PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<13th retaliation>春凍

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 閉鎖された深緑内部へイレギュラーズたちが至ったのは、ほんの少し前のことになる。
 妖精郷アルヴィオンから道を辿り、アンテローゼ大聖堂へとたどり着いた一同は、そこに待ち受けていた魔種たちを退けることで拠点を確保した。
 ……確保した、までは良かったのだ。しかし深緑には『茨咎の呪い』という不可避の呪いが満ちており、活動範囲を否応なしに狭められる。大樹ファルカウへ至り、魔種たちを完全に叩きのめすには、呪いが重い足枷となるだろう。
「そのため、今は短期的な活動を繰り返している状況なんです」
 ギルドカウンターの上にちょんと乗ったひよこ――ブラウ(p3n000090)がイレギュラーズたちを見回す。そして足元の羊皮紙――深緑の大まかな地図だ――をたしたしと足で示した。
「アンテローゼ大聖堂はこの辺り、ファルカウの麓です。ここから近い集落を確保しに行ったり、住民を保護に行ったり……あちらもまだ大聖堂へ仕掛けてくるそうですので、それを追い払ったり。
 皆さんにはそういった活動に加わって頂きますね」
 不可避の呪いも、大聖堂内ではその気配を薄くする。危ないと思った時は大聖堂へ引き返せば良いだろう。
 しかし、敵はアンテローゼ大聖堂を奪い返そうとしている。大聖堂へ戻るにしても、敵を招いてしまわないよう注意が必要そうだ。



「……さっむ!!!!」
「こんな時期に雪なんて……」
 自身の体を抱きしめる『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。クルル・クラッセン(p3p009235)は白くなる吐息に眉を寄せ、大聖堂の外を見る。
 外の世界ではとうに春か来たというのに、アンテローゼ大聖堂周辺には雪が降っていた。酷く寒い空気は春を忘れてしまったかのように周囲を凍てつかせる。
 大聖堂内では事前の話で聞いていた通り、呪いの影響はないといって良い。大聖堂の地下にある灰の霊樹のおかげだろう。
 しかしこの外はそうもいかない。このまま刺客が現れないなら、聖葉――眠りにつく幻想種たちを助ける、貴重なアイテムだ――が用意でき次第、周囲の活動拠点を保護しにいくべきだろう。いつまでもここで足踏みしてはいられないのだ。
 そんなことをイレギュラーズたちで話し合っていると、不意に甲高い声が小さく届いた。
「大聖堂だ……!」
 はっと外を見れば、森の奥から小さな影がふらふらと飛んできている。その後ろから迫る大きな影も認めたイレギュラーズたちは一斉に飛び出した。
「手は出させないよ……!」
 寒さの中でもしぶとく生きる植物がシュルリと伸びる。それを矢に象ったクルルは走りながら追いかけているモンスターへつがえて打つが、他のモンスターがその腕を妖精へと伸ばした。
(間に合わない……!?)
 クルルも手を伸ばすが、あちらの方が早く届くことは分かりきっていて――しかし、モンスターの手は唐突に弾かれる。妖精に張られた結界のようなものがモンスターを拒んだのだ。
「――まさかこんなに寒いとは思わなかったよ」
 聞き覚えのある声に、雪上から妖精たちを拾い上げたクルルは踵を返しざま『彼』を見る。
「……援軍、って事でいいの?」
「微力ながらね。ここは俺たちの故郷なんだ」
 何もしないわけにはいかないさ――イヴェール・イフォラはシャルルの問いかけに微笑んだ。

GMコメント

●成功条件
 オーガの撃退、あるいは撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 新緑内部、アンテローゼ大聖堂付近です。雪が降っており、若干積もっています。また、酷く寒いです。
 先は木々が密集し、戻ればアンテローゼ大聖堂があります。大聖堂前は広いですが、エネミーが侵略してくる可能性もあるため、注意が必要です。

●エネミー
『怒赤の拳』オグル
 邪妖精の一種。赤肌の巨人。怒ったような顔をしています。全体的にムキムキで、腕から拳にかけて異常に膨張しています。
 攻撃力が抜きん出て高く、特に拳による打撃は直撃を避けるべきです。また、周囲に落ちているものを投擲することがあります。
 大雑把なところがあるようで、周囲の木々ごと薙ぎ倒したりします。そういったものに巻き込まれないようにも注意してください。

『悲青の眼』オグル
 邪妖精の一種。青肌の巨人。悲しそうな顔をしています。全体的にムキムキで、眼が後ろにもあります。
 命中回避に優れており、不意打ちを受けません。他の2体に比べれば比較的攻撃力は抑えめで初動も遅めですが、それでも十分に危険です。
 瞳からはBS効果のついた攻撃も予想されますが、現時点では不明です。

『厭黄の脚』オグル
 邪妖精の一種。黄肌の巨人。不機嫌そうな顔をしています。全体的にムキムキで、大腿部から下が特に発達しています。最もヒトに近い造形です。
 瞬発力が高く、脚による範囲攻撃を主としています。また、鋭い蹴り技による【恍惚】【ショック】等の攻撃も持っているようです。
 他の2体に比べれば防技が抑え目ですが、それを補ってなお余りある瞬発力に注意してください。

●NPC
・妖精×3
 アンテローゼ大聖堂へ逃げて来た妖精たち。イレギュラーズが拠点確保した事で周辺のモンスターも多少減ったようですが、逃げてくる道すがら見つかってしまったようです。
 『茨咎の呪い』の影響で半分寝かかっていますが、大聖堂内まで避難すればやがて目を覚ますと思われます。
 リプレイ初期はクルルさんが保護している想定です。

・イヴェール・イフォラ
 クルル・クラッセンさんの関係者。植物研究員いして樹木医であり、精霊魔法の使い手としても名高いです。
 精霊魔法にて攻撃・回復ともにそれなりの動きをします。
 イレギュラーズの指示があれば従います。また、『茨咎の呪い』の影響を受けます。

・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 ウォーカーの少女。もとは精霊であったらしく、寒さは苦手です。
 神秘系アタッカーとして皆様と共に戦います。イレギュラーズからの指示があれば従います。

●ご挨拶
 愁です。イヴェールさんが力を貸してくれるようです。
 妖精をモンスターたちに渡す事なく、追っ払ってしまいましょう!
 それでは、よろしくお願いいたします。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

  • <13th retaliation>春凍完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール

リプレイ


「君たちに及ばないとは思うけど、多少の援護は任せてくれ」
 そう告げた幻想種の男性――イヴェール・イフォラに『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は目をぱちりと瞬いて、それから口端に笑みを浮かべる。
 ラサからの迂回ルートを用いて彼がここまでやって来た理由は、彼自身が告げた通り故郷のためなのかもしれない。それでも『茨咎の呪い』がある以上、内部へ訪れることを躊躇わなかったわけではなかろうに。
(もっと別の理由があるのかもしれない……でも)
 精霊魔法の使い手として名高いくせに、なにが『多少の援護』か。折角来てくれたのなら、ここはその実力を思いきり発揮してもらわなければ。
「あのお客さんたち、帰ってはくれないみたいですねぇ」
 働き者ですこと、と『返の風』ゼファー(p3p007625)が得物を構える。アンテローゼ大聖堂を奪還せんとうろつくモンスターはこのオグルたちばかりではない。
「商売繁盛でありがたことですけど、働きすぎってのは考え物よ?

 ――ねえ、アンタらもそう思わない?」
 ゼファーがオグルたちの懐へ飛び込み、うっそりと笑う。しかし彼女1人で3体全てを押さえ続けるのは至難の業だ。流れるように『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)もゼファーの後に続いて駆け出していく。
「なんか……ええと、信号機? みたいだね」
 ヒィロはむむんと小さく唸った。信号機にまつわることわざを聞いたことがあったと思うのだが――青進め、黄色当然、赤勝負?
「あの信号鬼たちに当て嵌めるなら、赤を止めれば青と黄はぶっ殺したも同然、ってことだ!」
「うーん……ちょっと違うかも?」
 苦笑いを浮かべる『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)。低空飛行を用いて並走する彼女にきょとんとした視線を向けて、そう? とヒィロは小首を傾げて見せた。
「まぁヤることは一緒でしょ?」
「うん。私とヒィロで封じ込めて……あわよくばそのまま倒そうか」
「ボクと美咲さんなら楽勝だよっ!」
 無邪気で人懐っこいヒィロも、敵を前にすれば好戦的な面が前に出る。明らかに自分たちより大きく、そして強力な敵に笑みを浮かべる彼女に美咲は頷いた。
(でも、あまり長引かせたくない)
 アンテローゼ大聖堂を飛び出してからずっと感じている重苦しい気配。『茨咎の呪い』と呼ばれるそれはじわじわとイレギュラーズたちを侵食し、がんじがらめにしていく。早いところ戦いを終わらせなければ、たとえ身軽なヒィロと言えども危険だ。
 それはあちらも同じ――と視線を巡らせたところでゼファーと視線が合う。そちらは任せた、というようにウィンクを投げた彼女へも頷くと、美咲は敵へ視線を戻してその魔眼に力を込めた。
「ほら、こっちだよ! 捕まえられるなら捕まえてごらん! アハハハ!」
 ヒィロはちょろちょろと赤肌の巨人の周辺を駆けまわり、巨人を煽り立てる。もともと怒り顔なので彼女の行動に腹を立てたかどうか、判断は難しいものの視線は彼女に向かっている。
 その死角から敵を視た美咲はここだと思った1点へ向けて強力な雷撃を叩きつけた。
「何だかカラフルで楽しそうね」
「楽しそうにしてくれたら気も紛れるんですけどねぇ」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)に肩を竦めるゼファー。怒ったり泣いたりとシケた面されていてはこちらも気分が落ち込んできそうだ。それに――思い通りにいくなどとは思っていないが、オグルたちは一筋縄ではいかない。
(妖精さん達が寝かかっているのなら、早く退治して離脱したいものね……私達も)
 じわりと侵食の気配を感じる。倒せなければ蹂躙されるだけだ。
 オグル2体を射線に入れながら、青肌のオグルへリーディングを仕掛けるフルール。当然ながら気づいたオグルがぐるんっと勢いよく首を回して彼女を凝視する。そして――フルールやクルル達に向かって走りだした。
 鳳凰が放つ炎を存外俊敏な身のこなしで回避するオグル。度重なればそれなりに肌も炙られようが、完全に燃やし尽くすにはまだ遠い。
「手は出させないって言ったでしょ? 妖精ちゃん達にも――皆にもね!」
 クルルの牽制射撃が容赦なく出鼻をくじき、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)とイヴェールの追撃がオグルの余裕を削いでいく。
(焦りも、不安も、心配もある。でも、まずは目の前のことから……この怪物たちをやっつけるところから!)
 感情の荒波に流されてしまったら、きっと何もできない。深緑を近い未来に取り戻すためにも、とクルルは静かに深呼吸する。その耳に小さな呻き声が届いた。
「うぅ……」
「ねむい……ねむいよぉ……」
 先ほど保護した妖精たちだ。眠りに抗うのはここへ辿り着くまでに集落の状態などを見てきたからか、それとも迫るオグル達の脅威に怯えているからだろうか。しかし深緑に満ちる呪いの気配は、彼らを容易くは逃がさない。
「大丈夫。ちょーっとだけ良い子にしててね!」
 安心させるように声をかけるクルルの前で、オグルを追いかけてきた一陣の風が敵の視線を奪い去る。ゼファーは挑発を重ねるように槍で空気を薙いで、掛かってこいと手招きした。
 黄肌のオグルも既にゼファーへ視線を向け、赤肌もオグルもどうにかヒィロと美咲で抑えている。妖精たちをアンテローゼ大聖堂まで連れて行くなら今のうちだ。
「シャルルちゃん、妖精ちゃん達のことお願いしていい?」
「わかった。なるべく早く戻ってくる」
 頷くシャルル。妖精を預かった彼女は真っすぐにアンテローゼ大聖堂の方へ向かって走り出した。イヴェールは横目でそれを見届ける。安全な場所となるとアンテローゼ大聖堂の内部になる。なるべくとは言えど、一瞬で戻ってくるようなことはない。
「戻って時には余裕な姿を見せたいものだね」
「そうだね。頼りにしてるよ、イヴェール!」
 大切な友人の言葉にイヴェールは笑みを浮かべた。ああ、君に頼られるなら責任は重大だ。何としてでも保たせてみせようではないか。
 彼の周囲を精霊たちが飛び回り、危害を加えようとするオグルに牙を剥く。そんな彼らは多少の寒さも苦にならないのだろうが、『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)といわしの群れはぶるりと体を振るわせた。
「いわしが凍っちゃうよ~! もう春なのに!」
「こうも寒いとやりきれないわね……」
 『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)も頷く。足を踏み出せばさく、という音と共に積もった雪に足跡が尽くし、肌を冷たい空気が刺していく。もー! と荒げたアンジュの声は吐息と共に白く染まった。
 『茨咎の呪い』がなくたって、こんな寒い所には長くいられない。今も助けを待っている人がいると思っても気になるものは気になるし、寒いものは寒いのだ。さっさと倒してしまおう!
「パパ! 辛気臭そうな顔を笑顔にしてあげよう!」
 いわし――パパの群れがアンジュの言葉に応える。その想いはどんな場所にだって、遥か遠い空に向かってだって届くのだ。
 後を追うように光輝の魔術がオグルへ向かって放たれる。笑顔にもならない様であれば、そんな表情を浮かべている者には退場してもらおう。
「いくよ! 大むっち砲!!」
 息を大きく吸った『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の口から、勢いよく緑の光線が発射される。青肌オグルの死角から放たれたそれに、黄肌のオグルは一瞬遅れて気づいたが逃れるにはやや遅い。
(でも、同じ手段はそう何度も使えないかな)
 彼らに多少の知性があれば、次はもっと早く気づいて逃げられるかもしれない。それでも今の――しかも、高威力の――一撃は、この戦闘において重要な一撃だ。
 戦う中で、クルルに保護された妖精たちの姿がなくなったことに気づいたか、オグルたちが視線を巡らせ、元々の獲物を探す素振りを見せる。それでもこちらを十分に苦戦させるだけの力量があるのだから末恐ろしい。
「折角保護できたんだもの、みすみす渡すわけがないでしょう? 手ぶらで帰ってもらうわよ」
 ルチアの魔術が自身へ加護を与え、オグルを縛り付ける。だが、彼らから感じるのは敵意ばかりで撤退の意思は見えない。
「帰らないなら……仕留めるよ!」
 クルルの弓から勢いよくヤドリギの矢が飛んでいく。彼女の目を以ってまさに『必殺必中』となったその一矢は、青肌のオグルさえも逃れられない。
 オグルは雄叫びをあげると、特徴的な瞳をかっと見開く。ずん、と体が重くなる気配にゼファーがはっとすると、すかさず黄肌のオグルが強烈な蹴りを放った。
 あわやで回避したゼファーだが、体の重さは消えない。それでも力強く跳躍し、残像が生じるほどの素早さで四方八方から黄肌のオグルを攻め立てる。
「随分不機嫌そうな顔じゃない? 人生楽しく生きたいならスマイルが一番よ」
 度重なり脚を傷つけられ、オグルの足元に赤黒くシミが残る。それでも苛烈に放たれる蹴り技に、巻き込まれたルチアは素早く半身を捻った。
 その空いた空間向けてムスティスラーフの大むっち砲が放たれる。青肌オグルはそれを避けた先で紅蓮の鳳凰を見た。
「それなりに身軽なようだけれど、」
 彼女の攻撃から、果たしてどれだけの者が逃れられるだろうか。彼女のそれは同時にとんでもない結果を招く可能性も秘めているが、それを上回るほどにラッキーガールだ。
「怪我した人は言ってね! いわしのいやしで絶対に倒れさせないから!」
 光り輝くいわしの群れが宙を泳いでいく。その美しさに痛みも忘れるほど――だが、そこへヒィロの鋭い声が飛んだ。
「みんな気をつけて! 木が倒れるよ!」
 はっと見れば、赤肌のオグルたちと交戦する方向からミシミシ音を立て、木々が折り重なっていくではないか。ドミノ倒しのようなそれの着地点から慌てて散開する。
「もうっ、こっちだってば! ちゃんとボクを殺しに来ないと、連れの青と黄色もやられちゃうよ?」
 ヒィロは赤肌のオグルに挑発的な視線を向ける。その視線を真っ向から受けたオグルは、徐に先ほど薙ぎ倒したばかりの木を――持ち上げた。
「大きいばかりじゃボクを殺すなんてできないけど? アハハッ」
 やれるものならやってみろ――そう言わんばかりのヒィロに向け、それは存外早いスピードで振り回された。横殴りにされた木の胴体がヒィロをかすめ、勢いを殺すことなく敵の背後から肉薄していた美咲をも吹っ飛ばす。
「っ、美咲さん!?」
「大丈夫……ちょっと痛かったけど、ね」
 受け身を取った美咲がすぐさま起き上がり、再び肉薄していく。ダメージはあるものの、一撃でどうにかなるようなものではなかったようだ。
 美咲は肉薄しながらも、すぐさま負傷という事象を切り離す。同時にヒィロの怒りもこもった挑発がオグルへ叩きつけられた。
(もう予備動作は覚えた。次は当たらないね)
 逃げなければならないタイミングさえわかればさほど難しい攻撃を行う敵ではない。その魔眼が導くままに猪鹿蝶で仕掛けていく。


 一方、妖精をアンテローゼ大聖堂へ連れて行ったシャルルも加わり、黄肌のオグルを制した仲間たちは青肌オグルと退治していた。かの瞳から受ける悪影響などなんてことないと、ムスティスラーフが前に立つ。
「イヴェール、いくよ」
「ああ」
 息の合った連携攻撃を重ねるクルルとイヴェール。追ってゼファーが急所となる部分を素早く貫かんと槍を振るう。モンスターであれど人型を模しているのだ。ならば急所の部位が似通っていてもおかしくない。
「それと、其の厄介な眼もサクッとぶっ潰そうかしらね?」
 連日連夜、こういったモンスターを撃退しているのだ。だというのにそんなイレギュラーズたちより余程悲しそうな顔をされるのは――腹が立つ、までいかなくとも気に障る。
(僕でもなんとかやれる……はず! あとは仲間の援護を信頼するんだ!)
 特別気を惹きつけるようなスキルは持っていなくとも、絶大な威力を放つ物が目の前にいれば視線は向く。それが自身に敵意を持っているなら、なおさら。
 ムスティスラーフは攻撃をある程度かわし、時に受け止め、その傷を攻撃の威力に乗せる。ここで眠るわけにも敗北するわけにもいかない。
「諦める方が楽かもしれない。……でも、辛くても起きてこの生を楽しみたいんだ」
 だから負けられない――ムスティスラーフを仕留めんとする一撃を持ち堪え、ルチアとアンジュのサンクチュアリが重なる。
「あとこっち任せていい!?」
「ええ。アンジュさんは向こうに!」
 ルチルに頷いたアンジュが駆けていった。それを横目に、ルチルはムスティスラーフと、他の仲間のダメージ度合いを見ながら攻守切り替えていく。
(後ろの目と正面の目。何か違いはあるの?)
 フルールは鳳凰を放ちながらもオグルを観察する。今のところ、悪影響を及ぼす攻撃は前後同タイミングで放っている。だが、そればかりとは限らないだろう。
 警戒と援護を強め、青肌のオグルに挑むイレギュラーズたち。それを見てヒィロと美咲はあともう少しかと気合を入れる。
「……倒し切れると思う?」
「うーん、どうだろう」
 平時と変わらない口調で言葉を交わして、コンビネーション良くオグルに立ち向かう2人。倒しきれないとしても、少しでも多くダメージを与えなければ。
「おまたせ!」
 クルルが勢いよく肉薄し近距離から矢を放ち、追って飛び込んできたゼファーの気が、急所へ向けて強く放たれる。もう余力を気にする必要はなく、注げるリソースを注ぎ込むだけだ。
「立派に鍛えた腕ですこと」
 他はそうでもないけれど、なんてゼファーは薄く笑みを浮かべる。
「都合の良いところばっかり鍛えるのは、軟弱ものの証拠よ!」
「これだけ鍛えてしまったら、バランスを取るのも大変ね」
 ルチアは光輝の魔術で縛る。瞬間、オグルの動きが止まった。すかさずフルールの放った紅のひと薙ぎがオグルへ食らいつく。
「ほらほらほら、もっとかかってきなよ!!」
 ひたすらに挑発をかけるヒィロ。テンポよく攻撃を繰り出した美咲は、見覚えのあるモーションにぱっと飛び退く。
「皆下がって!」
 振り回された大木は宙を薙ぎ。ムスティスラーフの閃光がそれ諸共オグルを飲み込む。
「まだ?」
「あともうちょっとだよ!」
 アンジュといわしの支えがイレギュラーズたちにあとひと押しの背中を押す。ゼファーはにっと笑みを浮かべて槍を力強く握る。
「一遍死んで、出直してらっしゃい!」
 その一撃は深くオグルの体へと突き刺さり、構えられていた拳もだらりと下がったのだった。



「――あの変なモンスターたち、これで懲りたかな?」
 アンジュは森の向こうへ目を凝らしてみるが、オグルたちの姿はもう見えない。
 赤肌のオグルが膝をついたことは、仲間たちにとってよほど衝撃なことだったのか。彼らは逃亡に全力を注いだのである。
 そもそもあれだけ戦っておいて死ななかったのか、とか。逃げるだけの力は残していたのか、とか。色々思うところはあれど、オグルたちもそう簡単に癒える傷でないことは確かだ。
「お疲れ様!」
 バーンと背中を叩かれたイヴェールはわっと声をあげて目を丸くする。しかし自身に笑いかけるクルルを見ると、その表情は笑みに変わった。
「怪我はない?」
「イヴェールこそ。あ、先に帰った方がいいかな?」
「うんうん! ずっとこんなとこにいたら風邪引いちゃうよ!」
 丁度ふわりと風が吹いて、アンジュはひゃーと悲鳴を上げながら自身の体を抱きしめる。動き回って暖かくなったと思われたが、あっという間に冷えてしまいそうだ。
「ちょっと疲れましたしね」
「妖精の様子も見に行こう」
 フルールが息を吐き、シャルルがアンテローゼ大聖堂の方角を見る。まだ呪いの気配は満ちている。急がねば途中で動けなくなってしまうかもしれない。
「そうだね、急ごう。妖精ちゃんたちも安心させてあげなくちゃ!」
 イレギュラーズたちは踵を返し、アンテローゼ大聖堂への道を進む。妖精たちが目覚めて喧しくなるまで、あともう少し。
 そしてファルカウへの進軍が始まる、わずか数日前のことであった。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 全体依頼に参加された方もいらっしゃると思いますが、引き続き深緑を取り戻すべく、頑張りましょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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