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シナリオ詳細

<13th retaliation>いばら姫の沈黙

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●停滞を尊ぶもの
 深緑という場所は旧きを尊ぶ国だ。
 永らく外界から途絶されてきたこの国家がひらかれたのは、歴史からすればつい最近。だから、取るに足らぬ日々のはずである。
 だが、だというのに。この国はその『最近』で大きく変わろうとしていた。変革へと動いていた。それがラサからもたらされたものか、はたまたローレット・イレギュラーズによるものかは判断する材料に乏しい。『最近の話』なのだから。
「しかし――君までもこの忌むべき状況に応じようとしているのは、僕は我慢できない。君はもう少し旧きを理解しそれを尊ぶ側の人種だっただろう、ロジェ。僕は悲しい。だから、少し協力してほしいと思っているんだよ」
 ラサと深緑の国境付近、嘗て『いばら姫』と『獣の宝珠』と呼ばれた個体や遺物が観測された地の少し奥まったところにある霊樹集落にて。
 その人影は大樹に体を預けつつ、以前より強固に縛られた『いばら姫』に語りかけた。きっと、相手は聞こえていまい。
「この集落は無理に新しい空気を入れなくていい。無理をしなくていいんだ。この集落にそんなことを求めている者はいないのだからね」
 僕がそうだ、と木の幹を叩きながら人影はのたまう。見れば、蔦か何かで編み上げられた不格好な人間のようにも見えてくる。周囲には、甲殻で覆われた種子に手足が生えたようなものが多数。
「君のことが知られたからには、彼等が君を助けにくるのだろうね。……全く面倒な話だ」
 迎え撃たなければならない、とようようと立ち上がったそれは、『大樹の嘆き』の上位種とされる『オルド種』のいち個体だ。
 この大樹集落に変化をもたらさないためにと戦うそれは、強烈な悪意を湛えている。


「……よう。深緑にカチコミかけにいくって聞いて手伝いに来てやったぜ」
 ラサと深緑の境界にある地にて、傭兵達と合流せよ――イレギュラーズ達はそう伝えられ、『いばら姫』が出現した辺りに派遣された。どうやら近隣に詳しい物が来るらしいが……そうして現れたのは、リッドと呼ばれるもと盗賊であった。
 以前、ハンス・キングスレー(p3p008418)との一騎打ちに敗北し、一介の協力者として所属している者である。彼が精鋭に値する傭兵を連れてきたようだ。
「この先にある集落……ってえと、なんか儀式とかしてる古めかしい連中か。あそこの巫女さんは大層に魔術が巧いらしいとは聞くけど……ああそうそう、この面構えだわ」
「マジかよ……いばら姫が集落の巫女だったってワケか。つまり」
「そうでありますね。大樹の嘆きにより強力な個体が現れたとなれば、それに遭遇する可能性は大とみて間違いないであります」
 百合草 瑠々(p3p010340)とムサシ・セルブライト(p3p010126)はリッドの言葉に顔をしかめた。これから突入する霊樹集落は、必ず面倒なことに巻き込まれるだろう、と。
 そして、『ネクスト』を体験した者達ならばより色濃く感じるであろう不吉な予感も、ひたひたと近寄りつつあったのだった。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 奇しくもR.O.Oに似た展開となって参りまして、全くそのつもりがなかったと言っても信用されないでしょうがマジでそれ……。
 なお「これでNORMAL?」っていう話があったのでこれだからHARDだよ♡

●成功条件
 『いばら姫』(ロジェ・ハイバネイト)の救出
 『オルド種・不変の執着』ヴェロイドの撤退
 大樹の嘆き『執着種子』の全撃破

●失敗条件
 成功条件を満たさないor撤退を選択せず25ターン以上の経過
 救出の成否問わず『いばら姫』の死亡
(リッドの生死は成功・失敗いずれの条件にも含まれない)

●『いばら姫』
 ベースとなっている女性は『ロジェ・ハイバネイト』。国境付近の霊樹集落に棲まう巫女みたいな人です。
 全身を『茨咎の呪い』に類する茨で覆われており、本人の意識なきまま魔力だけを吸い上げられ攻撃能力に転化されています。
 肉体はより深く茨に覆われているためよほどでなければ直接ダメージが入ることはないですが、顔は露出しています。大味すぎるスキル(範・域・貫・扇など)は【識別】が無い限りは使わないほうが無難でしょう。
 HP2割以下で『聖葉』の影響を与えることができます。HP0になるとロジェさんも死亡しますので注意しましょう。
 主に『茨散らし(物特レ・自身より2レンジ:【スプラッシュ小】【不運】【窒息】【氷結】)』や『茨囲い(神超範:【万能】【呪殺】【呪い】)』などを放ってきます。他にも近接系統がやや強めのスキルなどなど。性能としては抵抗高め。

●『オルド種・不変の執着』ヴェロイド
 『大樹の嘆き』の上位種にあたる『オルド種』の一体。怠惰勢力に内応した模様。撃破は必須ではありません(重要)。
 ロジェの集落の霊樹から発生したものであり、名前にある通り『不変・停滞』を非常に好んでいる節があります。その関係上、ロジェに自由意志がある状態が疎ましかったのかもしれません。
 一般的な人間サイズ(身重180cm)でありながら、身の丈を大きく超える棍棒2本を振り回し、近付く者を徹底的に打ち据えてきます。なお投げても戻ってくる模様。
 棍棒を投げることによる長距離攻撃、地面を叩くことによる超振動での【無策】付与など、物神両面の戦闘能力が高いです(やや物理寄り)。
 再生能力を持ち合わせ、とくに氷や冷気に類する攻撃を受けた際それが活性化します。
 能力は当然ながら全体的に高く、他に気を使いながら撃破までいける強度ではないと思われます。
 彼から十分に距離をおかずにいばら姫救出を画策した場合、最悪彼が殺しにかかる可能性すらあります。
 いばら姫救出達成を確認したら撤退します。もしくはHPが一定以下になった際。

●『執着種子』×初期10(ヴェロイド残存時常時追加)
 大樹の嘆きの一種。ヴェロイド同様、ロジェの大樹集落より発生しましたが自由意志らしきものはないです。
 常時10を維持、最大15まで増えます。
 取り付いてくることによる【必中】【必殺】攻撃を行ってきます。
 なお取り付くまでは反応早めですが、とりついたら最後『待機』を選択してきます。理由はなんとなくご承知いただけるものと思います。

●“絶音”リッド+ラサ精鋭傭兵5名
 もと盗賊団です。
 リッドは反応高め、元はカウンタータイプでしたが現在は積極的に先手を取りに行く『昔の』スタイルに若干近づいています。徒手格闘。
 傭兵達はやや賢いので遠距離武器を手に手にもっています。投擲武器や銃器など。
 無策に前に出ることはありませんが、相手から取りつかれれば話は別です。

●『茨咎の呪い』
 大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
 イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
 25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。

●『聖葉』
 アンテローゼ大聖堂の地下に存在する霊樹『灰の霊樹』に祈りを捧げて作られた加護の込められた葉です。
 多くは採取できないため、救出対象に使用して下さい。葉へと祈りを捧げる事で茨咎の呪いを僅かばかりにキャンセルすることが出来る他、身体に絡みついた茨から何の苦しみもなく救出することが出来ます。

  • <13th retaliation>いばら姫の沈黙Lv:20以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年04月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

リプレイ


「あーあー。茨でぐるぐる巻きにしちゃって、ひでぇことすんなぁ」
「集落の巫女として大事にされてきたことは分かる。分かってた。……けどそれは違うよ、ヴェロイド」
 『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は『いばら姫』の有様を初めてその目で確認し、そのあまりの惨状にしかし表情も変えず言い放った。これより酷いものを沢山みてきた。だから心が動くことはない……されど、だからといって当人の辛さ苦しさが大したものではない、とはとても言い難いのだ。『血反吐塗れのプライド』百合草 瑠々(p3p010340)は以前の姿や茨の動きから、彼女がどのような扱いを受けているのかを薄々察していた。いたが、このような状況であることはやはり理解に苦しむ。これは違う、と断言できた。
「非道だなんてとんでもない。変化を無思慮に受け入れようとするその生き様、態度こそ容認しかねるのだよ、僕はね。この国に、無軌道な寛容など求められては居ない。それがなんでわからないんだ……?」
「四季は巡り、木々は芽吹き、森は時と共に成長していく。自然に『停滞』の二文字はねぇんだよヴェロイド、森は常に新鮮な風が吹くもんだぜ」
「よく分からねえが、そこのお嬢ちゃんが望んじゃいねえってのだけは馬鹿な俺達でも分かるってモンさ。野郎共、気張るぞ!」
 『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)はヴェロイドの淡々とした口調に冷静に返し、その考えを正面切って否定した。停滞を是とする彼の思考は、自然の摂理にすら反している。リッドは目の前の状況をいまいち掴めていないが、イレギュラーズの言行からいばら姫を救出対象であると見定めた。
(そりゃあ、前の依頼がキツいとは思ったけど……本当にヤバ目の相手が出てくるなんて思わなかったな)
「ボクはあの種の相手をするよ! 美咲さん、今度こそいばら姫さんを助けてあげよ!」
「老害による女児監禁事件を解決すべく、救出作戦を開始――ってね。いくよ、ヒィロ」
 『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)は『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)に対し、努めて平常心で短く返した。国境付近でいばら姫と遭遇した際も楽な依頼ではなかったが、オルド種まで出張ってくるとは全くの想定外だった。
 ヒィロはその懸念を重々承知しているのだろうが、さりとて過剰に心配してみせることはせず。背中を預ける相棒として、拳を握り前を向く。声はなくとも助けを求める相手がいる。縁の通った少女が。あれを第一に考えずして何がイレギュラーズか。
「生憎王子様って柄じゃないけど、そこのヴェロイドじゃちょっと荷が重いわね。目覚めさせるわ――神がそれを望まれる」
「あの茨の中から、中に居る子を助け出せば良いんだね! なんとか無事に引っ張り出せる様に……頑張るよ! おー!」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は初見の相手に深く情を移すことはなかった。が、少なくともヴェロイドが女を任せて置けるような解消を持っていないことだけは重々承知の上である。『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)も仲間の覇気におされてか、気合を入れるべく拳を突き上げた。それに呼応するように執着種子がざわりと蠢く。あたかも「させない」と言いたげだ。それをさせまいと動くのは、ヒィロと美咲。互いに布陣を見定めつつ、攻勢をかけるタイミングを見計らっている……ように思えた。
「今度は必ず救う……! そのためにも絶対に引かないであります……!」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)の絞り出すような声が、この状況で最も強い意志を示したのは傍目にも明らかだ。然るに、ヴェロイドは彼に強烈な敵意を覚えたのも確か。少女を、ロジェ・ハイバネイトという幻想種を救えなかった思い残しがムサシにある以上は、ここで救出を成さねばならず。ヴェロイドに燻る『怠惰』の灯火は、その変化をこそ強く嫌う。
「タフな仕事ね、両手に花であいつにもリッドにも満足してもらいましょうか瑠々!」
「全く、人遣いの荒いこって……でもベテランなら満足行く仕事するんだろ、リッド?」
 イーリンの魔眼と瑠々の朱い旗がヴェロイドの視界に映り込み、その意識を引き付けるべく揺れる。それと同期するかのように放物線を描いて襲いかかったのは、クルルの放った二本のヤドリギの剣――を模した矢か。並の獣なら一撃が即ち必殺になるそれは、しかしヴェロイドの棍棒が受け止め、明後日の方向へと弾き飛ばした。いばら姫へと向き直った彼女の背を睨めつけるヴェロイドの姿に、少なからず苛立ちと焦りが見えたのを見逃す愚図は、そこにはいなかった。
「茨に囚われたお姫サマは俺達で救ってみせる! そうだろムサシ!」
「無論であります! 目の前で困っている相手を救わずしてヒーローを名乗る資格など……」
 ミヅハの言葉とともに連続して放たれた魔剣の乱舞は、いばら姫を宙に打ち上げる。落下地点に先回りしていたムサシの腕が、彼の意思に応じるようにして、先んじてスーツに覆われ、いばら姫へと突き刺さる。――それでも茨は厚く、打撃は浅い。一拍遅れて頭部を覆ったヘルメット越しに認識した棘は、冷気もさることながら様々な悪意が渦巻くことをムサシに理解させた。
「守りが硬い、というより……避けたり惑わしたりが巧いのか。植物の割に器用なんだね」
 ムサシの一撃をこともなく凌いだ茨は、しかし続く美咲の一撃、魔力砲の打擲を受け、浅からぬ傷をその蔓に残す。如何に堅固な抵抗力を持ち、回避に優れた姿であれど、繰り返し打ち込まれれば避け得ず、護りも鉄壁ではない……ということか。執拗に抵抗力を奪いに回るより、純然たる威力勝負が佳いか。
「キミ達はボクが相手だよ! いばら姫さんには近づけさせない!」
 当然、ヴェロイドといばら姫の双方で戦闘が激化すれば、増え続ける執着種子が黙ってはいまい。が、ヒィロの闘志が迸り、周囲を包めばたかが植物、認識を歪められぬ道理は薄い。それでも数の暴力で切り抜けるなら、それを塞ぐ者も、また。
「……ってことだ。打ち漏らしはこっちで捌く。せいぜい死ぬなよ、傭兵」
「承知の上でさぁ!」
「リッド隊長ばっかり花形舞台でやんの。……お熱いねぇ!」
 アルヴァと傭兵達はヒィロの脇を抜けた種子を打ち払い、集中攻撃によって一体ずつ確実に潰していく。彼らの実力で後れを取る道理はないが、さりとて種子に取りつかれ、深い傷を負わない保証はない。半ば無尽蔵に湧いて出る敵を潰しつつ、アルヴァはいばら姫へと向かう機を窺う。
 戦端が開かれたばかりの戦場に漂う黒い気配は、イレギュラーズを歓迎していないことは言うまでもなく。振り払うには、だいぶ労を要す事はわかりきっていた。
 だからこそ、戦うのだが。


「成程、ロジェと僕とを引き剥がしたいわけか。僕は構わないが、君達で足止めが務まるのかな?」
「少なくとも、アンタの過保護っぷりから目を覚まさせる程度のことはできると思ってるさ。憎くて仕方ないだろ? アタシ達が」
「悪友は早めに引き剥がしておくべきだと、実感はしたよ」
 ヴェロイドは、イレギュラーズの意図を見抜いていた。されど、目の前の敵を倒すべし、という本能に逆らうことは大抵の努力では不可能だ。瑠々がいばら姫から距離を取ろうとすれば追わざるを得ず、彼女の堅固さは慮外のもの。明らかに攻撃が通っていない――二重三重に攻撃を重ねてもなお。だが、彼も感情的でこそあれ猪武者ではない。
「旦那、硬ったいなぁオイ。頑固なのが分かるってもんだぜ」
「身持ちの固さを自慢するなんて今日日流行らないわよ。もう少し他人を許す努力でもしたらいいのに」
 リッドとイーリンは瑠々を補助する形で次々と攻撃を叩き込み、少しでも不利に追いやるべく尽力する。が、その身の堅牢さたるや並の『大樹の嘆き』のものと比較にならない。真っ向勝負を挑んでいるはずなのに、巨大な壁を叩く感覚。全身を覆い、選択肢を奪おうとする甘い痺れ。『茨咎の呪い』を背負いながら戦うには、タフな相手であった。
「僕達の身内の問題だ、外に漏らす話でもない。……それに、黒い娘。君は随分と『着込んで窮屈そうだ』。少し、身軽になった方がいい」
 猛攻を受けながら、ヴェロイドは深く息を吐いた。無傷ではない。与し易いとも思わなくなった。その上で声をかけられた瑠々は己の服を摘んで怪訝な顔をし。棍棒が振り上げられた刹那、言葉の真意を理解したイーリンの警句が響く。
「まだまだ……この程度で自分は倒れないでありますよ!」
「頼もしい限りだぜムサシ! 男はそうでなくちゃな!」
「大丈夫、不調に陥らないことに全てを割り振った分、茨そのものの耐久性は……十分壊せる範囲だから。それまで倒れさせないよ」
 いばら姫は、というより絡みつく茨の群れは、ロジェの魔力を吸い上げ攻撃の勢いを弥増していく。ムサシがその狙いを自分に向けようとするが、半ば無差別に周囲に『当たり散らす』その猛攻は彼ならず誰彼構わず襲いかかる。ミヅハも美咲も、応援に駆けつけたアルヴァでさえも。
 威力重視の攻撃に切り替えた美咲と、ムラこそあれど攻撃速度に長けたミヅハの猛攻があれば、このまま茨からロジェを開放することも叶うはず。
「美咲さん……みんな……頑張って……!」
「ヒィロ、そっちは?」
「ぜんぜん! 痛くも痒くも……ない、かな?」
 ヒィロに群がる執着種子は、次々と現れては張り付き、一同の懸念を裏付けるように次々と自壊を伴う攻勢を仕掛けてきていた。瞬時に破裂するのではなく、熱と光を徐々に広げながらの内部崩壊。神秘の特性を持つそれは、『ヒィロにとっては』全く以て痛くも痒くもなかった。
 なかったが……彼女は、その崩壊の光が、事前に知り得なかった特性を持っていることを直感的に理解した。
 この光は、敵に攻撃意思を伝えると同時に、周囲の種子の不調を微弱ながら緩和する作用がある、と。一体なら無視できるが、集団で動く際はそうもいかない。ヒィロがこれらを引き受けることに全神経を割いていなければ、色気を出して攻めに転じた隙が僅かでもあれば。これらは瞬く間にいばら姫周辺に向かい、被害を拡大していたはずだ。
「なあヴェロイド……アンタ、趣味悪いって言われないか?」
 その状況から類推したアルヴァは、焦りを隠さずヴェロイドに対し告げる。距離が距離だ、ほぼ叫ぶような勢いさえあった。
「殺しても殺しても死なない類の娘が、窮屈な術式に身を押し込めるのより健全だろう? 自然の摂理は助け合いだ。助け合って、逃さない。それでいいと思っているからね」
「……ねえ、さっきから聞いてて思ったんだけど、只のお気持ちに対して主語が大きすぎない?」
 瑠々の防御術式を叩き割り、勢いで以てその肉体を一瞬なり地に叩きつけたヴェロイドの不快そうな返答。それに増して不快さを押し込めた声を張ったのは、誰あろうクルルであった。


「わたしは、変化なんて無くたっていいと思う。静かなままの森で居て良い、そこは同意できるの」
「僕の気持ちを汲んでくれている……なんて気持ちのいい話ではなさそうだね」
「当たり前だよ。変化するかどうかを決めるのはわたしでも貴方でもないんだから。決めるのは彼女自身だから」
 クルルはヴェロイドの言行の尊大さに不快なものを覚えていた。自由意志のある人々を何も決められぬ赤子扱いしていた彼に静かな憤りすら感じていた。無論、関係の薄い相手を必死に助けようなどとは思っていない。が、情熱を以て誰かを救おうとする仲間を邪魔されることも、相手の傲慢さを座視することも彼女は望んではいなかったのだ。だから――再び彼に向き直ったことの意味は明白だった。
(アルヴァ! 聖葉を! もう少し……あいつらなら引き付けておける!)
 未だ激しい攻勢を続けるいばら姫だが、明らかにロジェの露出範囲が広がっていることが分かる。イレギュラーズは耐え忍び、受け止め、切り返し……救出の道筋を立てたのだ。
「ロジェ、君は絶対に」
「ああ、絶対にアンタじゃ幸せにできねえし釣り合わねえ。貰ってくぜ?」
 ヴェロイドは両手の棍棒を振り上げ、渾身の打撃の構えを見せた。だが、その姿に飛びつく影……瑠々だ。そして、その一瞬の隙をついて、アルヴァがいばら姫へとまっすぐに突っ込み、聖葉を握りしめた。指先から漏れた光が茨を解き、少女の体を取り落とす。滑り込むようにキャッチしたアルヴァの距離は、全力疾走を以てしても一足では届くまい。
「終わりだ……ハイパーレーザーソードッッ!」
「絶対に、後悔するよ」
 ムサシがダメ押しに突きこんだ刃の光を背に、ヴェロイドは構わず棍棒を振り下ろす。その威力は語るべくもないが、瑠々はそのうち一本を道連れにして前のめりに倒れ込む。死ななかったのがなにかの奇跡だと思えるほどに、前のめりの姿勢だった。
 周囲に飛び散った棍棒の破片が全て地面に転がった頃には、すでにヴェロイドの姿はなく。その脅威にさらされ続けたリッドは、体力こそ残っていたがその場にへたり込んでしまった。
「これでお姫様は救出ってね。……ヒィロにぺたぺたくっつくとか、勝手なことしてくれるわホント」
「今までよくも散々引っ付いてくれたねー……ね、美咲さんの手でボクの身体キレイにして!」
 ヒィロは役割を終えたことを悟ると、美咲に向けてすがりつくように声をかける。当然、美咲もヒィロがいいようにされたこと、ずっと責め苦を(傷こそ受けぬまでも)与えられたことには憤懣やるかたない筈で。
 主人を喪った種子は、自ら命を断つか、なにものかに断たれるかの二択しかない。地に芽吹くには、イレギュラーズ相手にはあまりに悠長過ぎる。

「ん……」
「姫さんは無事みたいだな。故郷で暮らせりゃいいが、多分あいつが戻ってくるだろうな。リッド、ラサに連れてってやってくれねえか?」
 茨から解き放たれ、ロジェに快復の兆候が見えたのはすべてが終わって少し、イレギュラーズがなんとか一息ついた後だった。
 ミヅハは現状を鑑み、彼女をリッドら傭兵たちに任せ、大聖堂へと戻ることを決断する。
「分かってると思うけど……お姫様は自分で目覚めるから、おイタしたら『仲のいいお兄さん』にチクるわよ、いい?」
「ハハッ、冗談。俺は女で人生捨てたくねぇもんで」
 イーリンの釘刺しに、リッドは困ったように笑うとロジェを担ぐ。先を急ぐとはいえ、米俵じみた担ぎ方をするのはどうかと思うが……それも『らしさ』なのだろうか?

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

百合草 瑠々(p3p010340)[重傷]
偲雪の守人

あとがき

 おまたせして申し訳ありません。焦らす意図はありませんでした。
 死ににくいメンツならまず間違いなく『その手』も使ってくると思ったので多少の対策は組んでおりましたが、それはそれとして一人まるまるメタ対処に振り分ける思い切りの良さはグッドでした(それに対する対応も『専念すること』で潰れた格好です)。
 そんなわけで全員の動きが噛み合っていたと思いますが、MVPは対応ミスったら割りと詰むところを支えたヒィロさんへ。
 重傷とかパンドラ減少、今回ガチめに名誉の負傷ですよ……いつもだけど。

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