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シナリオ詳細

<13th retaliation>きっとこの両手は誰も掴めないから

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 多分に、私は誰かを救うだとかそんな高尚な望みを抱いた覚えはない、はずだ。
 だって私にはそんな力はなかった。日々の糧を得ることに精一杯だった私は、目の前の出来事を消化するだけで精一杯だったのだから。
 人生は壮大な目標ではなく生存本能に拠って築かれる。人生の上で死の恐怖をひとまず免れるだけの利潤が生まれてはじめて、周囲へと目が向くのである。
 ――そういう意味では、出奔するまでの私は恵まれていた。『フコウナヒトビト』に憤る余裕があったのだ。
 そして、出奔して世界をめぐり、練達の文化に触れ、深緑に戻ってからローレットの一員となり。深緑の『変化』の根底に残されていた穢というものを改めて見てしまった。
 そのうえで、わかったことはひとつだけ。

 長い文化に裏打ちされた心の闇、何かを誰かを犠牲にすることを自己に『赦す』性根は、多くの奇跡、多大な救済を以てしても失われないということに。
 今再び存亡の危機に陥ったこの国は、これを契機になにかが変わるかもしれない。変わらないかもしれない。
 だが、私はきっともっと前に、この国に手を伸ばすことを。


「ああ、なるほど。だから差し伸べる手などいらない、と考えてしまったのですね」
 エルシア・クレンオータ(p3p008209)は、眼前に転がり虚ろな目をしている――両腕を根本からもぎ取られた不格好なフォルムの――パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)の姿を視界に収めた。彼女は声を発したと己では認識していたが、空気を震わせていないことに遅れ馳せながら気付く。手足はある。だが、声もなく、神経が通っている感覚がない。彼女の神経は大凡が機能していなかった。痛覚ぐらいだろうか? まともに機能しているのは。
 彼女には肉親がいない。正確には、そう呼べるのが己が命を賭して殺した母と、消息が杳として知れぬ(そもそも顔の記憶も虚ろな)父ぐらいなのだ。
 この国と自分を繋げていた相手を喪ったが、それでも彼女にとってこの国は捨てられぬ故郷であった。
 この世界にささげる祈りはあり、救済もある。
 だから意識が繋がっている。
 諦めは遠く、願いは深い。
 多分この世界は幻なのだろう。今、彼女らを含むイレギュラーズは深い眠りの底でこの惨劇の只中にある。
 肉体と精神の繋がりが希薄となった幻覚の縁で、空から絶え間なく降り立つ蝶がじわじわと思考力を、気力を奪いにきている。
 イレギュラーズとしての力を発揮できず、真綿で首を絞めるように、目の細かい鑢をかけるように、決意と意思が掠れていく中で。
 どうか最後まで、あなたの容(こころ)が蝶(おわり)に覆われませんように。

GMコメント

 いろいろコメントは考えたんだけど蛇足なきがしました。

●成功条件
(1)20ターンの間、参加者の半数以上が『蝶』の侵蝕率80%を突破しないこと
(2)上記条件達成後5ターン以内に『蝶』を掃討すること

●注意事項
 このシナリオは心情面に拠るところが非常に大きいシナリオです。単純な戦闘とは大きく違うため、『不利であること』を楽しめない場合かなり『やりづらい』です。
 敢えて無力感を演出し、自分の敗北ありきで動いた場合『ハイルール違反』と見做される可能性を有していますのでご注意ください。

●前提として
 皆さんはアンテローゼ大聖堂からファルカウへの道を拓こうと、敵を排除しながら哨戒にあたっていました。
 しかし、その中で猛吹雪によって『眠りの世界』に閉じ込められてしまいます。
 非常に深い眠りのなかにあり、しかもなにがしかの条件を満たさないと『眠りの世界』からは開放されません。
 『霞帝の眠りの呪い』や、『ザントマン事件』における眠りの精の仕業に近いものを感じる方もいるかもしれません。或いは『殺意の高いヘイムダリオン』か。
 なお、一番戦意旺盛だったはずのパパスが真っ先にOPの通り使い物にならなくなっています。現時点で蝶の侵蝕率は60%ぐらい。

●夢の世界(当シナリオにおけるルール的なもの)
 皆さんは夢の世界において、20ターン経過時点までは『全てのスキル等(アクティブ・パッシブ問わず)』が封じられており、能力も一般人レベル迄落ちています。
 ただし、HP/APが減る要素はなく、成功条件(1)達成時点から『時限』のカウントが始まります(つまり、『時限』持ちPCでも最終5ターンに全力で戦えます)。
 また、『世界との繋がりの深さ』『他者を慮る想いの強さ』(特に深緑に係るもの)の強固さによって、肉体と神経の繋がりの強さが『大きく』変動します。
(パパスは諸事情でこれが下限に振り切れていますし、エルシアさんは後者の強固さは兎も角深緑に対して『そこそこ』のためGM判断で初期状態がこんなですがリプレイ開始後に改善される可能性があります)
 これにより、『肉体が思うように動かない』『取りつかれても振り払えない』『そうなっていることに気付けない』『五感の一部消失』などが発生しています。
 後述の『蝶』が次々と肉体にとまってきますが、これらの理由により一人では満足に振り払えないでしょう。誰かと協力するとか、そんな感じでいきましょう。

●蝶
 平和の象徴だったり終焉や黄泉の使いだったりするため、夢の世界において『全身を覆う=死』のギミックに用いられてしまっています。
 毎ターン少しずつ肉体に取り付いていき(5~10%ずつくらい)、普通であれば容易に振り払えます。具体的には「寝返りで5%くらい」「両手で振り払って10%くらい」は毎ターン振り払えます。そんな満足に動ければ、ですが。
 80%を超えた時点で肉体は完全に動かなくなります(重傷判定)。
 これらを協力して振り払い、覆われる面積をできるだけ減らすのが目的となります。
 成功条件(1)成功後、これらを掃討することになります。耐久はNORMALに出現する雑魚モンスター程度ですが尋常じゃない数なのでご注意願います。
 20ターン経過後は『物至単:【ブレイク】【必殺】【毒系列】(他BS類ランダム)』のうち複数を持つ低威力攻撃の嵐が待っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <13th retaliation>きっとこの両手は誰も掴めないから完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)
神ではない誰か

リプレイ


「しかしなんですの!? この猛吹雪は!! 寒いったらありゃしません事よ!」
「そんなに寄り付かれると逆に動きづらいのですが」
 『特異運命座標』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)にしっかりと寄り(というかしがみ付くような格好で)、周囲の吹雪に不満の声を張り上げていた。尤も、その声も吹雪にかき消されるのだが。グリーフは表情に不満ひとつ浮かべず、事実として不利であることを告げるが聞こえているかどうか。
 『太陽の沈む先へ』玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)は依頼自体が初めてだった為、警戒しつつ盾を掲げ四周を見ているが、それゆえに歩みが遅い。仲間達もずかずかと先に進める状況ではなく、視界も悪く……否、すでに視界など無いに等しい。なぜなら、倒れ始めた者もい るのだから。
 『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は瞬間、何かを考える前に体が動いていた。果たしてそれが正しい行動なのか、など考える余地もなく。
 それが『天啓』だというなら、正しくその通りの反応だった。『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)に覆い被さるように飛びつくのと、意識が刈り取られるのとはほぼ同時だったのだから。
 斯くして、都合九人のイレギュラーズは猛吹雪の中で意識を失い、夢の世界へとゆっくりと落ちていく。
 この状況を打開し得るヒントもないままに。
 

(あの日……私は誓いました。罪を背負い、それでも生きる……と。けれども今、こうして自分自身と向き合うしかなくなると…私の醜い本当の気持ちが判ってしまいます)
 下半身を覆い始めた蝶にちらりと視線をやり、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は冷え切った心で己のありようを鑑みた。
 母を殺めてまで生き延びた命を、無駄にしないためにはどうすればいいのか。
 母に『連れて行って』貰えなかった、残された者に与えられた義務をどう果たせば良いのか。生き続けて、イレギュラーズとして在ることで生まれた意味を証明する。罪に対し祈りを捧げ、森と在る者として生きる。
 そんな決意は、はじめから嘘っぱちだったのだ。『選ばれた』ことへの言い訳に、母からの絶望が欲しかった。思えば最初の再会で、エルシアの心はどうしようもなく折れてしまっていたのかもしれない。抗いようのない強者、草木を枯らす空風のようなそれに従って終わる、草木のように弱いものであればよかったのだ。
 ゆるゆると持ち上げた上半身から蝶が僅かに離れていく。僅かに晴れた視界の先には、赤と黒のコントラストが見えた気がした。

(能力も何もかもが機能しない状況……その上あの蝶に群がられれば……いや。諦めては駄目でありますね。少しでも出来ることを。誰か一人でも生きて戻れるように努力せねば!)
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は己のコンバットスーツが解除されていることを認識。手持ちの装備が機能しないどころか、音声認識を行うための声すら出ないことに激しい動揺を示した。深緑に於いて彼は新米(ニュービー)だ。近くに仲間がいるのはせめてもの救いだったが、腕一本を伸ばすのが精一杯な状態で誰が守れようか。でも、守りたい者は、救いたい相手はできた。帰るべき場所、相手が居る。
 彼はこの世界と深緑という国との縁は濃くはないが、それを補って余りある利他心がある。動かぬ筈の体に意思を固めて鞭を打ち、ようやっと動いた二つの腕で這うように前進し、腕を伸ばす。ぴくりとも動かぬ桜花を、僅かでもいい、倒れぬよう手を尽くさねば。
(殺生は好まないが、蝶と人では命の天秤が釣り合わない。容赦はしない――しない、けど……)
 ムサシの決死の覚悟のもとに蝶が払われたことで、桜花は意識を取り戻した。倒れる直前に蝶を見た気がした。エルシアと、そしてパパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)を先んじて守ろうと考えたところまでは覚えている。……覚えているが、それだけ。盾を掲げていれば倒れることはないと信じていたが、夢の世界に於いて『夢の主』のつくった事象を上書きするのは困難だ。
 視界が儘ならぬ状態では何を見通すことも能わず、体の不調は心を蝕んでいく。知識と鍛錬よりも尚重く『経験』の二文字がのしかかる。耳も聞こえぬ絶対静寂に在る彼が動ける可能性は低く、心はゆるやかに閉じていくばかりだった。
『――――!』
 だった、はずだ。
 五感のうち辛うじて残っていた触覚が背を撫で付ける掌と、それを通して響く某かの音を感じ取れなければ。

(大丈夫……大丈夫、体が動かなくても呼吸はできる。心臓の音が凄いけど、落ち着けてから……)
 華蓮は自らに起きた異常に対し、理由やその他を廃し『異常が起きた』事のみを言い聞かせた。そのうえで落ち着きを取り戻し、まっさきに考えるべきことを努めて整理しようとした。この状況で先ず鑑みるべきはエクスマリアだ。彼女の無事を確認し、その上で自分に何ができるかを見定めなければならない。
 そう考えた華蓮は、意識を失う直前の出来事がフラッシュバックし、思いの外自分が『動ける』ことを認識する。その意味を理解できない愚図になったつもりはない。まさか、まさか、まさか。早鐘を打つ心臓に今一度酸素を送り込み、仰向けだったのを幸いに顔を持ち上げた。
「……ま、……ま」
「マリアちゃん!? なんて無理をしているのだわよ!!」
 思わずあげた叫びが声帯を震わせたことに驚きつつ、華蓮はエクスマリアの背を覆う蝶を動きの鈍い腕で振り払おうとする。視覚が奪われていると思しき虚ろな瞳を別にして、彼女が笑いかけてきた気がした。

(――お父様、お母様。私は天義に、神に誓って生きてきました。その事は今も変わる事はありません。神の采配に従って、特異運命座標として生きる事を選びました)
 リドニアは深い息を吐き出しながら、結婚衣装を破り捨てた日のことを思い返す。
 寝物語を成人になるまで信じ続けられる者は、実際のところ多くない。リドニアは想い続けたというより、本来の運命に流されかけたところで『夢見た運命』が浚いにきた者である。運命と神を言い訳に不義理を働いた家族に対し、軽率な償いの言葉はきっと届くことはないだろう。
 けれど、家族を想う気持ちは本物だ。家族への懺悔も本音だ。都合のいい逃げを得た不徳の娘として、掴み取って『しまった』運命と生きることに昂りを覚えなかったといえば嘘になろう。
 だからきっと、誰かを想う気持ちと別に、深緑と言う地に何かを思ったことはないかもしれない――混沌に生きて、国境を跨ぐことなく一生を過ごす大多数と同じで。
(深緑という地で初めての大きな緑を見ました。世界にはこんなに自然にあふれている事を知りました。全てが初めてのこの世界。もっと先を見たい。感じたい)
 純白と法と、峻厳な山脈を擁する天義では知ることのできなかった環境。それが未曾有の危機に晒され、本来の姿を見れない悔しさ。それらが思い入れと言わずしてなんと言おうか。他の人々が近くにいたはずだ。自分よりも、誰かを――。

 グリーフは、声こそ発せないまでも明瞭な意識、聴覚以外は明確に感じ取れる現状に安堵の息を漏らした。そして、それは自分よりも深緑と、世界との結びつきが浅いであろうリドニアの献身が幾らか奏功していることを認識する。
(私はこの深緑に領地を頂き、妖精郷で見送った彼らを弔い続ける為に縁を結びました。だから、地縁なら皆さんと同じかそれ以上にあるはずで)
 真っ白い、自分にも似た者。でも望まれず散った命、アルベド達。
 彼らを通じて深緑に心を振り分けている。きっとこの誓いと弔いは死ぬまで終わらないだろう。そして、死ぬことはなおのこと許されない。
 誰かの盾になるため研鑽を重ねた。アルベドの悲劇と妖精郷の一件、そうでなくとも数多の悲劇と歩んだ、目覚めてからの彼の年月。誰かから求められる、愛されることを諦めても、生きることは諦められない。だって、諦めたら背負った誰かの命が終わる。
 秘宝種としての魂は、誰かを守るためにあり。
 一瞬覚えた安堵は、直ぐ様『それをして何をば為すのか』の焦燥へとつながっていく。
 誰かのために、死なないために、救うために、立つ為に。グリーフの指は折りたたまれ、広げられ、そして手始めに、自分を覆う蝶を払った。


「……なんだ、此処は? 俺はさっきまで、エルシア達と依頼に……そうだ、エルシアはどこだ!?」
 『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)は他の者よりやや早く意識を取り戻し、辛うじて喉から声を絞り出せていた。恐らく倒れる直前、側にいたであろうエルシアを気遣っていたこと、彼自身の境遇その他が多少なり抵抗を許した結果であろう。彼以上に意識が確りしているのは、ほんの数名か。
 鈍った肉体、特異運命座標にあるまじき不自由さを理解した彼は、不自由なりに肉体を動かすことを優先した。身を払う為ではなく、エルシアを何とかするために。霞んだ視界で彼女を認識するのは簡単なことではない。が、『この場でのみ』たった一人に指向した感情は、指向した相手のためにのみ、動きを増す。
「おい、しっかりしろ……おい! 今、振り払ってやるからな……俺が何とかしてやるから、お前も頑張れ!」
 かすれた声で必死に呼びかける幻介は、エルシアの表情に奇妙な諦めの良さを感じ取り、背筋が凍る想いをした。
「……け、さ」
「無理すんな! 今助けてやる、なんとかしてやるから……!」


「………………」
 エルシアは幻介の呼びかけに静かに首を振った。唇が揺れるが、音はしない。でも、幻介はそれを読み取れた。
 この期に及んでその言葉を知ることがなければ、己の理解力と技量を恨むことはなかっただろうに。
『邪険にされて、それでも付き纏って……いつか虎の尾を踏んで彼の刀で首を刎ねられてしまう為の恋、そんな卑怯で穢らわしい恋の為に、私は貴方を好きだといった』
 彼女の唇はそう動いた。
「知るかよ」
 腹の底から振り絞ったのは、彼女を思ったゆえではなく。限りなき利己心からだと気付いてしまったから。彼女を守ろうとする自分恋しさなのだと。この世界に骨を埋める為に、エルシアや他の縁を握っていたいという気持ちが故だと。全く、似た者同士ではないか。

「ままは、マリアが、守る」
「大丈夫……大丈夫だから、私もマリアちゃんを守るのだわ!」
 エクスマリアの絞り出した声だけで、華蓮は彼女の覚悟を受け容れることができた。
 華蓮はこのメンバーに於いて特に重要な癒し手だ。すでに蝶に覆われ動きを止めたパパスを別とすれば、唯一の。だから、エクスマリアが自分を守ってくれた事がわかる。
 当然、そんな打算的な理由だけで彼女が動かないこともまたわかる。
 エクスマリアは己の信念の為なら汚れ仕事だって請け負う。正しいと思うなら後ろ指をさされることを厭わない。
 だから、きっと彼女は己がそうしたいから、そうしているのだ。
 まま、まま、と壊れたオルゴールのように自分へ投げかけられる言葉。仮初でも、血がつながっていなくとも、戯れと言われようと。
 華蓮とエクスマリアは母子なのだ。子が母を想い、母が子を想う関係になんの偽りが差し挟む余地があろうか?
「まだレオンさんのお嫁さんにもなってない、まだマリアちゃんも抱きしめ足りない
まだあの人にも勝ってない、まだあの子との時間も過ごしたりない、まだあの人の背中にも追い付いてない。……舐めんじゃねぇのだわ!! こんな所で寝てられますか!」
「まま、マリアは……大丈夫、だ」
「当然」
 エクスマリアを抱きしめ、上体のみを起こした華蓮の目には、過去幾度かしか灯ったことのない熱量が渦巻いていた。大丈夫だ。大丈夫『にする』。私にできることはそれなのだから。

「死なせるものか。……死なせるもんか……宇宙保安官の名にかけて……誰も死なせたりするものでありますか……!」
 止めどなく降り立とうとする蝶を振り払って、ムサシは桜花の盾を腕ごと掴んで持ち上げる。意識朦朧とした桜花は、彼の意図を朧気に理解し、己の意思を乗せて力をかける。ほぼ尽きた、指一本持ち上げる程度のそれを。
 ムサシにはそれで十分だった。受け止め借り受け引き継ぎ、立ち上がる。『英雄の資質とは受容と継続』、とは誰が言っただろうか。もしかしたら誰も口にしていないのかもしれない。
 だったら、今自分が成せばいい。
 歩こうと決めたなら前のめりに倒れるまで、受け容れたなら余すこと無く受け止めて。か細くみっともなく力を感じない、そんなものでも――喉から絞り出した咆哮は、正直な青年の進むべき意思である。
「さあ皆さん。悪夢から目覚める時間ですわよ」
「そうですね、蝶に憑かれて眠ってばかりでは、彼らに申し開きができません」
 リドニアの絞り出した声に応じ、グリーフが彼女の手を引いて立ち上がる。しつこくまとわりつく蝶を振り払い立ち上がった姿は、万人の盾になり得るまっすぐな立ち姿であったことは語るまでもなかろう。
 ぐるぐると回りながら開放へと向かう視界の向こう、イレギュラーズは夢の終わりを知覚する。


「降り……注げ。これが、死だ」
 エクスマリアは娃染暁神狩銀を振り上げ、吹雪の間隙に現れた蝶達を次々と仕留めていく。
 その後ろに控えた華蓮は、治療を熟しつつ周囲に視線を飛ばし、油断なく緑の雷で以て次々と蝶を叩き落とす。その合間、エルシアの祈りがあたり一帯を包み込み、蝶が狂う間も与えず消滅させていく。
「さようなら、私たちの悪夢!」
「この世界も、故郷も、全て自分にとって大事であります! それを疑うような輩は、有無を言わさず、ご退場いただくでありますッ!」
 リドニアの魔砲を背負い、ムサシは警棒を振るって蝶を薙ぎ払う。乱暴な動きなら風に乗って避けられそうなものを、彼は繊細な動作とレーザーコーティングによる強引さで切り抜けるという荒業に出た。それだけ、感情が高ぶっているということだろうか。
「エルシア、いいか、拙者が先程言っていたことは忘れろ」
「……何のことやら」
「相変わらず懇意のようで何よりですね」
「~~~~くそっ、違う、違うで御座るよ!」
 全ての蝶を切り払い、幻介が照れ隠しに告げた言葉にエルシアは首を傾げた。酷く作り物じみた動作と、グリーフのからかうでもない正直な言葉が、彼の素の口調を引っ張り出すのも……さもありなん、といったところか。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)[重傷]
神ではない誰か

あとがき

 このシナリオでは「起きる前に重傷に至ったかどうか」がほぼ全てともいえます。
 そして、眠りに落ちる前の自由度については言及しておりませんでした。なので、その辺は十二分に融通しております。
 そういった面含め色々と加味した上で、提示した感情に関するなんやかんやで一番だと感じたのはグリーフさんだったため、MVPを。
 そうでなくとも、概ねかなりエモーショナルなプレイングだったと思います。お疲れ様でした。

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