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シナリオ詳細

<13th retaliation>幸福であれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鐘の音が響く。
 お幸せにと誰かが言った。皆がそれを肯定した。
 あなたは今、バージンロードを歩いている。
 或いはそうして現れる誰かを待っている。
 もしかしたら神前式や、自分の世界にある風習における結婚式の最中なのかもしれない。
 ……それどころか、家族と一緒に新しい生活を送っている真っ只中なのではなかろうか?
 あなたは幸せだ。
 あなたは満たされている。
 あなたにこれ以上の幸福は訪れないかもしれない。
 満たされている。
 これ以上の幸福はすでに満たされた胃にものを詰め込むように、器に過剰に水を張るように、至らぬ事態を招いてしまうかもしれない。
 これが幸せだと思えないなら、私はきっと誤りがあるのだろう、この世界にいてはいけないのだろう。そう思ってしまい、自刃すらも思い至ってしまう。
 ――だが、その指先に光る指輪、或いはそれにかわる『愛の証』はあなたが望んだものであったか?
 ブーケに含まれた花は笑っていなかったか?
 料理に出た食品はどうしても食べられぬものではなかったか?
 いつもの、伴侶を送り出した玄関先は知っているものだったか?
 きっと、どこかに……そう、『違和感』があるはずだ。


 大樹ファルカウへの道は、猛吹雪によって封鎖されている。
 イレギュラーズ達はこの猛吹雪が折り重なる『眠りの呪い』によるものだという事実を、すでに体験した者達から学んでいた。そして、これに囚われれば逃げ出すことはできないということも。できるのは、『打開』のみである。
 ……が、おそらく今、あなた達はその事実すら忘れている。幸せな日々のなかにある。
 これを打破できるのは築き上げた絆、自らの中にある想いのみだろう。


 あなたの『ちょっとした違和感』に、伴侶たる人物は驚いたように首を傾げた。
 なんの不満があっただろうか?
 何か至らぬことをしただろうか。
 相手は満たされていると思う。そういう目をしていたはずだ。
 相手は求めていると思う。今手にできぬ幸せを、夢の中で叶えたと。
 でもそれでも、求め足りぬのなら、満たされたはずの器に穴が空いていたのであれば。
 いくらでもいくらでも取り替えよう。幸せだと何度でも理解させよう。
 だってここから、逃がす気などないのだから。

GMコメント

●成功条件
 『偽りのアナタ』を各個人が撃破する

●失敗条件(各個人)
 上記達成前に『偽りの祝福世界』を撃破してしまう。
 若しくは、戦闘状態に入る前に夢の世界に『過当に』『繰り返し』危害を加えようとする。
 以上を過半数が達成した場合、依頼失敗となる。

●偽りのアナタ
 夢の世界(後述)に現れる、それぞれの『伴侶』として結婚式を挙げる(ないし唐突に始まる婚姻生活の)相手です。なお、顔に関しては常にノイズが入っておりはっきりしておりません。ですが本来のあなた方であれば生理的に受け付けない相手であることは想像に難くありません。
 後述の条件を攻略しない限りは、この対象への攻撃ができません。
 条件をクリアする前に(思いこんでいない、そんなことはなかった、ぼっちだから理解できないなど、強制力に対し『PCとして』論理的でない理由で)攻撃意思をみせた場合、周辺の環境すべてが排除へ動きます。そのため、死ににくいとか反応が高いとか回避がとか、それら死を回避できる性能や優位を取れる性能、エネミーサーチなどの対応が『一切』通用しません。
 なぜなら相手はあなたにとって大事な人、周囲の環境は幸福へと誘う状況であり、なんら敵意なくあなたをその環境に起き続けるのはごく自然な行為だからです。
 なお、状況を打開したあとの『偽りのアナタ』は各個人にとって(多分)打倒するために最適化されており、かなり変動性の高い性能を有しています。
 総じて言えるのは『非常に性格の悪い戦い方をしてくる』こと。

●偽りの祝福世界×1
 世界そのものが敵です。
 周辺環境そのものが常に攻撃してくるためレンジの概念がなく反応で優位をとることができず、常に不意打ち特性のついた攻撃となります。
 逆説的に、どこからでも「祝福世界」に対し攻撃が当たるし、射程減衰の概念がないため考えようによっては『戦いやすい』敵です。
 が、耐久が高くても範囲ブンブンしたり貫通系を使うと強引に巻き込まれるため先んじて壊される可能性が向上します。

●夢の世界
 あなたは「結婚式の最中(披露宴あたりまでが対象)」か「結婚生活の只中」にあります。子供の有無に関しては任意とします。
 この相手は『偽りのアナタ』であり、あなた方の大切な人やタイプな人の記憶は一時的に完全に封じられます。
 あなた方はこの状況を心から幸せだと認識しており、この状況を打開する気にはなれません。この状況が一番幸せで、不幸という概念が無いように思えます。
 ですが、一見完全な世界であるはずのこの状況にも綻びは存在します。
 これは各個人の活性化感情における『重要度』(GM判断。悪いようにはしません)と『関わりの多彩さ』に比例して綻びが増えていきます。
 例えば「神前式でって二人で言ったじゃない! なんでチャペル式なの?」から「朝食がパンじゃない」などの、まあまあ二人の示し合わせが拒否られてイラァッテする内容です。
 そんな関係ねえよ! って人が万が一受かっちゃったらその時は「私の理想の白馬の王子様は(ここから延々と3高要求が始まり……)じゃないからお前は違う」とか「あの友達が参列してねえんだよク〇が」という感じで掘り下げていきましょう。
 それも掘り下げることが出来ない場合割と真面目に上記に書いた通り無理くり脱出しようとしてえらい目に遭うんじゃないかなって思います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>幸福であれ完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
倉庫マン(p3p009901)
与え続ける
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

リプレイ

●ただ幸せであれば
「嗚呼、私の妻ジャネット。貴方と再会するため深緑に参りました。愛しい貴方の為なら吹雪なんて――」
 『悲劇愛好家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)は仲間達と吹雪の中へ踏み出し、愛すべき者の記憶を頼りに前へ進んだ。が、数歩進んだ時点で崩れ落ち、顔を雪中に突っ伏す。仲間達もまた、前後の差こそあれど次々吹雪の中に崩れ落ち、何れもが夢の世界へといざなわれている。
 我が妻、■ャネッ■……■■ネ■■……。
 薄れていく実感の先、彼に見えているのはただただ幸せな世界だったことは確かである。
 そして自分が何をすべきか、誰を求めているかではなく、『何が幸せか』に塗り替えられていく。
――人物メモリーに深刻な欠落エラーを確認…原因特定不能…人物メモリーの情報制度をEと仮定、対処として他のメモリーによる補正を推奨。
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の脳裏に流れ込む無機質な声は、その思考に重篤な障害が生まれ始めていることを意味していた。それが一時的なものか、恒常的なものかは定かではない。薄れていく『彼女』の記憶を前に、抗う気力は不思議と湧いては来なかった。
 誰にとっての幸せか、ではない。誰かの幸せ、ではない。
 『誰にとっても幸せなのだ』という、ただただ歪んだ常識の改変が行われていく。それが正しいと刷り込まれていく。
 溶け込んでいく。


(幸せがそこにあるなら、今はそれでいい。幸せになる資格なんて無いと思ってたから)
 『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)は今、プライドや嫌悪や敵意などをすべて吐き出し、代わりに詰め込まれた幸福に静かに身をおいていた。綿帽子に合うよう髪を結い上げ、おとなしい化粧を整え、神への誓詞をあげる傍らの誰かをちらりと見た。ノイズまみれで良くは見えないけれど――大事なひと。
 周囲から、結婚するなんてと驚かれた。
 人並みの幸せを求める相手を驚き、受け容れた『あなた』は傍で幸せに生きればいいと言ってくれたのだ。それは満たされている。理解できる。
 再現性東京や『日本』などの律に則った神前式が執り行われる現状は、見知っていても瑠々には遠い世界のように感じられた。神前式でよかったのだろうか。チャペルでブーケトスを求めた気もしたが……。
(そういえば、師匠も、エドもエアもいない。一人くらいは来てくれるもんかと思ってたけど、そんなもんか。所詮私が一人で師弟だの友達だの思ってただけ)
 深い仲だった者達。先程まで歯抜けになっていた記憶に急激に戻ってきた『他人』に驚きを覚えつつも、彼方此方にノイズがかかった参列者には見知った顔はいなかった。
 ――血反吐塗れのプライドを思い出せ。そんな幸せはいらない。
 脳裏に閃いた自分の声に瑠々は戸惑いを覚える。幸せだ。幸せだ。継ぎ接ぎだらけの幸福でも、幸せなことに変わりない。
「ウチが、幸せ、か」
 思考を外側から支配しようとする幸福の気配に、彼女は吐き気を覚えた。同時になだれ込む感情の本流。晴れていくノイズの中、晴れないノイズは脳が『相容れない』と警鐘を鳴らす。
 こいつは、嫌いだ。

「俺もそうやって鍛えられた。お前たちも将来、女連中を守れるように強くなれよ」
 『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は傍らの妻とともに、狩りに立ち向かう子等の姿を見ていた。失敗しながら覚えていく。幾度となく倒れて強くなる。そうやって狩りを覚える野生は、自分の血を継いだ相手だ。
 控える妻の慎ましさは、彼をして満たされた幸福を感じさせる。慎ましい、か。何故か違和感を覚えた思考を幸福が上書きする。愛すべき妻、愛すべき子、進んでいく未来になんの違和感があるというのだ。
「俺なんかが父親なぁ……」
 俺なんかが? 『なんか』なんて似合わない。今までも、これからも、満たされてきたじゃないか。
 ……満たされる? 誰かに与えられて? そもそも俺は親父に狩りを教えてもらったことなんざあったか?
 ルナの思考にノイズが走る。与えられたものは、舞踊や唄や。それらは全て女のものではなかっただろうか? じゃあ今、自分はどういった例を以て与えているのだろうか?
「なぁ、お前はこいつらの狩り、どうしたらよりよくなると思う」
 遠くの子等を見た。顔のノイズが晴れない。
 近くでわからない、と。すべて任せる、と。我関せずを貫こうとする『妻』の姿。自分と同じ獣種であろうに、ラサの者であろうになんだこの慎ましさは。
 求めていた答えにいつまでも辿り着かない、堂々巡りをさせられているような。
 ……否。
 結論はもう出ていたのだ。添え物のような無機質感を以て傍らに寄り添う相手など反吐が出る。
「てめぇ、誰だ」

(俺が作ったドレス、秋雫の月とブルーリボンと蓮の花の指輪。華奢な精霊、ピンク色の……髪の)
 矛盾はない。何もかも矛盾はない。いま幸せな結婚式に身を置いている。サイズは幸せているのだから、どうしようもないのだと。
 これは、サイズが作った理想ではない。サイズが望む心を反映したもの。だから彼の本心とは異なるもの。異なるはず。
 だというのに矛盾を矛盾として拭い去れない。さんざめく思考の渦と頭痛の整合性が取れない。
「……違う」
 二人で幸せになろう。
「違う」
 人間大のリボンと妖精の指輪を付けた人形。二人。では、ない。
「違う! お前は偽物だ!」
 
「朝食は私がお作りしますよ。愛されるよりも愛したい、尽くされるより尽くしたいタイプですから」
 甘えたで、誠実。守ってあげたくなるタイプの、か弱く小さい私の妻。
 尽くすことで救われる。与えることで実感できる愛。
 支度を整えながら、朝食のあとを考える。眼鏡屋に赴き、夫婦の『店』で他愛もない話をして過ごす。
 創作話を始めよう。彼女は黙って喜んで聞いてくれるだろうから。
「こんな創作話はいかがです? 巨人がね、麦わらでストローを作ってピューピュー吹くんです。その音に誘われてやって来た巨大ネズミを、巨人がストローで啜るものですから、私は……」
 『私は』?
 突如として生まれた違和感に、クロサイトは目を見開く。創作なのだから当たり前、『私』がいたって問題ない。
 私は。……私は巨人と戦った事がある。
 胸にしまい込んでいた赤い札を取り出し、彼は何度か頭を振った。
「どうしたの? もっと話を聞かせてほしいわ」
 忘れかけている、思い出せないそのお話を。

(愛する人との結婚生活……これを超える幸せがこの世にありましょうか?)
 教会でブラザーを務める『彼』が、己を後ろからかき抱く。『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)の心に温かい思念が広がり、更に内側から冷たい『本心』が這い上がる。
(でも平凡ながらも幸せな日々で、結婚式はあんなにたくさんの友人達が)
 愛を、教会を、聖職者を友だちを『平凡』を、何もかもをも。
 嫌っている自分に『当たり前』と押し付けていたというのか。
 嫌っている――或いは『向き合えない』ものを、正道であると。嘘で糊塗して金を巻き上げ、金貨の重みを誠意の重みと嘯く聖職者に、『平凡』を知らぬ者が『愛』を説く。
 なるほどなるほど、つまりこれは。
「神の言葉と偽りながら平凡な家庭に詐欺を働く輩とか。わたくしが一番キライなタイプだったことを思い出しました」
 ライはザラザラとビタミン剤を取り出すと、残らず口へ流し込んだ。噛み砕くように嚥下しつつ持ち上げたロザリオの端部には、螺旋を描く孔が見え。

(こんなボクでも良いと貴方は言ってくれた。受け入れて、抱き締めてくれた。……人とは、こんなにあたたかいものだったのですね)
 『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)は記念日のために傍らを歩く男性に、心からの感謝を想った。汎ゆる奇跡を詰め込んだ一瞬が此処にあるのなら、ボクはしあわせになれるのだろうと。
 人のぬくもりを改めて実感し、心を動かされる。その、温もりを知っているはずなのに。
「……おや、ここは……人でごった返した……市場ですか……?」
 記念日にでかけた二人の場所は、しかし静かではない人混み、雑多で清潔感のない場所。
「……えっ、こんな可愛らしい服を、着て欲しい……ですって?」
 その希望とのミスマッチが、彼のプレゼントのための誠意なら。まだ許しようがあっただろう。
 だが、手にした服が自分の好みとは何一つ合致しないことを、彼は知らない。知っていて、無視しているのだろうか? 彼は、自分を受け入れた……否、諸々の違和感を飲み込んで愛を囁いたのはどちらだろうか?
 ボクから? 馬鹿な。遠ざけようとしたぬくもりを求めに行く矛盾があってはならない。ならば全て、これは嘘なのか。

『こうして結婚出来るなんて、とても嬉しいわ』
「ええ。貴方に喜んで貰えるなら、私も幸せです」
 『良かれと思って』倉庫マン(p3p009901)は『目の前に敷かれた』幸福への道を享受していた。喜んで貰えるなら、それで幸福だ。
『好きな物沢山用意したから遠慮なく食べてね』
 並べられた食べ物は好物ばかり。食べても食べても湧いてくるかのような幸福の渦に、思わずこみ上げるものがある。
 尤も、それは――幸福ではなく、胃酸なのかもしれないが。
『泣かせたら承知しねぇぞ』
『何かあったら相談しろよ、親友』
『いつでも貴方の味方だからね』
「有難うござい……いや、何を私は、受け取ってばかりいるんだ」
 友人たち、無償の友情を。与えてくれる相手。
 無償で。与えてくる。こちらから何も返せぬままで。
『……あなた?』

「そう、吾が■■を土蔵に閉じ込めてしまうのも幸せな事」
 ……咲花の家は好きな男を達磨にして監禁して姉妹たちで共有する事で栄えてきた。
 幸福な気持ちが溢れる胸に、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は心からの喜びを覚えた。■■も喜んでいる。受け容れている。
 受け容れてもらえて嬉しい。そう、いつかみた歌劇は語っていた。受容は大事だ。虚ろな目で笑って見えた。終わらず続いた血統は、美少女の優秀さを物語るに最も好ましい指標である。
 だからこそ、百合子は生徒会長であることができた。
「ほら、吾の姉妹たちもやって来た。彼女たちもまた■■を受け容れくれるなんてしあわせなんだろう」
 だから■■も受け容れてほしいと……願って……。
「――受け容れるなバカ!!!!」


 ――唱えるのは幸せの祝詞じゃない。怒りの呪詛だ。
「君はここで磨り潰すしかないらしい」
「ウチの幸せをお前が決めるな」
 ノイズまみれの顔で、両手に術殺しのオーラを生み出し歩いてくる相手に突きこんだ赤旗は正面から受け止められ、お返しとばかりに強烈な拳が飛んでくる。女の顔を殴るなど正気の沙汰ではない。増して『伴侶』を。
 上等だ。二本の赤旗を振るい乱れ暴れる瑠々は護りに術を割く愚を捨てた。割り壊されるそれは無意味、今できるのは、十回倒されるうちに一回相手を倒すだけ。簡単な理屈すぎて血反吐を吐く。
 これでいい。すべてかなぐり捨てて打ち込むプライドの一撃が、少しずつ確かな自分を、形を取り戻す感覚を待っていた。運命の輪を砕かれても止まらない。5度目にして殺意を全面に出した拳に打ち据えられ、それでもノータイムで立ち上がった姿は異常だろうか?
「知るか。これがウチだ」

(こいつぁやべぇ)
 『息子だったもの』がいた方角から射たれた矢は、迷いなくルナの死角からその急所を狙ってきていた。
 その場には既に人影がない。なんなれば、固定砲台の如きボウガン台があるではないか。
「狩りをどう思うか、でしたか。私が口にしなかった理由はこれでお分かりいただけますか?」
「さっぱり分からねぇ。自分の気持ちすら伏せるような女が口を開いたってロクなもんじゃねえんだろうよ」
 ルナのその言葉に、挑戦的だった女は不機嫌そうに押し黙った。速度と機動力にものを言わせ突貫してきた彼の目元に鏃がつきつけられ、逃げるより速く弦が放たれた。目尻についた傷が一筋。圧倒的優位から距離を取れる筈の彼を狙い撃った、つまり反撃前提の立ち回りということか。だとしたら――次に撃つ前に仕留めるしかない!

「破壊する。壊れろ! ……壊れろ!」
 サイズは歪な妖精へ向け、繰り返し鎌を振り下ろす。
 自らの意思を改竄し、あろうことか過去の記憶を掘り返し、悲恋の妖精たるサイズのあり方を奪い取ろうとした。
 このあいては二重三重にサイズの逆鱗に触れたのだ。だからこそ許されない。
「壊れろぉっ!」
「あなたの理想の一部なのに?」
 ぬるりと間合いに踏み込んできた『ピンク髪の妖精』は、目元のみをノイズにまみれたままでサイズに迫った。
 四方から襲いかかる刃を受け止め、一歩引いたサイズ目掛け妖精は小さい体で苛烈な一撃を叩き込んだ。
 適度に躱せて守れるなら、それらを叩き潰す大出力を。
 一点に集中させた技で、叩き潰す。心を折る。
「理想なんかじゃない、俺が望んでいるのは……両手に花を望んだ、刺されても文句言えない、強欲の告白だ!」

「よくも私の愛を奪おうとしましたね」
「いいえ、あなたが求めてきただけ。私は受け止めただけよ」
 戯言をすらすらと。幻如きが偉そうに。
 赤札を握ったクロサイトが凍気でもって動きを止めようとする姿を笑いながら、『それ』は炎で彼の周囲を囲い込む。
 炎の壁から飛んでくる炎の剣は、なるほど威力が高く、正確に魔力を削り取る脅威を秘めている。だからどうしたというのだろう。
「彼女のいない世界に価値はない!」
 『炎を凍らせ』、唖然とする女の頬面に凍気を叩き込む。
 多彩な手管? 魔力を奪う剣? だからなんだというのか。
 すべてすべて、氷漬けの身から出せるものか。

「どうか、あなたの『心』へ届きますように。 どうか、あなたの『胸』を打ちますように」
 ひゅうっと吸った息が、嘘とともに吐き出される。
 弾丸が次々と男に突き刺さり、穿つ。この祈りが届くということは、それだけの消耗を被って居るということか。あんな、戯言に。
「とても思い切りのいい祈りだ。感動するよ。だが無意味だ」
 鋒のない剣、エクスキューショナーズソード。大上段から首目掛け振り下ろされたそれは、彼女の祈りを何倍も悪趣味にしたかのような一撃だった。
 体力を奪われ、思考が削り取られてなお叩き込める反逆の一撃。真似事とはまた、味なことを。
 だが、聖職者の男は常に正しいがゆえに間違いを犯した。嘘で塗り固めた自分を以て、誤った。
 『相手は命を身代にして尚お前の首を取りに来るぞ』という果のないギャンブラーの思想。それを見誤った。

 刃を持ち上げ、振り下ろす。削る、切り裂く、命を止める。
 ただそれだけのためにチェレンチィは刃を振るう。
 すべての矛盾に刃を突き立て、怒りも憎しみもないまま終わらせにかかる。
 速度に任せ、何度も何度も。
 何もかもが嘘っぱちな『それ』は声すら発する機能を持たない。されど、空振った刃を打ち上げられ、隙をついで急所打ちを制した動きは尋常のものではない。
 避け得た速度だった。当てられる動きだった。だというのに、周囲に撒き散らされた呪いが運命の輪転を左に回す。
 不幸であればよい。それが正義で、間違いのないものだ。
「冗談ではないです」
 不幸を求める相手など、最初からいらなかったのだ。

「私は与えたいのです。一方的に与えられればそれでいい……それがいいのです」
 気に入らなかった、大事ではなかった、そうではない。
 そんなものは、最初から、なかった。
 与えることを求め続けてきた自分に与えられるのは、自分自身による『自己満足』だけなのだ。
 与えるのではなく求めてほしかった。与えてくれるだけの関係なんていらなかった。ただ自分が与えたいだけのエゴを、鏡写しにされるとこんなに気に入らないのか。
「依頼達成をお届けするため、あなたに悪夢をお届けします」
 何ら矛盾していない。仲間達に笑顔をお届けすることが、自分の役割であり。目の前の相手はその障害なのだから。

「っていうか皆、全然誰にも似とらぬではないか」
 幸せな幻想は、本人の知識と願いがゆえに。百合子のそれは、歪でこそあれ『正しい』行いだったのだろう。
 だが、美少女達の世界では? この地に降り立っていた葉合・ヒビスはどうであった?
 己の命が危ないというのにチャラ国に、愛すべきチャラ男達に付いたのだ。ならば歪は嘗ての吾ではないか。
「ゆくぞ、吾の手で全て壊してくれる。これこそは吾の意思。吾の幸せの為の事である」
 達磨となった『何か』へ、咲花の極意を叩き込む。一度では済ませない。何十発と叩き込むうち、彼女は拳の血を認識する。攻められ、達磨であっても抵抗し、あわよくば命をとりにくるか。
 何もかもが、許せないのに――その意気だけや、良し!

 最悪の夢が終わる。
 幸せに耽溺する惰弱がこの戦場を生き残れるはずがない。
 吹雪の終わりは、すぐそこだから。

成否

成功

MVP

倉庫マン(p3p009901)
与え続ける

状態異常

なし

あとがき

 これが全員分の歪な幸福……幸福で……あるぇ……?
 みたいなタイトル回収をした私の感想でした。
 MVP? この状況で誰が一等賞とかではなく……ねえ……?

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