シナリオ詳細
<Scarlet Queen>Black Jack
オープニング
●<Scarlet Queen>Black Jack
黄金。
煌びやかなるその輝きに目を奪われる者は幾人もいる事だろう。
古来より人々が愛し求め狂い渇く。
故に成立するのだ。多くの黄金が動く――カジノという場が。
ここは大型客船『スカーレッド・クイーン』
海洋の、ある海域にて航行する一つの船。
独自のチップを通貨の様に見立て、王国が如く存在しているカジノ船だ――
尤も。その裏では命を懸けるデスゲームが行われていたりもするものだが……
特に。最下層は見世物であったと言っていい。
チップを求めて手を伸ばす。その戯れ、イレギュラーズも経験した事だろう。
――しかしその一個上からは別世界だ。煌びやかなるカジノの一端が此処に在りて。
「お集まりの皆様ようこそ。ではルールを説明させて頂きます」
そして、船の一角で――一つのテーブルを囲む者達がいた。
運営側の人間と思わしき者がトランプを片手に、言を紡ぎ始めて……
「此処で行われるのはブラック・ジャックで御座います。
ご存じの方も多いかと思いますが、複数枚のカードによって『21』を目指すゲームです」
――ブラック・ジャック。
トランプゲームの中ではポピュラーな代物だろう。初手で二枚引き、そこから21の数字になる様に目指していくゲームだ。2~9までは数字通りの点数であり、10、J、Q、Kは10点。Aが1点か11点か選ぶ事が出来る。
22点以上になってしまえばバースト……つまり負けだ。一方でバーストせぬ様にと点を抑えても、ディーラーより低ければそれはそれで負け――というのが基本的なルールだが。
「しかし今から行うのは些か特殊な面が御座います――
一つ目。ディーラーはおりません。立ち会わせては頂きますが、お客様同士での勝負となります。ご希望があればカード配布などは担当致しますが」
「……ディーラーがいない? という事は」
「チップの奪い合いをしていただく――という事です。
この点はどちらかといえばポーカーに近いと申し上げましょうか」
運営側の人間がルールを説明する――この船では以下の様に進むらしい。
0:参加費チップ一枚を支払う。(二回戦は二枚、三回戦は三枚……となる)
1:プレイヤーに二枚ずつカードが配られる。
2:プレイヤーは参加費と同額のチップを運営に支払い、支払った回数分のカードを他プレイヤーに見えない様に『伏せる』事が出来る。(それ以外は他プレイヤーにも見える様にオープンしなければならない)
3:プレイヤーは一人一枚ずつ好きな枚数まで追加できる。(この際にもチップを消費し、伏せる事が出来る)
4:ベットタイム。全プレイヤーの枚数が確定した後、プレイヤーはコール(参加費と同額を追加で払って勝負)、レイズ(参加費の倍を払って勝負)、サレンダー(参加費と現時点でベットしている分を失うが降りれる)を選択する。レイズを選択した者がいた場合はサレンダー者以外は再びいずれかを選択する。
5:ベット確定後、全てのカードをオープンにする。この際に21に最も近い者が勝者。参加費とベットされた分を総取り。複数人該当者がいる場合は『Q』を持っている者が優先して勝者となる。それでも複数該当者がいる場合は山分け。
6:自身がバーストしていても、自身以外の全員が降りていたら勝者になれる。
「ベットを後にするんですね? ベットを先にするのではなく」
「はい。間違いございません。
そしてこのルールの関係上、カードを引いてバーストしていてもゲームは続行されます」
「……成程」
本来。ブラック・ジャックはバーストすれば即負けだ。
しかしこれは何というか――ポーカーの要素が含まれている。
例えばポーカーが役無しであっても勝負できるように。
バーストしていてもハッタリで他人を下ろすという選択肢も出来る訳だ。
「ふむ。仮に、バースト者同士で勝負した場合のチップは?」
「次回に持ち越します。次回の勝利者が、その分のチップを総取りします。そして最終的に一ゲームごとに席に座り続けるか否かを確認しますが、ゲーム続行する人物が一名を除きいなくなった時点で終了……その一名の方が勝者となります」
そして。
「最終的な勝利者には此方が与えられます――『上』へと往ける会員権です。『上』は更なるサービスやゲームが行える場でも御座いますので、ご興味がおありの方は振るってご参加ください……」
説明を行っていたディーラーが取り出したのは、一つのカード。
紅。類は深き紫色で満たされたソレは、一部の者にだけ与えられる特権。
スカーレッド・クイーン上層へと進む為の――会員権。
……所詮、この階層を楽しむ程度の只人には永久に手にすることが出来ぬ代物だ。
この船の『オーナー』は――凡愚を待ち望んでなどいないのだから。
「なお。暴力行為、ゲーム進行を妨げる妨害行為は禁止です。
またプレイヤーが他プレイヤーへ、なんらか干渉する魔法や神秘の行使を行う……その他、イカサマがプレイヤーの指摘により発覚した場合も罰則として、その回のゲームは強制敗北……
勝者総取り額と同額のチップを追加で勝者に払って頂きます」
「…………プレイヤーの指摘により、ね」
「以上。宜しければゲームを一時間後に開始いたしますので――
再度この場へとお集まりください。
プレイヤー一名に付き、付き人一名まで同行可能です。よろしくお願いします」
- <Scarlet Queen>Black Jack完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年03月31日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
チップの転がる音がする。
囲んだテーブルには幾人もの影。まもなくゲームが始まろうとしている中で――
「わーい! やったやったやりました――!」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はルーレットに参加していた。
大仰に手を挙げて喜ぶのは大当たりでも出たか――ルーレットはゲームとしての回転が速く、結果も出やすい。ここ一時間程ココロはルーレットに通いつめ、時に泣き、時に大喜びを繰り返しており……積もったチップを見た限り勝ちの方が多い様子であった。
「はははお嬢さん。此処では見かけない顔ながら、やり手じゃないか」
「いえいえそんな! でも、ギャンブルってすっごく楽しいですよね!
わたしもっと遊びたい! 次はドドーンと賭けちゃいますよ!
どうです? 今絶好調の私に一つ、賭けてみたりしませんか!!?」
であれば。裕福そうな男性が一人、声を掛けてくるものだ――
故にココロは満面の笑顔と共に男性をいいくるめんとするもの。目的はチップであり……少しでも。一枚でも多く稼ぐ事を目的としているのだ。全ては本命の『ブラック・ジャック』にて――援護とする為に。
「あちら。随分と盛り上がっている様子ですね――こんばんは。隣、宜しいでしょうか?」
「……何者だ。この辺りでは見ない顔だな」
そして『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)が探るのはBJに参加するダドリックである。
澄恋はゲームに参加しない。なぜなら嘘を見抜くのは下手だから……なにせ以前、結婚差詐欺にあった事もある程に。ならば斯様な場には至らぬ事が正解と彼女は『プロ花嫁』らしく振舞う事に専念するものである……プロ花嫁?
「ええ。実は先日乗船したばかりでして……
それよりも如何でしょう。私に投資してみませんか?」
「ほう? いかなる利益が私にあるのか? そして何をするつもりだ?」
「ふふ。何も賭博で勝つ必要はありません、まともに遊び方を知らぬ小娘が何故この船に乗れているか……ここまで言えばわかりますね?」
同時。ダドリックに近付く澄恋。
その頬に口付けをするかのように――色を仕掛けて、隙に乗じチップを頂かんと――
「生憎だが。私は誰ぞと組む気はないのだ。他を当たれ、この美しい手と共にな」
が。洞察力に優れしダドリックは澄恋の狙いを看過。
澄恋の、チップを奪わんとしていた手首を掴みて払う――ああ、いけずな方です事。
「私、賭け事はいつも遊ばれてしまいますのよね。貴方、私の代わりに打ちなさい」
「はいはい……ったく、わがままお転婆お嬢様だわ……負けても文句言うなよ?」
「あら? 当然ですけれど――負けなんてしないように。折檻されたくないのならね」
そしてその場には他に正装に身を包む『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に対して『コイツ……』と言を紡ぐ『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)がいた。
以前に引き続き『お嬢様』たる雰囲気であるイーリンと、付き人を装うコルネリア。
やる気のないような態度を示すコルネリアだが全ては演技であり。
「はぁ。アイリーンお嬢様のお世話は疲れるぜ……クソ、帰りてぇ。
なぁ一服してきていいか――? はっ、もう始まるって? おいおいマジかよ……」
「煙草ぐらい我慢なさい。私と煙草、どちらの用件が優先だと思ってるの」
「こーいう事一々言ってくるからめんどくさいんだよなぁ。
なぁアンタ変わってくれよ、マジで。今ならこーんな美人のお嬢様が付いてくるぜ?」
隣に居る参加者に愚痴る様にコルネリアは言うものだ。
我々は不仲であると。ゲームが開始する前から策謀は張り巡らされているのである――そして。
「おや、ヴィクトールさま……そろそろゲームが始まるようですよ?」
「えぇ。ようやくですね――ふふっ。これ以上のお楽しみは、後にしておきましょう」
『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)と『黄銅鉱』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は場に座りながらも仲睦まじい男女の体で腕を絡ませている。ヴィクトールの背後にいる未散が彼の身を包む様に。
くすくす、けらけら――
誰それに聞こえぬ様に内緒話を一つ二つ。ギャンブルを始める前というよりも、まるで深き恋人たる蜜月を楽しむ素振りを見せている二人……参加者の一人が未散らへと視線を思わず向けれ、ば。
――羨ましいですか? いいですよ、見るのは、ね。
返すものだ。そんな意味を込めた、眼差し一つを。
周りが蕩ける空気に絆されそうな程の気配を籠めれば。
さぁ――盛大な茶番を始めましょうか。
●
参加者の一人、マルコリーは『オーナー』に惚れている。
彼女の為ならば全財産投じても惜しくない程に――
だが彼女には滅多に会えぬ。だからこそ会員権が欲しいのだ。
「ふっ素人臭い女に場違いな男女とはな。この勝負、貰ったか」
「おいおい。チップが多いだけの輩が、狼気取りか?」
そんな彼がイーリン達やヴィクトール達を見据え鼻で笑う――時。
『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は配られたカードを見据えながら、そんなマルコリー自体を嘲笑うものだ。人の本質を見据える事が出来ない輩がギャンブルなど。
「小僧――ワシを笑ったのか?」
「心当たりでもあるから『そう見える』んじゃねぇか――一枚引くぜ」
マルコリーが睨みつけてくる、が。意にも介さぬニコラス。
警戒すべきはこの男なんぞではないと。別の椅子に座る、ダドリック……
あっちの方がよっぽどヤバイ匂いがするものだ。奴の瞳は此方の奥底を覗きこんでくる様で……澄恋の狙いを見破っただけの事はある。しかしその反応速度や洞察力の一挙一動を澄恋に見せてしまっていた――
その際の癖。目がどう動くか、如何なる指先が其処に在るか。
彼女を通して念話で伝わってくる情報があればニコラスらの力となるものであり。
警戒を最大にしつつ――ゲームを進めていくものだ。
「コール」
「コール」
「サレンダー、だ」
結果が出る。その度に敗北の嘆きと勝利の美酒が場に注がれるもの――
尤も、序盤はそう大した事は無い。リターンは少なく、この場は『探り』の段階だ。
勝負を仕掛けようとする動きがあるか?
こちらの動きを見る人物は誰だ? 己が牙を潜めているのは誰だ――?
Qを持っているかいないか、他人を下ろす為にカードをオープンにしておくか、或いは勝利する為に重要な手札をクローズにしておくか否か――それらがこのゲームに詰め込まれている。
が、同時に『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は気付いていた。
(……これには『悪意』も詰め込まれています)
一回戦は大した事はない。二回戦もだ。
しかし三、四、五――飛んで十回戦になる頃には恐ろしい数のチップが飛んでいくのである。なにより『一度負けても、掛け金の多い次で取り返せばいい』という泥沼に嵌っていく可能性すらも……
辞め時を間違えれば破産だ。自らの判断を誤れば、自らの所業によって死ぬ。
(――『アナタ』らしいゲームですよ。ええ本当に)
と、その時。
「おっと――大分盛り上がっておりますね、ヴァイオレット様」
「おや澄恋さん」
ヴァイオレットの下へと澄恋が合流する――お花摘みに行っていました、と。
横文字はよく分からない。が、相手の思考が読めれば勝てるだろう。
――助けを求める様な感情の色がないか探るものだ。
刹那の助けを求めるのなら婉曲的に持ち札が悪いことを指すはず。
……特に、これよりマルコリーをカモる為には必要になろう、と。故に。
「ふふ……では、レイズと行きましょうか」
ヴァイオレットは、往く。
レイズ。倍掛けだと? 場の参加者にいくつかどよめきが広がるもの。
そのカードは二枚。両方チップを支払って伏せられている――情報が、ない。
「ぐぅ、あれは余程自信があるのか……?」
「いやハッタリでは……?」
「ふふ――ご不安なら降りられても結構ですが?」
周囲は疑心暗鬼に。そこへ付け込む様にヴァイオレットは扇動するものだ。
……正直、ヴァイオレットはゲームを得意とはしない。
だが得意であるか否かだけで全ては決まらぬ。要は最後の一人にイレギュラーズの誰かが成りさえすればいいのだ。最終的にゲームに参加するプレイヤーの内ニコラス、ヴァイオレット、コルネリア、ヴィクトールのいずれかが勝利すればいいのだから。
故に、ヴァイオレットが試みんとしているのが『場を暖める』事である。
「ぬぐぐぐ。小娘如きが、調子に乗りおって!
その化けの皮を剥がしてくれるわ! ワシもレイズだ!!」
「おやおや怖い怖い……これはワタクシが負けてしまうのでしょうかねぇ?」
このように。マルコリーなどといった愚かな人物を乗せてチップを吊り上げたりなど。
そしてニコラスら他のプレイヤーを勝たせる。全ては勝利の為に。
「――まにあった! あの、これも含めて下さいッ! がんばってくださいね」
と、その時。
わたしが、あなたにベットしますと。ヴァイオレットらに更なるチップを齎したのは――ココロだ。ここが勝負時であるとハイローラーのマルコリーのペースを乱すべく投入を行いて後は観戦へと回るもの――
「…………サレンダーだ。付き合ってられん」
「かか。ここで行かなきゃ何が出来るってなぁ――俺は行くぜ。レイズだ」
「ヴィクトールさま、如何されます?」
「ふむ。面白いですね……私もレイズでいきましょう。なぁに勝てますとも、ねぇ?」
「ねぇ。貴方、これは勝てる勝負ではありませんの? 行きなさいよ。何を臆すの」
「ちょっと。お嬢様ちょっと……ガチで向こうにちょっと行っといてくれませんかねぇ?」
ダドリックは降り、ニコラスは受け、ヴィクトールも未散に視線を向けながら倍掛けを。そしてコルネリアはイーリンと、己らの間だけで通じるサインを交わし降りる事を選択する――
詰み挙がっているチップ凄まじい。これが勝利者の下へと往くのか。
……一方でダドリックは冷静な目で場を見ていた。『妙に盛り上がりすぎている』と。
「ふふ。つまらないお方ですね――もう少し燃え上がられては如何ですか? 魂をこそ」
「燃え上がった末に灰になるのは御免でな」
ダドリックが視線を向けた先にいたのは、未散だ。
彼女がヴァイオレットの扇動を支援せんと『乗って』いる様だ――
乗せられた者達は破滅へと向かうか、それとも。
「……もし、そこの貴方。つかぬことをお伺いしてもよろしくて?
私、ここは初めて訪れたのだけれども……ああいう勝負でイカサマはないのかしら?」
「ん。ああ――時々あるよ。上手い奴はバレねぇようにやるけどな」
「けれど。イカサマなんてしたら辛い『罰』でもあるのでは?」
「モノによるな。あれは禁止じゃなくて罰則があるだけだが、禁止の場でやったら――いや勿論バレたらだが――最悪その場で『粛清』されるって噂だぜ。例えばセカンド・ディールとか知ってるか? あれもイカサマになるんだとよ」
同時。その盛り上がりの片隅にてイーリンは情報を収集せんとする。
これより上層には何があるのか。会員権を取得した人物はいるのか。
あそこにいるプレイヤー達の噂話など――
……聞き及んだ範囲によれば『上』は、真に命をかけあうゲームになるのだとか。運が良ければ生き残れる程度のゲームが繰り広げられる。そして会員権を取得した人物は確かにいるとの事だが――上に行った人間は勝つか、死ぬかのどちらかであり。
「なにより会員権を持ってる奴の事は、同じく会員権を持ってる奴からじゃねぇと分からねぇな……」
「ふふ。どうもありがとう――では」
お礼に、ゲームに少し付き合うとしませんかと。
イーリンはBJの方に視線を向けながら紡ぐものであった……
●
「カードオープン――ニコラス様の勝利です」
「はあああ!? 小娘、貴様、その手札で何故そのような勝負を――!」
そして出る結果。ヴァイオレットに乗せられたマルコリーは――むしり取られる。
負けた。というのにヴァイオレットの口端は奇妙に吊り上がっていて……
「……お仲間か。なるほど、まぁそれもアリだろうさ。禁止はされてないからな」
見破るはダドリック。吐息を一つ零す、が。不平や不満を漏らす事はない……一方のマルコリーは失ったチップの山々に、駄々をこねる様に声を荒げ運営側の者に睨まれているが。
「首尾は如何――あら。負けてるの? じゃあもういいわ向こうで別のをやりましょう」
「まだやるんすか……もう帰りてぇ……マジ、せめて一服……」
「大丈夫ですわ。私、勝てる勝負しかしませんの」
一方でイーリンとコルネリアは適度な所で脱落し、他の場へと。
イーリンが仕入れた情報を基に別の勝負を仕掛けんとするのだ。
目標はチップを増やし、味方に託す事。負けそうな勝負はしない――必要以外では。
勝つのが目的ではなく、依頼の達成が一番なのだから。
「全く。これだから面白いというものですね――ギャンブルは。
さて。これからは如何進めていったものか……」
「ヴィクトールさま、お気を付けを……このゲーム、21を引けば勝ちも同然ですから」
まだ油断召されませんように、と。
未散はヴィクトールに密着しながら――その指先を彼の背に、這わせて。
示す。『B』の意味を。この局は結果が宜しくないやもしれぬと……
「あぁ……で、あれば。このまま卓から降りるのもいいかもしれませんね」
「おや、良いのですか?」
「勿論。ええ――今の所、差し引きが丁度ぐらいですから」
楽しむことも出来ましたしね、と。ヴィクトールは未散の耳元で囁くように。
負けないように振舞う事で『目』を逸らさせる役割ははたせただろうと――自分の口元に意味深に手をやっただけで警戒する輩がいれば、なんともおかしさで口元が緩みそうであった。全てブラフだというのに。
と、そう思っていれば――意味深にこちらを眺める視線を未散が気付いて。
「……私は売り物の玩具ではありませんよ」
故に告げる。
こちらの肢体を眺める様な無粋な視線へ強き眼光と。
ちょっとした魔法を雫の様にプレゼントして。
「うぉ、ぐ――」
……にゅふ。無粋代わりにチップを少し、頂きます。
「一対一になったな――そろそろ仕舞か」
「ふん。勝つのは私だ。次の掛け金は、お前の総量を超えるぞ?」
そして、最後の戦いが始まる。
ニコラスとダドリックだ。カードが配られ、そして。
――ニコラスは一度に二枚引き。
「――レイズ」
「何?」
チップを全て賭けた。
我慢しろ。堪え続けろ。その資金はココロが生み出した。
油断を誘え。狙いを隠せ。その空気はコルネリアが作った。
場を荒らせ。勝利の火種をつくれ。それは未散とヴィクトールが拵えた。
熱に狂え。熱く熱く燃え盛れ。その盤上はヴァイオレットが整えた。
観察しろ。相手を読み解け。そのための情報は司書と澄恋が拾った。
――あとは俺が選ぶだけ。
「――――」
「どうした、乗るか? 降りるか?」
馬鹿な。追加で二枚を引いた上で……レイズだと? しかも伏せて?
枚数的にまず間違いなくバーストしている。これはハッタリだ。
攻めれば勝てる。乗れば勝てる。十中八九。
(……だが)
だが。100%ではない。
もしかしたら21を掴んだ可能性もある。
そしてその確率は『奇跡』という程ではないのだ。
もしかしたら、在り得る――いやしかしそんな筈はない。
絶対にバーストしている。行けば勝てる。
勝てる。
乗れば勝てる。勝てる。勝てる筈だ。絶対にいける。ハッタリだ。そんな筈は……
「――――」
ダドリックの胸中は焦燥と思考の奔流。
ニコラスの瞳は冷静に。だがこの意志は熱く熱く燃え盛る。
刹那の快楽、雲耀の輝き。
先の見えない勝負こそ面白い。狙いを外せば俺は終わる。博打に絶対はないのだ。
――『だから』俺はここにいる。
「さぁ。愉しめよ――ゲームをな」
喉の奥が渇くのが愛おしい。
魂が燃え盛る。脳髄が結末を追い求め、胸の高鳴りこそ黄金の欠片屑。
観客席側でココロは見据える。まもなく至る結末を。
如何なる表情をすればいいのか悩みながら――しかし眼を逸らす事なく。そして。
「さあ……あなたの手札を、怯懦を、虚勢を。今この場で晒してくださいな」
澄恋も囁くように、さすれば。
「いいだろう。賭けてやる――その傲慢と共に死ね」
ダドリックが、受けて立った。
チップを全て失えば降りれない。末路は一つだと。
オープンされる。そのカードの数字は――
21.
「馬鹿な」
「そう思うだろ? だが。こういう事があるから――面白いんだよなぁ」
博打はよ。
……戦いは終わった。これ以上はダドリックにもチップに余裕が無かったのだ。
故に運営側から手渡される――賭けられた全てのチップと、そして。
「おめでとうございます。こちらが上へと進める会員権でございます」
上への道筋を、だ。これにてまた一歩、クイーンへと近付いた訳だ、が。
しかしはたしてソレは『上』への歩みなのか。
或いは。
より苛烈なるゲームが待ち受ける奈落へと通じる道なのかもしれなかった……
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ブラック・ジャックを基にしたゲームでした。皆さまお疲れさまでした。
今回は『ゲーム』の範疇に留まりました、が。次の階層は恐らく……
ともあれ、ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます。今回はカジノ・ゲームが主体となっています――
ルールに分かり辛い面があればこちらの方で調整しますので、安心して『お遊び』いただければと思います。
よろしくお願いします。
●成功条件
ブラック・ジャックに勝利し、会員権を手に入れる事。
●フィールド:大型客船『スカーレッド・クイーン』
ある人物が所有している大型客船です。
表向きはドレスコードすら存在する招待制の客船――ですが。その内部は完全なる闇カジノとなっており、中では命を賭けた様々なデスゲームが行われています。ただし今回の階層では、単純なゲームとしての側面が大きいようです。内容は後述します。
今回、皆さんは『船底の更に一つ上』側に案内されました。
ここは船底とは異なり煌びやかなるカジノの場になっています――周囲ではルーレットやダイスゲームなども行われている様ですが、そちらでは後述する会員権は手にする事は出来ません。
ただし、チップを入手する事は出来るでしょう……遊んでみてもいいかもしれませんね。
或いは影でこっそり盗んでも。
●ブラック・ジャック
いわゆる『21』の数字を目指すトランプゲームです。
ただしこの船では以下の様にゲームが進行していきます。
0:参加費チップ一枚を支払う。(二回戦は二枚、三回戦は三枚……となる)
1:プレイヤーに二枚ずつカードが配られる。
2:プレイヤーは参加費と同額のチップを運営に支払い、支払った回数分のカードを他プレイヤーに見えない様に『伏せる』事が出来る。(それ以外は他プレイヤーにも見える様にオープンしなければならない)
3:プレイヤーは一人一枚ずつ好きな枚数まで追加できる。(この際にもチップを消費し、伏せる事が出来る)
4:ベットタイム。全プレイヤーの枚数が確定した後、プレイヤーはコール(参加費と同額を追加で払って勝負)、レイズ(参加費の倍を払って勝負)、サレンダー(参加費と現時点でベットしている分を失うが、降りれる)を選択する。レイズを選択した者がいた場合はサレンダー者以外は再びいずれかを選択する。
5:ベット確定後、全てのカードをオープンにする。この際に21に最も近い者が勝者。参加費とベットされた分を総取り。複数人該当者がいる場合は『Q』を持っている者が優先して勝者となる。それでも複数該当者がいる場合は山分け。
6:自身がバーストしていても、自身以外の全員が降りていたら勝者になれる。
ポーカーとブラック・ジャックが融合している様な形になっています。
最終的にゲーム続行する意志を持つ者が一名を除いていなくなった場合、その人物が勝者となり後述の『会員権』が運営より送られます。
●ルール
・暴力行為、ゲーム進行を妨害する行為は禁止。
・『プレイヤー』が『他プレイヤー』へ、なんらか干渉する魔法や神秘の行使を行う。その他、イカサマがプレイヤーの指摘により発覚した場合も罰則として、その回のゲームは強制敗北。勝者総取り額と同額のチップを追加で勝者に払う事。
・プレイヤー一名に付き、傍に付き人一名まで同行可能。
(付き人はゲームを見守ったり、他プレイヤーのイカサマが無いか監視するのは自由です)
・周囲で観戦は可能。ただしゲームに参加している者に話しかけてはいけない、ゲームを妨害してもいけない。
●対戦相手
・ダドリック
本船にいる常連ギャンブラーの一人です。
総チップは不明ですが恐らくイレギュラーズよりも多く所持しています。
非戦スキルの類は不明ですが、鋭い洞察力を持ちこういったギャンブルにも非常に慣れている様です。
・マルコリー
かなり金持ちな人物で総チップは不明ですが、間違いなくイレギュラーズよりもかなり多く所持しています。しかしギャンブラーとしての腕は些か以上に疑問視される程度しかない様です。なんでも一度だけ見た事のあるオーナーにベタ惚れしているのだとか……?
非戦スキルの類は不明ですが、あんまりギャンブル向きではない気がします。
・その他数名
他にも幾名か参加者がいる様です。
ただ上記二名と比べて特筆すべき点はありません。
●チップ
皆さんは前回(<Scarlet Queen>Tip or Life?)の結果と、一足早くルーレットなどで稼いでいたニコラスさんの行動により多くのチップを入手しています。その枚数は現段階で『118』枚です。このチップを使って勝負に挑むことができます。
ただ勝負開始までには時間がありますので、まだ何らかの手段で増やせるかもしれません。
ちなみに。0枚になったら船から降りる事も出来なくなります――
●会員権
『上』へと更に往く事が出来る会員権です。
入手するとご友人も誘って『上』へ行くことができます――つまり一枚入手すれば、イレギュラーズの皆さんは全員更に奥に進めるという訳です。裏には名前を書く欄があります。一説にはこれが契約書型のアーティファクトの一つなのではと言われています。
●備考
イレギュラーズの皆さんは最低一名は本ゲームに参加して頂きます。
ただ、それ以外は自由です。周囲で行われている普通のルーレットやダイスゲームに参加してチップを集めても良いでしょうし、その他対戦相手やこの船自体の情報収集など行ってもOKです。
……なお、お気づきかもしれませんが運営側が行った説明として明確に禁止なのは『暴力行為・ゲーム進行の妨害』であり『イカサマ』は罰則があるのであって禁止ではありません。
更には『運営が指摘する』とは言っていません。言ったのは『プレイヤーの指摘で発覚した場合』です。つまり運営は『イカサマの類が行われていても指摘しません』。
全体的にこのゲームの説明には実は、かなり穴があります。
恐らく意図的なモノです――利用するかしないか、出来るか出来ないかは自由でしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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