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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>彼方に見た潰えし夢に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「待たせてごめん、ようやくできたよ!」
 黒髪の幻想種、ノエルがアリシス・シーアルジア(p3p000397)らに声をかけてくる。
「では、こちらが?」
 アリシスの視線はノエルが小さな箱に入れて持ってきた物に向けられている。
 一見すると種のようにも見えるそれ。
「そう、それが百合花の魔女フレイアの魔術、叛服の百合への対抗魔術だよ」
 そう言ったのはノエルの隣に姿を見せたブロンドの幻想種、エルリア・ウィルバーソンである。
「エルリアちゃん、これどうすればいいの?」
 エルリアへと問いかけた炎堂 焔(p3p004727)に、彼女はそれを今から説明するね――と頷いて。
「その空間の中に入ったら、その種を地上に巻いてほしい。
 そしたら、その種が芽吹いて景色を塗り替えなおすんだ。
 相手がどんな景色を描こうと、今度の戦場は『迷宮森林にある小さな町の郊外』になるよ」
「それで、その町から師匠……フレイアは出れなくなるんだね?」
 そう問いかけたのはウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)だ。
「出られない。その空間はもう師匠の空間ではなくなるからね。
 後はもう――倒せばいいよ」
 ウィリアムの問いに、ノエルが頷いて見せる。

「ユニスお姉さん……待っていてください。
 ルシェ達がこんどこそ……」
 キルシェ=キルシュ(p3p009805)はそっと淡い髪色をした幻想種の少女――ユニスを真っすぐに見る。
 ユニスは小さく頷いて返してくれる。
「ユニスちゃんは多分、ここにいた方が良いと思う」
「そうですね、わざわざ身の危険があるところに行かれる必要はないかと」
 焔とアリシスに肯定され、ユニスはこくんと頷く。
「……いえ、私も連れてっていただけませんか?」
「フレイアお姉さんと話し合えたら……良いと思うの。
 でも、それは危ないのよ!」
 思えば意外にも長い関係になったユニスやノエル、それに師匠ことフレイアとの関係だが。
 そこにある蟠りが少しでも溶ければいいと――そう思う。
 それでも、流石にそれは無茶だと。
「私がいれば、魔女フレイアは確実に皆さんの前に姿を見せるはず。私を囮に使ってください」
 そう言った少女の眼は、真剣そのものだった。


 ――百合花の魔女フレイアとイレギュラーズの戦いは、ユニスと言う少女との邂逅から始まった。
 当初、その空間に足を踏み入れれば大地に干渉して情報を書き換える異空間として登場したそれ。
 常に矢面にノエルを押し立て、ユニスの確保を狙い続けた魔種フレイアは、賭けに出たノエルが離脱した後、初めてイレギュラーズとの本格的な決戦となった。
 敵が『自分にとっての都合のいい戦場、都合のいい状況』を無理矢理作り出せる、いつでも撤退できる以上、その場で勝つことは明確に不可能。
 そのためにイレギュラーズは敵の手札を暴き、フレイアの魔術への対抗手段の構築を優先した。
 ――そうして、今。
 ようやく、対抗する術を開発したイレギュラーズは、ファルカウの上層へ向かうべく足を進めていた。

「あらぁ? まさか、のこのこと来てくれるなんて!」
 不意に、景色が転じて喜色を隠さぬ声がした。
「けれど……なんだか、お邪魔虫が多いわねぇ」
 フレイアは面倒くさそうにそう言って、こちらを見ている。
「――今度は逃がさないよ!」
 愛槍を構えた焔は、そのままそっと貰い受けた種を地面へ。
 地面に付着した種は、瞬く間に美しい花を咲かせる。
「では改めて――先日にお答えいただけなかったことを、教えていただきましょう」
 アリシスも同じように構え――そして種を巻いた。
 イレギュラーズが8つの種を巻いていくにつれ、フレイアの表情に驚きが浮かび上がる。
「――まさかっ! そんな! 私が一生をかけたものが……!」
 声を震わせる魔女は――再び変わった景色に自分がどういう状況か理解したようだった。
「――良いわ、そっちがその気なら、わたしもやらせてもらうわね……」
 そう言って目を閉じた魔女が詠唱を唱えれば、魔女とイレギュラーズの間に4つの魔方陣が浮かび上がり――中から4人の男女が姿を見せる。
 その装束は伝承に言うところの悪魔あるいは夢魔のように見えた。

GMコメント

 それでは、なんやかんやで長らく続いたお話に終止符を付けましょう。

●オーダー
【1】『百合花の魔女』フレイアの討伐

●フィールド
 迷宮森林にある小さな町の郊外。
 モデルとなった町はユニスとノエルにとっての故郷、
 2人が初めてフレイアに出会った場所です。
 美しい花々が生えた綺麗な花畑が広がっています。

 正確には『広がっているように見える空間』でしかなく、本当はファルカウ中層です。
 脱出は皆さんがフレイアに勝利するか、皆さんが全滅(またはそれに等しい状態)になるまで不可能です。

●エネミーデータ
・『百合花の魔女』フレイア
 魔種、属性は怠惰。黄緑色の髪を揺らす幻想種の魔女。

 非常に飽き性かつ卑怯。
 高いHP、防技、反応、EXAを持ちます。
 魔女と言うだけあり基本的に神秘攻撃を行ないますが、近接での物理戦闘も可能です。

<スキル>
 その茨には毒がある。(A):広域に猛毒の茨を生やして絡めとります。
神超域 威力中 【万能】【猛毒】【致死毒】【停滞】【呪縛】

 茨刺の蛇(A):蛇のように蛇行しながら走る茨で直線を貫きます。
神超貫 威力大 【万能】【致死毒】【痺れ】【致命】

呪毒の一刺(A):対象の足元に茨を召喚して攻撃します。
神超単 威力中 【万能】【猛毒】【致死毒】【致命】

 踊り狂う茨(A):対象の背後から茨を生やして投げ飛ばします。
物中単 威力中 【万能】【ブレイク】【飛】【猛毒】

 呪解の種子(A):状態異常を取り除き、自らを強化する種を取り込みます。
物自付 威力無 【HP回復小】【BS回復】【反】【自カ至】

・スロースサキュバス×2
 いわゆるサキュバスです。
 冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種化しています。
 人語を介します。広範囲に向けて雨あられと魔法をぶち込む戦闘スタイルです。
 その他、ライフドレイン(HP吸収)を用います。

・スロースインキュバス×2
 いわゆるインキュバスです。
 冠位怠惰カロンの影響により変質し、怪王種化しています。
 人語を介します。魔力で身体強化を施しての近接物理戦闘を主体とします。
 その他、エネルギードレイン(AP吸収)を用います。

●友軍データ
・ユニス
 深緑のある集落でレンジャーを務める少女。
 皆さんよりはややスペックが低めですが、
 サキュバス、インキュバスであれば問題なく戦えます。
 基本はレンジャーらしく、中~超遠距離タイプのサブアタッカーです。

・レンジャー×11
 深緑のとある集落のレンジャー、ユニスの同僚に当たります。
 ユニスの要請を受けて到着しました。
 近接の軽戦士風と魔術師風がバランスよく構成されています。
 サキュバス、インキュバスであれば問題なく戦えます。

  • <太陽と月の祝福>彼方に見た潰えし夢に完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年06月30日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
越智内 定(p3p009033)
約束
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ


(中途半端にしか関わってないから話はよくわかってないが……まあ、敵は倒さないとな。
 なんかろくでもないこと考えてそうだし……俺も暇じゃないからね、妖精郷関連に集中したいけど……)
 乗り掛かった船だ、と『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は魔種を見る。
「しかし一生かけて構築したものが一年足らずに突破されるのはちょっとかわいそうだな」
 その言葉は、フレイアにも届いたらしい。ひくりと表情が歪んでいる。
「……まあ、敵だから無慈悲にぶちのめすが」
 殺気を感じて、サイズはそっと武器を構えた。
「成程、面白い事を考えるものです」
 発生した現象に頷いて見せるのは『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)である。
「同系統の術式による上書きか……強度と強制力で上回れば、解除しない限りそのまま固定化もできるでしょう。
 ……お気の毒だけれど。特に、貴女のプライドを散々に傷付ける効果は、言わずもがなという所のようですね」
「えぇ、えぇ――本当に……そうみたいねぇ!」
 淡々と事実を突きつけてみせれば、今にも暴れ出しそうな怒りを覗かせた。
 怠惰であろうにもかかわらず、随分と激情的だ。
「最初にあの白百合の花畑で会ってから……ううん、ユニスちゃんにとってはノエルくんが攫われてから。
 関わるのもずいぶんと長くなったけど、もうこの空間はあなたの自由になる場所じゃない!
 ここで決着をつけるよ!」
 カグツチを構え『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は真っすぐにフレイアから視線を外さない。
「……こんな時になんだけど、術式『叛服の百合』、すごい魔術だね。
 僕達は神秘が得意だけど、それにしてもこんなに強力な魔術を編めるなんて、素晴らしい才能と努力だと思う」
 改めて『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)はその術式の事を思う。
(魔種になった経緯は知らないけれど……惜しいね。
 こんな出会いでなければ教えを乞いたいくらいだったよ)
 それは、そっと胸の内に潜めておこう。
「僕は彼女……フレイアって人がどんな人なのか、何をして来た人なのか何も知らない
 けれど此処には何かを成したい人が集まっているんだろう?」
 『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)の言葉に、頷く者達がいる。
(練達では沢山の人に助けられたんだ。
 受けた恩をそのまま誰かに返すんじゃない。
 誰にだって受けたものを同じように配って行くんだ)
 そう決めたのだと。
 戦う事はまだ怖いけれど――それでも、決めたからには前を向く。
「フレイアお姉さん……」
 フレイアを見て、『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はその瞳を揺らしていた。
「話し合いで、終わらせたかった。
 でも、話す気になってくれないなら、倒すしかない。
 ユニスお姉さんとノエルお兄さんの為にも、ここで終わらせます!」
 真っすぐに、そう告げて――そして、決めた。
(ルシェは、お姉さんに言いたいことがあるわ……)
 幼き少女の視線に気づいたらしいフレイアが微かに動揺を見せた気がした。
「……定お兄さん、ユニスお姉さんのこと、よろしくお願いします」
 キルシェは定の事を見上げてそう言えば。
 彼が頷いてそっとユニスの方へと近づいた。
「あの夢魔は定達に任せるわ。頼りにさせて貰うからね!」
 両手に術式を起動しながら『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は定と幻想種達を見て笑った。
「なにがあったのかわたしは知らない。
 でもここに立っている以上なにをすべきなのかは知ってるよ!」
「へぇ――そうなの?」
「悪い魔女はいつだって最後は倒されるんだ!
 それはずっとずーっと昔から決まってること! だからここで終わらせよう!」
 斧槍を片手に『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)が言えば、魔女は冷静さを取り戻したように見えた。
「ごきげんよう、お邪魔虫その1よ。
 貴方の茨、今から根こそぎにしてあげるから。覚悟なさい!」
「ごきげんよう。全くもって面倒ねぇ――仕方ないわ。もう諦め――」
 両手に術式を起動しながら告げた『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)の言葉に、魔種は深いため息を吐いた。
 刹那、パチン、と魔女が指を鳴らし――ユニスの足元に茨が姿を見せる。
 だが、それがユニスに傷をつけることはなかった。
 理由は2つ。
「最初から大嘘だな……!」
 1つはユニスを押しのけるようにして、定が変わって受けたから。
 腹部を刺す毒性こそ問題ない。ただちょっと――けっこう痛いだけだ。
 そうしてもう1つ。
「言ったでしょ、次は当てるよって! まぁ、聞こえてなかったかもしれないけど!」
 焔が叩き込んだ炎の槍による刺突が腹部に突き立ったから。
 フレイアは『そうする』と分かっていたからこそできた奇襲。
 攻撃を受けた魔種が明確に驚きで目を瞠っている。
「ようやくノエルくんが帰ってきて、これから離れてた分の時間を取り返さなきゃいけないんだもん。
 そんなユニスちゃんを傷つけさせるわけにはいかないよ!」
「やって、くれたわね……」
 魔種の表情が露骨に歪んだ。
「怒るのも疲れるもの――全く、人に自分の物を奪われたのは2度目だわ……」
 冷静を装い、全てを侮蔑するように舌打ちして、魔女は術を行使する。
 刹那、広域を覆いつくす茨が足元からイレギュラーズへ襲い掛かる。
 続けるように放たれた茨は蛇のように蛇行しながら数人を貫くように走る。
 魔種の猛攻を凌ぎ、アリシスは静かに術式を起こす。
「正直、ここまでの物とは私も驚きました」
 フレイアと視線を合わせたままに微笑する。
「エルリア様もいらっしゃったとはいえ、ノエル様はかなりの才能をお持ちのようですね」
「ノエ、ル? ……これを作るのに、あの子も協力したのね……」
「己の命を懸けて歩んでいたのは、何も貴女だけでは無いと言う事です」
 ぎりり、とフレイアが苦虫をすり潰したような表情になったのが見えた。
 それにあわせて、浄罪の剣を射出。鋭く飛翔した剣は防御術式を起こしたフレイアの上から雷を撃つ。
 サイズは鮮血に輝く鎌を地面へ突き立てた。
 鮮やかな輝きを放つ鎌の先端から魔方陣が展開していく。
 それを確認すると、そのまま鎌をフレイアへ向けた。
「とっとと滅びろ怠惰の魔種、あんたらと夜の王のせいでこっちは寝る時間もないほど忙しいんだよ」
 先端に砲口をくっ付け、狙いを定める。
 そのまま充填した魔力を苛立ち込みで思いっきりぶっ放した。
「……さて、長く続いた因縁もこれで決着か。
 最後は純粋な力勝負だね。存分にやり合うとしようか!」
 続けてウィリアムが走る。
 幾重にも魔力を集め、愛杖の先端へと集束させていく。
 気づいたらしいフレイアが咄嗟に魔方陣を構築するが、ウィリアムは気にせずその上から殴りつけた。
 炸裂の瞬間に放たれた濃密な魔力が、魔方陣を砕き、痛撃を見舞う。
「竜にこの程度の毒が聞くと思ったら大間違いだ!」
 ユウェルは自らに絡みつく茨をはぎ取るように空を駆けた。
 重量に加えた上段からの振り下ろしによる三連撃で殴りつけていく。
 守りを固めようとしたフレイアは、その両手に陣を浮かべることも出来ず強烈な斬撃に直撃していく。
(きっとせんぱいたちとかユニスとか色々言いたいこととか話したいことがあるんだろうけど、わたしはそれを知らない)
 ――けど。
(その言葉を届けるお手伝いくらいはできるしやりたい!)
 全力を込めて、斧槍を振り続ける。
 1つでも多く。一度でも多く。魔女に傷を加えるために。
「煮え滾れ、竜血。鮮烈なれ、我が魂魄。
 紅焔巡りし力の環(わ)、轟き吼えて威を示す。赫灼たれ、我が一撃よ!」
 どくんっ――心臓の音が大きく脈を打つ。
 詠唱は自らの魂が根源への道しるべ。
 血潮が沸き立ち、全身を駆け巡り、集束していく。
 尋常じゃない光を纏う術式にフレイアが警戒を露わにする。
「――アウローラ・イクトゥス!」
 至近距離より放つ竜撃の極致。
 薙ぐように放たれた脚撃はしなりを上げて魔種の腹部を穿つ。
 温かな光と歌を奏で、戦線を支えんとあらん限りの力を起こすキルシェはフレイアへと声をかけた。
「あのね、フレイアお姉さん。前にも言ったけど、フレイアお姉さんが怒る相手はユニスお姉さんのお母さんなの。
 だからね、こうやってユニスお姉さんのお母さんに対する復讐とは言え、ユニスお姉さんを狙い続けるフレイアお姉さんにルシェ怒ってるの。
 もうフレイアお姉さん逃がさないし負けない」
 胸を張って、キルシェは胸の内をうつ感情を明確なものにして声を上げる。
「ふ、ふふ、ふふふ……いうわね、お嬢ちゃん?」
 表情を引きつらせながら笑ったフレイアへ、キルシェは真っすぐに視線を合わせる。
「――だから、ルシェたち勝ったら、ユニスお姉さんとノエルお兄さんに謝って下さい。
 それから、今度こそユニスお姉さんのお母さんと喧嘩してください!」
「――全く、貴女ぐらいの歳の子に何が――」
「ユニスお姉さんと、ノエルお兄さんは、ルシェと同じ頃の時離れ離れになったんでしょう?」
「……いいわ。勝てたなら――えぇ、勝てたなら、ね!」
 続けようとした言葉を、魔女は噤んだ。
 その視線はユニスを刺すように見ているのが分かる。
「いいわ、ちっぽけな人類共、一緒に夢を見ましょう。
 とっておきの夢を見せてあげる」
 凄絶な笑みを浮かべた夢魔の女が、掌を頭上に掲げれば浮かび上がった魔方陣。
 閃光一つ、一斉に魔弾が戦場に雨と降り注ぐ。
 直撃を受けた者の身体から淡い輝きが放たれ、空に舞い上がる。
 夢魔のもう片方の手が浮かべた魔方陣へ、それらの輝きが吸い取られていく。
「君、大丈夫か?」
 定の問いかけに淡い輝きを浮かべたレンジャーが頷いた。
(多分、今ので精気を取られるんだ……だったら、あの吸い取った魔方陣を壊せれば――)
「ふははははっ! 自分から突っ込んでくるたぁ、良い度胸だ! 楽しませてくれよぉ!」
 あざ笑う男の夢魔に魔方陣ごと殴りつけられたレンジャーが苦悶の表情を浮かべた。
「頑張ってくれ、なんていうのは簡単だけど……」
 ――苦手なんだよね、自分が出来ない事を人にやらせるの。
(でも、この子を託されたんだ……だから、ここからでもやれることを)
 体勢を立て直し、攻撃するレンジャー達の間を縫い、希望を掴むための一手を撃つ。


 戦いは長い時を進み続けている。
「――はっ、はっ、はっ……」
 ズタボロになった魔種は、それでもどこからか小さな種を取り出した。
 それを口に運び嚥下すれば、その身体に刻まれた無数の傷が癒えていく。
「それは使わせないよ!」
 その瞬間、焔は槍を構えて跳びこんだ。
 横薙ぎに払う炎の一閃が魔種の中に入った種を破砕する。
 ほぼ同時に、ウィリアムも動いていた。
「鎧貫・参式」
 杖の先端を突きつけるようにして構えれば、魔女の周囲にあった空気が揺れ、深く浸透して炸裂する。
 驚いた様子のフレイアの腹部にて再度のフルルーンブラスターが魔女の肉体に痛撃を叩きつけた。
 腹部を抑えて後退した魔女に、焔は揺るがぬ瞳で目を合わせた。
 流れるように槍を振るえば、一気に踏み込んで突き上げる。
「停滞は個人的には喜ばしいことだが……妖精や俺を巻き込むんじゃねぇ。
 沸き立てカルマブラッド、妖精と待ったり過ごすために敵を斬滅――いや」
 往生際悪く足掻くフレイアめがけ、サイズは砲口を向ける。
 全身の魔力を注ぎ込んだ魔弾は鮮血を彩り、溢れる輝きは飽和する。
「――撃ち滅ぼせ!!」
 ドォゥと砲撃が放たれる。全身が吹き飛ばんばかりの力を込めた砲撃は、真っすぐに魔種の身体を穿つ。
「この綺麗なお花畑で終わりにしようよ、魔女さん」
 ユウェルはフレイア目掛けて再度の吶喊を試みる。
「私は、まだ終わりたくない! 終わりたくないのよ! だって、まだ――まだ!
 ――まだ、なんだっけ?」
 不意に、魔女の表情がすとん、とゼロになった。
 驚きつつも、最早止められない、止まらない。
 ユウェルの連撃が魔種を切り刻むべく振り下ろされた。
「これでも、私は魔術探究者の端くれ。アンタが使う魔術の凄さは、本当に良く分かるわ。
 だからこそ、その魔術の全てを真っ向からブチ破る事で教えてあげる。
『そんな、ねじ曲がった魔術(いきかた)は先が見えている』ってね!」
 燦火は真っすぐに魔女を見る。
 震える手でもう一度種を取り出そうとしたその手を見据え、思いっきり蹴り飛ばした。
 鮮やかなに放たれた紅蓮の脚撃にふらふらと魔女は後退する。
「さて。嘗ての貴女とユニス様のお母様の間に何があったのでしょうか?
 ……一つ。貴女達は『目指すものの違いから袂を分かった』のではないですか」
「――えぇ、たぶんそうね。もう覚えてないし、あの女から聞いたわけじゃないけれど」
 アリシスの問いに、眼を細めてフレイアが応える。
 風前の灯の魔種は、どこか諦めのようなものを感じさせる一方で、諦めていないようにも見える。
「――舞幻・告死蝶」
 ロタ・アルジェンティが鮮やかな光を放ち、応えた者達が淡く輝く蝶へと変じてその姿を見せる。
 けしかけられた蝶がフレイアの身体へと纏わりつき、安堵するような笑みが見えて――魔女は崩れ落ちた。
「指示待ち人間の僕がこんな事するなんて訳わかんないぜ」
 そんなことを口走る定は冷静にその状況を見つめていた。
 近づいてきた魔物を思いっきり殴りつけてから倒れ伏した魔種を見たその時だった。
 夢魔たちの足元に魔方陣が浮かび上がり、ひゅん、と消えた。
 まるで契約終了を告げるかのようだった。


 死に体でぼんやりと虚空を見つめる魔女に最初に近づいたのはアリシスだった
「己の初志を忘れたというのは本当かもしれませんが、さて。
 この様な術式を研究するからには、お二人にはそれぞれ胸に抱く目的、願い、理想があった筈。
 フレイア、貴女は……そしてユニス様のお母様は何を願って、実現する為に研究をしていたのですか?」
「……私達の、夢……? なんだったかしら――あぁ、本当に。なんだったかしらね?」
 自嘲するように、魔女は笑う。
「こんなにも固執したのだから、きっとそれは大切な物だったはずなのに――」
 ――忘れちゃった。
 苦い笑みを浮かべる魔女は、嘘など言っていないだろう。
 何もなくなった挙句の果てに、魔女はぽっかりと喪った胸に笑うしかなかった。
「……終わったんだね、終わった、よね?」
 焔は小さく呟く。
 これで終わり、だって――この魔種はもう死ぬのだから。
 ――でも。
「うぅん、終わらせたくないわ」
 キルシェは静かに声を上げる。
「だって、フレイアお姉さんも被害者だもの。
 フレイアお姉さんはユニスお姉さんとノエルお兄さんに謝らないといけないけど、
 そもそもの原因であるユニスお姉さんのお母さんが一番悪いのよ。
 だからね、一緒に行くから、ちゃんと謝って貰いに行きましょう」
 それは幼いながらに聖女の風格を持って、キルシェは言う。
「――いやよ……」
「お姉さん!!」
 思わず声を張り上げたキルシェに、フレイアは苦笑したまま、焦点のあっていない瞳を少女に向ける。
「……彼女が何を思って私を裏切ったのだとしても、謝って貰ったって気分が悪いだけだもの。
 ――もう、遅いのに。今更謝られて、私、どうしようもないわ」
 術式が解けて、世界が戻ってくる。
 その時になって、魔女は初めて優しい笑みを浮かべた。
「最期に何か言い残したいはあるかい?」
 ウィリアムの問いかけに、フレイアは乾いた笑みを浮かべる。
「そうね、なら、最後に一つだけ。
 ……悔いはないの。謝ることは、出来ないわ。
 でもね、でも――あの子に、ノエルに伝えてちょうだいな。
 ――おめでとうって……貴方は私の弟子、卒業よって」
 何の変哲もない、ファルカウへと戻る空を見上げて、それっきり魔女は眠りに落ちた。
 目覚めることのない眠りについた。
「悪い魔女は倒されてめでたしめでたし……なのかなぁ。
 これできっとよかったんだよね? ……わたしはわかんないや」
 ぽつりと呟いたユウェルの言葉に、誰も答えることはできなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お待たせしまして申し訳ございません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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