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シナリオ詳細

<チェチェロの夢へ>レビカナンセントラル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 橋のない小川を越え、苔や木々に覆われた遺跡を歩く。
 折れた柱を避けて、朽ちた階段を何度か登れば、外壁にぽかりと空いた穴が見えてくる。
 浮遊島アーカーシュに存在する唯一の村レリッカの入り口だ。

「こっちだよ、軍人さん達と、ええと」
「エフシュコヴァさんでしょ」
「なんでもいいわ。それにしてもこの村って、毎度思うけど、いかにもって感じよね」
 村内は悠久の時の流れの中を朽ちつつある巨大な遺跡の内部に、木材などを加工して原始的な家を建てている。貨幣経済は成立しておらず、市場のような所は物々交換によって成り立っていた。百年前にこの島へ取り残された調査隊とその子孫達による、決死の創意工夫が偲ばれる。
「僕等には見慣れた光景だけどね。ええと、エフシュコヴァさん」
 リーヌシュカ(p3n000124)は数名の部下を引き連れ、ヨシュアとカティという村の若者に案内され、レリッカ村の調査を行っていた。ふと外壁に手をつけば、セラミックスにも似た不思議な素材で出来ている。
 村には不思議な石版が存在している。ヨシュアの友人であるユルグ少年が触れた途端に、島を覆う暴風域が吹き飛んだという現象が確認されている。本件はそれに対する調査だ。
 要するに『もう一度さわってもらう』ということである。
 後ろで腕を組んで、静かに見守っている村長にも、無論許可を得てのことだ。

「何も起きないのね」
 さっそく石版をぺたぺたと触れて回ったリーヌシュカは、がっくりと肩を落とした。
 周囲には燐光を放つ蝶のような幻影が飛んでおり、いかにも奇妙な場所ではあるのだが。
「私がさわっても駄目なんだよね。なんでだろう?」
「僕もさ。村じゃなんとなく触らないほうがいいってことになってるけど、まあ、みんな触るよね」
 カティとヨシュアが続けた。
 そして一同の視線はユルグに注がれることとなる。
「あ、わわ、ええっと」
 内気なユルグ少年は何やら慌てているが、リーヌシュカはそれを手で制した。
「大丈夫。少年達は私達、鉄帝国軽騎兵隊の名誉に賭けて守り抜くわ。総員、構え!」
「ハッ!」
 部下の軽騎兵達がライフルを構えた。
 実験の結果、何かよくないことが起きてしまった場合に対する備えである。
「それじゃあユルグ、お願い出来る」
「は、はい」
 ユルグはおずおずとした様子で石版に手を伸ばし――瞬間、光があふれ出す。

 ――お呼びでしょうか。メタトロン・キー。

「待って!」
 ライフルの引き金に指をかけた部下を制止しつつ、リーヌシュカが光の中心を注視する。
 幻のように姿を現したのは、男性とも女性ともつかぬ、人型の存在だった。
「レビカナンへようこそお越し下さいました。都市の案内を司るウェナスと申します」
 そう言うと『それ』は慇懃に腰を折った。
「皆様をメタトロン・キーのお客様として認識しました」
「構え、やめ」
 軍人達が一斉にライフルを降ろした。目の前に出現したウェナスを名乗る精霊のような存在を一行が呆然と見守る中、リーヌシュカが腰に手をあてて身体ごと後ろに向き直る。
「ねえ、村長さん」
「何かな」
「驚かないのね」
 村長――アンフィフテーレ・パフは思い切り表情を歪ませ、肩を何度か慣らしてから目を閉じ、最後に大きな溜息を吐き出した。
「……まあ、バレちまったなら仕方ないな。そいつはどうやら『案内人』らしい。隊じゃレリックガイドと呼んでいたがね。メッサーシュミットのやつ……、そこのユルグのご先祖様が発見したのさ」
「そういうことを隠すのは良くないことよ、メタトロン・キーとは何のこと?」
「そればっかりは本当に分からない。レリックガイドのやつも権限外の秘匿情報の一点張りさ。とにかくね、この百年、私達――俺達には色々あったんだよ。色々ね」
 村長は語り出す。ガイドの案内に従って探索した結果、幾人もの仲間が命を失ったこと。ガイドに悪意はなく、ただガイドの知る『あまりに古い情報』と『現在の島内の状況』が余りにかけ離れていること。
 要するに『怖い』のだ。これ以上の人名を失うことが。村長は。
「何せここは古代遺跡。そして俺達はただの軍人であって、冒険者でもなんでもないんだから……」
「そう……英霊達に敬意を表すわ。そして協力をありがとう、約束の謝礼よ」
 リーヌシュカは金貨が入った革袋を村長に手渡した。
 村の貨幣経済は崩壊しているが、今後は鉄帝国と取引するのだから入り用なものだろう。
「俺達には?」
 お調子者のヨシュアが手をあげる。
「村長さんから、どうにかしてもらいなさい」
「そこは、後ほど検討してもいいかな」
 ともあれ本件そのものは一件落着ではあったのだが、続く課題の行く末はといえば――


「――って訳なんだけど、小さな頃に森とかを探検ってしたことある?」
 えへんと胸を張るリーヌシュカは、イレギュラーズに事のあらましを語ったのだった。
「探検ですか、生憎と僕は理知と温和を尊ぶたちですので」
「言ってなさい」
「もう少し敬意というかですね、今でも小さいくせに――ッ痛った!」
 そんなヨハン=レーム(p3p001117)達はともあれ。
 アーカーシュに点在する遺跡は都市だったらしく、ウェナスという精霊のガイドがいるのだが、『都市が健在だった頃』、つまり途方もない昔のガイドしか出来ないらしい。どこかポンコツな気がしないでもないが、精霊などというのは無闇矢鱈と契約に忠実なものだ。仕方がないことだろう。
「作戦の概要は簡単よ。そのウェナスの示した都市……遺跡地上部の中心部までたどり着くこと」
 リーヌシュカはそう言うと、真新しい木製のデスクに簡素な地図を広げ「無事にね」と続けた。
「うん、任せて。全員無事に帰ってこよう」
「もちろんよね」
 そう述べたジェック・アーロン(p3p004755)に、アーリア・スピリッツ(p3p004400)が頷く。

 アーカーシュの全土は大自然に覆われており、残存する遺跡はその中に点在している。
 行軍は過酷なサバイバルとなりがちだ。その上、古代獣(エルディアン)という色々な種類の魔物達が跳梁跋扈している。更には時々遺跡自体のセキュリティ機能が生きている場合もあるため、危険は大きい。
「イレギュラーズのみんなのお陰で、島の地理は見えてきているわ。だから今回、場所自体はおおよその目安は付いているんだけど、その道中がどうなっているか分からないってわけ。一応、都市を管理するとかいう精霊も発見しているわ、そっちはそっちで別件の依頼になっているはずよ」
 つまりイレギュラーズは道中の危険を回避、ないしは排除しつつ、目的地へ向かうことになる。
「思ったよりも長いタイムスケジュールだね」
「バッファは見ているわ」
 資料に視線を落とすジェックの言葉に、リーヌシュカが応じる。
「着替えを持っていくにしても、荷物になるわよね」
 アーリアが述べた通り、何をどの程度もっていくかというのは悩ましい所ではある。
「悩む場合は帝国の標準的な装備が支給されるわ、自分で考えてもいいんだけど。まあピクニックとキャンプみたいなものよ。楽しんでいきましょ」
 比較的安全であろうルートはある程度まで判明しているが、鬱蒼とした森、十メートルほどの川、再び森、そして五メートルほどの地面の割れ目は避けられないようだ。それらをどのような案配で進軍するかは、イレギュラーズに任せられている。どこで休み、どのように進むのかなども同様である。
「ただワイヴァーンや自動車なんかは、持ち込まないほうがいいわ」
 鬱蒼とした森を通る以上は、大きいと、かえって邪魔になると思われる。
 もっとも飛行手段があれば楽になるのは間違いない。

「ところでこれ、聞かれてるけれど、大丈夫?」
「別にいいんじゃない、本当は駄目だけど。聞いて欲しくない話題なら『聞かれない場所』でするもの。あなた達、もう気にせず入ってきたら?」
「あ、あの、すいません」
 機密にはならないのだろうかとジェックは心配したが、やはり大雑把な国だ。
 そんなこんなで、おずおずとユルグ達が部屋へ入ってくる。
「今回は当然連れてはいけないけれど。特にユルグはおかしな状態なわけだから、イレギュラーズのみんなと関わってくるかもしれないじゃない。もう一度、ちゃんと挨拶しておいたほうがいいわ」
「はい、わかりました。えっと。あ、あの、よろしくお願いします。ユルグです」
「カティでーす。よろしくね」
「ヨシュアって言います。綺麗ですね、お姉さん達」
「あらぁ。ふふ、アーリアよ、よろしくねぇ」
「ジェックだよ、よろしく」
「ああ、挨拶って僕もですか。どうもヨハンです」
「――それじゃ続けましょ」
 リーヌシュカに促され、一同が卓を囲む。
 そして半ば雑談交じりになりつつも会議は続いていった。
 鉄帝国はこの浮遊島の存在に対して、国内の問題――大きくは食料のこと――について、新たなインフラとなることを期待している。仮に都市機能を利用出来るのであれば、大きな前進となるに違いない。
 寝袋やテントなどのキャンプ道具や、水と食料(所詮は戦闘糧食だが……)など、最低限の装備は配布されており、なおかつイレギュラーズは好きに持ち込んでもかまわない。そういった自由は尊重されており、何より鉄帝国は、細かいことについて、やはりひどく『いい加減』なお国柄だった。

 後は、具体的な作戦について、出立までにまとめておけば良いだろう。
 まずは冒険の準備に取りかかろう。
 イレギュラーズはそう考えながら席を立つと、リーヌシュカがひどく自然な様子で後ろから付いてくる。
「どうしたの、不思議そうな顔して。私も行くわ。だって軍からの命令だもの。だからいいでしょ?」
 そう言って満面の笑みを湛えたのだった。

GMコメント

 pipiです。
 お空の島アーカーシュ。
 遺跡地上部の中心地へたどり着きましょう。ちょっとしたピクニック&サバイバルです。
 相談短いのでご注意下さい。

●目的
 遺跡地上部の中心地へたどり着くこと。
 要するに『ルート開拓』です。道中の詳細を判明させ、安全を確保してやりましょう。
  ※遠足は帰るまで……ですが、帰り道は来た道を戻るだけなので、考慮しないものとします。メタ的に言うと、そこ書いてもおもんないからです。
 危険はありますが、今回は気軽に楽しく行きましょう。

●ロケーション
 鬱蒼とした森、十メートルほどの川、再び森、そして五メートルほどの地面の割れ目があります。
 行軍は片道で二日ほどが想定されていますが、食料は念のために六日分が支給されています。
 大型の乗り物は、進軍の邪魔になると想定されています。

 というかむしろ、どのあたりで休憩するとか、たき火だとか、見張りはどうするかとか、テントで何するかとか、水浴びはどうするかとか、食べ物は持ち込むか、調理するか、などサバイバルキャンプを楽しんでみましょう。

『森1』
 ところどころに朽ちた石畳を抱く、鬱蒼とした森です。
 生い茂った場所もあれば、少し開けた場所もあります。
 昼は明るいです。夜は星が見えます。古代獣が居るかもしれません。
 ここで十時間以上はかかる想定です。

『川』
 ただたんに、川です。
 大きいのですが、そこそこ流れが速いため、中に入るのは危険かもしれません。
 また古代獣が居るかもしれません。
 飛べると楽そうですね。

『森2』
 同じく、ところどころに朽ちた石畳を抱く、鬱蒼とした森です。
 生い茂った場所もあれば、少し開けた場所もあります。
 道中の中程には綺麗な水を湛えた泉があります。
 昼は明るいです。夜は星が見えます。古代獣が居るかもしれません。
 ここで八時間以上はかかる想定です。

『割れ目』
 地下遺跡が崩落しているようです。向こうまでの幅が五メートルほどで、かなり長く横切っています。
 下手に長く迂回するよりは、どうにか渡ってしまったほうが安全であると想定されています。
 こっちも飛べると楽そうですね。
 遺跡ではあるので、何かそういった危険があるかもしれません。

『目的地』
 それらの向こうにちょっとした丘があるようです。
 おそらく遺跡があるはずですので、たどり着けばゴールです。
 余裕がある場合は、ちょっとした探索をしても良いかもしれません。

●敵
 古代獣と呼ばれるモンスターの出現が想定されます。
 またアーカーシュでは精霊力が乱れていることが多く、精霊が攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。倒せば鎮めることは出来ます。

 けれど、それらの何が出てくるかは、残念ながら分かりません。
 というか適当にスキル攻撃でも準備しておいて、ピクニックとキャンプを楽しみましょう。

●同行NPC
『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)
 皆さんに憧れる、鉄帝国の軍人です。皆さんについてまわります。
 強さはそれなり。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 なのですが、今回は「たぶんアドリブ多いよ」ぐらいの意味です。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオでは、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

  • <チェチェロの夢へ>レビカナンセントラル完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日の優しさ
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ヨハン=レーム(p3p001117)
帝国軽騎兵隊客員軍医将校
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
天空の勇者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

リプレイ


 小鳥達がさえずり、木々の枝から枝へと飛び移る。
 レリッカ村からほど近い、森の入り口で一行は顔を見合わせて頷き合った。

「何か変わったことはないかしら?」
 善き隣人――あたりにたゆたう陽炎のような風精に語りかけた『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は、その『新しい友人』からの返答に微笑んだ。
 それに探検など何十年ぶりであろうか。胸の高鳴りは抑え切れそうにない。
「少なくとも、この付近に特段の脅威はなさそうよ」
「よかった」
 オデットの言葉に胸をなで下ろしたメルナは、未知の場所で長丁場のルート開拓という仕事に一抹の不安もかかえているが――やはり数日がかりの冒険と思えば、やはりワクワクとしてくる。
 きっと仲間達も同じ思いであろう。

「エヴァンジェリーナ殿と一緒に調査するのは光栄じゃな……宜しくじゃよ……」
「オウェードさんね、よろしく。帝国軍軽騎兵隊のエヴァンジェリーナよ」
 自己紹介を終えた『炉火の番人』オウェード=ランドマスター(p3p009184)に、リーヌシュカ(p3n000124)は帽子を整え、敬礼を返した。
「ま、祖国の為ならこの身を捧げましょうかセイバーマギエル殿下、感無量ですよ」
 同じく敬礼を真似た『悠青のキャロル』ヨハン=レーム(p3p001117)の言葉はおどけているが、半分だけなら本当でもある。
「何それ、お姫様ってこと? ねえ、もう一回言って」
「嫌です」
「けち」
「だから尻尾を掴もうとしてはいけません」
「リーヌシュカ君! リーヌシュカ君!」
「マリア!」
「久しぶりだね! 元気だったかい?」
「もちろん!」
「今回はよろしくね!」
「楽しんでいきましょうねぇ」
 リーヌシュカと握手を交した『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の後ろから、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が微笑みかける。
「うん、アーリア!」
 この間「次は一緒」という約束が果たせたことを喜びながら、アーリアはふと思う。小さな頃、妹と「探検!」と、街の外に出たものだ。お腹が空いてすぐ帰ってきたのだが。
「自分も、キャンプも遺跡調査も大好きだデスヨ、ワクワクしますカラネ」
 気合いをいれた『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)を振り返り、リーヌシュカは満面の笑みを浮かべて頷いた。
 リーヌシュカは、ずいぶん楽しそうな様子だと『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)は思うが、気持ちは分かる。ところで目的地までたどり着くことは概要ではなくゴールと言うのではないかと考えたが、どうもリーヌシュカは書類仕事はあまり得意ではなさそうに感じる。何事も大雑把な鉄帝国らしいといえばらしいのだが。それに実はかなり緊張しているような雰囲気も感じるから、少し気をかけておいてあげたいとも思う。だから――
「よければだけど、後で報告書、手伝おうか?」
「……いいの!?」
「うん、アタシでよければ」
「地図もつけるよ!」
「あら、じゃあお姉さんもしっかりメモしておかなくっちゃね」
「ありがとう、ジェック! マリア! アーリア! それじゃ、楽しんで行きましょ!」
「そうね、張り切って行きましょ」
「そうだね! リーヌシュカ君! アーリア君! 皆! 出発進行ー!」
 楽しんで――その言葉に今一度「頑張ろう」と思ったメルナが、軽く拳を握る。
(……あ、でも。楽しむ方に意識が行き過ぎてヘマしないようにしなくちゃ。楽しみつつ気を付けつつ……うん、頑張ろう!)
 それから胸に手を当て、呼吸を整え。いざ、森へと踏み込んだ。


 初日、一行はとにかく、予定された『川』を越える地点でのキャンプを考えている。
「これが最初の森よねえ」
「纏まって行軍したほうが良さそうだね、地図は任せて!」
「じゃあ細かい所はこっちで引き受けるわね」
 アーリアとマリアが頷き合い、一行は木の根や滑りやすい苔などを避けつつ、森を歩き始めた。
「油断はするな……いつ遭遇してもおかしくは無い……」
 時折かさりと音を立てる気配に、オウェードが立ち止まる。
 アーカーシュには野生動物の他、古代獣(エルディアン)という魔物が生息しており、また精霊などが暴れていることもある。少なくとも安全な場所とは言いがたい。
「慎重に、けどどんどん進んで行きたいね」
 メルナの言葉にリーヌシュカが頷いた。メルナもリーヌシュカも、実のところサバイバルやキャンプの経験はあまりない。リーヌシュカとて軍で訓練はしているが、騎兵隊とレンジャー部隊とでは科が違う。そもそもアーカーシュでの冒険もはじめてであり、不安もあるのだった。
「森では無暗にあちこち触らないようにね。毒や鋭い枝には注意よ」
「古代獣とはいえ、獣は獣だよね。足跡、踏みならした獣道、痕跡を見ていこうと思う」
 アーリアとジェックは時折周囲の様子をチェックしながら、一行に情報を共有していく。
「完全な原生林ていうわけじゃなさそうだよね、ほら」
 ジェックが指さした所には、石畳の痕らしきものが見える。
「古代都市の道だったのかな?」
「そうかもしれないね」
 首を傾げたマリアに、ジェックが頷いた。
「少し坂になってる、気をつけて」
「なんだか不自然ね、大きなくぼみっていうか」
「確かに、そうデスネ」
 リュカシスとオデットが述べる。まるで大昔に、何か大きな力に抉られた痕のような。それに中心部に水たまりがあった。周囲も苔むしており、いかにも滑りそうである。
「大きくはないから、迂回したほうがいいかも」
 メルナの言葉に頷き、一行は近くの大きな木を迂回して、くぼみを越えた。

 二時間ほど経過したろうか、ふとジェックが呟く。
「……ここは、何かの縄張りかもしれない」
 鳥の声が遠いのだ。何か恐れられるような存在が居るのかもしれない。
 野生の狩人か、あるいは魔物か――
 一行は得物に手を添え周囲に視線を走らせると、ふいに何かを閃いたメルナが茂みの中を指さす。
 息を潜めながら注意深く観察してみると、オウェードの背丈ほどもある藪に隠れた太い木の枝に、二メートルほどの獣が寝ているようだった。天啓に助けられたと思う。
 木にはびっしりとひっかいたような痕があるが、獣自体は虎や豹というよりはずんぐりして見える。大型の肉食獣だろう。ともかく刺激しないようにはしたい。
 リュカシスが迂回しようとジェスチャーで伝え、一行は目配せしあって、そっとその場を離れた。

「もう大丈夫だとおもう」
「なんだか緊張したね、さっきのは何だろう?」
 しばらく進んだあと、沈黙をやぶったジェックにマリアが応じ、一行は会話を再開した。
「熊か何かか、あるいは大型の肉食獣か。古代獣ではなさそうですが」
 ヨハンの言葉通り、おそらく古代獣(魔物の類い)ではないように思える。もしそうであれば、非常に攻撃性が高く、襲ってくるだろうから。普通の獣は縄張りを侵さないのであれば、無益な争いを避ける。とはいえ危険性はあり、互いの領分は侵さないほうが平和というものだ。それに一匹なら良いが、戦闘になれば仲間だって現れるかもしれない。
「ワシが殿を務めよう」
 変ににおいなどを辿られて、襲われても厄介だ。後ろを警戒しておくのが得策だろう。
「たぶん未知の動物かな、アーカイブスには載ってなかったと思いマス」
「じゃあメルナの新発見ね!」
「そう、なのかな」
「メモしておくわね」
 リュカシスの言葉にリーヌシュカとメルナが答え、アーリアがメモをとった。

「結構歩いたのう、見積もりと比べてどうじゃろうか、けっこう歩いたと思うんじゃが」
「――そうね」
 オウェードの問いに、リーヌシュカは懐中時計を確認した。
「はい、これ」
 それからマリアが差し出す、これまでの行程を記した手書きの地図を覗き込んだ。
「かなり順調だと思うわ。道にも迷っていないと思うし」
「それじゃあ、そこの開けたところで少し休みまショウカ」
 リュカシスの言葉に、一行は安堵の溜息と共に大きな伸びをする。


「おっと! そこ! 足元気を付けてね」
「――! ありがとう。油断は禁物ね」
 木の根に足をとられそうになったリーヌシュカだが、マリアが手を引いてやる。
「そういえばリーヌシュカ君! 最近ラド・バウの調子はどうだい?」
「もちろん追いついてみせるわ、必ず。けど最近はこっちの仕事ばっかり」
「そうなのかい、なんだかごめんよ」
「ううん、みんなと一緒の冒険なんて、ラド・バウより楽しい唯一のことよ。それにみんながいない時だって、みんなに役立つかもって思うと面倒じゃなくなるもの。それよりマリアはどう?」
「私? 私は虎だからね! ぼちぼちだよ!」
 紅茶とジュース、それからベッツィータルト。
 ヨハンが用意した即席の茶会にリーヌシュカが思わず舌鼓を打つ。
「食の楽しさってのは大事だよ、持ってきて正解だったんじゃない? 紅茶」
「そうね、これで十分だと思っていたけど、全然そんなことなかったわ」
 リーヌシュカが空になったソーセージの缶詰を指でコツンと弾く。
 鉄帝国はヨハン曰くところの脳筋アホの国ではあるが、戦いを知る国であり、実用品はしっかりと整っている。けれど戦闘糧食などというものが味気ないのは確かだ。
「チョコレートも分けまショウ、これは歩きながらでも食べられマス」
「ありがとう、リュカシス!」
 小一時間の食事休憩をはさみ、一行は再び荷支度を調えた。

 歩きながらオデットは、時折見かける樹精などに話しかけている。
「ありがとうございます、長老様。お元気で。みんな、ちょっと行軍ルートを見直してもいいかも」
 精霊のほとんどはおぼろげな意思しか感じないが、こちらは比較的高齢の精霊らしく、多少の知性を持っているようだった。この一帯の木々達の長老のような存在だ。曰く、どうやらこの先に古代獣の巣があるらしく、周囲の風精などは近寄らないようにしているとのことだった。
「ペースは大丈夫よ、夕方には川につくと思うわ」
 リーヌシュカが答え、一行は一時間ほど迂回ルートを進み、それから小休憩を挟んでまた二時間ほど進んでいる。すると、太陽が傾いてきたころ、ふと森の向こうが開けてきた。

「ここだと夕陽が眩しいね」
 ジェックが呟き、あたりを見回した。
 それに川の水面も橙色にきらきらと輝いている。時刻は十六時を回っていた。
 ならば警戒に最適なポイントは、あの岩陰あたりか。あそこなら逆光にはならない。
「アタシがあのへんで見張って、最後に飛んで渡るよ」
「それなら私は一足先に渡って、向こう岸を偵察してくるわ」
 オデットの提案にマリアが頷く。
「じゃあ私がアーリア君と手分けして皆を連れて行くね。アーリア君! よろしくね!」
「馬車馬のように働くわぁ!」
「リーヌシュカも飛べる人にしがみついときなさいよ。なんか泳げなさそうな雰囲気あるし、ちび」
「訓練程度には泳げるわ、得意じゃないけど。ていうか何、いま何ていったの? 教えなさい?」
「いいいややややだだだかかかららら、そそうういいうう乱乱暴暴はよよししななささいいって」
 ヨハンの襟首を掴み、リーヌシュカが揺さぶるが。さておき。
「向こう岸のほう、それ自体は安全そうよ、ただ川の下流側に古代獣が居るかもしれない」
「困ったね、けど渡らない訳にもいかないし、上流側に迂回するのは難しいかな?」
 オデットの言葉にメルナが問いかける。
「そっちはそっちで崖みたいになってて、危険かもしれないわ」
「だとすると迎え撃てるように警戒しながら渡るしかないのかな」
 致し方ない。オデットのお陰で事前に脅威が分かっただけでも、儲けものというものだ。
「それじゃ行くわよー」
「はーい」
 アーリアが抱っこをせがむ子供のように万歳したリーヌシュカを抱えると、思ったよりずいぶん重い。泳ぐのが得意でない理由は、これだろう。ああそういえば、鉄騎種だったか。普通の人とは少し違った心音が聞こえる。きっとこの子は心臓が機械部なのだ。
「年上を敬いなさいよぉ?」
「敬うわ!」
「ああもうリーヌシュカちゃんはしゃいで動かないの!」

 一行が半数ほど渡り終えた頃だった。
「来たね、古代獣!」
 赤い猿のような怪物――アーカーシュ第一次調査隊の記録によればパルパテャという古代獣だ。
 木の枝を足で巧みに掴み、数匹がどんどん近付きながら、何かを投げつけてくる。
 思いの外素早いようだ。さすが魔物といった所だが、リュカシス達は素早く得物を構え、トリガーを引いたジェックが早速一匹を撃ち貫いた。それから飛びかかってきた一匹をメルナが斬る。
「古代獣を見つけたのう……さてと……」
 オウェード達、イレギュラーズは敵を迎え撃つ形で陣取っている。幸運だったのはちょうど十字砲火のように構えることが出来た点だろう。先に当たりを付けたジェックの判断が良かった。これなら狙い撃ちだ。
「安全を確保してから、最後に悠々自適と渡るってワケ」

 短い交戦の後、古代獣共はオウェードが放った果物を拾い、一目散に逃げていった。
「ここは少し危険だね、釣りでも出来ればよかったけど」
 仲間を降ろし、対岸に降り立ったマリアに一行が頷く。
「皆たくさん食べたかったり美味しい物が食べたいはずさ!」
「泉があるみたいだから、そこが期待できるかも」
「雉なんかも、いるかもしれないデスネ」
 マリアにメルナとリュカシスが答える。
 それから一行は多少の傷を癒やし、荷物袋に破れなどがないか確認した。
「チェック、ヨシ! 大丈夫だと思う!」
「ありがとう。向こうは安全らしいから、森の中に入ってしまったほうが良さそうよ」
 マリアの確認に感謝の言葉をのべ、それからオデットは風精の助言を仲間に伝えた。
 そして、一行は対岸の森へと進んでいく。


 二時間ほど進んだ頃、小さな川と泉のある開けた場所に出た。
 清流をエリザベスアンガス正純がすいすいと泳いでいるのが見える。
 それにちょうど巨木に飲まれるように、ちょっとした遺跡――おそらく古代人の住居であろう――があまり朽ちていない形で残って居た。石のような不思議な素材のテーブルはしっかりしており、丸太でも転がして椅子にすれば、おあつらえ向きに食卓として機能してくれるだろう。
 とはいえ正面の壁は完全に崩れてはいるのだが、贅沢も言えない。
「この辺がよさそうデスネ」
 リュカシスの言葉に一行が同意する。
「この暁の火が使えそう、というかむしろ使って欲しいみたい。解放は――そう、そこに居たいのね」
 暁の火と名付けられたコンロのようなものに宿る、穏やかな火の精霊が何か主張しているようだった。果たすべき役目を与えられたまま、幾星霜も眠り続けているのは、さぞつらかったことだろう。
「ちょうど中継点になりそうよねえ」
「今回の情報を無事に持ち帰れば、軍が安全を確保出来るようになるわ。そうすれば今日はここまで十二時間の強行軍だったけど、ずっと早く来れるようになると思うわ。皆のおかげでね」
 メモを取るアーリアに、リーヌシュカが答える。
「橋でもかけられればいいんじゃが」
「そのあたりも軍でどうにかできるとおもうから、提案を伝えておくわ」
 オウェードの希望にリーヌシュカが頷いた。

「それじゃあ、後は近くの川で魚や獣など狩って食事を充実させよう!」
 マリアの提案に一同は賛成し、キャンプの準備に取りかかる。
「僕はどうしましょうね」
「ではこれをお願いしマス」
 指示を仰いだヨハンは、リュカシスと共にキャンプベースの設置を始める。
 それからリュカシスは、近くの木から食べられるキノコや木の実を採取しようと決めていた。串焼きにしたりデザートにしたりすれば、きっとみんな喜んでくれるだろう。
「こっちは香草ね、それからこれはソライロイモ、茹でたりして加熱すると無毒化して食べられるわ」
「じゃあこれが茹でる用、こっちは飲むために冷ます用、。皆で使えるように沢山沸かしておくね」
 泉の水を湧かしたマリアが芋を洗い、茹で始める。
「お料理は任せて」
 アーリアもまた、テキパキと支度を始めた。
 アカキジのガラを利用した温かいスープに『夜さり恋』を入れたリゾット、それからキノコの串焼き。アカキジの肉の方は串焼きにしてしまおう。ナッツは炒めて、後で――「そう、このお酒は調味料!」。凰花桃はコンポートにして、ミントのような香りのうどんこ草を添える。火はこのコンロと、獣避けも兼ねたたき火を使えば十分だ。で、でも、一杯だけなら……なんて考えつつ、いよいよ良い香りが漂い始めた。

「わあ、豪華だね」
 食卓に並んだ料理の数々に、メルナが思わず感嘆の声を上げた。
「それじゃいただきましょ」
 アーリアの宣言に、一同は感謝し、ようやく夕食だ。
「……美味しい」
「あら、嬉しい」
 ジェックが口にしたリゾットは、ちょうどよくアルデンテに仕上がっている。ベーコンの香りと旨味、それに優しい塩加減が疲れた身体に心地よい。ころころした根菜も良いアクセントだ。
「美味しい、これは何のキノコ?」
「スツールタケといってレリッカでも食べられているものデス、こちらのアカキジも美味しいデスヨ」
「本当ね!」
 リーヌシュカに答えたリュカシスも、アカキジの串焼きを頬張ると、口の中にじゅわっと肉汁の旨味が溢れる。鶏肉に似た味わいだ。肉質は硬いのだが、それがかえって滋味深く、さながら地鶏である。
 しかし腿串や胸串の他に、レバーや砂肝、手羽先、皮にハツに軟骨にミンチともくれば――アーリアは赤ワインをついつい眺めてしまうが。
「い、一杯だけ、ね……」
 オデットが両手のひらで転がす熱々のソライロイモは、割って口にするとほくほくとした味わいで、塩を少し振るとなんとも素朴な美味しさがある。
「こういうのも、何だかいいものね」
「そうだね、これも美味しい。レモンとハーブの香りがする?」
「本当だ。美味しい。何のハーブかな?」
「マバホフィッシュの味が淡泊だったから、さっきオデットちゃんが採ってきてくれた『ハワタナの葉』っていうのを刻んで使ってみたのよ。あとはシトラの実」
 メルナとマリアの疑問にアーリアが答えた。
 塩胡椒のほかに、レモンのような酸味と香り、それからタイムのような芳香が、あっさりとした白身魚の味わいをぐっと引立てている。
 それからデザートは島の木イチゴで、野生種だが思いのほか甘酸っぱくて美味しい。

 そして夜は更け――
 片付け終わった一行は男女に分かれて身体を清め、見張りを立てて交代で休むことにした。
「何か食い物ばっかり持ってきてるな僕」
「ヨハン、それは何?」
「リーヌシュカも食う? 『くるみ亭』のは美味いんだぜ」
「いただくわ、二度目のデザートね……ほんと美味しいのね、やるじゃない」
「だろ?」
 と、そんな頃。
「リーヌシュカちゃん借りてくわね、そろそろ身体を綺麗にしましょ」
「あ、はい。おねろりは間に合ってますので、向こういってますね」
「ロリとは何よ、もう十四歳なんだけど私は」
「そういうとこだぞ」
「はいはーい、こっちにきてねー」
「それじゃあこっちは外を見張っておきますカラ、ごゆるりと」
 リュカシス達、男性陣が遺跡の食卓から、たき火のほうへ移動する。
「女子は集まって。はい男子はそっち!」
「何、何? 私? 水浴び? 水冷たいんじゃない?」
「そこでこれ。便利なのよぉ」
 アーリア達は明かりを灯し、佐伯印のぴかぴかシャボンスプレーで一人ずつ身を清めることにした。
 ちょうど遺跡に部屋があって良かった。そして誰ともなく、なんとなく見張りをする。
 いや、男性陣を信じていないわけではないけれど。
「それじゃリーヌシュカちゃん、はいばんざーい」
「な、なに。酔ってるの? ひ、ひとりで出来るわ!?」
「髪も背中も綺麗にしなきゃなのよぉ?」
 疲れてはいても、たかが一杯で酔うはずなんてありはしない。
 多少『いい加減』に見せるほうが、『妹』というものは言う事を聞いてくれるから。
 反抗心は、見せるにしても――
「じゃ、じゃあ……お願い……」
 わしゃわしゃ。
「耳、くすぐったいわ。ピアス外させて……」
「……あらぁ~」


 ――深夜。
 たき火の中の木が、ぱちりと小さく爆ぜた。

「リーヌシュカ、眠ければ寝ても良いからね」
 ときおり船を漕いでは背筋を正すのを繰り返しているリーヌシュカに、ジェックが声を掛ける。
「だ、大丈夫よ」
「はい、温かい飲み物をもってきたよ。おや、何か居るね」
 三つの金属マグカップをそっと置いたマリアは、口元に人差し指をたて目配せする。
 緑色に輝く瞳がしばらくこちらを伺っている。
 しばしの沈黙が訪れた後。
 草葉が揺れる小さな音がして、そっと歩いてきたのは山猫のような動物だった。
「ねえ、あれ猫?」
「山猫かな?」
「小さな虎だったりしないかい?」
 猫科であるのは間違いないだろうが、危険はないだろう。むしろ可愛らしく見える。
 ふいにリーヌシュカが物音をたてると、獣は耳をイカのように伏せ、尻尾を膨らませ、背を丸く山なりにして横歩きで去って行った。威嚇のポーズだろうが、人間にとっては些か可愛すぎる。きっと臆病な生き物なのだろう。単独で生きる小さな狩人達には、そういう傾向が強い。

「そろそろ交代だよ」
「ゆっくり休んでね」
 現れたのはメルナとオデットとアーリアの三人だ。
 休息が分割となるため、前後の四時間に対して二時間と最も短く配分されているチームだ。
「それじゃあアタシ達は寝ようか」
「そうだね、あ。リーヌシュカ君は起こさないように抱えていくよ」
「お疲れ様よぉ~」
 見送った三人は、改めてたき火を囲んだ。
 オデットが近くにひっそりと潜む闇の精霊に問うと、精霊は快くそっと遺跡の影へ移動していった。
「それじゃあ灯りは任せて」
 見届けたオデットは、やさしい陽光を顕現させる。
「ありがとう」
 満天の月と星の下、仄かな陽光があたりを包んでいる。
 ゆっくりと時間が流れ、少し眠くなってきたメルナは、おしゃべりしようと思いつく。
 もちろん見張りもしっかり続けるけれど。
「夜の森ってけっこう、賑やかなんだね」
「そうねぇ、きっとあの中にも未だ誰もしらない動物が居るのよねぇ」
 アーリアが答える。メルナの言う通り、夜の森は意外と賑やかだった。
 小さな夜行性の動物や鳥が、活動しているのだろう。
 耳を澄ませば草のこすれる音や、鳥の鳴き声などが聞こえてくる。
 森の声を聞きながら、時折ナッツをかじり、三人は小声で他愛もない話を続けていた。
 なんだか秘密の夜更かしをしているようで、どこか女子会めいていて楽しい時間は流れ――

「そろそろ交代の時間デス」
「お疲れ様じゃよ」
「後はゆっくり休んで下さい」
 最後はリュカシス、オウェード、ヨハンの三人だ。
 辺りは未だ暗いがもうすぐ早朝にさしかかろうという時間になっていた。
 休息は十分にとったが、寝起きというものは眠い。
「もう少し薪を足しまスネ」
「ならばワシが持ってこようかね」
「ありがとうございマス」
 少し弱まっていたたき火を絶やさないよう、リュカシスが気を配る。
「……なんだか食べ物ばかり持ってきたな」
 温かな飲み物と共に、メロンパンをかじって頭を起こしながら、ヨハンが呟く。
 徐々に空が白ずんで来る頃、数匹の獣が近くにいる気配がした。
 早朝というのは、腹を空かせた夜行性の肉食獣が、その日最後の狩りを試みる時間でもある。
 三人は立ち上がり、得物に手をかけるが――
 たき火に近寄りたくないのだろう。ほどなく周辺から気配は消えた。
 やがて日が昇りはじめ、何時ぶりであろう朝焼けの空を眺めつつ、ようやく長い夜が明けた。


 昨晩作ったコンポートを糧食のクラッカーなどに合わせて、簡単に朝食をとった一行は、たき火を水でしっかりと後始末してから、二日目の行軍を開始した。
「精霊はなかなか予想がつかないよね」
「そうね、普通の状態なら良いけど、精霊力が乱れている場合が多いものね」
 ジェックにオデットが答える。
「鉢合わせしたら、鎮めるのが良いと思うわ」
「うん、うまく鎮めたら『していいこと』や『してはいけないこと』が聞けるかもしれない」
 オデットが道すがら語りかけているような自然のままのものは良いのだが、どうも古代の契約に縛られたままの精霊が、破損に反応してエラーした場合に暴れることがあるらしい。
 遺跡のあちこちが損壊している以上は、そうした存在と出くわす可能性は大きい。
 そしてこの先にあるであろう大きな亀裂は地下遺跡の損壊部と推測され、注意が必要だ。

 一行は森を歩き続け、昼食を済ませた。
 行程は順調であり、おそらく夕刻前には亀裂に到着出来る算段である。
 そして――
「ここが噂の、ねぇ」
 森を抜けた先に広がっていたのは、巨大な亀裂であった。
 その下には崩落した遺跡が見える。侵入者への罠が想定される危険な場所だ。
「迂回しても発見はありそうじゃが、それはまた別の話じゃな……今は渡ろうかね……」
 川の時と同様に飛んで渡る訳だが。
 はてさて。
「下は単に崩落しているけれど、そっちの奥の方が暗くて見えないけれど続いてそうね。それから精霊力の乱れを感じるわ。けど追うのは危険かもしれないわね」
 オデットは危険ではなさそうな方向へゲーミング林檎を転がしてみる。
 見えたのは、遺跡だ。入ることが出来そうな隙間もある。深部への入り口の一つだろう。
「メモするわね」
「そうだね」
 アーリアが文字ベースの特徴を記載し、マリアが地図に線と簡素な説明を描き加える。
「調査は今後じゃろうが、入るとするなら、あの場所が安全そうじゃのう」
 オウェードが呟く。
「更に崩落したりしないかな? あんまり端のほうは危ないかも」
 メルナの懸念通り、遺跡自体は非常に硬度が高そうだが、裂けた端のほうは風化して、足で触れてみるとぽろぽろと崩れる気配もある。
「あんまりギリギリまでは近付かないほうがよさそうだね」
 ジェックの言葉に頷くと、一行は飛行で飛び越え、ようやく――

「着いたー!」
 丘を登り終えたリュカシスが空を仰ぐ。
「わー! 見晴らしがいいね! 皆お疲れ様だよ!」
 あたりを眺めたマリアが女性陣とハイタッチする。
 振り返れば森、正面にあるのは風化した遺跡の街、そして半壊した大きな門だった。
 それより何より気になるものが一つある。崩壊した街の中心にあるのは、漆黒の禍々しい城なのだ。
「他の建物と、あそこだけ全く違うね」
 リュカシスが呟く。
「出来るだけ探索したいね、だって……先発隊の特権でしょ?」
「もちろん、そうしましょ!」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず!」
 ジェックにリーヌシュカとマリアが頷いた。
「ひとまずお疲れ様じゃが、時間は気にしておきたいじゃろうが」
 戦略眼――大局的見地からは、その通りである。
「数時間は探索が可能ではないじゃろうか」
「そうね、かなりの余裕を持てたから、そのぐらいの時間は許容出来ると思うわ」
 オウェードの言葉に、リーヌシュカが再び頷く。
「この門は何かしら?」
 アーリアが近付く。罠のような気配はないのだが、とにかく慎重には行きたい。ここからは何一つ予測出来ていない領域なのだ。そうしていると、突如――

『ようこそ、レビカナン一区セントラルシティへ』
 突如聞こえたのは、件の『レリックガイド』ウェナスの声だった。
『メタトロン・キーのお客様の来訪を心より歓迎致します』
 ぼうっと浮かび上がったウェナスが続けた。
『こちらは音声と映像を投影しています。御用の際には、こちらでお申し付け下さい』

 どうもこの場に立った人へ、街の区画案内などをするようだ。
 一行はいくらか聞いてみたが、データはひどく古く、すぐには役立ちそうにない。
 ひとまずありのままを記載しておくことにする。『生データ』は大切だ。
 もう一つ気になるのは、あの漆黒の城については何の記録もないことだった。
「街なら、危険は少ないよね。精霊とか古代獣とかはいるかもだけど」
 メルナの言葉通り、慎重に進めば問題はなさそうだ。
「まっかせてー!」
 リュカシスは《FLASH-DOSUKOI02》を起動し、やや先行させて歩き出す。

 街は他の地上部の遺跡と同様に精霊の気配を感じるが、格別な不安要素は存在しない。
 ただこれまでで最も巨大な地上部遺跡であるというだけだ。
 それより何より重大なこと、それは――あの徐々に、徐々に近付いてくる偉容。
「これはつまり、そういうことだよね」
 ジェックは推測出来ていた。
 そして振り返る。
「古代の魔王っていうのの、城なんじゃないかな?」
 誰かが生唾を飲み込んだ。

 そこは魔王イルドゼギアによる、利用されぬまま眠っていた『後詰めの城』である。
 勇者アイオンも知らぬ前人未踏の遺跡であり、おそらく『生きた機能』を有しているだろう。
 魔王自体は亡き後でも、その防衛機構は健在ならば――
 これまで発見された中で、遺跡深部か、あるいはそれ以上に危険な場所に違いない。

 ひりついた空気の中、一行は城へ徐々に近付いている。
 黒曜石を削り出したようなとげとげしい外観は、あまりに『いかにも』だ。
「外側には、特に何もないみたいだね。入ってみる?」
「そうねぇ、けど危ないことになる前には、絶対に引き返しましょ」
 マリアの問いにアーリアが答え、皆が同意する。
 開け放たれた巨大な門をくぐり抜け、これまた巨大な廊下を進んでいく。
 壁には所々にクリスタルが埋め込まれており、中では紫色の稲妻が踊っていた。

「――!?」
 ふいに、人型の何かが一行の眼前に降ってきた。三体いる。
 蝙蝠のような翼を持ち、身体は粘土細工のように凹凸が少ない。
 ネピリム呼ばれる謎の怪物であり、一行が得物を構えると同時に、これまた報告されているのと同様、突如天井のほうへ飛び去り、小さな穴の中へと消えていってしまった。
「ここまでが、いいかもね」
 どこか面食らったような表情のメルナが言った。
 それにまだ、左右と正面に枝分かれする扉の向こうに、嫌な気配が漂っているからだ。

 こうして一行は、様々な発見を携えて四日近くになる行軍を無事に終えることが出来た。
 誰一人欠けることなく、帝国軍橋頭堡へと戻ったのである。

成否

成功

MVP

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日の優しさ

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPは戦闘回避に最も役立った方へ。
 行軍中に戦闘不能やパンドラによる回避があった場合、少なくとも城の内部までは覗く余裕は(危険なため)なかったとおもいます。

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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