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シナリオ詳細

子猫物語

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●子猫(ドラネコ)物語
 キトンブルーの瞳に未知に溢れた世界の色が映っていました。ふんふんと嗅ぐ鼻には、陽光溢れる世界に生きる緑の植物の匂いが感じられて、子猫のちいさな胸の中にふわふわとした期待が充ちていきます。
 緩やかな上り坂を、ちょこちょこと歩いていく毛足の長い子ドラネコさんは、名前を『ユキ』といいます。ユキは、普段はお母さんドラネコと一緒に、ペイトに住んでいます。

「にゃー♪」
 地中の集落を抜け出して、冒険心を胸に向かうのは、陽の光が燦々と降り注ぐ明るい地上世界! 出口にはしゃいで走りまわり、子猫にとっては長く伸びた緑の草をはむはむ、土の匂いをふんふん。
 赤くて小さなてんとう虫さんを見つけて、猫ぱんち! ころころ転がる赤いてんとうさんが可愛らしくて、ユキは。
「にゃあー!」
 ――元気、いっぱいです!

 ゆらゆら、かさかさ。草を掻き分けて、どこまでも広がる青い空の下駆けてみたら、どれだけ楽しいことでしょう。右も左も、知らないものでいっぱい。
 冒険って楽しい! と、ユキは思いました。

 と、その時。大きな影がサッと差したのです。なんだろう? ユキはキョトンとして、お空を見上げました。青いお空には、なんと悠々と飛翔するとっても大きくて強そうなワイバーンがいました。さーっと降下する姿は本能的に恐怖を感じさせる捕食者のオーラを放っています。ユキはぴゃっと岩影に身を隠しました。一瞬の後、岩の向こう側に、ぶわぁっと豪風が過ぎていきました。
 身を隠さなかったらどうなっていただろう? 怖い……!
 ユキはぷるぷると震えました。怖いワイバーンが空でぐるぐる旋回しているから、そーっとそーっと安全な穴へと向かいます。空の脅威から身を守るため。
 そこへ、ずしん、と音がしたので、ユキの耳はびくびくっと揺れました。なんと、先程身を隠していた岩は、大きな岩亜竜だったのです!
「ふ……ふーっ!」
 尻尾をぶわわわわっと毛を膨らませて、ユキはせいいっぱいの威嚇をしました。
 ぎらりと光る禍々しい竜眼が小さなドラネコを間違いなく獲物として捉えたのがわかり、ユキは身をすくませました。
 ずしん、と重量を感じさせる音を立てて一歩踏み出す岩亜竜。と、右の方角からギチギチと音がして……「ぐるる?」岩亜竜の首がぐるりと音の方向に向きました。視線の先には、大きなアリ……迫るアダマンアントがいました。アダマンアントと岩亜竜が取っ組み合いを始めるのを背に、子猫は必死に逃げ出します。

 外の世界は、怖い!
 帰りたい! お家に帰りたいよぅ!

 集落のお外、地上世界は、とっても怖い生き物がいっぱいの恐ろしく危険な大地だったのです。


●依頼のおはなし
「ドラネコのユキちゃんをさがしてほしいんです!」

 マリエラ・メレスギル(p3n000235)がオロオロとお願いした。
 場所は、亜竜集落ペイト。
近くにはペイト在住の紫睿(シールイ)おじさんがしょんぼりと座り込んでいる。
「吾輩がうっかり地上に繋がる通路の入り口に抱っこしていって、『ユキよ、ここから地上に行けるのだぞ』と教えたものだから」
「ユキちゃん、おじさんの腕からするっと抜け出して、嬉しそうに走っていっちゃったのだそうです……」

 ユキはどうやら、地上に繋がる通路をねこまっしぐら、走っていって地上に出てしまった可能性がある。
「お外は危険です。ユキちゃん、怖い思いをしていないといいですが……」
 マリエラは縋るような眼を『女子力(物理)』雨涵(p3p010371)に向けた。ママ譲りの赤い髪をふわふわ揺らして、雨涵はしっかりと頷く。
「だいじょうぶ。絶対、見つける」
 ほんの一瞬、お兄ちゃまが家を出てくる前に言っていたのを思い出したのは雨涵だけの秘密。
 ――雨涵、またペイトに行くのかい? 無茶をしてはいけないよ。それに、変なおじちゃんには気を付けるんだよ。
(お兄ちゃま、おじちゃんは、すごくしょんぼりしてる……)
「そうですよねっ、女子力(物理)があれば、なにも問題ないですよね!」
 マリエラはほっと安心したように雨涵の両手を取り、「えいえいおー」とばんざいした。そして、ギフトで竜種の姿を取っている『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)に気付いて目をまるくした。小さな竜種のすがたは、ついつい手を差し伸べて撫でてみたくなっちゃう可愛らしさ!
「あら? そちらにいらっしゃるのは……可愛らしい……っ」
「ドラネコかー! 俺の後輩ペット、ドラネコの『シロ』がいれば、きっと安心して近付いてくると思うぞ!」
 子供らしく無邪気な声は、少年のもの。雨涵はマリエラに「あの子も、イレギュラーズ」とこっそり教えてあげた。
「熾煇様と仰るのですね、私はマリエラです。同じドラネコを連れていくというのは、とっても素敵なアイディアですね♪」
 マリエラは頷き、「他の方も、ペットのドラネコがいる方はぜひご一緒に」と呼びかけた。

 こうしてイレギュラーズは、ドラネコ捜索をすることになったのである。

GMコメント

 透明空気です。今回は覇竜で、子どものドラネコちゃんを巡るほのぼの、ほんわかした冒険です。
 リクエストを送ってくださり、誠にありがとうございます。

●オーダー
・ドラネコのユキ捜索

●場所
・『亜竜集落ペイト』から地上に繋がる通路を通った先、地上出口の穴から出た周辺のフィールド。
 地上への出口から出た場所は見通しがよく、まばらに木も生えています。足元は丈の短い緑草と乾燥しがちな土です。

・『亜竜集落ペイト』
 地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
 暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住まいます。
 ペイト周辺には、フリアノンに繋がっている地下通路が存在しています。基本的にはペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在しています。

●捜索中に遭遇の可能性がある敵
 十分に注意すれば戦闘回避が可能です。戦闘を回避できる有効なプレイングがあれば、戦闘は起きません。
・ワイバーン
 上空をたまにばさばさーっと飛んでいきます。よさげな獲物だな! と思ったら降りてくるかもしれません。

・岩亜竜
 岩のように視えて実は亜竜! という罠亜竜です。

・アダマンアント
 巨大なアリ。たまに岩亜竜と戦ったりしている姿が見えます。

●味方
・ユキ
 ペイトで暮らす子供のドラネコです。名前はイレギュラーズがつけてくれました。
 参考シナリオ:『おじさんとドラネコ』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7293)
 ユキは基本人懐こいですが、今回は危険なお外を冒険中でかなり怯えているようです。ドラネコに対する仲間意識が強い子なので、PCにドラネコのペットがいる場合は、連れて行くと安心するかもしれません。

※ドラネコ
 亜竜集落内をトコトコ歩いてる姿も散見されるかわいい亜竜。
 大人になってもサイズは猫程度。可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜。
 猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、色や模様は千差万別。
 鳴き声は「ニャー」です。

・依頼人:紫睿(シールイ)
 男性、外見年齢、実年齢ともに50歳。独身。筋骨隆々としたいかめしい大斧おじさんです。ペイトで大人しくお留守番をしています。

・マリエラ・メレスギル(p3n000235)
 NPCです。同行して一緒に捜索してくれます。
 メタな事を書くと、リクシナがPC立ち絵を設定できないので、無人よりはNPC立たせておいた方が寂しくないかな、という程度の同行NPCですが、せっかくなのでささやかにお菓子(桜風味のバウムクーヘン)を持たせておきました。よければ、休憩する時にでもお召し上がりください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。安心!

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 子猫物語完了
  • GM名透明空気
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年05月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
風花(p3p010364)
双名弓手
雨涵(p3p010371)
女子力(物理)
※参加確定済み※
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠
※参加確定済み※
紲 董馬(p3p010456)
紲家

リプレイ


 ――ユキちゃんが危ない……!?

 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の脳裏に小さなドラネコの姿が過る。ころんと転がる無防備な愛らしさ、触れたふわふわの毛並みと、温もり。

 ――あの時、俺はいつでも助けるよって言ったんだ。
 イズマは2匹の使い魔を走らせた。
 ――約束は必ず守るよ。
 だから、待っていて。

「おやおや、ドラネコの脱走劇ですか。ペイト側のドラネコですとそりゃあ外への好奇心が勝っちゃいますよね」
 風花(p3p010364)は絢爛の魔弓を携えて目隠し越しに仲間たちを見ている。

 外の陽にかざす指に煌めく彩は透き通る涼しさで、空と緑の息吹がした。
「風花さんはウェスタから来たんだったね」
 好奇心と人懐こさがよく晴れた青空みたいに気持ちよく、少年の声色に乗って風に遊ぶ。
「にゃーにゃーにゃーんにゃーにゃにゃーん♪」
 ドラネコや、ペイトのドラネコと戯れる少年は『紲家』紲 董馬(p3p010456)。
「ドラネコは可愛いね」
「とても!」
 『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は心の底から同意して、ユキにたくさんの初めてを旅する自分を重ねた。
「初めての世界にわくわくする気持ち……わかります」
 でもここは覇竜、危険も多い場所だから、と二人は顔を見合わせた時。
「ユキ、外出ちゃったかー。きっと怖がってるだろうな。早く見付けてあげないとなー?」
 『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)が素直な声色を響かせたから。
「迷子になっちゃったらきっと寂しいだろうなぁ。早く見つけてあげないとね」
「きっと怖がっているはずです。早く見つけないと……!」
 三人は一緒に頷いた。

「覇竜の地の同胞は、どうしてこうもか弱いのでしょうか。……確実に救い出しましょう」
 猫といえば『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)――と、覇竜の民の中にも名を思いつく者が多くなりつつある最近。
「好奇心ドラネコをも……いえ、外のドラネコならワイバーンにも乗るとも聞きますが……」
 風花は可愛さを武器にするドラネコの一面を語りつつ、クーアが抱っこする1匹に指を差し出した。ふんふん、と興味を示す子を撫でるクーアの手は優しい。
「うちにドラネコは複数いるのですが、そのうちの一匹を連れてきたのです」
 名前はまだない、と告げると熾煇が反射の速度で「じゃあナツメかな!」董馬はそんな熾煇に笑って、ドラネコに混ざるワンコに気づいた。『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が連れるポメ太郎だ。
「普段からお前は屋敷の中でドラネコ達と遊んでいる様だし、迷子にならない様に見てやっておいてくれ。出来るな、ポメ太郎?」
「わんっ!(任せてください! やっちゃいますよ!)」
 ベネディクトがドラネコ達にのしかかられているポメ太郎を見ながらお願いをすれば、やる気に満ちたお返事が返されるのを見て、竜化姿の熾煇が尻尾を揺らしてお手伝い。
「ドラネコ同士だと緊張もほぐれるだろうから、シロを連れてきたぞ」
 ふわふわのドラネコ、シロが問いかけるような目を向ければ、ポメ太郎は熾煇と合わせるように「わんわんっ(どうぞどうぞ!)」もふもふ尻尾を、ふりふり「わふっ(何匹乗ってもだいじょうぶっ)」。わふわふ、にゃーん! ――に溶け込んで違和感のない熾煇は、けれどしっかりした口調で呟いた。
「でもこいつらも外は危険だから、きちんと守ってあげないと駄目だな」

 ベネディクトは時折注がれるポメ太郎の視線に「その調子だ」と応えてあげつつ、
「そういえばそのユキちゃんとやらの好物等は無いかな? 探すのにもそうだし、もし見つけた時は与えてやったりすれば少しは落ち着けないかなと思うんだが」と紫睿に問いかけたので、ユーフォニーも「ユキちゃんの匂いがわかるものはありますか?」と声をあげた。紫睿はなるほどと感心した目をして、ペュール(細長いパウチから絞り出す液状おやつ、かつお味)とユキのお気に入りの毛布を持たせてくれた。

 ――冒険は「初めまして」と共に始まる事が多いと、『女子力(物理)』雨涵(p3p010371)はパパとママによくお話している。パパは心配そうにする事も多いけれど、ママは素敵ねって笑ってくれて、お土産話を楽しみにしているわと送り出してくれるのだ。
「熾煇くん。わたし達、はじめましてだね。今日は声をかけてくれてありがとう。紲さんのお家の子だよね? 有名だから知ってる」
 紲さんのお家は、とっても賑やか。そうお話したらお兄ちゃまは「うちだって賑やかだ」と負けん気を見せていたのは、内緒のお話。
「雨涵! よろしくなー!」
 ――お友達も初めましての人も、みんなで協力するのは嬉しい。雨涵はそっと胸元で導きの輝石を握る。
「待っててね、ユキちゃん」
 とくんとくんとあったかな脈がリズムを刻んで、ここにいないユキに風が繋がるような気がする。「雨涵ならゆーちゃんかな?」と風鈴めいた涼やかな声が笑う。
「ゆーちゃんのおうちで楽しい冒険話ができるといいよね。シキちゃんも一緒だし、がんばるぞー」

「猫は案外逸れた近くにいる、とも? まずはクロたち、ニャー合唱を」
 風花が洞窟の出口にポメ太郎とドラネコを並べて鳴き声大合唱を指揮しようとすると、ギフト持ちのイズマも手伝ってくれる。
 にゃっ
 みゃー
 うにゃ!
「どれがイズマさんの鳴き真似声でしょうクイズ!」
 わんっ――気合が入ったスタートになりましたよ! と、ポメ太郎は報告したのでした。



「白いドラネコを見なかったか?」
 イズマが問いかける声が風に攫われていく――緑と土の薫りに包まれて、手分けしての捜索が進んでいる。

「周囲に棲むのは大きな生物ばかり、となれば逆説的に小動物のいた形跡があれば近くにユキさんがいる可能性が高い、はず」
 クーアが言えば、イズマが小ハムスターの使い魔を掌に乗せて「狭い隙間にいないか見てみよう」と頷いた。

 ――どっちに行ったかなぁ……足跡とかあったら良いんだけど。

「さて、見通しはそう悪くなさそうだが……地面の穴等に隠れているとなると、なかなか直ぐに見つけるというのは難しそうだな」
 ベネディクトが開けた視野に注意を払っている。
「出来る限り早く見つけてやりたいし、何とかして見せようか」
「こっそりね、そーっとそーっと」
 董馬は日差しに煌めくアクセサリーを手で押さえて、闊歩するアダマンアントから遠ざかる。
「手分けしてたらスリリングすぎる鉢合わせ……」
「いざとなれば足止めしますよ」
 クーアがふぉーれの構えを見せれば「わー安心」と八重歯をみせて笑む董馬。イズマはサッと秘密兵器を取り出した。表面に草まで貼り付けたダンボールは味方の気配を遮断してくれるお得なセット、8人分。
「ローレットダンボールの出番かな」
 全員がお揃いの格好でしばし身を潜めれば、脅威が遠ざかる気配がした。

「こんな風に、ユキちゃんも隠れているのかな」
 雨涵が「いざとなれば身を挺してユキちゃんを庇うよ」と意気込んでいるから、風花は「そんな事態にならないよう努めましょう。腹筋で大根おろし出来ちゃうくらい仕上がってますし」とアイテムを準備した。

「みんな、隠れるならどんな所に隠れるー?」
「もしミーちゃんたちならどこに隠れる?」
「ニャー?」
 ちゃっかり熾煇を膝に乗せた董馬とドラネコのミーちゃん(ミーフィア)を抱っこしたユーフォニーがドラネコたちの意見をきいている。
「怖がってるなら狭いところに入ってたりするかな」
 熾煇がヘビの使い魔をしゅるりと這わせて、「実はあのヘビも『巳(ミー)ちゃん』って言うんだ」と笑う。
「他の動物よりもヘビは岩陰にも隠れられるし、生き物とそうじゃないものの判別もできるから、意外と役に立つんだぞ」

「あっ、使い魔が追いかけられてます……っ」
 五感を共有する使い魔のリーちゃんがワイバーンから逃げているのがわかって、ユーフォニーがすこし慌てた。ユーフォニーには俯瞰するように周辺が視えて、草木に紛れる獣の匂いや鳴き声が感じ取れていた。
「リーちゃん、東に隠れる場所があるからそっちに……」
 指示を出すうちに、ワイバーンがくるりと方向を変えて今度は此方に進路を切っている。一行は上空に気を付けながら道を選んだ。

「進行方向に今度は別のアダマンアントがいますね」
 風花が上と下とを見比べるようにして、「囮を使いますか」と提案した。

 どどどーん! 安全確実が謳い文句の音と光が弾けて、怪盗アシカール御用達とウワサのパンツァーファウスト型クラッカーが敵を引き付ける。
「今のうち」
 雨涵がドラネコたちを抱っこして走り抜けるのを董馬が「わー、ゆーちゃんたのもしーい。おっきー、かっこいー」とニコニコ褒める背中で雷鳴がぴしゃりと宙を迸る。40メートルの距離で風花の囮に紛れるように敵へとライトニングを放った本人は口元に手を当てて「メッ!」――振り返る目には、いたずらっ子のような煌めきがある。

 逃げる先でさらに蠢く怪しげな亜竜が見えれば、ベネディクトとイズマがスピードをあげて全員を守るように位置取り、敵を威圧する。
 ――此方に手を出してきた場合は容赦無く行く。
 ――俺たちは戦うべきではない相手だと教えてあげよう。

 しばらく行けば、地上周辺の敵を振り切れたようで静かな探索時間が訪れた。風花は肩にドラネコのクロを乗せて静穏な隠密気配で周囲を探る。辺りは、ゴロゴロと岩が転がっていた。
「クロ、見つけたら教えてくださいね」
 肩でくつろぐクロは風花の役に立てるのが嬉しい様子で、長いひげをそよそよさせた。

 助けを求める声に気付いたのは、そんな時。クーアと風花が素早く視線を絡め合い、雨涵が微かな呼吸音を聞き分け、情報が共有される。

 ――この近くにいる!
 確信めいた強い予感を胸に、ベネディクトは預かったおやつを取り出した。

「あの岩はおかしいな」
 イズマが示した岩にクーアのエネミーサーチが引っかかる。
「あの怪しい岩は、岩亜竜です」
「匂いは、普通の岩ととてもよく似ていますね……」
 ユーフォニーが不思議そうに岩を見つめた。そして、ぱちりと目が合った。岩がゆっくりと揺れて起き上がる――

「お願いしたら通してくれないかな」
「こんなこともあろうかと」
 董馬の呟きにイズマが取り出したのは生のロバ肉だった。
「イズマさん、用意がいい!」
 ポメ太郎が勇敢にドラネコたちの前に出て、庇うように仁王立ちをしている。隣にベネディクトが並べば、ポメ太郎はふりふり尻尾を振った。
「お肉なら後であげるから通してくれないかな、僕は迷子を探しに来ただけんだよぅ」
 董馬がイズマに視線を向ける。頷いたイズマがぽーんとロバ肉を放ると、岩亜竜は興味の対象を移した様子でのそのそと移動していった。



 ――お外は怖い!
 何もかも、おっかない!
 そんな時――声が聞こえた。匂いを感じた。

 一行は、ユキを見つけた。岩影に潜む小さな子は、ふるふる震えて救いを待っていた。

 イズマが猫の鳴き声で呼びかけた。
「クロ、確保です」
「にゃっ」
 風花の意を汲んだクロがユキに駆け寄る。熾煇もシロを向かわせた。毛色の違う、けれど紛れもない同族が愛嬌たっぷり寄って来て、大丈夫? と心配してくれたから、ユキはうるうるした。
「にゃぁ!」
 ――よかった。仲間がきてくれた!

「ねぇ、一緒におじさんの所に帰ろう。みんな仲良しだよー怖くないよー」
 董馬は優しく手を差し伸べた。その手の優しさがペイトの人たちによく似ていたから、ユキは安心した。
「みゃぁ……っ」
 ――ドラゴニアの手だ!
「一緒に帰ろ」
「一緒に帰りましょう」
 クーアも声を重ねて、猫神様を通じてユキを落ち着かせた。

 夜妖憑き『猫神様』はその名の通りねこのかみさま。
 守り、瞶めるもの。想いを感じ取り、こころを伝えるもの。

「すーごくおじさん心配してたんだよ。帰ったらいっぱい一緒にいてあげてね」
 董馬がユキを抱き上げる。ちいさな子ドラネコの体はあったかくて、柔らかかった。

「皆で戻ろう、おじさんも心配しているよ」
 ベネディクトがユキの好物のペュールを差し出して、ユーフォニーがユキのお気に入りの毛布で包み込んであげた。
「怖かったね……もう大丈夫だよ」
 ユキはお気に入りの毛布に安心した様子でくるまるのを見て、イズマは「この前見た時より大きくなったかな」と目を瞬かせた。
「もう大丈夫だよ。お家に帰ろう、ユキちゃん」
 イズマが微笑めば、その宝石のような綺麗な瞳に見覚えがあったユキは嬉しそうに「にゃあ!」と鳴いた。
「帰ったらマリエラさんのお菓子でお茶会しよう? 次に冒険する時は、一人じゃなくて俺達と一緒に行こうな」
「にゃあ!」
「わたしのこと覚えてるかな? みんなも一緒、お友達もたくさん来てくれたよ」
 雨涵が熾煇を抱っこしてユキを覗き込めば、ユキは目をキラキラさせた。
「怖かったね……でも、もう大丈夫。お家へ帰ろう。紫睿のおじちゃんも、お母さんも、ユキちゃんのこと心配してる」
「にゃあ……!」
「ユキー、怖かったなー? もう大丈夫だぞー?」
 熾煇は雨涵のあったかな腕の中でにっこりして、竜の手でユキを撫でてあげたのだった。
「エーちゃんリーちゃん、紫睿さんとタマさんを呼べるかな……?」
 ユーフォニーの使い魔たちが一足先に飛んでいき、紫睿とタマを連れてくる。再会した一行は、木陰で揃いのダンボールを被り、休憩を取る事にした。



「わたし、頑張ったらお腹空いちゃった」
 雨涵は桜風味のバウムクーヘンを分け合って、新しいお友達と一緒にぱくりっ。

 上品な薄ピンクのバウムクーヘンは、ホワイトチョコレートを練りこんであるみたい。ほんのり塩気も感じる甘さは優しくて、一瞬で過ぎてしまう春に似ている。
「おいしいね」
「おいしー!」
 自然と零れる笑顔――美味しさは一瞬で、笑顔はそんな美味しさからくるものだけど、それだけが理由でもない。
「シキちゃん、あーん」
 董馬が滑らかな竜肌を楽しんでいる。
「ふたりは、仲が好いんだね」
「もふもふもぐもぐタイムですね!」
 ユーフォニーも持ってきたワームの干し肉とマリエラのお菓子を並べて、はしゃぐドラネコたちににこにこ。

 皆さんお疲れ様でした! とわふわふしているポメ太郎を抱きあげて、ベネディクトが「ご褒美をあげないとな」と呟けばポメ太郎は短いあんよをわちゃわちゃさせて、幸せそうな顔をした。
「わんっ」
 ――大好きなご主人様と一緒にいられるのが、なによりのご褒美ですとも!

 エーちゃん、リーちゃん、クーちゃん、ハーちゃん、シーちゃん。
「統一性があって素敵ですね」
 ユーフォニーが順に可愛い子たちを紹介してくれるから、クーアはなるほどとお菓子をつまんだ。
「ですから、ナッちゃんというのはいかがでしょうか」
「ナッちゃん……夏を感じるのです」
 果たして自分の名前は何になるのか。まだ名前の決まらないドラネコは興味津々と言った顔でクーアを見上げて、「ごろごろ……♪」と喉を鳴らして頬をすりすりとさせた。
 ――どんな名前でも、楽しみ♪
 クーアの耳がぴょこりと揺れて、そんな声を拾い上げていた。尾の先がゆらりとリズムを刻めば、数匹のドラネコが「みゃっ」「かかかか」と夢中になっている。
「クーアさんの尻尾にドラネコたちが」
 呟いたイズマの視線の先で、風花のクロと熾煇のシロが2匹並んでそっくり同じ仕草でクーアの尻尾の先を首と目の動きで追いかけている。

「みゃー!」
 ユキが元気いっぱい、ドラネコの輪に入り込んで一緒になってじゃれている。紫睿とタマは微笑ましくそれを見守って――「かかかっ」タマが一緒になってじゃれ始めると、雨涵とユーフォニーが顔を見合わせてくすくすと笑った。

 日差しが輝く世界に、楽しい音が溢れている。
 綺麗な色が混ざって、温もりを生んでいる。

「怖い思い出のままにしたくなかったんです」
 ユーフォニーは陽光とその陰が織り成す明るさと安らぎの中で自分の音を紡いで響かせた。

 ――目に映る景色、風の匂い、おひさまの暖かさの下でみんなで過ごす時間……、
 危険も多いけれど、この世界には心が惹かれるものもたくさんあること……ユキちゃんに、伝わりました、ね。

「――にゃぁ!」
 なんて、嬉しそうな声。

 風花はいつか思ったように大宴会に想いを馳せつつ、人懐こく前足をぽふりとさせて膝に体重を乗せ、腕に自分から飛び込んできて「ここが落ち着く場所」とばかりに丸くなるユキの体温とふわふわもふもふの毛並みを堪能しつつ、この小さな冒険の果てにかけがえのない成果を共に掴んだ仲間たちを順に視た。目を隠していても、個性豊かな笑顔やあたたかさははっきりと感じられる。やがてクロがやってきて、ユキの負けじと風花の懐に乗っかってくる。
 ――ご主人様のお膝は、譲らない……なんて。

 その日、地上には穏やかな風が吹いていて、疎らにそよぐ緑のあわいには、すこし乾いた土の肌とゴロゴロした自然の石や岩が転がっていました。
 そんな中、仲間たちは一緒に歩いていったのでした。
 小さな何かを探すための冒険です。あっという間に時は過ぎていきました。
 ――その短い時間には、メンバーにしかわからない何かがあったのでした。

成否

大成功

MVP

ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さん。
無事、ユキちゃんはペイトに帰ることができました。
マリエラも安心した様子で、「ありがとうございました!」とお礼を言っています。
MVPは「ユキの初めての冒険の思い出を怖い思い出ではなく楽しい思い出に」という素敵な思いやりを魅せてくださったあなたに。初めての冒険は、とっても楽しい思い出になったようです。

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