PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バイオレッドシーズン&デイズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●紫電・贋作
 キン――という涼やかな音がした。青い閃きと共に、春過ぎた夜風をすり抜けるように。
 けれどそれだけだというのに、虫たちの声は消えたのだ。
 もしあなたがその場にいたのであれば、虫たちに共感できたやもしれない。
 青いエネルギーレイをぼんやりと放つ刀を振り抜いた姿勢のまま、褐色肌の少女が立っている。わずかに上がり、そしてゆれたポニーテールの先がこれまでの一瞬で行われた動きの急速さを示すようで、彼女の眼前に『くずれた』人間の様子が、彼女がやったことを端的に説明していた。
 人間は、有り体に言って戦闘に優れた装備に見えた。白い筋力補助スーツの背にはダンブレイクセキュリティのロゴマーク。
 練達の都市を警備する数多の警備会社の中で、得に装備の整った会社だ。
 スーツの各所にはプロテクターと防護プレートの役割を果たす素材が使われ、得に胸部は野球のキャッチャーがつけるかのようなごてごてとしたプロテクターで覆われている。
 そんな人間がスタンバトンを振り上げた姿勢のまま、『ずれて』いたのだ。
 斜めに切断された氷の柱がゆっくり滑り落ちてしまうようにだ。
 胸のプロテクターは斜めに切断され、それが事実であることを証明するかのように人体もろとも崩れて落ちる。
 瞠目したのは周囲で同様の装備をしていた警備員たちだ。練達首都にて連続して起きた『災厄』を経て各警備会社は武装の強化を強いられた。このダンブレイクセキュリティ社も同様であり、得に資金の殆どを装備増強につぎ込んだ会社でもある。
 おかげで大抵の武力に対してはマウントをとれたし、首都機能低下につけこんだ暴徒の鎮圧や重要施設へのテロ壊滅といった様々な仕事も死者を出すことなくこなしてきた。
 それが、いま一瞬で破られたのである。
 男達はP90に似たシルエットの短機関銃を構え、リーダーの号令と共に一斉発砲。
 しかし少女の後ろからスッと身体を見せたもう一人の少女によって、彼らの発砲は中断された。
 刀身に赤いエネルギーレイを走らせた褐色肌の少女だ。こちらは結びもしないロングヘアを靡かせ急発進すると、警備員たちの短機関銃を『それを持つ手首ごと』切り落としていく。
 これを『切り落としていく』などと連続して表現したのは、彼女たちがたった二人ではないからだ。
 周囲から次々と、警備員たちが集まるのをあえて待っていたかのように赤と青の褐色少女たちが現れ、そして警備員達を『くずして』いったのである。

●アグリアからもたらされたもの
「首都郊外で通り魔殺人、ねえ……」
 空中に浮かぶ半透明なウィンドウを長め、紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は組んだ両足をオットマンの上に載せる。ついでに両手は頭の後ろで組み、ゆっくりとスクロールするウィンドウに目を走らせていた。
「通り魔くらい珍しくなくない?」
 椅子の背もたれ側からよりかかってくる茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。長い髪が紫電の顔にたれ、ウィンドウを塞いだ。
 はいあーんといって出されたのはクッキーだった。なんとかっていう国のなんとかっていう店で買ってきたお土産らしいが、八割方秋奈が自分で食べきってしまったのでなんだったのかすらあまり覚えていない。
 残り二割をくれる気になったのかと思いながらクッキーを受け入れると、くわえたまま秋奈の髪を片手でどける。そしてウィンドウをスワイプして見せた。
「それがただの通り魔じゃあないんだな。警備会社の1チームまるごと相手にして全員惨殺だと。通り魔……てか辻斬りにしちゃあ派手すぎないか?
「そうねえ。なんでそんなことするんだろ? 暇だったから?」
「『プロモーションをしたかったから』ですよ」
 ありえないはずの『第三者』の声に、紫電と秋奈が全く同時に振り返る。
 それぞれすぐそばに立てかけていた刀を手に取り、抜刀できるようにして。
 つまりは招かれざる第三者であるということだ。
 更には、建物の五階にあたる部屋の窓の外。つまりは空中から話しかけてきたからだ。
「素敵な歓迎ですね、紫電。それと…………」
 紫電を見つめる、金色の目をした少女。背負った両手剣からは禍々しいエネルギーが湧きのぼっている。
 目が動いて秋奈を見て、険しく顔を歪めた。
 歪めたのは紫電も同じである。
「何の用だクソ魔剣」
「あら、遊びに来たらいけなかったですか?」
 まるで週イチで通う友人のように振る舞ってみせる少女だが、彼女とは実に二年半ぶりである。その時は軽く殺し合いすらした筈だ。
 が、そんな都合は全く意に介さないらしく少女――ガレトブルッフ=アグリアはメモリースティックを取り出して紫電へと……正確には紫電がいま操作している端末の上へと放り投げた。
 カツンとぶつかったことで起動したファイルが展開され、空中に映像が投影される。
 ダンブレイクセキュリティ社の警備員たちが、褐色肌の少女たちによって次々に斬殺される光景が映されたものだ。
「――ッ」
 ガタッと椅子を揺らし身を乗り出す紫電。
「お前、これ――」
「それを持ってきてあげたんですよ」
 アグリアの声が微妙な色を帯びる。というのも、先ほどから秋奈とにらみ合い続けているせいだ。
 何かを悟ったらしくスッと退いたアグリアが、両手を翳して小さく振る。
「気になるなら、首を突っ込んでみては?」
 わたしは今日の所はこれでおいとましますよと言って、とんでもない逃げ足で去って行くアグリア。
 秋奈は去って行った方向を睨みながらも、紫電の方をツンと指でつついた。
「知ってる人?」
「あ、や、あー」
「映像のやつ」
「あー!」
 紫電はパンと両手をあわせ、そして映像を指さした。
「いわゆるオレの贋作だ! 紫電贋作・天ノ型『カガリ』、同じく海ノ型『シズク』!」

●贋作を追うもの
「『ベリウス・ベアグ・ベネディクト』――オレと同じ世界移動者(ワールドジャンパー)で、趣味は世界の崩壊ってカンジのヤツだ。戦争の引き金をガキがプールで遊ぶ水鉄砲みたいに引きまくってどの世界もメチャメチャにしてきた。
 前の世界で、そいつにオレの旧式ボディをパクって『贋作』を作られたことがある。
 それがカガリとシズクだ。外見までそのまんまとはな。
 ヤツはどうやらこの世界でも戦争の引き金をひきまくるつもりらしい。贋作どもはさしずめその先兵ってとこだろうな」
「ンーなるほどなるほど」
 秋奈が難しい顔をして、最後に両手をぱっと開いた。
「じぇんじぇんわからん」
「秋奈でいう『偽神シリーズ』」
「なるほど完全に理解したわ」
 まだ全然理解してない顔でそういうと、彼女たちは足を止めた。
 練達郊外……島の外周部にして埠頭のあるエリアまでやってきていた。
 通信端末を開き、ギリギリ使えないことを確認すると息をつく。
「ローレットにも応援依頼を出しておいた。たぶんあと数人来るだろう。でもって……」
 紫電は端末をポケットにしまうと、目をギラリと光らせた。
「連中を狩るぞ」

 練達埠頭倉庫エリア。ここで行われていたのは『倍々ゲーム』だった。
 謎の通り魔殺人を起こし、それを調査しにきた人間を殺し、その事態を重く見た警備会社の人間を殺し、チーム単位で投入された連中を殺す。
 そうすることで徐々に規模を膨らませ、『この世界で新造した兵隊』のスペックテストを行おうというのだ。かなり危険な発想だが、手っ取り早い。
「生命をイチから作り出すことはできないが、偽神シリーズ同様アンドロイドを大量に生産することはできる。疑似人格をプリントしまくってな。混沌肯定にだいぶ邪魔されたろうが……練達で騒ぎを起こしてたR財団やらL&R株式会社やらと繋がっていたとしたら」
「ま、できるだろうね」
 実際山ほど攻めてきたし。と秋奈は刀に手をかけながらぼやいた。
 今からするのはそんな倍々ゲームへの割り込みである。
 次に派遣される筈だった警備会社に交渉し、その仕事を一旦ローレットで受ける形にすげ替えたのだ。
「映像からしてかなり腕の立つ連中の筈だ。秋奈……」
 大丈夫か? と問いかけようとして苦笑する。そんな質問は無意味だ。
「やるぞ」
「ん」
 二人は拳をこつんと合わせ、そして仲間達の合流を待った。

GMコメント

●埠頭倉庫エリアでの戦闘
 情報を一旦俯瞰視点から整理しましょう。
 ローレットは練達の埠頭倉庫エリアで起きている連続通り魔事件への対応のため、警備会社から外注依頼を受ける形で介入しました。
 事件の内容は褐色肌で刀を使うアンドロイドの一団『紫電贋作シリーズ』によるものだと判明しており、彼女たちの戦闘能力をテストする目的で一連の事件がおきていたと推測されました。そしてそれは概ね事実であるようです。

 皆さんは一旦合流し、埠頭倉庫エリアへと向かいます。
 十中八九紫電贋作シリーズからの襲撃を受けるはずなので、これを迎撃しましょう。

●予測される敵戦力
 以下の紫電贋作シリーズが複数体出現します。
 詳しい数はわかっていませんが、戦力的にはこちらと同等かそれ以上を想定してください。

・紫電贋作・天ノ型『カガリ』
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/58546
 赤い刀を使う少女型アンドロイド。
 見た目はともかく実質的には戦闘用ドローンなので人間と思わないで接するのがよさそう。
 攻撃に優れ、防御をかなぐり捨てた強引な破壊を得意とする。

・紫電贋作・海ノ型『シズク』
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/61799
 青い刀を使う少女型アンドロイド。
 カガリ同様の戦闘用ドローンだが、防御能力あるいは反撃能力に優れている。

  • バイオレッドシーズン&デイズ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年05月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
彼岸会 空観(p3p007169)
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女

リプレイ


 夜の海。風。エンジン音と振動。
 イリーガルなノーヘルメットスタイルでまとめた後ろ髪をらんぼうに靡かせる『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は、大型バイクのサブシートに跨がり、あろうことか片手で『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)の腰を掴んでいた。
 紫電はといえば、平気そうな顔をしてハンドルを握りしめている。
「紫電ちゃん紫電ちゃん、今日のお仕事なんだっけ。夜釣り?」
「二時間前のことを忘れるなよ。『贋作』の排除だろ。ガワは警備会社の代行業だけどな」
 強くハンドルを握りしめる紫電。思い出されるのは、ついこの間の出来事だ。練達のマザーAIが暴走し、それに付け込む形で動きを露わにしたR財団などのブラックコーポレーション。秋奈をはじめとする戦神をコピーしたアンドロイドを大量に生産・投入するさまは将来的な脅威を感じさせるものだった。今の事件は、その延長にあるように思える。
「旅人ってのは戦闘人間作るシュミでもあるのか?」
 大型バイクが並走してくる。『無名偲・無意式の生徒』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)のものだ。
「いや、しらん。少なくとも私は作らん」
「私もキョーミない」
「冗談だっつの」
 マニエラは苦笑し、そして思った。AIと機械のボディを用いた『秘宝種の製作』はあの事件以降日増しにケースを増していく。人類として世界に肯定されなくとも、それに近い存在となる技術は確立しつつあるということだろうか。こと戦闘兵士に限っては、量産が可能な技術水域にあるとみていい筈だ。
 バイクを止めると、大きな金属製コンテナの上に腰掛ける『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)の姿があった。
 もう温かい季節であるとはいえ湾岸は肌寒いのだろうか。膝までかかるようなロングコートを羽織っている。なにかっつーと魔法少女スタイルが有名な彼女だが、今回は軍用のコートにベースボールスタイルのキャップというなんとも堅い様相だった。
「依頼内容は聞いています。なんともワタシたち向きの依頼でありますな」
「ローレット戦闘データとられがち問題、ですわね」
 パッとライトで照らし出してみるとハイデマリーの後ろに立ち海の方を見ていた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が、スキットルをちびちびと口にあてていた。
 こちらも赤いロングコートである。クラースナヤ・ズヴェズダーで支給される揃いのコートで、シンボルマークが胸に示されているのがわかる。
 この二人が揃うとどこでも急に鉄帝ぽさが出てしまうものだが、中和でもするように『闇之雲』武器商人(p3p001107)が暗がりからヌッと姿を見せる。
「贋作……『贋作』。ヒヒヒ……我は贋作も味が合って嫌いじゃあないよ。本物……いや、『真打ち』を前に言うのはよくないかもしれないけれどねえ」
 こちらは肩を出したやや大胆なスタイルである。外気温で格好を変えなさそうな人物なので、真冬にノースリーブやその逆だったとしてもあまり驚かないが。
 一方で、コンテナの外壁に背を預けるような形で立っていた彼岸会 空観(p3p007169)が小さく手を上げる。
 グレーのビジネスライクなパンツスーツに身を包み、赤いネクタイをして髪はピンでとめている。長い釣り竿ケースを肩に担いでいるせいでみょうにちぐはぐだが、スーツのジャケットが(胸元のサイズ差のせいで)キツイのかボタンをはずして胸をはだけているせいでなんだか色々はぐらかされていた。
「つまるところ、紫電さんを模倣した兵器群ということで宜しいのでしょうか。私には兵器とヒトの違いがよくわかりませんが……」
 他の世界ではともかく、ここ混沌世界での線引きは案外明確だ。世界が肯定したかどうかで、人かどうかが変わるのだ。たとえ肉を持ち手足があり人語を解しても、精霊と精霊種が決定的に異なるように、機械と秘宝種はどこまで近似(あるいは交差)していても決定的に異なるのだ。
 そしてそうした問題を脇に置いて、哲学的な『ヒト』を考えたとしても。
「せめて彼女らの生まれた意味が少しでもある様に」
 と、空観は小さく呟いた。
「誰かにそう望まれて生み出されたのだとしても。人を傷つけ命を奪うのであれば破壊する」
 つぶやきに応えるかのように、姿を見せる影がある。
「どうやら、メンバーは揃ったようだね」
 『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)。シックなグレーのコートを着ていたオニキスはそれを豪快に脱ぎ捨て、空にライフル型マジカルステッキを掲げた。
 戦闘態勢に入るのは早いのでは? と経験の浅い者は思ったかもしれない。
 が、この場にそんな人間はいなかった。
 誰もが気付き、誰もが備え、そしてオニキスの変身シークエンスが完了した頃には全員が武器をとり陣形を完成させていた。
 そう。もう始まっているのだ。
 パスン――という渇いた音と共にコンテナが真っ二つに切断される。
 その向こうから紫電贋作・天ノ型『カガリ』が、その反対側のコンテナを飛び越えるように紫電贋作・海ノ型『シズク』が出現。イレギュラーズたちを取り囲んだのである。
「裏にある、企みごと、必ず潰す。踏みにじられる命を守るために」


 ピッ――と親指で弾くような動き一つで釣り竿用バッグが真っ二つに割れ、内からひとつの錫杖が飛び出した。肩にかけていたバッグをするりと外し、後ろに靡く髪をそのままに錫杖をつかんだ空観は『カガリ』による右側からの斬撃を受け止めた。狙いは正確に首。止めたとはいってもはしった衝撃は強引に空観の腕を押し、そのまま首筋へとねじこむように刃がせまる。このままでは話にならないと察したのか、空観は衝撃を逃がすように地を蹴った。
 なかば放置されていたキューブ状の木箱に激突し地を転がるが、すぐに体勢をたてなおして錫杖から剣を抜き放った。
 そんな彼女に追撃――が入る直前、カガリの足元へ機関銃による射撃が浴びせられた。直撃を受けつつもすぐに飛び退くカガリ。ふと空観が振り返ると、コンテナの上からハイデマリーがやけに厳めしい機関銃を構えて立っていた。
 彼女の左目が奇妙にきらりと光り、周囲に視線を巡らせている。
「巧妙に囲まれています。こちらに『混じる』つもりのようでありますな」
 自チームが範囲攻撃を主体としないとき、キッパリ右だ左だに分かれず相手の集団に入り混じってしまうほうが効率がよい。
 空観もやりにくそうにまぶたを僅かにぴくりとさせ、ハイデマリーもハイデマリーで割りダメージや被害を切った陣形を要求された事実に不機嫌さを露わにした。具体的には、唇をムッと突き出した。
「暫くは攻撃の命中効率よりも『オールハンデッド』の付与効率を優先しましょう。不本意です――がっ」
 凄まじい速度でコンテナを駆け上がってきたカガリがハイデマリーの背後に迫るが、ハイデマリーは思い切ってコンテナからダイブ。
 落ちてきたハイデマリーをマニエラが片腕でキャッチすると、追いかけてダイブしてきたカガリの斬撃を魔術障壁を展開することで防御した。
 いや、防御しきったわけではない。ガラスを割るかのように破壊された障壁を抜け、刀がマニエラの腕を貫いて止まる。いや、止めたというほうが正しい。
 わざと腕を貫かせたマニエラは至近距離から畳んだ護戦扇『陽玉裏』を相手の顔面に叩きつけた。アイスピックで氷を砕くかのようなフォームである。
 どうやら防御には優れていないようで、カガリは顔面を破壊され地面をごろごろと転がった。
 起き上がったカガリの頭部は、機械のパーツがむき出しとなりパチパチと青いスパークが漏れている。
「作戦通りにやれそうでありますか?」
 腕から早々に解放されていたハイデマリーが機関銃を乱射しながら問いかけると、マニエラが左右非対称な顔をした。
「武器商人が『何秒もつか』次第だな」
 腕にささった剣を抜いて舌打ちするマニエラ。治癒魔法の使い手は今回のメンバーにはいない。耐久戦闘には向いてないのだ。その分だけ紫電や秋奈といった火力に優れるメンバーが大半を占めているので、こちらが敵の頭数を減らしきるのと武器商人が敵の猛攻を抑えきれなくなるのとどちらが先かという勝負になるだろう……と思われた。
「さっさと壊してしまう方が良さそうだ。ヒヒヒヒヒ!」
 武器商人は先ほどのカガリへと駆け寄ると『破滅の呼び声』を発動。
 影響下におかれたカガリが目の色をかえて武器商人に斬りかかり、無抵抗に見えるほど強烈に体力を削り取られていく。武器商人も相当な場数を踏んでいるイレギュラーズだが、そんな武器商人をもってしても圧倒されるほどカガリの攻撃性能が高いということだ。
 そしてより恐るべきは――。
「武器商人、気をつけて! この子達『自発的に』集まってますわ!」
 丁度カガリの剣と自身のメイスで撃ち合い状態に入っていたヴァレーリヤ。彼女を途中から急速に無視する形でカガリが武器商人へと襲いかかったのだ。つまるところ、武器商人を一秒でも早く無力化することに専念するつもりなのである。
 自分達の長所と短所を理解した上で割り切った戦術を立てられるというのは、戦う相手として非常に厄介なハナシだ。
 武器商人が放つ呼び声を『シズク』が逆手に握った刀で見えないオーラを弾くようにレジストするという形で庇いにはいり、その間にカガリによる最大威力の攻撃で武器商人の首を狙う。ローレットの初見殺しと恐れられた武器商人といえど、ここまで徹底的に攻められれば落とされるのも時間の問題だった。EXF戦術とパンドラによる致命傷の回避をあわせてなんとか二枚分の切り札で耐えきれるかどうか、といった所だろう。
「『シズク』タイプが敵戦術の要ですわ。減らしますわよ!」
 一方でその戦術意図を早々に察したヴァレーリヤは相手への射線を確保するために勢いを付けて走りコンテナの上へと素早くよじ登ると、両手でしっかりとメイスを握ったまま助走をつけて飛び上がった。
 海から吹く風とメイスから溢れる熱風が複雑な渦となり、ヴァレーリヤのコートを不思議にはためかせる。炎の茜色がヴァレーリヤの顔を正面から照らし、一瞬だけこちらを振り返るシズクと目が合う。
「ど――せい!」
 勢いよく叩き込んだヴァレーリヤのメイスを、逆手に握った刀で流すように受けるシズク。
 が、それでも強引に打ち込むのがヴァレーリヤの得意技である。流す力に対して知ったことかと言わんばかりの直線エネルギーによってシズクの顔半分を燃やした。
 更には殺しきれないエネルギーによって大きく身体が傾いたシズクに、オニキスが『マジカルゲレーテ・アハト』の狙いを付けた。
「どこかで見ているなら、覚えておくといいよ。お前たちが何を企んでいても、私たちが打ち砕く。必ず」
 発砲。魔力を伴って放たれた弾頭は傾いたシズクが防御しきれるような速度と威力ではなかった。
 腕に着弾。放射状に広がる破壊。貫通し更に胸。放射状の破壊。貫通していく弾。連鎖的に広がる崩壊。最後には無表情な頭部と無事な左腕と下半身だけを残してバラバラに散っていった。
「紫電、秋奈。急いで」
 オニキスがそう唱えるがはやいか、紫電は凄まじいスピードでもう一体のシズクめがけて突っ込んでいく。
「贋作でも自我が芽生えた例外は3人いる……が、それ以外のこいつらはただのの肉と血と機械の、"笑って死ねる兵士"だよ。戦神のコピーである偽神と同じく、な」
「にせがみってなんだっけ!?」
「五分前のことを忘れるな!」
 振り返り防御の姿勢をとったシズクの左右へ、紫電と秋奈はスライディング&スウェーという不自然なくらい器用な動きで回り込んだ。それも二人まったく同時に、シンメトリーに。
「しょーじき偽神とかなんとか財団とかよくわからんし分かる気もねーのよ」
 ニッと笑うと、秋奈は刀を繰り出した。
 ほぼ同時に刀を繰り出す紫電と交差するように走った斬撃は、シズクの防御をいとも簡単に突破してX字にボディを切断していった。
「斬れば殺せる。それでよくない?」
「秋奈……」
 紫電は喜怒哀楽の混ざったなんともいえない顔をした。偽神シリーズが特殊仕様で投入された時も、苦悩する自分とは裏はらに秋奈だけいつも通りだった気がする。それが、今は良い救いになる。
「やろう秋奈、こいつらの好き勝手にさせるか」
「そゆこと! 戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしない!」

 がくり、と膝をつく武器商人。
 しかし表情に焦りや苦しみの様子はない。どころか、勝利を確信した者の余裕が薄い笑みとしてあった。
「我(アタシ)を倒すのに、あと30秒早かったら、そっちの勝ち目もあったんだけれどねえ」
 ヒヒヒと笑う武器商人に最後の一撃を叩き込むカガリ――の首を、空観の剣が切り落とした。
「好い腕です。この様な場所で無暗に消費される事が勿体無い程に」
 後方から首を狙った斬撃。
 今度は受けることなく空観はかがみ、その動きによってジャケットのボタンがプチンとはずれた。ワイシャツのボタンもだ。
 が、構うことなく屈んだ姿勢から地を削るかのような勢いで長く無骨な刀を振り込んだ。
 踏み込んでいたカガリの片足を切断。
 刀を返し、大きく広がるジャケットを靡かせながら踏み込んだ空観はカガリの胴体までもを切断した。
 更に攻撃が――と思いきや、残った数体の『カガリ』タイプは剣を手にしたままきびすを返し、その場から走って撤退を始めたのである。
「どうする?」「どうします?」
 同時に聞いてきたのはハイデマリーとオニキス。ヴァレーリヤはそれまでため込んでいたパワーを解放するかのように、逃げ出すカガリのひとりへと狙いを付けた。
「逃がしませんわ!」
「「了解(ラージャ)」」
 ブンと振り込んだヴァレーリヤのメイスから放たれる太陽の如き炎。
 と同時に、ハイデマリーの機関銃がまるで巨大な重機で固定されたかのようにピタリと揺れがおさまり、『重機関銃による狙撃』という非人間的な射撃が行われた。
 一方でオニキスも腰のパーツから固定用の杭を放って体勢をキープすると、脚のキャタピラを前進状態にしながら『120mmマジカル迫撃砲凍結弾』をあろうことか連射した。
 すさまじい衝撃によって後ろに吹っ飛びそうになるが、それを無理矢理こらえる。
 カガリの一体が爆発でもしたかのように破壊され、もう一体がコンテナを飛び越えていく。
 次に聞こえたのはバイクのエンジン音だった。
「秋奈!」
「わーってる!」
 大型バイクへと飛び乗る紫電。その後ろに飛び乗ってぎゅっと両手でしがみつくようにする秋奈。
「前の車を追ってくれ」
「それタクシーで言うヤツな」
 走り出す紫電。マニエラは『やれやれ』という顔をすると、自分も大型バイクに飛び乗って走り出した。
 二人のバイクはカガリを両サイドから挟むように追いつき――直後、大量のミサイルが飛来した。
「うおっと!?」
 急速にカーブ。そして魔術障壁を展開しながらもバイクから飛び降り転がるマニエラ。
 激しい爆発のなかをバイクだけが滑っていく。
 秋奈たちも同じだったようで、バイクを離脱し地面を転がっていた。
「悪いけど、その機体は回収する必要があるんでね」
 声のした方を見ると、パチパチと電撃のような者を纏うロングコートの男が立っていた。
 彼を護衛するかのように、決戦仕様の偽神らしきシルエット群が見える。先ほどのミサイルは『ヘビーアーム』タイプによるものだろうか。
 その要素から秋奈は「室長?」とつぶやきかけたが、それを遮るように紫電が吠えた。
「やっぱりお前か、BBB(ベリウス)!」
 カガリはバイクをとめ、BBBと呼ばれた男と合流するかたちで背を向ける。
「袋小路の世界に来てしまって退屈するかと思ったけれど、存外楽しい世界(テーマパーク)じゃないか。遊び甲斐がある」
「てめえ……」
 敵意をむき出しにする紫電に対し、BBBは『焦るなよ』と背を向けて手を振った。
「イヤでもまた会うことになるよ。そういうカンケイだろう? 私はさ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 紫電贋作シリーズの出現はなくなり、警備会社からの依頼は達成されました。
 BBB及び贋作シリーズの行方は今のところ不明です……

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