シナリオ詳細
<13th retaliation>菫色の聖泉
オープニング
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「これを使えば、あの人を助けることもできるのかな?」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の掌には、一枚の葉が握られている。
灰色のソレは『聖葉』と呼ばれている。
アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹、『灰色の霊樹』アンテ・テンプルムから取れるものだ。
アンテローゼ大聖堂の司教らが祈りを捧げて限定的ながら効力を発揮したもの。
それの効果は、茨に囚われ、完全に眠りに落ちた者達を救い出す効果がある。
数も限られるがゆえに、その使用は限定的だ。
「……でも、これがあればあの人を助けられる。
貴方もそうしたいよね」
スティアが視線を上げれば、ふわりと浮かぶ水色の精霊が揺蕩っている。
言葉こそわからないが、じっと見られているよな気がした。
「……よし、決めた! ちょっとだけ戻るけど、あの人を助けに行こう!」
少しばかり考えた後、頷いてそう言えば、精霊が嬉しそうに飛び回る。
「私も連れてって貰っていいかしら? その子の大切な人と話してみたいわ」
そう言ったのはオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)だ。
スティアと共にいる精霊の事を知るには、彼女――聖堂で眠るあの人に聞くのが一番だ。
もしも『聖葉』の効果で彼女が目覚めるのなら、それが一番だろう。
●
その場所の光景は、前に来た時とまるで変わっていなかった。
まだそれほどの時が経っていないという事もあるが、恐ろしいほどに静かな景色は、この一帯がまだ呪いに包み込まれていることを実感させる。
念のために着いてきてもらった6人のイレギュラーズを含め、8人で訪れたスティアとオデットはゆっくりと進んでいた。
聖堂に響くは取り付けられた時計の秒針と自分達の足音のみ。
静まり返った空間と、陽光に照らされたステンドグラスは、幻想的を通り越して些か不気味にさえ感じられる。
祭壇の前、前に来た時とほとんど変わらない様子で眠る女性へ、そっと聖葉を手向ければ。
「――何を、している」
その声は背後――聖堂の入口より聞こえてきたものだ。
それまでまるで感じ取っていなかった。
だがその視線は、気配は初めて会ったものじゃない。
そう、前に来た時も――たしかにそこにあった。
振り返り見れば、そこには1人の幻想種――いいや、幻想種だったモノが立っている。
「お前、お前は――また、姉さんを殺すのか!!」
憤怒、悪意、憎悪、苦悶、そう言った感情をごちゃ混ぜにした見るに耐えぬ顔で、それは叫ぶ。
「エイルだけじゃなく、ヴィオレットにも手をかける――」
母の名を、誰かの名を呼ぶときにだけ甘い囁きを帯びるその男の事を、スティアは知らない。
「……貴方は何を言っているのですジルベール」
またも後ろから声。一歩、二歩と足を進めてスティアの隣に立ったのは、眠っていた女性だった。
ジルベールと呼ばれた前にいる男の言っていた名前が正しければ、ヴィオレットというのだろうか。
「エイルが亡くなってから飛び出していったかと思えば、そのような世迷言を言うために外に出たのですか?」
それは、姉が弟を叱りつけるような、厳しながらも優しい声だった。
「う、うるさい! 黙れ黙れ黙れ!」
激昂のまま、ジルベールが魔力で構築した双刃を抜いた。
その様子に憐れみの籠った瞳を向けていたヴィオレットが不意にこちらを向いた。
「貴女が……そう。エイルにそっくりですね。
ゆっくりとお話をしたいところですが、あの子をどうにかしないと難しいでしょう。
お力添えいたします。皆さん、お手伝いをお願いできますか?」
「あ、あなたは大丈夫なの? 目が覚めたばっかりなのよね?」
オデットが思わず声を掛ければ、ヴィオレットは小さく笑って。
「ええ、こう見えても、腕はあるのですよ? 支援は任せてください。
あの子を――弟を止めるお手伝いを」
そう言えば、スティアの近くにいた水色の精霊が、ふわりとヴィオレットに近づいて、その周囲を飛びまわる。
- <13th retaliation>菫色の聖泉完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年05月06日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「いきなりだったからびっくりしたけどお母様の姉弟なんだね
こんな形で邂逅することになったのは残念だけど……まずはこの場をなんとかしないと!」
自らもセラフィムを起動させながら『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は前へ出ていく。
後ろから見守るような優しい視線を感じるのは、自分と2人の関係性が分かった今、気のせいではあるまい。
「やっと精霊について話が聞けると思ったのに! 詳細はよくわからないけど流石に礼儀のない人はご退場願わないとね!」
突如の乱入者に憤るのは『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)である。
ここまで来たのは、ヴィオレットの方へと飛んでいった精霊のことを聞きたかったが故だ。
折角これから思う存分に聞ける――そんな時に邪魔されてご機嫌も斜めになろうというもの。
「先日此処を訪れた際に私達を見ていたのは、貴方ですね」
突如の乱入者の気配を、『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は何となく覚えていた。
初めてこの場所に訪れた時、イレギュラーズと大樹の嘆きの戦闘を観察するようにじっと見るナニカの気配があった。
それがあの男なのだろう。にわかに聞こえ始めた原罪の呼び声に相手が魔種であることは確認するまでもない。
(不安定で感情的な言動。こうして姿を現したのは、魔種らしく平衡を欠いた感情故の衝動的な行動という所か。
その原因は……御家族の問題。成程『そうなり易い要因』ですね)
「複雑な家庭環境、というやつ、か?
なんにせよ、時と場を弁えない闖入者には、頭を冷やした上で退出願おう、か。
腕に覚えがあるなら、期待させてもらおう」
『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はその美しき瞳にも似たる愛刀を静かに抜き放てば、悠然と敵を見る。
「仔細は存じ上げませんが、突然現れてよく分からないことを叫びながら剣を抜く……
ということは喧嘩をご希望ということですね。承知致しました!」
双剣抜き放つ『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)も中々に過激な結論に至っている。
「私の母もよく『まずは一当てして、話し合いはそれから』と言っていましたので、
刃で語る事をご所望であればそれに応えるまでです!」
――と豪快が過ぎる母の言葉を思い起こした。
「あの人、スティアお姉さんのおばさんの弟さんなのよね。
姉弟で争うなんて悲しいけど、放っておくときっと危険。
だからルシェもあの人止めます! だって、わたしもお姉さんだもの!
お姉さんは弟が悪いことしたら止めるのよ! ね! ヴィオレットお姉さん!」
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が言えば、ヴィオレットが穏やかに笑う。
「ええ、あまり暴力は好みませんが、お説教のひとつぐらいはせねばなりません」
小さな笑みと共に、ヴィオレットが魔術を起動させる。
刹那、ドーム状の水がフィールドで眠っている幻想種達を1人1人すっぽりと覆う。
「話はおおよそ理解した。逆恨みも甚だしい。
恐らくスティアの母は彼女が産まれた事を喜んだはずだ。
例えその先に死が待っていたとしても、親とはそういうものだ」
そう言う『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は握る双銃に自然と力が籠る。
「俺も娘を持つ身だから分かるのさ」
「エイルは、死ぬべきじゃなかった。死ぬような奴じゃなかった――ならなんで死んだ? あぁ、ちくしょうが」
ジェイクの言葉にジルベールが血走った眼を向け、感情の昂りと合わせたように握る双刀の出力が増していく。
「さて、どこまで相手の手札を暴けるか……」
ステッキ傘の持ち手をくるりと回して立てた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は目の前を冷静に見る。
ジルベールとは対称的な視線の先で、寛治自身、油断はしていない。
ジルベールが動き出すその一瞬前、先に魔術を起こしたのはアリシスだ。
「スティア様に拘る理由は概ね理解しましたが、御家族の意志を尊重される考えは無いのですね」
浄罪の剣を形成し射出すれば、真っすぐに聖堂を照らしながら突っ切り、ジルベールへと飛翔する。
しかし剣は僅かな体重移動と共に躱され――ジルベールが動く。
「――速い!」
ハンナがハッとする頃、ジルベールの姿はスティアの前だった。
(意識を引く必要がないのはいいんだけど……)
尋常じゃない速度で振り抜かれた魔力の刃がスティアに炸裂する。
堅牢な聖域が刃の威力の殆どを掻き消し、大した傷にはならない。
「お前が、お前がエイルを殺したのは間違いないんだ! 何故、何故だ――」
双剣による連撃を受けながら、スティアはジルベールの様子を見ていた。
「私がお母様を殺したって言われても否定はできないけど、死んで欲しいなんて願ったことはないよ。
それに私が命を捧げたらお母様が生き返ることができるなら捧げたって良いよ!
もちろんお母様はそれを望まないとは思うけど……
月光人形としてだけどお母様と触れた時に止められたことがあるから」
「えぇ、あの子ならきっとそういうでしょうね。
それは貴方だって、分かっていると思いますが……ジルベール」
スティアの言葉に穏やかな笑み漏らしたヴィオレットが術式を展開する。
温かな守りが戦場を包み込み、イレギュラーズの動きが更にキレを増す。
「な、なんで邪魔をする――ヴィオレット! いいや、そうだった。
ヴィオレット、お前もエイルが外に出るのを止めなかった。
エイルが死んだのはお前のせいでもあるんだぞ!」
血走った眼で困惑と憤りの混じったジルベールの声が鳴った。
「貴方が私を憎むのは勝手だけど、私に命をくれたお母様の為にも私は殺される訳にはいかないんだ!
無惨に命を散らした方がお母様が悲しむと思うから」
スティアは、そういうと、その手に終焉の花を咲かせた。
氷結の華は戦場へ浸透した水の魔術と反応して結晶を生みながらほろりほろりとほどけていく。
(先手はギリギリ取られてしまいましたが、追いつけぬ速度ではなさそうです。
ならば――あとはもう、斬るだけですね!)
「ぼこぼこにして歳上げます。お覚悟――!」
ごちゃごちゃと考えるのは後回しとばかり、ハンナは剣を振るう。
届くはずのない距離にて振り抜いた斬撃は遥か遠くへと届く飛翔する刃。
引き金を引いて炸裂した魔力によるハンナの持てる技術の粋を力業に変えた乱舞がジルベールの身体へと殺到する。
連撃は必中を期し、逃すことなく魔力の奔流を潜り抜けてジルベールを捉える。
「姉の思いを踏みにじろうとする奴が何言ってやがる。
覚悟しろよ、ちょいと機嫌が悪いんでな、今日は弾丸が荒ぶる事になりそうだぜ」
ジェイクは静かに双銃を構える。
摂理の座の下に描く軌道に乗せて放つは致命の弾丸。
遥か彼方より描く餓狼の如き牙がジェイクの絶大なるコントロールセンスを以って全くの死角から走る。
ど真ん中に当たるはずの弾丸は、ジルベールの周囲に渦巻く魔力の奔流に僅かに軌道を揺さぶられ、僅かにそれる。
「さっそく違和感が出始めましたか」
寛治は仲間達の手応えの不信感を見ながら、落ち着いて見据えていく。
摂理の座より見下ろし、引き金を引いた。
ジェイクに続いて放たれる沈着なる神眼の射手の放つ魔弾の如き鋼鉄の弾丸は、真っすぐに撃ち抜かれた。
放たれた弾丸は、ジェイクの時と同様、僅かに軌道がそれたように見えた。
回避行動は既に控えめ、体捌きも駆使してはいるが――それらのすべてを駆使した後の不信感。
「ヴィオレット、ジルベールの戦い方で何か知っていることはない、か」
エクスマリアの問いかけに、ヴィオレットの反応はあまり芳しくない。
それは、魔種に変じたこともあろうが、何よりもジルベールの戦闘技術が『外』に出た後で確立されたからであろう。
エクスマリアはヴィオレットに礼を告げると、魔術を行使する。
それは死に切れぬ者へ与える慈悲にして絶望。
大いなる多段連撃。救いでありながら嗜虐的思考の末であるかの如き猛追がジルベールめがけて振り抜かれる。
運命力を駆使した大いなる連撃は、守ることも躱すことも許さない――はずだった。
(む……? どういうこと、だ?)
連撃を受けた魔種の傷を見据え、エクスマリアは訝しむ。
(……通りが悪い、な)
想定していたよりも、魔種の傷が浅いように思えるのだ。
「今回は私が光の妖精ってところ見せてあげる。精霊さん、見てて」
オデットはそう告げると共に深呼吸を繰り返す。
木漏れ日降り注ぐ深緑の光が、オデットの身体を包み込み、淡い光を帯びて輝いた。
温かな光を帯びて、オデットは一気にジルベールめがけて肉薄する。
その手には陽光を束ねた球体を浮かべ、吶喊の勢いごと、ジルベールの懐へと叩きつけた。
ジルベールを包む魔力の奔流が微かに勢いを留めるものの、そんなことは知ったことかとばかりに鮮烈の閃光が聖堂を白く塗り潰す。
「何が目的なの? ヴィオレットお姉さんが心配で見守ってたの? 目的、教えてください!」
キルシェは優しき慈しみの雨を聖堂に降らせながらジルベールへと問いかける。
「そうだ、お前達みたいにヴィオレットに手を出そうとする奴を……ぐぅ……」
唸るようなジルベールの返答が小さく聞こえた。
●
ジルベールの激情に合わせて魔力が溢れだし、暴発を引き起こす。
暴発した魔力は弾丸となり、スティアやヴィオレットの他、多くを巻き込み広域に吹き荒れる。
暴発したことで多少は知性を取り戻したのか、顔を振ったジルベールは、そのまま動き出すと、魔弾を放つ。
魔弾はスティアを覆いつくして絡めとらんとするが、気高き精神性を冒すことはできなかった。
続けて放たれたのは、ジルベール自身の精神的な闇を映したかのようなじっとりとした黒の旋風だった。
キルシェはそれらの猛威がヴィオレットへと注がれるのを一身に受け止めていた。
「どうして、ヴィオレットお姉さんまで攻撃するの? 弟さん、なにがしたいの!」
聖杯の乙女は、狂乱に疲れたジルベールへと問い続けながら、美しき音色を戦場に響かせる。
「く、くくく、エイルを殺したにも等しい女を守るような奴は――皆殺しにしてやるというだけだ」
そう言いながら、ジルベールの猛攻が少しずつ収まっていく。
状態異常を振りまく黒の風が収まる頃、ハンナは動く。
「ここからは――こちらで!」
遠距離を捨て肉薄したハンナが見舞うは自らを立て直し、不屈の精神性を糧に生み出した自分の在り方。
武神へ捧げる剣舞は、ハンナの身体に染みついたもの。一切の気負う必要もなく、流れるまま痛烈に刻み付けるもの。
(……遠距離から攻撃していた時よりも手ごたえがありません)
その理由は、ジルベールが纏う魔力の奔流だ。
飛刃を以って撃ち込んでいた時とは違い、その太刀筋は奔流に微かながら押されて勢いが殺される。
「少しずつだがあいつの意識が漏れ始めたな」
ジェイクはその様子を見ながら双銃それぞれに弾丸を込める。
敵の動きの一瞬を見据えるように、放った弾丸は先に狼の牙を以って傷口を抉り穿ち、死神からのプレゼントを押し付ける。
遥か彼方から抉り穿つ弾丸はその軌道を微かに逸らされ思った威力が通らないが、死神の見通す必殺の弾丸は、多少逸らされようと強烈な傷を生む。
「……さてどうしましょうか。何かからくりがあるようですが……押していけば押せぬわけではない……」
寛治はジェイクの放った弾丸の行末すら観察しながら、自らも弾丸を込める。
最初に放つは歴戦の妙手。死を呼ぶ守りなど許さぬ痛烈の弾丸。
美しき軌跡を描いた一弾一殺の魔弾もまた、微かに軌道が逸れ――次いで入った寸分狂わぬ魔弾はそれながらも痛烈の傷を残す。
「マリアの近くへ」
エクスマリアは範囲内にジェイクの他数人が入った状態で深呼吸する。
僅かの間の後、エクスマリアの髪が揺蕩い始めた。
それは神意さえも及ばぬ。美しき神話の輝き。
温かく、人々に休息を与える願いの抱擁である。
「おあぁぁああ!!!!」
ジルベールが激昂し、スティアめがけて再び双剣を振り下ろし――ぴたりと停止した。
(――あれ?)
訝し気にそれを見るのはスティアの方だ。
スティアを見下ろし、剣を振るおうとするジルベールの表情は、複雑な物だ。
1つは明確にこちらに対する殺意――或いは憎悪と呼ぶべきものだが、他にもある。
(……なんで、この人はこんなに苦しそうにしてるんだろう?)
心臓をギュッと握られたような、苦悶を浮かべて、ジルベールはそっと剣の構えを解いた。
そのまま深いため息を吐いて――
「いつか、いつか必ず殺してやる……絶対、絶対にだ……!」
それだけ言い捨てて跳び退いてどこかへ消えていく。
だが、その捨て台詞さえも、どこか『自分を言い含めるような』色があった。
●
戦いが終わった後、イレギュラーズは聖葉を人々に与えつつ、情報の整理を始めていた。
「ねえ、お話がしたのだけど、良いかしら?」
「そうですね、私も色々とお聞きしたいと思っています」
オデットはそう言って頷いたヴィオレットにほっと胸をなでおろしつつ、その前に、と前置きを入れる。
「……その子にもいいかしら?」
その子――ヴィオレットの肩にふわふわと浮かぶ精霊に視線を向けると、ふわふわと精霊が前に出てきてくれた。
「良かったわね、貴女の大切な人が無事に目覚めて」
精霊が嬉しそうにくるりと円を描くように回る。
「……この子とも仲良くしてくださったのですね」
柔和な笑みを浮かべたヴィオレットに少し照れつつも頷けば。
「ねえ、この子ってどんな子なの? それに……私も、お友達に慣れたりしないかしら?」
「ぜひ仲良くしてあげてください、この子にとってもその方がいいでしょう」
オデットが少しばかり緊張しつつ問うてみれば、ヴィオレットは優しい笑顔のままそう答えてくれた。
「この子は私の契約を交わした精霊です。人を傷つけることを好まぬ、優しい子。
本来であれば、私から離れて活動することもあまりしないのですが……それだけ、心配してくれたのでしょう」
微笑を絶やさず、そう言った。
「無事で良かった……」
スティアはのんびりと聖堂の長椅子へ腰を掛けたヴィオレットを見ながら呟いた。
それに気づいたらしきヴィオレットがなんだか懐かしそうに微笑みながら手招きしている。
「ありがとう、生きていてくれて。実は貴女といつか会う時があればと思っていたのですよ?」
そう言って、彼女はスティアを真っすぐに見る。
「だから、少しだけ抱きしめてもいいですか?」
そう言ったかと思えば、ヴィオレットは返答を聞く前にスティアをそっと抱きしめてくる。
「へっ? わっ!」
驚いたままのスティアの頭を優しく撫でながら、彼女は暫しの間そのままだった。
「エイルが命を懸けて守った子……こんなにも大きく……あぁ、良かった……無事で、良かった……」
涙ぐんでいるのか、声が震えていた。
「あぁ、ごめんなさい。思っていたよりもホッとしてしまったようです。
貴女と出会える日を楽しみにしていたのですが……ここの聖堂は私が勤めているところです。
色々と終わったら、是非またここへきてくださいね。聞きたいこともありますし……血の繋がった相手ですから」
「ふむ……不思議な相手でしたね。殺したいのか、殺したくないのか、はっきりしないのが何とも」
考え込むアリシスはその視線を上げれば、そこには風貌――より正確に言うと雰囲気のよく似た2人の幻想種。
(……ふむ、姪と伯母の御関係、よく似てらっしゃる。
恐らくはスティア様が御母君と似てらっしゃるから……あぁ、もしや、『似ているから』なのでは?)
「殺したいほど憎い相手――けれど、目の前に毅然と立たれているスティア様が重なってしまうのでは。
殺したいのに、いざ殺そうとすると面影が邪魔をする……」
それは、あまりにも強烈な自己矛盾。どこにも向けることの出来ない殺意の矛先を無理矢理にスティアに向ければ、今度はエイル・ヴァークライトの面影が剣を鈍らせる。
魔種らしく歪みに歪んだ精神性が、雁字搦めに魔種自体を縛り付けているのだとしたら。
「実際の実力として気になるのは回避能力と俊敏性もそうですが、何よりジルベールが纏う魔力」
寛治は戦闘時に思っていたことを振り返る。
「えぇ、攻撃が当たる前に勢いを殺されました。
防御技術がどうとか、回避を試みたとか、そういうことではありませんでした」
ハンナが繋ぐ。双剣を叩きつけた時、強烈な魔力の層がハンナの太刀筋を押し殺した。
それでも知った事かと上から殴っておいたが。
「やはりそうでしたか……」
寛治も思っていたことだが、そこについてはやはり自分の手で実感できる近接戦闘要員の方が気づきやすい。
(可能性としては、『ジルベールの纏う魔力には攻撃の勢いを殺す』能力があるということになりますね……)
粗方の情報を纏め終えたイレギュラーズは、聖葉の力で呪いを脱した幻想種やヴィオレットを連れ、アンテローゼへ向けて出発する。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでした、イレギュラーズ。
ジルベールの大きな特徴がいくつか判明しているようです。
GMコメント
さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
呪いに解き放たれて早々ですが、共闘と参りましょう。
●オーダー
【1】ジルベール・フォンテーヌの撃退
●フィールド
幻想にあるとある聖堂です。
遮蔽物としては長椅子や柱などがありますが、基本的には見晴らしの良い戦場です。
眠っている人々こそ居りますが、今回は後述するヴィオレットの能力により人々の事は気にせず戦えます。
●エネミーデータ
・ジルベール・フォンテーヌ
魔種です。スティアさんの母方の叔父にあたります。
直接的な前回シナリオ『<咎の鉄条>眠れる聖堂の精霊士』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7398)
では遥か遠くから皆さんを見ていました。
長距離からの狙撃や二刀での近接戦が主体。その他の能力は一切不明。
ただし全身からあふれ出る魔力やスティアさん、
ヴィオレットさんの事を踏まえるとどちらかと言えば神秘型であろうと想像されます。
自身の力を用いて戦うよりは、周囲を扇動して暗躍することの方が多いのですが、
今回は我を失い自ら行動してきました。自身の体力が8割を切った場合、我に返って撤退します。
●NPCデータ
・ヴィオレット・フォンテーヌ
スティアさんの母方の叔母にあたります。
聖葉の力で目覚めた直後ですが、それを感じさせないほどの余裕を感じさせます。
戦闘中は大規模な範囲回復、補助スキルを用いて支援してくれるほか、
フィールドにいるまだ眠っている人々を保護する水の盾を生み出します。
・幻想種×数人
聖堂の中にいた幻想種。まだ眠っている人々です。
移動させることはできませんが戦闘中は基本的には構わなくても大丈夫です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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