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シナリオ詳細

地中に青空を描く絵師とワイバーンの、エンディング後のその部屋で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●エンディング後のその部屋で
 絵が描かれている。
 描いたと思われる亜竜種は、扉にもたれかかるようにして骨の体をさらしている。それは、遥かな過去に絶命してそれきりの、動かぬ死体。
 扉を守るようにして、同じように骨の体になったワイバーンが牙を剥く。それは、何らかの理由でここで死に、アンデッドと化したのだろうか。

 ――スケルトン・ワイバーン(骨竜)。
 ペイトの戦士たちは、その部屋を『ボス部屋』と呼び、敵のワイバーンをそう呼ぶことにした。
 骨竜は、語らない。
 骨竜は、敵意を向けて積極的に攻撃してくる。

 部屋の壁には青空の絵がぐるりと描かれている。
 部屋の隅には過去に其処で人が暮らしていたであろう形跡があり、中には壁画を描くのに使うような画材一式もある。
 ゆえに、ペイトの戦士たちは扉にもたれかかる故人が「何か事情があってここで暮らしていて、通路やこの部屋に絵を描いたのかもしれない」と思った。

 過去、そこで同じ時間を過ごしたと推測されるその絵師とワイバーンに何があったのか、真実は未来の者にはわからない。推測をし、想像を巡らせる事しかできない。
 彼らに物語があったにせよ、それはもうエンディングを迎えた後なのだ。


●青空に包まれたなら
「ペイトの戦士たちが苦戦しているフロアを攻略してほしい」

 フロアの通路の壁には、壁画がたくさん描かれていた。文字ではなく絵で語るそれは、先に進むにつれ話が展開する絵物語。デザストルの民の中には知る者もいる実話をもとにしたという御伽噺で、少年が悪い竜の根城に出向いて悪い竜を討伐するお話だ。

 壁画は、物語の途中から作風の違う絵が何枚か描かれている。
 異なる作風は、きっと別人が描いたのだろう。
 少年が竜と出会うあたりから追加された様子の作風の違う絵は、地中に追いやられたワイバーンと少年の友情を描いていた。

 そんな通路を進んだ先に、次のフロアにつながる扉がある、ペイトの戦士たちが『ボス部屋』と名付けた部屋がある。

 壁一面に青空が描いてある拓けた空間。
 そこが、戦場だ。

 そこにあるのは、扉にもたれかかるように倒れている亜竜種の人骨と、それを守るように牙を剥くスケルトン・ワイバーン(アンデッド・骨竜)。部屋の隅にはかなり昔に人が暮らしていたであろう形跡があり、その中には壁画を描くのに使うような画材一式もある。
「選抜チームは、スケルトン・ワイバーン(アンデッド・骨竜)を退治して、次のフロアに進めるようにしてください」

 イレギュラーズに、そんな依頼がされた。

 依頼をしてきたのは、4人の亜竜種。
 メナス。
「ペイトの戦士たちが攻略中の遺跡探索に詰まって、追加で探索者を外部から募る事にしたんだって」
 他集落との外交・友好関係(助け合い)のチャンスだ、と語るのはメナスの『指し手』柯・安茜(こ・あんしぃ)。友達になってくれたメイメイ・ルー(p3p004460)へといそいそと依頼書を差し出した。
「遺跡、ですか……?」
 ドラネコを抱っこしたメイメイが愛らしく首をかしげ、両手でそぉっと依頼書をつまむ。
「フリアノン、ウェスタの知人からも協賛者を募って、共同依頼の形式を取らせてもらう事にしたんだ。それぞれ、『優先して依頼してほしい』ってイレギュラーズを一人、推して貰って」
 安茜はメイメイちゃん推しだ。推しというか、キュンでラブだのだけど。
「現地は、青空の絵が描かれているんだって」
 ――『ボクはひとりで頑張るより、他人を頼るほうが好きなんだ。お互い得意な事が違うメンバーが協力しあうと、いろんなことができるよね』。

 フリアノン。
「くぁ~」
 『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)が拾った卵から産まれてきたリトルワイバーンのロスカは、アダマンアントとも一緒に戦った頼もしい相棒だ。ロスカが小さな炎をポッと吐いて鳴くと、ワイバーンの育成にも携わる迅家の竜種マニア迅・天黎(じん・てんれい)が「可愛くて仕方ない」といった目でニコニコした。
「夢の世界でもボォオォ~ってしたの?」
「そりゃもう、ぴょんっとしてバサァっと飛んでボーーーッです!」
「わあ~っ♪」
 ――『アタシ、ワイバーンが蒼穹を飛んでいる姿が好き。大空を飛ぶために生まれてきたんだって全身で誇るみたい』。

 ウェスタ。
 ――『生活の大半を晶窟で過しているから、鉱物は好きだし、鉱物の扱いには自信があるよ。何か見つけたら、お土産にもってきてほしいな』。
「……」
 晶・蒼良(しょう・そうら)は『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)の名前を思い浮かべて、「彼女がとある依頼にて両足ごと植物を燃やした」という情報を知ってまず驚いた。
(ぼくが知ってる彼女は、守るより守られるほうが絵になりそうな、はかなげでいたいけで――でも、仕事をお願いしたら、したたかで。頼もしいとおもった)
「……だれかのために。彼女は、そういうところがあるよね」
 蒼良は心配そうに呟いて、迷う素振りをみせた。情報によれば、両足を失った後も依頼に参加したというので、依頼は可能なのだろうが――、
「無理はしないでほしい、って、……そう伝えてもらえる……?」

 ――ペイト。
「咲耶。頼めるだろうか」
 瑠璃(リォウリー)が視線を向ける先に、『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)がいる。
 瑠璃は『晶化症』を患っている。
 彼女の一族特有の、老化が止まる代わりに年を取る度に体が少しずつ水晶化する病だ。現在は薬のない病。それに対応する方法は、世界中を探せば、天地の何処かにはあるだろうか。例えば、最近発見されたアーカーシュとか。効きそうな素材を調合して、新薬を生み出す事はできないだろうか。瑠璃はそんな考えも示しつつ、ペイトの住人として今回の依頼をする。
「その遺跡の周辺は結晶物質が多くて、出没する敵対生物にも晶化現象が見える。安易にその遺跡の中に薬が転がっているなんて可能性はさすがにないと思うが、病の進行を遅らせたり、晶化した身体部位が動きやすくできたり――なにか活路が見つかればと」
 ――それは、藁にもすがる心地なのだろう。

 地中に青空を描く絵師とワイバーンの、エンディング後のその部屋で、8人が冒険をする。
 現在を過ごす彼らはその部屋でどんな噺を紡ぐだろう。
 やさしい物語だろうか、それとも、殺伐とした物語だろうか。
 8人のこころが繋ぐ、『これから』のお話――それは報告書として記録にのこり、未来の者も知ることができるのかもしれない。

 ニセモノの青空に、死したワイバーンが羽ばたく、この地中の現実で。

 ――さあ、冒険をはじめよう。

GMコメント

 絵はお好きですか?
 透明空気です。
 今回は覇竜での冒険です。

●依頼達成条件
・スケルトン・ワイバーン(骨竜)の討伐

●ロケーション
・古代地下遺跡:『亜竜集落ペイト』周辺にある古代地下遺跡の内部の1室、次のフロアに繋がると思しき扉が見えていて、扉を守る敵がいる、いわゆるダンジョンのボス部屋をイメージするとわかりやすいでしょう。
 灯り:フロアにはペイトの戦士たちが設置した人工の明かりが燈っているため、灯り対策は不要です。
 周辺:天井と足元は凹凸の少な目の乾いた土の床。壁には青空の絵がぐるりと描かれています。ゴロゴロ転がる自然岩石。床や壁のところどころに透明度の低い自形鉱石結晶が生えています。戦闘するのに十分な広さがありますが、ワイバーンが飛翔戦闘するほどの広さではありませんので、敵が空中戦をするのではという警戒は不要です。

※『亜竜集落ペイト』
 地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
 暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住まいます。
 ペイト周辺には、フリアノンに繋がっている地下通路が存在しています。基本的にはペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在しています。

●敵
・スケルトン・ワイバーン(骨竜)x1体
 ワイバーンのアンデッド(スケルトン)。扉を守るように扉の前に陣取っており、敵意は高いです。感情も生前の記憶もほとんどなく、扉を守る事と近づいてきた生者を狩る事だけに執着しているようです。眼窩には不吉で敵意のある淀んだ光が宿っています。羽ばたきで毒気のある風刃を飛ばす必殺技あり。背や尾骨のあたりに透明度の高い結晶棘がところどころ生えています。

●関係者
 各関係者は依頼者の立場で、基本は同行しませんが、EXプレイングをご利用の上で同行させる記述があれば、同行したことになります。
・瑠璃(リォウリー)
 如月=紅牙=咲耶(p3p006128)さんの関係者です。
 里の戦士よりちょっと強い程度の実力者。飄々とした雰囲気を持つ亜竜種。穏やかで落ち着いた性格。一族特有の病『晶化症』を患っていますが、遠い昔に亡き祖母と交わした『生きる事を諦めない』という約束を大切にしていて、治療法を探して旅をしていたようです。結果、治療法は見つからず病は進行し、帰郷しています。実はかなりの酒豪で大食いであり好きな物は酒、魚、嫌いな物は芋虫。

・迅・天黎(じん・てんれい)
 ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)さんの関係者です。
 亜竜集落フリアノンに住まう竜種マニアの亜竜種。ワイバーンや幼竜を育てる迅家と呼ばれた名家の血を引いています。
 覇竜領域を出る事の無い彼女は、とっても強くて恐ろしい竜種へと最接近して、その体を撫でさせて貰うことを幼い頃から夢に見ていました。その夢を叶えてくれるのがリヴァイアサンを封じた英雄譚、めちゃめちゃ強くてすご~いイレギュラーズ達の存在なのです。

・晶・蒼良
 ネーヴェ(p3p007199)さんの関係者です。
 亜竜集落『ウェスタ』在住。近郊に存在する晶窟『プーロセル』の管理を行っている家系の少年。亜竜種達が生活に使用する鉱石が無法者に荒らされぬようにと晶窟の守人として両親と共に働いています。生活の大半を晶窟で過しているため、鉱物の扱いに長けています。

・『指し手』柯・安茜
 メイメイ・ルー(p3p004460)さんの関係者です。
 小集落メナスの里長の孫。父は他界済みで、もう数年すれば里長を継ぐ予定です。指揮の才能があり、現時点でメナスの戦闘指揮権を有しています。覇竜にイレギュラーズがやってきた後、現地の亜竜種が空中庭園に召喚され何人もイレギュラーズになっており、安茜もその一人です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。
 それでは、いってらっしゃいませ!

  • 地中に青空を描く絵師とワイバーンの、エンディング後のその部屋で完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ

●渡り鳥の唄
『エピステーメー』ゼファー(p3p007625)がひとふりの槍と共に足音を響かせる。
 閉ざされ、隔絶された小さな世界。
 こんな片隅の狭い世界に、どんな挿話があったのやら――。

 塗料の香りと彩が遺跡を浸している。

 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の背中を黒猫たんがよじよじしている。一匹をそおっと抱き取り、『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)がほわりと首を傾けた。
「めぇ……わたしで、宜しかったのでしょう、か」
 安茜がそんなメイメイにそわそわと頷き「それはもう、すっごく頼りにしているよ」って声を返してから、悩ましく小声で自問している。
「誕生日おめでとうって言ったら、ストーカーみたいに思われちゃうかな?」
 そんな少年のラブ心を知らず、メイメイは甘酸っぱくはにかんだ。
「えへへ、お友達に頼られるって、こそばゆいです、けれど、嬉しいものです、ね」
 安茜は幸せそうに竜羽をぱたぱたさせて、竜尾をゆらゆらぶんぶんさせた。
 ――ボクはメイメイちゃんのお友達! えへへ……っ!
「大切なお友達のメイメイちゃんが嬉しいって言ってくれて、ボクもうれしいよ!」
「わたしも、ひとりは心細いので、共に戦ってくれる、誰かがいるということに、勇気を、いただけるのです」

 壁画を眺めながら目的の部屋へ進めば、二つの物語の時間に挟まれるようだった。
(少年と竜の友情の物語……でも、この先は)
 
 扉が開かれる。
 視界に広がるのは、空間の青。色褪せて、上のほうは届かなかったのかすこし塗り切れていなくて、けれど屹度一生懸命に塗った、そんな空。

 メイメイは両手指を柔らかにあわせて、感嘆の吐息を零した。
(これが、青空の、お部屋……とても、綺麗……)
「きっと、死してなお、守りたかったのです、ね」
 
「咲耶……」
 瑠璃がぎこちなく愛剣『冥星』に手を伸ばし、落ち着いた声を響かせた。
「付き合ってくれて、ありがとう」
「ここに晶化症の手がかりがあるのか判らぬがまずは障害を退けてからでござるな」
 忍びの娘『朝を呼ぶために』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が当然の温度で応えて保護結界を巡らせると、瑠璃は目を眇めるようにして部屋を見た。
 ――都合良く何かが見付かるとは思わない、それでも可能性があるならばまだ諦めたくはないんだ。
 そっと握った手が、励ますように揺れて。
「この壁画、絵を描いた本人の過去か、それとも想像で描かれた物かは判らぬがどの様な経緯であれ描いた本人には大切な物でござるかな……守っておくでござるよ」
 メイメイが嬉しそうに微笑み、ゼファーも頷く。
「あの屍と、此の骸にどんな物語があったのか、其れを、正しく推して知る術は無いかもしれないけれど」
 周りの壁画やら、人が住んだ跡やらは出来るだけ壊さない様に心がけましょう、と。

 アーマデルが関係者を紹介する。
「晶化現象と聞いて、左近殿の主殿を思い出したんだ。主殿の患う宝石病と近しいものなのだろうか、とな」
 左近は恭しく礼を告げ、事情を知らぬ仲間たちに情報を共有した。

 宝石を食べる事で発光器の尾を光らせるという『煌石竜』。その子孫と言われている宍戸一族は代々特殊食が根付いており、綺麗で固い物しか口にしたがらない。
 しかしそのまま食べ続けていると身体が内部から結晶化し、三十路の前には全身が宝石となって死に至るのだ。

「大変興味深い遺跡、そして症状です……」
「その、僕は亜竜集落ジュエリアの宝石病については初耳だ」
 瑠璃が言えば、「両者にとって良い縁とならんことを」と『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が唱えるように言って左近に「何かわかればいいな」と微笑んだ。
「危ないと思ったら無理せず下がり、身を守る事を優先してくれ。あんたに何かあったらあんたの主殿に向ける顔が……それに主従の間に挟まる男にはなりたくないしな」
 左近は片眉をあげて端正な顔に笑顔を湛え「挟まろうとなさっても挟ませませんが」と主人想いの眼を見せた。
 それにしても、と声が続く。
「死体や骨竜の状況を見た感りでは、骨竜が食らったようには見えないな。どちらも扉を塞ぎ、守ろうとしているように見えるが……」

 通れる大きさの頃に連れて来られるか入り込んだか……?
 空へ戻れぬ竜の為、空を描いた……ように見える。

 そのような可能性があるだろうかと想いを馳せれば、骨竜が侵入者を見付けて敵意を剥きだしにしているのが痛々しくも見えてくる。
 
 ――知らぬ者にとってはその想像が『真実』になるのだろう。
 この先にその裏付けがあるのか、或いは異なる真実があるのか……、いずれにせよ、往くべき処へ送ってやらねば。

「不治の病を治す活路――そんな話を聞かされれば、心の底から気合が出るというものだ」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は以前訪れた遺跡で見つけた小部屋の壁画とこの遺跡の壁画の筆致が似ている事に気付きながら、「調べるのは後だ。まずは、目の前の障害を排除せねばな?」と涼やかに妖刀の鯉口を切る。
「どんなものでもいい。必ず、手掛かりを持って帰るぞ」

「骨になっても、守り続ける、なんて……一体、何があるのかしら」
 『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)が義足を前に進ませると、蒼良は心配そうな目を向けた。
「……いえ、何かがあるのは、この部屋自体なのかしら。この絵を描いた方との時間や、思い出。忘れてしまっていても、忘れられない何かが、あるのかもしれません」
 ふわりと振り返りネーヴェが眼差しを注ぐと、蒼良はひたりと見つめ返した。
「晶様は、巻き込まれないところに、居て頂けますか?」
 ――凛とした口調。
「うん。きみに、加護がありますように……あと……」
 白うさぎがふわりと微笑めば、蒼良は「危なくなったら、ぼくが守るよ」とよっぽど言いたくなったが、呑み込んで「気を付けて」と一言を捧げた。

 ――にゃあ。
「死して尚、友を守り続ける……か」
 ゲオルグは羽付きの黒猫を撫でながら全てを見透かす視座に居る。
「屹度、此の物語は終われずにいたエピローグ。だったら、幕を引いてあげるのも人情ってものじゃないかしら」
 ゼファーがすらりと槍を構えた。無風を全身で伝えるような静けさに、ゲオルグが頷く。戦の火蓋が落ちれば黄泉比良坂を転げ落ちるが如き速さで結末まで止まれぬと知っているから、刹那の静寂に楔を打ち込んで確りと地に足をつけるような低い声で。
「本当にそうなのかは私達には知る由もないが、このまま放置しておくわけにもいかん。せめて、天へと還らせてやらんとな」

 『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は空間の明度を数度引き上げるような陽気で溌剌とした笑顔でロスカに乗っていた。
「迅さんに使命してもらいましたからね!ㅤうち頑張っちゃいますよっ!」
 そんな主人のロスカも張り切リトルワイバーンといった勇ましき顔で炎をぽっと吐き出している。
「今回はあんまり高く飛べないですが、よろしくお願いしますよロスカ」
「くぁ〜♪」
 騎手への友情厚き声が響くと、骨竜がほんの一瞬だけ敵意を低下させていた。ぽっかりと空いた眼窩は、ロスカを見つめていた。
 骨竜はくわりと口を開いた。イレギュラーズは身構えたが、数秒ののちに口はそのまま閉じられた。

「くぁ~?」

 ロスカのきょとんとした鳴き声が反響して、ウテナがよしよしと頭を撫でてやる。あの骨竜さんは、声が出せないんですよと囁いて。殊更前向きに、ロスカが迷わぬようにと快活に宣言する。
「そこをどいてください骨竜さん!ㅤどかないなら実力行使ですよっ!」
 開幕のビジョンは明確に決めていた――ショウ・ザ・インパクトの衝撃と共に――「出鼻を挫く!」覇竜の導きを胸に、賑やかに戦いが始まった。

 
●常世隠
「こっちに突っ込んでこようったってそう上手くは行かせませんよ」
 ウテナが植木鉢から茨姫めいて敵を包むスケフィントンの娘を喚び、迷宮森林に落ちていたのだと紹介して。
「痺れちゃってくださいっ!ㅤびりびりですよっ!」
 結晶の棘が痛そうですねっ、という声に汰磨羈が「結晶棘を損傷させる事によって何か変化が起きるかみてみよう」と提案している。

 兎が跳ねるには、少しばかりまだ――、けれど。
 「わたくし、そんなものでは捕まらないわ!」
 ネーヴェが毅然と頭をあげて疾風めいて側面にまわり、風の刃を避けている。少し蒼良はハラハラと見守っていたが、その美しい爪が鮮烈な雷光の軌跡を描き流れて踊るような戦いぶりは危なげなく、気高い。

「安茜さまのお力をお借りしても……?」
 メイメイの言葉が安茜の脳裏で永遠にリフレインしている。
「♪伏せませ、増しませ、とおりゃんせ……」
 安茜の歓びの歌が全員の能力を大幅に引き上げてくれた。

 双星が流れる如く二者が往く。
「相手が一体だけなら、挟撃を狙うのがベターか。前は任せるぞ、ゼファー」
 汰磨羈が悠久の自然を象徴するような凪いだ海の如き青を向ければ、ゼファーが風に雲を全て流してしまった快晴空の青で応える。互いの瞳に互いが映りこみ、無言で地を蹴って反対側に駆けていく。

 背後に回り込む汰磨羈の耳が揺れて、ゼファーの名乗り口上を背景に骨竜が羽を暴れさせた。
「さぁて。死んでも此処に留まる理由はなんだか」
 汰磨羈の立ち回りを信頼しつつ、ゼファーは細心の注意を払って敵味方の位置と方向を調整する。範囲攻撃が味方に向かないように――「みんな、私が失敗するなんて思いもしないって顔でしょう。わかるわ!」その通り。任せていいわよ! 強気に笑めば、無風の空間に気持ちの良い風が吹くようだった。現実に吹いていたのは、敵の物騒で毒気のある風刃だったけれど!
「偶然か、唯の物好きか。それとも……」
 ……其の口から事情を識ることも叶わないのでしょうけど、
「……ねえ!」

 ゲオルグはそんな余裕の回避ぶりを見て、回復は不要と判断して距離を詰め、魔狼の咆哮を轟かせた。その音が全員を鼓舞するように響く中、アーマデルが英霊残響を併せ奏でている。
「死してその身が朽ち果てど竜は竜。その骨だらけの身体、どこまで持つか試してくれよう」
 咲耶が体重を感じさせぬ身軽さで跳躍し、そのまま飛翔すると瑠璃はその足元の影と化したように姿勢低く駆けた。上と下、狙いははっきり共有している。
「まずはその毒を撒き散らす翼が厄介でござるな」
「咲耶、露払いは任せて」
 下で瑠璃が笑い、大胆に竜躰に飛びついた。気を惹いた一瞬に死角を突いて、咲耶が「邪剣の一」影のように囁いて印を素早く結び絡繰手甲を繰り出した。後の先から先を撃ち、縫い付ける――羽の付け根を狙った一撃に瑠璃が笑み、敵の足を浅く切りつけている。
 吾妻屋・胡蝶が作りし絡繰手甲を慣れたように使いこなす咲耶の魅せる自由自在な変容妙技は瑠璃には疾巧としか言いようのない頼もしさで、思わず「あんな風に動けたら」と呟きが洩れるほど。
「反撃が来る。岩陰に」
「こっちだ!」
 上と下とで声を掛け合い、岩陰に隠れればいつかの冒険を思い出して、自然と視線を絡ませて笑みを交わした。
 ああ、僕は今――生きている!
 瑠璃はにっこりとした。

 風刃の毒気を槍で斬り払い、ゼファーが余裕の声を響かせている。耐性があるのだ。
「相手も一応はワイバーンですもの。ナメてかかれないわ!」
 ゲオルグは急がない。端然と着こなすスーツを乱すこともなく、結晶石群に足取りを迷わせる事もなく、沈着に距離を保っている。
 敵の予備動作にあわせるように大型ハンドガン『魔狼の咆哮』に魔力を充填し、至近に照準を合わせる。外す気がしない。
 黒玻璃めいた瞳に確信を閃かせ、トリガーを引く。銃口が吠声と爆発的な撃光を放つ。眼前の骨が砕かれるのは、ゲオルグにとって当然の戦果。其れを確認するより先に追撃が続くのは、一種の作業めいていた――慣れているのだ。

「結晶がどういう影響を与えているのか、観察させて貰うとしよう」
 メイメイが星官僚のタクトを振って敵のみに絡みつく嵐を喚ぶ中、汰磨羈は尾骨の結晶棘を損傷させ、若干変則的な跳ね方をした破片に眉を寄せた。
 高らかに魔狼の雄叫びが轟く。ゲオルグの銃口が福音を慣らし、負傷と同時といっていいタイミングで味方の傷を癒している。
 メイメイは青空の部屋を見る。できるだけ壊さないように、と思いながら集中を高める横顔に安茜が見惚れて、思わずといった声で「メイメイちゃん、がんばれ!」と声をかけていた。
「あっ、集中を邪魔しちゃだめだよね、ごめん……っ」
「あっ……いえ……っ、大丈夫、です」

 ウテナがロスカと一緒に元気一杯に突撃している。
「ロスカっ!ㅤ咆哮!!」
「くぁ〜〜!!!!」
 ロスカがびりびり熱波を放てば、「うちもやりますよっ!ㅤがおー!!!!」特に熱波は出ないけれど、ウテナは「心が清らかな人にだけ見えるびーむですっ!」と笑った。

 ――虚勢は張れば張るほどいいですからね!

 微笑ましいやりとりを背にゼファーがお姉さんな余裕を浮かべて猛攻を浴びせている。堅守が攻めに転じて放つのは、華麗で疾き技。run like a fool-―背丈ほどの長さの槍が骨竜を翻弄するように縫い留めて「残像よ」抗う敵に囁き、味方の狙いに合わせて瞬転、三段の部位突きを器用にこなす。
「次はここね?」
「同時に!」
 尾骨、背骨が砕けて不均衡の徴候濃き敵に、汰磨羈がちろりと舌で唇を湿らせて敵の腰元に吸い付くような回転刃を見舞えば、それが決定打となって巨体が転倒する。
 巻き込まれぬよう周囲から跳び退く仲間達の中、起き上がろうと尚も藻掻くその羽と足を破壊し尽くした咲耶が散華の案内人めいて囁いた。

「死者は過去に留まり続ける者、しかし拙者達は未来(さき)へと進まねばならぬ。もうお主は十分生きた。そろそろ生者に道を譲る時でござるよ」

「……確実に、仕留めます!」
 ネーヴェが超加速し、撃力を爆ぜさせている。ふわふわとして儚げな外見からは一見想像もつかぬ機動破壊の妙の末を見守る蒼良はしみじみと感じ入った様子で「おおきな怪我をしなくてよかった」と呟いた。

「ロスカっ!」
「くぁ〜」
 ウテナがロスカに指示を出し、炎のブレスを吐かせている。勢い余って自分もあっちっちと騒ぎつつ、「ではおやすみなさいですね!!」別れを告げれば、ロスカも鳴いた。
 そんなロスカを見上げるようにして、骨竜が口を開ける。

 ぱくぱくと、無音が続く。

 不思議な事に、その全身がボロボロに崩れて果てようという今、骨竜からは殺意や敵意が感じられなくなっていた。口が数度開閉し、空気を吸い込んだり吐いたりするような動きののち、喉が鳴る。

「……くぅ」
 ロスカが目を輝かせて、応えた。
「くぁ〜っ!」

「……いっしょに暴れて、楽しかったですねっ!」

 ――終いだ。
 見守っていた汰磨羈が踏み込む。

 まるで大地が一瞬で距離の概念を失ったように迫る。輪郭をぶらして前傾に跳ぶ。

 懐に潜り込む両の脚が無音で着地し、柔らかに膝を屈伸させる様は川の流れにも似て爽快、戯れに獲物を狩る獣めいてしなやか。狙うは、頭部。
 奮う刃は空間を裂くように鋭く、鮮やか。
「厄狩闘流新派『花劉圏』が一つ」
 ――声は、優しい。
 後背を突き、佳声に殺気と闘気の高揚が燈る。赫刃臨界点に達すれば双気の咲く様、彼岸花の如し。返す刃は幸運を招く華麗さで、天運は正に我にありとその痛烈さで語るよう。

 骨竜の動きが、完全に止まる。

「大丈夫。もう充分、頑張りました、よ。だから、おやすみなさい、ませ」
 メイメイが懸命に言葉をかけて、傍らに膝をついて手を伸ばした。優しく撫でるその姿をみて、安茜は眩しそうな目をして呟いた。

「ほら、そういうところだ」
 倖せそうな、切ない息を吐いて、声を零した。
「キミの優しいところ、一生懸命なところが、ボクは大好きなんだ」


●天穹を翔ける
 咲耶と瑠璃が壁画や骨竜の身体に生えた結晶を調べている。
「結晶棘か」
「ふにゃー?」
 黒猫たんが尻尾でぽふぽふとゲオルグの頬を擽っている。ああ、終わったぞと渋く言い放ち、ゲオルグは結晶棘の傍にしゃがみこんで手を伸ばした。
「持って帰らせてもらおう。調べたら、何かわかることもあるかもしれん」
「晶様、骨竜に生えていた鉱石を見て頂きたいのです」
 ネーヴェが蒼良に依頼すれば、蒼良は「石?」と思案気に魔術を操りそれを氷に閉じ込めた。左近も採取して持ち帰る気配だ。
「床や壁にあるものと、違って。とても、透明で……どうして、骨竜に生えていたものは、違うのかしら」
「持ち帰って、調べてみるね」
 蒼良は淡く微笑んで、指先でネーヴェの頬についた土を拭い「きみが強いのは知っているけれど、あまり無茶はしないでね」とほたりとした声色で呟いたのだった。

 扉の先を覗いてみれば、迷路のようなフロアが広がっている。

「逝くべきものたち、未だここに留まっているのならば、訊かせてほしい。あなたたちの抱く未練を、紡いだ物語を。そのひとかけらを」

 ――訊かねば美しく終わる物語もあれば、知って更に輝く物語もある。

 それは彼らが生きた証、描いた絵画、織り上げたタペストリー。
 アーマデルが霊魂に呼びかければ、薄っすらとした魂の残滓めいた薫りが鉱石と迷路の先を見つめている。壁の絵画を見つめ、骨竜に寄り添うようにして――。

「ああ、あの遺跡と此処は似ているんだな。似た壁画を観た記憶がある」
 汰磨羈が絵に目を眇めた。

「この絵を描いた方と、倒した骨竜……一緒に、弔って頂くことは、できないかしら」
 ――日の差さない、この場所で。死ぬまで……いえ、死んでも共に、あったのですもの。
 ネーヴェが言えば、メイメイとゲオルグも「ワイバーンと亜竜種の遺体を地上で弔ってやりたい」と同意した。
「……ふたりを、本物の青空の下に、連れて行ってあげたいな」
「きっと、本物の空を一緒に飛びたかっただろう」
 ――せめてその魂だけでも、本物の青空を共に翔けていけるように。
 ネーヴェが静かに手を合わせて、骨を布に包んでいく。
(……どうか、安らかに)

 地上に送り火が揺らめけば、黒煙が風に刻々溶けていく。
「都合が良い考えだとして、ええ。素敵な何かがあったと信じたほうがロマンチックというものでしょ?」
 ゼファーが風に誘われるように自由で奔放な空を視る。
 しゃらり、日差しに髪が艶放ち、きらきらと煌めいた。
「どうせ、誰も知らない物語であるのなら。バッドエンドじゃなくって、グッドエンドであったのだと――そう、信じたいものね」

「帰ったら骨竜さんのお話も迅さんにしてあげないとですねっ。楽しみです!」
 ウテナがそう言ってロスカを撫でる。

 ロスカの瞳に青空が映っている。
 狭い地下はやっぱりちょっと窮屈だったから、今度は伸び伸びと広い大空を飛びたい。そんな風に喉を鳴らし、ポッと炎をひとつ吐いて、ロスカは元気いっぱいに羽搏いた。


「ね、ねえ。誕生日おめでとうって言ったら、なんで知ってるのキモって思われちゃうかなぁ……?」
「もう言っちゃえよ……」
 ひそやかな声が、微笑ましく風に乗って青空にのぼり、白い雲を何処か遠くへゆったりゆったり、流していく――

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

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