シナリオ詳細
<覇竜侵食>バレルボマー
オープニング
●一難去ってまた
まずはご想像いただきたい。
豪華な服を着たツノつきのロリが仰向けに横たわり、両手両足を上げめいっぱいじたばたするさまを。
「いやじゃー! はたらきとうない! hataraki-tonight! もう軽く20件もおしごとしたんじゃから20年くらいは遊んでていいはずじゃーーーー!」
小鈴(p3p010431)である。ドラゴニアののじゃロリ(27歳)。お小遣い制が廃止され働かざるを得なくなったイレギュラーズである。
「計算式がガバガバすぎるわ……」
そんな彼女からみて、イレギュラーズ的にかなりの先輩にあたるディアナ・クラッセン(p3p007179)。じたばたする小鈴を見つめどうしたものかと腕組みしていた。
暫く観察していたら何かを諦めたのか、小鈴はだらーんと両手両足をなげだした。
「アダマンアントの時は大変だったじゃない。巣の探索もそうだったけど、その後もあちこちに沸いて出てきて……」
「むーん……」
小鈴はだらーんとしたまま天井を見つめる。
亜竜集落フリアノンの一画。よく『公園』と呼ばれる広場で、天井も高くぼんやりとした灯りがやさしい。考え事をするには丁度良い場所だ。
「そのアダマンアントのう。あれから噂とか聞いてみたんじゃが、たかが虫型モンスターくらいで集落ごと滅びるなんてありえんってハナシじゃった。
デミワイバーンの縄張りを食い荒らすなんてこともじゃ」
「やっぱり、そう思うわよね」
アトラスという巨人モンスターの縄張りを荒らし大変なことになったという事件を、ディアナもつい最近経験したばかりである。
小鈴がゆっくりと身体を起こす。
「女王がうまれた。それはいい。しかし、女王ひとつでここまで群れが危険な変化を遂げるなんてことがあるか? 明らかに何かの特異点を越えてるのじゃ」
「それこそ、女王の有無なのかもしれないけど……」
ディアナはこれまで経験した様々な依頼、そしてローレットに貯蔵される資料の内容をぽつぽつと思い出す。
元々バラバラだった種族に特別強力な個体が生まれ、それが他部族の廃絶ではなく支配と統合を求めたとき、それらは強烈な指向性をもって『多種族』への侵攻を行う。群れを成す全ての生き物に起こりうる特異点である。
探索の中で発見した『アダマンアントクイーン』の存在が、それなのだろうか? あるいは……。
「二人とも、丁度良いところにいたっス!」
ドゴンという音がするほどの足音で、青い鱗に覆われたリザードマンタイプのドラゴニアがやってきた。ディアナの倍。小鈴からすれば三倍はあろうかという巨体。
彼の名はライオリット・ベンダバール(p3p010380)。
手にはマトックのような武器が握られている……が、もう一方の手には三本のスクロールがあった。そちらの方を翳し、左右に振る。
そして、よく通る声で言った。
「アダマンアントがらみの依頼っス! この件に少しでも詳しい方ということで……ディアナさんと小鈴さんにもお声がかかってるッス」
●アダマンアント戦闘種『バレルボマー』
「ちょっと!? なによこれ!」
長い黒髪のドラゴニア女性の身体に、灰色の糸がぐるぐると巻き付いている。簀巻きといっていいほどに巻き付いたそれを、2m近い巨大さのアリとも岩石ともとれるようなモンスター『アダマンアント』が担ぎ上げる。
いくらもがいてもほどけない、どころか身体に張り付いて自由を奪う奇妙な糸だ。
「シェスタ、今助ける! じっとしていろ!」
そう叫んだのはターバンを巻いた男性ドラゴニアである。集落でも腕自慢の狩人である彼は、狩猟にも使うウッドストックのライフルをアダマンアントめがけて打ちまくった。
一発、二発。そのたびにビュッと割り込むように庇いにはいったアダマンアントが銃弾に外骨格を崩され、のろのろと走るスピードを弱めていく。しかしその間もシェスタと呼ばれた女性をかついだアダマンアントは素早く集落を離れ、走り続けていた。
「どういうこった。聞いてたハナシと違うぞ……」
舌打ちする男性ドラゴニア。アダマンアントがイルナーク集落を滅ぼしたという噂は流石に聞いていたが、人を拘束して浚うなんて話は聞いたことがない。
そこへ、陸用亜竜に跨がって駆けつけた集落警備隊がより無骨なライフルを構えて叫んだ。
「下がっていてください。あの程度の虫けら、すぐに潰して人命も救助してみせますよ」
帽子の下で目を細めた警備隊長は命令を下し、アダマンアントの集団めがけ一斉射撃。
連続する炸裂。舞い上がる砂煙。誰かが『やったか?』と呟いたその時――ズッとアダマンアントたちの中から異様な個体が姿を見せた。
全身を鈍いオリーブ色の外骨格で包んだアダマンアント。しかし体格はアリというより樽だ。ふくれあがったボディには無理があってか格子状の筋が入り、ギュバッと音を立てて開いた口からは奇妙な光が漏れている。
警備隊や猟師はその様子に驚きつつも、これはなんだと疑問を込めたつぶやきをあげた。
隊長以外は、だが。
「――まずい、『バレルボマー』だ」
隊長の言葉には三つの意味がある。
この樽型の巨大アダマンアントは、二つ名がつくほど知られているということ。
知られていながら生きているほど、駆除の手を逃れ続けているということ。
隊長が『まずい』と言葉に出してしまうほど、これが強力であるということだ。
「撤た――!」
言っている場合ではないと気付いた隊長が命令を下そうとした、その時。
『バレルボマー』の身体からポポポッと50センチ程度の樽型をした物体が飛び出した。やまなりに飛んだそれらは警備隊たちの頭上へ降り注ぎ、そして一個の例外なく、全てが爆発した。
このように、亜竜集落各所では唐突に、そして同時多発的にアダマンアントの集団による襲撃がおこっていた。
中でもライオリットたちのチームへと託された依頼は、この『バレルボマー』率いるアダマンアントの一団を撃滅すること。
そして拘束し連れ去られているドラゴニア女性シェスタを救助することである。
- <覇竜侵食>バレルボマー完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年05月02日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●バレルボマーを追って
集落から出た馬車。厳密には二足歩行の亜竜によって引かれた車に乗って、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)たちは坑道の先へと進んでいた。
非常に広大な地下空間。複雑に入り乱れたルートを覚えることはアダマンアントには難しいはずだ。
『迷宮』や『迷路』とは本来、防衛のために存在するのだから。
「けど、それにしたって突破されるのが早すぎないかしら」
『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)は亜竜を操作しながら呟いた。
「強大な相手が現れたから、それに対抗するってのは分かるわよ。分かるけれど、いくらなんでも対応する速度が速すぎないかしら?
これがアダマンアントの能力だっていうのなら、厄介なのも理解できるし……何より、倒しておかないと後が怖いわよね」
生物は対応することで生き延び、適者生存によって進化すると言われる。であれば対応能力が高いほど繁栄するはずだ。そのスピードが人類を上回ったとしたら、それは『種の置き換え』すらありうる危機だ。対応速度とそのキャパシティが無限かつ等倍で増加し続けるという乱暴な仮定での話ではあるが。
「『アダマンアント連中との小競り合い』……くらいに思ってたのにね」
車に揺られながら、『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)は表情を暗くした。
「女王を倒せば奴らは潰えるのかしら。そうだとは思うんだけど……」
ディアナは学業の中で知った『アリの社会性』というものを思い出した。
女王アリを殺した群れは永遠に働き続けるという種もあれば、フェロモンによる不妊がなくなり別個体が産卵を始めるという種もあるという。少なくとも増えることさえなくなれば脅威でなくなる程度まで間引くことも可能な筈だが……。
「20程度…と言いかけましたが、普通はこんな危険な仕事百もやってる私の方がよっぽど危篤ですね。我ながら何やってるんだろう。
にしても、火の気が荒い子の扱いは得意ですけど、これはこれはまた随分とど派手な性癖をお持ちのようで?そう思いませんか、クーア」
車内では、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)と『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が向かい合っている。
「利香。私の趣味は焔であって爆発でないのです。アレは微妙に別ジャンルなのです」
ぴしゃりと支線を遮るように手をかざすクーア。
「それにしても、この短期間で『イレギュラーズ対策』の個体が生まれるのは、いくらなんでも進化のペースが速すぎませんか?」
「オレが見てきた世界でも似たのはいた。もっとも、アダマンアントはまだマシなほうだが」
『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)が低い声で言った。
生態系再構築シナリオ。急激な進化スピードに世界の生態系が対応しきれずその生物一種のみで生態系が支配されてしまうというシナリオである。
ありえない話ではないし、実際そうなり終わった世界も紫電は見たことがあるのだろう。
「そうならないとしても、こいつらを逃してしまうとクイーンが更にオレたちを上回るように適応した個体を生み出してしまうだけだ。さっさと駆除するに限る」
「むう……」
『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)が低く唸る。
「まさか、人とか強い生物とか食べたら、その遺伝子を取り込んで新しくて強い蟻とか産まれてたりせんじゃろうな……」
「いや、まさか」
苦笑して『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)が首を振った。
「今回の襲撃は食料庫が主に狙われてたっス。やっぱり餌集めっスよ。問題なのは、人間すら餌と見なしてることっス」
そう言ってライオリットは自分と小鈴の顔を交互に指さした。
「ゾッとするのじゃ……」
覇竜領域で暮らしていれば人食い亜竜くらい珍しくない。とはいえ、非捕食者の気持ちにはなりたくないものである。
少なくとも、自分が捕食してきた肉や魚を優しく殺したという話は聞かない。逆に優しく殺してくれるという希望は捨てねばならないだろう。
しばらくすると馬車は広い空間へと出た。坑道らしいが、あまりに広いせいでスポーツ場かなにかに見える。
『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)が馬車から降り、ぼんやりと空を見上げた。
オレンジ色に光る空。もといヒカリゴケによって明るい天井がある。
「以前に別のところで坑道に踏み入った時は、此処まで奥には来ませんでしたが……。
地中にこれ程の道を築くのは圧巻ですわね。
しかし状況的に、まるで蟻の巣を潜っているようで落ち着きませんわ」
そして今からここへやってくるのは巨大なアリの群れらしい。
玉兎は肩をぶるりと震わせ、剣を手に取った。
恐怖を払う唯一の方法は、今のところ戦うことのみなのだろうから。
●
バレルボマーの一団を見つけるのは難しいことではなかった。
というより、はっきりと分かりやすい形で近づいていた。
あれほどの巨体を見落とすことはまずないし、アダマンアントたちは足音に遠慮をしない。まるで篠突く雨の如く坑道内にザァーっという足音が響いたかと思うと、遠くより一団が接近してくるのが見えた。
音の中に……こちらの気配を察知したのだろうか、ドラゴニア女性の声も混じっている。
「シェスタさんね! そのままじっとしていて、助けるわ!」
ディアナは叫ぶと、ぎゅっと密集隊形になったアダマンアントたちへと走り出す。
同じく走り出す利香。
「バレルボマーだけを引きつけられる?」
「多分? 他の兵隊アリに庇われなければ」
「なら、注意をそらす役目はお任せ下さい」
クーアはビッとピースサインを出し、次に揃えた二本指で敬礼のまねごとをするジェスチャーをした。『そっちは任せましたよ』の意図だろう。利香はそれを返し、バレルボマーをぴったり視界におさめた。
一方でクーアは大きく跳躍すると、シェスタを抱えていた運搬アリへと飛びかかる。
攻撃行動――かに見えたが、最初にとったのは両手でがしりとアダマンアントを押し止めることだった。
周囲の兵隊アリたちが、クーアのあまりのスピードに瞠目したかのように振り返る。
そしてこれ以上のちょっかいをかけられまいと数匹が運搬アリを庇うために動き、数匹がクーアを押しのけようと動き出す。
(餌を持ち帰るためとはいえ、生きた人間ひとりに執着しすぎでは?)
最初の報告にもあったように、運搬アリを攻撃しようとした際に周囲の兵隊アリが身を挺して庇おうという動きがあるように見える。
兵隊アリよりも、あるいはバレルボマーよりも餌の方が重要ということなのだろうか。
「まあなんであれ、バチバチっと焼き尽くして差し上げるのです!」
クーアを押しのけようと捕縛糸を吐き出す運搬アリ。すぐにからめとられるクーアだが、ルチアが短剣でもって素早く糸を切り払った。
「そのまま運搬アリを抑えておいて。それだけで充分な引きつけになるみたいだから」
ルチアはコデックスを取り出すとやや乱暴にページを開いた。
「『Dies Irae』――『怒りの日、かの日は世界が灰燼に帰す日なり。そはダビデとシビュラが預言せり』 」
文言を読み上げると、魔法が発動し周囲を激しい雷が暴れる。
「さ、それじゃあどちらが先に音を上げるか、我慢比べといきましょうか。私が斃れるのが早いか、私の仲間が目的を果たすのが早いか、ってね?」
アダマンアントたちが運搬アリに集中しているのをよそに、利香は魔眼の力を解放しバレルボマーの注意を引き始めた。
グオオとうなりを上げ、巨体を突進させるバレルボマー。
利香はそれを防御しながら、兵隊アリと引き離すように動き始めた。
「もっとバンバンやっちゃいましょうよ? ふふ、やれるものならいくらでも!」
バレルボマーが封殺されるとそれはそれで困るからだろうか、兵隊アリの一部がそちら側に流れ、バレルボマーの意識を回復させようと動く者やそれ以上の干渉を阻もうとする者が現れる。
「あっちは任せておいて大丈夫そうっス。まずは邪魔な兵隊アリをどかすっス!」
ライオリットはスレッジハンマーを両手でしっかり握ると、地響きが鳴るのではと思うほどの勢いで走り出した。
勢いを付けて兵隊アリの頭部めがけてハンマーをたたき込む。
運搬アリを庇う立場だったようで、モロにうけた兵隊アリはそのまま頭部を叩き潰され足をしばらくジタバタさせたかと思うと動かなくなった。
そんなライオットへ左右から別の兵隊アリが飛びかかるも、巨体を活かすように腕やハンマーを振り回しそれらを払いのけていく。
「貴方達に恨みはないけれど。生存競争って言葉で片付けるのもやるせないけど。許して頂戴ね」
ディアナは別方向から回り込み別の兵隊アリへ接近。軍服にも似たコートの裾が大きく広がり、厚底のブーツでダンと地面を踏みしめたその途端ディアナを中心とした広域にわたって巨大な魔方陣が展開。吹き上がるような禍々しい魔力が兵隊アリたちを吹き飛ばしていく。
周囲の兵隊アリたちが払われたことで焦ったのか、大きく飛び退いてクーアから距離をとろうとする運搬アリ。
玉兎や小鈴たちがそれを逃すはずはなかった。
星の剣をとり、滑るように走る玉兎。
一方の小鈴は空中へと飛び上がり、玉兎の真上を通り抜ける形で運搬ありめがけて突っ込んでいく。
「持ってるものをおろすのじゃ!」
小鈴が空中で前転するような反転をみせ、勢いを付けたキックを運搬アリへとたたき込む。
と同時に玉兎の剣が運搬アリへと水平に振り込まれ、顔面の潰れた運搬アリはごろごろと転がって坑道の端で止まった。
抱えられた状態にあったシェスタはその途中で放り出され、地面をころがりながらもジタバタとしている。
さっきまでは糸で口を抑えられていたからなのだろうか。ぷはあといって顎をあげると、こちらに向けて大声をだした。
「早く助けて! っていうか吐きそう! あの虫乗り物としては最悪ね!」
「随分余裕ありそうじゃな」
「図太い……といってもいいのでしょうか?」
顔を見合わせる小鈴と玉兎。
そんな二人のもとへライオットが駆けつけ、ハンマーを水平に翳すように構えた。
「注意するっス。運搬アリが倒された今、他の兵隊アリたちが代わりになろうとするはずっス!」
そんな彼へ飛びかかるアダマンアント――が、途中で真っ二つに切断された。
それも顔面に縦の亀裂が入り左右それぞれが逆方向へずれるような動きで崩れ落ちる。
「任せろ。そうはさせん」
紫電だ。振り抜いた剣をそのままに、素早くシェスタへとかけよってサバイバルナイフを取り出した。
身体を拘束している糸を素早く丁寧に切り取っていく。
自由を取り戻したシェスタは起き上がり、紫電の顔をまじまじと見つめてまばたきをした。
「うーん」
「……どうした」
真顔の紫電に小首をかしげ、片眉をあげるシェスタ。
「お姫様のキス、ほしい? アナタならOK。あげちゃう」
「悪いがキスなら間に合ってる」
あら残念といって立ち上がるシェスタ。
紫電は彼女を庇うように立つと、鞘である無明永夜を左手に握って防御の構えをとり、鞘からは機焔ノ震剣『烈日』をいつでも抜けるように右手で握り込んだ。
トリガーにゆびをかけ、シェスタをとりかえそうと突っ込んでくるアダマンアントめがけ水平に抜刀。
振り抜いた次の瞬間アダマンアントが上下に分割された。
ヒュウと口笛を吹いて手を叩くシェスタ。
「やっぱりキスしとかない?」
「遊んでる場合じゃなさそうじゃぞ」
小鈴が翼をはばたかせながら後退してきた。ほれみろと指をさすと、猛烈な勢いでバレルボマーが突っ込んでくるのが見えた。
その後ろを利香が追いかけ魔剣で斬り付けているが、兵隊アリたちが間に割り込んではそれを邪魔しているようだ。
バレルボマーの背からポポポッと大きなオリーブのような物体群が飛び出してくる。放物線を描いたそれらは、こちらへ向けて回転しながら飛んでくるようだ。
それを見た玉兎が、小さく口を開けた。
「あ、まずいですわこれ」
●
大爆発に包まれた。集まった仲間達も、シェスタすらもまとめて吹き飛ばしてしまうような乱暴な爆発であった。
シェスタには予想していたような衝撃はこなかった。おそるおそる目を開けてみると。
「ふーはーはーはーはー。ボマーの爆弾なぞ恐れるに足らんのじゃ!!」
小鈴が両手を腰に当て胸を張って高笑いしていた。
よく見ると透明な膜のような結界が張られており、爆発がそれに遮られていたらしい。
羽ばたきによって勢いを付け、バレルボマーへ突っ込む小鈴。繰り出す手刀が輝く衝撃となってバレルボマーや周囲の兵隊アリたちを巻き込んでいく。
「喰らうが良いのじゃ!! 混乱とかすれば、まともに庇ったり爆弾したりはできまい。
ついでに炎獄とか魔凶とか仲間にかかったBSを解除すれば、一石二鳥なのじゃ!!」
それによって邪魔のなくなった利香が今度こそ魔剣をバレルボマーへと突き立てた。
「いやあ助かりました。引き離すどころか私のほうが引き剥がされる所でしたよ」
「耐火性だか何だかわかりませんが、今の私の焔は雷でもあるのです! 穿ち抜いて差し上げましょう!」
そこへクーアが『ジ式・漁火』の術式を放った。雷がバレルボマーを突き抜け荒れ狂う。
直後に突進したライオリットのハンマーがバレルボマーの腹部を直撃。
巨体がぐらんと揺れ、ディアナがそこへ勢いを付けて跳躍。回し蹴りによって分厚い靴底をバレルボマーへ叩きつけるとそこを中心として鋭い円錐形の魔方陣が展開、炸裂した。
「このまま一気に――」
「潰すわよ!」
更に力を込めた二人……の後ろで、ルチアがハッと何かに気付いて叫んだ。
「危ない、皆離れて!」
瞬間。バレルボマーの体表が僅かに膨らみ、格子状の筋が更に開いて光を漏らし始めた。まるで手榴弾が破裂する寸前のようなありさまに、周囲の仲間達が目を剥いた。
利香とクーアはライオットたちを庇うために飛び出し、小鈴は自らの身を丸くして防御。
それらが済む直前に、大爆発があたりを包み込んだ。
ギヂッ、と『それ』が音を立てる。
ルチアは目を懲らし、後ろでシェスタを庇いながら下がる玉兎と紫電に『もっと下がって』の合図を出した。
「大丈夫なのか?」
「わからない……」
「死んではいない……ようですわね?」
紫電は問いかけつつ、シェスタが狙われたらいつでも迎撃できるように剣に手をかけている。
玉兎もまた、剣に手をかけつつも何がきてもいいよう月光の力を解放する構えをみせている。
ルチアもルチアで、いつでも魔法を放てるように構えつつ相手の様子を見ていた。
『それ』の形状をどう説明したらよいのだろうか。
人間大のアリをグズグズに溶かしたものとも言えるし、人間の頭がはえかけたまま溶け崩れたようにも見えるし、最も手前の脚に至っては指のようなものが2~3本はえていた。
その脚をあげ、ぶるぶると震えたあと……残る全ての脚を駆使してこちらへ突し――
「!!」
ルチアは構えていた魔法を発動。放たれた凄まじい衝撃がバレルボマーだったものを打ち抜き、肉体をバラバラに爆散。破壊し尽くした。
「……な、なんだったのかしら、今のは」
「分からん。が、とりあえずは終わったな」
ルチアや紫電たちは安堵に肩を落とし、玉兎があらためてシェスタへと振り返った。
シェスタはといえば、両手を腰に当てて壁によりかかっていた。
「それで、誰が私をベッドまで送ってくれるの?」
「本当に余裕そうですわね」
さっきまで餌になりかけていた割に、図太いというかなんというか。トラウマになっていないようでなによりなのだが。
「ひとまず家まで送りますわ。この辺にまだアダマンアントがいないとも限りませんし」
玉兎は一度周囲を観察してから、シェスタの手を取って馬車へと歩き出した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダー
・成功条件1:『バレルボマー』の撃破
・成功条件2:シェスタの救助および生存
●フィールド
集落から続く古い大坑道のひとつです。例えるならトラック五台くらいが横並びで走れるくらい広く、特殊なヒカリゴケによって坑道内も明るく保たれています。
集落の者から教えられた先周り用ルートを使ってアダマンアントの集団に先周りし、これを迎え撃つ形で戦闘をしかける作戦です。
●エネミー
・『バレルボマー』×1
アダマンアントの『戦闘種』にあたる特別な個体で、ローレット・イレギュラーズの戦力に対抗して生まれたといわれています。
山なりに大量の爆弾を放ち周囲を爆破しまくるという非常にやっかいな特殊能力を持っています。
これらの爆発には【炎獄】【魔凶】【飛】の効果がついています。
個体戦闘能力は高く、二つ名がつくほどです。
・アダマンアント(通常種)×3~5
2mほどのアリ型モンスターです。
バレルボマーの部隊に加えられるだけあって特殊仕様になっており、『火炎耐性』や『不吉耐性』を持っています。
・アダマンアント(運搬係)×1
通常種の中でも人を拘束して浚っていくことを目的としたような個体です。
元々それが目的だったかのように、この個体は他から守られています。
通常種の能力に加えて、拘束用の糸を吐く能力があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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