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シナリオ詳細

<真・覇竜侵食>落魄のフラーテル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●兄妹
 その兄妹は、仲の良い双子のきょうだいであった。
 何処に行くにも、何をするにも一緒に居て、その日だってふたりはともにあった。
「薬草を積みに行ってきます」
「気をつけてね。遠くまでいかないようにね。それから――」
「わかってるよ、危ないと思う前に逃げるんでしょ? お兄ちゃんもいるから大丈夫よ」
「梓睿はいいけど、梓萱はそそっかしいからねぇ……」
「もうっ、お兄ちゃん行こ。それじゃあ、行ってくるね!」
 アダマンアントたちの襲撃で他の集落に怪我人が増えたため、ふたりの住まう集落『フラーテル』も他の集落の支援や自分たちの集落の蓄えを増やそうとしていた。兄妹のふたりも皆の力になろうと、その日もそう言い残して集落の外へと薬草を集めに出ていき、仲良く大きな薬草籠を背負って楽しく笑いあいながら歩いていく後ろ姿を集落の門番を勤めている男が見送った。
 ――それが『いつものふたり』の姿を見る最後の機会になるとは、誰もが思いもしなかったことだ。ふたりはいつもどおり帰ってきて、兄妹の仲の良い姿が次の日も、また次の日も見られるものだと人々は思っていた。

 その日、どれだけ待とうとも。
 それから何回も太陽が昇って沈もうとも。
 ――兄妹が帰ってくることはなかったのだ。

●フラーテルへの帰還
 アダマンアントの襲撃に、人々が逃げ惑う。
 誰かは恐怖し、誰かはついにこの集落にもと決意し、誰かは――……、
「どう、して……?」
 戸惑い、混乱した瞳が見開かれる。
 ガラス玉めいた瞳は、襲撃者の姿を写していた。
 アダマンアントと呼ばれる蟻たちではない、少女の姿だ。
「どうし……ッあ゛!?」
「あなたじゃだめね、弱すぎる。
 強い『蟻帝種(アンティノア)』になるには、強くなくっちゃ」
 馬上の騎士が使うような槍で亜竜種の息を止めた少女は槍を振るい、血を払う。
 少女の視線の先に広がる亜竜集落は、『少女の身体』となった梓萱(ズーシュエン)と言う名の少女が兄とともに先日まで暮らしていた集落だ。――という知識はあるものの、少女には何の感慨も沸かない。
 この身は梓萱と言う名の少女のものだが、今は『蟻帝種となった梓萱』のものである。亜竜種ではない梓萱には、ただの亜竜種どもが暮らす地に過ぎない。
「『お兄ちゃん』が上手くやってくれているみたいね」
 集落には火の手が上がり、炎がパチパチと爆ぜている。遠くで響く悲鳴めいた声――と、何やらとても『兄』が楽しんでいそうな気配を感じ取り、梓萱もしっかりと役目を果たさねばと身を翻す。女王たるアンティノアクイーン・サンゴは自分たちのように『帝化処置』を施す亜竜種を求めておいでだ。
 そのため梓萱は、兄とともにこの集落を襲撃していた。
「あの人、なかなか良さそうじゃない?」
 家々の屋根へと登って強そうな亜竜種を物色していた梓萱の目が、大きな盾構えてアダマンアントの攻撃を躱す騎士めいた亜竜種の姿を捉えた。戦闘に不向きそうな亜竜種を背に庇い、大きく開かれた口は『逃げろ』と叫んだのだろう。苦しげな顔でアダマンアントたちの攻撃を受けるその姿に、梓萱は瞳を三日月に細めた。
 ――みぃつけた。
 にぃと好戦的な笑みの形に口角を上げた梓萱は屋根を蹴り、風を纏わせた槍を構えてレオナ(p3p010430)を襲撃するのだった。

「急ぎで向かって欲しいのじゃ」
 アダマンアントたちの女王アンティノアクイーン・サンゴは、『侵食計画』の発動を宣言し、イレギュラーズにも「邪魔をするな。邪魔をしなければ中立関係でいられる」との書状を送りつけてきた。当然ギルド・ローレットはサンゴの要求を跳ね除け、亜竜種たちを救うべくイレギュラーズたちを覇竜大陸へと派遣した。
 そして亜竜集落ペイトに着いた途端、瑛・天籟(p3n000247)が大慌てで飛んできて、そう告げたのだ。
 天籟が早口で説明するには、『フラーテル』と呼ばれる亜竜集落へアダマンアントたちが向かっているのを見た亜竜種がいるとのことだった。
「見たこともない蟻……いや、蟻の亜種もおったと聞いておる。『蟻帝種』と呼ばれるやつやもしれぬ故、気を引き締めて当たって欲しいのじゃ」
 亜種――蟻帝種とは、誘拐された亜竜種が『帝化処置』を受けた結果生まれた存在である。彼らの見た目は『元となった亜竜種』の姿をしているのに、中身は全くの別人――亜竜種ではなく蟻なのだ。そしてそうなってしまった以上、元の亜竜種に戻す術はない。
「蟻帝種が知り合いや元居た集落を襲う……という騒ぎも起きていると聞いておるのじゃ」
 そうした場合、襲われた側は相手を知っているため為す術もなく殺されてしまったり、攫われたり――と、どの結果もよくない。知り合いを前にして怯むひとの気持ちを知識として『学習』した蟻たちはそうした卑劣な手も取るようになったのだと、奥歯をぎりりと噛み締めた天籟は握りしめた拳を自身の足へと振り下ろした。
「何もなければ良いのじゃが……最悪、主らが着く頃には攻め落とされているやもしれぬ。……その際は蟻の殲滅よりも、生存者がいれば生存者を優先してほしいのじゃ」
 誰かが食い止めている間、もしくは間に合うことを祈っている。
 そう言葉を切った天籟は「いつも無理ばかり頼んですまんのぅ」と君たちを送り出すのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 今回は覇竜全体、そして透明空気GMとの合わせシナリオとなります。
 透明空気GM側と壱花側、同じタイミングで事件が起きているため、どちらかにしか参加できませんのでご注意下さい。

●目的
 亜竜種浚いを阻止
 梓萱の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 亜竜集落『フラーテル』内での戦闘になります。
 フラーテル内は炎に包まれています。蟻帝種の兄が火をつけ、妹が風で火を広げました。集落は燃えるものです。
 襲撃してきたふたりの『蟻帝種』の姿を見て、集落の人々は非常に困惑しています。
 フラーテル内の基本的な民の誘導等は透明空気GMチームが行ってくれるので、皆さんはレオナさんが攫われないように梓萱を撃退して下さい。
 レオナさんの周囲では動ける人は既に逃げており、もしかしたら梓萱の姿に驚いて足を止めたり腰を抜かしたりしている人が居るかもしれない……な状況です。居たとしても多くはありませんし、レオナさん以外の人的被害成功条件に含まれません。

●蟻帝種
 誘拐された亜竜種が『帝化処置』を受けた結果生まれた存在です。
『本人の知識』を受け継いでいますが、既に本人とはかけ離れた存在です。元同胞を殺すことも食料とすることも、何の躊躇いもなく行なえます。
 蟻帝種となった亜竜種が『何かの拍子に元に戻る』なんてことはありません。

●敵
・『蟻帝種』梓萱(ズーシュエン)
 元フラーテル住民で、梓睿(ズーイー)とは元兄妹。『帝化処置』を受けて別人となるも『本人の知識』を受け継いでいるため、一緒に蟻帝種となった梓睿のことを兄と認識しています。
 風の力を操り、得物は槍です。元の梓萱の時よりも何倍も強くなっています。

・アダマンアント×1
 滅茶苦茶硬い外骨格のアリ(全長2m)です。基本は顎による攻撃と酸攻撃。通常タイプ。
 適当に連れてきて集落に放ったアダマンアントの一体です。兄のように親しみがあるわけではなく、「なんか適当にやっておいてね!」くらいです。

●レオナ(p3p010430)
 元ペイトの戦士であったレオナさんは現在、各世界や集落等を回って修行の身。
 偶然居合わせたフラーテルで、「大きな盾持っているし強そう!」と梓萱に目をつけられてしまいました。
 突然襲われたレオナさんは盾で強撃に耐え、辺りに居たフラーテルの人々に「逃げろ」と声を掛けました。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <真・覇竜侵食>落魄のフラーテル完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
シラス(p3p004421)
超える者
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レオナ(p3p010430)
不退転

リプレイ

●強襲
 ――ガンッ!
 風を纏った槍の一撃を、『亜竜祓い』レオナ(p3p010430)の盾が辛うじて防いだ。「へえ」と小さく笑った襲撃者の声は、女性と言うよりは少女の其れで。
「全然本気じゃなかったけど、防げたのだし合格ね」
「……何者だ」
 目を眇め、レオナが低く問う。――問わずとも、答えなぞとうに知れていた。『亜竜種に害を成す者』だ。
 レオナがこの集落『フラーテル』に居たのは偶然だった。修行のために各地を旅して周っていたレオナだったが、近頃同胞たちが危険に晒されていることを知り警戒も兼ね、尚且まだ外部との交易が出来ないサヨナキドリ覇竜支店の販路を広げるために『覇竜事業部・調査開拓課』の調査員としての活動も兼ね、覇竜領域を廻っていたのだ。
 そしてそこで、アダマンアントたちの襲撃にあった。
 人々が騒ぎ出したかと思えば、あっという間に火が集落を飲み込んだ。逃げ惑う人々を救おうと奔走し、何故だか妙に困惑している同胞たちに声を掛けてまわり――そうしてレオナもまた、アダマンアントに遭遇した。
「あなた、この集落の人ではないでしょ? 見た記憶はないし、修行中の人って感じだものね」
 身と同程度の大きさの盾を構え、レオナは眼前の少女を隙無く伺い見る。つい先日亜竜種に対して宣戦布告してきた『蟻帝種』と呼ばれるアダマンアントの上位種なのだろうと簡単に想像がついた。少女との戦力差は――ビリビリと肌で感じるほどだ。
 本能は、すぐに逃げろと告げている。
 けれどそれは、『できない』。
 逃げたところですぐに追いつかれるだろうし、困惑して動けずに居る同胞がまだ側にいる。彼等を置いていくことなぞできない。
 されど絶望するにはまだ早い。特異運命座標の先達たちが情報を受け取り次第、必ず助けに来てくれると信じている。レオナが出来ることは被害を減らすべく、長くこの少女をこの場に引き止めることだ。
「ねえ、あたしたちの仲間にならない?」
「断る」
「どうして? 強くなりたいんでしょう? なれるよ、簡単に」
 あたしみたいに、と瞳を三日月に細める少女の言葉に偽りはないのだろう。
「梓萱……? 梓萱よね……? どうして、こんな……」
「……うるさいなぁ。あたし今、この人と話してるんだけど」
 少女の名は、梓萱。そして、どうやらこの集落の者『だった』らしい。
 梓萱の気配がスッと冷め、視線が無辜の民へと向けられる。
 ――いけない。
 そう思ったレオナは鋭く「逃げろ!」と口にするが、その女性は震え上がるばかりで、どうして、どうしてと、それしか言えないかのように繰り返している。
「邪魔をするの? それもいいよ。力づくで連れて行くだけだから」
 ちょっと寝ていてもらうね。
 梓萱が笑みを深める。
 楽しげに、残忍で、それでいてなお無邪気に。
 レオナは女性を視線からもかばうように盾を構える。明らかに格上の相手。本気で挑まれればレオナでは二撃と保たないだろう。
 それでも、それでもだ。
 レオナは仲間たちを信じている。
 そしてその信じる気持ちは、必ず天に通じるものなのだ――。

『ヒヒッ、頭を下げておくれねぇ』

 何処からか――否、『頭の中に直接』響いた声に目を見開くも、レオナは咄嗟にその声に従った。そうあれたのは、その声を『知っていた』からに他ならない。
 レオナが身を低くすると同時に、炎で赤く照らされる景色の中にキラキラと煌めく氷めいた美しい花弁がふわりと飛んでいく。触れるものを凍らせる、氷結の花だ。
「ああ、もう来ちゃったの」
 触れる前に跳んで躱した梓萱が、音も立てずにふわりと羽根のように爪先を地につけ、槍の先を駆けつけたイレギュラーズたちへと滑らせるように向けた。
 梓萱が空けた空間にはすぐさま『闇之雲』武器商人(p3p001107)が入り込み、「よく耐えたねぇ」とレオナを労う。調査員に危険はつきものとは言え、これは想定外の事態だ。
「大丈夫であるか?」
「立てるかな? 私たちが来たからもう大丈夫だよ」
 レオナの後方、腰を抜かしている亜竜種の女性の元には『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)と『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が駆け寄り、声を掛けている。背を支え、手を貸し、ふらつきながらも立ち上がった女性へ百合子は「吾に任せよ」と春を告げる花々のように愛らしくも力強く笑み、道中でも助けた人が乗っているリトルワイバーンの背へと載せた。
「吾は安全圏へと運ぶのである」
「私も手伝うわ」
 助けを求める気配は多くはないが、あちらこちらから感知出来ている。ひとまずの最優先は戦闘に巻き込まれる可能性のあるこの付近の人や、炎に呑まれそうになっている人、それから炎で倒壊する建物に巻き込まれそうになっている人と定め、百合子とスティアは梓萱の相手は仲間に任せ、炎に惑うフラーテル内を駆け抜けた。
 梓萱はふたりが離れていっても興味がないのか、視線で追うことすらしない。彼女の目的が集落の人々の殲滅ではないからだろう。
「キミは噂の元亜竜種、なのかな。キミらと共存出来ないのは残念だとは思うけど。たとえ女子供の姿だろうが、私は手加減も手抜きもしないよ」
「いいわよ、邪魔をするのなら排除するだけだもの。それにその方が、あたしも思う存分動けて嬉しいわ」
「レオナくんは連れて行かせないし、他の住民達だってこれ以上傷つけさせはしないよ」
 この体で思う存分戦ってみたかったのと微笑う梓萱の前に、レオナを隠すように『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が立ち塞がる。周囲に保護結界の力を広げながらも『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は彼女から視線を外さず言い放った。
 炎上している建物が、ガラリと音をたてながら崩れ落ちる。既に燃えてしまっている建物はどうしようもないが、結界内で新たに燃え広がることはないだろう。
 その音とともに、梓萱が地を蹴った。イレギュラーズの頭上を飛び越え、その槍先はほうき星のように真っ直ぐにレオナへと向かう。
「うちの調査員を連れ去らせはしないよ」
 庇いに入ったのは、レオナの前に立つ武器商人。鋭い一撃に体勢を崩され、膝をついた。
 くるんと回って元居た位置へと戻る梓萱の不意を着くように、『竜剣』シラス(p3p004421)が踏み込んだ。まずは要救助者の救援に向かったふたりの空いた間を埋めるためにも時間稼ぎ。そしてシラスよりも幼い少女にしか見えない梓萱の力量を測るために、その拳を突き出した。
「っ! ちょっと、危ないわね!」
「これが『帝化処置』か……!」
 様子見のシラスの攻撃では、梓萱はびくともしない。けれど眉を釣り上げた梓萱はアダマンアントに邪魔者たちの排除を命令する。たくさんのイレギュラーズたちに守られていては、最終的に浚えたとしても時間が掛かりすぎる。ギチギチと顎を鳴らしたアダマンアントは梓萱の意図を組み、レオナを守ろうとするイレギュラーズたちへと酸を浴びせかけた。
「さぁ、こっちだ! 両生類系の亜竜種を見るのは初めてかい?」
「そうね、初めてだけど……」
 建物や木々の焦げる臭いに酸が溶かす厭な臭いも混じる中、眼前に全力で踏み込んできた『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)に梓萱はぱちりと目を瞬かせた。それがどうしたのと言わんばかりの顔で、立ち塞がるだけのトストを不思議そうに見る。
「あたし、もうあの人にするって決めたの」
 だからごめんね? なんて。何故だか幼い少女に振られてしまったような心地をトストは覚えた。亜竜種を騙ったことは看破されてはいないようだが、ちょっとなんだか、心にくるものがある。
「キミ頑丈なんでしょう? 折角の縁だ、ちょっとスキルの試運転に付き合ってよ」
 梓萱から離れようとしないアダマンアントが、ギチギチと顎を鳴らしながらルーキスへ首を傾げる。時折ちらりと梓萱を見るのは『誰か』に梓萱のことを頼まれているのかも知れない。
 ルーキスの技はどれも、食らえば厭になるくらいなBSのフルコース。けれども味方をも巻き込むことを考慮し、選び取ったのは銀の鍵だ。鍵を掲げながら、彼等がもし害をもたらさない者たちならばと考える。されど考えても詮無きことだ。せっかくこの地に根付いた種だが、それがこの地に棲まう人々を害するのならば仕方がない。殲滅するまでだ。
「そういやお前達はどうして亜竜種を攫うのに拘ってるんだ? 他に強い生き物なんてこの土地にはいくらでもいるだろ。そいつら攫って仲間にしちまえば良いじゃねえか」
 繰り出す竜撃の一手に、梓萱は眉を顰める。この男、素直に強いのかもしれない。
「強い生き物でも知性がなかったら意味がないわ。亜竜種以外、ここにはいないじゃない」
 覇竜領域内における人間種は、基本的に亜竜種のみである。知識は武器だ。そのため、女王は人間としての知性と知識を持っている亜竜種を選んだ。生み育てることも出来るが、時間が掛かる。女王は、今はアダマンアントという種のためにも短時間で増やせる道を選び取ったのだ。
「強そうな人を捜してるなら俺はどう? 俺は鋼の鉄騎種でね、強靭さには自信があるよ。それに、この辺りでは珍しい種族だろう?」
 紫の閃光を放ちながらのイズマの提案に、少しだけ梓萱が考える素振りをした。
 けれどふるふると髪を揺すって。
「女王様は亜竜種を連れてこいと言ったの。あなたの体があたしたちみたいに『帝化処置』を受け付けるかどうかわからないわ」
 短時間で仲間を増やしたがっている女王ならば、より確実な方を選択することだろう。
 情報を引き出さんがための言葉を交えた攻防。詰め寄られれば風の力がイレギュラーズたちを纏めて吹き飛ばした上で動けなくし、その間にアダマンアントが梓萱を庇う姿勢で阻むように立つ。イレギュラーズたちが厄介なBSを多く持つことは、梓萱とてアダマンアントや亜竜種たちの知識から学習済みだ。元より抵抗が高い方だとは言え、食らわないで済むのならば食らわないほうが良い。
「お待たせ、今回復するね」
 一般亜竜種の避難を百合子に任せて戻ってきたスティアが、すでに二度膝をついてもなお立ち上がっていた武器商人へと福音を与えた。
 その間もイレギュラーズたちは苛烈に攻め続ける。
 アダマンアントも健気に梓萱を庇い、梓萱はイレギュラーズたちを纏めて吹き飛ばしては行動を阻害した。
「やぁやぁ吾こそは、白百合清楚殺戮拳咲花百合子! さぁ、ここからが本番であるぞ!」
 高らかな宣言とともに、イレギュラーズ側に風が吹いた。避難所を設営している百合子たちとは別のルートで来ていたイレギュラーズたちを発見し、彼等に要救助者を預けてきた百合子が飛び込んできたのだ。
 狙いは攻撃を受け続けたアダマンアント。いくら硬い外殻であろうとも、同じ場所にダメージを与え続ければ必ず綻びが生じる。空を仰いでからの流星が如く素早い四発の連撃は、アダマンアントの強靭な外殻を打ち破るに足りた!
「役者は揃った! 本気でいくぜ、蟻野郎!」
「失礼な雄ね、野郎じゃないわよ! けど、あたしも本気でいくわ」
 次は、立ち上がらせない。
 何度でも立ち上がるのなら、立ち上がれなくすればいい。百合子に外殻を砕かれ、ルーキスとレオナの続けざまの攻撃によって屠られたアダマンアントがざあと崩れるのを視界の端に捉え、梓萱は槍を構えた。
「キミたちの女王サマにも伝えておくといい。話し合いの余地とか言うのなら、せめて会談の機会と姿勢くらい作っておくべきだった。とね」
「分かり合えるとは限らないが、いきなり襲撃なんてしなければ戦わずに済んだかもしれないのにな」
「悪いけど、ここから先は通さないよ!」
 急所を狙う一撃。身を賭して、武器商人は仲間を守った。その遺志を継いだイズマが夜空を抱く鋼の細剣を閃かせ、トストもまた地面から無数の晶槍を生やして梓萱を攻撃する。
 梓萱はもう、ひとりきり。
 イレギュラーズたちのようにかばってくれる相手も、連携する相手もいない。
「うっざ」
 悪態をついて、所々に傷を負って、それでも彼女には余裕があった。
 けれどもその表情は、シラスの竜撃により苛立たしげに歪む。
「もうっ、本当に鬱陶しいったらないんだから!」
 少女特有の高い声が、炎の中に吸い込まれた。
 ――仕留めるべきはあの男!
 次なる標的を定めた梓萱が踏み込んで――それと同時に、声が響く。

「駄目ですよ、梓萱。さあ迎えに来ましたよ、お前の兄たるこの俺が!」

 時間が掛かりそうだと判じたら、この兄と帰る約束でしょう?
 イレギュラーズたちに飛びかかろうと地を蹴った梓萱の腰を、梓萱に良く似た男が浚っていた。
「お兄ちゃん!?」
 集落への襲撃は時間が経過すればする程、他の集落やイレギュラーズたちの救援が増える。予め決めていた時間までに浚えないようならば撤退をする。そのために兄妹は役割を分けたのだ。「迎えに来て正解でした、熱くなりすぎですよ」と男が安堵したように息をつく、が――。
「ああ、梓萱! 可哀想に、たくさん怪我を……あいつらですか? この兄が代りにぶっ殺してやりますね」
 瞬間的に沸騰するように膨らむ殺気に、イレギュラーズたちは身構える。
「帰るんでしょ、お兄ちゃん」
 けれどもそれは、梓萱の言葉ひとつで霧散した。そうでしたと笑った兄と呼ばれた蟻帝種が地を蹴り、梓萱はイレギュラーズたちに向かって思いっきりべーっと舌を出し、ふたり揃って戦線を離脱していく。
「待て……!」
 シラスは追おうとし――やめる。
 炎にのまれた集落で、またガラガラと民家が崩れ落ちる音がした。あっという間に姿が小さくなった二人を追うよりも、この集落でやらなければならないことはまだある。
 生存者を救うのだ。そう、頼まれた。
 百合子が他にも集落に来ているイレギュラーズたちがいることを告げる。彼等とも協力しあえば、救える命は多いことだろう。素早くイズマとトストが周囲に残党がいないか、警戒のために動く。ルーキスとレオナは武器商人に肩を貸して百合子のリトルワイバーンに載せ、移動を始めた。
(少しでも火の勢いが弱まりますように。どうか、雨を)
 儀式を執り行う手順は足りていないかもしれない。
 けれど、やがて。
 ――ぽつり、ぽつり。
 スティアの祈りが天に通じたのか、雨が降り始めた。
 まるで、集落の人々の心を表すかのように。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲

あとがき

仲間の救援でレオナさんは無事。
また、その後の活動で多くの亜竜種が救われました。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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