PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Backdoor - Tetrabiblos = Taurus

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星詠人のサン・サイン
 それはネクストに語られた『実在した』御伽噺だ。
 世界の何処からでも入り込むことの出来るバグのコミュニティ。九龍城ともさえ称される乱雑に粗造された街並みで一人の女が立っている。
「お待ちしておりました」
 穏やかに微笑む女はパラディーゾと呼ばれた『世界のバグによって作られたデータ生命』そのものである。
 通常ならば親データに位置していたジェーン・ドゥの消滅でクリミナル・ワクチンが行き渡ったR.O.Oでは『長く生きられない』筈の彼女はその効果が及びにくい電脳廃棄都市ORphan(Other R.O.O phantom)での活動を行っていた。
「『影歩き』や『ビブリオフォリア』、『クエスター』の話は聞きました。
 彼女達のお力になって下さったそうですね。Hadesが持ち込んだ我々の寿命を幾許か保証して下さったとのこと、感謝しています」
 穏やかに微笑んだ女『星巫女』は何処かほの暗い笑みを浮かべていた。
 彼女と『クオリア』は自身等と行動を共にしているパラディーゾの世話を焼いている。特に、『星巫女』と名乗った彼女は信仰の当てもなく、穏やかに日々を過ごしているだけのように思えた。
「お礼とは言いませんが、ORphanから繋がっている別世界に興味を持っていらっしゃったでしょう。
 其方への道を見付けましたのでご案内差し上げようかと思いまして……ええ、興味がありましたらで結構です」
 征きましょうかと目を伏せった星巫女は『影歩き』は目的のための準備を入念に行っていたと近状に触れた。
 この地に棲まうパラディーゾにはそれぞれの目的がある。
 例えば、『影歩き』と呼ばれた彼女は自身から別たれてしまった邪神の捜索を行っている。
 例えば、『ビブリオフォリア』と名乗った彼女はこの地に無数に積み重なったデータを貪るように眺めている。
 例えば、『クエスター』と名乗った彼女は星巫女が案内する『別世界』への探索を夢見ていた。
 星巫女と同じく、目的とは呼べぬ過ごし方をしているのは『クオリア』その人である。彼女はORphanの現状を眺めながら、訪れるイレギュラーズに警戒を露わにしているようだが――
「気を悪くしないで下さいね。クオリアは私達を護りたいだけですから。
 ……『あなたたちの旋律は逆に澄んでいて、酷く歪』だといいます。それは逆に私達こそが歪な旋律を発しているからなのかもしれませんしね」
 ゆっくりと進む『星巫女』は地に伏せていたドラム式洗濯機の扉を蹴り飛ばした。乱雑な仕草を見せた彼女は「此処です」と扉が開け放たれた洗濯機を指差したのだった。


 ――……ま……か? ……聞こえ――ますか……?

 タタン、タタタン。やけにリズミカルな音が聞こえる。眠ってしまっていたのだろうか。
 眠気眼を擦ったあなたの前には星巫女が座っていた。相も変わらず何処かほの暗い笑みを浮かべた乙女である。
「この場所についてはご存じであるかもしれませんね」

 ――『次は銀河衛星タワーです』。

 アナウンスが響き渡り、星巫女は「ビブリオフォリアが蒐集した情報に寄れば、ここは『境界図書館』から皆さんを誘った事のある場所のようですね」と告げる。
 そうだ、その地は境界図書館の教会案内人である双子『ポルックス』と『カストル』の故郷だと呼ばれていたライブノベル『列星十二宮(サイン・エレメント)』だ。
「彼女達境界案内人は本来ならば自身の故郷(ライブノベル)に入ることは出来ません。
 ですが、館長クレカの研究がこうしてR.O.Oにも影響を及ぼしたのでしょうね。此処は紛れもなくジェミニ双子の故郷の再現でしょう」
 何処までも続く濃淡の空。皓い星が瞬き、衛星タワーの傍を抜けて行く列車に揺られて『星巫女』とあなたは進む。
「ポルックスちゃんは仰っていたでしょう。
『クレカは秘宝種として混沌に認められたけど、わたし『達』は混沌世界には飲み込まれていない。
 けれど、けれどね、だから、わたし『達』は世界を渡る力を持ったまま、皆に少しだけの干渉が出来る』
 ――どういうことか、と言えば境界進度が高まったことで、彼女達は生まれ故郷を救う為の実力行使に出た」
 そうして、その行動がR.O.Oにまで影響を及ぼしたのだ。

 タタン、タタタン。白羊宮を越えてから――『次は金牛宮です』

「どうやら、目的地のようです。此処を探索してみましょう。
 ああ、いえ、此処はライブノベルの世界ではありません。ですが……『もしも、ORphanに存在していたデータがライブノベルに影響を齎したら』……面白くはありませんか?」
 笑う星巫女にあなたは問うただろう。
 どうして、この世界に訪れたのだ、と。興味も無い素振りをしていたであろうに。
「……さあ、何となく星が美しかったからかも知れませんね」

GMコメント

 夏あかねです。ORphan『星巫女』の案内で。
 当シナリオは特別クエスト『境界深度XXX:星詠人のアーリエス』と同じ世界へのお散歩です。
 クエストをご存じない方はよろしければオープニングだけでも読めますので特別クエストページをご覧下さい。

●目的
 金牛宮を探索する。

●境界世界『列星十二宮(サイン・エレメント)』
 境界案内人(ホライゾンシーカー)であるポルックス・ジェミニ&カストル・ジェミニの故郷。
 現実世界ではイレギュラーズが境界世界で活動することで世界に蓄積する境界深度が高まった結果、クレカと協力することで『混沌に影響を与える異世界』に干渉することができたそうです。R.O.Oはその結果を集積し、ORphanから異世界として渡ることが出来たようですが……。
 皓い星々が瞬く世界。宇宙空間を思わせます。中央には白いタワーが、そして移動は列車で行われます。
 その名前の通り十二の宮がタワーの周囲には連なっており、それぞれの探索を行う事ができそうです。今回の目的地は『金牛宮』です。

 ・星詠人(テトラビブロス)
 境界案内人(ホライゾンシーカー)であるポルックス・ジェミニ&カストル・ジェミニの正確な種族。

●フィールド『金牛宮』
 宇宙空間を思わせる場所に鎮座している眩き宮殿。金の月の周囲には無数の光る石が漂っています。
 宮殿内部には目を伏せた巨大な女性が鎮座しているようです。
 広く美しいその場所に訪れることとなった皆さんは先ずは『彼女』に挨拶をして探索をしましょう。
 天井は非常に高く、宮殿内部には様々な宝飾が並んでいます。『彼女』は玉座の間に鎮座しています。
 彼女には名前はありません。そうして、彼女は皆さんにお願いをしてくるでしょう。

 ――『黄金の雌牛を捕まえておくれ』と。

 ・『彼女』
 金牛宮の主。身長は10mに及ぶであろう巨大な女性です。白銀のドレスを身に纏い目を伏せて居ます。
 玉座に腰掛けており、訪れたイレギュラーズと星巫女を快く迎え入れてくれることでしょう。

●敵勢対象
 『黄金の星屑』 10体
 金平糖のようにきらりと輝いた星々の欠片です。それはまだ生まれたてであるのか、宮の内部を飛び回り目につく全てを攻撃します。

 『黄金の雌牛』 1体
 黄金の星屑と共に宮の中を走り回っている星詠人。雌牛です。どうやら『彼女』から逃げ回っているようです。
 その攻撃方法は不明ですが、途轍もないスピードで駆けずり回っています。

●同行NPC
 ・パラディーゾ『星巫女』
 小金井・正純(p3p008000)さんとうり二つの姿をしたパラディーゾです。彼女と比べると信仰の心を有していないことで何処か寄る辺ない印象を与えます。
 皆さんのサポート役兼案内役。曰く、「この世界を隅々まで探索してライブノベルに繋がれば面白くありませんか?」
 戦闘は好んで行いません。必要であれば手を貸す程度です。

●ROOとネクストとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、バグによってまるでゲームのような世界『ネクスト』を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に自分専用の『アバター』を作って活動します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline3

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。

  • Backdoor - Tetrabiblos = Taurus完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドウ(p3x000172)
物語の娘
ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
P.P.(p3x004937)
いとしき声
空梅雨(p3x007470)
himechan
入江・星(p3x008000)
根性、見せたれや
ウーティス(p3x009093)
無名騎士

リプレイ


(『もしも、ORphanに存在していたデータがライブノベルに影響を齎したら』。
 ……R.O.Oは元々超高度な仮想世界。シミュレートされたことはライブノベルでも起こりうる……ってことかねぇ)
『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)が立っていたのは電脳世界。ORphanと呼ばれたその場所はデータの廃棄場であった。無機質に積み上がったデータはバグの累積。電脳九龍城と呼ぶに相応しい状況であるORphanの此度の案内役は『星巫女』と名乗るパラディーゾだ。
『とりあえず せっかく再現された 世界だし 楽しも』
「ええ、是非に」
 穏やかな様子ではあるが、その眸は空虚そのもの。まるで生きる理由さえ見付けては居ないとでも云う様な――信仰のよすがも無くした彼女の慈愛は、只、友にだけ向けられているのだろうか――様子である星巫女は縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧へと微笑みかけた。
「準備は宜しいですか?」
「……あ、あの。……ビブリオはまだ元気にしていましたか。折角ですし顔くらい見て行きたいトコロですが」
 そっと星巫女の背中に声を掛けた『アルコ空団“蒼き刃の”』ドウ(p3x000172)は自身のデータから作成されたパラディーゾの事を思い浮かべた。
 現実世界のデータをサルベージして作成された『異色』のパラディーゾである星巫女と違い、ドウが差したビブリオフォリアはこの世界でのデータから形作られている。ビブリオフォリアが星巫女達の延命の為に努力をしたという話は聞いていたが、彼女自身にはそれは大して影響はないとも耳にしていた。
「後ほど、ご案内しましょうか。ドウさん……ですよね。ビブリオフォリアも喜ぶと思います」
「ええ」
 頷きながらもドウは薄ら寒い者を感じていた。もしもORphanに損愛していたデータがライブノベルに影響を齎したならば――それは面白いというよりも恐ろしいという感想がドウには過ってしまったのだ。境界が曖昧になっていく感覚。そもそもにおいてライブノベルは揺蕩う『境界』、本来ならば混沌世界に存在せぬ場所である。これから星巫女が案内するという『列星十二宮』は境界案内人である『ポルックス』と『カストル』の故郷として踏み入れたことがある。
(ですが……これまでは白羊宮の領域のみ。今回は金牛宮ですからお隣、未知の世界です。
 今回の行動がライブノベル世界に影響を齎すするのなら……せめてポルックスさんの以降に反さないようにはしたいトコロですね)
 双子の境界案内人は自身達の故郷を護りたいと口にしていた。ならば――感じた恐ろしさを飲み込んだドウの傍らで『無名騎士』ウーティス(p3x009093)は「ジェーン・ドゥにとっては『影響があって欲しかった』だろうか」と呟いた。
「其れはどういうこと?」
 首をこてりと傾いだ『おそろいねこちゃん』ザミエラ(p3x000787)にジェーン・ドゥは『世界が飲み込まれる』と叫んでいた。故に、彼女は境界深度が高まり侵蝕される世界から飛び出してきたのだ。それと同様の『一騒動』が起るのではないかと考えた。
「……しかし、パラディーゾ達とは休戦状態である、と認識している。加えて、『星巫女』のあの笑みと寄る辺ない気配は放ってはおけぬ。
 最後に、どこぞの双子の手助けにもなるだろう。そう信じている――故に、此度は手を貸そう」
「有り難うございます。私にとっても『見知らぬ方の故郷』に救いの手を伸ばせればと考えておりますよ」
 穏やかな微笑み。その笑みには寂寞さえも込められている。『いとしき声』P.P.(p3x004937)は『正純はそんな風に笑う』のだと感じていた。
「パラディーゾはクソハデスがあたし達のデータを渡して作られたって事だけど……
 ROOでは旋律が聞こえていないから、あたしにはアンタがなんでそんな笑い方するのか分かんないのだけど……。
 アンタがそんななら、正純もそうなのかな。そもそも、あたし、人の感情が聴けるから何でも知っていたつもりなのだけど……つもりだったのかもね」
「……」
 星巫女に聞かせる話じゃなかったわね、と手をひらひらと振ったP.P.の背中を眺めていたのは『根性、見せたれや』入江・星(p3x008000)であった。
「いやあ、こっちに来るのも久しぶりやな。パラディーゾ星巫女ね。
 いやいや、ほんとにまったくべつもんやろだってウチあんなふうに扉蹴り飛ばせへんもん。足癖悪いわァ、誰に似たんやろか」
 行きましょうか、とドラム式洗濯機の扉を蹴り飛ばした星巫女に星は肩を竦める。
『正純』と星巫女。似ているようで似ていない。ひょっとして、この世界で構築されたパラディーゾはそれぞれがそれぞれの『性格』を構築しだしたのだろうか――?
 それでも、だ。星々の名前が冠された世界。星に惹かれるのはやはり『構成』されたデータから、似ているのだろうかと星は考えて。


「ORphanがあらゆる世界に繋がる……という事は聞いていたけれど、まさかライブノベルに繋がる、だなんて。
 本当に謎が多い。けれど……裏を返せば、それだけ可能性に満ちているともいうこと……。
 わたしは、知らなければなりません。あの都市のこと、パラディーゾのこと――あの場所がどういう場所で……何を目指して、何処へいくのか」
 影歩きの真意。彼女は少しばかり準備を整えて自身の影を、邪神を探しましょうと笑っていた。『himechan』空梅雨(p3x007470)は息を呑み、星巫女が乗り込んだ銀河の列車に揺られ続ける。
「……何ともまぁ、大それた事を考えたもんだが。その手の所業が齎す結果に、興味が無いつったら嘘だ。
 いいぜ、ロクでもない事にならない範囲で手伝ってやるよ。ロクでもない事に『ならないなら』だ。分かったな?」
 念を押した『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)に星巫女はにこりと微笑んだ。
「私の考察を先にお話ししても?」
「ええ。聞いておく価値はありましょう」
 ドウが頷けばザミエラは「双子ちゃんの故郷でしょう? とっても、とっても綺麗よね! 他の世界に繋がるって本当かしら?」と首を傾いだ。
「ふふ、お招き頂いた上にお話まで聞かせてくれるの?」
「ええ。……そもそも、です。『R.O.O』から見られるのは『ライブノベルの様子』だけではないのか――と言うことです」
『どういう コト?』
 テケリケリと首を傾いで。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はぱちぱちと瞬いた。ザミエラは「見れるだけということ?」と同じように首を傾ぐ。
「ええ。嘗て合った世界への干渉。つまり、此方で何らかの影響を及ぼせば『ライブノベルに出る影響は境界への深度を深める行為』だけではないかと云う事です」
「……確かに、だ。境界進度が高まれば『特殊な存在でもあった境界案内人』の双子の世界にも影響を及ぼせるかも知れないとは謂っていたが――」
 Tethは考え込むように俯いた。ポルックスとカストルの二人とクレカは特異な存在であるらしい。世界が受け入れている境界案内人。通常ならば、混沌世界での活動は難しい彼等の中でも三人だけは境界に潜るイレギュラーズが増える度に『ライブノベル』と『混沌世界』を行き来するように活動できている。
「はい。ですから、私とこれから進む金牛宮と、残る10の場所を巡れば現実でもこの世界へと入り込むことができるのではないか、と云う事です」
 考察ですけれど、と微笑んだ星巫女に「……一先ず考えるのは後にしましょうか」とP.P.は言った。もう目的地に到着したのだ。

 星巫女の目的に近付きたいと空梅雨は彼女の背中を眺めていた。無為に過ごす乙女は何らかの目的を有しているのか、それとも只の散歩なのか。
 其れを見届けることこそが自身が真に知りたい『影歩き』の真意に近づける気がしたのだ。
「『彼女』の元に向かう前にお話をしても良いですか? この世界を訪れた真意…それが本当に、星に誘われただけなのか。
 ……現実世界の彼女は孤独から、信仰という想いと共に立ち上がった人。小さな、けれど確かな拠り所を見つけた事で、強くなれた方
 ……なら、あなたは? どうやってあなたは、今ここに立って……何をして、どこへ向かおうとしているの?」
 空梅雨は星に聞こえぬ声音でそう問いかけた。星とて星巫女の目的を知りたいとは思って居る――只、誰かのためなのかもしれないが。
「もしも『異世界』へと干渉し、私達が『R.O.O』では無い場所に移り住めたならば……どうなると思いますか?」
 問うた星巫女に空梅雨は首を捻った。影歩きが邪神を捕まえたいと願うのは自身の周辺に危害が加わるかも知れないからだ、と彼女は言った。其れを信用して良いのかは定かではないが、それも誰かの為の行いである。
「……パラディーゾは、何れ消えるデータ……」
「――なんて、生に執着しているわけでもないのに可笑しな実験ですね」


「今回は星巫女共々お招き頂きありがとうございます。少しばかりこの豪華絢爛な宮殿を散歩させていただけると嬉しいなぁ。そちらのお願いもお手伝いさせてもらうで」
 巨大な『彼女』の前で星はにんまりと微笑んだ。頷いたその女の動き一つでずしりと空気が揺れた気さえする。ザミエラは「わあ! 大きいわね!」と微笑んだ。
「お願いは牛を捕まえることなのでしょう? なんで雌牛さんを捕まえたいのかは先に聞かせて欲しいけどね?
 それにそれに、すっごくおっきいけど、彼女も雌牛さんや双子ちゃんと同じ星詠人なのかしら?」
『――ああ、星詠人である』
「雌牛を何故追うか、と問おう。執着ゆえか、それとも雌牛が罪を犯したゆえか。
 願いを叶えることについては、異論はないが、理由を知ったからこそ見えてくるものもある」
『罪、それは罪と呼ぶべきだろう。あの雌牛は我が宮殿を傷付けたのだ。故に叱らねばならぬ。聞かぬなら星屑に戻すのみ。
 星詠人は星に戻り、新たに生まれ直すことが出来る。アレは凶暴に育ってしまった。此の儘では宮殿が壊れてしまう!』
 彼女にウーティスは任せてくれと頷いた。だが、自身等が捕まえた暁に反省が見られたならば助命を嘆願させて欲しいとも交渉した。
 彼女は厭々ながらも頷き、ウーティスに雌牛についての幾つかの知識を授けたのだった。知識を活かし、逃げ回っている雌牛の逃走経路を割り出そうとウーティスが準備を整える。
「凶暴だけど 一切傷つけるな は 保証し かねる」
『構わぬ。だが生きて連れて参れ』
 彼女の許可を得たならば縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はそれは喜ばしいと頷いた。雌牛を捕まえた暁には、ここから先に別の宮にも行ってみたい。そう告げた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧に『彼女』はタワーに入る鍵を渡そうと約束をしてくれたのであった――

「おっし、発見したら後は簡単だ。このままボコって連れ帰……速えぇーーッ!?!?」
 見付けたと指差したTethの目の前から勢い良く雌牛が逃走していく。その周囲を飛び交った黄金の星屑は勢い良くイレギュラーズを標的に見定めた。
「焔の羊の炎に飲まれた星々もこちらを攻撃してきましたが、この星々の欠片は生まれたばかりみたいなのに攻撃してくるのです?
 星々好戦的過ぎではありませんか!? どうなっているのですか星君!!」
「しらんて!!」
 思わず叫んだ星にドウは「どうして!」と叫ぶ。星々の欠片は星詠人以外を敵と見做して飛びかかってくるのだと『彼女』が言っていたのだと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は手を叩いて思い出したと笑った。
「星詠人以外には寛容じゃない世界だな――ま、普通は『それ以外が居ないから』か!」
 TethがSt.Elmo'sFireを構え、地を蹴った。ドローンを召喚し、攻撃準備を整える。ドウが剣を握りしめ切り倒す背後でザミエラは「油断は禁物って奴ね!」と微笑んだ。
「雌牛さんに追いつくように走るわ! ウーティスさんは『待ち伏せ』をしていてね! 皆はサポートをお願い♪」
 なんたって自身は機動力に特化してきたのだとザミエラがとん、とシューズで地面を叩く。P.P.は「了解したわ。あの雌牛の顔面に飛び付いてやるから待っていなさいよ!」と叫んだ。不本意ながらどうやらP.P.がそうすると雌牛は落ち着くらしい。
(……猫吸いというのでしたっけ……)
 空梅雨はまじまじとP.P.を眺めた。黄金の雌牛を確保するための道を作るべく星屑を打ち落とす空梅雨の隣で星は『星々』の傍で星巫女が生きていきたいのではないかと感じていた。彼女は星を信仰していなくとも妙なシンパシーでも感じているのだろうか。
(ま、それは今すぐには分からんけど……『この世界と繋がって』何かができるんやったらええかもな……)
 星は顔を上げる。勢い良くは知っていく雌牛の進行方向にウーティスとP.P.がいた。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は「手加減、苦手だから 捕まえるの、よろしく」と仲間達へと雌牛の生け捕りを一任した。
「逃げるものよ、どれだけ逃げようとも、私から逃げることは叶わぬと知れ!」
 ウーティスが銀の剣を構える。盾を前にし、攻撃動作はギリギリまで見せることが泣きように気をつける。Tethはその背後にP.P.が『猫吸い』させるために今か今かとタイミングを見計らっていることに気付いた。
「今よ~!」
 ザミエラの声にTethは星屑を落しタイミングを見計らう。
 ドウは雌牛の顔面に張り付いたP.P.がウーティスを振り向いて気絶させろと叫んだ様子を眺めた。
(張り付いたまま、本当に雌牛が落ち着いて……あ、気絶しました……)
 べったりと雌牛の顔面に張り付いたP.P.がその重みに潰される様子を、まじまじと眺めることになったのは仕方が無いのかも知れない。


 雌牛を引き渡せば、そのアトは自由に行動することが出来るらしい。ウーティスは他の地に繋がる扉はあるのかと『彼女』に問いかけた。
『銀河の鉄道に乗れ。それからタワーを目指すのだ。そこから、各地への列車に乗り換えることが出来よう』
「貴女は?」
 ドウは『彼女』を見上げた。気絶した雌牛は吊し上げられ、宮を傷付けたことについての説教を喰らうらしい。その後、処遇は巨大な『彼女』が降すそうだ。雌牛を捕まえてくれたお礼だと言われてもやけに穏やかな言い分であったからだ。
『私は此処から動かぬ。私はこの宮からは出る事はしないからだ』
「……そうですか。折角ならば案内人になって頂ければと思ったのですが……」
 其れは難しいのだろうかとドウはぽつりと呟いた。此処までコミュニケーションがとれるのであればこれからの探索にも『彼女』の協力は不可欠であるように感じられたからだ。
「星詠人について聞いても良いのかしら? 私達には『星詠人』という種族は存在して居ないの。何が出来るだとか、決まり事はあるの?」
『我らは生まれたときから住むべき宮が決まっている。故に、その中で一生を終えるのだ。
 宮によっては性格も違うであろう。それぞれの過ごし方もあろう。だが――時折、道を違える者がいる。
 この世界をも破壊せんとする者が現れるのだ。星が泣いている声が聞こえるであろう?』
 その言葉に星は「ふむ」と呟いた。「星君が泣いている……ではなく、この天の星々が泣いているのですか?」とドウは彼女を見上げる。
「星が泣いている、か。……双子もこの世界を救って欲しいと言っていた。其れと何か関連があるのか……」
 Tethが首を捻れば縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はどうかなあと首を傾げる。
「星巫女、貴女は『この世界を救いたい』と考えているのですか?」
「……そうだとしたらどうしますか?」
 空梅雨の問いかけに星巫女はふ、と笑った。ORphanのことも、パラディーゾの事も、空梅雨は詳しくは分からない。
 元のデータである『正純』――星も屹度、星巫女のことは分からないだろう。影歩きのことを空梅雨が分からないように。クオリアのことをP.P.が分からないように。
(……『私』は『私』が基になっているから、何となく分かったのでしょうね。ビブリオのことが……)
 ドウは星巫女と対峙した三人をまじまじと見詰めていた。ハデスによってデータを取り込まれたパラディーゾには別の思惑があるのだろうと空梅雨は考えていたのだから――
「ええ。私は『この世界』を無事に救いたいと考えています。それに、境界深度を高めてゆく事でORphanのバグ達にも未来が訪れることを願っています」
 星巫女は穏やかな語調でそう言った。
「私は『ジェーン・ドゥ』には産み出されて居らず、彼女を母だと認識できない。逸れた存在だと言えるでしょう。
 ……だからこそ、あの掃き溜めの中で何か為そうと考えた、のかもしれませんね。この星を辿れば『私の為すべきコト』も見えるかも知れません」
 まだ、自分はどっちつかずなのだと星巫女はイレギュラーズを見遣った。
「あなた方さえ良ければ、他の宮にも渡りましょう。そうして、星と星を繋いで『私達が産み出された意味』を探すのです。
 マザーを『破壊する為のウイルス』でしかなかったのか。それとも、こんな身でも意味があったのか――」
 女はそう、微笑んでから「今日は帰りましょう?」と手を差し伸べたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

P.P.(p3x004937)[死亡]
いとしき声

あとがき

 お疲れ様でした。ORpahn星巫女編でした。
 ORphanはじわじわっと進んで行くストーリーです。
 この地に残されたパラディーゾ達と共に、バグを見据え、そして此処から始まる『別の世界への扉』をノックしに行きましょう。

 星巫女は、これから他の10の宮を回りたいと皆さんに提案しています。
 彼女を信用するかは、皆さん次第なのでしょうね。

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