PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Celeste et>蒼穹へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●伝説の浮遊島《アーカーシュ》
 はるか昔。今では存在さえ怪しまれた浮遊島へ、多くの調査隊メンバーが祖国鉄帝へ朗報を持ち帰るべく旅立っていった。誰ひとりとして帰ってこなかった調査は当然ながら失敗で、時を経ていくとともに記憶は風化し、島の存在さえも怪しまれ、歴史の彼方へと忘れられていた――というのが、ついこの間までの話である。
「アーカーシュはまだまだ謎だらけか……」
 笹木 花丸(p3p008689)は既に公開された報告書の束や、今も別のイレギュラーズたちが対応している依頼などをずらりと眺め見る。
 かつて鉄帝で派遣された調査隊は、結論から言えば『アーカーシュへ到達していた』。伝説の浮遊島は確かに存在しており、しかし到達は叶えど踏破には至れなかったのである。故に彼らは島への定住を決め、狭い安全領域に村を作った。
(それがあのレリッカ、だったね)
 ぺらりと手近な場所にあった報告書を手に取った花丸。そこにはレリッカで開かれた宴について記載されている。ハナマルブラックとの空中散歩を思い出して口元をほころばせた花丸は、ブラウ(p3n000090)の声に顔を上げた。
「お待たせしました! こちらが新しいアーカーシュでの依頼です」
 ありがとう、と礼を告げながらカウンターに出された依頼書へ目を通す花丸。空から見たアーカーシュは所々に遺跡が点在しているようで、未知もまだまだ多いらしい。『冒険』という心躍る二文字が花丸たちを空へ誘うのである。
「これは……鉄帝の軍人さんが一緒なの?」
「はい! 何が起こるかわかりませんし、戦力としてとても頼りになると思いますよ!」
 同行者の欄を見た花丸は目を瞬かせる。鉄帝は武力に重きを置いたお国柄だ。軍人ともなれば、そこらのイレギュラーズと負けず劣らずの実力を持つ者もいるだろう。
「レリッカで合流だと聞いています。その……何かのいざこざとかに巻き込まれていなければ」
 後半はちょっぴり自信なさげに言うブラウ。しかし決して、その軍人が厄介な人物というわけではないのだ。
 軍人は――彼は、鉄帝の民を殊更大事に思っている。鉄帝の領空に浮かぶアーカーシュの人間もまた然り。彼らに危害が加えられそうであれば、そのようなモンスターが出現したとしたら真っ先に飛び込んでいくだろう。
 果たして――。


●熱血のアイアンマン
 ――軍人は、レリッカに滞在していた。
 レリッカの村も100年前から存在する安全地帯とあって、平和である。
「お前たちが共に向かうイレギュラーズだな? エイヴンだ」
 よろしく頼む、と男――エイヴンはやってきたイレギュラーズたちと握手を交わす。金属の手はひやりと冷たいが、彼の表情は穏やかな笑みを湛えている。悪い人ではなさそうだ。
「ここに私がいる理由が気になるかな。今、鉄帝では新生調査隊が立ちあげられているんだ」
 アーカーシュが存在し、そこへ向かう手段がある。鉄帝の優秀は政治家であるエフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフが調査隊を立ち上げ、彼の指揮下にある軍人および、パトリック・アネル大佐の指揮下についている軍人も調査へ関わっているようだ。エイヴンもまた、エフィムかパトリックどちらかの指揮下についている軍人ということだろう。
「今回は、危険なモンスターの掃討……でいいんだよね?」
「ああ。この村からそこまで遠くない場所に、奴らの巣があるんだそうだ」
 花丸の確認にエイヴンは頷いた。
 それはアーカーシュ第一次調査隊が発見した、パルパテャという猿のような怪物である。かつてより巣は存在していたが、こちらの調査隊が動き出したことであちらもざわついているようである。まだ直接的な戦闘には至っていないが、いつ触発されてそうなるかもわからない。
 彼がレリッカにて待機していたのも、万が一を想定してのことか。
「奴らを掃討できれば、周囲の探索も可能になるだろう。良いものが見つかることを祈ろうじゃないか」
 いつだって未知には心が躍るものさ――エイヴンはそう言って、二ッと笑みを浮かべてみせた。

GMコメント

●成功条件
 パルパテャの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 レリッカの村にほど近い森林地帯。木々がうっそうとしており、日中ですが若干薄暗いです。
 木の根などで足場も良くありません。
 パルパテャの群れがテリトリーとしており、これまで詳細な調査が出来ていません。ここで無事討伐できれば、戦闘後も簡単な調査は行えることでしょう。

●エネミー
・ドン・パルパテャ
 群れのボスです。木の枝から逆さにぶら下がっている、赤い猿のような怪物です。他のパルパテャより一回り体が大きいです。木の枝から枝へ、素早い移動を行います。
 群れのパルパテャと共に攻撃してくるだけでなく、大柄な身は防御にも富んでいると思われます。
 近づいてきた者へ風の愛馬を放ってくる他、このパルパテャは体術にも優れているようです。小回りの利いた動きで強烈な一撃を放ちます。何かしらのBSが想定されます。
 一定数まで群れが減少すると、ドンはこのテリトリーから群れの撤退を試みる可能性があります。新たなテリトリーを探し求め、レリッカへ危害を加えては大変ですので、ここでの討伐が求められています。

・パルパテャ×20
 木の枝から逆さにぶら下がっている、赤い猿のような怪物です。木の枝から枝へ、素早い移動を行います。
 身軽であり、EXAと群れで対象を同じくすることで確実に仕留めてきます。防御には些か弱いように見えますが、それを補う回避力を持っています。
 キィキィと鳴き声を上げて威嚇行動をとる他、近づいてきた者に向かって風の刃を放ってきます。また、爪で引っ掻くなどの近接技も持ち合わせています。【出血系列】【乱れ系列】のBSが想定されます。


●同行者
・『熱血のアイアンマン』エイヴン・ファール
 笹木 花丸 (p3p008689)さんの関係者。鉄帝の軍人です。
 戦闘時以外は穏やかな口調や受け答えで、皆様とも気軽くお喋りしてくれるでしょう。彼もまた、イレギュラーズという強者に興味を持っています。
 右肩から先は機械であり、戦闘時は強化された拳で敵を一掃する強力近接ファイターです。皆様と共に戦い、必要に応じて指示も聞いてくれます。
 戦闘後は新たな敵影がないか警戒する役を買って出ます。

●ご挨拶
 愁と申します。
 アーカーシュの探索を行う一方で、レリッカに脅威が及ばないよう討伐が必要です。更なる探索も進むことでしょう!
 それでは、よろしくお願い致します。

●特殊ルール『新発見命名権』
 浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
 発見者には『命名権』があたえられます。
  ※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
 特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
  ※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
 命名権は放棄してもかまいません。
  ※放棄した場合には、何も起りません。

  • <Celeste et>蒼穹へ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月28日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リサ・ディーラング(p3p008016)
蒸気迫撃
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)
特異運命座標
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 踏みしめる足裏には土の感触。ゆっくり息を吸い込めば、新緑の爽やかな香りが肺を満たしていく。なんでもない、普通の森――に見えるのだが。
「本当に浮いているんだよね」
 マルク・シリング(p3p001309)はしみじみと呟いた。島が丸ごと空に浮かんでいるだなんて、それこそ御伽噺の様で。けれど自分の目で見てしまえば、それを御伽噺だなどと言う事も出来ない。
 アーカーシュは真実、空の海に存在しており、生態系が存在している。最も、それらは地上と隔絶されているためか、見知らぬものばかりのようだったが。
 『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)はぐるりと見回し、ひと先ず当たりの安全を確認して。それでは参りましょうかと森に視線を向けた。
(鉄帝のためにも、新たなものを見つけて行かねばならないでありますな)
 新たな探索。そこで見つかる様々な生物や土地、それに食材なども――きっと鉄帝の利となるはずだ。寒さの厳しい鉄帝で、これまでと異なる種であれど持ち帰ることができることができたなら。今後の発展に繋がるのだと願わずにいられない。
 しかし何はともあれ、話は厄介な敵を討伐してからだ。パルパテャと呼ばれる猿のような怪物は、群れを形成してると言う。複数体で動いているならば、見つけるのはそう難しくないようにも思えるが。
「そこ、気をつけてください」
 ハイデマリーは物質透過で木の根をすり抜けられるが、皆が皆そうではない。皆が足元に注意する間、ハイデマリーは視界を遮るものを透過してパルパテャが隠れていないか確認する。
(大丈夫そうでありますね)
 暗がりも特にそれらしき影は見当たらない。
「いなさそうだね……?」
 『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)が『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)の背中からそっと顔を覗かせ、良く見えるその瞳で辺りを見回す。よし、敵性生物の存在なし。獣種の血も騒ぎ立つことは今のところ無さそうだ。
「随分と怯えているように見えるが……犬猿の仲、と言った所か?」
「えっ? ち、違うよ! ボク犬じゃなくて狼だし!」
 そういう割りにはブレンダの背中にぴったりとくっついている。声は気丈だが、その姿を見れば誰しもが同じことを思うだろう。
「まあ、害獣だしな。あちらも不憫ではあるが……」
 ちがうってばー! と背中の後ろで訴えるリコリス。その言葉を聞きつつも、ブレンダはエネミーサーチで索敵する。こちらの動きに刺激を受けているということだから、元々のテリトリーから出ているとも考えにくい。自分たちの縄張りに侵入者があった場合、安易に捨てては種の存続に関わるだろうから。
(それよりは侵入者を撃退するか、あるいは)
 より物資の潤沢な場所を縄張りにするため、攻め入るか。お誂え向きに村があるのだ、何時そうなってもおかしくない。
 軽々と足場の悪い箇所を乗り越えていくブレンダ。続く『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)が視線だけ『熱血のアイアンマン』エイヴン・ファールへと移す。
「数は増えてないっすよね?」
「ああ、そのように聞いている」
 頷くエイヴン。ボス格のパルパテャを含め、20体弱と言った所だったか。そこまで大規模な群れではないが、他にも危険生物のいるこの島で渡り合っているのだからそれなりの強さだろう。
(ま、それならそれで仕留めがいがあるってことで)
 それに負ける気はない。地形の悪さや敵の動きに注意する必要はあるだろうが、軍人も――それも鉄帝の者が同行しているのだ。
「エイヴンさんみたいな人が同行してくれるなら、とっても頼もしいよねっ!」
「ええ。強そうな人だもの」
 『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)がにぱっと笑みを浮かべれば、『特異運命座標』ジゼル・ベグラーベン(p3p010507)もまた微笑む。彼女たちの言葉に、当のエイヴンは苦笑していたが。
「はは、私などまだまだだよ。もっと強くならなければね」
「そう?」
「そうとも」
 首を傾げる花丸にエイヴンは頷いてみせる。本心で言っているようだ。こうした向上心を忘れないことも、『熱血のアイアンマン』の二つ名に関係しているのかもしれない。
「あ、ここに目印つけておくっす」
 リサは多少歩きやすくなった森の中、木々の表皮に目印をつける。もし迷ったとしても、リサの優れた方向感覚とこれを頼りに道を戻ることができるだろう。
 そのためにほんの少しだけ立ち止まる中、ジゼルはゆっくりと木々を見回してみる。食べ残しや、枝についた爪の痕。自然に生きているのだ、完全に痕跡を消すことは難しいだろう。
「ねえ、あそこ。剥がれているわ」
「本当だ。握ったのかな?」
 こんなふうに、と一緒に見たマルクが手で枝を握るような仕草をする。彼らは枝を伝って移動するそうだから、その際についたのかもしれない。
「ファミリアーはどうでありますか」
「ああ、それならまだ――」
 索敵中である、そう告げようとしたはずだ。しかしマルクはその言葉を途切れさせ、表情と体を強張らせた。
「どうされましたか……?」
「……ファミリアーがやられたみたいだ」
 『炯眼のエメラルド』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の気遣う視線に問題ないと頷いて。マルクは静かに深呼吸する。
 先行させ、パルパテャが見つかればその気を引くように指示をしていたが、逃げ回る暇もなかったか。一瞬赤い姿が見えたから、おそらくあれがパルパテャだろう。
「……気をつけないとね」
「はい。集中していきましょう」
 神妙な表情を浮かべた花丸とマリエッタ。大分素早いようだから、再びファミリアーを先行させても同じことになるだろう。
 ということは、自分たちが行くしかないのだ。
 ハイセンスで敵の気配をいち早く察しようとする花丸とともに、一同は慎重な足取りで進む。マリエッタはタクトがすぐ取り出せる場所にあることを確認しながら、小さく呼吸を整えた。
 大丈夫。頭の中をクリアにしたならば――チェス盤を見下ろすように、戦況が見えてくるはずだから。



「……あの群れでありますね?」
 密やかな声音でハイデマリーが確認し、エイヴンげ首肯する。周囲への敵意を抱き、ピリピリとした空気が満ちている。たしかにこれでは、いつ村を襲われてもおかしくないだろう。
「でも、ドンらしいパルパテャは見つからないね」
「別の場所にいるっすかね……?」
 花丸とリサが視線をそうっと巡らせるが、パルパテャたちはどれも似たような姿で、特異的なパルパテャは見当たらない。周辺偵察のため、ハイデマリーのドローンが森の中へ紛れていく。
 猿らしいと言えば猿らしいか。とはいえ、まだまだ未知の生物が何をしでかすかわからない。ハイデマリーは静かに、けれど確かな声で号令をかけた。
「――行きましょう!」
 その言葉を皮切りに、一同はパルパテャの元へ姿を現した。相手が突然の登場に驚き、威嚇の鳴き声を上げる前にリコリスがフード越しにジッ( ‘ᾥ’ )と睨みつけた。
「今日は獲物の数が多いって聞いたからね。準備はバッチリだよ!」
 その手に触れるは無銘の銃。花丸がその横をすり抜け、群れのど真ん中へ飛び込んでいく。
「まずは花丸ちゃんが相手だよっ!」
 パルパテャたちに向けて放たれる口上に――というよりは、より近づいた侵入者にパルパテャたちの威嚇が始まる。その様子を見ながら、ジゼルは武神の刃へ憎悪の力を乗せた。
(やはり、ここまで近づいてもドンらしき姿はないか)
 それならばドンが出てくるまでは彼らを相手取ればよいと、ブレンダもまた花丸に続いて肉薄して行く。仲間たちへ守りの術式を展開したマリエッタは、注意深く辺りへ視線を走らせた。
 花丸が挑発したパルパテャたちだが、幾らかは彼女以外へ敵意を向け、攻撃を仕掛けている。向こうは完全に殺る気だが、イレギュラーズたちはまかり間違ってもドン・パルパテャともども群れを逃さないため、ドンを誘き出すように立ち回らなくてはならない。
(厄介ですね)
 減らし過ぎればドンが戻ってくる前に逃げ出すかもしれないし、さりとて多少は数を減らさなければこちらが苦境に立たされる。
 それでも――全く望みがないわけではない。
「撃ち落としていけっす!」
 リサの巨大火砲から放たれた銃弾の雨が、パルパテャたちを翻弄するように降り注ぐ。片腕を撃たれたパルパテャが無事な片腕で枝を握りしめ、どうにか逆さまにぶら下がった。
「こちらも負けられないんだ」
 マルクが仲間を癒して行く。こちらが敢えて力を押さえるなら、より怪我を負いやすいのは必然だ。
(早く出てきてくれ……!)
 ハイデマリーの放ったドローンが見つけるか、それともドン自ら戻ってくるか。あるいは、パルパテャたちがドンを呼び寄せるか――方法はわからない。けれども、このままでは緩やかにイレギュラーズが劣勢へ立たされることを、誰もが感じ取っていた。

 それでも、なるべく時間を稼ぐのだとリコリスのブルーコメットが軌跡を描く。花丸がパルパテャを引きつけ、少しずつ敵の数を減らして行く。
 戦闘の気配が届いたのか、それともパルパテャたちの鳴き声が呼んだのか――リコリスの血がざわめいた。
「皆、くるっ!」
 その言葉の直後、ドンと大きく揺れた気がした。いいや、揺れたのだ。後から揺れた枝から幾枚も木の葉がイレギュラーズへ降り注ぐ。
 イレギュラーズを見下ろした大柄なパルパテャ――ドン・パルパテャは、すかさず飛んできた何かを風の刃で叩き落とそうとするも、力強く飛来したそれは止められない。
「悪いな、猿の大将。お前も含め、放ってはおけんのだ」
 小剣を投げた体勢でブレンダが告げる。そしてすぐさま枝へ向けて跳躍すると、残像が見えるほどのスピードで攻めに転じた。
「ボクもいっくよー!」
「風穴あけてやりましょう」
 リコリスとハイデマリーもまた、手にした武器をドンの方へ。花丸はパルパテャの群れを惹きつけたまま「エイヴンさん!」と彼の名を呼んだ。
「皆と一緒にドンをお願い!」
 その声にエイヴンはしかと頷き、踵を返す。ドンに向かう彼の表情が、その口端が、笑っているように見えるのは気のせいではない。
「強いやつと戦うのは大歓迎だ!」
 そう、彼も鉄帝の民。武力を求める1人の男。故に強者を前にしてしまえば――高揚せずにいられない。
「早々に倒してしまいたいところだけれど……随分頑丈そうね?」
 じぜるの持つ得物が鈍重に振り下ろされ、その勢いと重さのままドンへ迫る。これまで癒しに全力を注いでいたマルクでさえも、今ばかりはかの敵を倒すために攻撃へ転じた。
「っ……それなりに身軽なようだな」
 ドンを前にしたブレンダは、少しずつ余裕が剥がされていくのを感じていた。そう易々捉えられるはずはない。それは紛れもない事実であり、しかしてドン・パルパテャは度重なる攻撃で徐々にブレンダを捉えんとしている。
 不意に巻き起こった風が刃となり、ブレンダの肌を切り裂いた。すかさずマリエッタのクェーサーアナライズが彼女を癒す。
「守りはお任せください!」
「ああ、頼む」
 出血が止まる。後方からリサのアビス・ロブが執拗にドンを狙い打った。
 一方の花丸もまた、内気と外気両方で以って自身の傷を修復する。それでもまだ、敵は多い。
「それでも――行かせない!!」
 流してなるものか。
 皆のところへ行かせてなるものか!
 彼女の想いは文字通りに力となる。何体もの敵に狙われる彼女へ不屈の力を与えたそれは、まさに奇跡と呼ばれるもの。
 ブレンダも自身の力を信じながら、仲間の援護を受けてドンを止める。多少の出血もマルクやマリエッタが癒してくれるから、こうして立っていられるのだ。
「これで――終わりだ!」
 叩き込まれるブルーフェイク。ここで撃ち込むべき最適解。それを的確に貫いたブレンダは、ドンの最期ともいうべき咆哮を聞いた。
 その瞬間、パルパテャたちの動きが変わる。ちょっかいをかけられていたリコリスはマルクに回復を受けていたが、その動きにはっと振り向く。
 ああ、行かせるわけにはいかない。だって狩人だから。ね、逃すわけないじゃない?
「追いかけっこ? いいよぉ、楽しもうね!」
 逃げても逃げても逃げられないことを知るまで、いくらでも付き合おう。その前に――死んでしまうかもしれないけれど。
「範囲攻撃は持ち合わせがないのですが」
「あら。その一撃があるだけで十分心強いと思うわよ?」
 構えるハイデマリー。その横をジゼルがすり抜けざまに呟く。飛び込み、得物を大きく旋回させたジゼルを援護するように、ハイデマリーの構えた得物が火を吹いた。
「あと……もう少しっ!」
「ああ! 全て倒すぞ!」
 花丸とエイヴンの拳がパルパテャをぶちのめす。残るパルパテャをマルクの神気閃光が捉えた。
「あと1体が……!」
「任せてくださいっす!」
 マリエッタの声にリサが武器の照準を合わせる。まだ届く。届かせる!
「逃げようとするってんなら、それを上回る技量を見せてやるっすよ!!」
 放たれし死の凶弾。それは死神のごとく、パルパテャの命を掠め取っていった。


「それじゃあ、調査開始だねっ!」
「はいっ!」
 花丸の言葉にマリエッタが目を輝かせて頷く。エイヴンはそれをみて口端を小さく上げると、パルパテャが居なくなったことに気付いた別の生物を警戒しようと名乗り出た。他のイレギュラーズたちも各々、探したい場所の目星をつけて探索を開始する。
(何か見つけて帰ったら、あの子も驚いてくれるかしら?)
 家で待っているだろう少女――恋人を思い出しながら森を歩くジゼル。無暗に歩いて見ても、確実な収穫は望めないだろう。ある程度この環境でどんなものがありそうか、考えてみることも大事だ。
 木々が多く、どこか湿っぽさも感じる暗がり。木の洞は森に住まう生物の住処にお誂え向きだ。しかしそこまで詳細な調査はできないだろうと、ジゼルは手近な木を上から下へと眺めてみる。
「あら、」
 その根元に、小さく密集するキノコがあった。これは、もしかして?
 その一方でマルクは森全体へ視線を巡らせてみる。群れで暮らせるような森林地帯だ。食糧となるような動植物が豊富だろう。猿らしい姿をしていたし、木々を伝っていくのであればその動線上にある食糧を食べるはずだ。
 つまり――木々の上に、食材となりうるものがあるのではないかと。
「あれは……果物かな?」
「そのようだな」
 マルクが視界に認めた果実を見て、ブレンダが身軽な動きで木の上へと登る。そしてひとつを捥ぐと、下にいるマルクへと落とした。
「ありがとう。これは食べられるのかな」
「持ち帰ってみればわかるだろうさ」
 それもそうかと頷くマルク。ブレンダは枝の上から辺りを見まわし、果実の捥がれたような跡や齧られた跡を発見する。パルパテャは果物を食べにここまで来ていたのかもしれない。
(地上は他のメンバーがいれば十分でありますな)
 ハイデマリーはタイニーワイバーンを呼ぶと、ひらりとまたがって上空へ飛び立つ。広い森林地帯だが、遠くの方にぽっかりと森が拓かれたような跡が見えた。あれはなんだろうか。
 しかし新しいものを探すだけでなく、今後の影響も気にしなければ。パルパテャを退治した以上、生態系の分布は変わってくるはずだ。
 自身も探しながら、マリエッタは集まってくる『未知のモノ』に目をキラキラさせる。これらには何と名がつくのだろう。どんなものなのだろう。そんなことを考えればワクワクしてしまって。
(知らないことを知る、というのは……失った記憶の中の私が、好きな事だったのかもしれません)
 まだ、思い出すことはないけれど。そうだったら良いなと、マリエッタは思うのだ。

成否

成功

MVP

笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

状態異常

笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 いくつか、発見があったようですね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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