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シナリオ詳細

<覇竜侵食>集落レエルン攻防戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●レエルン崩壊
 小集落、レエルン。中規模の竜の骨と、岩山に護られたそこは、小集落、と呼ばれてはいるものの、比較的大きな規模を誇った集落ではあった。
 常駐する戦士団は、時に小型の亜竜を迎撃できるほどの力を誇っていた。安定した、安全な集落だった、といっても間違いないだろう。
 人々は平和な生活を育み、街には笑顔があふれていた。覇竜領域では、どこにでもある、満ち足りた亜竜種たちの生活は。
 その日、突如として崩壊した。
 岩盤を突き破ってやってきた異形の怪物たちは、瞬く間に集落内部に突入。あたりを破壊し、人命を奪い――いや、食糧とすべく収奪した。その怪物の名はアダマンアント――集落イルナークを崩壊させた、恐るべき生命体。
 クイーンに率いられたアダマンアントは、イレギュラーズ達の幾たびの衝突を経て、より直接的な『食料の収奪』――つまり、亜竜種たちの小集落への襲撃に出たのである。
 レエルンもその標的となり、標的となった集落の末路はすべて同じものだった。全て、食い荒らされる。
 戦士団たちの決死の抵抗により、集落奥地に立てこもることに成功した住民たちだったが、しかし反撃の時は訪れず、間断なく繰り返されるアダマンアントたちの猛攻に、集落は陥落寸前であった。
 そして、この日……。
 幾度かの迎撃を行ってこれた戦士団たちの限界が、ついに訪れようとしていた。
「くそ……」
 力なく叫ぶ、リザードマン風の戦士。そのボロボロの槍が、アダマンアントに突き刺さり、絶命――させた刹那、その死体を乗り越えてやってきた新たなアダマンアントが、隙を晒した戦士に飛び掛かった。ぎゃあ、と悲鳴を上げ、その身体が爪で切り裂かれた。
「ジェダ!」
 仲間の戦士が叫び、慌ててアダマンアントの硬い外角の隙間に、槍を抉り込んだ。だが、その程度では止まらない。アダマンアントは振り返ると、残る戦士を殴り飛ばす。吹き飛ばされた戦士が呻くのへ、残る戦士が必死で殴り掛かる。
「くそ! くそ! 放せ!」
 だが、戦士たちが力を結集して、ようやく一匹倒せるか倒せないか、というのがアダマンアントだ。このままでは、殺されてしまう――そう、戦士たちが思った瞬間。
 救い手は、そんな時にこそ現れるものだ。
「とおお、りゃあっ!!」
 声が響く。刹那、飛び込んできたその影が突き出した手から放たれた強烈な衝撃波が、アダマンアントを激しく吹き飛ばす! 遅れてやってきた衝撃波に、戦士たちが身構えた。壁にたたきつけられたアダマンアントが起き上がるのに対し、敢然と立ちはだかるのは一人の女性。
「出ましたね! あだまんあんと! ですが、うちらが来たからにはもう安心! です!」
 ぴっ、と指さすその女=ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)。アダマンアントはゆっくりと起き上がると、猛烈に突進するように駆けだし――その進行方向に、強烈な砲撃が突き刺さる!
「させないですよ!」
 ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)だ! 構えた滑腔砲から放たれた砲弾が、大地に着弾! アダマンアントの足を止めた刹那、突撃したブランシュが振り下ろしたメイスが、アダマンアントの硬い外角を容易に粉砕した。ぐしゃ、と砕けたアダマンアントが、まるで岩石が崩壊するかのように崩れ落ちる。
「す、すごい! あのアダマンアントをいとも簡単に……!?」
 戦士たちが声をあげる中、
「大丈夫か?」
 そう声をかけたのは、レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)だ。
「ローレットの……救援か……?」
 尋ねる戦士に、レイヴンは頷く。
「そうだ。立てるか? そちらの彼は……」
「まだ! 生きてます!」
 ウテナが言うその腕の中には、先ほど倒れたジェダという戦士の姿があった。傷は深いが、何とか生き延びている様だ。
「よし。ワタシたちが来たからには安心……といいたい所だが、ひとまずこの集落は放棄しなければならない」
 レイヴンが言うのへ、戦士は頷いた。
「ああ、どうやら敵の巣につながっちまってるようだな。敵の大元を潰さなければ、ここじゃあ暮らせない」
「そういうわけだ。外に移動車両を待たせてある。護衛は他の集落の戦士団が引き継いでくれるから、安心して離脱に専念してほしい」
「アンタらは……」
「ブランシュ達は、しんがりなのですよ!」
 ブランシュが言った。
「皆さんが逃げるのを、追っかけられたら大変ですからね! しばらくとどまって、警戒を……」
 ブランシュがそう声をあげた刹那、大地が揺れた。地震か? いや、違う。何者かが大地を掘り進めて、ここまで進んできているのだ……!
「この振動……小型ではないな?」
 レイヴンが呟いた刹那! 大地を抉り、巨大なそれが姿を現した!
「でっかい!!」
 ウテナが叫ぶ。そう、それは巨大なアダマンアントだ。外見は、さながら亜竜か竜のようである。一目見ただけで、下位の兵隊とは違う相手なのだと、皆は理解した。
「今すぐ避難を」
 レイヴンが言った。
「ワタシたちは、こいつを止める!」
 轟! 上位種が吠える! 同時、ぼこ、ぼこ、と地面を割って、三体のアダマンアントが姿を現した!
「護衛、ですか? 少し厳しいかもですが……!」
 ブランシュが、その巨大なメイスを構えた。不敵に笑ってみせる。
「ブランシュ達は、負けないですよ!」
 イレギュラーズ達が、一斉に武器を構える。敵は巨大な上位種、そして三体のアダマンアント通常種だ!
 イレギュラーズ達がこの敵を下すことができなければ、逃げ遅れた集落の住民は、全てアダマンアントの『食料』として連れ去られるだろう。それを許すわけにはいかない!
「行きますよ! みなさん!」
 ウテナが叫ぶと同時に、イレギュラーズ達はアダマンアントの群れへと斬り込んだ! さぁ、この窮地を突破するのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 集落レエルンの落日。その幕引きは、アダマンアントたちの襲撃。
 今は落ち延びても、住民たち全員が脱出できれば、レエルンが復活する日は確実にやってきます。
 そのためにも、ここでアダマンアントたちを倒しましょう!

●成功条件
 すべての『アダマンアント』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 小集落レエルン。それなりの規模を誇った平和な集落でしたが、アダマンアントの大作戦の標的となり、襲撃されてしまいます。
 戦士団によって持ちこたえていたものの、ついに崩壊の時が。その時救援に訪れたのが、皆さん、ローレット・イレギュラーズです。
 皆さんは、集落の住民たちを脱出させようとしますが、それを阻止せんとばかりに、アダマンアントの上位種である戦闘種が現れます。
 この戦闘種をほうっておいては、住民達は脱出ができません。彼らの命は、皆さんの双肩にかかっています。
 作戦決行タイミングは昼。周囲には充分な明かりと戦闘フィールドが広がっているものとします。戦闘に注力してください。

●エネミーデータ
 アダマンアント・通常種 ×3
  通常種の、いわゆるアダマンアントです。鉱石のように硬い殻と、鋭い顎、酸を吐き出す攻撃を得手とします。
  鋭い顎の攻撃には『出血系列』が、酸は『毒系列』のように皆さんの身体を蝕みます。
  上位種には絶対服従のようで、上位種の意のままに動きます。上位種のサポートとして、盾役や、此方の隙を作るための牽制攻撃などを行ってくるでしょう。
  半面、上位種がいなくなれば、彼らの戦法は瓦解します。上位種が居なくなった場合は、連携もなく突撃を繰り返すだけの存在になるでしょう。もちろん、こいつらをフリーにしたまま上位種を叩く……というのは、言うほど簡単ではありませんが。

 アダマンアント・上位種 ×1
  上位種、戦闘種と呼ばれるアダマンアントです。亜竜や竜を模したような外見をしています。
  通常種同様の硬い殻は同様に、強烈な『渾身』の一撃を繰り出す巨大な顎による攻撃や、『火炎系列』『凍結系列』などを打ち分ける、ビームのようなブレス攻撃など、その戦闘能力は亜竜に引けを取りません。
  また、司令塔としての役割も持っているらしく、こいつが生き残っている限り、通常種は組織だった攻撃を行います。
  いずれにせよ、楽な相手ではありません。充分な注意を。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <覇竜侵食>集落レエルン攻防戦完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年05月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
セララ(p3p000273)
魔法騎士
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

リプレイ

●迎撃、救出
 レエルンはこの日、落日を迎えようとしていた。
 次々と外へとに出す人々。それを守るべく奮闘するイレギュラーズ達。
 だが、これは敗走ではない。未来に命を繋ぐための、戦いの一つなのだ。
 さて、レエルンの落日を招いたのは、異形の怪物たち――アダマンアントだ。今、イレギュラーズ達が激闘を繰り広げている相手がそう。
 亜竜や竜を思わせる、ひときわ巨大な体躯をした上位種。それが口いっぱいに息を吸い込んだ刹那、その周辺の熱が一気に上がったのを、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は確認していた。
「高熱源! 多分、炎系のブレス!」
 セララが警戒を促すのへ、仲間達が一斉に行動に移す。『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は、神の軍馬の如き動きを見せながら、跳躍。
「皆さんは回避を! ブランシュはぶっとばすでありますよ!!」
 叫び、ブラスターメイスを構えた。上位種がその口に破滅的な熱を抱え、一気に吐き出す! 光の帯が、大地を切り裂かんばかりに解き放たれる刹那、ブランシュのメイスからうち放たれた巨大な弾丸が、そのブレスに正面から突入! 弾丸とブレスが衝突、擦過し、その熱が爆発せんばかりに周囲に飛び散る! 勢いを失ったブレスを、イレギュラーズ達は回避。一方、ブランシュの銃弾が、ブレスを貫きながら上位種の口腔へと突入――だが、上位種はばくり、と口を閉じると、その銃弾は噛みつき粉砕してみせた。
「やりますね! 流石、上位種の名は伊達ではありません!」
 ブランシュが跳躍。走り抜けるのへ、上位種はその首をもたげるように、ブランシュを視線でおった。反応するように、通常種たちが動き出すが、その隊列は些か歪なものである。
「……ジャミングだけでは不充分か」
 『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)がわずかに眉を動かした。敵がどのような手段で連携をとっているのかはわからない。うまく潰せればという事ではあったが、少なくとも多少の望外の効果はあったようだ。
「昆虫は、フェロモンを利用して意思の疎通を図ることがある」
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が言う。
「ならば、アダマンアント……全体に対して言えた事ではないが、少なくともこの小隊は、フェロモンによる統制を行っているのかもしれない」
「そうなると、効果的なのはワタシの手札にはないか」
「だが、口をふさいだ程度の効果はありそうだ。連携にもたつきが見られる」
 錬の言う通り、彼らの動きはワンテンポ遅れているように見える。ジャミングの効果は、決して馬鹿にはできないとみていいだろう。
「よし……このまま、敵を突破する。
 連携が生きているならば、それをさせなければいいだけだ。
 上位種、通常種、同時に攻撃を仕掛けるぞ」
 レイヴンの言葉に、仲間達は頷いた。一気に駆けだせば、上位種の口元、今度は極大の冷気を伴う。
「熱が下がった! 多分アイスブレス!」
 セララが叫ぶ。
「了解だ。散開しよう」
 『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)が声をあげる。それに頷いた仲間達が一斉に散開!
「おっと、あなたの相手は、ブランシュですよ!」
 ブランシュがメイスから再び銃弾を発射! 攻撃を妨害すべく撃ち払うのへ、上位種はその首をもたげ、ブランシュを狙って氷のブレスを吐き出した! ブランシュは、メイスを盾にするように、そのブレスの奔流に身体を突っ込む。ダイヤモンドダストがその身を傷つけ、体の芯まで凍りそうな痛みを引き出すが、ブランシュは構わず突撃! 上位種の顔面を、手にしたメイスでぶん殴ってみせる!
「お返しですよー!」
 が、それで倒れるほど上位種ももろくはない。まだ体力も充分だ。上位種はブレスを吐ききると、今度はその巨大な口を開いて、ブランシュにかみついた。咄嗟にメイスでそれを受け止めるが、強大なメイスがぎちぎちと音をたてるほどに、その嚙みつきは強烈。まともに食らえば、強烈なダメージは避けられぬような、渾身の一撃。
「引き受けますわ、ブランシュ」
 『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)が、光宿す霊刀を振るう。星を描けば、放たれた星の光が、横合いから上位種の顔面を殴りつけた。拘束を弱めた顎からメイスを引きはがして、ブランシュが距離をとる。
「お願いします!」
「任されましたわ」
 玉兎が二撃目を放つ! 着弾する星が、きらびやかな光と共に上位種の装甲を砕く。が、まだ体力としては充分なのだろう。上位種はちらり、と玉兎を見る。足止めを狙ったのか、通常種たちが玉兎を狙い、進軍を開始――。
「させない! です!」
 『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)だ!
「ふっとべー!!ㅤどかーん!!」
 相棒のワイバーンであるロスカの背から、衝撃術式を解き放つウテナ! 強烈な衝撃波が通常種達を撃ち、その巨体を強烈に吹き飛ばした! 上位種から距離をとることとなった通常種たちは、上位種からの命令、玉兎への妨害を実行できない!
「こっちはうちらに任せてください! 上位種は! 任せ! ました!」
 ぴっ、と敬礼してみせるウテナに、玉兎はくすりと笑ってみせる。
「任されましたわ――二回目ですわね、これ」
 刹那、上位種から放たれた氷のブレスが、玉兎を叩いた。強烈な痛みが走るが、しかし玉兎は霊刀を構え、星を描き障壁を展開。それを盾として耐えて見せる!
「竜を模そうとも、蟻は所詮蟻。その一噛み、その吐息如きでわたくしは揺らぎませんわ。
 群れれば家屋を傾かせる事もございましょうが、それでも星を堕とすには遥か程遠い」
 強気に笑ってみせる玉兎。果たして言葉の通りか、そのブレスで玉兎を落とすことは敵わない。
「耐えてくれ、さっさと仕留める!」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が叫ぶ。ティンダロスの背に乗り、戦場を遊撃するマカライトは、青白き妖刀を振るった。刃の先端から生じた鎖が、無数に編みあがって、竜の顎を思わせる巨大な牙を生み出す!
「アリというよりは、蝗害に近いな。竜を模している様だが、そのサイズでは擬態する意味もないだろう。
 さて、竜か。此方の竜も、相当凶暴だぞ?」
 刃を振り下ろすと、牙が中空を疾駆した。敵の装甲、その継ぎ目を狙い、振り下ろされる牙が、上位種に食らいつく! ぎゅお、と悲鳴を上げた上位種の装甲が引きはがされるように宙に舞った。継ぎ目に突き刺さった牙が、上位種の肉へと食らいつく!
 上位種が通常種たちの方を見た。なにがしかの指示を出したのか。だが、それは、上位種の動きをつぶさに観察していたレイヴンにはお見通しだ。
「助けを求めるか? それを見逃してやるほど、ワタシは優しくはない」
 うち放たれた強烈な魔力砲撃が、その装甲もろとも上位種を飲み込む。ぎゅおおお、と上位種が悲鳴を上げた。装甲の隙間から、ぶすぶすと肉が焼かれた煙を吹き出しつつ、上位種は吠えた。
「その姿、いつぞやの巣穴<地下帝国>で見たぞ。
 ナイト級戦闘種、お前は、速やかに狩る」
 レイヴンが、再び強烈な魔力砲撃を打ち放つ! 敵のブレスにも負けぬほどの、強烈な熱の奔流!
「続く! このまま仕留める!」
 マカライトが叫び、再び竜鎖を編み上げる! 強烈な魔力の奔流の中を泳ぐように、鎖顎が上位種にかみついた! 魔力の渦、そして鎖顎、二つの衝撃に、上位種が悲鳴をあげる! 果たして攻撃が収まった時に、体中からぶすぶすと煙をあげ、上位種の動きが止まる。マカライトが呟いた。
「やったか……?」
「それ言っちゃだめ!」
 セララがきゃあ、と悲鳴を上げた。その言葉を表すかのように、上位種の目に再び光がともった。口元に激しく熱を湛えると、爆発せんばかりのブレスが吐き出されて、イレギュラーズ達を飲み込んだ。

●激闘、激動
 一方、通常種を相手取っていた三人、愛無・錬・ウテナたちの激闘も続いている。
「火剋金! 硬さ自慢には炎で炙るに限るな、鍛冶屋を舐めるなよ」
 錬が撃ち放つ、火炎の大砲。放たれた砲弾は空中で爆発し、花火のごとく地上に這うアリに降り注ぐ。ばぢばぢと音を立てて、炎がアリの装甲の上ではじけた。ぎちぎち、と悲鳴を上げるようにひしめくアリが、統率の取れた動きで、三体まとまり、進軍を開始する。
「やれやれ、上位種との連携は切り離されても、あちらが生きていれば残された命令には忠実に従うか……!」
 錬が嘆息する。イレギュラーズ達の作戦により、引き離され直接的な連携を殺されたアリたちであったが、しかし上位種の統率は生きているらしく、通常種たちは高度な連携を見せて見せた。通常種たちの性能にほとんど差はないが、盾となるもの、連携して攻撃し、此方の隙をつくもの。三体の連携攻撃が、イレギュラーズ達に襲い掛かる。
 二体のアリの攻撃。振るわれる、鋭い顎による噛みつき攻撃に、愛無はその手を振るって受け止める。
「上位種の命令には絶対服従。兵としては理想的だが。遊びがない分、機械的で読みやすい。
 だが――」
 愛無が腕を振るい、アリを引きはがした。そのまま後方へと跳躍――そこへ、残っていたアリが、身体を生かしたタックルをぶつけてくる。愛無はそれを受けてしまうが、しかし空中で身を翻し、勢いを殺すことでダメージを最小限へと抑えた。
「ふむ、事実、兵としては理想的なのだよな。
 命を恐れず、突撃するだけなら容易い。
 機械的に、連携をするだけなら容易い。
 その二つが合わされば――これが達人同士の戦いでは0点だが、ただ僕たちを足止めするだけならば、100点をあげられる」
 愛無としても、上位種を刈り取りたい所だが――アリたちはそれを許さない。元より、通常種が前衛を務め、後方から強力な砲撃を撃つ、というスタイルがこのアリたちの戦い方なら、少なくとも、前衛の通常種も相応に厄介な相手であり、此方の最大戦力でぶつかってもふさわしい相手だといえる。
「戦力の二分は失敗だったか?」
 錬が言う。いや、とすぐに思い直した。少なくとも、愚直に正面からぶつかり、上位種をしばらくフリーにするよりはいいはずだ。事実、後方から砲撃をし、此方を苦しめる予定だった上位種は、その動きを派手に制限されている。
「間違ってはいない……ならば、この苦しさは予定通りの苦しさ、という事だ」
「なるほど、です!」
 ウテナが、ロスカの背に乗りながら、頷く。ロスカの背で手を掲げれば、ロスカのそれと共に放たれる強烈な業火が、アリを飲み込んだ。盾役のアリが、イレギュラーズ達の猛攻に、ようやく限界を迎えたらしい。ウテナとロスカの炎に包まれて、その装甲もろとも炭化して消えていく。それは、ダイヤが燃えるような様か。
「でも、一歩一歩進めてはいます! だから問題なし! このまま行きましょう!
 なにより――うちらが負けたら、まだ避難しきっていないレエルンの人達に、アリたちが追いつてしまうかも、ですから!」
「そうだ」
 愛無が頷く。避難は開始されても、勿論まだまだ終わってはいない。イレギュラーズの敗北は、すなわち集落の民を危険にさらすことに通じる。
「僕たちは、ここで耐え、踏ん張らないといけないわけだな」
「しかしイレギュラーズとして殿も慣れたもんだ。そのまま敵を撃滅するのもな!」
 錬が再び、火炎の大砲を打ち放つ。降り注ぐ熱が、アリたちを焼く。残る二体のアリは、再び連携を伴い、突撃してきた。引き受けのは、愛無だ。時間差を生んで放たれる、愛無の隙をついた蟻酸の一撃が、愛無の腕に付着した。じゅう、と熱を以て愛無の体力を奪う、毒素の液。その涼しい顔の、眉をわずかに潜ませながら、愛無は距離をとる。
「チキンレースは望むところだ、アリども。
 効率的な兵士と、僕たち不確定要素(イレギュラーズ)。どちらが有用か、ここで教えてやろう」

 ――さて、視点を上位種側へと戻そう。元より上位種の戦闘能力はつい通常種とは一段ランクが上がる。五名のイレギュラーズ達による猛攻は、着実に上位種の体力をそぎ落とし、特に渾身の一撃など潰せてはいたものの、吹き荒れるブレス、そして力が弱まっても破壊的な威力を誇る噛みつきは、引き続きイレギュラーズ達を、特に盾となって駆けまわる玉兎を疲弊させていた。
「――っ」
 息をのみ、その腕を抱える玉兎。放たれた灼熱のブレスは、躱し損ねた玉兎の腕を焼き、燃えるような痛みがその腕に走る。
「ふふ、まだまだ、ですわよ?」
 強気に笑ってみせる玉兎だが、既に可能性の箱はこじ開けている。恐らく、もう1,2撃。耐えられてもそれが限度か。
「まずいか? いや、押しているはずだ」
 胸中で、すまない、と玉兎に呟きつつ、マカライトは再び鎖竜の顎を解き放つ。正面から食らいつくそれは、竜を模した上位種の姿もあり、竜同士の食らい合いを想起させる。だが、この度打ち克ったのは、マカライトの鎖竜だ。ばぎん、と装甲を噛み砕くそれが、上位種に強烈なダメージを与える。
「そろそろ、黙ってもらいたい所だな!」
 レイヴンの魔力砲撃が、その噛み砕かれた装甲目がけて放たれる! じゅうあ、と肉を焼く音を立てて、砕かれた装甲から、上位種の内部の筋肉が焼けて散った。上位集は痛みに悲鳴をあげつつも、しかしその目はまだ死んではいない! があ、と方向をあげるや、再び口中に莫大なエネルギーを蓄積させる。
「高熱? ううん、高冷? 合わさってる、滅茶苦茶だよ! 隠し玉かな!?」
 セララが、わぁ、と声をあげながら、駆けだした。あれを打たせてはまずい! 直感的に悟ったセララが、痛む体を引きずって、その聖剣を振るいあげ、飛ぶ!
「やらせないよ! ギガセララブレイクだぁっ!!」
 上段から振り下ろされた、強烈な刃の一撃が、上位種の顔面を殴りつけた! ばぐん、と無理矢理口を閉じられた上位種だが、しかし口中のエネルギーは発散場所を求めて激しくスパークする! 刹那の後に、それは口中ではじけた! ばぐぉん、と強烈な爆発音を鳴らし、今度は衝撃に激しく開かれた口から、拡散するように破滅のエネルギーが爆発する! 近距離からまともに直撃したセララが、受け身もとれずに吹っ飛ばされた!
「セララさん!」
 ブランシュが、慌てて飛び出し、セララを受け止めた。が、衝撃は殺しきれず、セララともどももんどりうって倒れ、地面にたたきつけられる。
「いたた……大丈夫ですか!?」
 ブランシュが頭を振りつつ声をあげるのへ、セララが何とか頷いた。
「うん、ありがと。相手は……」
「健在です! でも――」
 ブランシュの視線の先には、強烈な内部爆発を起こして、崩壊寸前の上位種の姿があった。レイヴンが、ゆっくりとその手を掲げる。
「まったく……しつこい、アリ共め。
 物量こそ最大の武器……癪ではあるがこの地はくれてやる。
 だが、人命は一つとしてくれてやることは無い!」
 放たれた、強烈な魔力砲撃! 上位種の身体を飲み込むほどの強烈な魔力の奔流が、そのボロボロの身体を、ついに融解させた。ぎおお、と悲鳴をあげながら、レイヴンの放つ魔力の渦に、上位種が消えていく――。

「ロスカ!ㅤもっと燃やしちゃってください!ㅤこのまま倒しちゃいますよ!」
 ウテナが叫ぶ。上位種の存在が消失したのか、アリたちの行動に明確な変化が見えた。連携は失せ、ただ近くにいる相手に、無思考に攻撃をぶつけるだけの、存在になり果てていた。そうなれば、対処は簡単だ。
「やれやれ、兵士としても、もう0点だぞ、君たちは」
 愛無が呆れたように言う。ウテナがロスカと共に放つ炎が、アリの装甲を誘拐させたのを見て、愛無はその隙間に『爪』を突き立てた。虫とて臓器はあるだろう。その重要なそれを、爪にて突き刺した愛無が、うん、と頷いてから手を抜くと、アリは紐のキレた操り人形のように、どう、と倒れた。
「さて、食べられるのかな、こいつは。
 食べるにしても、歯が欠けないか心配だが」
 肩をすくめる愛無。余裕の表れは、もはや敵に抵抗する余力など存在しないことの証左だ。
「ブランシュ、とどめを頼む!」
 真銀の刃にて、アリの足を切り飛ばす錬。アリが体勢を崩したのへ、メイスを振りかぶったブランシュが、突撃!
「このアリ共、地底に帰りやがれですよ!」
 がおん! と強烈な音を立てて、振り下ろされたメイスがアリの装甲と衝突した。そのまま、ぐしゃり、と頭部を潰されたアリが、力を失い、地面に倒れ伏す。
「やったー! うん、今度は言っても大丈夫!」
 セララが声をあげる。わずかに薄れた緊張に、玉兎がたまらずによろけた。
「ふぅ……流石に、少し無理をしましたわね……」
「だが、そのおかげで敵を倒せた。ありがとう」
 マカライトが言うのへ、玉兎が微笑んだ。
「さて、休憩と行きたい所だが、まだまだ撤退戦は続いている」
 レイヴンが言うのへ、皆は頷いた。
「避難する皆さんの護衛に行きましょう! 安全が確保されたとは言い難いのですから」
 ブランシュの言葉に、
「ああ、もうひと頑張りだ、皆。
 ……レエルン。今はくれてやる。だが、必ず取り返す」
 レイヴンが決意を込めて言う言葉に、仲間達は頷いた――。

成否

成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。レエルンは陥落しましたが、その集落の人々は、イレギュラーズ達の手により救出されました。
 アリたちに巣食われたレエルンですが、いつか必ず、取り返す時が訪れます。
 今は、人命を救えたことを喜び、そして救ってくれた皆さんを讃える声が、響いています。

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