シナリオ詳細
すぐに神と思っちゃだめさ
オープニング
●灰桜の城
「アァ――未だ、不老不死などというものに拘っているのデスカ」
城の一室。畳を敷いた部屋の奥に座った影に向けて、青肌の鬼……いや魔種はため息交じりに呟いた。
外から照りつける陽光が、畳をキラキラと輝かせまるで黄金を敷いているかのようだ。
一段高い位置に腰掛ける影は、すっくと立ち上がり間にかかっていた幕を手刀ひとつで切り払った。
はらりと落ちる幕の向こう、立っていたのは灰色の肌をした鬼にして魔種。衣のあちこちに術札をつけた男だった。
その行為に深い苛立ちがあったが、青肌の鬼はまるで動じる様子はない。動じたのは周囲に控えていた男達だ。怯えすくみ、額をこすりつけんばかりに跪き頭をさげている。
「たまたま、『お嬢様』がそこまでに至らなかっただけのこと。少なくとも不老の身には至ったであろう。――『叫喚』」
『叫喚』と呼ばれた青肌の鬼は、その目をわずかに細める。
「オジョウサマ……? アァ、アァ……あの姉妹デスカ。とてもいい蠱毒に育つと思ったのデスガ。期待外れデシタ。そちらも同じ気持ちだと思ってマシタ、『泰山』?」
魔種という伝説級の存在に至ったとて、不死の力を得ることはできなかった。
冠位魔種であるベアトリーチェやアルバニアですら死ぬのだ。それこそが世の理なのだろうか。
だが、泰山の目には失望の色はなかった。
「まだ諦めたわけではない。地位も財力も、人もこうして手に入れた。天獄夜叉党や天女狂い、それに子鬼王の力を使えば、あるいは可能やもしれん」
百鬼夜行の主、生命への冒涜、そして飽くなき暴食。確かに彼らは死という概念を覆しかねない要素を持っていた。それでも……と叫喚は口の中でころがした。
たとえ不可能だと分かっても、とまることはできないのだろう……とも。
「ワカリマシタ。では……『例の計画』を進めることにしまショウ」
●動き出す灰桜
ここは豊穣郷カムイグラ。かつては魔種たちによる影の支配を受け混沌としていた首都高天京も、四神の結界に守られ平和な日々へと戻りつつある。
だがしかし結界の外……つまりは地方領主たちが収める村々は未だ脅威にさらされていた。
中でも屈指と言えた脅威『羅刹十鬼衆』という魔種集団のもたらす被害は計測できないほどであり、カムイグラに派遣された情報屋たちもその情報を追うことに苦心していた。
そんあ中……。
「やっと、連中が動き出したんや」
白亜(p3p008770)が、テーブルに一枚の書を置いた。
何も書かれていない紙切れだったが、魔力の光をあててすかすことで文字が浮き出ていく。
これは『灰桜』と呼ばれる宗教団体が主に使う通信手段である。
「…………」
無明(p3p008766)が黙ったまま、浮き出た文字に目を走らせる。
文字は完結に『葡萄 摘め 呂』という三つの単語が書かれているだけだ。
「これが……『灰桜』の動きに関係あるの?」
説明を求める無明の視線。それは、説明をうけるために集まっていたローレット・イレギュラーズたちも同じだった。
視線を浴びた白亜が頷く。
「あちこちの村が子鬼やら天女やら妖怪やらに襲われとるのは?」
「知ってる。それで村がいくつも滅ぼされてるって……」
「けど滅ぼされん村もあった。なんでや?」
これまで被害にあった村々に印を付けた地図を広げてみせる白亜。
印は広くばらけているが、『印のついていない村』もまた多い。そしてそういった村はある程度固まっているように見えた。
問われてみれば不思議なことだ。特別防衛力が優れているわけでもない、他と大差ない村々がなぜ襲われないのか。地形を理由にするにしても不自然すぎる配置だ。
「深く調べてわかったんや。『襲われない村』の共通点は……みんな『灰桜』の信徒やった」
灰桜。
それは『泰山』という人間を崇拝するカムイグラの新興宗教である。
神が姿を見せた今そういったカルトは撲滅されたかに見えたが、首都を守りつつも、地方は守られていないという現状に対して神へ不信を向けるものもあり、そうした隙をついて『人間個人を崇拝する』というカルトが拡大したようだ。
「泰山はかつてカムイグラを襲撃した魔種や。確実にマットーな人間やない。そんな奴がこの書を信徒で埋め尽くした村に送った。どういうことやと思う?」
「メッセージ……それも、予め決めた行動を一斉に起こすための」
無明の答えは早かった。
白亜はそれに頷き、地図の一点を指さす。
「この村から、住民がみんな武装して移動をはじめてるんや。他の村も同じように行動を初めとる」
移動するということは、人員を『結集』させたい場所があるということだ。
そしてそういう場合、ミスを防ぐためにマニュアルを持って移動するものだ。
「集団のひとつを襲撃して、『マニュアル』を奪う。それを手に入れれば、『泰山』の居場所も探れるはずや」
●戦力供与
こうして白亜や無明たちは村から移動する集団からマニュアルを奪う作戦を決行した――が、しかし。
予想外なことがあった。
村人たちは武装しているとはいえ所詮村人。白亜たちの敵ではない。
そんな村人を護衛するように、奇怪な怪物や子鬼(ゴブリン)のようなモンスターたちが随伴していたのだ。
羅刹十鬼衆の繋がりによって他の魔種から戦力供給を受けているのは間違いない。
より状況は深刻化し、なにがなんでも『マニュアル』を奪わなければならない事態となったのである。
- すぐに神と思っちゃだめさ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年04月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
夜間山中。灯籠を持って歩くのは、『必ず奴を……』白亜(p3p008770)。
足を止め踏みしめた草がわずかな音を立ててまがり、小さな虫がどこかへと去る。
白亜の視線はただ前を向き、そして同時に過去を見つめてもいた。
「泰山、あいつはとことん人を良く識っていて、話が出来るのが最も厄介な奴……。
泰山の信者、どっぷり浸かってる信徒だと死んでも治らんけど、この村人達はまだ洗脳が薄い事を期待しなしゃんとなあ……。
あれは存在してはならぬ奴じゃ」
心の内がつい口に出たことに気付いて、白亜はきゅっと唇を引き結ぶ。
「信仰していたから救われたのではなく、信仰していなければ殺されていたということですね。泰山のやりそうな事です」
『神威雲雀』金枝 繁茂(p3p008917)はその言葉に続けるように呟き、背筋を伸ばし息をついた。
「今を生きぬ者へ死後に幸福が訪れる事はないのです。灰桜衆と戦った者の1人としてそれは断言できます」
「四神結界緊急防衛作戦を思い出すのう」
確かに、という顔をして頷く『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)。
アドラステイアと良い勝負じゃなと続け、今度は彼が先行して歩き始める。
「だが例え情状酌量の余地があったとしても、魔種に与する事は止めなきゃならないというわけか。神の力が届かない分、俺たち神使がなんとしても止めないとな」
そのあとに続く形で歩き出す『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)。
暫く進むと山中の獣道へと出た。移動中の一団を先周りできるポイントだ。
「相手が戦力の薄い一般市民だけなら、多少脅しつけるだけでも『マニュアル』の奪取は可能だろう」
錬はそう語り、持っていた灯籠の明かりを消す。
国が混乱し、そして立ち直ろうとしている時。行政の統治能力は弱まり多くの場合貧困層へのケアが疎かとなる。
そういった時に必ずと言って良いほど現れるのが終末思想であり、それを利用する宗教団体だ。
信者のよりどころを自ら断たせ、自分達を信じるしかない状態を作り、そして実質的な奴隷を飼う。よくある手口であり、憎むべき手口だ。
そんな風に考え唇を噛んだ……その時。
「待って」
小さく、『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)が声をあげた。
片目を片手で覆い、何かを観察しているような様子だった。
「使役してるカラスが集団をとらえた……んだけど、まずいね。『子鬼』と『天女』が随伴してる」
「戦力は?」
先に答えたのは『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)だった。太い木の枝に飛び乗って視界を確保していたヒィロの顔を、美咲がちらりと見た。
「大丈夫だよ。対応できる程度だと思う。そのくらいは、備えて戦力を集めてたはずだからね」
「それならよかった!」
ヒィロはにっこりと笑った。
「信じて崇める対象があるって羨ましいねー。
自分では何も考えずに、ひたすら明るい未来を信じて生きてられるんでしょ?
寝ても覚めても夢見てるみたいなもんだもんね。
だからさぁ……。
その夢、ぶっ壊してあげたいな。……アハッ」
暗闇のずっと先にいるであろう集団の方へ顔を向け、小声で呟くヒィロ。
(幸せいっぱいに信じてることを目の前で粉々にしてあげれば、きっと恐怖で目を覚ましてくれるよね。
そしたらきっと皆、昔のボクと同じ惨めで不安で怯えながら生きる“普通の”人間に戻ってくれるよねー)
仲間達の気持ちや考えを察しているのかどうなのか、『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が蛇銃剣アルファルドにコイン束めいた弾をこめ、がちんと押し込む。
「信仰というか、破落戸にみかじめ料を納めて庇護を求めるようなものだ。
まあ、何らかの利益を求めて信仰を寄せる事もまた自由だしな。様々な事情や都合でぶつかる事も含めて……」
要するにこれはビジネスだ。アーマデルはそうつぶやき、仲間達の顔ぶれを今一度確かめる。
中でも特に緊張が顔に出ていたのは、『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)だった。
「何を考えてる?」
「此度の状況、時をかけるほどに数の差が驚異になるであります。だから、早急に事態を改善せねば……と」
アーマデルはその言葉を受けて『ほう』と感心したように眉をあげる。
「確かに、その通りだ。人間集団の社会的脅威度は、その若さと持っているものの少なさ……そして人数だ。この手の集団が制御可能な人数を超えた時、それは生きる巨大な爆弾に変わる」
「それこそ、あのときみたいに……」
希紗良は長く大きく息を吐き、カムイグラが壊れそうになった日のことを思い出していた。
「そうなる前に、であります」
●
夜道を進む群衆には決意の色が確かにあった。
報われぬ者たちによる、それは世界の憎しみであったり、嘆きであったり、あるいは怒りであったが、共通するのはやはり救いへの願いと祈りであった。
この世界が、あるいは国が滅び去り、自分達だけを助けてくれる奇跡がおきる。
そんな荒唐無稽な、しかし蠱惑的な希望に縋ってしまうほどには。
彼らの先頭を歩いていた村人が……ザッと音をたてて足を止めた。それほど唐突に、夜道に彼女は現れたのだ。
美咲である。木に背を預けるようにして立っていた彼女がゆっくりと村人たちへと振り返る。
「追っ手か。儂等を村に戻そうとて無駄だ。我等は意を決し――」
中でも年老いた男が前に出て農具に手をかけた、その時。男は瞠目しおもわず後じさりした。
思わず首元を抑え首を振る。
「――退かねば、なぞる」
「貴様、ご老に何をした!」
老人を庇うように前にでる数人の男達。
ポーチから美咲が取り出したのは、あろうことか出刃包丁であった。
あまりの生々しさにたじろぐ男達。
そんな彼らを下がらせ、随伴していた子鬼と天女がそれぞれ前に出てきた。
美咲たった一人に――と考えるのは、流石に愚かなことだ。
「――!」
木の上で息を潜めていたヒィロが跳躍し、まるで巨大な砲弾のように天女フチャーリの胴体へと斬りかかった。
思わず払いのけようとする天女だが、直撃を受けたのか大きく転倒。ヒィロを掴んで放り投げようとするも、ヒィロはくるりと身を転じてフチャーリの手を逃れた。その様子をみて明らかに動揺する村人たち。
「天女さまが――!」
「こっちは任せておいて!」
ヒィロの呼びかけに合わせるように、オウェードが勢いよく天女へと突進した。
「彼を崇拝すれば襲撃されないと思っていたじゃろうが……今、ワシらに襲撃されている!」
オウェードは村人へとそう呼びかけながら、フチャーリによるなぎ払いを防御していた。
バガガッっと組んでいた腕が次々に開かれ、無数の腕が一斉にオウェードへぶつかり、思わず吹き飛ばされる。
が、そのそばからヒィロが背後からフチャーリへ斬り付け注意をひいた。
二人がかりでなんとかフチャーリを押さえ込もうという作戦である。
その一方で、錬と希紗良が子鬼たちとは反対側から現れた。村人を逃がさぬように、あるいは見逃さぬようにである。
手をかざし、大きな声で呼びかける錬。
「そんな怪物や小鬼が付いているなら本当は分かっているんじゃないのか? 『信徒が襲われていない』んじゃない、『信徒じゃない者を襲っている』んだと」
「そんな筈ないわ! あの御方は私達を守ってくださるのよ! この怪物たちはあの御方にひれ伏したのだわ!」
「魔種を蓄えさせて先にあるのは破滅のみ。その血じゃなくて心が鬼になったら終わりだぜ?」
包丁を抜いて斬りかかってくる村人女性を護符から作り出した石壁で防御すると、錬はその裏で歯がみした。
もしこれで下がってくれなければ村人もろともなぎ払うことになる。
現に子鬼たちはずる賢くも、村人達と混ざるような位置からこちらに弓矢の狙いをつけていた。
「そなた達は『信ずるものは救われる』と思うておられるでありますか? では、皆の思う救いとは、一体何でありますか? あやかしの手駒になることでありますか?」
「違うわ! あなたたちこそ国の手駒になっているんじゃないの!?」
「いいえ」
希紗良が刀で包丁の斬撃を受け止め、ぱっちりと開いた目でうったえかけた。
「豊穣という国は、立ち直りの最中であります。ゆえに辺境にその手が届くにはまだかかる。
それを歯がゆく思うならば、我ら神使が皆のお手伝いをいたしましょうぞ。幸せに暮らせる日まで」
あなたちは見捨てられたわけじゃない。だから我等がここにいるのだ。そう心を込めて呼びかける。
そんな彼女たちの頭上をアーマデルが大きく飛び越えていく。
彼に狙いを付けた子鬼の弓矢を蛇銃剣でもって払い落とし、着地と同時に子鬼を剣で突き殺す。
ギャッと声をあげ絶命する子鬼。吹き上がる血しぶきに周囲の村人が悲鳴をあげた。
「話を聞かないヤツはとりあえず殴ってから『お話し』するものだと──師兄も言っていた」
説得は任せたぞと言い、アーマデルは蛇鞭剣ダナブトゥバンをチェーンモードに切り替え放つ。腰を抜かしてしりもちをついた村人の真上を抜け、その後ろの子鬼の顔面に剣は突き刺さった。
そんな中で、羅刹十鬼衆手配状を翳した白亜が大声で呼びかけ続けた。
「これを見てもまだ奴らを信じるか」
説得をされては面倒だと理解しているのだろうか。子鬼たちが粗末な棍棒を持って白亜へと襲いかかった。
迎え撃つようにガントレットをした拳を握り固めると、子鬼の棍棒を紙一重にかわしてからその顔面に拳をたたき込んだ。
すぐさま身を転じ、別方向から襲いかかる子鬼の胴へ回し蹴りを繰り出す。固い板を仕込んだ靴によって派手にめり込んだ踵。子鬼はくの字にまがって飛んでいく。
そこへ、繁茂がすかさず『神気閃光』を放った。
喝の声と共に水平繰り出した手刀が空間を切り裂くように走り、強固に反抗する村人たちの意識だけを刈り取っていく。
次々に崩れ気絶する村人達。
「武器を持った理由が大切な人を守る為ならば戦うべき時は今ではありません。
その手に握る武器の意味を一度考えてください」
鋭い目で残る村人たちを見つめ、拡張した声で呼びかける繁茂。
できるならば殺したくないという彼らの意志が伝わったのだろうか。残る村人たちは武器を足元に落とし、ゆっくりと後退しながら両手をあげた。
「……よろしい」
繁茂は頷き、目を閉じた。
●
子鬼たちが倒され、村人達が投降した今。天女『フチャーリ』の役割はただ一つである。
無数の腕をムカデの脚のごとく動かし、頂点についた頭を村人たちの方へと向ける。
「落ちぶれていたワシがイレギュラーズとしての初陣は防衛じゃった。
こうして今のワシがいる…『勇者を目指した男』としてそれだけは感謝はしよう。
しかし、それが灰桜に入らない一番の理由じゃ! そう泰山に伝えるがいい!」
押さえ込もうと斬りかかるオウェード。武器は確かにフチャーリへと刺さるが、をがしりと掴むと、そのまま強引にスイングし近くの木々へと放り投げてしまった。
身体を丸め、鎧でダメージを逃がしつつも無数の木々をべきべきと折ながら飛んでいくオウェード。
一方で美咲は目をキラリと光らせフチャーリをにらみつけた。
「斬れない――殺せない相手じゃないってのは、わかる。
ヒィロ、崩しかけてくれる? 全部、斬るから」
「オッケー! 天女も堕ちればただのモンスターってね」
美咲による全力の『猪鹿蝶』が無数のラインを作りフチャーリの腕を次々に切り裂いて行く。
交差するように飛び跳ねたヒィロの斬撃も加わり、フチャーリは酷く暴れて二人を突き飛ばす。
そしてそのまま、フチャーリは『村人の方へと』突き進んだ。
「な――信者を殺す気か!?」
予想外の動きに瞠目し、式符を取り出す錬。
一方アーマデルは蛇銃剣をリロードしながらため息をついていた。
「制御下を離れた手下など、情報の詰まった袋にすぎないというわけか。確かに合理的な判断だが――」
気に入るかといえば別だ。アーマデルは蛇鞭剣を展開しフチャーリの身体に巻き付けると、びしりと動きをとめ蛇銃剣の弾を乱射。
と同時に錬の取り出した『式符・銀閃』が起動し真銀の刀を瞬間鍛造。握りしめた抜き身の剣でフチャーリの背を切りつけた。
その一方。村人たちを守るべく割り込んだ繁茂は背中越しに村人たちへと語りかけた。
「灰桜と縁を切るのであれば避難先として領地に伝手がありますのでご紹介できます。
移り住むも陣地を整える事もできるでしょうし羅刹十鬼衆の混乱が収まれば村へ帰る事もできるでしょう。
ですので一旦村へ帰り話し合ってください」
そして返事を聞かず、走って戻ってきたオウェードへ『コーパス・C・キャロル』の術を唱える。
「すまぬ!」
「いいえ」
タックルのような勢いでフチャーリへぶつかっていくオウェード。それによってほんの僅かにできた隙を見つけ、繁茂は鋭く叫んだ。
「今です――!」
彼らの後ろから同時に飛び出したのは、希紗良と白亜。
フチャーリが僅かに残った腕で希紗良を掴もうと身をよじるが、希紗良は空中でギュルンと回転をかけるとフチャーリの腕を切り裂き、そのまま駆け上るかのような勢いで胴体に至るまでを切りつけていった。
吹き上がる赤黒い血。
もはや血液と呼ぶには黒すぎるそれをすり抜けて、白亜の真正面からの強烈な打撃を繰り出した。
ズドンと衝撃がフチャーリを抜け、波打つようにけいれんするフチャーリの長い長い胴体。
それが崩れ落ちるのを見つめながら、白亜は長く長く息を吐いた。
「わっ、と!」
着地を失敗しかけ、とんとんと片足ではねるようにしてなんとか勢いをころす希紗良。
ちらりと振り向くと、白亜が汗ばんだ額を拭い、綺麗に整った前髪を指でスッとなでていた。
「『これでおわり』とは、おもっとらんよ」
村人達へと向き直る白亜。
その中でも特に老いた男が進み出ると、懐から何枚かの紙でできた束を取り出した。
「合図が送られたら、儂等は皆、この場所に行くように教えられておる」
一枚目の紙には、ずっと昔に滅んだという村の地図がマークされている。今は『華盆屋村』と呼ばれている村だ。
しかし……。
「つい最近になって、行き先が変更になったのです」
その言葉に白亜がキラリと目を光らせた。
たとえ対等な関係を結ぼうと、『泰山』という人間は他人の思い通りになる男手はない……そう、知っているからだ。
おそらく村人たちを殺したり恐怖で押さえつけるなどして『マニュアル』を奪ったり場合、真の集合場所とは異なる場所を掴まされる仕組みになっていたのだろう。それはそれで情報価値は高いのだが、泰山が他を出し抜いて自分だけ安全な場所に移動するというもくろみに嵌まるところである。
つまり、今から語られるのは……。
「その場所を、今からお教えします。資料にも残していない。一部の者にしか伝えられていない秘密なのです」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――情報が更新されました。泰山たちは次なる何かを計画しているようです。
GMコメント
●おさらい
羅刹十鬼衆がひとり『畜生道』泰山を崇拝する宗教団体『灰桜』が動きをみせました。
彼らの一団を襲撃し資料を奪い取ることで、泰山が起こそうとしている活動を知ることができるでしょう。
特に今回は羅刹十鬼衆の『餓鬼道』や『衆合地獄』の協力も見られるため、警戒すべき事案とみるべきでしょう。
●オーダー
夜間移動中の集団を襲撃します。
武装村人たちはほとんど敵ではありませんが、随伴している『子鬼(ゴブリン)』や『天女』といったモンスターはかなりマジメに戦わなければこちらが敗北しかねません。
なので実質、このモンスターたちを倒すことが勝利条件となるでしょう。
●フィールド
夜間の道中です。夜なので暗いですが村人たちも明かりを持参しており夜目に困ることはあまりないでしょう。
●エネミー
・天女『フチャーリ』
無数の腕と三つの首をもつ怪物です。
戦闘能力が高く、特にBSへの耐性や回復能力があり、EXAの高さや自然回復能力をもつため、搦め手が通じにくい敵でもあります。
無数の腕にはそれぞれ大量の武器をもっており、攻撃レンジの広さも特徴のひとつです。
また、場合によって【混乱】【狂気】【魅了】といった精神系BSを使うことがあります。精神耐性をもったりBS回復能力をもっていると効果的に対抗できるでしょう。
・子鬼(ゴブリン)の集団
カムイグラの地方村落で頻繁に出現していた亜人型モンスターです。
子供程度の体躯しかありませんが、それなりに強かで夜目が利きます。また数が多いためこちらを攪乱したり回避ペナルティを嵩増ししたりといった数の利を活かした攻撃をしてくるでしょう。
・武装した村人達
泰山という個人を崇拝し、彼を崇拝していれば自分達が襲われることはないと信じてしまっている人々です。
戦力にはなりませんが、たとえば数十人がかりでブロックされるとこちらの陣形が崩壊しますし庇いに入られれば一方的にこちらが攻撃を受けかねません。
効率的に排除するか、あるいは説得によって彼らの戦意を落とすとよいでしょう。
(村人的には天女や子鬼という戦力があるので自分達が死に物狂いで戦う必要はないと考えている雰囲気があります)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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