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シナリオ詳細

彷徨う少女、カーバンクル。或いは、鉄帝雪中行軍…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彷徨う少女カーバンクル
 極寒の平野に1人。
 白い髪に、長い耳。
 小柄な体を縮こめて、雪で作ったドームの中に身を潜め、吹雪に耐えて夜を明かす。
 荷物と言えば、ほんの僅かな食糧と、それから布に包まれた赤く光る石が1つ。
 “炉芯石”。
 設置した箇所を中心に、周囲の土地を温めるという性質を持った魔石だ。
 白い髪の少女……兎の獣種、カーバンクルの故郷が壊滅したのは、その石が原因である。
 極寒のヴィーザルに、人の住める土地は少ない。
 しかし、炉芯石があれば、人の住めない土地を、人の住める土地に変えることが可能だ。
 故にカーバンクルの故郷が……炉芯石が他の部族に狙われたのだ。
 結果、カーバンクルの仲間たちは散り散りになり、カーバンクルは1人、故郷から遠く離れた土地へと逃げた。
 故郷が失われたことに恨み辛みが無いと言えば嘘になる。
 けれど、過酷なヴィーザルにおいて奪い合いは日常茶飯事。
 弱肉強食。
 強ければ全てを手に入れて、弱ければ全てを失う。
 故郷を襲った連中を、恨んでいないわけではない。
 けれど、既に過去の話だ。
 こうして炉芯石はカーバンクルの手にあって、カーバンクルは生きている。
 だから、それでいい。
 過去を嘆いても意味はない。
 今、カーバンクルが考えるべきは未来についてだ。
「うぅ、この辺りに凍った湖があるって話だったのに……どうして見つからないの?」
 なんて。
 吹きすさぶ風から身を守るように蹲り、カーバンクルは言葉を嘆くのだった。

●ヴィーザル雪中行軍
 ヴィーザル地方のとある平野。
 カーバンクルが故郷を後にする際に、両親から伝えられた集合場所だ。
「皆はもう、集合場所に着いたかな? わたしが着くの待っているかな? それとも皆、吹雪の中を彷徨っているのかな?」
 故郷を捨てて逃げる際、カーバンクルは両親から1つの任務を与えられていた。
「炉芯石を集合場所へと無事に運び届けること……うぅ、皆、待ってて」
 吹雪の絶えぬ平野を進むカーバンクルは、震えた声で自身に与えられた任務を口にする。
 炉芯石さえあれば、村は何度だって再建できる。
 逆に言えば、カーバンクルが炉芯石を持って集合場所へ辿り着かねば、散り散りになった集落の仲間は、1人残らず極寒の平野で寒さに凍えて命を落とすことになる。
「目的地には、凍えた湖があるって話だけど……」
 この吹雪では、湖もすっかり雪に覆われているだろう。
 それも、炉芯石があれば溶かせるはずだが……肝心の炉芯石には、1度設置してしまえば、暫くの間は動かせなくなるという性質があるのだ。
 物は試しと、適当な場所に置くわけにもいかない。
「こんなに寒いと【氷漬】になっちゃいそう。目的地は近いはずだけど……何かが追って来ているし」
 目的地の地図は無いが、およその方角に当たりはついている。
 時間さえかければ、辿り着くことも可能だろう。もっとも、それまでカーバンクルの体力が持てばの話だが。
 そして、何よりもカーバンクルが危惧しているのは、数日にわたって追いかけて来る“何か”の存在であった。
 それは2メートルを裕に超える巨体に、真白くふさふさとした体毛を蓄えた怪物だった。
 全体の姿かたちとしては、巨大な猿かゴリラにも似ているだろうか。
 1度、カーバンクルは“何か”の足跡を見たが……直径にして50センチはあろうかという巨大なものであった。
 それから足跡の近くには【崩落】した氷の塊。
 十数メートルほど先には内臓や骨に【致命】傷を負った数匹の狼が倒れていた。おそらく何かの攻撃を受けて殴り【飛】ばされたものと思われる。
 か弱いカーバンクルがそれに襲われてしまえば、きっと命を落とすだろう。
 生来備えた索敵能力と逃げ足のおかげで、今もこうして生き延びているに過ぎない。
 だが、それも限界が近い。
 “何か”は数日もの間、延々とカーバンクルを追って来ている。
 体力が尽きれば、カーバンクルは“何か”に捕食されるだろう。
 “何か”を集合場所へと誘導してしまえば、仲間たちの命も危ない。
「一応、港の街でローレットに依頼は出したけど……せめて、炉芯石だけは届けないと」
 ローレットからの救援が辿り着くのと、カーバンクルの体力が尽きるのの、どちらが果たして早いだろうか。

GMコメント

●ミッション
カーバンクルor炉芯石を“凍り付いた平野の湖”へと運び込むこと。

●ターゲット
・カーバンクル
兎の獣種。
小柄で華奢だが、逃げ足は速く、耳が良い。
彼女の持つ炉芯石を“凍り付いた平和の湖”へと運び込むことが依頼達成の条件となる。
※カーバンクルの持つ“炉芯石”は常に熱を放っている。そのため1~2ターンほどの時間はかかるが【氷漬】の状態異常を解除することが可能。

・巨体の生物×1
白い体毛に2メートルを裕に超える巨体を備えた猿のような魔物。
カーバンクルを捕食するためか、数日にわたり後を付けているようだ。
吹雪の中でも正確にターゲットを追い続けている辺り、高度な探知能力を持っているらしい。
また、寒さにも滅法強いことが予想される。

ブレイクダウン:物中範に大ダメージ、崩落、致命、飛
 おそらく衝撃波のようなものを撒き散らす攻撃。

●フィールド
ヴィーザルの平野。
吹雪の絶えぬ過酷な土地。
吹雪のせいで視界と足場が悪い。
また、対策を怠ると【氷漬】の状態異常を受ける。
平野のどこかにある“凍り付いた湖”が目的地となる。
※それなりに近くまで辿り着いているらしいが、現状、湖らしきものは見えない。
 
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 

  • 彷徨う少女、カーバンクル。或いは、鉄帝雪中行軍…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ

●雪中行軍
 強い酒精を口に含んだ。
 吹き付ける雪風が、肌を刺して骨の髄までを凍えさせた。
 厚い防寒着を纏っていても、防ぎきれない極度の低温。
 酒瓶から口を離して『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は吐息をひとつ。
「厳しい環境だが、やるべき事をやらなけりゃよ」
 ヴィーザル地方の辺境。
 極寒の平原を歩き始めて、数時間が経過している。
「良い感じに吹雪いてるなぁ、屋根の雪下ろしが憂鬱になりそうだ」
「カーバンクルという子は大丈夫かしらね。何日も逃走しているようだし、気力や体力にも底はあるでしょうからできる限り早めに助けてあげたいわ」
 一面の白。
 人の影は見当たらず、およそ生物の気配も無い。
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が溜め息を零せば、それに応じるようにして『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が表情を不安に曇らせる。
「この寒さは堪えるね。炉芯石か……ハジメテ聞いたけれど、そりゃあ奪い合いになるってシロモノだ」
 カーバンクルという名の少女が、どこか近くにいるはずだ。
 故郷を追われた仲間たちのためにも、この過酷な環境の中を1人で彷徨い歩いているのだ。彼女の持つ“炉心石”という魔道具を、雪原のどこかにある凍り付いた泉へと運び届けること。
 それが『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)をはじめとしたイレギュラーズに課せられた任務だ。
「希少な石でありますね。鉄騎といえど一般人には冬の寒さも堪えるもの。もしそれを作る、あるいは手に入れる方法があるのであればぜひ知りたいところでありますが」
 そう呟いて『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が、ぐるりと周囲を見回した。
 足元に積もった雪は厚い。
 エッダの身体は自重で雪に沈み始めた。
 「炉心石はカイロみたいなものか。使い捨てでもないうえに、広範囲を温める……便利だな」
足を止めた『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が、遥か遠くへ視線を向ける。
「……この吹雪で遠くまで見通すことは難しいか」
「ですが頑張らないといけません。必ず見付け出しましょう」
 沈みかけているエッダの身体を、雪から引っ張り上げながら『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、ひとつ大きく息を吐く。
 肺に溜まった空気を吐いて、冷たい空気を深呼吸。
 焦燥に熱くなりかけた脳が、幾分の冷静さを取り戻した。
 それからオリーブは、凍りかけている『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)へ視線を向ける。
「くっそ寒いわ!? めちゃくちゃ寒いし、視界は悪いし、歩き難いしで踏んだり蹴ったりね!」
 自身を中心に円環状の燐光を展開。
 身体に張り付いていた雪と氷を払い落として、フェネクスは悲鳴をあげた。
 ここはヴィーザル。
 過酷な土地。
 見渡す限りの雪原から、たった1人を探し出すのは至難の業だ。
 カーバンクルの捜査には、まだまだ時間がかかるだろうか。

●助けを求める声が聞こえた
 くるると腹の虫が鳴く。
 脚や手先の感覚はしばらく前から無くなっている。
 寒さに強い性質ではあるが、体力の消耗は避けられない。
 数日。
 付かず離れずついて来る巨大な猿にも似た怪物が恐ろしい。食事も睡眠も碌にとれない状態が続いて、直に限界を迎えそうだ。
 長い耳も、力なくへにゃりと倒れかけている。
 それでも、カーバンクルは前へ前へと脚を進めた。
 懐に仕舞った炉芯石。
 じわりと熱を放つそれを、仲間たちの元へと運び届ける役目を果たすためだ。
「泉……この辺りのはずなのに」
 どうして、辿り着かないのか。
 方向は合っているはずだ。
 十分に歩いたはずだ。
 目的地はすぐそこだ。
 だというのに、泉は一向に見えて来ない。
 否……体力の限界を超えて歩き続けた代償か。
 カーバンクルの目が、すっかり霞んでいることに、彼女はまだ気づいていない。

 誰かが助けを求めた気がする。
 肩を跳ねさせ、オリーブは周囲を見回した。
 およその方向は分かったが、吹雪が邪魔して声の主の姿は見えない。
「っ……体力と精神は大丈夫でしょうか。意識が途絶えてしまえば、見つけ出すことも難しくなります」
 そう言ってオリーブは腰の剣に手をかける。
 戦闘の準備は出来ている。
 カーバンクルを助ける用意も万全だ。
 しかし、肝心のカーバンクルの姿が見えない。
 今すぐ走り出したくとも、どこへ向かって駆ければいいかが分からない。
「いや、十分だ」
 オリーブの肩に手を置いて、マニエアは遥か彼方へ指を指す。
「見えたぞ。ごく小さな人影だが……おそらくあれがそうだろう。急げ、この寒さはいかんせんまともに耐えれるものではない」
 マニエラの目は、確かにカーバンクルの姿を捉えていた。
 辛うじて視認できる距離。
 おまけに、カーバンクルは雪上に倒れ伏しているようだ。
 およその方向だけでも分からないままでは、きっと見逃していたことだろう。
「それに、怪物がカーバンクルに迫っている」
 マニエラが告げた、その瞬間。
 彼女が指差す方へ向かって、オリーブと燐火が弾かれたように駆け出した。

 駆け出した2人の視界を、横殴りの吹雪が白に染め上げる。
 まっすぐに走っているつもりでも、雪に足をとられて少し進路がずれる。
「右へ逸れているわ! 進路を左へ修正して!」
 背後からヴァイスの声が聞こえる。
 ヴァイスの誘導に従って、オリーブと燐火は軌道を修正。
 一瞬、吹雪が勢いを弱めた。
 2人の視界に、白い巨体が映り込む。

 オリーブと燐火がカーバンクルのもとに辿り着くよりも、怪物がカーバンクルに手を伸ばすのが先だろう。
 走る速度は2人の方が上だろうが、元々の距離的な優位ばかりはそう易々とは覆せない。
「っ……こっちを向け!」
 足を止めたマカライトが空へ向かって何かを投げた。
 数瞬の後、夜空に派手な光と爆音が咲いた。
 カーバンクルと怪物が、思わずといった様子で空を見上げる。夜空に裂いた爆炎の花に気を惹かれたのか。
 
 雪山では食事を得るのも一苦労だ。
 野生の獣は数が少なく、加えて潜伏能力も高いものばかりだ。
 雪山の怪物ほどに巨体ともなると、素早い生き物を捕えて喰らうことも難しいのである。
 では、そんな怪物が普段、何を食っているのか。
 答えは人だ。
 動きが鈍く、それなりに身体も大きい。
 元気なうちは、道具を使って反撃してくる厄介な性質があるので、弱るまで暫く待つ必要はあるものの、その期間はたった数日ほどでいい。
 距離を保って追いかけて、十分に弱ったところで近づき喰らう。
 それが怪物の狩りだった。
 けれど、しかし……。
「ごきげんよう、そしてお呼びじゃないのよサヨウナラ!」
 紅い魔力の軌跡を描き、燐火の蹴りが怪物の胴に叩き込まれた。
 身体が揺れる。
 逆方向から銀の閃光。
 薙ぎ払われた斬撃が、怪物の胸を切り裂いた。
「っ……!? やはり立ち回りで誤魔化すのは難しいですね」
 タイミングは完璧だった。
 しかし、燐火の蹴りも、オリーブの斬撃も、分厚い体毛に阻まれて思ったよりもダメージが薄い。
 咆哮と共に、怪物が脚を振り上げる。
 人の頭よりも巨大な脚だ。
 体重を乗せて、怪物が地面を踏みつけた。
 咄嗟に2人はカーバンクルの前へと跳躍。
 吹き荒れる衝撃と雪の津波が、オリーブと燐火を飲み込んだ。

 カーバンクルの襟を掴んで立ち上がらせた。
「こっちだ! 急いでその場から離れろ!」
 義弘やイグナート、エッダが前へと進むのとは逆に、マカライトはカーバンクルを引き摺りながら後ろへ下がる。
 怪物の眼がこちらを向いた。
 狙うのならば、元気な獲物より、弱った獲物というわけか。
「え、だ……誰? 何が?」
「味方ダヨ。君の安全ダイイチだ!」
 怪物の腕を殴り弾いて、イグナートがそう叫ぶ。
「え、でもさっきの2人がまだ雪の下に……!」
「あの程度なら問題ないでありますよ。さぁ、急ぐでありますよ。ハリー、ハリー!」
 怪物が足を振り上げた。
 その真下へと潜り込んだエッダが告げる。
 頭の上で交差し構えた鋼の腕で、怪物の足を受け止めた。
 踏み込みさえさせなければ、衝撃派は巻き起こらない。
「分厚い毛皮を着こんでいるな。寒さに耐性があり足元の不安もないんだろう」
 防寒着を脱ぎ捨てて、義弘が跳んだ。
 たくましい腕を真横に伸ばして、怪物の太い喉へとラリアットを叩き込む。
「まったく、この場に限っては羨ましい限りだぜ」
 仰け反った怪物が雪上に倒れた。
 その顔面へ、エッダが拳を振り下ろす。

 せっかくの獲物を逃すつもりはないらしい。
 エッダ、義弘、イグナートの猛攻を受けながらも、怪物はカーバンクルの捕食を諦めてはいない。
「迎撃、かしら? それとも倒さなければならない?」
 怪物が引き下がるのなら、無理に追いかける必要はないだろう。
 だが、そうならない以上は、ここで命を断つべきか。
 中途半端に手負いのまま放置しては、不要な怒りを買いかねない。
 一度、攻撃を仕掛けたのなら徹底的に。
 残酷なようだが、禍根を断つにはそれが一番なのである。
 カーバンクルを背に庇い、ヴァイスは後退を開始した。
 怪物の視界から2人を隠すように、マニエラが前へ。
「雪国の生物は熱を溜めやすいだろうし、火炎系BSは痛手なんじゃないかな?」
 手にした青い扇子を一閃。
 風に乗って、火炎が散った。
 魔力を糧に、火炎が勢いを増していく。あっという間に形成された火炎の壁が、伸ばされた怪物の腕を焼く。
 白い体毛に火がついて、怪物は慌てて後ろへ下がった。
 雪深い平原を住処としている怪物は、炎に慣れていないのだ。
 
 怪物の右腕を、ヴァイスの魔弾が撃ち抜いた。
 攻撃に反応した怪物が、怒りの形相でヴァイスを見やる。悲鳴を零したカーバンクルがヴァイスの影へ。攻撃に備え、マニエラが扇を肩の位置に構えた。
 雪を蹴散らし、怪物が駆ける。
 雪上に巨大な足跡を残して、ただまっすぐに。
「襲うならこっちにシておきなよ!」
 敵を前に余所見をしているのが悪い。
 身を低くしたイグナートが、怪物の顎に右のフックを打ち込んだ。
 クリーンヒットだ。
 いかに毛皮が分厚かろうと、脳の揺れまでは防げない。
 ましてや顔の周辺は、体毛の量も少ないらしい。
 その証拠に、エッダの殴打を受けた鼻は潰れて顔面は真っ赤に濡れている。
 潰れた鼻へ、2度目の殴打。
『うぉぉおおお!』
 途切れかける意識を繋ぎ止めるためか。
 怪物は吠えて、拳を頭上へ振り上げる。
 イグナートは咄嗟にガードの姿勢をとった。
「殴打じゃない! 下がれ!」
 マカライトが怒声をあげて刀を振るった。
 刀身に業火が灯る。
 狙うは怪物の腕だが……おそらく届かないだろう。
「……エ!?」
 怪物の狙いはイグナートではない。
 正確には、イグナートの足元……殴打を振り下ろす先は、分厚く積もった雪の原だ。
 
 衝撃派が吹き荒れて、地面に深い亀裂が走る。
 至近距離で攻撃を受けたイグナートが、雪の津波に飲み込まれた。
「っ……足をとられたであります!」
「視界が悪い! 怪物はどこだ!」
 退避を図ったエッダと義弘も無傷というわけにはいかなかったようだ。
 雪塵が舞い、辺り一面が真白に染まる。
 雪のベールを突き破り、怪物はまっすぐに疾駆した。
 一閃。
 炎を纏った斬撃が、雪の幕を2つに裂いた。
 奔る鎖が怪物の脚を絡めとる。
「気分はどうだ、イエティ野郎」
 しかし、怪物は止まらない。
 鎖を引き摺ったまま、前へ前へと走り続ける。鎖を握ったマカライトの腕に激痛が走り、筋の切れる音がした。
「……ぐぁ」
 マカライトが雪上に倒れた。
 引き摺りながら怪物は走る。
 直後、地面に触れた鎖を誰かが掴んだ。
 それは、雪に半身を埋めたままのエッダと義弘の手だ。
「数で押すようで少々心苦しいですが……っ!」
 動きの止まった怪物の前に、オリーブが踊り出す。
 一閃。
 オリーブが剣を振るうと同時に、怪物が拳を突き出した。
 オリーブの剣が、怪物の腕から肩にかけてを切り裂いた。
 白い体毛が血に染まる。
 怪物の拳が、オリーブの腹を撃ち抜いた。
 骨が軋んで、オリーブは口から血を吐き出す。
 雪上に転がるオリーブの身体。
 それを跳び越え、燐火が駆ける。
 紅く光る魔力の軌跡が、白い世界に線を引く。
 伸びきった怪物の腕へと飛び乗り、顔面へ向けて蹴りを放った。
「土下座させた挙句に、頭をカチ割ってあげる!」
 度重なる顔面への殴打は、着実に怪物へダメージを与えているはずだ。
 上体が仰け反り、怪物は空を仰ぐ。
 赤に霞んだ怪物の視界に、黒く染まった腕が映った。
「悪いね。ここは過酷な土地だから」
 イグナートだ。
 右目から頬にかけての皮膚が抉られ、顔から胸にかけてが真っ赤に濡れている。
 地面が震えるほどの踏み込み。
 イグナートの手刀が、怪物の眉間へ振り下ろされる。
 頭蓋が砕け、怪物の脳は損傷しただろう。
 目と鼻から血を流し、怪物はどうと音を立てて地面に伏した。

●炉芯石と新たな集落
 地面が割れる音がした。
 否、それは氷の砕ける音に似ている。
「なんだ……様子がおかしいぞ?」
「この音……足元からのようね。氷? もしかして、凍った泉?」
 カーバンクルを脇に抱えて、マニエラとヴァイスは急ぎその場を離脱する。
 それから暫く。
 氷の割れる音は辺りに響き続けた。

 毛布に包まり、カーバンクルは酒をちびりと口へと運んだ。
「この石、暖かいわぁ……生き返るぅ」
 氷割の音が鳴り止んで、1時間ほど経っただろうか。
 その間、弱り切ったカーバンクルは燐火と一緒に休んでいた。積もりに積もった雪の下に泉があることは間違いないと思われるが“範囲”ばかりは調べて見なければ分からない。
 だが、調査に出ていた男たちが戻って来た。
「辺りに他の生き物はいねぇな」
「ん? 水も食料もあまり減っていないね。遠慮なく消費シテくれていいのに」
 まずは義弘、次いでイグナート。
 それから、オリーブが帰って来て……最後に帰還したのはマカライトであった。
 マカライトの後ろには20名ほどの獣種たちの姿が見える。
「皆! よかった! 生きてたんだね!」
「カーバンクルか! 良かった、お前こそ、よく無事でいてくれた!」
 再会を喜ぶ兎たち。
 雪原にかまくらを作って隠れていたのを、マカライトが見つけたらしい。

 炎のように、赤く輝く不思議な石を、カーバンクルは地面に置いた。
「これが“炉芯石”……ぜひ手に入れたいところでありますが」
 空気が震え、辺りにりぃんと鈴のそれに似た音が響いた。
 魔力の波動が空気を揺らし、じわりと辺りの温度が上昇を開始する。
 この調子なら数日もすれば泉の周りはきっと住みやすい気温になるだろう。
「ごめんなさい。一族に代々伝わっているもので、手に入れる方法までは」
 申し訳ないと視線を伏せて、カーバンクルが頭を下げる。
「む……まぁ、単に掘ればいい、というものなら態々襲われもせんでありましょう」
 少々残念ではあるが“そういうもの”があると知れただけでも戦果は上々だ。
「それより、何日も歩き回っていたのだし、食事を終えたら暖かくなるまでは休んでいた方がいいだろう」
 幸いなことに、マカライトの連れて来た兎たちとオリーブ、義弘、イグナートがかまくらを作っているところだ。
 ここに村を作るつもりなら、長い時間が必要だろうが……ひとまず寒さを凌ぐ場程度は、すぐにでも完成するだろう。
 出来たばかりのかまくらに、エッダとマニエラは小さな少女を押し込める。
「あ、あの、皆さんのお手伝……わぷっ」
 申し訳なさそうにしているカーバンクルへ、ヴァイスが何かを押し付けた。
 白くてふかふかとしたぬいぐるみ。
 イレギュラーズの間で広く普及している“ゴラぐるみ”だ。
「これは?」
「ふふ。吸うと癒されますよ。辛いこともすっかり忘れて、疲労だって」
 回復する……などと言うことは無いが、よく眠れはするはずだ。
 ひと吸いすれば、やみつきになると評判である。
「どうぞ今は眠ってください。それと……もしもの時はまた頼ってくださいね」
 体力の限界だったのか。
 眠りの縁へと落ちる刹那……オリーブの優しい声が聞こえた気がした。

成否

成功

MVP

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)[重傷]
希望の星

あとがき

お疲れ様です。
カーバンクルは、無事に仲間たちと合流できました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼にてお会いしましょう。

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