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シナリオ詳細

親切なマリエッタ。或いは、襲来する“法を守る銀の騎士”…。

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●親切なマリエッタ
 ラサ。
 シュラム遺跡にほど近い、乾いた土地に住まうのは40ほどの狼の群れだ。
 つい最近、極寒の鉄帝から、灼熱のラサへと居住を移した獣種の一族である。
「よぉし! 聞け、お前たち! 彼女はマリエッタ・エーレイン(p3p010534)! 私の盟友だ! 棟梁である私の盟友ってことは、分かってるな? マリエッタに無礼を働くってことは、私に歯向かうのと同義だと思え!」
 太陽光が燦々と降り注ぐ中、一段高い櫓の上でライカ・スプローンは声を張り上げた。
 ライカの隣には、困惑した表情のマリエッタが立っている。
 彼女が口を開くより先に、眼下に群れた狼たちが声を揃えて頭を下げた。
『っす! よろしくお願いします、マリエッタの姉御!』
「えー……っと。はい、よ、よろしくお願いします?」
 どういうことか、とマリエッタはライカへ疑問の視線を向ける。
 不満と困惑に彩られたマリエッタの視線などどこ吹く風といった様子で、ライカは満足そうに数度、頷いた。

 思えば遠くへ来たものだ。
 狼たちが家を建てるのを指揮しながら、マリエッタは遥か遠い、鉄帝の地へ想いを馳せる。
 初めてライカたちと出会ったのは、鉄帝にある港町だった。
 そこで命がけの逃走劇を繰り広げ、紆余曲折の末にライカたちはラサへと居住を移すことになった。
 それから、見知らぬ土地での稼ぎに困るライカたちに手を貸して……結局、その後の顛末が気になって、こうして再びラサへと足を運んだのだ。
「姉御! 材木はそろってやす!」
「姉御! 土台完成しました!」
「あ、はい! では壁を作っていきましょう。ラサは暑く、雨の少ない土地柄ですから通気性の良い設計で。その分、夜は冷え込みますが、皆さんは平気なんですよね?」
「っす! 多少寒いのは問題ないっす! ご指導、ありがとうございます!」
 威勢よく返事をして、狼たちは次の作業へ移っていく。
 どうしたこんなことになったのか。
 事の始まりは数時間前、マリエッタが狼たちの集落を訪れた時まで遡る。

 マリエッタが集落へと到着した時、そこかしこに怪我をした狼たちが転がっていた。
 どうやら何かに襲われたらしい。
 碌な治療道具も持っていなかった彼らを、マリエッタは1人ひとり丁寧に治療していった。
 その後、目を覚ましたライカに連れられ壇上へと上がり「姉妹分」だと紹介された。
 そこから先は知っての通り……狼たちは、頭領であるライカの姉妹分を敬い、また深く感謝し住居の建築に勤しんでいるというわけだ。
「しかし、どうして皆さんはあれほどの怪我を?」
 運ばれて来た釘や建材をチェックしながらマリエッタは問うた。
 釘の詰まった箱には「フフ&プティ商会」と商会名が刻まれている。それをぼんやり眺めながら、ライカは顎に手を当てて「えぇっと」と何かを思い出そうとしているようだ。
「何と言えばいいのかな。今朝がた、20人ほどの騎士たちがやって来て“税を払え”と言って来た」
 騎士たちの名は“法を守る銀の騎士”。
 ラサの各地に勢力を広げる騎士団だ。
 街や集落に居座っては、治安維持と引き換えに高い税を要求する。
 当然に実力は高く、彼らの在中する土地では犯罪数が激減するという話だ。
「しかし払う金などあるはずはねぇ。治安は自分たちの手で守る……と断わりを入れたわけだが」
 それなら良し、と納得してくれるはずもなく。
「不法滞在は犯罪だと言われてな。奴ら、大砲なんぞ撃ち込んできやがった」
 
●ライカの宣誓
「慣れぬ土地で私たちが弱っていたのもあるし、お前たちとの戦闘で負った傷が治りきっていなかったのもある……まぁ、負け犬の遠吠えと言われればそれまでだけどな」
 そう言ってライカは、腹に巻かれた包帯を撫でた。
 血の滲んだ包帯の下には、深い裂傷が刻まれている。
 件の騎士に斬られた傷だ。
「まったくふざけた連中だ。自分たちの土地ぐらい、自分たちで守ってみせるっつーのによ。いや、早々に負けて無様を晒しておいてこんなことを言うのもどうかと思うが」
 元々、ライカたちは鉄帝の過酷な土地で生きて来た。
 弱肉強食を掟とする文化において、敗者が得られる者など何もあるはずは無い。
 糧も土地も命さえも、何もかもを奪われて、後は土へと還るだけ。
 ライカたちが、ラサの土地で新たな生活を営む機会を得たのは単なる偶然だ。
「その人たちは、また来ますかね?」
「来るんじゃねぇか? 指揮官だって言ってた……えぇと、コッパーって野郎が言ってたよ。次に来る時までに税を用意しておけ。さもなくば犯罪者として処罰する……ってな」
 そう言ってライカは、建築途中の住居を見やる。
 ライカの率いる群れたちは、こうして家を建てられるまでには体力を取り戻した。
 もう一月か二月もすれば、ある程度の戦闘もこなせるようになるはずだ。
「戦えるようになればあんな奴ら、腕っぷしで追っ払ってやれるのによ。私らは勇敢で、猛々しい狩人だ。【炎獄】を撒き散らす大砲も、当たれば吹っ【飛】ぶチャリオットの突進も、【滂沱】と飛び散る血飛沫さえも何てことねぇ。【必殺】の剣? くだらねぇ!」
 牙を剥き出しにして、ライカはぐるると獣のごとき唸りを零す。
 平静を装ってはいるが、仲間たちを傷つけられたことに怒っているのだろう。
 しかし、現状では“法を守る銀の騎士”に適わないことも事実。
 せめて、もう少しだけ時間があれば……。
 そう思わずにはいられない。
「でしたら……ライカさん。件の騎士の人たちを、力づくで追い払ってしまってもいいのでしょうか?」
「あん? それができりゃ苦労はしねぇよ。まさか手を貸してくれるつもりか? やめとけ、関係のない危険に首を突っ込むことは」
「関係ないですか? 姉妹分の窮地を見て見ぬふりをするのが……貴女たちの流儀でしょうか?」
 幸いなことに、イレギュラーズの中にはなかなか喧嘩っ早いものもいる。
 マリエッタが声をかければ、幾らかの人は集まるはずだ。
 騎士の数は20人ほど。
 こちらはライカを含め、10人足らずの戦力となるか。
「数の上では不利ですが、策を講じればどうにかなるかもしれません。ただ、もしも追い払ってしまえば、今後は“法を守る銀の騎士”たちに庇護を求めることはできなくなりますが……」
「そりゃ構わねぇ。信用できねぇ連中に守ってもらうつもりはねぇさ」
「では決まりですね」
 徹底抗戦といきましょう。
 そう言って、マリエッタは空へ向けて握りこぶしを突き上げた。

GMコメント

こちらのシナリオは「砂漠の怪物。或いは、ライカの金策…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7776

●ミッション
騎士団“法を守る銀の騎士”の迎撃

●ターゲット
・騎士、コッパー×1
馬に跨る銀の騎士。
切れ味の鋭い大剣を得物として振るう。
“法を守る銀の騎士”の一部隊を率いる団長らしい。
詳細は不明だが、ライカの話ではひどく高圧的な態度であったという。

突進:物中単に大ダメージ、飛
 馬による突進攻撃。

銀の剣:物近単に大ダメージ、必殺、滂沱
 切れ味の鋭い大剣による斬撃。

・“法を守る銀の騎士”団員×20
銀の鎧を纏った騎士たち。
治安維持、悪人の捕縛、法の整備などを担う秩序の番人。
治安維持の代償として、住人から税を取り立て活動資金に充てている。
実力は確かだが、彼らは彼ら自身の掲げる“正義”を絶対視しており、時には強引な手段で“悪”と定めた者を処罰することもある。
大砲を引く者が3人。
チャリオットに乗った者が5人。
歩兵が12人。

大砲:神遠範に大ダメージ、炎獄
 大砲による遠距離射撃。狙いはかなり正確だが、連射は出来ないようだ。

突進:物中単に中ダメージ、飛
 チャリオットによる突進攻撃。

銀の剣:物近単に中ダメージ、必殺、滂沱
 切れ味の鋭い剣による斬撃。

●同行者
・ライカ・スプローン
隻眼に黒い肌をした狼の獣種。
過酷な土地で生きてきたのか、体格が良く、勇敢で、そして凶暴。
安住の地を求め、ラサへと流れ着いた。
マリエッタとは“自称”姉妹分らしい。

野生の流儀:物近単に大ダメージ、飛、ブレイク
 殴打による吹き飛ばし。

狩りの極意:物近単に大ダメージ、流血、致命
 鋭い爪による残撃。

●フィールド
ラサ。
シュラム遺跡にほど近い、乾いた土地。
周囲には遮るものなど何もない。あるのは建築途中の住居と、乾いた大量の木材ばかり。
壁や堀といった防衛設備も現在は存在していない。
それから、集落の中央には井戸がある。
井戸を破壊されてしまえば、ライカたちがこの地に住み続けることは難しくなるだろう。

騎士団は夜明けの頃にやって来るようだ。
イレギュラーズが現場へ入れるのは、早くとも前日の深夜となる。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 親切なマリエッタ。或いは、襲来する“法を守る銀の騎士”…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月12日 22時05分
  • 参加人数9/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
スティール・ダンソン(p3p010567)
荒野の蜃気楼

リプレイ

●後は夜明けを待つばかり
「なぁ。木材は脆いし、足場は砂で不安定極まりねぇ。この程度の馬防柵じゃ連中の突進は止まらんぞ?」
 ラサ。
 暗い夜空に、鎚の音が鳴り響く。
 肌を刺すような冷気など、意にも介さぬといった様子で黒い肌の女は問うた。ぼさぼさとした獣の耳に狼の尾。隻眼の獣種が見やる先には丸太を担いだ『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)の姿があった。
「それに木っ端をばら撒いておけとは、いったい何のために? 走りにくくないか?」
「チャリオットの突進経路塞ぐ……と見せかけて制限する事が目的です。なので雑で構いませんよ。簡単に看破できれば真意までは見抜かれ辛くなるものです」
 『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が解説にまわるが、隻眼の狼……ライカには今一つ納得がいっていないようだ。
 ライカたちの狩り……戦闘は、速度と数と高い身体能力で一気呵成に攻め立てて、敵が消耗したところでトドメを刺すというスタイルが主となる。
 攻勢に打って出るのは得意だが、迎撃は不得手なのである。
「少しでも邪魔になればそれでいい。こちらが殴りかかる時間が取れればいいんだよ」
「殴り掛かるまでの時間稼ぎか。そりゃ分かりやすい」
 義弘の説明はライカの好みに合ったらしい。

 ライカたちの住処を見渡し『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は手元の図面と見比べる。
 ライカたちの強力のもと、突貫で行われる陣地の作成も大詰めだ。吹き曝しの砂漠の集落も、こうして周囲を柵で囲めば幾らかマシになるだろう。
 もっとも、その結果としてライカたちの住居が完成するのは、また少し先に伸びそうではあるが……何しろ柵の材料は、元々家屋を作るために確保していたものである。
「突進経路の制限、並びに井戸の防衛、と。備えあれば憂い無しだな」
 次に汰磨羈は足元に置かれた木箱の中身へ目を向ける。
 そこに詰まっているのは、菱の実や尖った石だ。拾って来たのは『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)だが、肝心の本人は姿が見えない。
「取って食うことしか考えられなくなっちゃった連中に“取って食われる”ことを思い出させてあげるんだからねっ!」
「……どこだ?」
 声はするが、姿は見えず。
 首を傾げた汰磨羈の耳には、ザッザッと何かを掘る音だけが聞こえていた。
 甘い香りに導かれ、狼たちが井戸の近くへ集まって来る。
「準備の合間の小休憩にでも食べていってほしいのですよー! 沢山あるので無くなる心配はしなくても大丈夫でして!」
 『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の用意した、菓子とお茶のティーセットである。真夜中のお茶会としゃれこんでいる時間は無いが、交代で休憩を取る程度の時間はあるだろう。
 腹が減っては戦は出来ぬ。
 ライカをはじめとした狼たちとリコリスは、忙しない作業の合間を縫って甘味とお茶を楽しんでいた。

 東の空が白く染まった。
 遠く砂漠の向こうから、列を成して近づいて来る一団がある。
 立派な鎧を纏った騎士たち。
 馬や大砲、戦車を揃えた“法を守る銀の騎士”の一部隊だ。
「一帯の安全を確保する代わり、重税を敷いて富を独占する……こういう連中には見覚えがあるな」
「そもそもこの遺跡周辺は僕の管轄のはずなのだが。僕に筋の一つも通さず不法滞在だ、納税とは」
 馬防柵に身を隠し『夕陽のガンマン』スティール・ダンソン(p3p010567)と『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)が言葉を交わす。
 一定の速度でこちらへ迫る騎士たちの数は20ほど。大砲が3に、チャリオットが5、先頭を進む乗馬騎士は部隊長であるコッパーという男だろうか。
 対するイレギュラーズはと言えば、ライカを含めても数は10と敵の半分程度である。狼たちのほとんどは、先の襲撃により受けた傷や、慣れぬ砂漠での生活によってまともな戦闘を行える状態にないのである。
「敵が四方に広がった場合、この人数では集落への侵入を拒み切れないだろうな」
 『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)は、僅かに顔を曇らせた。集落の周囲に柵を建て、幾らかの罠も仕掛けた。
 しかし、所詮は突貫作業。
 材料も時間も限られている中では、十全な備えが出来たとは言いづらい。
 馬防柵や仕掛けた罠の少し手前で、騎士たちはピタリと進軍を止めた。
 先頭に立つコッパーが、周囲を見回し1歩前へ。
「貴様たち、これは一体、どうい」
「なんじゃあーーーーーっ!!! “法を守る銀の騎士“! こんなとこでも悪さしとったかーーーーーっ!!!??」
 コッパーが声を張り上げる。
 直後、彼の台詞を遮って『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)が怒声をあげた。

●守るための戦い
 高圧的な態度で迫り、交渉とも呼べぬ主張を押し付ける。
 恫喝にも似たやり口こそが“法を守る銀の騎士”の常套手段だ。
 守護や治安の維持の引き換えに、住人たちから高い税を徴収する。だが、単純に金儲けが目的なのかというと、それは違う。
 彼らは、彼らの考える“正義”を遂行しようとしているだけなのだ。
 もっとも、彼らの主張する“正義”が、必ずしもその地に住まう者たちの平穏とイコールとは限らない。

 高圧的な態度と、武力を持って、主張を通す。
 そんなやり方を繰り返して来た騎士たちなので、今回のように発言を途中で遮られてしまうと弱い。
「話にならん。いいか、この地は我らが守」
「『自分達が金が搾れんなら邪魔だからぶち壊しとこ』って性根が見え見えじゃーーーっ!!! 正義以前の問題じゃバカタレが!!!」
「待て! その老婆を黙」
 騎士・コッパーの言葉は、チヨの怒声にかき消される。
 話にならない。話が通じない。話を聞いてもらえない。
 否、聞く必要が無いのだ。
 既に“法を守る銀の騎士”たちの目的や主張は聞いている。そのうえでライカは、彼らの庇護を拒否すると決めている。
 ならば後は抗うだけだ。
「……残念だ。貴様らは不法滞在者として処分する」
 コッパーは、背後に続く部下たちへハンドサインで指示を出す。
 隊列の後方から、前に出て来たのは都合3門の大砲だ。
 既に砲弾は装填されている。大砲についた砲手が、馬防柵の先……集落の中央付近へと狙いを定めた。
 まずは1撃、大砲を撃ち込む。
 その後、村を蹂躙しようという魂胆か。
 けれど、しかし……。
「あぉぉーーーん!」
 遠吠えが1つ砂漠に響く。
 次いで、銃声。
「っ!? 撃って来た!」
 銃弾が砲手の肩を撃ち抜いた。
 狙撃手の姿は見えない。
「落ち着け! 隠れているだけだ! 狙う必要はない! 撃て、撃て!」
 冷静さを欠いた部下たちを叱咤し、コッパーは砲撃の指示を下した。
 コッパーを頭に、まるで1つの生物のように。
 ハンドサインに従って、騎士たちはそれぞれの行動を開始した。
 歩兵が左右へと別れ、村へ向けての道を開く。
 その奥には、突撃姿勢を整えたチャリオッツ部隊。
 突撃の合図を放つは大砲だ。
 砲手たちが導火線へと火を灯す。

「撃て!」
 コッパーの号令が響き渡った。
 直後、一陣の風が吹き抜ける。
 否、それは風ではない。
「っ! ば、婆さん!?」
 砲手が悲鳴を上げるのと、チヨの拳が砲身を叩くのは同時。
 ごぼ、と砲身から沸き立つ湯水によって、砲撃は強制的に止められた。
 しかし、止められたのは1発だけ。残る2門の大砲は、村へ向かって放たれた。
 轟音。 
 次いで、歩兵と戦車が突撃を開始した。
 大砲を失った砲手は、剣を抜いて眼前にチヨに斬りかかる。
「ほっほっ! わしの速さについてこれるかの!」
 タン、と軽い足音を立ててチヨは後退。
 刹那、追いすがる騎士の足首をリコリスの弾丸が射貫く。

 煤と砂に塗れたスティールが、燃える木材の下から這い出す。
 全身がバラバラになりそうなほどに痛むが、どうにかまだ戦闘は可能だ。2発撃ち込まれた大砲のうち、片方を至近で浴びたのだ。
「無法者に組するならば、貴様も斬る」
 スティールの眼前に迫る3人の歩兵。
 それぞれが、銀の剣を手にしている。
 砲撃とチャリオッツの突進によって辺りはすっかり砂塵に覆い隠されていた。どうやら3人は、砂塵に紛れて村の近くまで接近してきていたらしい。
 残る騎士は砂塵の中……馬防柵に足止めされているようだ。
「……お人好しの知り合いってのもあるが、元々あんた達みたいなのは気に食わない質でね」
 ここを通せば、村に被害が出るだろう。
 至近距離。
 銃を得物に、3人の騎士を相手取るには分が悪いが、だからといって退くわけにもいかない。覚悟を決めたスティールは、咥えた葉巻に火を着けて、紫煙を1つ吐き出した。
「少しばかり鉛玉を届けてやろう」

 馬坊柵を跳び越えて、2つの影が飛び出した。
 片や、拳を固く握った大男。
 片や、黒く滑る怪生物。
「チャリオットも歩兵も巻き込んで、まとめて吹っ飛ばしてやらぁ」
 大男……義弘の拳に殴打され、歩兵2人が地面に転がる。
倒れた歩兵を乗り越えて、馬牽き戦車が義弘へと接近。
 疾走の勢いを乗せた馬上槍が、義弘の脇腹を抉った。
「ぐぅ……おぉ!」
 脇で絞めるようにして義弘は馬上槍を固定。
 筋繊維と肉の千切れる音がして、鮮血が地面を赤く濡らした。
「馬鹿な! う、馬を止めるか!」
 戦車の強さは、その速度と重量にある。それが止められてしまえば、単なる歩兵と大差はないのだ。
 チャリオットの動きが鈍ったその瞬間、怪生物が馬の背へと飛び乗った。
「僕の腐る程ある嫌いな事から二つを教えてやろう」
 ぬるり、と。
 黒い腕が戦車騎士の頭部を掴む。
「一つ。僕は舐められるのが嫌いだ。二つ。僕は身内に手を出されるのが嫌いだ」
 起き上がった歩兵たちが愛無の周囲を取り囲む。
 それぞれの手には鋭く尖れた騎士の剣。
 数の上では有利なのだ。何を恐れることがあろうか。
 己の正義を支えとし、怪物を相手に挑む気概も素晴らしい。
 けれど、しかし……。
「さて。如何してくれよう」
 数本の触手が空を切り裂き、歩兵たちへと食らいつく。

 砲手2人は砂塵に紛れて後方へ。
 2発目の砲弾を装填し、村へと再度、狙いを定めた。
 混戦の中に2度目の砲撃を撃ち込めば、イレギュラーズも護りに回らなければならなくなるだろう。
 そうなれば数で勝る騎士の方が有利になるはずだ。
 周囲を囲んで、一斉に攻め立てればいい。
 なんて。
 彼らの淡い目論見は、マリエッタによって阻まれる。
「まずは大砲を潰してください! 敵の数を的確に減らせれば……こちらのものです!」
 回復役として駆けまわっていたはずのマリエッタが、砲手の方を向かぬままに声をあげた。まるで騎士たちの戦略を、すっかり読んでいるかのようだ。
「了解。全力でぶっ放すのですよ!!」
 マリエッタの指示に応じる声は、砲手たちの背後から。
 大口径の銃を構えたルシアの姿がそこにある。
「いつの間に後ろに……」
「空を飛んで来たのでして! さぁ、ずどーんですよ!」
 そう言ってルシアはトリガーを引いた。
 解き放たれるは、収縮された魔力の弾丸。
 否、砲弾とも呼ぶべき破壊の奔流か。
 空気を震わせ、砂漠を抉り……破壊の魔弾が大砲2門を撃ち抜いた。

 後方からはルシアの魔弾。
 前方からは姿の見えぬリコリスの狙撃。
 撤退を選んだ歩兵の脚に、視認できぬ魔力の糸が絡みつく。
「悲鳴と血と涙とを啜り上げて笑う者が正義だなどと、よくもまぁ言えたものだ」
 そう告げたアルトゥライネルの姿は見えない。
 砂塵の中、孤立し動けなくなった騎士は……ただ震えることしかできないでいた。

 捲かれた木材を巻き込んで、車輪の1つが砕けて散った。
 転倒したチャリオッツから投げ出された騎士は砂漠を転がる。
 その眼前に誰かが迫る。
 見上げた先には、褐色肌の小柄な少年……アルトゥライネルの姿があった。
 翳された手には、魔力の光が集約している。
「ま、待て!」
 倒れた騎士が待ったをかけるが、当然それが聞き入れられることはない。
 一瞬、騎士の視界が真白に染まり……。
 直後に起きた爆発に、飲まれた彼は意識を手放したのだった。

 馬上より一閃された長剣が、ライカの脚を切り裂いた。
 鮮血に塗れて砂上を転がるライカを追って、コッパーは馬を反転させる。
「ぬ……おっと! もう1人いたか!」
 馬の影に潜むようにして、迫り来る剣士が1人。
 コッパーの振るった剣を、汰磨羈は砂漠に伏せることで回避した。
「こういう時、己の背の低さに感謝したくなるな?」
 白い髪を風に躍らせ。
 低い背丈に似合わぬ大太刀を振るう。
 その様は美しく、そして何より苛烈であった。
 ともすれば、数多の戦場を乗り越えたコッパーの愛馬が恐怖に身を竦ませるほどに。

●適者生存の流儀
 砂塵が風に流された。
 砂に掘った穴から顔を覗かせるリコリスは、ライフルのスコープを覗き込む。
 意識を失い倒れたスティールと、その前に立つ2人の騎士。
 どちらも鎧に空いた穴から血を流している。
「おいたをする悪い騎士さんの所には、こわ〜い狼がやってくるっていう言い伝え、知ってる?」
 傷を負いながらも次の戦場へ移動しようとするとは立派なものだ。
 だが、動きの鈍い歩兵騎士などリコリスにとっては手負いの獲物と大差ない。スティールに負わされた傷が痛むのか注意力も散漫している。
「知らないよね。それってつまり“言い伝える人が全員食べられちゃっていて、もう誰も残っていなかった”ってオチなんだよ?」
 続けざまに2発を発砲。
 狙い違わず、リコリスの弾丸は騎士たちの腹部と膝を撃ち抜いた。

 踏み込みと同時に放つ渾身の殴打。
 義弘の拳が、チャリオッツに乗った騎士の胸部を打った。
「正義を振りかざすのは結構だがよ、行き過ぎた行動は自分等に跳ね返ってくるだけだろうによ」
 気絶して砂上に倒れた騎士へ向け、義弘はそう言葉を投げる。
 血を流し過ぎたのか、義弘はよろりと脚を縺れさせた。しかし、どうにか【パンドラ】を消費し意識を繋いで立て直す。
「っと……流石に雑魚じゃねぇな。お?」
 額を抑えた義弘の身体を、淡い燐光が包み込んだ。
 砂塵に紛れて姿は見えぬが、マリエッタの支援が届いたようである。

 愛無の触手が宙を舞う。
 投げ飛ばされた騎士は、重たい音を立てて砂漠に掘られた穴の中へと落ちた。
 戦闘不能となった騎士を一ヶ所へと集めているのだ。
「暫く使い物にはならんじゃろうが、この悪ガキどもはどうするんじゃ?」
 そう問うたのは飛竜に乗ったチヨである。
 片手に自走式爆弾を持った彼女は、捕えた騎士たちが逃げ出さないよう見張っているのだ。
「……此奴らの処遇はライカ君達に任せようか。僕は殺したモノを喰う事にしているが。此奴らは酷く不味そうだしな」
 残る騎士は僅か数名。
 部隊長であるコッパーも直に運ばれてくるだろう。

 マリエッタへと迫る騎士。
 大上段に掲げた剣が振り下ろされる。
「あぶねぇ!」
 マリエッタを庇うようにライカが前へ。
 その眉間を剣が切り裂く、その刹那……。
 ズドン。
 空気を震わす轟音とともに、1発の魔弾が騎士の背中を撃ち抜いた。
 上空から放たれたルシアの魔弾だ。
「うぉっ!?」
 よろけた騎士の顔面を、即座にライカが蹴り砕く。
 鼻の骨が折れたのだろう。
 滂沱と血を噴き、騎士は意識を失った。
「こんなことして、今更許す訳ないのですよ」
 そう告げたルシアは、翼を広げて空の高くへと昇って行った。

 布に脚を絡めとられて、コッパーの乗る馬が砂上に倒れ込む。
「騎士の名を騙る悪党め。砂上を這わせてやる」
 転倒する馬に引き摺られ、アルトゥライネルが地面を転がる。
 走行中の馬を力づくで止めたのだ。
 全身の筋肉が酷く損傷したのだろう。アルトゥライネルは激痛に顔を歪め、身体を痙攣させる。
「貴様っ……私の馬を! 穢れ無き銀の鎧を砂で汚すなど許されることでは」
「何をぬけぬけと。私の盟友に害す者たちに容赦はできません。騎士という存在……狩りつくし……あら?」
「何に引っ張られている? まぁ、ともかく、こいつらは守るべきものを違えたな。さて、"業"の徴収といこうか?」
 マリエッタの伸ばした腕を、手首から流れた血が赤く染め上げる。
 蠢く血が何かの形を作るまでの時間を稼ぐため、汰磨羈が前へ。地面に膝を突いた姿勢のままコッパーが長剣を横に薙ぐ。
 汰磨羈が刀を振りかぶる。
 コッパーへ半身を晒す形だ。薙ぎ払われた剣が肩から背中にかけてを深く斬り裂いた。
 白い衣装が血に染まる。
「っ……威力が」
 元々、馬上で扱うための長剣だ。馬の突進力を失ったうえ、不安定な姿勢では本来の威力は乗せられない。
 一閃。
 血飛沫を撒き散らしながら汰磨羈の放った斬撃が、コッパーの膝を抉る。
 再び砂上に倒れたコッパーの眼前に、ぬるりと赤い何がが迫った。
「……悪魔め」
 それは、血の身体を持つ死神だ。
 死神を操っているのはマリエッタか。
 振り上げた大鎌が朝日を遮り影を作った。
 刹那。
 死神の鎌がコッパーの肩から背中にかけてを貫いた。

 縛り上げた騎士たちは、身ぐるみを剥がされ砂漠の真ん中へ捨てられた。
「弱肉強食とは言え、何も無駄に殺しをしたいわけじゃねぇしな。もしかすると、軍勢率いて仕返しに来るかもしれねぇが」
「なにケツは僕が持つさ。君達は僕の部下で身内だからな」
 なんて。
 困ったようなライカへ向けて、愛無はひとつ言葉を投げた。
 なにはともあれ“法を守る銀の騎士”は敗北したのだ。
 生きて砂漠を抜けられるかは……彼らの運次第だろうか。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
アルトゥライネル(p3p008166)[重傷]
バロメット・砂漠の妖精
スティール・ダンソン(p3p010567)[重傷]
荒野の蜃気楼

あとがき

お疲れ様です。
“法を守る銀の騎士”は撃退され、ライカたちの集落は護られました。
また、ライカたちからの信頼も得られたことと思います。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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