PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アンヘルの争乱。或いは、チーム“ファースト”の誓い…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●護衛依頼
 ところは幻想。
 貧しいながらも平和な町、アンヘル。
 子供たちの笑い声と、大人たちの微笑みと、それからほのかなレモネード。この街にある見物と言えばその程度のものである。
 それを成したのはゴメズ・アスティン。
 街の中央区画に居を構えている事業家だ。
 否……事業家だった、と言うべきか。
 しかし今となっては、皆に愛され親しまれた事業家も遺骨と灰へと成り果てた。
 ほんの少し前、ゴメズの家に賊が立ち入り彼と妻・レティシアを殺害したのだ。以来、町の様子はすっかりと変わってしまった。
 ゴメズの死を悲しむ者。
 ゴメズと妻の復讐を誓う者。
 行方不明になった2人の娘を探す者。
 怒りと憎悪と悲哀といった、陰鬱な空気が街を覆い尽くしているのだ。
 
「……彼女たちの様子は?」
 暗い部屋に、若い男の声が響く。
 背に大剣を背負った金髪の男だ。身に纏った白銀色の軽鎧には、細かな傷が無数に刻まれている。
「泣き疲れて寝ていますよ。ショウも寝たらどうですか? ずっと見張りに立っていて、ほとんど眠っていないでしょう?」
 金髪の男……ショウの問いに答えたのは、新緑色のローブを着込んだ少年である。柔和な顔立ちと線の細い体格の彼は、背後の扉へ視線を向けた。
 扉の奥からは、幽かな呼吸の音が聞こえる。
 部屋にいるのは、ゴメズ・アスティンの2人の娘……アンリとアンソンだ。燃えるゴメズの屋敷から逃げ出して来た2人を救け、匿ったのは暫く前だが、それから時間が長く過ぎても2人は毎日悲しむばかり。
 当然だ。
 最愛の家族も、帰る家も失ったのだ。
「ホブス……俺たちは間違っていると思うか? 幼い2人をこの部屋に閉じ込めたまま、ゴメズさんたちの仇討ちにも出ずにいる」
 金髪の男は、掠れた声でそう言った。
 けれど、ホブスと呼ばれたローブの少年は静かに首を横に振る。
「いいえ。貴方の判断は間違えてはいません。アンリとアンソンは犯人の顔を見ている……つまり、次に狙われる可能性が一番高いのは彼女たちです」
 そう言ってホブスがテーブルの上に広げたのは、3枚の指名手配所だ。
「2人を殺した殺人鬼たちのうち、顔が割れているのが3名……外を見て回っているドミニクが言うには、3人を町で見かけたそうですよ」
 安全を確保できるまでは、2人を外に出すべきではない。
 そう呟いて、ホブスは重い溜め息を零した。

●首に値段のつく連中
 平和な町、アンヘル。
 中央にある時計塔の最上階で、男が小さな悲鳴をあげた。
「あらー。血が出てますねぇ。止血しないと死んじゃうんじゃないですかー?」
 なんて。
 淡々と、間延びした口調でピリム・リオト・エーディ (p3p007348)はそう言った。ピリムの手には血に濡れた刀、足元には縄で縛られた黒づくめの男が転がっている。
 男の名はドミニク。
 アンヘルの町では名の知られた冒険者チームの斥候だ。
「縛られていちゃ止血も難しいだろうけどね。さて……何も難しいことを聞いているわけじゃないんだ。仲間の居場所を吐いてくれれば楽にしてあげようっていう、簡単な取引さ」
 ね、簡単だろう?
 にぃ、と口角を吊り上げてエクレア (p3p009016)はくっくと肩を揺らした。
 そんなエクレアの後ろでは、3枚の指名手配所を手にヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム (p3p010212)が口を空けて呆然としていた。

 3人の隠れた時計塔に、ドミニクが上がって来たのは今から2日前。
 屋根の上に張り付いた彼を捕縛するまでは簡単だった。
 その目的もおよそ見当が付いている。
「あーあ、後先考えずすぐに動いちゃうんっすから。どうするんすか、これ?」
 手配書を手にイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が溜め息を零す。
 ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム。
ピリム・リオト・エーディ。
エクレア。
 以上3名は、ある男性の暗殺依頼の達成に伴い首に値段が付けられた。
「ちょっと目を離したら皆さんすぐにトラブルに巻き込まれるっすね。イレギュラーズって赤ん坊より目が離せないっす」
「ヘルちゃんは不本意なのだ。殺人鬼を始末したのに、何でこっちが悪者扱いされるのだ?」
「あー、まぁあれっす。あれ……不幸な行き違いっていうか、運が悪かったっていうか、人生ままならねぇっつーか」
 チーム“ファースト”
 剣士・ショウ。
 魔導士・ホブス。
 盗賊・ドミニク。
 以上3名からなる、アンヘルでも名うての若き冒険者たちである。
「ショウは【必殺】【致命】の付与された光剣を操る剣士、ホブスは【炎獄】【氷結】【感電】といった複合魔法に、回復術を操る魔導士。それで、そこのドミニクさんは【懊悩】【魔凶】【ブレイク】の付与された多彩な武器を操る盗賊……3人ともゴメズ氏の助けがあって冒険者まで成り上がったらしいっす」
 分かるのはこれだけ。
 そう言ってイフタフか肩を竦める。
 ゴメズを殺害した犯人であり、首に賞金までかかっている3人だ。狙われる理由については今更詳しく語る必要もないだろう。
 問題があるとすれば、それは1つだけ。
「賞金の手配書が配布されたのは今朝の話っす。なのに何で、3人の特徴が記されたメモ用紙なんてものを持ってるっすか?」
 手配書を床に投げ捨てて、イフタフはドミニクから回収したメモ用紙を取り出す。そこには、ピリム、エクレア、ヘルミーネの3名だけでなく、ゴメズ殺害に関与した他3名の特徴まで記載されていた。
「心当たりは……あぁ、あるね。そう言えば」
「なんかありましたっけー? 使用人は皆斬ったと思いますがー?」
「……娘。ゴメズの娘2人を逃がしたのだ」
 ヘルミーネの言葉を聞いたドミニクが、ピクリと肩を跳ねさせた。
 その様子を見ていた3人は、顔を見合わせ1つ頷く。
 ピリムは刀を抜いて立ち上がり、ゆらりとドミニクの前に立った。
 狙うべき獲物は判明した。
 まずは1人、首でも刎ねよう……と、そう考えたのだ。
 けれど、しかし……。
「よぉ、余裕綽々って態度が気に食わねぇ。お前ら、町からすんなり脱出できるとは思わねぇこった」
 なんて。
 血混じりの唾を吐き捨てて……直後、ドミニクは後ろへ跳んだ。
 いつのまに解いたのか。
 手首を縛っていた縄は、すでに解かれているようだ。
「ゴメズさんの仇は討つし、娘2人も護り抜く。お前らは絶対に逃がさねぇ。次に会った時に決着付けようぜ」
 窓から身体を空へ投げ出し、それと同時に腕を振るった。
 投擲されたナイフが1本、ピリムの腹部に突き刺さる。

GMコメント

●ミッション
チーム“ファースト”の3名およびアスティン姉妹の殺害

●ターゲット
・アンリ・アスティン&アリソン・アスティン
アンヘルの事業家、ゴメズ・アスティンの娘2人。
ゴメズを殺害したイレギュラーズへ恨みを抱いているようだ。
現在は、チーム・ファーストの拠点で保護されている。
現在3名は、時計塔へ攻め込む手立てを模索しているものと思われる。

・チーム“ファースト”
剣士・ショウ、魔導士・ホブス、盗賊・ドミニクの3名からなる冒険者チーム。
ショウは【必殺】【致命】の付与された光剣を操る。
ホブスは【炎獄】【氷結】【感電】といった複合魔法に、回復術を操る。
ドミニクは【懊悩】【魔凶】【ブレイク】の付与された多彩な武器を操る。
ゴメズ・アスティンに恩があるということもあり、2人の娘の保護と、報復へ乗り出した。

●フィールド
幻想の町、アンヘル。
町の中央付近にある時計塔が現在の潜伏場所。しかし、ドミニクの活躍により潜伏場所は割れているため、時間的な余裕は少ない。
また、時間の経過によりチーム“ファースト”により招集された冒険者たちが戦線に加わることも予想されている。

チーム“ファースト”の拠点は街の南部にあることは分かっている。
南部には冒険者たちが多く暮らしており、中にはファーストの拠点を知る者もいるかもしれない。
※以下3名は指名手配中であるため、日中の活動および他人との接触に制限がかかる。
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム (p3p010212)
ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)
エクレア (p3p009016)

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。

●参考
『ゴメズ・アスティンの不幸な日。或いは、糾える縄の実証…。』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7409

  • アンヘルの争乱。或いは、チーム“ファースト”の誓い…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年04月29日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
※参加確定済み※
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
エクレア(p3p009016)
影の女
※参加確定済み※
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼
※参加確定済み※

リプレイ

●お尋ね者たち
 幻想。
 平和な町、アンヘル。
 夜の帳が辺りに落ちれば、アンヘルの住人たちは自分の家へと戻る。アンヘルは平和な町ではあるが、住人のすべてが人の良い善人というわけでも無い。
 特に夜は悪人の時間だ。
 アンヘルだろうと、どこだろうとそれは全く変わらない。
 そんなアンヘルにおいて、もっとも夜の遅くまで灯が付いている区画は南側。通称“冒険者通り”と呼ばれる区画だ。
「ん? おいおいお嬢ちゃん? 占い師か? 商売なら他所でやんなよ」
「ここは荒っぽい奴も多いからな。宿はどこだ? 東か? 西か? 北だと少し遠いが送っていってやるよ」
 通りの隅の暗がりで、冒険者2人と話ているのは褐色肌の少女である。
「ヒッヒッヒ。お気遣いはありがたいのですが、先ほど町に着いたばかりでしてね。少々路銀が心もとないのです」
 そう言って『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は、机の上にタロットカードを並べてみせる。
「あ? 金ねぇのか」
「占わせてやったらどうだ? ほら、酒場の姉ちゃんに気があるって言ってたろ? 脈ありかどうか聞いてみろよ」
「……無知こそが幸せであったのならば、今こそが幸福なのではないですかな?」
「……占う前から不吉なことを言わんでくれよ」
 げんなり、とした顔をして冒険者はがっくりと肩を落とした。

 時刻は昼まで遡る。
「指名手配されるなんて馬鹿やったなァオイ!」
 3枚の手配書を前に『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は腹を抱えて爆笑していた。
「ただの殺人鬼をブッコロした位で賞金首になるなんて全く……とんだ貧乏くじを引いたのだ」
 憮然とした顔つきで『A級賞金首・凶狼』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)は膝を抱えて部屋の隅に蹲っている。そんな彼女の澱んだ視線が、ことほぎへ向いた。
「大体賞金額がヘルちゃんが一番高いって納得いかねーのだ」
 けらけら笑うことほぎへ、丸めたメモ帳を投げつける。
 メモ帳を受け取ったことほぎはそれを開いて……数秒後、笑顔のままで動きを止めた。
「……あれ? イヤ、あの……このメモ、オレの特徴も書かれてね???」
「一緒にゴメズをコロしに行ったんだから当然なのだ」
 と、そのようなやり取りがあった末……日が暮れる前に彼らは町へと繰り出した。
 もぬけの空となった時計塔へ、冒険者たちが責めて来たのはそれから少し経ってのことだ。
「さて、十分に人は集まったし……『お友達』の出番だね♪」
 町へは亡霊、そして時計塔へは動く死体を差し向けながら『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は笑うのだった。

 冒険者たちの夜は長い。
 人によっては、数日から数週間も町を空けて仕事に出るのだ。
 久しぶりに拠点へ戻れば、酒の肴には事欠かない。
「そんで、マスクの兄ちゃんはファーストの拠点に用事があるって? あいつら、今すっげぇピリピリしてるから、近づくならもっと先がいいぜ? 何の用事だ?」
 エールをジョッキで楽しみながら若い剣士はそう問うた。向かいに座る『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は肩を揺らして、くぐもった声で言葉を返す。
「彼らの拠点が知りたい理由? 金目当てだよ。多額の賞金のため、指名手配犯の捕獲に協力したいんだ」
「……あぁ、ゴメズさんの件か。いくつかのチームが既に協力してるって話だ。今頃は時計塔にカチコミかけてんじゃねぇかな?」
「ほぅ? そこにファーストも?」
 空になったグラスに酒をつぎ足しながら、ルブラットは言う。
「いや。あいつらは後詰だ。犯人どももアホじゃねぇってよ」
 注がれた酒をひと息に飲み干し、剣士の男は上機嫌に笑うのだ。
 酒が進めば、舌の回りも良くなるだろう。有用な情報を得られるまで、あと少しといったところか。

 地面が赤い。
 若い女の流した血が、地面を濡らしているからだ。
「ゴメス・アスティンの死体は見たかい? 君も家族諸共脚を斬られて燃やそうか」
 女の前にしゃがみ込み『A級賞金首・悪辣』エクレア(p3p009016)は日常会話の延長みたいに気安げに話しかけている。
 口の端から血の泡を吐き、女は腹を押さえて苦悶の呻きを零した。
「くそ……“悪辣”か。騙しやがったな……幼子のフリして油断させて。そうやって、ゴメズさんも」
「まぁ、殺したね。うん。情けも容赦もかけてないから、きっと必要以上に来るしんじゃいないはずだよ」
 今の君のように、と。
 いかにも悪辣な笑みを浮かべて、エクレアはくっくと肩を揺らした。
 一瞬、エクレアの警戒が緩む。
 刹那、女は腹部に隠し持っていたナイフをエクレアの首へと突き刺した。
 けれど、しかし……。
「……え?」
 スパン、と。
 バターでも斬るみたいに、女の腕が切断されて血に落ちる。
 悲鳴をあげる女の口を覆ったのは、白く細い指だった。
「はいお静かにー。寝てる子供が起きちゃいますよー」
 壁に張り付いた奇妙な姿勢で『A級賞金首・地這』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)が告げる。
 それから、血に濡れた刀を女の首に押し当てて、囁くような声音で問うた。
「全てを話して楽になるか、生きたまま脚を奪われ始末されるか選択はご自由にどうぞー」
 怒りと恐怖に染まった視線で、女はピリムを睨みつけ。
 それから彼女は「脚でも首でも持っていけ」と。
 気丈にも、そんなことを口にした。
 その直後……。
「こんなところにいたのか。ファーストの拠点が割れたぞ」
「お友達が見て来てくれたの♪ ファーストの3人も、娘2人も家にいるって♡」
 ルブラットとマリカによって、齎された朗報により女の表情は絶望に染まった。
 命を犠牲に秘そうとしていたファーストの拠点が、既に割れたと知ったから。
「あー、じゃあ。まずは脚からいただきますねー」
「死にゆく君に1つ約束をするよ。邪魔者は排除して、娘二人を仕留める。なあに、次は失敗しないとも……絶対にね」
 脚の無い女の遺体が見つかるのは、夜が明けて暫く後のことである。
 
●チーム・ファースト
 集合場所の路地裏に、ことほぎとヘルミーネは現れなかった。
 変装して情報収集に出ていた2人だが、どうやら冒険者たちに捕縛されてしまったらしい。指名手配されているヘルミーネと、特徴が割れている2人であるので、そういうこともあるだろう。
「身柄はファーストの拠点に運ばれたみたい♪ たぶん人質にでもしたつもりじゃないかな?」
「なるほどね。それじゃあ、どうしようか?」
 マリカの報告に、ヘルミーネは首を傾げた。

 チーム“ファースト”の拠点は、小さくて新しい木造の家屋だ。
 玄関を入ってすぐの入り口にはショウとホブス、そしてドミニクの姿があった。
 それから、縄で縛られたことほぎとヘルミーネ。
「よぉ、あんたらオレらを殺してぇんじゃなかったのか?」
「甘んじて罪は受け入れてるのだ。でも、それはそれとして大人しくやられてやる気は無いのだ」
 身動きも出来ない状態にあるというのに、2人は妙にふてぶてしい。
 ファーストの狙いは、自分たちを人質として残る仲間を誘き寄せることにある。それは会話の流れから容易に理解できた。
 そうであればすぐに命を取られることは無いだろう。
 自分たちに人質としての価値があるかどうかは不明だが……今更慌てても仕方がないし、どうせここに自分たちがいようがいまいが、遅かれ早かれファーストの拠点に攻め込むというのは変わらない。
「お前たち、自分たちがどういう状況に置かれているのか理解していないのか?」
 そう言ってショウが剣を抜く。
 淡く輝く魔力剣だ。
 けれど、ことほぎやヘルミーネに脅しは通用しない。
「どういう状況? 仲間に1歩先んじて、おめぇらのアジトに辿り着いたってだけだよ」
「それより、余所見をしている暇なんてあるのだ?」
 ヘルミーネが視線を天井へと向ける。
 つられてショウとホブスが視線を上へ。
 と、その時だ。
「下がれ!」
 腰のナイフを抜き放ち、疾走しながらドミニクが叫ぶ。
 直後……屋根をぶち抜き、降って来たのは白い肌の女であった。

 一閃。
 ピリムの刀と、ドミニクのナイフが交差する。
 刃のぶつかる音が響いた。
 それから、ピリムは刀を鞘へと仕舞い、代わりにナイフを1本取り出す。
「あん? なんのつもりだ?」
「私はこれでも剣士の端くれ、頂いた物は返すのが礼儀でしょー? そしてコチラは私なりの礼儀にごぜーますー」
 ドミニクに刺された腹はまだ痛む。
 そして、傷には傷で、痛みには痛みで報復するのがピリムの流儀だ。

 縄は解かれ、ことほぎとヘルミーネは解放された。
「はい、これでオッケー♪」
 2人を縛る縄を解いて、マリカはヘルミーネの背を叩く。
 それから、こちらを狙うホブスを横目てちらりと見ると、慌てて壁際へと下がった。前線を張るのは他に任せて、マリカは援護に徹する心算である。

 暴風を纏ってヘルミーネが疾駆する。
 振るわれた爪を剣で弾いて、ショウは歯を剥き怒鳴り散らした。
「ゴメズさんの娘を狙うか! だが、そうはさせない! 2人の仇も討たせてもらうぞ!」
「っ……耳元で怒鳴らなくても聞こえているのだ。それに……ゴメズはともかくレティシアの恨み言は辛いのだ」
 ここに来て以来、ヘルミーネの耳にはゴメズとその妻・レティシアの声が聞こえている。どうやら2人は、死後も2人の娘たちの身を案じ続けていたらしい。
「ヒッヒッヒ、眼の前にあるものだけを求めていれば良いのですから、冒険者とは楽な仕事ですね」
 激高するショウの背後からヴァイオレットが短剣を振るう。
 ショウはそれを剣で弾いて、身体を大きく旋回させた。
 剣の切っ先がヴァイオレットの頬を裂く。しかし、致命傷には程遠い。
 ひらり、と。
 まるで羽でも生えたみたいにヴァイオレットは後方へと跳んで、ショウの射程外へと逃げた。

 部屋の最奥へ続く扉の前に、ホブスは1人で立っていた。
 展開する魔力障壁に、ルブラットの放つ黒い魔弾が撃ち込まれ、ことほぎの操る紫煙が迫る。防戦一方……しかし、ホブスに焦りは無い。
 焦ってはことを仕損じる。
 焦りは思考を鈍くする。
「お2人の援護に回る余裕はありませんが……娘たちの命は奪わせません」
「いいや。匿っている姉妹も殺しにいく。手を下すのが私では無いが……何にせよ、迅速に終わらせようか」
 連続して撃ち込まれる魔弾を浴びて、ホブスの頬に汗が伝った。
 顔を顰め、歯を食いしばるホブスの顔色は悪い。
「こぼれ落ちたミルクは本当に嘆いて貰うのを望んでるのかしら? 本人に直接尋ねてみてみましょうか?」
 そう言って部屋の隅でマリカが笑う。
 今頃、ホブスの脳には亡者の笑い声が響いているはずだ。
「多勢に無勢でも……ここを通すわけにはいきません! 君たちを討つまでは!」
「あぁ、まー身に覚えはあるんだが。だからって大人しく狩られてやる必要もねェよなァ!」
 魔力を孕んだ紫煙が滂沱と押し寄せる。
 ホブスの張った障壁が、音を立てて砕け散る。
 咄嗟に自身へ回復術を行使しようとするが……それより速く、ルブラットの短剣がホブスの胸を刺し貫いた。

 重厚な扉を蹴り開く。
 瞬間、部屋の中から少女が2人飛び出した。
 それぞれ、手にはナイフを握った幼い少女。
 アスティン姉妹の決死の反撃は、しかしあっさりとエクレアに受け止められた。
「やあ、久しぶりだねえアスティン家の淑女諸君。『忘れ物』を取りに来たよ。安心したまえ、痛いのは一瞬だ。ご両親が君たちを待っているよ」
 少女たちの手からナイフを取り上げ、2人を床へと叩きつけたエクレアは、いかにも親し気な調子で、そんなことを告げたのだった。

●アスティン姉妹
 盗賊、傭兵、冒険者。
 チーム“ファースト”において、もっとも裏の世界に詳しい男はきっとドミニクだろう。
 実践で鍛えられたナイフ捌きも本物で、例えば地を這うようなピリムの一撃さえも切先を弾くだけで容易に回避する。
 反撃とばかりに、ピリムの肩にドミニクがナイフを突き刺した。
 肩を刺されながらもピリムは強引に立ち上がり、ドミニクの腹にナイフを突き刺す。
 肩から胸にかけてを深く抉られて、ピリムの半身は血塗れた。
 けれど、痛みなど感じていないかのように、淡々とドミニクを見据えて告げる。
「フフフ。流石はゴメズたその娘といったところですねー。活きのいい脚も連れてきて頂いて」
 血飛沫をあげて、ピリムとドミニクは踏鞴を踏んで距離を取る。
 ピリムは腰の刀を抜き、ゆっくりと身体を地に伏せる。零れた血が床を赤に染め上げた。
「失血死するぞ?」
「じゃあさっさと斬って治療しましょー」
 冗談を口にする余裕はあるらしい。
 地を這うようにピリムは疾駆し、ドミニクの足元目掛けて斬撃を放つ。
 ドミニクはそれを軽い動作で回避して、ピリムの背中へナイフを刺した。
 血を吐き、ピリムは床に倒れる。
 その直後、着地したドミニクの肩に錆びた鎌が突き刺さる。 
「……あ? いつの間に?」
「あはっ♪ とっても簡単よ♪ だってマリカちゃんは、ネクロマンサーだから❤」
 ドミニクの肩を刺したのは、ローブを纏った骸骨だった。
 血を吐き、目を見開いたドミニクは直後床に倒れ伏す。見れば、ドミニクの右脚が腿の位置で切断されているではないか。
 頬を紅潮させたピリムが刀を振り上げ……ドミニクの絶叫が響き渡った。

 亡霊の嘆きに耐えかねて、ショウは思わず耳を押さえた。
 空いた胴をヘルミーネの魔弾が射貫く。
 腹を血で赤く染めたショウは、頭の痛みに耐えて剣を振り上げた。剣の纏う輝きが、ひと際眩い閃光を放つ。それを一閃、ヘルミーネの腹を斬り裂いて、その胸部を蹴り付ける。
 壁際にまで弾き飛ばさたヘルミーネがマリカを巻き込み床へ転倒。
「その娘たちから手を離せ!」
 ショウの視線の向く先には、エクレアによって床へ押し付けられた2人の少女たち。
 ショウの進路を阻むべく、ルブラットとことほぎが前へ。
「後ろ立てが無くなって怒る気持ちは解りますよ、冒険者にとってスポンサーは何よりも大事ですから、ねえ?」
「スピンサーなんて呼び方をするな! 彼は俺たちの恩人だ!」
 ヴァイオレットの言葉に激高したショウが、思わずといった様子で背後を振り返る。
 刹那、ショウの眼前に暗い刃が迫った。
 ショウは咄嗟に首を傾け刃を回避。
 肩からヴァイオレットにぶつかると、大きく姿勢を崩させた。よろめくヴァイオレットの胸へ、輝く剣を振り下ろし……しかし、ショウの斬撃はことほぎの紫煙に軌道を逸らされ、ヴァイオレットに届かない。
 次いでルブラットの魔弾がショウに降り注ぐ。
 ショウは後退しながら魔弾を剣で払って……そんなショウへと笑みを送ったエクレアは、腰に下げていた長剣を抜いた。
 その刃が、娘の首へ振り下ろされて……。
「やめろぉおおお!」
 ショウは腕を振りかぶり、自身の剣を投擲した。
 まっすぐに飛んだ1本の剣が、エクレアの腹に突き刺さる。
 解放された少女2人が、エクレアの脇と首へナイフを突き立てた。
 血を吐いて、踏鞴を踏んだエクレアはけれど笑みを崩さない。
 血に濡れながらも、長剣をひらりと一閃させて……少女2人の腕を落とした。
 
 ショウの首をヘルミーネの爪が切り裂いた。
 武器を失ったショウに、彼女の爪を防ぐ手はない。
 目を見開いたまま、ショウは息を引き取った。
「……つくづく同情するのだ。殺人鬼の親の子供として生まれたばっかりにこんな目に合うのだから」
 それから。
 ヘルミーネは、痛みに意識を失った少女2人へと近づいていく。
 アンリ・アスティン。そして、アリソン・アスティン。
 事業家にして連続殺人鬼でもあった、ゴメズ・アスティンの娘たち。
「敵対した以上……もう前回みたいに見過ごせない」
 ほんの少しだけ、悲しそうな顔をして。
 ヘルミーネは、少女2人の命を奪った。

 燃える家屋を後にして、夜闇の中にイレギュラーズは逃げていく。
「諸君……無実の血に塗れた者同士、今後とも仲良く頼むよ」
 それだけ告げて、ルブラットが列を離れる。
 目立たないよう、1人ひとり別れて町から脱出するのだ。
 次いで、マリカが墓地の方へと去っていく。
「これからパーティがはじまるの♪」
 なんて。
 楽しそうに言っていたが、夜の墓場で舞踏会などあるものか。
 それから、貴族らしい衣装に着替えたことほぎと、ヴァイオレット。
「オレの特徴は出回ってるケド面は割れてないっぽかったし、何でバレたんだろうな」
「悪事千里を走るとも申しますからねぇ」
 そうして、最後に残った3人が町の外れに辿り着いた。
 シルクハットを被った若い男だけが、町を出ていく3人の背を視線で負った。声をかけるつもりも無いし、通報するつもりも無いらしい。
 エクレアと、ヘルミーネ、それから数本の脚を抱いたピリム。
 夜の散歩にでも出かけるような気楽さで、3人はアンヘルを去っていく。
「やっぱり家族は一緒の方がいいですよねー。私の元でなら皆一緒にいられますよー」
 慈しむように幼子の脚を撫でながら、ピリムはそんなことを言う。

成否

大成功

MVP

マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手

状態異常

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)[重傷]
復讐者
エクレア(p3p009016)[重傷]
影の女
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)[重傷]
凶狼

あとがき

お疲れ様です。
ゴメズの娘2人は無事に仕留められました。
また、復讐を計画していたチーム“ファースト”は壊滅。
目的はすべて叶えられ、皆さんはすっかりアンヘルの有名人です。
きっとアンヘルの住人で、皆さんの活躍を知らない者はいないでしょう。
おめでとうございます。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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