PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狐には穴あり、鳥には塒、されども人の子には枕するところ無し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義において、ロウライトの後継者候補である者達が失踪し、あわせて保守派と革新派との対立が表面化したことをうけ、不穏な空気が漂い始めたある日のこと。スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)は自身の身の上のこともあり、天義の現状を憂慮する聖職者として(しかし策謀を弄する者ではないがために)国内の状況を見て歩き回っていた。そんな中、彼女へと近付いてくる少女の影。
 外見から見るにメイドであり、その足取りを見れば確り教育された者であることが窺える。
「スティア様、お久しぶりです」
「え、ヴェロニカさん? 久しぶり! どうしたの?」
「少々買い出しに。その折、スティア様を拝見しましたのでご挨拶にと」
 しゃなりとスカートをつまんで挨拶したその相手を、スティアはよく知っていた。そして、『買い物』に訪れるには実家からもかなり遠い場所であることも。だが、そのあたりを問い詰めることはしなかった。
「なぁにスティアちゃん。お家のメイドさん?」
「うん、ヴェロニカさんっていって凄く仕事ができる人なんだよ!」
「そんな、恐縮です。私など……」
 少女との会話に首を傾げたアーリア・スピリッツ (p3p004400)は、改めてその名を聞き、もしかしたら思い当たる節があったのかもしれない……ヴァークライト家の従者として、だが。
 彼女はヴェロニカ・シルヴェスト。侍女として気立てがよく社交性が高い少女という評判は嘘ではないようで、アーリアにもしゃなりと頭を下げた。
「スティア様、私は要件が残っておりますのでこれにて失礼します。アーリア様、スティア様と今後ともよしなに……お近づきの標しに、これを」
 ヴェロニカはそう言うと、リンゴの入った紙袋をひとつアーリアに押し付けるようにして渡し、静かに去っていく。
「忙しかったのかな……?」
「慌ただしかったわねぇ。……? 何かしら……?」
 アーリアは遠ざかっていくヴェロニカを見つつ、紙袋の中に手を突っ込んだ。かさり、という紙擦れの音にあわせて指先に触れたのは、書簡……だろうか? 蜜蝋が捺されているところを見るに、それなり重要な書類であることは明らかだ。そして、それはスティア宛だ。
『申し上げます、ローレット諸氏。これより天義のシールケにて、悪意あるテロルが起きようとしています。早急に阻止へと動いていただきたく――』
「え?! 何、この内容……!」
「穏やかじゃないわねぇ」
 二人はその内容に目を見開き、あわせて封入されていたことの次第と地図に記された赤い印の意味に気づき、胃液がせり上がる気分を覚えた。
 簡単にいえばテロが進行しているという報告書。これを彼女らに預けたのは、ローレットのフットワークと実力なくして解決できないということか。
 敵の名は『セフィロト』、そしてシールケの教会に逗留する一人の断罪者が、状況をより厄介なものとしていた。


「笑いながら死ぬとはな。企てごとを阻止されておいて、笑うなどと……理解し難い」
 血の付いた刃を振り払い、降りしきる雨の中で自身の懐をまさぐったシメイ・シュフォールはその手を止め、今しがた切り払った信徒のまぶたを下ろす。狂気的な笑みを貼り付けて、死ぬことすら織り込み済みの表情は不気味というほかはない。懐をまさぐると、翌日に控えたテロ決行予定の檄文。人々をできるだけ巻き込んでのものらしいが、こうも頭数を減らされてはどうにもなるまい。なにより、死体は全身ずぶ濡れ。どこに隠していても用を為すまい。
「革新派の犯行であるかのように小道具まで用意しているのはどうにも……そうだな、腹立たしい。この様子ではまだ余計な手勢が隠れているだろうが、掃討は無理か」
 シメイは苛立たしげに剣を納めると、教会へと歩き出す。翌日……翌日か。ここまで殺してきて、まだ隠れ潜むテロリストがいるのかと思うとため息も出るものだ。
 空を低く飛んで塒(ねぐら)へ戻る燕を目にし、彼は自嘲気味に笑う。
 自分はもう、石かなにかに枕し、寝る暇も捨ててこの国を脅かす不信心者を断罪して回ることしかできない。
 練達で物語られる聖職者のようだ、と考えながら。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 申し遅れました。私の名は、GMのふみの。

●成功条件
・セフィロト信徒(スイッチャー)の不殺確保(必須)
・セフィロト信徒(カウンター)の2/3以上の不殺確保(必須)
・セフィロト信徒(死体)から「スイッチボム」を回収する(オプション)

●今回のテロの仕組み(OP『ヴェロニカの書簡』の詳細情報)
・「スイッチャー」が首謀者格です。ですがセフィロト信徒の幹部「セフィラ」との直接接触があったわけではなく、倒しても然程情報は入りません。
・目的は天義都市『シールケ』の大規模破壊。そのために自分諸共自爆テロを敢行するつもりでいます。
・信徒は全員、心臓横に「スイッチボム」を有しており、これは心臓の鼓動と連動しています。停止(=死亡)のモニタリングは「スイッチャー」が持っているアイテムで確認できるようです。
・起動は『一定数のスイッチボムの停止』若しくは『スイッチャーの死亡』。どちらにしろ断罪すれば終わると思っている排除を目論む対象に対するカウンターとして最大効率で被害を拡大させる仕組みです。
・ですが、このうち結構な数を『シメイ・シュフォール』が暗殺して回っています。そのため開始時点でかなり詰んでいます。残った信徒たちをかき集めての特攻なのですから当然です。
・シメイはかなり殺意高く断罪を行っています。とある事件がきっかけで、過去より強硬な断罪装置として自分を規定しているためです。
・彼の説得は不可能なので、不殺でスピード勝負に出る、シメイを妨害して殺害させないなどの工夫が必要です。本来は味方側ですが、今回は障害物といっていいでしょう。

●セフィロト信徒(スイッチャー)
 今回のテロ集団のリーダー格。もともと何らかの地位にあったのでしょうが、セフィロトに傾倒するにあたり全て捨てているようです。ぶっちゃけSSか設定委託一本書けそうな業の深いヤツなんですけど今回のシナリオでほぼ人生詰むので脇におきます。
 彼が全体の生死をモニタリングしているため、誰が、かは兎も角仲間がテロ決行前に間引かれていることを知っています。
 戦闘手段は大口径2丁拳銃による銃弾格闘。強力な物理攻撃となる銃弾(装弾切り替えで色々なBSを撃ち込みます。変化サイクルは3ターンごと)とその射撃反動による格闘攻撃をメインにするため、『全ての遠距離・超遠攻撃に【カ至】が付随します』。
 基本性能はオンネリネンの子供達の体力が大幅に増強された程度の高さ。
 HPもそこそこあるのでそう簡単には死なないですが、注意が必要です。
 彼を確保しても総体として死亡者が多ければ大爆発不可避。

●セフィロト信徒(カウンター)×15
 一般信徒です。体力面はかなり増強されており連携も取れますが基本的にあまり強いとは言い難いです。一般人ですので。
 武器はナックルガード付きサーベル。

●シメイ・シュフォール(+爆弾回収ルール)
 もと、天義の騎士。現在は手当たり次第に天義の敵を断罪する断罪者。
 国の妨げになる者を討伐しながら天義の各地を彷徨し境界の手伝いをしながら裏で断罪を繰り返しています。
 『シールケ』に蔓延るテロリストの胎動にいち早く気付いた彼ですが、スイッチボムの特性を知らなかったため手当たり次第に殺して回っており、すべての死体はシールケの路地に散らばっています。
 本人は大剣遣いでありますが騎士としての戦闘経験により強さは相当な域にあります。1~2名張り付いてなんとか、ってレベル。
 これらの死体からのスイッチボム回収にあたる方は、戦闘開始前から行動開始していた扱いになります。探索能力や『肉体を刻んで的確にボタン型の爆弾を摘出する技能』(かなりの拡大解釈を許容します)がある場合スムーズに進みます。総数は不明ですが、フィーリング的にうまくやれていれば回収率はあがります。
 最悪の場合があっても一箇所の大爆発とか噴水がドカンとかならまだ被害は少ないでしょう。

●ヴェロニカ・シルヴェスト
 今回はOP冒頭にのみ登場となります。おおまかな死亡信徒のいち情報は彼女経由で把握しているものとします。

●フィールド
 町中です。
 彼らはやや散開気味に動き、一般人を盾にしたりもする可能性が高いです(そこまで頻繁ではないでしょうが)。
 十分注意の上で対処しましょう。

  • 狐には穴あり、鳥には塒、されども人の子には枕するところ無し完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
エア(p3p010085)
白虹の少女

リプレイ

●彼の心から雨は上がらず(2)
「止まりなさい!」
「――イレギュラーズ、か。かの戦役後、努めてこの国を正しく導こうという御方々にすら牙を剥いたと、風のうわさで耳にしたが……君達も『そのたぐい』なのか?」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の強い制止の声に、シメイ・シュフォールは腰に吊った剣の柄に手をやり問う。革新派の急進たる者達の勇み足に対して、幾度かローレットが介入したのは事実。だが、少なくとも彼女はそれに関わっていない。いないが、シメイの糾弾するような視線に心臓が縮み上がる想いがしたのは本当だ。無論、そんな心境をおくびにもださず艶やかに笑って見せるのが『いい女』の条件だ。
「オウ──てめえか。散々暴れ回ったバカ野郎は。てめえが余計な事してくれたお陰で、こっちはいい迷惑だぜ」
「…………! 成程、なかなか粗暴な、だが計算された技巧か。だが、『それしき』なら過去に幾らでも受けた、凌いだ。未だ脅威に能わず」
「なんで、敵意に躊躇がないの?! 私達のことが分かるなら、話を聞かない選択肢なんて無いじゃない!」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)の粗雑な一撃を鞘ごと受け止め、受け流す。衝撃は響き後退はすれど、その目は今の一合で、イレギュラーズを敵と認識した。その切替えが余りに早すぎる――彼のことを少なからず知っている者として、アーリアの目に深い当惑と哀れみの光が灯った。それを、シメイがどう思うかは別の話だ。
「手に手に爆薬を持ち、仕掛けて回るテロリストを殺す。この国の明日に必須であることを否定するなら、それはこの国への反目と捉える。当然の帰結だが」
「わかっちゃいねぇなあ! 天下御免の山賊サマ相手に悠長に明日を語ってんじゃねえよ! 今日も見えてない奴が!」

「相も変わらず、この国は策謀が絶えませんね。辟易しそうです。……生きながらこんなものを仕掛けられ、喜んで暴れまわるだなんて……」
「しかし……殺されているのはその報いを受けるべき人間とはいえいたたまれませんね……」
 『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は物静かな少女の仮面を貼り付け、機械的な所作で死体の胸部を切り裂いていく。一切の躊躇なく肋骨を折り、引き抜く動きは生かすためではなく解体するため、効率よく心臓を露出させるためのそれだ。生体には決して出来ない『解体手段』である。『あの夜に答えを』エア(p3p010085)は目を逸らさずその手さばきに視線を送り、そして周囲の人々から助けを求める声を拾い上げようとする。刻一刻と動く状況下で、セフィロトの信徒の死体が路傍に当たり前のように転がっている状況は見ていて気持ちのいいものではない。
 しかし、解体することで思惑を察知できるのであればそれは必要な行為で、得るべき無駄であることは明らかだった。
「茄子子君の手際は惚れ惚れするね。これがくだんの爆弾か……考えたものだね、彼等も」
 『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は茄子子が摘出した爆弾をしげしげと眺め、その作りに舌打ちを漏らした。
 爆弾の構造は未知の遠隔操作機構をベースにしつつ、油紙で何重にも巻きつけることで降雨や体液での不活性化を防いでいる。それでありながら、爆薬は直接の点火、引火を容易にしているタイプ……威力は不明ながら、大いなる悪意を感じさせる出来だった。
「除去はそう時間がかかりません。行動中の信徒優先ですが、見つけられるなら油紙を外して噴水に投げ入れたほうが効率的でしょう」
「表通りが少々騒がしい。先にそちらの処理と行こうじゃないか」
 茄子子は爆弾から油紙を剥ぎ取ると、噴水に投げ入れるべく手に取り立ち上がった。瞬間、強い思念を嗅ぎ取ったエアと不穏な動きを察知した愛無が同じ方に視線を向け、足を撓めた。
 多分に暗殺者ではなく、テロリストの方だ。道に躍り出た彼女らを待ち受けていたのは、怒りに顔を歪めた男達の姿であった。

●地獄の炎に身を焚べて
「保守派と革新派の対立、それにテロ……お互いが争いあっているのか、第三者が対立を煽るつもりなのかわからないけど、被害を被るのはいつも無関係な人達なんだ」
「アドラステイアとは別口のようだけれど、この国の平穏を望まない者は……存外に多いようね」
「まちなかで爆発……ダメだよ、まとめやくの人をみつけないとだし、シメイって人をとめないと……あとは……!」
 『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は期せずして得ることの出来た情報に動揺を隠せないが、見逃せば無辜の民に被害が及ぶという事実を何より避けたいと願っていた。『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)や『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は『セフィロト』のあまりに性急なことの進め方に嫌悪すら懐きながら、人々の保護を最優先に行動を開始する。爆弾を身に宿す信徒、その主導者で起爆役の人物の確保……スティアの祈りが空に届く可能性は如何程か、シメイを足止めできるや否や。
 ある種、責任重大なのはグドルフとアーリアであるが、市街地を制圧できなければその努力も無に帰すことになる。
「……! あれだね、信徒達は。銃を持っていないから一般信徒!」
「そこの者! 好き放題出来ると思うな!」
 スティアが使い魔越しに信徒の姿を見咎めると、路地裏を利用し3名は包囲するように回り込み、真正面から舞花が挑みかかる。咄嗟にサーベルを抜いた男は、背後から迫るリュコスを認識できない。畢竟、その不意打ちは見事過ぎる程に見事に決まり、膝を屈すこととなった。……本当に一瞬の交戦だった。
「みんな! この人は危ないから離れて! 私達がなんとかするから!」
「家にいて、すこしまっていてほしい……!」
 スティアとリュコスが身振り手振りで必死に訴える姿は、その身から感じ取れる『神々しさ』により天義の人間の心をより強く打った様子。何かが起きていて、それを止めようとしている者が居る。人々は三々五々に散り、しかしパニックには至らなかったようだった。……至らなかったがゆえに、見えてくるものもある。
「ころさせないよ」
「チ……ッ!」
 リュコスは倒れた信徒目掛けて放たれた銃弾を自ら受け、いきおい下手人へと飛びかかる。その相手――『スイッチャー』は銃撃の反動で体を旋回させつつ地に伏し、リュコスの一撃の衝撃を最小限に抑えた。下部から打ち上げられた弾丸が、リュコスの顎先を掠める。
「見た所、貴方がリーダーですか。企みはもう御終い――覚悟なさい!」
 舞花は仲間すら殺すだろう、と踏んでいた。そしてそれは現実となった。驚くほど狙い通りに現れた彼にそう告げると、相手はにたりと笑みを浮かべる。
「俺が殺さなくても、物好きが好き放題やってんだ。今更遅いぜ」
「残念だけど、その『物好き』さんならもう頼りにできないよ」
 今まさに、仲間が戦っているんだから。
 スイッチャーの不敵な笑みに、歯を食いしばるようにスティアは告げた。
 仲間を信じているから。「


●命を殺さず、信念を殺す
「みなさん! 不正義を行う輩が現れました! 巻き込まれないためにも一刻も早く避難を! 繰り返します! 一刻も早く避難を!!」
「早々に逃げなければ、不正義の輩に巻き込まれてしまうぞ。扉を締めて隠れていたほうが、身のためだ」
 茄子子は高らかに声をあげ、人々に避難を促す。ただでさえ彼女の言葉は人の心を撫で、信じさせる力があるが……その言葉がより深く刻まれる錯覚を覚えるのは、恐らくエアによる補助あってだろう。愛無がいかにもおどろおどろしい者であるかのように脅しかけるのもまた、効果が有ると思われる。
「逃がすかよ! お前等には地獄に付き合ってもら――」
「大人しく投降しなさい! 貴方達には……生きて罪を償ってもらいますっ!」
 セフィロトの構成員がサーベルを市民の首に押し当てようとした刹那、エアの制止の声が飛ぶ。その声に弾かれたように(実際には、愛無の咆哮に打ち据えられて)顔を上げた構成員は、次の瞬間、大きく弾き飛ばされ地面に転がってしまっている。
「また後で迎えに来ます。そこで頭を冷やしておいてください」
「あとからの説明が大変ですが、犠牲者が減ったなら何よりです。お二方、次に向かいましょう。できれば、首魁捕縛にも助力を」
 周囲をクリアリングし、静かに二人に語りかける茄子子の姿に、愛無は少し不思議そうな視線を向けていた。……環境というのは随分と人を変えるものだなと。人ならざる愛無は興味を覚えた。

 舞花の操る鋒がスイッチャーの肩口目掛け突き出され、銃把で押し返される。射撃の反動で勢いづいた彼はしかし、それでも押し返せぬ威圧感に思わず後退。瞬間、手隙にしたスティアから放たれる神気閃光に目を細め、蹈鞴を踏み……リュコスの一撃が、ダメ押しにと突きこまれる。
「リーダーはおわり! ほかにも?」
「いましたが、全員無力化しました。……止めなければきっと、相互に殺し合っていたと思います」
「こわい……!」
 確認するように周囲を見回したリュコスに、舞花はぐったりと倒れた構成員集団を指差した。一歩間違っていれば、どのような終わりを迎えていたかわからない。
 問題があるとすれば、残る構成員を殺しかねないシメイを足止めできるか、全て終わったあとに如何に説明をするかだが……アーリアからのテレパスが届かない故に状況が掴めない。
 彼女たちは無事であろうか? 捕縛した者達が殺されれば、最早打つ手はないのだが――。

●彼の心から雨は上がらず(1)→(3)
「頼むわね、山賊ちゃ……ううん、グドルフさん」
「美女に言われちゃあ仕方ねえ。おれさま、張り切っちまうぜえ?ゲハハハ!」
 シメイとの接触より、やや遡り。三手に散開したなかでグドルフとアーリアは真っ先にシメイを探し出し、以てこれ以上の凶行を止めるべく動き出していた。
 お互いがお互いに対して向けた一瞬の視線の交錯に、互いに気づかないふりをした。互いに冗談めかした会話で塗り固めた『関係性』は、墓までもっていってもいい話だ。
 曲がり角で出くわした信徒は、グドルフが数度ぶん殴って気絶させた。
 アーリアが使い魔越しに仲間達の情報を集積し細かい迂回を繰り返す中、視界に転がり込んだ死体からグドルフは粗雑に的確に爆弾を引っ張り出した。「気持ち悪ィ!」と舌を出した彼の所作は、血塗れの状況にあって安堵させる滑稽さを感じさせた。
 だから、氷の花弁がシメイの眼前に迷い込んでもなんら驚くことでもなかった。多分、彼は話して分かってくれはしない、と知っていたからその目を隠して囁いた。
「こんなに派手に暴れて、もう教会に戻らないつもりなの!? これ以上殺せばシールケで大きな爆発が起きるのよ! ……証拠もあるのに!」
「死体を漁って得てきたのか……!? それとも謀るための口実か!」
「その辺にしとけよバカ野郎が。てめぇは女が悲鳴を上げてまで伝えたいことを無視して殺すタチか?」
 無造作に剣を振り、グドルフと打ち合うシメイの姿は狂気的ですらあった。だが、足元に転がった固形物に気付き足を止めた彼は、グドルフが追撃を不意に止めたことを察し、剣を下ろす。
「……油紙で巻いた、固形爆弾だと? こんな手の込んだ仕掛けを」
「分かるのね?」
「油紙で巻いて水気を殊更に避ける振りを見せ、過度に水に晒して終わったと安心させた上で起爆……も、可能というわけか。こんな――」
 アーリアは、シメイが手にした爆薬の状態を吟味し、見る間に顔が曇っていくのを見ていた。
 一箇所に爆薬を集めるのは得策かもしれない。だが、雨や水での不活性化が望めない粘土爆薬のたぐいに、油紙のフェイク。面倒極まりないそれに気付いた彼は、静かに立ち上がった。
「こちとら山賊サマだぜ。数えきれねえくれえ奪って殺したもんさ。おら、悪党が嫌いなんだろ。殺してみるか?」
「君達がこれを持っている意味を、私が見誤るとでも思ったのか――望むのであれば、そしてこの爆薬を悪しきことに使うのであれば、容赦はしないが。『過去に手を濡らした血』でのみ罪を語るというなら、私はとうに地獄に堕ちるか反転している」
「なら、これ以上ここで殺すのはやめて頂戴。教会に戻れるのに、手を取り合って助け合えるはずなのに、一人で罪を背負って石畳を枕にすることはなかったじゃない」
 シメイは剣を収め、踵を返す。
「ドブネズミでも枕にしてみろよ。潔癖は時として視野を狭める。そういうもんさ」
「……考えておこう」
「待って。……仲間が今、主犯を捕まえるところなの。全て終わってから、またこれからどうすればいいのか話しましょう」
 アーリアの声に振り返ったシメイの、酷く困惑した、悲しみすら感じ取れる顔を見て、彼女の心に僅かに重石が乗った気がした。でも彼女は最後まで、艶やかな笑みのままで。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 説得は成功しない公算だったのに……。

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