わり、大物狩りも達成されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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