PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>赫の森

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 燃えている。燃えてゆく。
 火の粉が舞い、はぜて、表皮を火が舐めるように進んでいく。
 熱が侵食して、どうと樹木が倒れた。緑豊かな森はそこに無く、樹木が倒れた先にあったそれも、生い茂る葉も、全てが灰塵に消えていく。
 炎の大精霊フェニックスに起こされていた火は、今や冬を溶かすためにはない。魔種側に操られたその火は、ただただ森を燃やす炎になったのだ。

 しかし、それを押し広げようとする姿がある。
 あっという間に火が取り巻いたそこを、緩慢に動くそれはぼたぼたとマグマをこぼした。そこらの雑草が瞬く間に形を失っていく。
 それが――溶岩のような皮膚を持つモンスターが向かうのは、まだフェニックスの炎が広がっていない地域。さらなる延焼を起こすため、ぶんと勢いのままに飛来したマグマが木々を倒していく。ドォン、と大きな音とともに、火が進むべき先を見つけて勢いよく侵攻した。
 それは止まらない。炎は止まらない。
 止まるのは全てが赫に包まれた時か、あるいは。

『――イレギュラーズ』

 それは喋った。ひび割れたような、ノイズ混じりな声で世界の可能性を秘めた者たちを呼んだ。
 彼らは特段強いのだという。この深緑を手中に収めようとしているのは冠位と名の付く者たちだが、彼らまでもが警戒せずにはいられない。簡単に振り払える火の粉ではないのだと示している。
『強イ、強イ者。ドノクライ強イ?』
 にたあ、と笑う。まるで、その瞬間を待ち焦がれるように。
 一歩を踏み出したそれの足元で、蕾の綻んだ花が溶けた。そんな些末なことは気にしない。これが他のもの――例えば、無力な幻想種――だったとしても、同じ末路を辿っただろう。

 過ぎた道には何も残らない。それを止められるほどの強き者が現れるまで、それは只々進むのだ。



「誰か手の空いている者はいないか……!」
「フレイムタンくん! どうしたの?」
 切羽詰まった様子で迷宮森林からから戻って来た『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)に炎堂 焔 (p3p004727)が駆け寄る。冠位魔種のいるファルカウ上層へ向けて進軍しようとしている中だ、周囲もフレイムタンに負けず劣らず慌ただしい。
「フェニックスの件は聞いているか?」
「う、うん。冬を溶かすために呼んだフェニックスが、魔種に操られちゃってるんだよね」
 コクリと頷く焔。焔王フェニックスの炎は吹雪の檻を穿ち、イレギュラーズたちへ前に進むための導を示した。しかしそのフェニックスが敵に操られたことにより、迷宮森林の一部が燃えているのだとも聞いている。
「その炎を広げる輩がいる」
「えぇっ!? 早く止めないと」
 フレイムタンは首肯した。勿論、これ以上の被害が看過できるわけもない。そして人を集めて挑まなければ、悪戯に怪我人を増やすだけだとも知っている。
「その一件、私も加わらせてもらえる?」
「あっルナリアちゃん!」
 振り返った焔はぱっと表情を明るくした。声をかけてきたのはルナリア・エフィルディス――迷宮森林警備隊の隊員であり、風の魔術に長けた人物でもある。
「ルナリアちゃんが来てくれるなら心強いよ!」
「風の向きを操って、延焼を多少抑えることは出来ると思います。ただ、鎮火は……」
 口惜しそうに唇を噛むルナリア。彼女が得意とするのは風であって、水ではない。広がることを阻止はできても、根本的な解決には至らないだろう。精々、皆が戦うための時間稼ぎになる程度か。

「――それ、私も行っていいのかしら」

 不意にかかった声に一同が振り返る。ルナリアと焔があっと同時に声を上げた。
「ミーシャちゃん! 無事だったんだね!」
「どうにかね」
 ミーシャと呼ばれた少女はやれやれと言いたげに溜息をつく。救出されて目覚めてみれば、深緑が魔種に乗っ取られようとしているし、我らがファルカウにはおいそれと近づけない状況。随分厄介事に巻き込まれたものである。
「ここまで巻き込まれたら、面倒とも言っていられないわ。……私たちの国だもの」
 本来なら、なんだって頼まれなければなりたくないくらい面倒臭がりなのだけれど。深緑を想えば、その重たい腰だって上がるのだ。
「2人で力を行使すれば、安全地帯を多少押し広げる事もできると思うわ。勿論、炎を広げる厄介者の邪魔がないことが前提だけれど」
 ミーシャとルナリア。向かってくる炎を風で押し返し、火力を押さえられているところへ水の巫女たる力で鎮めるというわけだ。どちらかが欠ければ炎を完全に抑え込むことは不可能だが、そのリスクを負ってでも厄介者の討伐に力を向ける手もなくはない。
「どちらにしても全力は尽くします」
「まずは十分に人を集めてからよ。せめてあと何人か……ああ、貴女とか」
「はい?」
 ふと首を巡らせたミーシャ。呼び止められた冰宮 椿(p3p009245)はぱちりと目を瞬かせた。

GMコメント

●成功条件
 ラーヴァの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 火が回っている迷宮森林の一部です。光源には事欠きませんが、【窒息】判定が毎ターンあります。
 火がイレギュラーズにも迫ってくる他、倒木の可能性も十分にあります。また、特に整地されている訳ではありませんので、木の根や地面の凹凸があります。
 かなり危険な場所ですが、ルナリア・ミーシャの力を合わせれば一時的に火の手を抑えることが可能です。これにはエネミーの邪魔が入らず、また2人が火の手を抑える以外の行動ができなくなる制限がかかります。
 片方だけであれば迫る火の手を若干軽減する程度に収まります。

●エネミー
『溶岩男』ラーヴァ
 その二つ名の通り、溶岩でできたような男です。目に当たる部分には赤い光が灯っています。片言で喋ることができ、その言動からはイレギュラーズを待っていたことが伺えるでしょう。皆様を視認した時点で戦いを挑んできます。
 攻撃力・防御力に優れています。溶岩でできた体は非常に熱く、接触すること自体が危険です。
 近距離アタッカーですが、マグマを飛ばしての攻撃が可能です。また、飛ばすマグマを多くすることで範囲攻撃にもなります。【反】を持っています。
 またその体からは一定時間ごとにマグマが垂れ落ち、マグマ溜まりが形成されます。これはラーヴァがマグマ溜まりから離れることで、冷えて溶岩に変質します。溶岩には何の効力もありませんが、マグマ溜まりに触れている場合継続ダメージが発生します。
 その他、記載のない攻撃方法やBSが想定されます。注意してことにあたってください。

●友軍
・ルナリア・エフィルディス
 炎堂 焔さんの関係者。迷宮森林警備隊の隊員で、隊長であるルドラをとても慕っています。
 余所者、特にルドラへ近づこうとする男性へは厳しい態度を取りがちですが、元々は穏やかで優しい性格です。同胞には本来の気性で話すことでしょう。一度イレギュラーズと共闘したことで、余所者に対する偏見も多少緩和されています。
 戦闘に置いては風の魔術を行使し、十分に戦えます。あるいは、フィールドの延焼を押しとどめるために全力を尽くします。イレギュラーズからの指示があれば可能な限り従います。

・ミーシャ・リディア・ハートフィールド
 元は焔宮 鳴さんの関係者。【水の巫女】と呼ばれる幻想種の女性。女性ですってば。年齢の話題は禁句です。
 他国や他種族への交流については比較的嫌っていません。誰に対してもそこまで態度は変わらないでしょう。
 冷静かつ面倒くさがりやですが、お願いされたら断れない性格です。彼女も故郷を守るために今回は奮闘してくれそうです。
 水を操り、防衛向きの力を持っています。その分攻撃面は不得手です。防御面での支援を行うか、イレギュラーズが戦うための安全地帯を広げることに全力を注ぎます。イレギュラーズからの指示があれば可能な限り従います。

・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 鉄帝にある『銀の森』出身の精霊種。皆さんと同じイレギュラーズであり、そこそこ戦える近接アタッカーとしてご認識下さい。
 焔の因子によるものか、フィールドに対しての耐性があります。多少の無茶は利くでしょう。
 イレギュラーズからの指示があれば可能な限り従います。

●ご挨拶
 愁と申します。燃える森の中での戦いです。
 友軍の活用方法によって戦い方も気をつけることも変わってくるはずです。しっかり相談して出発しましょう。
 それでは、よろしくお願い致します。

  • <太陽と月の祝福>赫の森完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ヨシト・エイツ(p3p006813)
救い手
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
冰宮 椿(p3p009245)
冴た氷剣
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 走る、走る。
 9名のイレギュラーズおよび同行を申し出たルナリア・エフィルディス、ミーシャ・リディア・ハートフィールドは風の運んでくる、焦げ臭いそれを追う。
 本来ではこの土地で嗅ぐことなどありえない、禁忌の臭い。ハーモニアが眉を寄せるのも当然のことであった。
「もうすぐでしょう」
 臭いが強くなってきた、とルナリアが剣呑に眉根を寄せる。先ほどより空気も乾燥していて、清純な森の気配は薄い。
「フレイムタンさん」
「なんだ?」
 『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の言葉に『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が速度を落とさず、視線だけそちらへ落とす。いつ何があっても良いようにと、周りを警戒しながら。
「私、前よりも強くなったんです」
 初めて出会った時は、まだまだ未熟で。今だって1人で大丈夫だなんて言えるほど強いわけではないけれど、でも、確実に彼女は新米から抜け出して、立派な1人前へと大きく歩んでいる。
 もう頼るばかりではないのだと、久方ぶりの貴方へ伝える為に。
「今回は、私も頼ってください。そして――頼りにも、させてもらいますから」
 マリエッタの言葉にフレイムタンは小さく瞠目して、それからふっと笑みを浮かべる。
「承知した。よろしく頼む」
「……はい!」
「――フレイムタンくん、皆っ、炎が見えてきたよ!」
 ルナリアと共に先頭を行く『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、視界にちらついた赤を見て声を上げる。火の回りが思ったより早いとフレイムタンは顔を顰めた。
「ラーヴァの影響って事?」
「ったく、このクソ忙しい時に迷惑な事しやがる」
 その言葉を聞いた焔の言葉に『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が思わず舌打ちする。手がかかるのは此処ばかりでないと言うのに。
 しかして、この場を急ぎ収めなければならないのもまた、事実である。
「いたぜ!」
 地を蹴り、アルヴァが火蜥蜴に勢いよく肉薄する。
 人にしては大きく、人にしては頑丈で、マグマをあちこちから垂れ流すそれは、到底人ではないだろう。アルヴァはその顔面目掛けて空砲を1発。
「随分と愉快な身体してるじゃないか。俺が相手してやるよ!」
『相手。オ前、強イ?』
 ざらざらとざらついた、ひび割れた、そんな声がアルヴァへ問いかける。対する彼はさあな、と肩を竦めて。
「だが、お望み通り相手してやるよ。喧嘩を売る相手を間違えたって、後悔しても遅いぜ?」
「ルナリアちゃん、ミーシャちゃん、今のうちに!」
 焔の声にルナリアとミーシャが頷き、力を解放する。ルナリアの操る風がこれ以上炎を広げぬようにと木々の間を抜けていき、ミーシャの結界が炎の勢いを削ぐ。
「フレイムタンくん、ラーヴァの相手をお願い!」
「焔は、」
「ボクはここで、絶対に2人を守るから! ボクの分まで思いっきりやってきちゃってよ!」
 にっと笑えば、信頼の色を浮かべた瞳が頷く。フレイムタンはすぐさま踵を返し、溶岩男へ向かっていった。
 共に戦えるわけではないけど、ひとつのパーティであることは変わりない。焔が頑張ればフレイムタンたちは邪魔される事無く戦えるし、フレイムタンたちが早急に決着をつけたなら、焔たちも傷は浅くてすむ。
 どちらかが、ではない。どちらとも、気合の入れ所なのだ。
「何としても食い止めないとね……!」
「おうよ。とっとと終わらせて『深緑』らしい静謐さを取り戻してもらわねぇとな」
 だろう? と片目をつぶる『救い手』ヨシト・エイツ(p3p006813)。鉄帝生まれの体は、取り巻く炎にすぐどうこうされるようなヤワさはない。どこまでも耐えて耐えて耐え抜く、頑強なる心身を持つのが鉄帝人だ。
「ミーシャ、そう遠くに行かないでくれよ?」
「努力はしましょう」
 森の一大事だもの、とぼやくミーシャ。炎を禁じる深緑で、この光景があってはならない事態なのだ。取り返しの付かない事になるならば単身飛び込むのもやぶさかでないと、その声が言わずとも告げている。
(そうならないために、俺達が十全を尽くすんだ)
 簡単に飛び込んでもらっては困るのだ。しっかり炎を押さえ、延焼の原因たるラーヴァを仕留めなければ。
 敵との会敵にマリエッタが自身は素早く魔術を施す。その傍らで『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が首を捻る。
「ラーヴァ フリック達 待ッテタ?」
『強イ者、待ッテイタ。イレギュラーズ、強イ、ラシイ』
 ラーヴァが舐めるようにイレギュラーズたちの顔を順繰りと見やって、にたぁと笑みを浮かべた。
「ナラ 待タセタ。フリック達 イレギュラーズ」
 強い者(イレギュラーズ)を探し続けていたと言うのなら、ここはその待ち望まれた終着点だ。これ以上森に火を広げるわけにはいかない。森が再生するには何十年と歳月を要するのだから。
「人へ仇なすのであれば、わたしが手を貸すには十分な理由です」
 フリークライの言霊を受けながら、『冴た氷剣』冰宮 椿(p3p009245)の大太刀が空気を裂く。肉薄する椿の、大きな純白の翼が硬質な氷を纏う。
 飛来するマグマ、ラーヴァの足元に垂れるマグマ溜まり。それらを的確に避け、切り掛かっていく椿の後方より『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)の蒼炎が飛来する。
「わたしの炎、そう容易く躱せはしないの!」
 生み出されたいくつもの炎が、ラーヴァ目掛けて飛んでいった。確実に余裕を削いでいく炎に気を取られていれば、
「――こちらがガラ空きですよ」
 『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の振るった火明の剣から、雷を纏った蛇神が飛び出してくる。局所的な雷嵐にラーヴァのマグマが勢いよく跳ね、支佐手に傷を作った。
 けれどこの森の惨状に比べればと思う。元々は美しい森だっただろうに、見るも無残な状況だ。
『オ前、強イ?』
「やってみなければわからないでしょう」
 この口ぶりからして、ラーヴァは心底強い者との戦いを求めている。何が敵をここまで突き動かすのかわからないが、野放しにして森を丸焼きにはさせられない。
 ラーヴァを引きつけ立ち回る支佐手とアルヴァに、ヨシトとフリークライが適宜回復を施していく。十分であれば他の仲間達へ。叩き、斬りかかるたびにラーヴァの体は高熱と共にマグマが吹き出す。そのダメージの蓄積は決して馬鹿にできない。
「ルナリアちゃんっ!」
 飛んでくるマグマを焔が庇い立てる。はっとルナリアはそちらを向いたが、火の勢いが増しそうになり、慌てて力の制御へ戻った。
「怪我の程度は、」
「大丈夫、このくらいへっちゃらだよ! それに約束したからね」
 絶対守り抜くのだ。そう意気込んだ焔は、展開させた神域内の火を見て僅かばかり顔を曇らせる。
(流石にそう簡単にはいかないよね)
 火は燃料になるものを求めて蠢いている。乾燥した草木など格好の餌で、こればかりは焔とてどうしようもできない。
「あのマグマ、厄介ですね」
「ン。足元モ 気ヲツケテ」
 もちろん、とマリエッタはラーヴァから広がるマグマ溜まりを軽やかに避け、影を揺らめかせる。彼女に寄り添う影は力を得て、鋭利な刃をラーヴァへ向けた。
(余裕のあるうちに、最大火力で!)
 このフィールドはこちらにとって不利だ。ならば狙うは短期決戦とマリエッタの影が大きく伸びる。跳ねるマグマに躊躇うことない攻撃と共に、フリークライも前へ出た。足元のマグマが小さく跳ねて、フリークライの体を苛む。
(ソレデモ 回復届カナイナラ 無意味)
 癒して皆を立ち上がらせること。傷ついても屈せぬ強さを与えること。それがフリークライの強さだ。
 自身も含めて味方を癒すフリークライの恩恵を受けながら、アルヴァが率先して仕掛けていく。しかして突然吹き出さなくなったマグマに、彼はにっと笑った。
「同じ土俵でなんて誰が戦うかよ」
 痛烈な一撃がラーヴァを襲う。赫焉瞳の効果は上々だ。
『何シタ?』
「知ってて言うと思うか? それにアンタも散々な事やってんだ、おあいこだろ?」
 ラーヴァが飛ばすマグマが服の裾を焦がす。しかしてそれを恐れずフレイムタンが踏み込み、後から胡桃の攻撃が続いた。
(まさか、ファルカウの火を止めに走り回る日が来るとは、なの)
 どちらかと言えば――理由がない限りそんなことをする気もないが――火を止めに走り回られる、という方が現実的だったと思うのだが、人(?)生なにが起こるかわからないものである。
「フレイムタン、無理はしないでほしいの」
「ああ」
 焦げた匂いが鼻をつく。多量に飛来するマグマ弾を全て避け切るのは難しい。
「――けれど、この程度で押さえ込めると思わないことです!」
 椿の放つ掌打が乱れる自身の気を整える。仲間の力を信頼して、足元は気にしない。そんな椿の踏み込んだマグマ溜まりのふちに丹塗りの小刀が投擲された。
「さて、巻き込まれてくれるでしょうか」
 支佐手の放ったそれが水銀の女神を召喚し、深紅の沼を生み出す。咄嗟にラーヴァが飛びのいたことでそれは目に見えて温度を下げ始めた。
 しかしそれは同時に、別の場所でマグマ溜まりが生み出されると言うこと。あまり放っておいて良いものではなさそうだ、と支佐手は小刀を回収しながら視線をくれる。
 周囲の火を抑え込むルナリアとミーシャの様子は――芳しくない。
 それはイレギュラーズがどうこうではなく、戦えるだけのフィールドを維持するための消耗だ。焔は少しでも早く決着をつける為、ここだと思った瞬間に炎の槍を投擲する。
「いっけええぇぇぇ!」
 風を唸らせながら真っすぐに飛来したそれは、硬い音を立ててラーヴァに激突する。
「ええっ、これでもダメ!?」
「いや」
 それを近くで見ていたアルヴァは笑みを浮かべた。この近距離で見逃すわけがないのだ――ラーヴァの体に走ったひび割れを。
 突如咆哮が、いや雄叫びが響き渡る。同時にこれまでとは比較にならないほどのマグマ弾を見たヨシトは、咄嗟にミーシャの前で左腕をかざした。
「なめんなよ! 溶岩相手だろうが耐えてみせらぁ!!」
 マグマは左腕のみならず、ヨシトの体へぶつかっては音を上げる。同じように多少の攻撃を身体に受けながら、しかしアルヴァは範囲外へ撤退するのではなくさらに踏み込んだ。雷がバチリと音を鳴らす。
「火傷って結構痛いし痕残るんだぜ」
 それを女性に向けるなど、どう責任を取るつもりか――ふつふつと怒りを沸かせるアルヴァに、ラーヴァは笑みを浮かべる。
『ココニイル。ツマリ、ミンナ戦士。弱イナラ、イル意味ナイ』
 掌打を放ったアルヴァに真っ赤な拳で殴り掛かるラーヴァ。そこへマリエッタが魔性の茨を伸ばす。
「1人ずつでは負けるかもしれません。けれど、全員でなら止められます!」
「ン。皆 イル。負ケナイ」
 フリークライが仲間たちの傷を癒し、胡桃の掲げた赫焉瞳の効力に合わせてフレイムタンが肉薄する。倒れそうな仲間を庇いつつ、鏡より呪詛を起こした支佐手に続いて胡桃の蒼い炎が身の内の苦しみごとラーヴァを燃やした。
「ほとんど同類みたいなものなの、尚更放っておくわけにはいかぬのよ」
 同族みたいなものだと言われたが故か。ラーヴァが炎の向こうから手を伸ばす。ヒビから零れ落ちるマグマが地面へぼたぼたと垂れた。
『モット、モットダ、モット戦オウ』
 炎の中で笑うそれに、椿は小さく嘆息して。
「強者を求める心、わからなくもありませんが――」
 手にした大太刀を振るい、黒の斬撃がラーヴァへ顎を広げる。

「――その歩みは此処までです」

 直死の一撃が、溶岩の男を呑み込んだ。



 周囲で燃え盛る炎が揺らぐ。操っていたラーヴァが消えた影響だろうか。明らかにその勢いは減じており、しかして完全には消失しない。咄嗟にヨシトは土の精霊を呼び出し、ミーシャやルナリアとともに鎮火にあたらせる。
「全焼は防げそうだけど、でも……」
 少しずつ収まっていく火の手に、しかし焔は眉尻を下げる。黒く炭化してしまったそれらは元に戻らない。
「デモ マタ 始メラレル」
 焔に治療を施したフリークライが彼女を見下ろした。少しでも残っているのなら、そこから芽が出て、育ってまた種子を残す。そうしてゆっくりと再生していくはずだ。
「流石に限界ですね……」
「ええ……力不足だわ」
「いいえ、ミーシャ殿、ルナリア殿。おんしらが火の勢いを抑えてくれたお陰で何とか戦えました」
 支佐手が礼を述べれば、2人は首を横に振る。イレギュラーズがこの2人なしに戦えなかったことも、この2人がイレギュラーズなしに元凶を倒せなかったことも事実であるから。それに――炎を完全に鎮火できないことも、また。
「まだここは危ないの」
「わたしたちも、完全に鎮火しきるほどの力は残されていませんからね……」
 胡桃の言葉に椿は頷いた。周囲に泉や川といったものは見当たらず、ミーシャやルナリアとて十二分に力を発揮して疲労の色が濃い。ここで力尽きるまで耐えるよりも、迅速に撤退し援軍を連れてとんぼ返りの方がいくらかマシだろう。
「……そうですね」
 短くも真剣に祈りを捧げたマリエッタは頷いた。怪我の酷い者もいる。これ以上前線にいるのは得策でない。
 後ろ髪を引かれる思いで、一同達は徐々に後退する。その時ふとミーシャは目を瞬かせ、空を見上げた。
「……雨」
「え?」
 椿も同じように見上げる、と同時に雫が空からこぼれて、頬に落ちた。ひとつ、またひとつ。
 次第に彼らの体をも濡らしたそれは、焼けた森を癒すように降り注いで――静かに炎の力を弱めていったのだった。

成否

成功

MVP

ヨシト・エイツ(p3p006813)
救い手

状態異常

ヨシト・エイツ(p3p006813)[重傷]
救い手

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 最後に降った雨により、順調な消火活動となりました。木々は少しずつ再生していくでしょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM