シナリオ詳細
見たくないモノが見えるなら
オープニング
●有り触れた惨劇の日
日差しが眩く照り付けていた。
乾いた空気が陽の光を呼び、寝室の窓が白く線を作っている。
クリスタは、そんなベッドの上を、ゆっくりと起き上がる。
ふるふると頭を振れば、艶のある黒髪が陽光に煌いた。
「……おかあ、さま? おとう、さま?」
乾燥した喉が飲み水を求めてひりついていた。
くらくら、くらくら、重たい頭が揺れている。
ぼんやりと、霞む視界を上げて、声を漏らす。
「うぅん……」
いつもなら聞こえてくる母が朝食を作る声も、父がクリスタを呼ぶ声もない。
こてんと首を揺らして、クリスタは歩き出す。
部屋を出て、リビングへ――その時に、思わずクリスタは立ち止まった。
「何の臭い……?」
ぺたり、ぺたり、先に進んでいく。
その臭いを、クリスタは良く知らなかった。
少しずつ、声が聞こえてくる。
まるで潜むような声色で、ひそひそと何かを囁き合う。
そして――リビングを見た時、クリスタはその光景が理解できなかった。
「お、姫ちゃん。起きてきちまったのかい?」
「エミールさん……どうして?」
「あぁーいや。ちぃとばかし。親父が腑抜けたこと言いやがってな」
バツの悪そうに頭を掻いて、胡乱な瞳をクリスタに向ける。
「どういう、こと? お母様は? お父様は?」
「あー……ちぃとばかり、遠くへ行ってるよ」
そういうエミールが、少しばかり後ろを向いた。
「――まさか。殺したの? お父様を、お母様を……」
「まだ殺さねえさ。……それよりもだ」
エミールが一歩近づいてくる。
一歩、後ろに退いて、もつれた足に引っかかって尻もちをついた。
「悪いね、姫ちゃん。親父は裏切りもんさ。だからよぉ……あいつは見せしめにするさ。
でも、姫ちゃんは違う。俺はさ、アンタの事可愛い子だと思ってんだぜ?」
「ふ、ふざけないで……」
一歩、また一歩と近づいてくる。
抜けてしまった腰で、震えながら後退を続け――ちらりと自分の指に視線が行った。
「近づかないで!」
指輪が輝き、氷柱がエミールへ放たれる。
その隙に、クリスタは一気に走り出して――斬撃が背中に走った。
部屋まで戻って、窓から飛び出せば――クリスタの記憶は途切れた。
その直前に、何か声を聞いた気がした。
●閉ざされた町、串刺しの――
その町は、ラサという国にはあるまじき光景だった。
全てを拒絶するように町全体を包み込んだのは絶凍の氷。
キラキラと輝くクリスタルが太陽光に貫かれる町の景色を呑み込んでいる。
クリスタルは、そこら中の大地から地表を貫くようにして姿を見せている。
澄んだ空気が漂い、冷気がラサを思わせぬ快適さを呼び込んでいる。
――あぁ。けれど。
決して、この町はラサにあらざる美しき凍土の町であるだけではない。
悍ましく恐ろしきは地上より空に向けて、牙を剥くクリスタルのその先端。
クリスタルに貫かれ、串刺しとなった人間『だった物』が陽光に照らされてミイラと化していた。
全てが凍結されたあり得ざる光景のその下で、その少女は目を閉じて耳を塞いでいた。
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ! もういやだ! もう見たくない。もう見たくない!
なんで、なんで私の前に何度も現れるの――いや、いや、いや!!」
少女は目を閉じて、耳を塞ぐ。
外界と断絶された氷の内側で、前に進むことを放棄して――怯えながらも停滞を続けている。
「私は、私は、もうどうでもいい。
もういやだ。お母さまと、お父様と一緒にここで眠っていたいの――」
耳を塞ぎ、眼を閉じる。
自らがあやめ、串刺しにした恐るべき侵入者から目を背けて――クリスタは眠り続ける。
自らが殺め、呑み込んだ町の全て――その中心で。
それらすべてから目を背けている。
それは恐るべき怠惰である。
責任という名の未来から目を背ける怠惰であった。
●氷の町
「皆さん、少しよろしいでしょうか?」
情報屋のアナイスは微笑みかけていた。
「実はですね……ラサの北にある小さなオアシス都市からある日を境に連絡が入ってこなくなったそうです。
傭兵の方によると、そのオアシス都市は氷に閉ざされているようです」
「ラサで、氷に……?」
思わず反芻するイレギュラーズに、アナイスが険しい顔に代わって頷いた。
「はい。ラサで、氷に。百歩譲って遺跡の中とかであればともかく、地上に存在するオアシス都市で」
「そんなこと――いや、もしかして」
「――はい。それも氷の町に存在するクリスタルの一部に至っては、先端で氷に貫かれた人々が串刺しになっているそうです。
町を一つ凍り付かせる……そんな所業が出来る存在のことを私達は……ローレットは嫌と言うほど知っていますでしょう」
「魔種が絡んでる可能性が高い、ってこと」
イレギュラーズの問いかけにアナイスは静かにうなずいて、資料を取り出した。
「今回、この氷の町の調査を皆さんにお願いしたいのです。
ですが、くれぐれもご注意ください。
ラサの傭兵によると、この氷は侵入者に対して攻撃行動に出るらしいです」
それはまるで、何かからの追及を拒むように――そう言って彼女はまた別の資料を取り出してくる。
「なんでも、その町は一種の……何といいますか、盗賊紛いの自警団が幅を利かせていたそうです。
ただ、昨今の情勢もあるのか、町の権力者がラサ中央部――連合への臣従を誓おうとしていたという話があります」
そう言って、アナイスが資料を手渡してきた。
「その町は連合へ加入することを望む人とそうでない人がいたそうです。
この件ももしかすると関わってるかもしれませんね……」
2つの意味できな臭い。
そんな町に置いて――いったい何が起こったのかと。
そう言って少しばかり考える様子を見せている。
- 見たくないモノが見えるなら完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年03月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
その場に訪れたイレギュラーズが最初に感じたのはこの国に非ざる寒さだった。
音さえも氷の中に閉じ込めたかと思わせる静寂と、風が運ぶ肌を刺す冷気。
「ラサのオアシスの集落……のはずが、なるほど……これは見事に氷ですねぇ……?
道理から外れたことが起こることも多々あるこの世界ですが、これは流石に違いますね……」
氷と化したアーチ状の門らしき場所で『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)は立っていた。
ふわりと身を浮かせて、空へ。
徐々に昇っていく視野に腹から心臓、肺あたりまでの円状にぶち抜かれたミイラを見た。
流石にそれを見て目を背けるほどの事はないが、眼にいれて楽しいものでもない。
「おやおや、中々に物騒でありんしたっけ? 惨劇の町、攻撃性のある氷……そして、魔種。
ああ、連合加入に関してのいざこざがあるんでごぜーましたっけ?
くふふ、早く魔種に会ってみたい」
近場にいた精霊に指示を与えつつも、『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は胡散臭い笑みを浮かべている。
「時間制限はねェ。先ずは押し入る前に町の外周をじっくり調べるとするか」
その町を見上げながら、精霊とのコンタクトを試みるのは『最期に映した男』キドー(p3p000244)である。
ここで何があったのか、そう言った手合いの問いかけに、精霊たちは不思議そうにふわふわと浮かぶ。
(仮に、魔種がこの町に留まっているなら、そいつはここに何らかの思い入れがある内部の人間か?
なら親、つまり呼び声をかけた魔種はどこから来て今はどこにいるんだろうな……)
外からでは分からないことではあるが、推測は立てておく。
「ラサでこのような巨大な氷を維持しているということは強力な能力の持ち主だと考えるべきでしょうね」
外周を回る『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)は、静寂の町を眺めつつ、その氷をじっと見つめている。
全てを凍り付かせたその外周は、一切の気配がない。
音も、臭いも全てを氷の中に閉じ込めているかのよう。
(これだけの大掛かりな術であれば、触媒などありそうなものですが……見当たりませんね)
少なくとも、外側にはそう言った特徴的な物は何もない。
「都市(村)一つを覆うだけの氷塊だなんて凄いわね。
どんな敵(魔種)が潜んでいるのか……恐ろしいわね……」
沙月と行動している『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は、計6匹の小鳥を空に飛ばしている。
大空を舞う6匹の鳥から得られる情報はあまりにも目まぐるしい。
普通であれば酔いかねないぐらいだが、そこをギフトで効率的にさばいているのは流石と言うべきか。
「熱砂の大地に凍り付いた町か……これが自然の事なら絶景なんだけどな。ミイラはちと怖ぇが。
確か魔種も理由があって変わるんだよな。何が起きてこうなったのか、今回の調査で少しは分かるといいけどな」
幾つも存在するミイラの姿を含め広域を俯瞰するように見る『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)は少しばかり意識して串刺しになった物を見る。
後ろから貫かれた者もあれば、真正面からぶち抜かれた者、中には下から上へ貫かれた者もある。
その差異は、恐らくはこんな状況になって串刺しにされる直前に被害者たちがどういう体勢だったかの違いであろうか。
「一見、綺麗に見えるのに……なんて凄惨な」
そういう『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が手にしているのはこの町の地図だ。
有力者の家の場所が記されてあるぐらいで、殆どが白地図に近い。
取引していたという商人が言うには、あまり外とは交流していなかったという。
理由は単純、連合に未加入であるせいで取引先がなかったりしたからだ。
「誰か生き残ってる人がいればいいが……望み薄だな」
ここまで凍り付いていれば、仮にクリスタルに貫かれてなかろうが凍死しているはずだ。
愛馬グリンガレットに跨り、『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は緩やかに空へ浮かび上がる。
「外からでは様子が分かりづらい、な。やはり中に入って調査するべきだろう」
エクスマリアに多くの仲間が肯定する――その時だ。
「――ッ!」
それはチェレンチィほぼ真下、死角となる場所から放たれた1本の氷柱。
真っすぐに飛翔したそれを、チェレンチィはギフトの効果で把握して、その場で大きく羽ばたいた。
外れた氷柱はそのまま町の外へ向かって放物線を描いて消えていく。
「危ないですよねぇ? しかし、敵はそちら――」
「あぶねえ!! まだ来るぞ!」
獅門の声が鋭く響く。広域を俯瞰する瞳が捉えた、複数の氷柱。
「このままじゃ拙いわ」
イナリは、小鳥たちを一斉に町の外へ。
それはまるで、雨のように、細い氷柱が一斉に町の中から放たれる。
弾幕と名乗るにふさわしき氷柱から何とか小鳥を逃がす。
とはいえ、それらは小鳥を狙ったものではなく、全てが人――チェレンチィを標的としたものだ。
「こりゃあ、中に入ってからは相当警戒しないと拙そうだな。
どこに目や耳があるか分からねェ。空ってのは見やすいかもだが」
明らかに人間のみを狙った迎撃、意図した行動であることは明白だった。
町の外から出た瞬間から、氷柱が飛ばなくなったのを見るに、侵入を試みることが理由だろう。
「入り口は……やはりこの門から入るしかないでありんしょう」
エマの視線の先に静かにあるは冷気に満ちたアーチ門。
厚い氷に阻まれてこそいるが、壊すには手こずるまい。
「ここは私が……」
一歩前に出た沙月は呼吸を整え、心を凪の水面のように平坦に。
そのまま流れるような所作で掌底を叩き込めば、パキ、と音を立てた氷は瞬く間に砕け散る。
「とりあえず、俺がほんの少し先を行く。着いてきてくれ」
キドーを先頭に、8人はリワへと入っていく。
「僕も一緒に続くよ」
それに戻ってきたチェレンチィが続き、他の面々も続いていく。
リワの中へ足を踏み入れたイレギュラーズを歓迎したのは、氷に閉ざされた町だった。
所々に姿の見える町人の殆どは、一瞬のうちに氷の奥へ閉ざされている。
恐らくは寒さを感じる間も悲鳴を上げる暇もなかっただろう。
「この向こう、道があるようです。壊せば通れるかもしれないです」
「んーまぁ、そうだな。でも、なるべく力を使いたくねェ……おい、その家、裏口ありそうか?」
チェレンチィの言葉にキドーが返せば、少ししてから首肯が返る。
「なら、こっちの方が手っ取り早い」
素早く動いたキドーは少しばかり戻って家屋の扉に手を翳し――ごとりと音が鳴った。
人の気配は――ない。
「中の奴らは……外の奴らでさえあぁなっちまってるんだ、いても生きちゃいねェか」
扉を引っこ抜くように引っ張れば、ペキペキと音を立てて開く。
「そのようですね……」
中に顔を出してみれば、そこには氷漬けになった人の姿がある。
まちまちと存在する人々の姿は等しく時計の針が止まったような錯覚さえ覚えさせられた。
「ですが、不思議ですね……」
先行するチェレンチィは、それ故により多くの情報をざっとだが見てきた。
「どうして、氷柱に刺さっている人もいれば、こんなふうに氷漬けになっている人もいるのでしょう」
氷漬けになった人と、串刺しになった人。
氷漬けになった人間は恐らく、痛みを感じることもなく死んだだろう。
だが、ミイラの方はまちまちだ。
それどころか、死後にまで貶めているような雰囲気さえあった。
「殆ど白地図みたいなものだからどうかと思ってたけど、この様子だと白地図でよかったかもしれないな」
イズマはため息を吐きつつ白地図から周囲に目を配る。
町の中を覆いつくした氷は、さながら迷路のように張り巡らされていた。
下手に道の記された地図であれば、逆に混乱をきたした可能性すらある。
「それじゃあ、周囲と違う不審な物があったら教えてちょうだいね?」
イナリの指示を受けた人形たちは、それに応じるように離れていく。
それを見届けつつ、視線を周囲へ。
「この氷って食べられるのかしらね? 成分分析する為に持ち帰って調べてみようかしら……」
呟き、壁面に触れてみる。
ひんやりとした氷が、不意に鋭さを増し、針のようになって走る。
「止めておいた方が良いわね……」
ほぼ自動で動いたに近い動きでそれを躱して壁面から離れれば。
獅門は静かに目を閉じていた。
正面には、氷漬けになった人々の姿。
それらの魂は現世に留まっている。
それらの魂から何か情報を得る術までは持ち合わせていない。
「ここは寒いからな……成仏出来るならそっちの方がいいだろ」
祈ってやれば、ふわふわと魂がどこかへ昇っていくように思えた。
●
迷宮の如くなった町を、イレギュラーズは突き進んでいった。
呼吸さえ苦しくなる冷気と奥へ進むにつれて激しくなる氷の洗礼。
だがそれのおかげでイレギュラーズは目的地を探すことが容易になったとさえいえた。
ひとまずの目的地とした有力者の家――そこへと至ったイレギュラーズは、氷の向こう側で佇む少女を見た。
両親であろう壮年の男女を庇うようにして、氷の向こう側に彼女はいる。
「どうし、て」
か細く、それでいて愛らしい声がした。
穏やかな声がした。
「どうし、て――来るの。いやよ、いや――どうして」
泣きはらすような声で、少女が言う。
甘く、のびやかな声で、じらすように。
「いえいえ、むしろ誰かにここへ来てもらいたかった筈でありんすよ?」
少女の言葉をエマは否定して、静かにその笑みを深くする。
「くっふふー、貴女がクリスタ様でごぜーますね」
笑いながら告げれば、魔種は静かに絵馬を見据えた。
「だって、ねえ? 貴女はご両親と共に眠りたいのでありんしょう?
ずっと、ずっと。だからこそ貴女の願い、叶えてさしあげんしょう。
永遠の眠り、欲しいのでごぜーましょう?」
「――私が欲しいのは、私と、おとうさまと、おかあさまで一緒にいること。
ずっと、ずっと、いっしょにいることよ!」
「くふふ。現実から逃げ、責任から目を背け怠惰に落ちる。
ああ、まさにどん底でありんすなあ?」
含むように、クリスタの意志の輝きを見んと望むエマに、少女は少しばかり敵意を覗かせる。
空気が重く、薄くなったのを感じた。
「はっ、なんとなく予想は付いていたが魔種がこんなお嬢さんだとはな。
ここで一体何が起こった? 氷で閉ざして何もかも覆い隠したくなるような事が起こったのか?」
キドーが笑って言えど、少女は唇を震わすばかり。
声にならぬ声で、ふるふると振るわせた後、足元から生えた氷に思わず飛びのいた。
「さほど大きくもない町の有力者の娘なら、
自然と反転に至るほどの恨み辛みや憎しみを育てながら成長したとも思えない。
何かが起こったと考えるのが妥当だが……奥にいるやつらか?」
視線の先、凍り付いた男女は、頭当たりが赤黒い。
恐らくは血か何かだろう。
「おとうさまも、おかあさまも、奪わせない――わ」
少女の震える声が聞こえてくる。
「やれやれ、戦って楽しいやつが出てきてくれると嬉しかったが……こりゃあいやだねえ」
獅門は涙を流しながら氷の向こうにいる少女へ溜息を吐いた。
この手合いは、戦って勝っても虚しくなる――しんどい奴だ。
愛刀を構えて臨戦態勢に落ちつけつつ、真っすぐに敵を見て走り出す。
魔種との間、まるでその氷こそが彼女の生命線化の如く分厚く張り巡らされた氷めがけ、一息で肉薄し、真っすぐに振り下ろした。
「戦うしかなさそうだ、な」
エクスマリアが魔力を練り上げ、戦闘準備に入る。
「戦うしかないようであれば……参りましょう」
続くように動いたのは沙月だ。
闘志は闘気へ変わり、雷のようなスパークを爆ぜる。
眩く輝く闘気を引き、沙月は真っすぐに突っ込んでいく。
掌底を以って殴りつけ、氷の壁が強烈に軋む。
そのまま手を抜手に改め、打ち込む手刀を叩きつける。
連撃を果たす鮮やかな手刀は氷の壁を大いに揺らす。
「貴女がしている指輪を渡してもらえないか?」
「これはおとうさまから大切なプレゼント……なのに、それさえ奪うというの?」
イズマの問いかけに、クリスタの言葉が冷たく返ってくる。
会敵してから冷気がどんどん増していく。それはまるで、彼女の機嫌を表すように。
愛剣を指揮杖のようにして振るえば、空気を震わせた剣が奏でるは歌うような旋律。
美しく奏でる音色は仲間達に加護をもたらす。
イズマはそのまま、少女に視線を合わせ続けた。
「君がこうする限り、俺達は何度でもここに来る。それが嫌ならば……死ねばいいんじゃないか?
両親と一緒に、誰にも邪魔されず永遠に眠れるぞ。
君は何もしなくていい。俺達が殺してあげるし、全ての責任は君の死を以て取る。
もうどうでもいいのなら、それが一番楽なはずだ」
「――まれ」
少女の目が、殺意を宿した。
冷気はイレギュラーズの前のみならず、周囲全体から密度を増していく。
「くふ、くふふ、くふふふ……なんと美しい。
母と、父と共に眠り続ける。
けれど殺されたくはない……
くふふ、それが貴女の意思の輝きでごぜーますか」
エマはそれに続けて笑う。命の輝きには貴賤はない。
ただ、彼女はここから先も、最後まで逃げて逸らして落ちていく。
その命の潰える瞬間まで。
「……拙いわ! 町ごと氷で閉ざされるわ!」
イナリは空から見るファミリアーの視界に我に返った。
戦場――イレギュラーズの突入経路を分厚い氷が固めていく。
「閉じ込められる前に退くぞ!」
同じように広域俯瞰による視野を持っていた獅門が声を上げた。
「――おとうさまを、おかあさまを、殺すつもりなら赦さない!!
――殺す。アイツみたいに殺してやる!!」
刹那、何処からともなく溢れだした氷柱が、イレギュラーズめがけて雨のように振りそそいだ。
「私が殿を……!」
雨のように降る氷柱を突っ切るようにして跳び込んだ沙月は、その掌底に雷霆を抱き、真っすぐに叩きつけた。
彼女を守る氷は雷陣を纏い、大きく揺れる。
「もう、嫌だ……どうして、私達を殺そうとするの……いやよ、いや……」
向こう側でうずくまる少女を見据えつつ、沙月も後退していく。
イナリのファミリアー、チェレンチィ、獅門の広域俯瞰に導かれ、沙月が迫りくる氷柱を叩き潰しながら、イレギュラーズは撤退を開始する。
魔種の逆鱗に触れたらしきイレギュラーズは、眼前の氷を叩き割りながらなんとか撤退した。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPは複数の有用な非戦スキルから貴女へ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
砂漠に現れた氷の町(串刺し付き)を探検しましょう。
●オーダー
【1】リワの調査
【2】魔種と戦闘を行なう。(撃退、討伐、イレギュラーズ側の撤退いずれか)
●フィールド
ラサ北方に存在する小さなオアシス都市リワ。
一応は町と表現しますが、せいぜいが集落程度の規模であり、数時間もあれば一周できる程度の小さな町です。
町は全てが氷に呑み込まれています。
また、地面から生えるクリスタルの一部では人だった物がミイラになって串刺しにあっています。
事前に訪れた傭兵によると、町への侵入を試みるたところ、氷による攻撃を受けたようです。
当然、このような光景が自然や普通の人間の所業で出来るはずもありません。
本件に魔種が関わっていることは訪れた時点で確信して構いません。
●エネミーデータ
・『凍てつく眠り姫』クリスタ
魔種です。リワで幅を利かせていた権力者の一人娘です。
皆さんはその存在を資料上で確認済みであるものとし、発見すればクリスタと分かるものとします。
現時点では能力の類は一切不明ですが、光景を見るに確実に『氷』を操ることだけは確かでしょう。
また、小さな集落規模といえど町一つ丸呑みにするほどの力を持っていることから、実戦能力も相応に存在しているものと思われます。
現時点で敵の能力は一切不明なため、必ずしも当シナリオで討伐する必要はありません。
この地が彼女の根拠地である以上、生存を優先しましょう。
●NPCデータ
・エミール
町の有力者。クリスタの父の腹心と言える立ち位置でした。
一応は行方不明ですが、この光景を見るに察しは着いてしまいます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
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