PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<真・覇竜侵食>刃軋る音、無情の蒼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 かあさん。とうさん。あと兄弟姉妹とか、友達。
 そういう存在ってとても大事なんだ。そう知っている。
 一緒にご飯を食べたり、寝たり、遊びに行ったり。一緒に一つのことが達成できたらすごく嬉しい。
「かあさん、次はどれくらい捕まえられるかな」
「どうかしら。たくさん捕まるといいわね」
 『かあさん』の姿をしたモノがそう言って笑うから、『僕』の姿をした僕もうんと返して笑う。

 元気なヤツがいい。きっといい兄弟になるから。
 気概のあるヤツもいい。きっと信頼できる友達になるから。

 ああでも友達はたくさんほしいな。友達が両の手で数えられないくらいできたら、皆で武器を持って、また友達を探しに行こう。増やして増やして増やして増やして。そうしたら世界中が友達であふれかえるんだ。
「かあさん、僕あっちに行ってみる。手分けをしたほうがたくさん捕まるんじゃない?」
「そうかしら」
「そうだよ!」
 子供が自身満々にうなずいてみれば、母は心配ながらもその背中を押したくなるものなのだと知っている。だから母はその『知識』のままに頷いて、それからそういう時にいうべき言葉を吐き出した。
「気を付けていくのよ」
「はーい!」
 任せてよと言いたげに手を振る子供。その背中を見送って、母はじゃあと別の方向へ視線を巡らせた。



 覇竜領域に現れた、強固なる外骨格を持ったアリ――アダマンアント。彼らは三大集落に迫る規模を持っていたイルナークを滅ぼし、モンスターや亜竜たちを襲撃し、さらには小集落から誘拐などを行った。しかし彼らを統率するアダマンアントクイーンは亜竜集落ウェスタにて撃破され、ウェスタもまたイレギュラーズたちの活躍により犠牲を出さず危機を乗り越えた。

 ――はずだった。

「アンティノア、か。まさか攫われた者がこうなるとは……」
 フリアノンを訪れた『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は険しい表情を浮かべ、頤に指をあてた。
 アダマンアントたちが活動を広げていく中、去られた亜竜種たち。彼らが今どうしているのかという答えがそこにあった。
 誘拐した亜竜種たちに『帝化処置』なるものを施し、生まれた存在。本人と似て非なるモノ。彼らのトップに君臨するアンティノアクイーンは侵食計画の発動を宣言し、イレギュラーズへも書状を送っている。
 すなわち、中立関係でいたくば邪魔をするな、と。
「貴殿らは、そのような言に乗るつもりはないのだろう」
 フレイムタンの視線がイレギュラーズたちへ向いて。それから小さく笑う。問うまでもなかっただろう。
 アンティノアたちが行おうとしているのは、さらに人を誘拐して仲間を増やす行為だ。非人道的なことを許せるわけもないだろう。
「我も行こう。この状況、人が余るということはなかろうよ」
 亜竜集落は三大集落だけではない。各所の狭く小さな安全地帯に人々の営みが存在する。そういった場所ならば、三大集落を襲うよりもずっと簡単に誘拐できるだろう。
 立ち止まっている暇はない。フレイムタンを含むイレギュラーズたちは、急ぎ装備を整えるとフリアノンを飛び出した。

 集落の外は山岳地帯が広がり、ひゅうと風がうなり声をあげる。空の見える此処はすでに安全地帯にあらず――亜竜たちが獲物を今かと待ち受けている、危険な場所だ。
 しかしイレギュラーズは彼らの眼に止まらぬよう、岩場の影などを利用して慎重に、しかし確実に歩を進めていく。ここで亜竜の妨害を受けるわけにはいかない。
 その時、気づいたのは誰だったか。
「人……?」
「……いや、気をつけろ」
 つぶやかれた言葉に少しばかりの躊躇ののち、首を振ったフレイムタンの目元が険しくなる。
 アンティノアは人の形をしているという。ただ人だから味方であるという断定はできないのだ。
 一同が身を潜めて観察するうちに、ぽつんと立っていた――小柄だから、子供だろうか――人影のそばに、アダマンアントが現れた。誰かが息をのみ、誰かが守らんと飛び出そうとした直前、人影はアダマンアントたちを振り返って笑顔を浮かべた、ようだった。
 アダマンアントたちも人影を襲うことはない。誰かがアンティノアか、と呟いた。
 アンティノアであるならば、早急に撃退、あるいは撃破しなければいけない。野放しにしておけば人をさらい、仲間にしていくはずだ。
 イレギュラーズたちは気づかれないように、そっと戦闘態勢をとった。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃退、あるいは撃破

●情報制度
 このシナリオの情報制度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●フィールド
 フリアノンより少し離れた山岳地帯。大小さまざまな岩がごろごろと転がっており、足場はよくありません。
 快晴で天候の不利は受けませんが、亜竜に見つかる可能性があります。
 少し移動した先にはいくつかの小集落が存在します。
 皆様の隠れる岩場から、エネミーたちまでの距離はおよそ50mほどになります。

●エネミー
・アンティノア『蒼玉』
 アンティノア・ファーストと呼ばれる者のひとり。誘拐された亜竜種が『帝化処置』を受けて生まれたアンティノアです。
 その姿は活発な少年そのもので、会話は可能です。むしろ嬉々としてお喋りに興じてくれるかもしれません。皆さんは『彼の知識』にないものをご存じでしょうから。
 彼は家族や友人は大切で、いるのは良いことだという知識を持っています。だから人を誘拐して家族や友人にするのは悪いことではないのです。アンティノアクイーンの指示はそういった関係のアンティノアを増やせることなのだと思っています。敵ですが、元となった人物ゆえか子供っぽく感じられるでしょう。
 彼は非常にすばしこく、素手による打撃や喧嘩殺法に優れています。【スプラッシュ3】を持ち、【乱れ系列】【麻痺系列】の攻撃が想定されます。その他の攻撃方法については不明です。

・アダマンアント
 蒼玉に従うアダマンアントです。強固な外骨格を持ったアリで、しゃべることはできません。
 強力な酸を飛ばしたり、爪で攻撃してきたりします。また、四肢が刃のように鋭くなっており、触れるとダメージを受けます。
 その外骨格を生かした防御に長けており、時には捨て身で強力なタックル攻撃などをするでしょう。
 また、粘着質な粘液を放ち、一定時間、特定の範囲に【泥沼】BSを確定で付与することができます。【飛行】による低空飛行でのみ、これを回避することが可能です。

●友軍
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年です。以前の依頼にて、アダマンアントに襲撃される小集落を他のイレギュラーズとともに救ったことがありますが、その際に誘拐されたものを取り返せなかったことが心に残っています。とはいえ、このまま放置しておくわけにいかないことも理解しています。
 物理アタッカーでそこそこ戦えます。指示があれば従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 アンティノアもアダマンアントも、放置すれば小集落へ向かってしまうでしょう。止めてください。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <真・覇竜侵食>刃軋る音、無情の蒼完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エーミール・アーベントロート(p3p009344)
夕焼けに立つヒト
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼

リプレイ


「あれがアンティノア……」
 岩場の向こう側に見える人影に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が目を凝らす。こうしてみるとただの少年のようだが、よくよく見れば蟻の特徴を多少は残しているのか。
「でも、普通の男の子に見えるよ」
「見えるだけだ」
 惑わされてはいけないと首を振る『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の言葉は、自身へ言い聞かせるようにも聞こえる。たとえ自分達と同じように見えても――例えば人間種と幻想種のように――種族としては別個なのだ。
「結局のところ、あれは蟻で殺せばいいんだろ?」
 さっさとやろうぜ、と『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がトラップを仕掛けながら告げる。ここまで誘導できなければ不発に終わるが、うまく誘導して起爆できれば御の字だ。
 いかに人の姿をしていても、中身が蟻なのだと知れれば嫌悪感が先立つ。たとえ彼らがこちらに被害を出すことなく共存の道を取ったとしても、バクルドは生理的に近づけなかっただろう。下手に共存するより、今のように敵として定めている方が気は楽かもしれない。
「けれど、ただの蟻じゃない……もうこれは普通の生物がやる事じゃない」
 静かに呟いた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は自らに強化を施し、岩場越しに"敵"を見る。
 彼らは拐われた者ではなく、共存相手でもなく。止めなければならない敵なのだ。
 今、彼らはこちらに気づいていない。アンティノアが一方的に喋る形で、1人と2体は話をしているようだった。イレギュラーズたちは呼吸を合わせ、一気に彼らへと肉薄する。
「!?」
「こんにちは。なんと呼べばいいかな?」
 終焉の帷が戦いの始まりを告げる。イズマの問いかけにアンティノアは思わずと言ったように「蒼玉!」と答えてからぱっと口元を押さえた。
「知らないヒトに名前を教えちゃダメなんだった!」
「蒼玉君だね? 悪いけど、君たちの思うようにはさせられないよ!」
 焔の手に顕現した炎の槍がひと思いに投擲される。ビュン、と風を切ったそれを追うように『竜剣』シラス(p3p004421)が駆け――蒼玉の脇を通り過ぎた。
「先にデカい図体、解体してやるよ」
 彼が狙うのはアンティノアではなく、2体のアダマンアント。強烈な竜撃の一手から間髪入れず、密着するように接近したシラスは蟻の外骨格――その継ぎ目に狙いを定める。
(確かに外骨格は強靭だ。でも均一じゃない)
 ならば攻撃を当てるべきは弱い部分と、シラスの手刀がめり込んだ。痛みに暴れるアダマンアントから飛び退くと、入れ替わりにバクルドのプラチナムインベルタが敵一帯に降り注ぐ。
「蒼玉、よろしくね! 強いならオレと戦ってよ!」
 乗り込んだ『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が楽しそうに目を輝かせる。アンティノアという種は、一体どれくらい自分と渡り合えるのだろう――否、どの程度自分"が"渡り合えるのだろう!
 イグナートが攻め立てる後方から、『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)のアンジュ・デシュが蒼玉を翻弄する。さすがアンティノアと言うべきか、イレギュラーズたちが低空飛行で以て対策してきた足場をものともしない。
 けれど。
「蟻帝種かぁ。凄い勢いで蟻達は進化してるよね」
 蒼玉がはっと振り返る。岩場の影から現れた『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)の指先から淡く光る糸がしゅるりと泳ぐ。
「場合によっては、共存も可能だったかもしれないけど」
 糸が蒼玉へと、意志を持って向かっていく。その体を絡みとり、縛り付けようとするように。
「止まらないなら――わたし達も手加減できないよ」
「止まる? そんなことするわけないじゃん! 僕たちはたくさん家族や友達を作らないといけないんだよ」
 蒼玉はきゃらきゃらと笑いながら糸をくぐり抜けていく。その言葉が『夕焼けに立つヒト』エーミール・アーベントロート(p3p009344)には理解できなくて。
「どうして、家族や友達を作るのですか?」
「だって大切なものでしょ? たくさんいるのは良いことだよ!」
「何故?」
「何故って、」
 畳み掛けるエーミールに蒼玉は困惑の色を浮かべる。だって、そういうものだから。そういう知識として知っているから。
「貴方が攫った人々にも、家族や友人がいたのです。その人にとってはとっても大切で、いるのは良いことでした。……けれど、貴方にとっては?」
 知識を持っている蒼玉にとって大切だったのではなく、その知識を持っていたドラゴニアにとって大切なものだったはずだ。
「人を攫ってまで増やして、その人の家族や友人がどう思いますか。貴方1人の思想で、かき乱して良いものではないのですよ」
「それなら、その人の家族や友達も一緒にこっちに来れば良いんだよ。みんな幸せでしょ?」
「そうではなく――」
「僕にとってもちゃんと『大切』だよ。一緒にいてほしいし、同じことを一緒にできたらうれしい。そういうことだよね」
 エーミールは思わずつきそうになったため息を飲み込んだ。彼は彼なりに大切にしているのだろう。仲間を増やさないという選択肢はないようだが。
(家族や友人は大切、か……)
 エーミールとて覚えがないわけではない。元の世界では沢山の兄弟がいた。死を間際まで近づけていたし、そこから生き延びたもの者も少ないけれど――こんな体の自分が何を今更とも思うけれど。
 それでも、人を攫ってまで仲間を増やす行為を、許容することはできないのだ。



「そうそう、こっちだよ! ついておいで!」
 焔の刻む戦いの鼓動がアダマンアントたちを煽り立てる。そのまま蒼玉へ向かっていく焔へ追従する敵に、バクルドの得物がまっすぐ向けられた。
「邪魔しないでくれよ。お前さんらが行き着く先はどうせ同じだ」
 アンティノアは脅威だが、さりとてアダマンアントたちをまるっきり無視して戦いにはのぞめまい。バクルドの攻撃に合わせ、フレイムタンが追撃を喰らわせる。
「蒼玉、亜竜種以外に他の種族もいるって知ってるかな?」
「もちろん! あ、でも全部は知らないかも。亜竜種とは違う翼のある人は知ってる!」
 きっと飛行種のことだろう。見たのはイレギュラーズの誰かだろうか。頷きながらイズマはそんなことを心の片隅に思う。
「俺は鋼の鉄騎種で、機械の身体を持ってる。異世界から来た旅人や、他にも沢山いるけれど……別種でも仲間なんだ」
 そう、イズマは知っている。同じ姿形をしていなくても、手を取り合って同じ目的を持つことはできる。有効的な関係を築くこともできただろう。
 故に、問う。
「蟻帝種だって、こんなことをしなければ今のまま友達になれたんじゃないか?」
 家族や友人は大切だと言う蒼玉の言葉は『その通り』だ。誰もが誰かを大切に思っているし、だからこそそれを奪われたら許せない。両者の間には深い溝ができることだろう。
 けれど、蒼玉はうーんと首を傾げてから、横に振った。きっとそれは無理だよ、と。
「何故?」
「きっと、友達になれると思う。このままじゃ僕たちはゼンメツしちゃうんだって」
「種の存続、か。それを第一に考えるのは生物としての本能だろうし、正しくはあるんだよね」
 Я・E・Dは攻撃の手を緩めずにかくりと首を傾げる。魔弾が蒼玉の頬をかすめ、彼はぎゅむっと顔を顰めた。
「いてて……そう、それそれ。だから僕たちが無事でいられるくらいに家族や友達が集まったら、みんなとも友達になれるかもしれないよ?」
「残念だけど、それはないかな。今の行いは他の生き物の害となる。なら、わたし達はそれを『悪』と断ずるよ」
 Code red。続け様に襲いくる魔弾から蒼玉がかわすも、イグナートの攻撃がさらに追い討ちをかけていく。
「他のアンティノア第一世代と比べると、結構賑やかなタイプなんだね。でも本当に種のソンゾクのためだけ? 仲間を増やして最終的に何かする気だったりしない?」
「そのためだってクイーンが言ったたよ。僕は家族が増えるならそれで満足だけど!」
 お返しと言わんばかりの掌打がイグナートにたたらを踏ませる。へえ、とイグナートは笑った。
「いい攻撃だね!」
 負けられない。それはデザストルのためだけではなく、強者のひとりとして。
(それにしても、随分と盲目的にクイーンを信じてるみたいだ)
 クイーンがそう言ったから。彼女に絶対的な信を感じる。とはいえ、個体としての思想も持ち合わせてはいるようだが、果たしてどこまでが個人差なのか。
「それなら捕まえたニンゲンを素材にして、共存するつもりがあったのは本当かな?」
「本当だよ! そうじゃなきゃ手紙を出す必要ないじゃん!」
 ぷうと頬を膨らませる蒼玉。その姿は可愛らしくもあるが――繰り出される攻撃はなかなかにえげつない。
  それを受け止め、イグナートは挑発するように手招きする。
「ふーん、そうなんだ? でも今の考えにギモンを持てないなら共存は難しそうだ。
 さあ、かかって来なよ。イレギュラーズとアリの格の違いってやつを教えてやるからさ!」
 そこへ駆けつけたのはシラスをはじめとした、アダマンアントと戦う面々。いささか傷が多いことは否めないが、すぐさまゲオルグが治療を行う。
 アダマンアントたちが倒されたことに気づいた蒼玉はしまったという表情を一瞬だけ浮かべて、それからくるりと踵を返した。
「知ってる! こういうの多勢に無勢って言うんだ! わぷっ」
 逃亡を図ろうとした蒼玉は、前へ滑り込んだゲオルグの体にぶつかる。すかさずエーミールが蒼い彗星のごとく突っ込んだ。
「逃がすかクソ野郎!!」
「ごめんね、ここで倒れてもらうよ……!」
 炎の槍で追撃する焔。純粋に逃げようとしたのだとしても、彼が向かおうとした方角には集落が存在する。そこまで逃げ込まれたら、イレギュラーズがいたとしても混乱は避けられない。
「ねえ、キミの話を聞いていてわかったんだ。キミは……家族や友人が大切なものだって知ってるだけで、大切だって気持ちがわからないんだね」
「……? 知ってるんだから、問題ないでしょ?」
 逃げ道を阻まれた蒼玉は攻撃に転じ、焔はそれをかわし、受け止めながら言葉を続ける。
「ううん。知っているのと感じられるのは別物だよ」
 家族や友人を本当に大切だと思うのなら、そういった存在が他の人にもいるのだとわかっているのなら、平気な顔をして人を攫ったり、攫った人を大切なものに作り変えるなんてできない。
(人攫いは悪いこと、だけど……知っていてもわからないなんて)
 彼がしていることはただの真似事で、それがどうしようも無く憐れにも思えてくる。だからこそ、余計に止めないわけにはいかないのだ。
「悲しむ人たちは、もう増やさせないよ!」
 焔の猛攻に続き、ゲオルグの呪術がその腕を蒼玉へ伸ばす。追うようにバクルドの放つ黒の斬撃が蒼玉へ顎を開いた。
「このまま押しきっちゃおう!」
 イグナートの右手が栄光を掴むため、握りしめられる。畳みかけるようにエーミールが音速の殺術で敵前へと飛び込んでいった。
「なあ、教えてくれよ。テメーらの言う家族って何だ? お前の連れてきたその蟻と何がどう違うんだ」
「彼らだって僕の友達だよ。やられちゃったけど」
 どうしてくれるんだ、と言いたげなその顔は、しかし大切だという友人を失ったようには見えない。
(所詮は知識か)
 ふんと鼻を鳴らしたシラス。まともな応答は期待していなかったが、これがアンティノアだということは理解できた。あとは倒すのみだ。
(本当ならば、攫われた本人が帰ってくれば良かったのだが……現実、そう上手くは叶わないか)
 それでも感じる悲しみに、浸っている場合ではないのだとゲオルグは仲間の回復へ専念する。新たな犠牲者を出さない為にも、悲劇の芽となりうるものは排除しなければ。
 イレギュラーズによって蒼玉は確実に傷を増やし、攻撃のキレも鈍ってきている。イレギュラーズとてそれは変わりなかったが、あとは数の差で押し込むのだと最後まで全力だ。
「さあ、そろそろ終いにしよう!」
 イズマのワールドエンド・ルナティックが蒼玉に不吉を齎す。すかさずЯ・E・Dの指先が光の糸を操った。
「知識、それから経験。それは"今は"貴方のものだから、それだけは安心していいよ」
 どれだけ真似っこで本物じゃなかったとしても、告げたそれらは間違いなくアンティノア『蒼玉』としての財産だ。
(ただ、それを、わたしたちは二度と起こさないために戦うのだけれど)
 誰かのものだったそれらを、蟻たちが奪い取る。もうこんなことはさせられない。
「家族は居ていいものだから『増やす』、気に入った人を大切な友人に『する』……か。なるほどな、漸く合点がいった」
 バクルドは猪鹿蝶で敵の急所を貫き、蒼玉を睨みつける。
 結局は常に群体としている蟻もどきなのだ。覗き見た知識だけを並び立て、人らしく装っているだけの醜悪な塊。
「皆違い相見えぬものがあってこそ、友と家族となれるんだ。……アリんこにゃわからんだろうな」
 それでいいさとバクルドは得物を引き抜く。蒼玉の口がパクパクと開閉したが、言葉は出てこない。
「孤独もまた同じく享受するのが、人間だってことさ」
 蒼玉の体が地面へと打ち付けられる。かひゅ、と最後に引き付けるような息を吸って――アンティノアの生命活動は停止した。

成否

成功

MVP

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪

状態異常

炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 無事にアンティノアは討伐されました。

 またのご縁をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM