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シナリオ詳細

マーダーミステリー/LOST RAIN

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黒
 ――傘を忘れた。
 雨雫が冷たい。濡れた服がじっとり肌に張り付いている。打ち合わせをした担当者が、飼い猫が死んだ話をした夜だった。
 ぽつりぽつりと雨が降る。
 後味が悪い。どうしてあんな話をするのだろうと美琴は憂鬱に吐息を零す。老いた愛猫が病気になって、お金がなくて弱っていくのを見守るしかできず半年かけて看取った。そんな話だった。可哀想だ。気持ちが暗くなる。どうしようもない現実を、見て見ぬしてもあるのだと知っている悲劇を、目の前で見せつけられて、目を逸らすなと言われた気分だった。嫌だった。

 ――楽しい事を考えたい。
 どうしようもない事を悲しい哀しいと言っても、気持ちが沈むだけじゃない。世の中にはそんなの沢山ある。いちいち気にしてたら、心を病んでしまうわ。

 ビルの窓に明かりが並んでいる。あの中では、誰かが屹度まだ仕事をしている。
 住宅の窓がカーテン越しに明るい。あの中では、誰かが――何かをしている。

 美琴はとぼとぼと夜道を歩いていた。車が行き来する道は、排気ガスの匂いがする。

 ほたほたと歩く。
 跫が後ろにもう一人分聞こえることに気付いた。雨の匂いがした。なんだか、じめっと湿っていた。真っ黒な墨を零したみたいな影が後ろから伸びていた。足元を視ていると、道路がどんどん黒に侵食されるような錯覚を覚えた。鉄の臭いがするじゃない? 生臭い――血みたいな、ちょっと甘いような。気のせい、と口の端を持ち上げて足を速めた。ぱしゃ、ぴしゃ、足元で水溜まりをはねて。
「――は、……ハァ」
 吐く息が白い。私の息が熱い? 掌が雨と汗で湿っている。夜気が冷えてる? 靴音が響く。私の――カツ、カツ、カツ、カツ。後ろ、すぐ背後――ほた、ほた、ほた、ほた。どうして。遠くならない。ずっと聴こえる。幻聴? 足元に視線を落とす、落とす、落とす。黒――黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒、「ッ……!!」喉がひきつった音を立てる。

 声、出ない。出せない。
 疲れてるんだ。あんな話聞いたから。全部思い込み。もしかしたら夢かも。そうだ、振り返ってみよう、振り返って――


●ひとつの依頼
 ぽつぽつと雨が降る街景色を窓から眺めていたエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)に声が掛けられる。振り返る視線が下に向くのは、情報屋の野火止・蜜柑(p3n000236)が床に正座しているからだ。
「依頼のお話がですね~、ありまして。ぜひエクスマリア様にお願いしたいんです」
 案内されるままテーブルに着くと、そこには2月に同じ依頼に参加した柳・黒蓮(p3p010505)と散々・未散(p3p008200)が揃っているではないか。問う視線に情報屋は「前回の依頼とは関係ないですが」と首を振りつつ、「『Latest街』の依頼なんですけど」と切り出した。

 テーブルの上には、地図と資料、調査書と写真、人数分の軽食とドリンクが用意されている。

「まず、今回の事件はこの女の子が誘拐されたので、助けて欲しいっていう依頼です」
 写真の女の子は大人しそうな眼鏡の娘。『茅田美琴(かやた・みこと)』ちゃんという。
「救出して警察に届ければ、お仕事終わりやて。あとは、知らん!」
 簡単なお仕事や。
 少年はそう言ってニコニコした。

「依頼者は、匿名希望です。誘拐についての情報は、こちら」
 少年が調査書を配る。
「これは、連続誘拐事件です」
 これまでの被害者は、実に20人近くにのぼるという。
「不思議な情報があります。順にお話しますね」
 少年が話した内容の重要な点を纏めると、以下である。
 1、被害者はいずれもネットの動画配信サイトにおける『マーダーミステリー公演』出演者募集に応募している。
 2、ネットの動画配信サイトにおける『マーダーミステリー公演』出演者募集に応募している。
 3、被害者のほとんどが誘拐された数日後、ネットの動画配信サイトにおける『マーダーミステリー公演』生配信の演者として登場している。
 4、『マーダーミステリー公演』生配信では、毎回キャラロストありのシナリオをプレイしている。
 5、何人かは、公演の数日後に街の何処かで無事に発見された。何人かは死亡して発見された。
 6、動画配信サイトの該当チャンネルは、どんなに通報されてもなぜか消えない。
 7、生存者は、なぜか誘拐についての記憶を一切持たない。
 8、生存者のうち半数は後日自殺する。自殺方法はさまざまである。

 少年は全員の顔を順に見てから、「続いて、問題の『マーダーミステリー』についてですが」と説明を加えた。

「『マーダーミステリー』は、PBWやTRPG、人狼ゲーム、脱出ゲームに似たゲームです。

 1、数人のプレイヤーオンラインかオフラインで集まります。
 2、プレイヤーは好きな物語(シナリオ)を選び、自分のキャラクター(物語の登場人物)になりきって物語世界を調べたり、他のキャラクターとRP会話をしたりします。GMはいたりいなかったりします。
 3、だいたいのシナリオでは、何か全員が巻き込まれる事件が起きます。例えば、NPCが死んだりです。
 4、登場キャラクターごとに「人物像、このシナリオでそのキャラごとの目標(犯人ならバレないようにするとか、非犯人なら犯人を捜すとか、想い人に告白するとか、犯人を守るとか)、他のキャラとの関係性、事件前後何をしていたかの小説」がハンドアウトとして纏められています。たいてい、どのキャラにも「後ろ暗い事」「隠したい事」「知られると疑われそうな事」があったりします。
 5、プレイヤーは自分のキャラのハンドアウトを読み、物語世界を調べたり、他のキャラクターとRP会話をしたりして、最後に推理を極めて犯人を当てたり、エモいエンディングを目指したりなどなどをして楽しむ。というゲームです。

 『マーダーミステリー公演』は動画配信サイトので不定期に生配信されている様子。時間は夜がほとんどで、短い時は2時間未満、長い時は5時間にも渡ります」

 少年は全て説明し終えて、「ただ、このゲーム自体をご存じなくても、要は誘拐被害者『茅田美琴(かやた・みこと)』ちゃんを救出すれば良いので、大丈夫です」と微笑んだ。
「といっても、『Latest街』のどこを探せばいいのかさっぱりわかりませんからね――そうだ。俺、思いついたんですが……」
 少年はさも名案を思い付いたという顔で、提案した。
「誘拐されてみたらどうでしょうか?」
 ――と。

 窓ガラスをするすると雨がつたって落ちていく。
 集う者は知っている。自分達の行動が誰かの運命を変える事ができるのだと。
 さて――怪奇なる誘拐事件の結末や如何に?

GMコメント

 透明空気です。
 アフターアクションを送ってくださり、ありがとうございます。
 今回は謎の誘拐事件。誘拐された女の子の救出依頼となっております。

●オーダー
・誘拐被害者『茅田美琴(かやた・みこと)』の救出依頼。救出して警察に届ければ依頼成功です。
 情報屋から提案された方法は、「全員or誰かが誘拐される事で被害者の元に辿り着く」です。皆さんはこの提案に従ってもよいですし、従わなくてもよいです。

●場所
・練達の中にある再現性東京――『Latest街』。
 コンビニ、学校、住宅街、駐車場、公園、駅、ネットカフェ、大型量販店、商店街、etc...「こういうのあるよね、東京」って感じの施設が揃っています。

●救出対象・依頼者
・『茅田美琴(かやた・みこと)』
 15歳。歌が得意。マンションで一人暮らしをしていた。両親や親者はなし。

・依頼者
 今回の依頼者は、匿名で正体不明です。

●誘拐についての調査書
・誘拐時刻は夜の可能性が高い。
・誘拐される場所は不明。
・誘拐されるのは、男子よりは女子が多い。
・中学生~高校生が多い。
・体育部よりは文化部が多い。
・ネットの動画配信サイトにおける『マーダーミステリー公演』出演者募集に応募している。
・被害者のほとんどが誘拐された数日後、ネットの動画配信サイトにおける『マーダーミステリー公演』生配信の演者として登場している。
・『マーダーミステリー公演』生配信では、毎回キャラロストありのシナリオをプレイしている。
・何人かは、公演の数日後に街の何処かで無事に発見された。何人かは死亡して発見された。
・動画配信サイトの該当チャンネルは、どんなに通報されてもなぜか消えない。
・生存者は、なぜか誘拐についての記憶を一切持たない。
・生存者のうち半数は後日自殺する。自殺方法はさまざまである。

●マーダーミステリーとは
 PBWやTRPG、人狼ゲーム、脱出ゲームに似たゲームです。
 1、数人のプレイヤーオンラインかオフラインで集まります。
 2、プレイヤーは好きな物語(シナリオ)を選び、自分のキャラクター(物語の登場人物)になりきって物語世界を調べたり、他のキャラクターとRP会話をしたりします。GMはいたりいなかったりします。
 3、だいたいのシナリオでは、何か全員が巻き込まれる事件が起きます。例えば、NPCが死んだりです。
 4、登場キャラクターごとに「人物像、このシナリオでそのキャラごとの目標(犯人ならバレないようにするとか、非犯人なら犯人を捜すとか、想い人に告白するとか、犯人を守るとか)、他のキャラとの関係性、事件前後何をしていたかの小説」がハンドアウトとして纏められています。たいてい、どのキャラにも「後ろ暗い事」「隠したい事」「知られると疑われそうな事」があったりします。
 5、プレイヤーは自分のキャラのハンドアウトを読み、物語世界を調べたり、他のキャラクターとRP会話をしたりして、最後に推理を極めて犯人を当てたり、エモいエンディングを目指したりなどなどをして楽しむ。というゲームです。

 『マーダーミステリー公演』は動画配信サイトので不定期に生配信されている様子。時間は夜がほとんどで、短い時は2時間未満、長い時は5時間にも渡る。

●誘拐される方法(メタ情報です)
・動画配信サイトの該当チャンネルで、「『マーダーミステリー公演』出演者募集に応募する」「夜道を一人で歩く」と誘拐してもらえます。
プレイングには「誘拐される」とだけ書いてくださればOKです。
 誘拐されたPCは先に誘拐された「まだゲームをプレイしていない被害者」と一緒に狭い部屋に集められ、誘拐犯の管理下でリアルタイム中継されながらゲームをプレイする事になります。PCは現地の前述シチュエーションで「自由に行動する事ができます」。
 イレギュラーズの実力なら、誘拐犯を「えーい」と倒して女の子たちを救出するのは容易いでしょう。簡単でシンプルな依頼ですね。

※スマホについて
 aPhoneは、地域によって(GM裁量・シナリオの都合等で)使用できたりできなかったりします。今回、当シナリオに参加するPCは、当シナリオでご自身の愛用aPhoneを使用することができます。また、『Latest街』で使用可能なaPhone以外のスマホを使用希望であれば、自動で所有している扱いになります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • マーダーミステリー/LOST RAIN完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
柳・黒蓮(p3p010505)
偽窓嘘録

リプレイ

 しと、しと――雨が降っている。

「祟られてしまうのは、さて、何方でしょうか」


●1
 珈琲の香りに包まれて資料を漁るのは5人。
 シナリオは毎回異なる様だねぇと呟く『闇之雲』武器商人(p3p001107)、首輪が爆発したり絞まったりして死ぬ映像があるじゃねぇかと『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)。『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は可愛らしいMVを再生して。ロストの引き金を引いた演者は後日自殺率が高いようだと『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が判断する。
「いやはや、随分と物騒な配信もあったもんスね」
 『偽窓嘘録』柳・黒蓮(p3p010505)は肩を竦める。
「ショコラさんのあの配信と違って……」

「わたしは そうかんたんには ころされません……」
 調査を背景に掲示板に応募する『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は純真な瞳で掲示板を見つめた。
「いきて いとしのゴリョウさんと そいとげるという動機も 万端です」
 なんとも健気で可愛らしい声に、黒蓮は「惚気っスね」と微笑んだ。

「……即興の演劇のようなもの、だろう、か」
 『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の髪がくるくる巻いている。
「不穏なものさえなければ、純粋に楽しんでみたかった、が……致し方、無い」

「さて、どうにも不可解な点が多い」
 武器商人が総評した。しゃらりと繊麗な髪を揺らして背を凭れかける――『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)の大柄な背中に。
「匿名の依頼人、通報しても消えない配信チャンネル、生存しても発見後に自殺する演者……マーダーミステリーそのものよりよほど食い出のある謎だよねぇ、セパード」
 背の声に眼鏡を押し上げ浮かべる笑みは意気揚々。
「謎を解き明かしてみせましょう。そのために――まずは応募です」
「もしかしたらマダミスと現実でリンクしてるかもしれないっスしね」

(目の前の光景を患者の身体だと思え、一つたりとも手がかりは見逃さねぇ。一切合切片っ端から海馬に叩き込め!)
 資料を片っ端から検索する聖霊を手伝いながらアーマデルは内心で。
(俺が何かするとうまくいかないから、俺は何もせずにいた方がいいんだ)
 アンニュイに溜息を零し、唇を尖らせる表情は幼く視える。
(……雨は、あまり)
「ぼく、耳が良いのが自慢なんです」
 そう言って未散が窓に手を当てているのが印象的だった。
(賽子の目に一喜一憂し、敷かれた道(運命)を辿り、時に手札を切って道を違える。人生は遊戯盤に似ているが、ヒトの命は本人のもの)
 雨音充ちる静けさに――仲間達は運命の天秤を傾けていく。


●2
 翌日。無事(?)誘拐された8人は、事前に調べた通りの空間で目が覚めた。首には首輪が填められており、部屋の天井隅にはカメラがある。アナウンスが響き渡る。
「これから皆さんにはゲームをしてもらいます」

(創作物の人物になり切って事件を紐解くってのはなかなか楽しそうだが……実在の人物の生命が失われてるとなると話は別だ)
「こんなクソふざけた企画、潰してやるよ――ぐっ!?」
 カメラに向かって聖霊が杖を突きつけ、首輪を締められる。今のは警告ですとアナウンスが流れて首輪が緩まり、荒い息をつきながら聖霊がそれでも反抗的な目を向けると配信コメントには『迫真』『演技?』という文字列が流れた。
 エクスマリアが美琴の隣で怯えたように震えている。美琴は心配そうに幼い肩を抱いた。少し考えたような沈黙の後、スマホ画面の文字が見せられる。
『だいじょうぶ?』

(配信のなかで ころされてしまう。それは わかるのですけれど……)
 ノリアは首元の冷たい感触を撫でた。キャラロストが決まれば、この首輪が死を齎すに違いなかった。然れど。
(……どうして あとから自殺 なんてことに なるのでしょうか?)
「わたしにはマーダーミステリーの経験なんて ちっとも ありませんの」
 ノリアが心配そうに呟くのが生配信で注目されている。『初心者』『可愛い』といった単語が流れていく。
「うそも あんまり 得意ではありません。うたがわれたときの いいわけも。…… 見抜くほうなんて それ以上に 不得意ですの!」
 『頑張れ』という単語が流れる中、ノリアは目をきらきらさせてハンドアウトを受け取った。
「いったい 何が おこるのか、いまから ドキドキですの……!」

 エクスマリアの使い魔が美琴を見守り、酒蔵の聖女が配線や電源等をいつでも抑えられるよう待機する中、奇妙なゲームが幕を開けた。
 渡されたHOは各視点小説形式と時系列表、他PCへの印象/感情と目的が書かれている。

 未散が自分の分を読み込み『情報を送ります』とチャットアプリに情報を送信すると、冥夜が光の速度で『情報は不要です』と断りを入れた。冥夜は初見推理に価値を見出しているのだ。
『俺は正義の味方でありエンターテイナー。視聴者の皆様に感動を与え、美琴様も救います』
 冥夜がチャットアプリに熱弁定番文句を送信している。
『マーダーミステリー。それは一生に一度しかプレイできない……』
『いいと思うっスよ』
 黒蓮はチャットに同意を送り――、
(まあ、嘘っスけど)
 くすりと哂う。使い魔を通した情報を瞬間記憶しながら。


●3
 『LOSTRAIN』
 竜が東京を襲って数か月後。動画配信サイトの『みかみあらんのつらたんCH』掲示板にオフ会の募集があった。抽選で選ばれたPCは招待状を手に屋敷を訪れてみかみ氏と歓談し、夕食を共にした。全員がそれぞれの部屋にて眠りについた夜、2時過ぎ。大地震が発生し、あなたたちは広間に集まった。


「全員無事っス?」
 探偵の黒蓮が声掛けし、助手のアーマデルがすぐに気付く。
「みかみ氏がいない」
「だいじょうぶですの? あっ」
 学生のノリアがぽろっと藁人形を落として、幼馴染の美琴が「またこんな物を通販で買って」と呆れながら――美琴は喋れないのか、スマホに文字を打って全員に見せた――みかみ氏の部屋のドアを叩く。返事はなかった。
 古参ファンを名乗る武器商人がほう、と声をあげる。みかみ氏は部屋の中で亡くなっていたのだ。

「全員、廊下でそのまま――迂闊に部屋に入ったり、物に触れたりしないように、ねぇ?」
 CHお抱えの放送作家である冥夜はそんな武器商人に「何故そんなに落ち着いているのか」と詰め寄り。女子大生の聖霊はアバターモデラーの未散の腕に縋る。未散には、以前痴漢に遭った時助けてもらった縁があった。同じ大学のエクスマリアはストーカー対象の聖霊をじっと見ていた。武器商人が警察を呼ぶ。
「地震の影響で、到着まで2時間ほどかかるらしいよぉ」

 全員が広間に集い、椅子に座った。互いが互いを疑いの目で見ている。
「ぼくは21時にみかみ氏がシャワールームに向かうのを視ましたよ」
 未散が告げると、エクスマリアは聖霊を疑った。聖霊がシャワールームにいたのを知っていたからだ。聖霊に好意を持つエクスマリアは「必要であれば口裏を合わせても良い」と考えた。
「21時にシャワールームを使っていたらみかみ氏が来たんだ」
 聖霊は驚いて悲鳴をあげ、みかみ氏も驚いて立ち去った。ごつんという音が聞こえたから、慌ててどこかに何かぶつけていったかも――聖霊がそう語ると。
(HOには『ビンタして、みかみ氏はあたまをぶつけて昏倒した、怖くなって聖霊さんは部屋に逃げた』とかいてありますの)
 ノリアが「嘘ですの」と断言する。エクスマリアは「どう庇おうか」と悩みながら口を開いた時。
「22時から23時は私とみかみ氏が飲み比べをしていましたよ」
 冥夜が言ったので、エクスマリアは安堵した。

 黒蓮は楽し気に提案して未散の所有物カードを引こうとする。黒蓮は使い魔で視ているので場に伏せられたカードの中身まではわからないが、証拠があるのは間違いないと踏んでいた。
「ならば助手である俺が先に」
 アーマデルは『黒蓮の足を引っ張りたい、出来れば黒蓮の推理を失敗させ、自分が推理を当てて下剋上したい助手』であった。故に「上司のために」と未散の持ち物カードを引き、毒物を見つけて黒蓮の使い魔に視られる前に伏せた。
「そのカード公開してほしいっスけど~?」
 黒蓮の呼びかけを無視して、アーマデルはツーンとした。
「助手は反抗期なのかねぇ」
 武器商人がくすくす笑う。未散は透視で得た情報と盤面を整理し、悩んだ。自分のHOにははっきり『あなたはこの事件の犯人だ』と記載されていて、チャットアプリでも共有したのだが、皆、一見(一部怪しい言動はあるが)普通にゲーム進行している。

「みかみさんが いってましたの。祟りのおはなしを」
 ノリアが打ち明け、屋敷の調査が始まった。アーマデルが複雑なルールを反芻している。
「呪われた黒い文字を見ると祟られる。祟りマークがある調査カードを引いたPCは、祟りレベルが上がる。一定レベルになるとデスゲームマスターのいる別室に呼ばれる……まさか、みかみ氏は祟られて亡くなった可能性もあるのでは」
「祟りなんてあるわけがないよ。我(アタシ)が証明してやろう」
 武器商人が『全ての超常現象を否定する性格』のRPをして率先して祟られにいく。
「おや、手錠が出てきました」
 冥夜が武器商人のカードをオープンしたのは丁度その時。実は身分を隠した警察である武器商人は「趣味のSMプレイで使うのさ、返しておくれ」と袖を口元にあてて艶笑む。謎の説得力に、誰もがそれがSM用の手錠なのだと信じ、配信コメントは草が並ぶ。聖霊は「オレとSMプレイする?」と聞いてみた――実は女子大生は誰でもいいので彼ピをゲットしたいのだ。と、そこに新たな情報が飛び込んでくる。
「エクスマリアさんの所有物から、聖霊さんの写真が盗撮されたスマホが出ました」


●4
 密談時は、別室が使われた。
(怪しい証拠が多く疑われやすい人、被害者以外の色恋が絡む人は大抵推理のノイズ要員なので除外、と)
 タイムラインと地図をちらちらと照らし合わせ、メタ推理込みで冷静に精査するのは、冥夜。
(終盤に重要証拠を公開して推理展開する奴、犯人はお前だ。俺も犯人の時にそれで印象操作するからな!)

 意図的に薄い存在感に徹していたアーマデルは、酒蔵の聖女や現場霊と疎通して犯人グループの居場所を特定していた。
「ふんふんふん……♪」
 黒蓮はそんな助手にスキルを使う。『上司の特権』――助手が持つカードを密談時に一枚限定で了承無く奪えるのだ。
「あっ」
「証拠確保っス。困ることはないっスよねぇ?」
 黒蓮は実に楽し気。相手が全員のHOを把握済では、始めからほぼ詰んでいたのだが。
(カードを引いたのが裏目に出た)
 落ち込んでしまうアーマデルだった。
「やはり、俺は何もするべきでないのか……しゅん」
 この盤面で助手アーマデルが起死回生を狙うなら、黒蓮の祟りレベルを上昇させてロストに持って行くしかない。だが、PLのアーマデルにとって、リアルのリスクを伴うロストに仲間を導く選択肢は無い。
「……ぴえんどだ」
 しょんぼりーデル少年の薄幸の美少年ぶりがアップで配信されるとコメントはぴえん顔の顔文字を一斉に流して心をひとつにして悲しんでくれた。

 別の部屋では、美琴と未散が密談している。未散が犯人だと気付いた美琴は、自分が殺害を依頼したと告白した。スマホの画面で伝えるメッセージは、『祟りのせいにしましょう』『もし犯人投票されても、私のスキルで貴方を逃がします』。

 また別の部屋では、聖霊とエクスマリアが密談中。
「スマホに俺の写真が大量保存されてたじゃないか。まさか、俺の事を……?」
「……マリアは、いつも見ていた……」
 聖霊はこの時、勝ち確彼ピを見つけたと思った。
「俺も実は好きだったんだ。俺の彼ピになってくれ」
 しかし、エクスマリアは首を振る。実は彼女は――「マリアは、視ているだけでいい。只のストーカーだから」「そんな罠キャラある!?」

 一方、武器商人は祟りレベルを大胆に上げていく。
『この文字を視た者は、呪われる。祟りレベル+1』
『白地に黒い文字で『呪いあれ』と書かれている。祟りレベル+1』
『モニターにフォントが並んでいる。『この文を読んだ者は死ぬ』祟りレベル+3』
【5レベルになると、祟られる】
「……ヒヒッ……読んでしまったねぇ」
 あっ、とノリアが頬に手を当てている。ノリアの役は、オカルト系トラブルに自ら首を突っ込むトラブルメイカー。実は祟られレベルを率先して上げるのが個人目標にあったのだが、武器商人に先を越されてしまったのだ。

 軈て、デスゲームマスターが別室に武器商人を呼んだ。
「祟られてしまいましたの? それに、アーマデルさんがぴえん顔ですの」
 ノリアが心配そうに呟く。冥夜は状況が動いていますね、と応えながらノリアの呪いグッズと自身の自殺名所リストを交換した。把握済のノリアが怪しむ事はなかった。冥夜は自殺請負業をテーマにしたゲームを制作中なのだ。


 配信コメントでは『死んだ?』『ロストした』という文字が流れている。1人が欠けた状態で、推理と犯人投票が始まった。結果は――


「犯人は、未散さんっス」「……賛成だ」黒蓮とアーマデルが。
「ええ。同意見です」 冥夜が。
「わたしも そう思いますの」ノリアが。
「マリアも同じ意見だ」エクスマリアが。
「オレもそう思う」聖霊が。

「『放火』します。未散さん、逃げてください!」
 美琴がスキルを使用する。ゲームマスターの声が状況をアナウンスしている。
「美琴が屋敷に火を放ち、未散を逃がそうとしたその時――あれ?」
 アナウンスが困惑した。同時に、デスゲームマスターの部屋の扉が開いて武器商人が姿を現した。
「「武器商人さん!?」」
「全く、死ぬところだったじゃあないか」
 何故か首輪が外れている武器商人は健在な姿を全員に見せつけて堂々と宣言する。
「我(アタシ)もスキルを使うよ。手錠で『緊急捕縛』スキル使用を妨害」
 ロストしなかったの? と呟いてからゲームマスターが一瞬迷い「ロストしてないなら有効です。では、放火は防がれて未散さんは捕まりました」とアナウンスをした。

「未散さん!」
 美琴が声を発して名を呼ぶから、バレてしまいますよ、と微笑んで。
「わたしなんて、死んでも悲しんでくれる人は居ませんから」
 未散は美琴を庇う供述をして、可憐にカメラを振り仰ぐ。


 白い霜めいた睫毛が瞬いて、神秘的な瞳が意味ありげにひたりとあなたを見つめる。
「視ていらっしゃる……」
 呼吸音に微笑んで、文字を打って見せる。
『読んでしまいました、ね?』


●5
 個別のエンディングが続く。武器商人と冥夜は身分を隠してその後も活動し、美琴と未散は逮捕され、ノリアは幼馴染の面会でオカルトグッズを差し入れた。黒蓮はアーマデルをこき使い、聖霊はエクスマリアの病室に。
「余命3か月だとは知らなかったんだ」
 それでもいい、と情熱的に告白するが、エクスマリアは頷かなかった(尚、ゲーム中に余命COされて告白すると告白成功エンドも可能であった)。

「それはそうと、このショーは今日で終わりです」
 冥夜が兄譲りの陰陽術で雨を喚び、誘拐犯をえーいと引きずり出して捕まえるとコメントは『室内に雨が!』と大喜び。
「このマーダーミステリーは、永久凍結とさせてもらおう、か」
 エクスマリアがカメラ目線で宣言して、公演は永遠に幕を下ろした。

 冥夜の式神が現在地を教えてくれたので、一行は現実世界の警察を呼んだ。依頼は成功、一件落着である。
「配信、楽しみにしております――みこみこさま」
 別れ際に未散が小さく囁く。どうして、と驚く少女の瞳に映るのは、稀なる神秘のダイクロイックアイ。
「聲……それに、吐息とかかな」
 ――なあんて、半分嘘で半分本当。
 ふわりと微笑む距離感は儚くて、砂時計の砂が零れ落ちる気配がした。
 聖霊は美琴を診療所に招き、アフターケアとして抜かりなくカウンセリングを施した。
「俺はお前を護りたいんだ、なんでもいい。まずは話そう」
 美琴は取り留めもない違和感だらけの日常を打ち明けた。東京じゃないのに東京にいる気分の旅人達。ドラゴンを視たのに見てないというようになった友達や大人達。亡くなった友人のアバターを使って友人になりすます誰か。一通り打ち明けると、美琴は若干すっきりした様子であった。おかしいのは周りなのに、自分だけがおかしいみたいに勘違いしてしまいそうな世の中。
「お前の感覚はおかしかねえよ。この都市にいればそんな気分にもなるだろう」
「よかった。お話をきいてくれてありがとう、先生」
「おう! またいつでも話を聞くぜ」
 笑顔で美琴を見送り、次いでアーマデルを呼ぶ。確り仲間の様子も見ていた医者は、彼にもカウンセリングが必要だと判断していたから。


『嗚呼――あなたは――もう読んでしまったの』

『あはは、』

 CHの主について調査する黒蓮は公演を再生している。
(……こんなシーンあったっスかねぇ?)
 記憶を探り、首を捻り。画面上に目をやれば、メッセージ付きの投げ銭が目についた。
『美琴さんの声、みこみこちゃんに似てない? ショコラより』。


 しと、しと 雨が降って――真実は、闇の中。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。依頼お疲れ様でした。
 茅田美琴さんは自殺する事もなく、元気にVtuberみこみこちゃん生活をしています。お試しで出してみたのですが、マーダーミステリーの雰囲気がすこしでもそれらしく出せましたでしょうか。文字数制限などもあり詳細に書ききれない部分もありましたが、きっと描写外でいろいろな推理や調査、やりとりがあったのだと思います。
 アフターアクションがなければ生まれなかったシナリオです。送信してくださった方、乗ってくださり素敵なプレイングを送ってくださった方、皆様に感謝申し上げます。
 MVPは他者を守るプレイングが光るあなたに。称号は、役に関連したものをお土産にどうぞ。

 ご参加ありがとうございました。また機会があれば、よろしくお願いいたします。
 ――透明空気より。

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