PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<spinning wheel>ダンスホール・グラス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 事の始まりは、唐突な『深緑国封鎖』であった。
 練達を襲撃したジャバーウォックの足取りを追う中で確認されたことである。行き先としては有力だった深緑に茨が張り巡らされたのだ。ラサより齎された情報では全容が掴めず、イレギュラーズたちもまた深緑国境付近での調査や魔物討伐にあたったことは記憶に新しい。
 そんな中、妖精郷より使者がローレットへ辿り着いたのである。怠惰の魔種ブルーベルによって外への道を繋げて貰ったという彼女たちは、『危害を加えられたくないなら、深緑に踏み入るな』といった旨の忠告を受け取ったそうだ。
 つまり――妖精郷から深緑内部へ繋がる道は、閉ざされていない。
 しかし妖精達はブルーベルとの取引により、深緑へ向かわないことを約束している。加えて、深緑と直接つながるアーカンシェルを開いたならば、向こうに張り巡らされている茨や、何らかの敵対勢力が妖精郷へ入り込まないとも限らない。妖精郷へ魔種が侵攻してきた事件はそう遠い事ではないのだ。
 故に、妖精郷へとたどり着いたイレギュラーズたちは妖精女王ファレノプシスと取引を交わした。アーカンシェルの代わりに大迷宮ヘイムダリオンを踏破することで、妖精郷から深緑への侵入を果たすこと。代わりにヘイムダリオン内にいる邪妖精や茨といった危険から妖精郷を守ること。
 大迷宮ヘイムダリオンはかつて、深緑のアーカンシェルが使用できなくなった際に妖精郷へ至るため使用した言わば『正規ルート』だ。アーカンシェルはそのショートカットなのだから、行き着く先は同じ場所――ファルカウの麓、アンテローゼ大聖堂。
 イレギュラーズはヘイムダリオン踏破、そしてアンテローゼ大聖堂への安全確保を目標に、妖精郷から進軍するのである。



「相変わらず……と言うべきか」
 どうなっているんだと『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は怪訝な表情で周囲を見渡す。
 吐く息は白く、肌打つ風は刺すようで、注ぐ木漏れ日は時間を巻き戻ってしまったかのように弱々しい。
 フレイムタン含むイレギュラーズたちは大迷宮ヘイムダリオンへと踏み入った……はずであるのだが、気付けばここに立っていたのだ。寒い、と腕を擦るイレギュラーズもいる。
 深緑と妖精郷を繋ぐこの空間は、どこか果ての迷宮を思わせるような作りをしている。フィールドの中であるはずなのに、果てない空が広がっていたり、火山地帯であったり、時には海の中を思わせるような場所も存在しているのだ。この極寒の地もそのひとつだろう。
「さて、ここではどんな難関が――」
 待ち受けているのだろうか、と言おうとしたはずだ。それと同時に足を踏み出したフレイムタンは盛大に足を滑らせ、尻餅をついてつるつるつるーーっと滑っていく。それはもう、滑らかに。
 イレギュラーズが目を丸くしながらフレイムタンの名を呼べば、途中で減速し、止まった彼は問題ないと言うように片手を上げた。
 そのフィールドは円状で、壁はない。勢い余ったら場外へ飛び出してしまうだろう。ちらりと視線をやるが、残念ながら周囲は薄氷のような冬空で、このフィールドの下がどうなっているのかまではわからない。とはいえ、落ちたらロクなことにはならないだろう。
 イレギュラーズたちは滑りの良い床へ視線を向けてみる。つるりとした断面は1歩踏み出せばどうしても滑ってしまうもので、しかし拳も得物も通りはしない。何が何でも落ちたくないなら中央にいる他ないだろう。
 くす、くす、くすくす。
 つるつる滑るイレギュラーズたちを笑う声に、一同ははっと空を見上げる。ゆっくりと降りてきた真白な乙女――巨人の様なサイズであるが――はフィールドからわずかに浮いた状態で下降をやめる。
『ようこそ、可愛いお人形たち。たくさん、たくさん、踊ってね?』
 乙女は唇に弧を描き、始めましょうと武器を顕現させた。

GMコメント

●成功条件
 『氷の乙女』の打破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 どれだけ攻撃を叩き込んでも傷がつかない、硬質な氷でできた円状のフィールド。空中に浮いており、壁はありません。下がどうなっているか現状では不明ですが、落ちたら再起不能でしょう。
 フィールドは非常に滑らかで、1歩でも踏み出せば一定距離を滑ることになります。立ち止まっての防御、回避には問題がなく、どうやら対象者が『移動する』という意志で動いた時に作動する効果の様です。

●氷の乙女
 真っ白な見てくれをした乙女。3m強くらいの全長です。裾の長いローブを纏っていますが、その下はパンツスタイルなので潜っても見えませんよ。何がとは言いませんが。
 イレギュラーズたちをお人形と呼び、踊って(戦って)ほしいようです。戦いの手は止めませんがお喋りもしてくれます。
 得物は大鎌です。こちらもフィールド同様、硬質な氷で出来ているようです。通常攻撃では至近~中距離の攻撃を可能とします。
 物理・神秘両用アタッカー。この空間のボスエネミーとなる為、全体的なステータスは高めですが、特に手数で注意が必要です。たまにノックバック付きの攻撃を放ってきます。

氷柱:ランダムな複数人へ、それぞれの対象を中心とした範囲攻撃。【流血】【致命】
氷茨:エネミー中心の域範囲攻撃。【Mアタック100】【HA回復200】
氷華:フィールド全体への攻撃。【必中】【乱れ】【飛】
吹雪:フィールド全体への攻撃。この瞬間は視界が悪くなります。【鬼道XX(数値不明)】【足止】【災厄】【ブレイク】


●NPC
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 グリムアザースの青年。物理アタッカーです。OPでは滑った時に尻餅をつきましたが、もう大丈夫です。格好悪い所は見せません。
 イレギュラーズから特殊な指示があれば従います。基本的には落ちないことを優先して戦います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 不思議なフィールドなので立ち回りに注意が必要です。
 それでは、よろしくお願い致します。

  • <spinning wheel>ダンスホール・グラス完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 砂舞うラサより妖精郷アルヴィオンへかけられた架け橋パンタスマを超えて、イレギュラーズの踏み込んだ場所は大迷宮ヘイムダリオン。かつては深緑から妖精郷へ至るために使った道だ、その性質をよく心得ている者もいる。
 けれど。
「これはちょっと……スケートしに来たわけじゃないのよ!?」
 『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の悲鳴じみた叫びに、眼前へ現れた氷の乙女は可笑しげにくすくすと笑う。
 ヘイムダリオンは迷宮とうたいながら、その内部は迷宮らしい迷宮とは言い難い――否、混沌らしい迷宮ではあるのかもしれない。
 幻想に存在する果ての迷宮と似た構造である大迷宮は、不思議な空間をいくつも連ねている。時に街となり、森となり、遺跡となり。このような氷でできた空間もまた然りだ。
「こ、こんな寒さ……初めてです」
 ひぇ、と『特異運命座標』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が遊ぶ風に声を漏らす。こんなの聞いてない。
(そりゃね? 迷宮だもの、妙なことになるのは予想してたけれど!)
 ふわりと身を浮かせるオデット。先程滑っていった『炎の因子』フレイムタン(p3n000068)のように踊らされるなんてまっぴらだ。
(こいつぁまた、クソ面倒くさそうなフィールドだ)
 ちらりと場外へ視線をくれる『一ノ太刀』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)。空中庭園のように浮いたフィールドの外に他の足場など見当たらない。この床が容易に壊れないということは知っているが、万が一があれば皆仲良く真っ逆さまというわけだ。
「さすが大迷宮、不思議な空間ばかりですね」
「や、やっぱり……此処も、ヘイムダリオン、の一部、なのですね」
 『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は氷の乙女を見上げる。随分と不穏なことを言っていたが、これが試練なのだろうか。彼女に踊れと言われた『白ひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)は不安そうな表情だ。
(上手にステップを踏んで……踏めるでしょう、か)
 踊りは得意でないとわかっているから、緊張してしまう。それでもここでやらねば、深緑へ助けに行けないのだ。
「お、お相手、よろしくおねがいします、氷の乙女さま」
「慎重に努めましょう。よろしくお願い致します」
 メイメイの挨拶に続いてジュリエットがカーテシーをひとつ。ダンスといえど文字通りのそれではなさそうだが、ここはそういった『ルール』なのだろう。ならばせめて最初だけでも優雅にそれらしく見せようじゃないか。
 自身へ強化を施すメイメイに、マリエッタは深呼吸をする。こちらもダンスは得意でないが、氷の乙女がダンスと称しているだけ。本当に踊って満足させろと言っているわけではない。
(これは盤面勝負とも見て取れるでしょう。そう考えれば、私もやれそうな気がしてきます)
 チェスのようにチェックメイトを目指す戦略戦。そう思えばすぅとマリエッタの思考が冴えていく。彼女は氷の乙女がいつ動き出すかと気にしつつ、そっと視線を下へ向けた。
(移動する『意志』を見せることで滑ってしまう床、でしたね)
 氷の乙女が出てくる直前、仲間たちが武器の素振りなどをして確かめていた。そういった動きによる移動では滑る気配もなかったが、進もうとして1歩踏み出すとあれよという間に滑っていったことを思いだす。
 必ずしも足が着地した時に滑るわけではない、ということは直接的な現象ではなく、概念的な空間と見るべきか。
 ついとタクトの先端が空に弧を描く。マリエッタの血を媒介に、氷上へ広がった術式が周囲の仲間たちを強化せんと力を放出した。
『踊って、踊って。ね、凍てついてしまうまで!』
 くすり。乙女の笑みが悪意を見せる。『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は連れてきたワイバーンへひらりと飛び乗ると氷床から浮き上がった。
「宇宙警察忍者、夢見ルル家。ダンスのエスコートをさせて頂きます。少々手荒くなりますがお覚悟を!」
 迷宮を越えるためには避けて通れぬ障害。簡単には通してもらえないだろうが、ワイバーンの翼により氷床の影響を受けないルル家はにやりと笑った。
「ふふん、完璧な対策でしょう! この勝負、勝ったも同然ですよ!!」
「フィールド効果は打ち消せたみたいだね」
 『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)も足を床より幾ばくか浮かせ、氷の乙女を見る。浮いている彼女が影響を受けないのだ、こちらも浮けばまた然り。
(とはいえ、全員が対策できるかというと……)
 フレイムタンをはじめとした数人はこの氷床をうまく移動する必要がある。それを手助けするのもまた仕事のうち、チームワークだ。
「さあ、行くよ!」
 Я・E・Dの言の葉が力を宿し、刃となって乙女へと飛んでいく。溜めの一撃を息つかせず連発するЯ・E・Dに続き、滑らかな動きで『酔狂者』バルガル・ミフィストが乙女へと肉薄した。
「おやおやお綺麗なお嬢さんだこと。ですが自分を『可愛らしいお人形』と言うのは相応しくないと思いませんか?」
 両足に装着したユニットが磁性を発生させ、跳躍する彼の体を押し上げる。はっと氷の乙女は自身の眼前まで飛び上がったバルガルを見た。
「――一緒に踊るなんてとんでもない。勝手に1人で踊り狂ってくださいませ」
 力強く急所を狙った一撃は大鎌の柄によって阻まれる。流石に図体の差もあって、押し切られるようにバルダムは後方へ飛び退いた。着地の瞬間、磁性によって勢いを押し殺したバルダムに代わり仲間たちが攻勢を繰り広げる。
『ちいさな、ちいさな、あなたたち。皆可愛らしいわ』
「人形みたいに小さくて悪かったな!」
『悪い? いいえ、羨ましい。この場所も、踊りがいがあるでしょう?』
 吠えるエレンシアにかくりと首を傾げる。彼女が踊るには狭いフィールドかもしれない。だが。
「わたしたちが踊るなら、貴方も踊ってくれないと、平等ではないよね!!」
 Я・E・Dが乙女の顔へ向けて破式魔砲を放つ。それを避けようと乙女が半身ずらしたところへエレンシアの大太刀が迫って来た。
「アタシを人形呼ばわりしたこと、死ぬほど後悔させてやるぜ!」
 迫りくるそれをも避けた――はずだった。しかしエレンシアの斬撃は逃すという事すらも許さない。にぃとエレンシアが笑みを浮かべる。
「デカいと存外に当て易いもんだな!」
「ええ、こうもデカい的のようならばやりやすいですねぇ!」
 バルガルの暗殺闘技が、フレイムタンの拳が畳みかけていく。歪みの力を引き起こしたジュリエットは、後方から飛んだマリエッタの指示で咄嗟に敵の右へと滑った。先ほどまで彼女がいた場所へ氷柱が落下し――床に傷ひとつすらつけずに砕け散る。
「いい滑りっぷりでした」
「いえ、ありがとうございます。このまま慎重に行きましょう」
 頷くマリエッタ。少しずつ皆の滑る距離は把握できてきたが、それでも動きたい分だけ動くことができないのは何が起こるか分からない危険性を秘めている。
(過去に類を見ない足場の悪さですしね)
 ジュリエットは再び魔力を練り上げながら、乙女の動向を探る。次は何が来るのか。離れるべきか、近づくべきか、動かぬべきか――。



 戦いの最中、不意に乙女が笑いだした。先ほどまでの密やかなそれではなく、うふふ、あはは。
『踊って良い? 踊って良いの? ねえ、一緒に、たくさん、たくさん踊ってくれる?』
「共に踊るつもりは毛頭ありませんがね」
『それでも良いの! だって、あなたたちは、踊らないと!』
 少女のようにきゃらきゃらと笑ってみせて、その吐息が冷たく凍る。
「大きな攻撃が来ます!」
 いち早くその危険を察知したルル家の叫びにマリエッタは傷ついている者をヒールして、メイメイは少しでも食い止められないかとブラックドッグをけしかける。その牙が剥かれようとも、乙女は笑う。
『ほら、もっとたくさん、クタクタになっちゃうくらい――』

 ゴオォォ――!!!!!

 突如の猛吹雪が一同を蹂躙する。視界が白で埋め尽くされ、それが開けた直後にメイメイは勢いよく外周へと飛ばされていく。
『さっきの、お返し』
「メイメイさんっ!」
 マリエッタの声。しかしその体が外周からはみ出る寸前で彼女の体は支えられた。
「……た、助かりました……」
「フィールドと相まって、かなり面倒なタイプだね」
 メイメイを落ちる寸前で受け止めたЯ・E・Dは乙女へ視線を向ける。その手に握られた大鎌は、今の吹雪を受けてか、彼女の感情に呼応してか――より鋭い白銀の光を宿している。
「皆、気を抜かずに! これまでと為すべきは変わりありません!」
 ルル家が乙女へと肉薄していく。星の名を掲げる刀は如何なる悪天候でも――それが吹雪の最中に在ったとしても――易々と屈せず輝くのだ。
「飛んでいれば滑りもしないもの、このままハチの巣にしてあげるわ」
 オデットの多重展開された魔術が次々と飛んでいく。それらのいくつかを武器の一振りでいなした乙女は、先ほどまでと打って変わってフィールドのあちこちへと動き始めた。ただ舞うというより剣舞のような、鋭さを持ったそれにジュリエットは周囲の仲間を癒していく――が、氷柱を危惧して散開しているために全てをカバーはしきれない。
「このままでは……!」
「……いや、悪かねぇ」
 乙女の斬撃を紙一重で躱したエレンシアの大太刀が向けられる。そこかしこに傷を負っているが、だからこそ至れる境地があるのだ。
「食らいやがれ!」
 武双の一切に依らない雷の一閃。これまで以上の威力を叩きつけながらも、未だ乙女は舞い続ける。
『素敵。もっと、もっと、踊れるでしょう? ほら、皆も!』
「まだ、ご満足は、されないようですね……」
 メイメイは苛烈な攻撃の合間に仲間へヒールを送る。だが次の瞬間、フィールドの中心に小さな蕾が生えた。
「近づいて! 落ちますよ!」
 ルル家が仲間へ呼びかける間にもむくむくと大きくなったそれは、その場からはみ出るほどに大輪の花を咲かせる。
「……っ、もうちょっとくらい、粘れるんだから!」
 きっと眦を上げるオデットの傷を霊薬が癒していく。打たれ弱くとも、倒れる前に倒してしまえば勝ちなのだ。
「ええ。拙者達とて歴戦のまれなる強者! そう思い通りにはなりません!」
 畳みかけるルル家。フレイムタンも後に続き、乙女の死角から仕掛けていく。さらにこの状況下に活力が持ち上がって来たバルガルが、嬉々とした表情で万死の一撃を繰り出した。
「なんだか……先ほどより、お元気です、ね……?」
「えぇえぇギフトのおかげです! 臓物のひとつくらいブチ抜けてしまうでしょうね!」
 ひぇ、と引きつった声を上げながらメイメイもブラックドッグを呼び出す。グロいのは出来ればみたくないけれど、何としても勝つ必要はある。
 氷の乙女から血はでない。ただ傷口からほろほろと冷気が零れ落ちる。痛みを感じているのかは……終始愉しそうなものだから、わからない。
『あなたも、一緒に、踊ろ?』
 その巨大な影がマリエッタへと落ちる。ずぅっと皆を躍らせるばかりで、彼女が躍らせる側であるのだと知っていたようだ。
「――私の攻撃手段がないとお思いですか?」
 その姿が不意により濃い影で遮られる。それを認識した瞬間、氷の乙女の腹部に衝撃が走った。それを為した大鎌はしゅるしゅると元の位置へ――マリエッタの影へと戻っていく。
「無理やり躍らせようとしたって無駄さ」
 乙女の持つ得物が薙ぎ払われ、その死角からЯ・E・Dの破式魔砲が乙女へと繰り出される。容赦なく、無視などさせないという強い意志を感じる攻撃にとうとうその視線がマリエッタから移った。
「踊りは自分で踊るから楽しいんだ。強制されてもロクな踊りは踊れないよ!!」
「そもそも、私たちはお人形ではありませんけれど……進めないから踊っているだけ」
 軌道の読めぬ魔光が乙女の肩を貫く。ぶわりと冷気が噴き出せば、乙女はそれを利用して吹雪を巻き起こした。ルル家が無暗に動かないよう仲間へ注意を呼び掛ける。マリエッタが先ほど指示していた場所にいたならば、たとえ飛ばされても落ちはしない。
「踊るとかなんとか、ここがきれいなのは認めるわよ。けどねぇ」
 オデットの呼び出した場違いな砂嵐が吹雪にぶつかっていく。砂嵐はそのまま乙女を巻き込んだ。
「私は悪戯する方が好きなのよ。そうやって動けないように、ね!」
 砂嵐が止んだそこへエレンシアが飛び込み、得物を向けていく。バルガルも傷を厭わず、むしろ楽しそうな様子で攻撃をぶちかました。
「皆、茨が来ます!」
「はい……っ!」
 ルル家の言葉にメイメイがスケートの様にシャーッと滑って回避する。戦っている間に動きにも慣れてきた。尻餅をつくような失態はおかさない。
「仲間と未来を見る為に……こんなところでは負けませんっ!」
 氷茨を凌いだルル家が滑りながら肉薄し、幾重にも分身して四方八方から攻撃を繰り出す。あともう少し。ここで手を休める間などない。
 ジュリエットのクェーサーアナライズがイレギュラーズの猛攻を支える。折角妖精郷からもらった、深緑へ至るためのチャンスなのだ。ここでむざむざ負けられなどするものか。
「これで――幕引きだよ」
 力を与えて貰ったЯ・E・Dが渾身の力で術式を組む。素早く、且つ圧倒的な威力を持った一条の光が乙女の持つ大鎌を砕き、かの体をも貫いた。


「……もう、すべらない、ですね」
「ああ。一安心だ」
 メイメイとフレイムタンは興味深げに床を見ていた。先ほどまで滑りまくっていた床はただのガラスのようになってしまっている。
 氷の乙女は身体に空いた穴から膨大な冷気を吐き出し、空中に解けて消えた。嗚呼、楽しかった――なんて聞こえたのは、気のせいだろうか。
「しっかしまあめんどくせぇ相手だったな」
 エレンシアは大きなため息をつく。そうして空を仰げば、一条の光がこちらへ向かって来ていることに気付いた。
「あれは……?」
 怪訝そうにするЯ・E・D。あっという間に近づいてきたその光はまるで橋の様にフィールドの一部へかけられる。
「まだ進むということですかねぇ……」
 もう無気力怠惰に戻ってしまったバルガル。その言葉にルル家がちょいと足をかけてみれば、確かにそこは渡れるようだ。
「行ってみますか?」
「というか行くしかないわね」
 マリエッタの言葉にオデットが頷く。きっとこの先には、深緑への出口が待っている筈だ。
 イレギュラーズたちは恐る恐る光の橋へ足を載せ、先へと一歩を踏み出した。

成否

成功

MVP

エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ダンスホールを制したのは皆さんです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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