PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死者の救済

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「皆さん、新しい依頼で――」
 す、と言い切る前にブラウ(p3n000090)が羊皮紙を踏んでずるりと足を滑らせる。しかしその体がころりと転がってローレットのカウンターから落ちる寸前、その体は宙に浮いた。
「ぴ?」
「どんくさいひよこだね。頭でも打ったらどうするんだい」
 ひよこの体をむんずと掴んだ女性はため息混じりに床へ下ろす。……が、それだけでは終わらず突然の説教が始まった。
(これどうするんだ)
(でも依頼の内容は知りたいし……)
 だがブラウがこの状況では内容を伺うのも難しいというもの。静かにざわつくという器用なイレギュラーズたちの中で、おやと表情を変える者がいた。
「シビッラさん?」
「なんだい、私は今このひよこに――」
 振り返った女性、シビッラ=ヴェントゥリーニはンクルス・クー(p3p007660)の姿に目を丸くした。聞けば、彼女らは悪徳聖職者の襲撃で共に戦った仲なのだそうだ。
「私はライトブリンガー所属、シビッラ=ヴェントゥリーニ。よろしく」
 此度の協力者である彼女は、天義に蔓延る悪を制裁しに行くのだと告げる。
 天義では現在、ふたつの派閥が争わんとしていた。片や、更生と社会復帰を念頭に置いた施策へ舵を切った新政府。片や、更なる厳罰姿勢を敷くことが未来に繋がるのだと言う保守強硬派である。
 どちらの言い分も完全に否定することは難しいが、真正面から衝突すれば死者を生み出すことは想像に難くない。復興を進める天義にとっては喜ばしくない事態であり、水面下で軍備増強を進めていることを知った以上は手を打たねばならない、と言うのが実情だ。
「どこのギルドに頼むか吟味している場合でもなくなってね。あちらに『イモータルレギオン』がいるんだよ」
 シビッラが顔を顰める。イモータルレギオンとはネクロマンサーの力を持つ集団であり、彼女はその類を非常に毛嫌いしているようだった。
「死者を愚弄する真似や腐った性根した奴は風穴開けてやるさ。あんたらも行くなら準備しな」
 その心持ちとしては――そこまで毛嫌いする理由は天義の民だからであるのか、それ以外のワケであるのか不明だが――一刻も早く向かいたいと言うところだろう。イレギュラーズたちも遅れることがないように、参加を決めた者たちは出立の準備を整えたのだった。



 一同はローレットを出立し、保守過激派が潜んでいるという街に到着していた。
 見る限りは変哲のない天義の街であり、少し気にして見たならば、より過去の天義に近い雰囲気だろうか。しかし敬虔な天義民、という表現で収まる範疇だ。
「気を抜くんじゃないよ」
 だが、ピリピリとした空気を纏うシビッラは注意深くイレギュラーズたちへ囁く。この街に敵が潜伏していることは確かなのだ。
 シビッラとイレギュラーズたちは住人の様子を眺めつつ、怪しい動きがないかと探りをいれる。とはいえ、下手に保守過激派の耳に入って「不正義だ」などと主張されては面倒だ。一同は耳を澄ませ、視線を巡らせ、怪しい動きがあったら見逃さないようにと気を張りながらも、足を動かす。向かう先は街の集合墓地だ。
「ネクロマンサーにとっては格好の資材置き場ってところさ。死者を操るなんて気に食わないったらありゃしないけどね」
 吐き捨てるように呟くシビッラ。そうこうしているうちに集合墓地へとたどり着く。
 そこでは1人の少女が祈りを捧げているようだった。少女とはいえ、墓地にあった人気に一同が気を張り詰めるが、彼女が祈りを捧げているのだとわかればすぐさまその糸は緩む。
「……他に人もいないね」
 そう告げるシビッラは、どこか呆れたかのようで。彼女は少女の元に近づくと、1人なのかと問うた。少女が無言で頷く。
「世の中物騒なことも多いんだから、変な輩に巻き込まれないうちに帰るんだよ」
「……ありがとう」
 こくんと頷いた少女にシビッラは踵を返し、手をひらひらと振りながらイレギュラーズたちの元まで戻ってくる。少女の祈りをこれ以上妨げるつもりはないようだ。
 他に怪しい人物がいるわけでもなく、一同は墓地を後にする。少女はその後ろ姿を見て何かを囁いた。

 ――その直後、イレギュラーズたちは怨霊の群れと遭遇することになる。

GMコメント

●成功条件
 怨霊の群れの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 天義の街の路地。至って普通の細道であり、両脇は建物で挟まれています。人気はありません。数人横並びになれば通り抜けることも難しいでしょう。
 戦闘中に住民が巻き込まれる可能性があります。

●エネミー
・怨霊×30
 保守過激派に属する術者が操っていると思しき怨霊たち。路地で挟み撃ちにするように現れました。明確にイレギュラーズとシビッラを狙っています。
 その姿は曖昧な輪郭をした人型で、ローブのようなものを身に纏っているように見えます。そのため、性別などはわからない状態です。
 音もなく動き、神秘攻撃で向かってきます。【麻痺系列】【混乱系列】のBSを扱う他、【ブレイク】【重圧】【無策】等のBSを持つ攻撃を繰り出してくる可能性があります。他のBSについては不明です。
 また、彼らは住民が路地に迷い込んだ場合、守るように立ち回ろうとするでしょう。

・???
 怨霊には術者がいると想定されます。ただし、これだけの量を操れるのであれば相当の手練れと考えて良いはずです。
 戦闘中は姿を隠しているのか、どこにいるかわかりません。

●友軍
・【撃ち響く救恤】シビッラ=ヴェントゥリーニ
 ライトブリンガー所属。ショットガンへ相手に合わせた特殊弾を込めて戦います。イレギュラーズに近い戦闘能力を持ちます。
 放っておいても死にません。また、イレギュラーズの指示を聞かない構えです。その理由ははっきりしませんが、皆様とシビッラを繋ぐ『知らない因縁』があるのかもしれません……。

●ご挨拶
 愁と申します。
 怨霊の群れを叩きのめし、この街から保守過激派の勢力を削ぎましょう。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 死者の救済完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
冰宮 椿(p3p009245)
冴た氷剣
ルシア・ペラフィネ(p3p009277)
沈む夜の祈り
ファニー(p3p010255)
スティール・ダンソン(p3p010567)
荒野の蜃気楼

リプレイ


 柔らかな日差しが路地に差し込んでいる。まだ春にしては冷たい空気が肌に触れるが、日差しも相まって心地よい。遠く耳を澄ませても争う声などが聞こえないことから、治安が良いことを思わせる。
(悪い人が分かりやすければ良いのに……)
 厄介そうな天義の事情に『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)はむぅ、と小さく口を尖らせる。新政府、保守強硬派、オンネリネンにイモータルレギオン、ライトブリンガー――様々な所属の者たちがにらみ合っている状況というのは理解できるが、では誰を倒せば良いのかというと判断に困るところ。
 しかし今回に関しては――少なくとも『この依頼』に関しては――怨霊を操っている者が悪いの定義に収まるだろうか。保守強硬派やイモータルレギオンに限らず、正義を謳い過度な制裁を加える者も存在しているから、一概に『悪』と断定するのは難しいかもしれない。
(それに、使い方によっては平和的な活動もできるだろう)
 死者を操る者が悪い者ばかりだとは思わない。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は複雑な思いで路地を歩く。
 以前の月光人形事件――親しい人の黄泉帰りを起こした事件。その一件からも天義の人々にとって死者を操るなど禁忌かそれに近いことであるのだと知ることができる。決して良い顔はされないだろう。
 だが、力は須らく使い方が肝心だ。死者を操って生者へ危害を加えるのではなく、死者をよみがえらせようなどとするのでもなく。成仏できない死者の言葉を聞いたり、実際に成仏を手伝ったりできるならより広く認められていくだろうに。
 だが、そう考えられる者ばかりではないとウェールも理解はしている。特に過激派のトップや、末端の考えは必ずしも同じではないだろう。その想いはまだわからないが、きっと『天義の未来』を考えているには違いない筈なのだ。その過程が異なるだけ。
 もしも、彼らが手を取り合えたのなら――。
「――シャキっとしな! そんなんじゃあっという間に殺されるよ!」
 唐突な『撃ち響く救恤』シビッラ=ヴェントゥリーニの声がウェールを思考の縁から引きずり戻す。彼女は既にショットガンを手に表情を険しくしている。ハイセンスを持つウェールもすぐに気づいた。
「こいつはすげぇな」
 『スケルトンの』ファニー(p3p010255)が多数の気配に笑い声を漏らす。前も後ろも左右からも、此方を害そうとする気配だらけときたものだ。
 それらが姿を見せた時、イレギュラーズの何人かはぎょっと目を見開いて、シビッラは小さな舌打ちをひとつ。『夕陽のガンマン(少年)』スティール・ダンソン(p3p010567)がぼそりと呟く。
「…………怨霊?」
「みたいだな。とはいっても、これだけの数だ」
 ゆらゆらと輪郭を揺らすその足元にあるべき足はなく、若干向こう側が透けている。『冴た氷剣』冰宮 椿(p3p009245)は目視で見える分だけでもざっと数えてみたが、20はくだらないだろう。『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)はすらりと聖刀を抜いて構える。
「どう考えてもタイミングが良すぎる……私達を狙って出てきたみたいだね」
「ええ」
(相当な術者がいるのでしょうね。ここでわたしたちを襲う理由は……)
 いいや、そんなことは考えても仕方がない。裏にいる者も実力も、その思惑も、まだまだ推測の域を出ないのだから。出来ることは刃で以て道を切り拓くこと、考えることは後からでも出来ると椿は大太刀を引き抜いた。
「皆、行くよ!」
 挟み撃ちで現れた怨霊の片側へとサクラが地を蹴る。練り上げられた居合術が怨霊たちへ襲い来る。しかし切り拓かんとした道の先にもまだ怨霊がいると知り、サクラはしかと刀を握り直した。
(まさか白昼堂々、こんなに怨霊が出て来るなんて)
 きっとお化け屋敷だってここまで霊が出てくることはないだろう。しかも幻覚ではなく、どれもが霊として形を持っている。
「冗談であってほしかったな」
 これだけの数を相手にするのは骨が折れるが、1体ずつ仕留めていくしかない。スティールは出そうになる溜息をこらえて怨霊の1体へリボルバーを抜きざまに発砲する。
「近くの敵は――」
「任せて!」
 敵の前へと躍り出るンクルス。シスターの姿に怨霊の数体から視線が刺さる。その姿がぼやぼやしているのを見て『沈む夜の祈り』ルシア・ペラフィネ(p3p009277)はかくりと首を傾げた。
(そこまで幽霊らしい格好ではないのですね)
 怨霊、というほどおどろおどろしい風体でもない。強いてあげるならば『生者を害す意思がある』というくらいだろうか。ともあれ、結果的に倒すことは変わりないのだとルシアは衝撃波を放つ。
 そういえば先ほどの少女は無事だろうか。墓地に1人きりだった彼女の安否を気にするとともに『もしかして』を考えてしまうのは仕方ないことだろう。しかしまずはそれを横へ置いておいて、この状況を切り抜けなければ。
「皆操られてるみたい……? それなら私が、全部浄化してあげる」
 聖職者でもある『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は神の福音を奏でる。生者には魅入られてしまう程に美しい音だろうが、死者にとってはどうだろうか。
(天義の民で、こんなふうに死者を冒涜する人がいるなんて)
 月光人形の事件以前に、黄泉返りは天義において禁忌だ。かの事件はその標的を親しい人間としたためにより大きなものとなったが、本来ならすぐさま断罪されるべきものである。
 それを扱い、そしてそのような人間を雇っているなど、保守過激派であるか以前の問題ではないか。
「これ以上好き勝手させない……!」
 スティアへ怨霊が群がっていく。ウェールは保護結界を展開すると、後方の仲間たちへの連携力を高めた。
「ありがとうございます。こちら側はお任せください」
 たん、と椿の足が地を蹴る。振るわれる大太刀は次元を刹那に消し飛ばし、怨霊たちの一部をそこへ引き摺り込んで粉砕せんとする。一刻も早く数を減らし、スティアや前方の仲間たちの負担を減らしていかなければ。
「なんつー火力だ、怖いねえ」
 くつくつと笑うファニーの眼窩、その暗がりで炎のようなものが小さく揺れる。まだまだ新参者だなどとも言っていられないか。
「じゃ、俺様も頑張りますかね。頑張りたくねぇけど」
 ここまで来るのだって随分面倒で、それでも依頼だからと同行したのだ。これ以上はもう何だってしたくないけれど、そのためには退けなくてはいけない。
 嗚呼、嗚呼、須らく煩わしい事!
「さっさと吹き飛んじまいな!」
 ファニーの放つ魔砲が路地を真っすぐに貫いていく。逃げられる場はそう多くない。味方には当てぬようにと位置を調整するファニーはまだまだいくぜ、と魔力を練り上げる。
「いいですね。攻撃は最大の防御とも言いますから」
 守りはスティアとウェールに任せ、彼らへのダメージが少なくなるよう後方から火力で押しつぶす。路地という移動の限られた空間だからこそ為せる戦法だろう。多少抜けてくる怨霊が居ても、シビッラの放つ聖属性の銃弾が怨霊を射抜く。
 しかし、不意にウェールが耳を震わせ首を巡らせた。癒しの炎を周囲に燃え上がらせながらも、その耳は戦いの場より遠くの音を拾い上げる。
「気をつけろ、誰か来るぞ!」
 近づいてきているのは前方からだ。スティアは怨霊たちへ呪いの歌を聞かせながら、他にも関係のない者が近づいてきていないかと気を配る。
 しかし、ここまで人のいない道だ。恐らくは人が通らないのが常であり、不用意にこちらへ近づいてきているのはどうしてもこの道を使いたかったか、敵の関係者か。
 だがどうあっても戦闘を止めることはできない。襲い来る怨霊へ抗戦していれば、その向こう側に現れた者が驚いた目でこちらへ視線を向ける。そして輪郭の定まらない怨霊たちを見てひぇ、と小さな悲鳴を上げた。
(彼らを恐れている……何も知らない人?)
 保守過激派で事情を知っている者であれば、この怨霊たちが何なのかは検討がつくはずだとサクラは考えていた。それならば彼――ポストマンに見える――は本当に何も知らない一般人か。
「ここは危ないよ、逃げて!」
 サクラは彼へ向かっていく怨霊を見て咄嗟に叫んだが、彼は身体が竦んでしまったのか一歩も動かない。そんな彼へ怨霊は両腕を広げ――彼の前でぴたりと止まった。
「え……?」
(まるで、守ろうとしているみたい……?)
 ポストマンもサクラも困惑する。何故怨霊が生者を守ろうとするのか。サクラは怨霊とイレギュラーズたちを見比べるポストマンの視線に気づいた。
 まるでどちらが正しいのか――どちらが断罪されるべき悪であるのか、汲み取ろうとするように。
 しかし体の硬直が解けたらしく、サクラの言葉に従ったのか、怨霊の姿を気にしながらも走り去っていくポストマン。守るように立ちはだかっていた。怨霊は再びイレギュラーズたちの方へと向かってくる。うち1体へ衝撃波を叩きつけたルシアは、一同の中心で好きに撃ちまくるシビッラへ視線を向けた。
 イレギュラーズは前か後ろかで手分けしていたが、シビッラについては話を聞かないだろうと特に指示しなかったのである。しかし彼女もまたイレギュラーズへ指示を出すことはなく、お互いに『いいようにやってくれるだろう』という思いが見えるようであった。
(悪くない腕だ)
 スティールはガンマンの1人としてシビッラの技能に内心感嘆していた。が、彼女の視線が逆にスティールを射抜く。
「私の顔に何かついてるかい。そうじゃないなら1つでも多く撃ち抜くんだね」
「――言われずとも」
 幸い戦闘中なので長いお説教が始まることはなかったが、まずは彼女に感心されるくらいに実力を見せつける必要がありそうだ。スティールは若干近づいてきた怨霊へしつこく連射を浴びせかける。
(ひとまず、良い感じに共闘出来ていそう……かな?)
 ンクルスはそんな彼女をこっそり気にしつつも、周囲の空気と接続することで手のように操り、怨霊の頭を締め上げていく。あとはンクルスが引き付けた怨霊たちくらいだろう。
「だいぶ減ってきましたね」
 後方側もウェールの焔に力を与えてもらいながら、椿の大太刀が軽く振り下ろされる。より魔力をカツカツに使っているファニーは使わねば宝の持ち腐れと、ハーフ・アムリタの補助を受けて魔砲を放った。
 確実に怨霊はその数を減らしていた。しかし存外イレギュラーズたちもダメージを負っている。あともう少しだというのに。
「負けない……! 皆、私が時間を稼ぐよ!」
 ンクルスの祈りがパンドラを呼び起こし、不撓不屈の精神で持ち直す。サクラも倒れさせてなるものかと聖なる光を齎した。果敢にルシアが神薙で数体の怨霊を薙ぎ払う。
「ったく、お前さんらが何者かは知らんがね。残り香ってのは余韻を楽しむためのもんさ」
 スティールの迅速なる抜き打ちがひとり、またひとりと怨霊を仕留めていく。
 彼らにも自分たちのような、生きている時間があったはずだ。そこで関わった者とて、このような姿は望んでないだろう。
「それに――鉛玉を撃ち込んじまえば、そいつとの諍いは終いってのがお決まりだ」
 最後の1体。撃ち込まれた怨霊はその輪郭を解いて掻き消える。前方の敵がいなくなったのを見てとった仲間たちは後方を振り返る。あちらも大差ない時間で終わったようだ。
「建物の壁はすり抜けてこなかったな……」
「そこまで希薄だとこちらへ危害も加えられない、ということでしょうか。ともあれ、支えて頂いて助かりました」
 そうでなければ椿もファニーも、あっという間に力が底をついてしまったことだろう。だが、とファニーは首を傾げる……ように頭蓋骨を捻った。
「術者はどこだ?」
 エネミーサーチに引っかからないと言う事はもっと遠くから操っていたのか、それとも自身では操らず、命令を遂行させる類であったのか。スティアはファミリアーに捜索させてみる。せめて犯人の手掛かりがあると良いのだが。
(相手に有利だろう墓地で襲い掛からなかったのも、過激派らしくはない気がするな……)
 ウェールもハイセンスで痕跡を探しながらそう考える。あそこなら怨霊だけでなく、死者の肉体なども扱えただろうに。
 そんな中、自身の翼で飛び上がった椿はあの少女を発見した。無事だったのか、と思うのと同時に向かって来ているのがこちらだと気づく。地上で痕跡探しを手伝っていたスティールはその姿を見て「無事だったか」と呟いた。
 彼女はふらりと近づいてくると、おもむろにどこかへ祈りを捧げる。その唇が紡いだ小さな言葉を、耳の良いサクラだけが聞き届けた。

 ――力を貸してくれて、ありがとう。

「アンタ、ここはまだ危ないかもしれねえから――」
「……警告に来たんだ。この街に……もう、入ってこないで」
 スティールの言葉を遮った少女はイレギュラーズへそう告げる。サクラはいつでも応戦できる距離を開けた状態で、口を開いた。
「さっき、墓地で何かつぶやいてたよね。……怨霊たちをけしかけたのは」
「うん。ボクだよ……だって、入ってこないでほしいから」
 ここで消してしまえたら上々。しかし一筋縄でいかない相手と知ったからこそ、彼女は自ら出てきたのだろう。
「ねえ、名前はなんて言うの?」
「ボク?」
 ンクルスの言葉に小首を傾げながら少女はヒツギと答える。彼女の命令した怨霊が住民たちを守るのならば、必ずしも悪い者ではないのかもしれない。それなら話がしてみたいと思ったのだが、入ってこないでほしいとはどういうことなのだろうか。
「言った通り、だよ……あなたたちは、ボクたちの邪魔を、するんだよね……? でも、戦わなくてすむなら、その方が良い、でしょう?」
 だから――警告。次は保障できない。
 そう告げる彼女の言葉を聞いて、サクラは皆へ撤退を促した。この状況に単独で出てくる以上、彼女自身も只者ではないことが伺える。加えて、この街に他の敵が潜んでいないとも限らないのだ。
(敬虔な姿は隠れ蓑で、住民と彼女たちは協力関係なのかも)
 それは憶測の域を出ないし、問うたとてヒツギが真実を答えるとも限らない。それならば――彼女が無事に街から脱出させてくれそうな今、街から出ておくべきだろう。
 何をするにも、まずは態勢を整えなければ。イレギュラーズたちはローレットへと踵を返したのだった。

成否

成功

MVP

ファニー(p3p010255)

状態異常

ンクルス・クー(p3p007660)[重傷]
山吹の孫娘

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 少女『ヒツギ』の存在がローレットへ報告されました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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