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シナリオ詳細

<13th retaliation>勇者を求む

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アンテローゼ大聖堂防衛戦線
 ローレット・イレギュラーズ達の活躍により、アンテローゼ大聖堂は奪還された。
 迷宮森林における一つの拠点として機能し出した大聖堂は、イレギュラーズ達にとっての生命線であると同時に、敵側にとっても一つの要衝であった。
 アンテローゼ大聖堂は、その位置的に、ファルカウへの進軍の橋頭保としてうってつけの場所である。敵にとっても、ファルカウ到達への重要拠点として、抑えておきたいポイントの一つであったのだ。
 さらに、イレギュラーズ達に追い風となる『灰の霊樹』と『聖葉』の存在があった。現在、深緑を覆う呪いにわずかながらに抵抗できるこの霊樹と、その霊樹から採取できる葉は、アンテローゼ大聖堂を守護し、そして要人たちを救出するための、一つの切り札となる。
 聖葉の数には限りがあるため、すべての人間を救うことはできないにしても、その有用性は確かだ。イレギュラーズ達にとって貴重な品であると同時に、敵にとっては、唾棄すべきアイテムに違いはない。
 必然、敵にとってアンテローゼ大聖堂は、『取り戻し再制圧すべき場所』に違いはないのであった。イレギュラーズ達によって奪還された大聖堂だが、しかし今も、多くの敵勢力が、大聖堂の再制圧を目論み、兵力を差し向けている。
 ――例えば、この日も。
「ふ――っ」
 静かに、しかし鋭く呼気を吐き、槍を振るう女=ゼファー(p3p007625)。その手にした槍が閃光を描けば、眼前に立ちはだかる炎の異形がはじけて消える。
 アンテローゼ大聖堂、その外縁。構築された防衛線での事である。敵からの襲撃は続き、都度、残存する大聖堂の住民や、イレギュラーズ達によって撃破されている。此度は、その一幕。
 深緑でも名高き冒険者であるゼファーは、その実力をこの大聖堂の防衛線でもいかんなく発揮していた。ゼファーが疾風のごとく駆ければ、その後には無数の怪物たちのかばねが残り、僅かに残る風だけが、そこに英雄がいたことを物語る。
「よし。こんなものかしらね」
 槍についた汚れを振り払い、ゼファーは一息ついた。怪物たちの屍はぼう、と燃えて消え、後には何も残らない。
「おつかれさん」
 仲間のイレギュラーズがそういうのへ、ゼファーはひらり、と手を振ってみせた。
「ですが、敵の攻撃は苛烈ですね。炎の怪物は、シェームの眷属でしたね。それ以外にも、邪妖精、大樹の嘆き……それに、冬の王の配下や、常夜の王子の配下たちまで。休む間もありませんね……」
 ふぅ、とイレギュラーズの仲間が言った。腕で拭う額には、疲労の汗が光って見える。今日も朝から戦いっぱなしだ。それぞれは小粒の、相手にもならないような奴らばかりではあったが、いつ強力な敵が現れるかもわからない。油断はならないだろう。
「ですが、敵の攻撃も途切れたみたいです。
 今のうちに少し休んでください。そろそろ、交代のメンバーが来るはずですから」
 そういう仲間に、ゼファーは頷いた。まだまだ動けるが、しかし休んでおくにこしたことはないだろう。ゼファーは頷くと、槍をしまおうとして――すぐに構え直した。
「……残念だけど、まだまだ休めないみたいよ?」
 そういうゼファーに、仲間達もまた頷いた。というのも、強烈な気配を、皆感じていたからだ。
 アンテローゼ大聖堂を背に、正面には森が見える。その森の中からやってきたのは、子供のような容姿をした、赤く長い髪の少女だった。
「さすがだな! 気づいたんだな!」
 まるで少年のような声で言う少女。民族衣装風のそれから覗く浅黒い肌は、酷く細く、しかし筋肉の強かについた質実剛健としたものだった。
「勇者だな! 間違いない! お前達が勇者だ!」
 にぃ、と、三日月のように、少女は笑った。ぼう、とその紙の先端が赤く燃える。じり、と燃ゆる炎は、強烈な、神秘的なプレッシャーを一堂に与えた。
「……大樹の嘆きね。オルド種とか言う奴」
 ゼファーが言うのへ、少女は子供のように目をまるくした。
「おるどってのはわかんないぞ! でもあたしが大樹の嘆きなのは確かだ! シェームが作った!」
「やはり、その炎……シェームの関係か……!」
 苦い顔をして、仲間が言う。勇者を求めるようなそぶり。そして、印象的な炎の意匠。それは間違いなく、炎の嘆き、シェームに関連することを思い起こさせる。
「確か、強い人間だけを求めてる、って奴だったかしら?
 あなたもそういうクチ?」
 ゼファーが言うのへ、少女は頷いた。
「そうだ! シェームもおまえ、褒めてたぞ! 強い女がいる、いってた!
 強い奴と戦って、それで、えーと……とにかく、戦ってこい、って言われた!
 だからあたし、戦う! そんで、えーと……おまえたち、弱かったら、アンテローゼも壊してこい、いった!」
「あらあら、純粋なお嬢ちゃん。
 ちょっとお仕置きが必要かしらね」
 ゼファーが鋭く槍を振るう。同時、仲間達に目配せをした。仲間達は頷く。彼の少女を、放っておくわけにはいかない。彼女一人がアンテローゼ大聖堂をどうこうできはしないだろうが、しかし放っておいて、大聖堂にダメージを与えるわけには、万一にもいかないのだ。
「いくぞー! おまえたち、楽しくけんかするぞ!!!」
 少女が、子供のようにワクワクした表情で叫んだ! 獣のように構えるその両手には、炎の爪腕が現出する。
 イレギュラーズ達もまた、一斉に構えた! アンテローゼ大聖堂を守るため、このオルド種を撃破するのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アンテローゼ大聖堂防衛線。その一幕になります。

●成功条件
 フレイムガール・オルドの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 アンテローゼ大聖堂を奪還してイレギュラーズ達。しかし、敵もアンテローゼ大聖堂をただ譲ってくれるわけではありません。
 大聖堂の再制圧を目指し、敵は日々軍勢を差し向けています。
 さて、皆さんは、そんな日々の迎撃任務の中、オルド種と呼ばれる、大樹の嘆きの上位存在の少女と遭遇します。
 彼女は、シェームの配下のようであり、シェームと同様、強いものと戦う事を最優先に暴れまわっているようです。
 ならば、勇者たる皆さんの出番です。見た目が少女のようでも、彼女は世界の敵です。確実に撃破してください。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は構築された防衛線となり、遮蔽物となるものも多数転がっています。

●エネミーデータ
 フレイムガール・オルド ×1
  大樹の嘆きの上位種、知性を持った個体です。シェームの影響で生み出され、シェームと同様に、炎を駆使した戦い方をします。見た目はワイルド大暴れガール。
  基本的には、身軽さと攻撃力を併せ持ったタイプです。戦場を動き回り、高いEXAで複数回の手番を強引にもぎ取ってくるはずです。
  生み出した両手の炎の爪は、『火炎系列』や『出血系列』をもたらしてくるでしょう。『連』を持つ攻撃で、複数回の攻撃も狙ってきます。
  弱点としては、比較的打たれ弱い所にあります。その分EXFがやや高めで根性がありますが、ねじ伏せる方法はあるはずです。
  ちなみに名前はないです。シェームもめんどくさかったのでつけてません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <13th retaliation>勇者を求む完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年04月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シラス(p3p004421)
超える者
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●火炎戦風
 灼熱が、冬の気配に閉ざされた大聖堂の防衛線を襲う。
 巨大な火球が、戦場をかけているのだ。否、それは火球ではない。炎まといし人の影。その身、大樹より生まれし嘆きにして、炎の精霊と激情をその身に宿す、名もなき試練が一つ。
「け、ん、か、だぁぁぁぁつ!」
 それが――フレイム・ガールが叫ぶ。炎より除く顔は、幼子のように無邪気。故の狂気感を、どこか携えている。
「シェームの眷属だな……」
 『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)が、手にした刃を構えた。
「オルド種……先に出会ったのとは違うようだが、ファルカウを目指す俺達の敵であることには変わりない。
 勇者と名乗れる程高尚な存在でもないが来るならば好都合だ――死神クロバ・フユツキ、いざ参る」
 紅と黒の太刀を携え、クロバが駆ける! ぶおん、と音を立てて振るわれたガールの腕。炎の爪が顕現し叩きつけられる! クロバはそれを、太刀で受け止めた。わずかに身体が沈む。
「くろば・ふゆつきか!」
 ガールが嬉しそうに笑った。
「いろんな眷属をやっつけたらしいな! 強いって聞いてるぞ!」
「そうかい!」
 クロバが太刀を強く振るう。くるり、と回転して、ガールはクロバから距離をとる――同時、横合いから放たれたのは、『竜剣』シラス(p3p004421)の斬撃だ。その手を横に振るえば、まるで衝撃波が刃のように飛び出す。不可視の刃、しかしガールはにぃ、と笑うと、空中で無理やり体をひねってみせた。
「おまえも強いな! わかるぞ! きっと、名のある勇者だな!?」
「強いな、とか、勇者だな、とか、そういう事しか言えないのか?
 名前すら貰えずにただ戦うだけか、テメーも難儀だな」
 呆れたように、シラスがぼやく。続く連撃。再度放たれた斬撃刃、ガールの着地を狩る一撃は、しかしすぐさま弾かれた様に飛び出すガールに回避される。
「うー、お返しだぞ!」
 着地。腕を振るうと飛ぶ炎の斬撃刃。「ちっ!」と舌打ち一つ、シラスは近くにあった遮蔽物の後ろに飛び込んだ。轟、と音を立てて、隠れた木の残骸が燃え出す。ぱちぱちとはぜるそれに、シラスがうんざりした様子で言った。
「ああ、三倍返しもいい所だな。悪いが、俺には過ぎたプレゼントだ。持って帰ってくれよ」
 軽く、飛び跳ねるように動くガールは、軽戦士タイプに一見すると思える。だが、その一撃一撃は、重戦士のそれのように重い。
「滅茶苦茶だぜ。俺たちがそういうのに、どれだけ頭悩ませてると思ってんだ」
 ぼやきつつ、シラスは周囲に視線を移す。この場にいる戦士は八名。いずれも勇者と呼ばれて差し支えないほどに、有力なもの達だ。
 が、その八人を相手取り、対等に戦うフレイム・ガール。やはりオルド種の大樹の嘆きというのは、一癖も二癖もある様な連中らしい。
「ヘイゼル! 足止めできるか!?」
 火の粉はぜる遮蔽物に身を隠しながら、シラスが『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はこくり、と頷いて見せた。
「ええ、やってみせませう。
 とはいえ、私はそもそもか弱い乙女ですからね。
 何時もの如く「彼は強く我は弱い」。
 その心得で参りませう」
「あれに比べたら、俺たちはみんなか弱いよ」
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が、苦笑を浮かべつつ言った。
「足止めはいいけれど、どうする? ちょっとやそっとじゃ、足なんて止めてくれないだろう?」
「そこはそれ。私はいったん身をひそめます。隙をついて巣を当てれば、私から目を離すことはできませんよ」
「結局は、それまでは要努力って所か」
 世界がそういうのへ、クロバが苦笑を浮かべた。
「そういうのはなれてるだろ? ここに来るまで、俺たちは散々死線をくぐってきたわけだ。それに比べたら――」
「易い、か? お嬢さんに認識されてる勇者様は言うね?」
 シラスが肩をすくめるのへ、クロバが鼻を鳴らす。
「今日から君たちもターゲットに違いないだろうさ。まぁ、あれを撃退できればの話だが――」
「おしゃべりか!?」
 ガールが、むー、と頬を膨らませていった。
「そんな事より、かかってこい! お前達、皆強くてワクワクしてるんだぞ!
 そこのお前も! いろんな世界を救ってきたって空気が出てる!」
 指を刺された世界は、眉をひそめた。
「俺か……? やだな、ロックオン状態か」
「この場にいるひとは全員、ですよ」
 ヘイゼルが言う。その通りだ。恐らく平等に、ガールはこちらを強者としてロックオンしている。
「おいおい、ガキはケンカするより仲良く鬼ごっこでもしてろよ」
 『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が、遮蔽物に身を隠しつつ、手にしたガトリング砲に弾丸を装填する。
「お外で体を動かして――んだよなぁ、クソ。
 ガキが、無邪気に遊ぶノリで殺しにかかってくんのは――調子狂うわ。
 悲痛っつうより、なにかしらね。とにかく調子が狂う」
 コルネリアがうんざりした様子で言うのへ、ガールは不思議そうな顔をした。
「なんでだ!? 戦うのって楽しいぞ!」
「アンタはそうでしょうね。でもアタシはそれが気に食わねぇのよ。
 ガキが、喧嘩するのは良いでしょうよ。たまにはしなさい。
 でもね、アンタがしてるのは喧嘩じゃないわ。殺し合いよ。それを楽しいだの試練だの。
 アンタを作った奴は、相当いい趣味してるわね」
「お前、コルネリア? 怒ってるのか?」
 ガールがにこにこと笑った。
「コルネリア、お前優しい奴だな!?」
「あぁ?」
「いいぞ! 優しくて強い奴が一番いい!
 優しいだけじゃ、足りないぞ!
 強いだけじゃ、いけないぞ!
 優しくて強い奴が、あたしたちが求める勇者だぞ!」
(……やっぱり、何か変だね。シェームの口ぶりからすると、望むのは強者と弱者の選別……でも、この子にそういう悪意的な所は見受けられない)
 ふむ、と『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が胸中で呟く。
(そう、この子が求めているのは勇者――強者、じゃない。じゃあ、試しって、なに? 私達の、なにを試しているの?)
「あ、ありあ・てりあだ! 強いって聞いてるぞ!」
 にこにこと、ガールが笑う。アリアは意を決すると、一歩を踏み出した。
「こんにちは、えーと、お名前は?」
「なまえ? ないぞ! お前達、台風とか竜巻に、名前を付けるのか!?」
「自分を、何らかの自然現象としてとらえているのですね」
 ヘイゼルが言った。
「でも、時に人間は、つけますよ。そう言ったものに、名前を」
 その言葉に、ガールは、えっ、という顔をする。
「そ、そうなのか? もしかして、あたしに名前ないの、へんか?」
 むー、と小首をかしげるガール。アリアは苦笑してみせた。
「えーと、じゃあ。リナ、なんてどう?」
「いや、イグニスってのを推すな」
 クロバは笑った。
「お前の苛烈な炎に敬意を表して。
 ま、好きに選ぶがいいさ」
「うー、うー?」
 ガールがぐわぐわとあたまをふって、悩んだ様子を見せた。少しして、ぱぁっ、と顔を輝かせる。
「じゃあ、リナ! リナ・イグニスにするぞ! くろば・ふゆつきとか、ありあ・てりあとか、お前達とおそろいだぞ!」
 そう言ってニコニコと笑う姿は、年相応の少女のように見えた。わずかだが、どこかほんわかとした空気が、ガール……リナ・イグニスから感じられる。
「大樹の嘆き、オルド種。思う所はあれど、まるで本当に、人間のようなのですね」
 『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)が静かにそう言った。
「そのうえで……名前をもらって喜ぶ貴女、その炎を消してしまうのは少々忍びない。
 ですが、私達とて、退くわけにはいきません。戦うならば、全力で。その覚悟はよろしいですか?」
「うー、おまえの、名前は?」
「雪村 沙月、と」
「さつき! お前もいい奴だな! うん、お前達、みんな、良い奴だな!」
 にこにこと、リナが笑う。
「名前をもらったの嬉しいぞ! ありがとう!
 だから、ケンカするぞ!」
「……そう、なりますか」
 沙月がそういうのへ、リナは頷いた。
「うん! お前達はケンカ以外がしたいのかもだけど、あたしはケンカのために作られたから。
 お前達が、あたしを倒して、もっと優しく仲良くなってくれるように、って事だぞ!」
「ええ、ええ。きっと、そうなのでしょうね」
 『雪風』ゼファー(p3p007625)が言った。
「そういう雰囲気ですもの。知ってるわ。
 だから悪いけれど、容赦はしない」
「ぜふぁーだな! おまえも強いぞ! わくわくする!」
「見掛けに違えぬ暴れん坊みたいね? 淑女の振舞いってヤツを私が教えてあげましょうか?」
 ゼファーが、手にした槍をくるりと回した。そして、その穂先をリナへと向ける。リナが、にぃ、と笑った。その両手に、吹きあがる炎! それはクローの形をとって、物理的な鑑賞力を持つ武器ともなる。
「お願いね。本気でいかないと、あの子も止まらないわ。
 もとより、あの子に情けをかける余裕は、私たちにはない。
 確実に、ここで倒す。それを、あの子も望んでいるのでしょう」
 ゼファーがそう言って、仲間達に目配せをした。
 もとより、敵対するもの。そして、強敵。
 背後には護るべきものがあり、ここは絶対防衛線である。
 なれば――情けも手心も不要。
 相手が如何に、無垢なる少女のように見えたとして。
 それが人類にあだなす嘆きであるのなら――。
 ここで、倒さなければならぬ。
「出ます」
 沙月が言った。
「皆さんは続いてください。必ず、ヘイゼルさんまでつなげます」
「おーけい、がきんちょ叱るのも聖職者の務めよ」
 コルネリアが笑う。
「後ろからぶっ放すわ。当たるんじゃないわよ」
 そう言った刹那! コルネリアはガトリング砲の引き金を引いた!
 弾丸の驟雨! コルネリアの放つ銃弾の雨の中を、沙月がとん、とん、と跳んで走る! リナが銃弾の雨をかけた。此方は、自身を狙う銃弾を回避してみせる、人外の芸当! 跳躍したリナ、しかしその正面に、沙月が迫る!
「まずは、落とします」
 くっ、とその手を掴む。掴んだ手が、リナのまとう炎による強烈な熱を感じたが、しかし沙月は涼しい顔を崩さずに、リナの体勢を崩し、地へと叩きつけた! あれ、というように、リナが不思議な顔をした。虚を突かれた、体勢崩し。沙月の徒手空拳、その業が一。蝶のように舞い、蜂のように鋭い一刺。この時、確かに――リナの動きを止めた。
「いただきました」
 ヘイゼルが、その手を翻した。指先から迸る、無数の朱糸! それが多重に展開され、一人時間差攻撃とでもいうべき連撃を叩き込む! 体勢を崩していたリナの身体を、それが無数に切り裂く!
「やるなっ!」
 身体を奔る痛みすら喜び変えて、リナはその身体に炎を漲らせた! 朱糸が焼ききられ、鋭い炎の爪が、ヘイゼルを狙う。ヘイゼルは再び朱糸を展開。刹那の間に編み上げると、布のように展開してその一撃を受け止める。
「このまま引き付けます!」
「了解」
 ゼファーが静かにそう言って、槍を突き出した。不意を打たれた形のリナが、慌ててそのの炎の爪をかざす。ぎりぎり、と音をたてるように、爪と槍が交差した。槍の穂先が、リナの頬を裂く。傷口から、鮮血のように炎があふれた。
「は、はははっ! すごいぞ! ぜふぁー!」
「どうも。本当は、根性での喧嘩ってヤツは嫌いじゃないけど。
 嗚呼。今は私情や嗜好よりもお仕事ですからね。
 ええ、ええ。堅実に行くわよ」
 ヘイゼルに注意を引き付けられたリナは、確かに通常の自由な行動を制限されていた。結果、残るイレギュラーズ達も、着実に、リナにダメージを与えていく。
「さつき! おまえの、その、うー、たたかいかた!? すごいぞ!」
 語彙がないのだろう、うまく形容することのできぬリナに、沙月はくすりと笑った。
「ありがとうございます。私の技の一端、お見せしましょう」
 飛び込んできたリナ、振り下ろされた爪を、沙月はするりとした体捌きで入れ替わる様に、紙一重でそれをよけて見せた。「あ」とリナが声をあげた瞬間、くるり、と天地が逆転する。撃ち込まれた拳が、リナをひっくり返るほどの衝撃を与えたのだ。
「あはは! すごい! すごい!」
 楽し気にリナは笑って、身体から喜びのように炎を噴き上げる。
「……どう? 戦うのは楽しい?」
 接敵したアリアが、零距離からの魔術衝派を放つ。叩きつけられた衝撃波が、刹那、リナの意識を刈り取った。「うう」とすぐに意識を取り戻し、しかし死の淵に手を伸ばしたリナが、楽しそうに笑う。
「たのしいぞ! すごく、すごく!」
「そう……でも、『本当にただ楽しいだけ』?」
 う? とリナが唸った。うー、と考えるように唸ってから、
「そうだな! きっとそれが、あたしが生まれた意味なんだ!
 皆があたしと、力を合わせて戦ってくれることが!」
 リナが、アリアを振り払った。跳躍――だが、コルネリアが銃撃を繰り出す!
「殺し合う事が生きる理由のガキなんてのが居てたまるか!!」
 吠えるように放つガトリングが、リナの身体を穿つ。炎が鮮血のように吹き出すのへ、続いたのはシラスだ。
「手数で負けてられっかよ」
 シラスの放つ、シンプルな拳の一撃。栄光をつかみ取るそれ。ハンズ・オブ・グローリー。炎を貫いて、撃ち込まれた拳が、リナの顔に突き刺さった。衝撃が、意識を揺らす! 再びブレた意識を、「があう!」と叫んだリナが無理矢理つなぎとめる。ひゅう、とシラスは口笛を吹いて見せた。
「大したガッツだ。アンタこそ勇者だよ」
 連撃の拳が、再びリナに突き刺さる。リナは受け身をとりつつ、地上に落下。そこに続く朱糸が、からめとらんとばかりに襲い掛かる。ヘイゼルの一撃だ!
「申し訳ありませんが、逃がすわけにはいきません。
 ――炎が火の粉に燃やされる時は、どの様に感じるのでせうか? 炎の御令嬢?」
 朱の糸が、炎に爆ぜた。糸を通って走るヘイゼルの炎が、リナの身体を包み込む! 熱い――炎が、熱い。敵から浴びせられた、自分のものでは無い炎! だが、痛みを喜びに変換し、ああ、ああ、こんなにも、目の前にいるもの達は強いのだと、そう喜びに変えて、戦闘狂じみた笑みを浮かべる、リナ。
「わるくないぞ! おまえたちの攻撃なら――!」
 飛び掛かるリナの前に、世界が立ちはだかった。
「『停滞(ステイシス)』――」
 静かに呟き、手を掲げる――刹那、世界が歪み、全てが停滞する。ぐん、とリナの身体に、重みがのしかかった。脚が、自由に動かない。それは、手かせをつけられたように。世界の描く、絶対的停滞世界。
「とまれ。もう充分だろう」
 そう告げる世界に、リナは獰猛に笑った。
「まだ、まだ、だ、ぞっ!」
 ぐう、と吠えるように、リナが足をあげる。重くなった足を引きずり上げる。戦う。戦う。それだけが、己の使命であるように。実際、それでいいのだろう。
 戦わなければ、ならないのだ。試さなければ、ならないのだ。彼らが真に、勇者足り得るか。本当に、強く、誰かを助けられるものであるならば。
「あたしに、かてる、はず、だ、ぞっ!」
 束縛を引きちぎる様に、駆けだす――リナ。その前に、ゼファーとクロバが立ちはだかった。
「トドメは譲る」
 クロバが言った。
「ご指名は、君だ」
「あら、ありがと」
 ゼファーがふ、と笑う。クロバは太刀を構え、ゼファーは槍を構える。
「御先にどうぞ、黒い勇者様」
 ゼファーの言葉に、頷くようにクロバは跳んだ。跳躍の勢いを乗せたまま、冗談から刃を振るう! 斬! クロバの太刀が、リナの両爪を切り落とした。
「イグニス。リナ・イグニス。強き炎の子。覚えておこう。さらば」
 クロバがそういう――両手の武器を失い、無防備となったリナ、その晒したすきを逃がすことなく、ゼファーが飛び込んだ。
 撃ち込まれる、槍。
 貫くは一点。
 命の根源!
 リナのその胸を、貫く槍が。
 それをリナは、驚いたような目で見つめて。
「おわり、かぁ」
 笑った。
「おまえたち、さすが勇者だぞ。うん。きっと、きっと……」
「御指名はありがたいことですけど。
 喧嘩を売った相手が悪かったわね?
 もし次があるなら……その時はもう少し優しい子を訪ねなさいな?」
 そういうゼファーに、リナは笑った。
「ううん、ぜふぁー、おまえに、おまえ達に会えて、よかった」
 ぼん、と、その身体が爆ぜた。炎の塊があたりに飛び散る様に、或いは鮮血が飛び散る様に、炎が、大地に落下していく。
 燃料を失った炎は、その生命を永らえることなく、小さく、小さく、消えていく。
『気が変わった』
 と、誰かの声が響いた。刹那、消え去るだけのはずだった小さな炎が、ふ、と風に包まれて、何処かへと去っていくのが分かる。
「シェーム、って奴かしら?」
 ゼファーが、そう言って空を見上げた。リナが居たが故に生じた熱はすっかりと消え去って、冬の天気と寒さが肌を包んでいた。
「……てめぇで仕掛けておいて、気が変わっただぁ?」
 コルネリアが、うんざりした様子で言う。
「くそがよ。アタシの妹分も世話になってるみたいだけど……どんだけ御大層でも、やり口が気に入らねぇわ」
「ひとまず……また襲ってこないよな?」
 シラスが言うのへ、世界が頷く。
「ああ。とりあえずは。今度こそ、本当に休憩できそうだ」
「お疲れ様です……強い、相手でした」
 沙月が、そう言った。確かに、イレギュラーズ達はボロボロだった。
「さて、この戦い、どう転ぶのでせうか」
 ヘイゼルが言うのへ、
「……でも、少しだけ、わかったことがある、かもね」
 アリアが呟いた。
「思惑、か」
 クロバが頷く。
 イレギュラーズ達の戦いの熱を冷ますように、冬の空気があたりをびゅう、と駆け抜けて、戦いの余韻を何処かへと連れ去っていった。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 敵襲は退けられ、大聖堂の危機は去ったようです。
 リナ・イグニスは――どうなったのかは不明です。

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