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シナリオ詳細

<Scarlet Queen>Pain is Money

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<Scarlet Queen>Pain is Money
 客船スカーレッド・クイーンは海を彷徨う。
 此処から誰も出さぬ様に。暗き闇の中を突き進むは、漆黒を好むからか。
 はたまた黄金なる輝きがより鮮烈となるからか……

「――ルベル様。ご報告が」

 ともあれ渦中。暗闇の玉座には、紅き女王が君臨す。
 それはルベル・ゼノ・ドラクルート。スカーレッド・クイーンの主。
 この船を統括せし者――彼女は配下たる者より言を受け、視線を其方に。
「第三層へと挙がる者達がいるのですが……彼らはイレギュラーズではないかと……
 今の所目的は不明ですが、このままで宜しいでしょうか?」
「ふぅん。そう」
 さすれば、告げられた言の葉は船に入り込みし『異物』の事だ。
 ――いや異物といっても別段不正侵入している訳ではない。イレギュラーズ達は己が力で勝利をおさめ、そして上層へと至っているのだから。しかしこの船に――しかも集団として――至るイレギュラーズなど初の事である。
 如何したものかと、主に判断を問えば。
 ルベルは興味がある様な、無い様な。
 或いはとうの昔から『把握していた』かのような――そんな、けだるげな吐息を一つだけ零して。
「次のゲーム。変更して『Pain is Money』にしなさい」
「――それは」
「ディケンスが丁度いたでしょう? 面白いわ。遊び場を超えて更に至れるのか」
 何か一つ、配下の者に指示を出していた。
 その口端には、微かに……しかし確かに笑みの色が零れていて。

「最下層と次の階を超えた程度で『したり顔』をされても困るからねぇ――
 そろそろ本当の意味で知って貰いましょうかぁ。この船が、どういう船なのか」

 指先に抱くグラスが傾け。
 紅き雫を――飲み干した。


「さぁ今宵もお待たせしました紳士淑女の皆さま。
 只今よりゲーム『Pain is Money』の説明をさせていただきます――
 皆さま! お金と言えば労働の対価として得られるものですよねぇ?
 あれこれ働いてようやく砂粒の様なお金を得られる! うーんこれが世の真理です!」
 スカーレッド・クイーン第三層。
 その大広間にて語られるは次なるゲームの概要だ……大仰なる身振り手振りでリアクションを取っているディーラーらしき男の言が続けられていて。
「しかしそういった時の砂粒を取っ払って大金を得たいのであれば――
 仕方ありません他のモノを代価としましょう!
 と言う訳でご用意しているのが此方でございます!」
 そうしてディーラーが取り出したのが三枚のトランプ、と。

 ――拳銃だ。

 リボルバー式。些か大きいタイプであるそれは相応の威力を秘めていそうだが、さて。
「まずプレイヤーには三枚のトランプ・カードが配られます。
 J、Q、Kの三種類です。いいですか? よく聞いて下さいね。
 皆さんには以下のゲームに参加して頂きます!」

///////////////////////

■ルール
・まず『親』を決める。(ラウンドが終了する度に『親』は時計回りに移行する)

・『親』はカードを伏せ、自分以外のプレイヤーを選択する。(『子』と称する)
・『子』は伏せられたカードを一枚選択する。
・選択されたカードの種類によって、以下の通りに進行する。

・『J』だった場合、特になし。ラウンド終了。
・『K』だった場合『リボルバーに一発弾丸を装填』出来る。ラウンド終了。
・『Q』だった場合『Pain is Money』へ移行。

■『Pain is Money』
・『親』は『子』にリボルバーを渡す。
・『子』はリボルバー(六発式。弾は開始時、一発のみ装填)のシリンダーを回し、自身の『腕』『足』『胴体』『こめかみ』のいずれかに狙い定め、引き金を引く。この時『弾丸が発射されるか、されないか』でチップを掛ける事が出来る。
・予測が当たれば『子』は以下の報酬を得る。

・『腕』『足』の場合、賭けたチップの1.5倍を報酬として得る。
・『胴体』の場合、賭けたチップの3倍を報酬として得る。
・『こめかみ』の場合、賭けたチップの30倍を報酬として得る。

・なお『発射される』に賭けて当たった場合、配当は更に10倍となる。
・結果に関わらずラウンド終了。親が次の人物に移る。
・弾丸は発射後の弾数のままで再開(ただし残弾0の場合には1発自動装填される)

■勝利条件(ゲーム終了条件)
 自分以外のプレイヤーが降りる。
 もしくは自分以外のプレイヤーがゲーム続行不可能状態になる。
 ※敗北した場合、報酬は支払われず全チップが没収される。
 ※賭ける事が出来るチップが0枚状態でも続行不可能とみなされる。

■禁止事項
・ゲーム中のあらゆる治療行為。
・プレイヤーへの暴力行為。
・その他進行を『妨げる』事全般。

■その他備考
・プレイヤーの他に、付添人が場にいてもいい。
・ただし銃を向ける対象はプレイヤー自身でなければならない。

///////////////////////

「――以上です! お判りでしょうか?
 そう! 労働の代わりに皆さんには――『痛み』によって争って頂くのです!
 痛ければ痛いだけ報酬が増えますよ~頑張ってくださいね!!」
 ……なんて悪趣味な。
 テンションが上がり続けるディーラーに対して誰かが呟いたが――しかし最初から参加せず観戦だけに留める客共にはウケがいいのか、熱狂の渦がどんどん深まるばかりだ。
 と言うか――このゲーム――
「……ロシアン・ルーレット、ですよねお師匠様」
「ある程度カード選択による幅はあるけれど――実質そうね」
 気付くものだ。ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)やイーリン・ジョーンズ(p3p000854)が。このゲームの本質はロシアン・ルーレットに過ぎないのだと――銃弾を引くリスクを背負い、報酬額を上げていくゲーム。
「本題になりそうなのはゲームの終了の為には『相手が降りるか』『相手がもうゲームを続行出来ない状態に陥るか』……のどちらかと言った所ですか。つまりQを引かせて、相手に負傷を与えなければこのゲームは終わらない――」
「でも。報酬を得るためには最低でも一度は此方もQを引いてリスクを背負っておかなければならない、と」
 さすれば流血のリスクが常に伴うゲームだとヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)と散々・未散(p3p008200)はルールをもう一度見直しながら互いに言を紡ぎ絡めるものだ。
 意地が悪い。必ずどちらかが損傷を負うのは当然としても、最悪の場合どちらも血塗れの状態であり続ける可能性もある訳だ――治療行為が禁止なら、どっちが先に気絶するかの耐久ゲームとなりえる未来もあり得ようか。
 『客』はソレが楽しみなのだろう。
 血反吐を吐き散らしながら、しかしチップを求めて引き金を己に向ける。

 このゲームは、そういった悪意に応える為の場だ。

 ……しかしイレギュラーズ達はこのゲームを避けては通れなかった。なぜなら。
「次の階層に進む為にはチップ500,000枚の所持が条件――? なにそれ馬鹿?」
「今私達は……8,000枚前後でしょうか? 全く足りませんね」
 そう。コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が吐き捨てる様に告げた『条件』が鬼門であったからだ――更なる上層へと進む為には、より強靭なるギャンブラーの証としてチップの所持が『500,000』枚でなければならないという。
 であれば澄恋(p3p009412)が数えた通り、今の所持枚数ではとても足りぬ。下のブラック・ジャックで大勝し、相当稼いだつもりだったのだが……条件越えの為にはこのゲームに参加して大きくチップを増やす必要がありそうか。
 しかし。
「やぁやぁ君達がこのゲームに乗って来た子達かい――? 随分と若いんだねぇ」
 どうにも、簡単に行きそうにはないようだ。
 眼前にてにこやかな表情を見せるギャンブラー……ディケンスと名乗った老紳士風の男に、緊張の色が一切見られない。どうにも……敵はこのゲーム、初めてではない様だ。
(……なんだか臭うな。嵌められた、か――?)
 周囲で聞こえる微かなる雑談に耳を澄ませば、ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)の耳に届いてくる評判。

 ――ディケンスだ。連中、終わったな。
 ――ああ。奴のシリンダー回しは天才的だ……奴だけはリスクが無いに等しいからな。

 それはディケンスのギャンブラーとしての能力の事か。
 奴は、どうやらリボルバーのシリンダー回しで『自分の望む』箇所を引き寄せる事が出来る様だ。つまり奴にとっては六発の弾丸が埋まっている100%の状態でなければ……確実に避ける事が出来る人物。
 そんな人物がいたタイミングで、そんな人物が得意とするゲームが巡り合った――?
 これは。
「しかし『女王』も意地の悪い御方だ――
 負ければ一発退場のこのゲームを、わざわざご指定なさるなんてねぇ」
「――なんですって?」
 刹那。ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は確かに聞いた。
 ディケンスの視線が――少し、上の特等席に向けて零した言葉を。
 ……さすれば彼女も『見る』ものだ。
 そこに居る人物を。
 この船の支配者を。オーナーを。

 ルベル。

 ゲームの場を眺める事が出来る特等席で。
 彼女の双眸が、イレギュラーズ達を眺めていた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 ルールに分かり辛い面があれば、リプレイ中にこちらの方で調整や柔軟に対応しますので、ご安心頂ければと思います。よろしくお願いします。

●目標
・ゲームに敗北しない事(最低条件)
・500,000枚のチップ報酬を確定した上で、ゲームに勝利する事(努力目標)
(なおイレギュラーズは8000枚程度のチップを所持しています)

■※今回のゲームを三行で
・カード選ぶ! Qだったら銃で自分を撃て!
・あ、撃つ前に『弾が発射されるか、されないか』賭けて! 当たったらあげる~!
・まぁあげるって言っても勝ったらだけどね。負けたら? 最下層にいこっか!

///////////////////////

■ルール
・『親』を決める(ラウンドが終了する度に『親』は時計回りに移行する)
・『親』はカードを伏せ、自分以外のプレイヤーを選択する。(『子』と称する)
・『子』は伏せられたカードを一枚選択する。
・選択されたカードの種類によって、以下の通りに進行する。

・『J』だった場合、特になし。ラウンド終了。
・『K』だった場合『リボルバーに一発弾丸を装填』出来る。ラウンド終了。
・『Q』だった場合『Pain is Money』ラウンドへ移行。

■『Pain is Money』
・『親』は『子』にリボルバーを渡す。
・『子』はリボルバー(六発式。弾は開始時、一発のみ装填)のシリンダーを回し、自身の『腕』『足』『胴体』『こめかみ』のいずれかに狙い定め、引き金を引く。この時『弾丸が発射されるか、されないか』でチップを掛ける事が出来る。
・予測が当たれば『子』は以下の報酬を得る。

・『腕』『足』の場合、賭けたチップの1.5倍を報酬として得る。
・『胴体』の場合、賭けたチップの3倍を報酬として得る。
・『こめかみ』の場合、賭けたチップの30倍を報酬として得る。

・なお『発射される』に賭けて当たった場合、配当は更に10倍となる。
・結果に関わらずラウンド終了。親が次の人物に移る。
・弾丸は発射後の弾数のままで再開(ただし残弾0の場合には1発自動装填される)

■勝利条件
 自分以外のプレイヤーが降りる。
 もしくは自分以外のプレイヤーがゲーム続行不可能状態になる。

 ※敗北した場合、報酬は支払われず全チップが没収される。
 ※賭ける事が出来るチップが0枚状態でも続行不可能とみなされる。

■禁止事項
・ゲーム中のあらゆる治療行為。
・プレイヤーへの暴力行為。
・その他進行を『妨げる』事全般。

■その他備考
・プレイヤーの他に、付添人が場にいてもいい。
・ただし銃を向ける対象はプレイヤー自身でなければならない。
・敗北時、プレイヤーが所持している全チップは没収される。

///////////////////////

●リボルバー『Pain』
 特殊な神秘が込められたアーティファクトの拳銃であり、対象に命中した場合『出血系列』のBSと同様の効果を必ず与えていく効果があります。銃弾もまた神秘物であり、発射されるとかなりの『痛みの概念』を対象に与えます――
 ただし与えられるのは『概念』であり、物理的な銃弾ではありません。
 つまり精神が強ければ何十発撃とうが耐えきる事も理論上出来ます――死ぬ程の痛みが生じる可能性はありますが。

●ディケンス
 老紳士風の男であり、今回の対戦相手です。
 このゲームに『慣れている』プレイヤーであり、特にシリンダーを回した際、どういう技術か『自分が望んだ』箇所を持ってくることが出来ます。つまり彼にとってこのゲーム、100%の確率で弾丸の発射を避ける事が出来るのです。

 ただしその技術も連打して疲れてきたらどうなるか分かりませんし、体格を見るに体力面は優れていない様に見えます。

●ルベル・ゼノ・ドラクルート
 オーナーとも呼ばれる女性です。
 その正体はウォーカーにして『邪神と人間のハーフ』の少女です。
 闇カジノを運営する人物であり人々の血と金を浴びるように愉しむ人物ではありますが、反面、勝負の勝敗には公正な態度を取る人物だそうで、デスゲームの勝利者には確かな報酬が支払われる事でしょう――

 今回は明確に勝負を観戦しています。
 それ所か、今回のゲームは彼女の指定により急遽変更されたのだとか。
 ――彼女の干渉が始まったようです。
 シナリオ時にどう動くかは不明ですが、ゲームの進行を眺めるだけかも……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Scarlet Queen>Pain is Money完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年06月30日 23時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う

リプレイ


 このゲームは、悪趣味だ。
 最下層は見世物で。次の層は只の遊び場だったけど。
 この階層からは異なっている。

 血を捧げよという意志を――隠しもせぬ。

(……このゲーム。超えるべき壁は『どうやってディケンスの体力を削り取るか』に掛かってるわね。シリンダーの回転を本当に操れるとすれば、行うべき戦術はただ一つ……)
 しかし、それでも。
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は思考を止めぬ。彼女の計算はただ只管に勝利に向かって邁進しているのだ。如何にディケンスがシリンダーを操れようとも『絶対に回避できない状況』に追い込んでしまえばよい、と。
 その為に。
「お一人では寂しいでしょう。後ろで失礼しますわね」
「ええ――ありがとうございます」
 お師匠、と。小さな声で紡いだのは『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)だ。イーリンは彼女の背後に回りて、付添人の様な立場にてゲームに参加する。
 ……えっ? あぁ下の階層で一緒だった『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)はどうしたかって?
 さっき『生意気な口答え』をしましたから捨ててまいりましたわ――
「……ったく。やっとクソ生意気なお嬢様のお世話から離れる事が出来たぜ。
 おい憂さ晴らしだおっさん――少し付き合えよ」
 と。イーリンが視線を滑らせた先。
 他のプレイヤー席に座っているのは、コルネリアだ。生意気なお嬢様と喧嘩別れした――という体で別プレイヤー側へと至っている。それも勝利の為。先述したようにディケンスに確実にブチ当てる為には数が必要なのだから。
(……シリンダーの回転を操れるのは大したもんだが、俺を誤魔化せると思うなよ?)
 同時。コルネリアのサポートとして張り付くのは『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)だ。ディケンスの情報は微かに聞いたが……しかしシリンダー云々よりも重要なのは『弾の位置』をどうやって把握しているか、だ。
 ――ギャンブラーとして彼には『勘付く』モノがある。
 後はソレをどのタイミングで確信へと持っていけるか……と。
「しかし……これはなんとも、ルール自体は実にシンプルだ。
 要は痛みに耐えればいいのでしょう? ならば、簡単です。ええ。必勝法があります」
「おや――それは一体?」
「文字通り『耐えれば』いいのですよ。ええ、いつも通りに、ね」
 更には『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)と『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)も参戦するものだ。メイン・プレイヤーはヴィクトール。未散はその付添人と言う形で……
 ヴィクトールさま。ぼくもあなたさまも、何処かふわふわしていて人の心への配慮に欠ける。
 けれど此れがギャンブルと言うよりも『エンターテイメント』であれば。
(『如何すれば面白いことになるか』位は分かる心算です)

 ……それぞれがそれぞれの思惑をもって席に着く。

 まもなくゲームが開始されようとしている――その、最中に。
「ルベル……半ば確信はしていましたが、やはりアナタでしたか」
 『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は特等席の側を眺めるものだ。ヴァイオレットは舞台の場にはいない……観客席側におり、今回に関しては明らかにゲームとは別の動きを見せていた。
「失礼。いま小耳に挟んだのですが……あのご老人、負けたことはないのですか?」
「ん、ああ――アイツは強いよ。知った限り負けなしだな」
 それは『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)と共に。
 いうなれば彼女達がしているのは盤外戦術だ――敵がどのようなプレイヤーであるのか、情報収集を行い、判明したことがあらばプレイヤー達に伝えんとしているのである。直接言を交わす事は出来ずとも、念話の力があれば十二分に可能だと。
「……しかしヴァイオレット様、これは大丈夫でしょうか」
「恐らく、と前置きはしますが。ええ、きっと大丈夫です――続けましょう」
 しかしこの行いが果たしてルールの範疇にあると言えるのか、言えないのか。
 澄恋は心中に些かの不安もあるものだが――
 ヴァイオレットは『オーナーの気質』を鑑みれば問題ないものだと推測するものだ。
(……ルベル。確かにアナタは勝敗の”結果には”公正でしょう……仕掛けたイカサマを見抜けるか否か……そんな盤外戦術をも勝負の埒内に数えるのなら、ですが)
 刹那。特等席にいたオーナー……
 ルベルの瞳が、微かにヴァイオレットの方を――向いた気がした。


 ゲームが開始された。
 カードをセット。誰ぞを指名して、幾つかの未来に分岐する。
 何もないか。弾丸をセットするか。或いは――

「おおっと――Qです! 『Pain is Money』が始まります!!」

 銃撃の運命に引き寄せられるか、だ。
 イレギュラーズの中で真っ先に引く形となったのはヴィクトールである。
 シリンダーが回され――そして。
「では、行きましょうか」
 さほどの躊躇いもなく、引き金が絞り上げられるものだ。
 ――彼の歩みに迷いはない。なぜならば、未散が付いているのだから。
(……ヴィクトールさま。それは危険です)
 彼女の。まるで預言者の様な、未来を当てるのは中身を見据えんとしているから。
 撃たれなければ良し。撃たれる時――? あぁ、場所はどうぞご随意に。

 ――あなたさまのガチめな苦痛に歪む貌とかレアで御座いますし?

「やれやれ。なんともはや――ご期待に沿えるとは限りませが」
 刹那。発射音。
 それは胴体だ。重要臓器には当たらぬ様に調整した上での一撃は、なるほど。
 重く苦しく顔が歪みそうになる――
 尤も。『たかが銃弾』と思えばこそ、さほど大したこともないと言えるのだが。
「ヴィク」
 直後。未散が、ヴィクトールの額を布にて拭うものだ。
 ……汗が出ていたか? 分からぬが、甲斐甲斐しく世話を焼かんとする、その様。
「……私の痛がる顔はそんなに珍しいですか?」
「ええ、実に。存分に」
 正に付添人の名に相応しく。
 が、それだけではない。置かれたリボルバーを瞬間的に記憶し――
 どのような構造であるか、どこに弾が在るであろうかを記憶せんとする。
 この様な小娘に何も出来っこないと思っているのならば――いつか痛い目を見るだろう。「ふーやれやれ、痛い音だねぇ。これは何回も聞くけど、慣れないよ、と? 次はおじさんか」
 そして。ヴィクトールの手番が終わり、次に、次にとまたゲームが進み続け――
 次にQを引いたのは、敵であるディケンスであった。
 ……シリンダーが回される。その一挙一動を、見つめる目は幾つも。
(――今弾は三発入っているはず。やっぱりよ、お前が見てんのは『重さ』だろ?)
 然らば。その内の一人であるニコラスは思考するものだ。
 ディケンスは正確に重さを測れる指――或いはその技量を持っているのではないかと。
 ギャンブラーは己が勘を大事にする。より厳密には、その正体たる研ぎ澄まされた五感をだ……例えば台の傾きや札の傷に微かな匂い。そういったモノすらギャンブラーは武器とする。
 であれば。慣れたプレイヤーであれば重さなど手に取る様に分かるのではないか?
 ――そして。技量によって全てが成されているのであれば。
「真似してやるよ」
「やれやれ――ニコラス、頼りにしてんぜ?
 悪ぃがアタシにそれが出来る余裕はねぇ」
「ああ任せときな」
 己でも再現は十分可能ではないかと。
 コルネリアと小声で言を交わしつつディケンスのターンを観察するものだ。
 ――お前が俺を信じるなら、必ず導いてやる。
 俺はお前に賭けた。だからお前も俺に賭けてくれ、と……強き意志を抱きながら。
 同時に、それはココロやイーリンの側でも同様であった。
(……ココロ、大丈夫ね?)
 イーリンは握る。ココロが無意識に重ねてきた、手を。
 今回のゲームでココロがプレイヤーなのは、彼女自身の望みが故でもあった。

 ――お師匠様。このゲームは、わたしに任せてもらえませんか。

(大丈夫、大丈夫です……『聞き』とれます……)
 ココロは集中していた。己が、早き心臓の鼓動が聞こえなくなるほどに……
 ディケンスの回すシリンダーの回転音を記録する為に。
 シリンダー式拳銃の中には、残弾数を把握するため特定の位置で音が変わるのがある。その手のものを改造して使っていたなら……それが手品の種。尤も、リボルバー自体は運営が用意したモノであり、プレイヤーは関わっていないのでは、とも思うのだが。
(ですが、今回は突発的に指定されたゲームとの事でした……運営の意向がないとは)
 限らないと、彼女は警戒を続けるものである。
 そしてココロが眼前に集中していればイーリンはいつでも動けるようにするモノである。
 ……恐らく、弟子が放つ瞬間も迫っている筈だ。
 ならばその時に己に出来るのは何か。
 治癒は出来ずとも――苦痛の理解と分かち合いは――出来る筈だと。

「もしもイカサマが行われていると仮定した場合、幾つかの方法が予測されます」

 同時。ゲームの進行を素早く見据えながら、ヴァイオレットは動き続けていた。
 ディケンスが行う事が出来るイカサマ。それは……

・弾丸を装填済みに模倣する
・弾丸の位置を知る
・配られたカードの柄を知る
・カードの柄をすり替える

 ……いずれの場合も簡単ではない。
 しかしカードを知る事に関しては、観客席に紛れていたりすればどうだ――?
 此処からコルネリアやココロらの手を覗き、不都合なカードを引かないなど。
「出来そうですね。念話の力を行使する事さえ出来れば、潜んで行う事は十分可能なはず」
「――むしろこの観客席は『そういう事』の為に用意されているかもしれませんね」
「……あり得る話です」
 澄恋との会話。運営はイカサマを、プレイヤーが出来る様にしている可能性も……あった。
 いずれにせよ下手人らしき者がいないか探ろう。
 気配を殺し動き続け。どこぞに妖しき影がないかと――

「……むっ。あそこに座っている人物……妙ですね」

 その時。うっすらと気付いた。
 先程から各プレイヤーの手札を見るように視線を動かしている人物がいるのを。
 ……ならば排そうか。既にゲームはそれなりに進んでいて、余裕がないのであれば。
「すみません、助けてください……! 先程から、体に妙な感覚がありまして……!」
 澄恋はスーパーか弱い乙女である事を活かし……活かし? て。
 その人物の視線を逸らさせる。人心を得るかのような声の抑揚と共に、下手人に医務室へ運んでもらおうと――すれば。
「ありがとうございます、それでは――さようなら」
 人目に付かぬ場で、はーときゃっち♪
 悶絶しかける者をお手洗いの掃除用具入れの中に叩き込んで。そして……

「ん――」
「はぁ、はぁ……どうしたおっさん、何か腹でも痛くなったか?」

 然らばゲームの流れに異変が生じ始めるものだ。
 ……現在、戦況はディケンスが無傷。イレギュラーズ側がいくつもの負傷を負っている状態であった。しかし――
「ふむ……中々に『痛い』ですねぇ。しかし『こんなものか』とも思います」
 ヴィクトールを始め、誰もが耐えていた。
 痛くも苦しくもない。ほら、もう一発。ぱん。
 畏れぬ。恐れぬ。弾が補充されればされる程、未散の予測も当たり外れも意味が薄くなるのに。
 一切怖がらないで――撃ち続ける。
 嗚呼、でも。
「少なくとも、そのお姿……わたし以外には見せて欲しく無いなあ、なんて」
 我儘でも一つ。言ったらどうなるでしょうか――と。
 口端緩む。その時の未散の表情たるや如何であったか。
 見たのは。見る事が出来たのはヴィクトールのみで……
「それは……なんというか、ずいぶん、わがままなことで。
 もっとも、あまり見せる気はありませんがね?」
「……お熱い事だねぇ。だけど、流血すればするほど限界がもう近いだろう?」
「だから、どうしましたか?」
 直後。ディケンスの言に紡ぐのは――ココロだ。
 彼女も負傷している。腕が幾つか、血に染まっていて……
 しかし、それでも彼女はまだゲームを続けている。
 医術士として学んだ事の全てを――此処に。
 鼻から息をゆっくり4秒吸い、4秒息を止めて4秒かけて吐き出す。うん、これだ。
「~~~~づぅ!! ぐ、ぐ、ぅ……!!」
 それでも再度、着弾。
 今度は出ると思ったが故にこそ――胴体の左胸の上に向けて、引き金を引く。
 リアクションは大仰に叫んで痛みをアピールするものである。
 それは恐怖による威圧と共に、周りへのプレッシャーとなり……なにより。
 悪趣味な客共の飢えを満たす事にも繋がろう、と。
(だけど、大丈夫です……どんな痛みがあろうと……例えばこれが……)
 魔神の槍であろうと。
 心があるこの場所だけは――貫けないと知っているから。

(……それでも、撃たれっぱなしは性に合わないでしょ)

 同時。見守るイーリンは撃った個所をさすり、状況を適時確認するものだ。
 どのような一撃か。腕か胴体かで痛みの違いはあるか。
 分析結果を、折を見て伝えんとする――
 可愛い弟子が、痛みに耐えて奮戦しているのだからこそ。
「さぁ、気をしっかり。もうすぐ、終幕が来ますからね……」
 彼女を励ます言をも、紡ぐものである。
「終わり? 終わりだって――? ハハ、何を言うかと思えば。
 傷ついてるのは君達ばかりじゃないか――おじさんは無傷で……がっ!!?」
 瞬間。余裕ぶっているディケンスが、呻いた。
 それは、コルネリアの『仕掛け』だ。
「――うるせぇぞおっさん。安全圏にいるだけの奴が、何を知ったかぶってやがる」
「ぶち当たったな、コルネリア」
 ニコラスが頷く。それは一手前でコルネリアが、自らのこめかみに向けて銃弾を放った――際に。己が祝福たりうる能を用いて、全ての音を彼に向けたのだ。脳髄に刻み込む様に。
「どうした? 随分と息が荒いぜ――あぁそれとも何か不安な事でもあったかぁ?」
「ふざけたもんだねぇ、君達は……!?」
 刹那。ディケンスが見たのは――ニコラスのシリンダー回しだった。
 ……回転数で分かる。アレは、外れる音だ。
 まさか。馬鹿な。この短期間の内に、同じ事が出来るとでも――?
「余裕が消えたな。武器が一個しかねぇのか? ポーカーフェイスぐらい持っとけよ」
 あえて。自らに当て続けるコルネリア。
 その逆たる躱し続けるディケンス――
 その戦いの果てに残るのはどちらの勝利か。
 ……最早終幕は近かった。
 ディケンスは慣れていない。痛みには。余裕が消えればシリンダー回しにも影が入ろう。
 所か万が一として配置していた『外』の仲間も、ヴァイオレットや澄恋によって片されてしまった。
 もう、何もない。これ以上の保険の類は、なにも。
「全く、よぉ……」
 刹那。コルネリアは思考する。
 ああ全く――ごちゃごちゃとした駆け引きは苦手だ。
 だからコルネリアはまたも狙う。当てるのは『こめかみ』で賭けるのは『発射される』
 ――ただこれだけ。
「正気かい、君……? こめかみに向けて引くなんて、普通じゃないよ」
「おいおい他人が勝機であることを前提に賭け事やってんのか――?」
 なぁ聴こえるかおっさん。
 このハジキの声が、撃鉄の音が。
 物理か精神か知らねぇけどよ、生きるか死ぬかのやり取りに余裕ぶっこいてんじゃねぇ。
「んなもんなぁ――強くも何もねぇんだよ」
 さぁ、テメェの番だ。
「引くのか、退かねぇのか」
 ――覚悟キメろや。


 ……勝敗は決した。戦意を喪失したギャンブラーが勝てようものか。
 イレギュラーズ達は負傷多々。
 なれど、確実に勝利を――その手に掴み取ったのだ。
 そして。
「ヴァイオレット様、ここはお任せを……! 私が引き付けますので!」
 澄恋は別の事に力を注いでいた――
 それは特等席への道の途中にいる警備の、排除だ。ゲーム進行に影響のないプレイヤー以外への暴力行為に関しては何にも言われてないのでセーフの筈――! 引き続きか弱い乙女の振りをして排除を試みる、その理由は。
「今日というこの日は――あなたの影でいさせてください」
「……ありがとうございます澄恋さん、感謝します」
 ヴァイオレットの願いを叶える為、だ。
 彼女の影を踏もうとする輩は許さない。故に全てを排す。
 ……そうしてヴァイオレットが進まんとした先に、いたのは。

「久しぶりですね――ルベル」
「おや――『半端者』が、何の用で?」
「なにも」

 オーナーたる『ルベル』だ。
 彼女とヴァイオレットの対峙。
 ……刃を交える事はしない。ただ一言、それだけを伝えたかっただけ。
「ただ知古に挨拶を――しに来ただけですよ」
 故に踵を返す。
 いずれまた。このような形ではなく。
 真正面から相対する日もあるだろうと――思うから。

成否

成功

MVP

コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 遂に出逢うオーナー・ルベル。はたして次の階層では何が待ち受ける事か……

 ありがとうございました。

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