シナリオ詳細
再現性東京20X0:異邦異人のかみかくし
オープニング
●四辻で四度すれ違ったなら、それはこの世のものではない。
夜深い住宅街を、スマホを片手に歩く女がいた。
歩きスマホはよくないというが、こんなひとけのなさ過ぎる夜道でぶつかる相手もいるまいという風情だ。格好はビジネススーツ。安物の眼鏡をかけ、片手にはコンビニのビニール袋がさがっている。
どこにでもいる疲れたOL。それを絵に描いたような彼女は……ふと、スマホの明るい画面から視線をあげた。
いま誰かとすれ違ったような気がしたのだ。それも、十字路で交差するように。
いくら夜中で人もいないとはいえ、スマホを見ながら歩いているのだ。十字路の安全くらい気にかける。左右から車がこないか、あるいは人が現れないか。確かに確認したはずだ。
誰もいないとわかって、画面に視線を戻したはずだったのだが。
「……気のせいかな」
歩幅をそのままに、画面の中の情報を追う。
アマゾンだかで大火災がおきたというニュースが表示されているが、ほとんど無視してその下に並ぶ芸能ニュースをタップした。
人気の動画配信者が三股をかけたとかで大炎上したニュースの続報らしい。
くだらないなと思いながらも読み進めている……と、また画面から視線をあげる。
また誰かとすれ違った気がしたのだ。
いないはずの十字路で。
これはいけない。明るい画面から暗い場所に視線をうつすと暫くよく見えなくなることがある。きっとそのせいで見逃したのだろう。
流石に不注意が過ぎただろうかと自省した様子で、OLはスマホをスリープモードにして鞄へとしまった。
暫くそうして歩いていると、目は夜闇に慣れてくる。
十字路にさしかかって、左右をしっかり確認した。車も自転車も、人もない。
これでよしと思って歩き出すと――。
不意に、後ろを誰かが通り過ぎた感じがした。
足音と風の動き。
ハッとして振り返るが……誰もいない。
いやいやいや。それはない。それはないだろう。
頭を振って。OLは足早に十字路を抜けた。
さっさと家に帰ろう。きっと疲れが溜まっているのだ。
普段よりずっと早い足取りは、やがて四つ目の十字路にさしかかっていた。
そこでふと思う。
誰かが自分をつけていたのだろうか。
ストーカー被害のネットニュースを思い出す。夜にあとをつけ、家の中へ侵入するという凶悪な事件だ。
後ろを振り返る。誰もいない。
鞄を小脇に抱え、ビニール袋もたぐり寄せて抱えると、OLは十字路をいっきに抜けるべく走り出――。
「お嬢さん、また会いましたね」
誰もいないはずの、四度目の四辻。
背後に誰かが、立っていた。
●四辻の怪談
「四は死に繋がるとして、日本では古来からこの数字が忌み数字とされてきた。ホテルでも4号室だけを飛ばすなんてこともあったようだ」
希望ヶ浜学園、校長室。
このいかにも『現代日本』然とした風景は、混沌世界に流れ着いてきたウォーカーたちが元になって作り出されたものだという。その名も再現性東京。
希望ヶ浜地区はその一部、そして異質な場所だ。
そんな地区にある希望ヶ浜学園の校長、無名偲・無意式 (p3n000170)はソファに腰掛け、背をゆったりと預けている。
「そんな中でも怪談としてあがるのが、十字路にて四度――四辻にて四回同じ人間とすれ違うという怪談だ。
死の辻に死の界。つまりは冥府の人間と出会ってしまったという話だな。
まあ、よくある呪術。おまじないだ。消しゴムのケース裏に好きな人の名前を書いて使い切れば恋愛が成就するというのと同じ程度のな」
無名偲校長はさも当たり前のようにワインのボトルをあけると、目の前のグラスに中身をそそいだ。
手に取り、口元へともっていく。
「だがそれが形を成してしまうのが、この町ということだ」
『四辻の怪人』。あるいは四辻人(よつじびと)と称されるこの怪異は、夜妖として希望ヶ浜地区の住宅街へ出現したという。
歩いていればいずれ現れるということだが、どのタイミングで現れるかは不明。
そして『数も不明』ということらしい。
調査によれば背後に現れることもあれば遠くから走ってくることもあり、目の前にいつのまにかいたという証言もあがっている。いずれにせよ、あまり楽しい遭遇にはならないだろう。
「いずれ奇襲されるとでも思って歩いていればいいだろう。分かっている奇襲など、そう恐れるものでもない。殺そうとして殺せる怪異だ、恐ろしくもないだろう?」
無名偲校長はそう言うと、グラスの中身を飲み干した。
- 再現性東京20X0:異邦異人のかみかくし完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●第四章:スクランブル交錯点
「元は、まあ、道が交差する場所は危ないからだとかそう言った教訓を含めた話なのだろうけれど。
それを教訓の一言で済ませられないのがこの街だよね。
割とありがちな怪異譚ではあるけれど、だからこそだ。
だからこそ人は信じやすくなってしまうし、信じられた物語は大いに語られ、多くに渡り、その身に肉を付けて人に牙を剥く」
オカルトを語りながら住宅街を歩く男子大学生がいる。『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)である。首にかけたヘッドホンをいじりながら、『この街は怖い話ばっかりだ』とぼやいた。
「以前希望ヶ浜を覆った異世界都市伝説のことでしょうか。『侵食の月』が出た時に四辻で鳥居のマークに触れた少女が異世界に迷い込むという事件があったみたいですね」
低く渋い声で、『夜妖<ヨル>を狩る者』金枝 繁茂(p3p008917)が顎髭をなでて言う。
大学の学院生であり定の先輩にあたる人物……の筈だが町や大学への関わりはずっと後、というなんとも複雑な関係性である。校長とは随分仲良くしているようで、最近よく大学の構内でツルむのを定は見ていた。(多分校長は仕事をサボっている)
そしてふと思ったが、横を一緒に歩いているのは教師ばかりだ。
たとえば『こうしろと教わった』といって赤いジャージと竹刀を持ってある日突然学校に現れた体育教師の『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。
今日は腰を細くすらっとしたシルエットを見せるパンツスーツを着込み、手首には金色のカフスまでつけている。これで眼鏡でもかければ知的な美女になることだろう。とても体育教師にはみえない。
「しかし、今回は情報が少なすぎないか? あの校長は元からそういう所があるが……わかっているのが出現方法だけとはな。あとは、『4』という数字に固執しているところか?」
「大丈夫、ちゃんと目の前で愚痴っておいたから」
三人目の教師こと『精霊教師』ロト(p3p008480)が手をひらひらとさせて苦笑いをする。
「あの校長はね、事情も教えずに呼び出すし僕らを無断で利用するし嘘ばっかりつくけど、『約束』だけは違えないんだよ。だから、僕らを見捨てたり捨て駒にするようなことはしない。『校長先生』という役職に従ってね」
だから堂々と愚痴を言ってみせるのがいい付き合い方なんだよ、とロトはいう。
定は『オトナの人付き合いってフクザツだな』と呟いて歩を進めた。
そして、先ほどから知らない誰かがずっと横切り続けていたことに、誰もが気付いていた。
「次で――」
「次で四つ目だね」
ロトたちから家一軒分を離して、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)たちは後ろからついていっていた。
出現方法がわかっているので、前方の四人に『四辻人』が張り付いた段階で外側から攻撃しようという作戦である。ただ単に背後に立つなら挟み撃ちだし、包囲するならそれを更に包囲してこれまた挟み撃ちにできる。
「校長先生はそれでもボク達ならやれるって思ったからこのお仕事を振って来たんだよね?」
「そうだね、おそらくは」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がぼんやりと住宅街の灯りを見つめながらかえした。
「個人的にはこの街の人々には平穏に過ごして欲しい。被害者が増える前に始末を付けるとしよう」
「うん、賛成!」
びしっと手を上げて眉をキリッとさせる焔。まったく同じフォームで『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)も手を上げた。
「てか、逢魔が時の四つ辻にはあの世とこの世の境がみえるだっけ? そういうアレなの? これ」
「噂の出所はそんなところでしょうね」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は広域俯瞰を行いながら、前方のチームとの距離を目測していた。
「校長先生ったら、いつも適当なんだから。お仕事なのだししょうがないのかもしれないのだけれど」
敵の数や強さがわからず自分達を放り込んだとは、あまり思えない。しかし分かっている情報を教えない意味もないので、もしかしたらこれは『知らない方が有利になる』ケースなのかもしれないと、ヴァイスは思った。
この世界に実在するかは知らないが、『想定を必ず上回る状態に変化する』という反ミーム性をもった怪異はよくある。あるいは『自らを知っている人間の数だけ強化される』ものや『知っている人間に対して圧倒的に振る舞える』ものもだ。
ムラサキカガミの無効化方法は教えないこと、なのだ。
「まあホントにそうかは分からないけど……。あ、そろそろよ」
構えて、とヴァイスが呼びかけた。
その時。
目の前でロトたち四人の姿が消えた。
●四方四人のかみかくし
「「ちょ――!?」」
全く同時に声を上げ、夕子と焔が走り出す。
仲間達四人が十字路にさしかかった途端、本当に消えたのだ。
「焔、『あっち』は?」
「消えちゃった。ファミリアーとの接続が途切れてる!」
「ヴァイス!?」
「俯瞰視点からも見えないわ。横道に隠れたわけでもない」
しっかりと俯瞰していたからこそ、ヴァイスはこの現象の理由がわからなかった。
目の錯覚ではないらしいし……。
「蜃気楼のような幻影がベールになっている可能性もある。とにかく私達も行こう」
ゼフィラが率先して走り出し、自らの能力を解放した。
頭の回転がなめらかだからだろう。立ち止まってあわあわとする時間などないと、即決して行動に移したのだ。
躊躇する間すらとらず、十字路へととびこむゼフィラ。彼女を戦術的に孤立させないようにヴァイスや焔たちも一緒にせーので飛び込んだ――と、その瞬間。
背後に気配を感じ四人一斉に振り返った。
シルクハットを被り、杖をつく古いイギリス紳士のような男性が四人。こちらに振り返るようにして断っていた。
しかし顔は奇妙に暗く、目元がわからない。
状況的に『四辻人』に間違いないと察したゼフィラは、出会い頭の『アナイアレイト・アンセム』を発動させた。
義手から放たれる高エネルギー体が紳士の一人を吹き飛ばし、彼はごろごろと転がったかと思うと何かわけの分からない言葉を叫んでゼフィラへと組み付いてきた。
杖を投げ捨て、襟首を強引に掴み顔面へと殴りかかってくる。
「射線上から離れて! 撃つよ!」
焔はそんな四辻人をラインにとらえつつ、別の四辻人と重ねるようにして『加具土命』の構えをとった。
『カグツチ天火』をぐるりと回し、尾を引く炎を螺旋状にからめると、それを鋭い突きによって放出する。
巨大な炎の槍が飛んでいったかのようなエフェクトを起こし、四辻人たちを貫いていく。
が、焔の目の前にいた四辻人は槍によるダメージをうけていないようだった。
邪悪な亡霊のようなものが彼の周りにまとわりつき、槍の攻撃をすりぬけさせ無効化したのだ。
「ちょっと! 攻撃無効化能力なんて聞いてないよ! ゼフィラ、ブレイクブレイク!」
「そっちは任せた!」
夕子はクナイを抜くと、可愛い猫型のリングに指をひっかけ逆手持ちへと転じる。
「JK忍法・分身あまとろASMR!」
別の四辻人へ標的を定め、夕子は突如として分身。四辻人の前後左右を取り囲むと、耳元に唇を寄せハアと甘い吐息でささやいた。
それを払おうと腕を振り回す四辻人。チャンスとばかりに夕子はピッと二本指を立てた。
「続きましてぇ――JK忍法・花弁舞ウ刹那無影ノ刃!」
分身全員が一斉に斬撃を繰り出す。四辻人はあろうことかそれを両腕で強引にうけた。スーツの袖が金属のように堅く、ガキンという音がした。
残る四辻人がステッキを両手でしっかりと握り、ヴァイスへと襲いかかってくる。
対抗するように儀礼短剣を即座に握り込むヴァイス。繰り出されるステッキを短剣で受けた――その瞬間。
四辻人はどこか友好的に語りかけてきた。あらゆるものと疎通ができるというヴァイスの能力をもってしても理解できない滅茶苦茶な言語だったが、ひとつだけ意味の分かる文があった。
『よければあなたの名前を聞いてもいいですか?』
そう、言っていた。
「ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド。けど……そんなことを聞いてどうするの」
戦いをやめてくれる様子はない。ヴァイスは至近距離から自然界のエネルギーを防風にかえて放出した。
●死法死人のかみかくし
四辻人は至近距離から謎のエネルギーを放出し、繁茂を思い切り吹き飛ばした。
ごろごろと転がり、アスファルトの上に仰向けになった繁茂はフウと息をついた。
「今、会話が出来た気がしたんですがね……」
ずれた眼鏡をなおし、取り落とした大鎌を拾って立ち上がる。
「こうなっては仕方ありません!」
再び衝撃を放ってきた四辻人に対して、繁茂は強引に距離をつめた。
身を激しい痛みが襲うが、それらを全て無視して今度こそ斬りかかる。
四辻人の身体が切り裂かれ、白いエネルギー体のようなものが吹き上がる。
が、それを別の四辻人が手をかざすことで治癒し始めた。
逆再生されたようにエネルギーが戻っていく。
「ヒーラーですか。厄介な」
「こいつは俺が抑えとく!」
定は抵抗されたときに殴られた頬に手を当て、口からたれた血も一緒にぬぐった。
「っていうか、これが『不審者との喧嘩』だって? 冗談じゃない!」
定は最初にそうしたように、もう一度四辻人の襟首を強引に掴んでその顔面に拳を叩き込んだ。
何発も叩き込めばさすがに人の形をしているだけあって崩れ落ち、マウントを取って両手で殴りつけるだけのことができた。
「定!」
注意を促すように叫ぶブレンダ。
定へ飛びかかり、ステッキから仕込みナイフを抜いて斬りかかろうとする四辻人が視界の端に見えた。
次の瞬間、ブレンダが強引に割り込み自らの腕でそれを防御。
ナイフ相手だというのにガキンという金属音がした。
「さすがはブランド物だな。頑丈な布だ」
「それ本当に布!?」
「校長はそう言っていた」
「絶対嘘じゃん!」
軽口をかわし合いながらも、ブレンダは相手の両手をがしりとからめるように掴み、腹めがけて蹴りを叩き込む。
ブランド物の革靴だったが、金属のブーツで蹴りつけたかのような重い音がして四辻人を蹴り飛ばすことができた。
一方で、ロトはステッキを槍のように握ってじりじりとこちらとの間合いをはかる四辻人へと向き直っていた。
戦闘開始と同時に展開した無効化結界は四辻人の攻撃によって破壊されてしまった。ブレイク攻撃をしかけた四辻人はいま定がマウントをとって殴っているので大丈夫そうだが、別の四辻人が同じことをできないとも限らない。
「ブレイク攻撃があるなんて聞いてないよ」
ロトがそう言いながら相手を見つめると、相手の胸の辺りに『error』という単語が見えた。
「errorが出たら四辻人……だと思うんだけど。なんだろうなあ」
ロトは顔をしかめ、刀をしっかりと握る。
「なにか間違ってる気がする。胸がざわざわする」
けど、『確かめるべきじゃない』と本能が言っていた。いや、脳内の校長が言っていたのかもしれない。何方でも構わない。いまは、戦うほかにないのだから。
「とにかくこんなのは、もう終わりにするよ!」
ロトは間合いを詰め、四辻人へと斬りかかる。
●他人という怪異
戦いが続けば、相手の特徴も分かってくる。
ゼフィラは荒い息を整えながら道の端へと寄り、それを庇うように夕子が立ちはだかる。
「あんたが校長並に渋イケメンだったら生かしてあげれたかもね。
けど残念。恨みはないけど、さくっと死んでちょーだいね♡」
夕子は四辻人へと飛びかかり、再び分身して斬りかかる。
えげつないスリットのごとく敗れたスカートやおへそが出るレベルで敗れたシャツまで完全に再現する念の入れようである。
対する四辻人は杖をあろうことか二本取りだし、二刀流のスタイルで夕子を迎え撃った。
「堅った! 攻撃全然とおらなくない!?」
などと言いながらも、しっかり四辻人にダメージは入れているらしく相手のスーツはところどころ破れ、血のようなものが流れ出ていた。
ブレンダは両手にもった剣で四辻人のラッシュをなんとか凌ぎきると、深く息を吐いた。
「素早いな。このまま手数で攻められればしのぎきれんぞ。折角のブランドスーツも破れてしまった」
自分の姿を見下ろし、眉をうごかすブレンダ。高級そうなスーツは社交場には絶対に出られないありさまになっている。もうこうなればと前のボタンを外し、ブレンダはラフなスタイルで四辻人へ襲いかかった。
仕込みナイフで剣を払いのける四辻人。だが、ブレンダは剣に宿した風の力と焔の力を限界まで解放し、エンジンをふかしたモンスターカーのような音をたてて高速回転を始めた。
こうなればもはやチェーンソーと丸太である。強引なまでの連撃によって四辻人の防御は開かれ、スーツを切り裂き壁際へと叩きつける。
「なら、次はこっちだね」
ロトは先ほどから撃ち合っていた四辻人へ構え直す。
「そっちは攻撃を凌ぎ続けて長期戦に持ち込むつもりかもしれないけど……僕相手にその戦法は失敗だったね」
ロトは服の内側に仕込んでいた精霊術のサークルを叩くと、放出した四色の精霊たちによって結界を形成。ステッキを突き出し炎を吹き付けてきた四辻人だが、その炎はロトをただただすり抜けていく。
「今度はこっちの番だ」
ロトは更に『デスペルタル・マルクト』の術式を発動させると更なる精霊たちが彼へと宿り、虹の色を描き出す。
そのまま四辻人へ距離を詰め――連携していた定が四辻人へと思い切り拳をふるった。
「わっ!?」
焔は咄嗟に槍を翳し、殴りかかってきた四辻人のパンチを防御。
とんでもない威力があったようで、焔はそのまま後ろにごろごろと転がった。
「あれだけブレイクしたのにまだ結界はれるの!? インチキだよインチキー! APいくつあるの!? もー!」
焔はひとしきり地面でじたばたしてから、ぴょんと飛び起き夕子とゼフィラに呼びかけた。
「撤退しよ! ブレンダたちも見つからないし、戦うのは合流してからにしない?」
「さんせー」
「だな。死ぬまで戦う必要もあるまい」
肩を貸しあい走り出す夕子たち。
四辻人の一人がステッキを両手持ちし、折りたたみ式なのか大きな鎌のような形状に変化させて追いかけてくる。
「しんがりは、私がやっておこうかしら」
ヴァイスが優雅に振り返り、『でも』と言いかけた焔に手を振る。
「あとで、校長にごはんでもねだってみるわ。何が食べたいか決めておいて」
言いながらも自然界からエネルギーを引き出し、自らに概念武装として装着する。
「残りは全部あげるわ」
斬りかかる相手の攻撃を儀礼短剣だけで見事に払いのけると、ヴァイスは再びエネルギー放出をはかった。
「ぐっ!」
一度やられた攻撃だ。だが、分かっていても避けられないだけの強引な衝撃が繁茂にはしる。
吹き飛ばされまたも地面をころがった繁茂だが、しかしそこは学習する男繁茂。転がる動きを器用に利用してすぐさま起き上がると、先ほどの四辻人に追撃――。
しようとしたが、既に四辻人の姿はなかった。
「逃げられましたか」
やれやれとつぶやき、武器を下ろす繁茂。その手から禍々しい大鎌が消えた。
●あのひとは知っていたはず
戦いを終えて、八人それぞれが報告書を記し、それらをあとから確認した……その翌日のこと。
「『せんせい』。知っていたのですか?」
「そうだと言ったら?」
狭苦しいバー。四つしか無いカウンター席の奥に並ぶ繁茂と無名偲校長。
カクテルに口をつける校長の横顔を数秒見つめてから、繁茂はため息をついた。
「これが、唯一正しく『祓う』方法だったのですね」
相手は沈黙し、グラスの中身を飲み干した。
それがイエスのサインだとわかって、繁茂は唇の片端だけで笑った。
「お寿司と焼き肉、あとハンバーガーを山ほど……だそうです」
「約束しよう」
『釣りはいらん』といって、校長はカウンターに札束を叩きつけた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダー
希望ヶ浜地区にてすごしていたあなたのスマホに呼び出しの通知が入りました。
校長の話す夜妖、『四辻人(よつじびと)』を退治しましょう。
●フィールド
希望ヶ浜地区の住宅街での戦闘となります。
この地区では『夜妖などいない』というカバーストーリーを住民達に信じさせることで回っています。
なので、皆さんの戦闘は不審者と『町の外のひとたち』が戦っているとして警察あたりに通報される程度で済むでしょう。警察(この場合希望ヶ浜という空間を管理している上層組織)は皆さんのことをちゃんと承知しているので、適当に対応してカバーストーリーの維持に協力してくれるはずです。
ちなみに後処理は『掃除屋』たちがやってくれるのでノータッチで大丈夫です。
●エネミー:『四辻人(よつじびと)』
四辻にて突如現れる怪異です。
複数の目撃あるいは遭遇証言のなかで、人間の姿をしており人語を解するという部分が共通していますがそれ以外はあまり共通点がありません。
戦闘記録がないため戦闘能力については不明です。注意してことにあたりましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
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