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シナリオ詳細

<咎の鉄条>凍てつく桂冠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●其は呑むのように
「……なぁヴィンス、なんかおかしくねえか?」
 パキリ、と音が立つ。
 傭兵はヴィンスへ声をかけた。
「何がだよ?」
「いや……なんつーか……」
 それは、気のせいかもしれなかった。
 立ち止まり、言語化していなかった違和感に触れてみる。
「……なんだよ、気持ちわりぃな、それより、この先なんだろ?
 目的の幻想種の警備隊が拠点にしてるっていうキャンプってのは」
「あぁ、そのはずなんだが……」
 続々と後ろから着いてくるのは隊列を組んだ同胞たち。
「隊長どうしたの?」
 赤毛をした少女の傭兵が問うてくれば、続けて姿を見せた女性は腰を手に当て一息を吐き。
「もうすぐ着くんじゃなかった?」
「休憩はしないって言ってなかったっすか?」
 最後に追いついてきた若い男性の傭兵を含め、彼らは立ち止まる傭兵を訝し気に見ている。
「おい、お前らも違和感がないか?」
 傭兵は追いついてきたばかりの傭兵達にも問うてみた。
「違和感っすか? いや特には……おい、アリカは?」
「何も」
「……ねぇ、コルト、アリカ、なんだかここ寒くない?」
 若い男――コルトは感じず、隣にいた少女、アリカに問えば彼女も感じないようだ。
 かと思えば最後に別の女性の傭兵が呟いた。
「おいおい、ドロテア、ここはラサとは違うんだぜ? そりゃあ、多少は寒いけどよ」
「それはそうだけど……それでも涼しいとかじゃなくて、寒い気がするのよ」
「はぁ?」
 ヴィンスが言えば、寒さを感じたドロテアは視線を前へ向ける。
 ――その時だった。びょう、と風が吹いた。
「――ッ!?」
「なんだぁ、今の!」
「ほら、やっぱり! 意味わからない! なんで冷気が!?」
 吹きつけた風には、異様な冷気が纏っていた。
 思わず身震いした傭兵達は、頷きあうと身を屈め、息を押し殺し前へ進む。
「……やっぱり、どんどん寒くなってきてるぞ、キャンプがあるって方からだ……」
 パキリと音が立つ。
 小枝を踏んだ――否、寧ろ霜を踏んだ感覚が近しい。
「おい、見ろよ、この葉っぱとか樹、霜が出来てるぞ」
 周囲を観察したらしきヴィンスの言う通り、周囲の木々に霜が立ち始めている。
「ほんとに温度が下がってる……でも、なんで?」
 アリカが呟いたところで先頭を歩く隊長と呼ばれた傭兵が再び歩みを止め、思わずと言った様子で立ち上がった。
「――なんだ、これ」
 まさに呆然、というべき声。
「おい、アリカ、お前近づくな! 今すぐ走り出せ! ローレット連中を呼んで来い!」
 一秒と立たず、隊長が声を上げた。
 それはきっと、危機に場慣れした傭兵だからこそ出来た咄嗟の判断だった。
 アリカが走り出すのを見届けた隊長は、直後に横へ跳躍。
 刹那、隊長がいた場所を極大の氷柱が突き立った。
「――はは、なんだよ、あれ」
 ヴィンスが思わず渇いた笑みを浮かべ。
「コルト、ドロテア、散開しろ!」
 立ち上がりながら、隊長が声を張る。
「なんなんすか、あれ」
「薄く青色の……人? 精霊……?」
『――――』
 視線の先、揺蕩うようにそこにある『人型の何か』が声を上げた。
「よけろヴィンス!」
「ちぃっ!」
 刹那の内にヴィンスの頭上へと集束した冷気が氷柱となり落下する。
 それをヴィンスが交わした辺りで、傭兵達は一気にキャンプの敷地内に足を踏み入れた。
「……ここも茨だらけだな」
「この様子じゃあ、幻想種の人らはいても寝ちまってるでしょうね……」
 コルトが呟くのを肯定しながら、隊長は前に出ていく。
『――――』
 それは嘆くように留めなく涙を流しては、涙が凍てつき冷気となって辺りに散らす。
 まるで茨の侵食を止めるために凍らせんとするかのようだったが、体感の気温はますます下がっている。
「……このままじゃあ、こいつを止めねぇと茨の侵食関係なく幻想種達が死んじまう」
 まるで侵食を止めぬ茨に対する対応策というには、あまりにも無差別だった。
 茨を止める前に幻想種達が凍死するだろうことは容易に想像できた。

●月桂冠を凍てつかせて
 深緑が茨に包み込まれた――その話は既に聞き知った者も多くなりつつある。
 現時点でイレギュラーズは幾つかの場所へ潜入や調査を試みつつある。
 深緑を包んだその茨は有刺鉄線のように張り巡らされ、触れるだけで傷つくほか、無視して進もうとすると異様な眠気に誘われるなど、尋常なものではなさそうだった。
 更にはROOに参加していた者達がそのうちにある深緑に比定される翡翠で遭遇した存在、『深緑の霊樹達がもつ防衛機構』が暴走したように無差別に襲い掛かる『大樹の嘆き』も確認された。
「皆さん、急ぎ出立をお願いします。傭兵の偵察部隊から救援要請がありました。
 彼らは深緑の国境線上からほんの少しばかり足を踏み入れ、まだ連絡が取れそうな幻想種の警備隊が存在するキャンプへ進んでいたそうです。
 情報をくれたアリカという傭兵の少女の話では、キャンプは既に茨の侵食を受けていたとのことで。
 その茨に対して防衛機構的に発動したらしき大樹の嘆きが、キャンプを文字通り丸々凍り付かせようとしているとのことです」
 情報屋のアナイスが口早に告げる。
「茨自体も恐るべきことですが、この大樹の嘆きが存在している場所は幻想種の警備隊の拠点です。
 ――そんな場所で凍らせることで対処しようとすれば、どうなるかは想像に難くありません。
 もし逃げられているのならいいですが、眠ってしまった幻想種の警備隊がいれば、茨どうこう以前に凍死してしまいます。
 どうか、幻想種達のためにも大樹の嘆きを討伐ください」
 ――同胞の事を頼みます、と幻想種の情報屋は静かに頭を下げる。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】大樹の嘆きの撃破
【2】傭兵隊の救出
【3】時間があれば探索

●フィールド
 深緑郊外、開けた空間に警備隊用の拠点が作られた場所です。
 そのため視界は大変良好であり、戦闘に十分な空間が広がっています。

●エネミーデータ
・『凍哭氷姫』クラウンフロスト=プリンセス
 核らしき球体を抱き込むようにして身体を丸めた少女を思わせる大樹の嘆きです。
 核の球体はよくよく見ると中に月桂冠が入っています。
 常に涙を流してはそれが空気中に漂い、冷気を振りまいています。

 HP、防技、抵抗、神攻、EXAが高く、回避、反応は低め。

鳴動する慟哭(A):独特な泣き声が周囲に響き渡ります。
物自域 威力無し 【呪縛】【狂気】【魅了】【足止】【苦鳴】

悲嘆し振り下ろす鉄槌(A):鋭い悲鳴と共に呼び出した極大の氷塊を撃ち落とします。
物超域 威力大 【体勢不利】【絶凍】

嘆き震える怒り(A):対象一人へ最大三度に渡る氷柱を降ろします。
神超単 威力中 【万能】【スプラッシュ3】【氷結】【氷漬】【痺れ】【停滞】

反転する殺意(A):直線状を走る氷柱が地表から対象を貫きます。
神超貫 威力大 【万能】【氷結】【氷漬】【絶凍】【停滞】

●NPCデータ
傭兵×4
ゲレオン(隊長)、ヴィンス、コルト、ドロテアの4名。
ある傭兵団麾下の部隊の隊長とその構成員。
今回の舞台となるキャンプの調査に訪れました。
大樹の嘆きとの遭遇すると、脚の速いアリカにローレットへの伝達を託し、
少しでも足止めするために残りました。

イレギュラーズの到着時、4人はHP、AP共に殆ど枯渇しています。
皆さんの到着後は後退する形で撤退します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>凍てつく桂冠完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
フィラ・ハイドラ(p3p008154)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
青(p3p010528)

リプレイ


『――――!!!!』
 鋭い悲鳴が冷気に満ちた空間を裂く。
 頭上へ浮かぶは極大の氷塊。
 それがゆっくりと動き出した。
「ちぃっ!」
 ある者は前に倒れるように、ある者は横へ滑るように、とそれぞれ散開するように躱す。
 逃げ遅れた男の傭兵が舌打ちしながら銃を氷塊に構えた。
「負けられっかぁ!」
 叫んだその傭兵が自棄になったように声を上げた。
 その前、傭兵と氷塊の間を遮るように立つ姿があった。
「足止めをしてくれてありがとう」
「あ、あんたは……?」
 銀色の髪を、落ちてくる氷塊の圧力に躍らせ『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は笑って。
「ローレットのイレギュラーズだよ! 私達が来たからもう大丈夫だよ!」
「ろ、ローレット! 助かった!」
 ホッと安堵の息を漏らした傭兵の周囲を花が舞い踊る。
 向こうが透けるようなその花は、あふれ出した魔力の残滓。
 自然落下で降ってきた氷塊が魔力障壁で勢いを殺される。
『――――』
 凍哭氷姫が震えるように嘆くような声を上げれば、三本の氷柱がスティアめがけて落ちていく。
「なるほど、確かに気温の下がり方が尋常ではないな」
 足をその地へ踏み入れた『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、白くなった吐息を漏らしながら、視線を上げる。
「これ以上、このままいけば、幻想種達がタダではすむまい」
 槍を構え、凍哭氷姫の前へ走りこむ。
「この場所を凍らせるのは止めて貰おうか。此処からは、俺達が相手だ!」
『――――』
 少女のような存在が悲鳴をあげる。
 その手には紅き稲妻。弧を描いて身体を丸めた少女めがけ、しなりを上げた槍が駆け抜ける。
「何処の霊樹より参られたのかは分かりませんが、その凍えるような嘆きをこのまま放っておくわけにはいきません。
 ここで止めさせていただきます……!!」
 風のように走る『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)は、両手に握る愛用の銃剣へとバレット・オーバーロードを装填している。
 黒銀の魔弾が魔力を解放し、炸裂した魔力が黒焔を上げる。
 高速で飛び掛かるや、繰り出すは猪鹿蝶。
 黒焔を纏った淡い緑の剣身が、2度に渡って三連撃を刻み付ける。
「凍哭氷姫は茨を止めるつもりで凍らせてるんだろうけど、流石にこの冷気では悪手だね。
 人命優先ということで討伐させてもらうよ」
 そんな連撃を途切れさせることなく、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が側面へと走り抜けている。
 振り払い放つは根源をも斬り捨てる変革と流動の本質。
 ヴェルグリーズ自身とも言える斬撃が少女の抱く月桂冠の球体、その内側に溶けるように斬りつける。
『――――』
 鋭い悲鳴が上がる。
 それはまるで、慟哭にも似た何かが最前線へと躍り出た3人を包み込む。
 比較的高度な速度を以って割り込んだ4人の後ろ、『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)がその瞳を燃やす。
「興味が尽きぬ訳ではないが、此処は救出と討伐が優先だ。狩らせて貰うぞ――」
 人型の内側に溢れる闘志に導かれるまま、ロックは獰猛な咆哮を立てる。
 露わとなった全身全霊、復讐に本質を置く、あまりにも獰猛なる魔人に怯えたように、凍哭氷姫が声なのか音なのか分からぬものを響かせた。
 一歩目の踏み込みの刹那、ロックは刹那のうちに肉薄すれば、狂骨を振り抜いた。
 不気味に軋む音を立てながら走り抜けたのは烈火の如き刺突。
 抱き寄せるような核めがけて撃ち込んだそれは、抱きしめるようにして庇ったことで芯に当たらずとも紅蓮の炎を上げる。
「うん、君は動ける?」
 青(p3p010528)は他の傭兵に声をかける。
「あんたらがローレットかい?
 へ、へへ。情けねえことに、身体がもう動かねえや」
「そうか。じゃあ少しだけ待っていて」
 青はちらりと後ろにいたマルク・シリング(p3p001309)へ視線をやる。
「動ける? なら、急いで退避を。後は僕らが引き受けた」
 マルクも同じように声を掛ければ、ホッと一息を吐いたのはメンバーの中でも年長そうな男。
「助かった。アリカのやつはちゃんと辿り着いたか」
 マルクの方もそれに頷いてやりつつ、掌に浮かべた魔方陣を起動する。
 魔方陣が鮮やかに輝き、マルクの周囲を包み込み、温かな光が傭兵の体力を回復させていく。
 マルクらによる傭兵の治療も始まる仲、フィラ・ハイドラ(p3p008154)は凍哭氷姫を見据えていた。
「森よ、何に怯えておる? フィーたちには、何ができる?」
 嘆くそれにそう問いかけれども、返答はない。
 ブーケの下で紡いだ呪文が形を為し、少女の姿をすっぽりと箱の中に閉じ込める。
 はじき出された少女が、より深い絶叫を戦場に響かせた。
「伝わるかなどわからぬ。じゃが、伝えねばフィーたちはただの侵略者じゃろうて。
 氷の乙女よ、どうかその心を開いてはくれまいか」
 幻想種(どうほう)に非ずと言えど、その存在は深緑に住まう一員だ。
 嘆く彼女の存在そのものにも、フィラは心が痛まぬわけがない。
 だからこそ、フィラは乙女へ問いかけ続ける。
「その凍てついた悲しみを、少しでも解けさせてやりたいのじゃ。
 じゃから、教えてくれ。そうでなければ、フィーの同胞たちが傷ついてしまう」
 返答は、言葉にない。目の前の大樹の嘆きは、人との意思疎通を交わせるような存在ではないのだろう。
 ただ、酷く悲し気に酷く怒れるように絶叫する。
「ちくしょう。すいまねえが後は任せた。俺達がいても邪魔なだけだしな」
 そんなフィラの背後、ヴィンスと言った傭兵がある程度の回復を受けて呟き。
「ええ、気を付けて」
 続くようにドロテアと名乗った傭兵が頷き、改めてゲレオンと名乗った隊長とコルトと言うらしい傭兵を連れて撤退していく。
「寒い……貴女はどうしてこんな凍えるような嘆きを?」
 ハンナは踊るように連撃を叩きつけながら問うた。あらゆる連撃は彼女が守る球体へと注がれていく。
 その視線の先、まるで大切な何かを守るように、あるいはふさぎ込み、閉じこもるように身体を丸めた嘆きの姿は変わる様子を見せない。
『――――』
 返答はなく――あるいはその言葉にならぬ慟哭こそが返答であるのか。
「ここからは全力で相手をしよう。
 盾役だろうと、黙って攻撃を受けているだけだとは思うな」
 ベネディクトはくるりと槍を構えなおし、全霊の刺突を叩き込む。
 紅の閃光が稲妻のように走り、その残像が鮮やかに月桂冠を包む球体に叩きつけられる。
 冷気が結晶となって散り、紅の闘気へ触れ、熱量を帯びた闘気に蒸発する。
 戦場にいるだけで呼吸が白っぽく溶けていく。
「本当に、深緑でいったい何が起こっているんだろうね……」
 ヴェルグリーズは浅く呼吸をして、浮かぶ少女を見る。
 嘆き、絶叫しては大気を凍てつかせ、武器として振り下ろす凍哭氷姫。
 その嘆きの理由を理解するには情報がない。
 青白い燐光を束ねて三連撃を撃ち込んでめば、その軌跡を凍哭氷姫が溶かす冷気が彩っていく。
「信じて貰ったからには期待に答えないといけないとね!」
 静かに表情を綻ばせ、スティアはその掌に氷結の花を浮かべた。
『――――』
 怒れるような震えた声が響く。
 応じるように、或いは手向けるように、命を刈り取る終焉の花を差し出せば、一層の輝きを放つ。
 ほろほろと解け落ちた花は踊りながらも氷姫の嘆きに応じるように散っている。
「なるほど、硬いな……だが――」
 ロックは健在の凍哭氷姫を見ながら獰猛なる闘志を更に滾らせて、拳を握り締めた。
 ギチギチと筋肉が軋みを上げて、戯骸布を巻き込み、膨れ上がる。
「これならば――」
 強烈な踏み込みと同時、振り抜いた拳が乙女の身体へ炸裂する。
 インパクトの瞬間、充実した気が凍哭氷姫の内側へ衝撃を叩きつける。
「救援は無事に済んだ。あとは彼女を鎮めて出来れば情報も持ち帰ろう」
 マルクはワールドリンカーを起動すると同時、立方体を形成した魔力を一気に出力を上げる。
 出力は魔力体の膨張へと伝わり、極大の魔力は一つに集束していく。
 マルクが射出のイメージを整えた瞬間、それは放物線を描いて空へ上がり、自然落下の要領で乙女へと炸裂する。
 ただの一発。けれどその一発に全霊を籠める魔力砲撃に、凍哭氷姫がより鋭い悲鳴を上げた。
「月桂冠は栄光の証。それを大切に抱えていたということは……
 それが脅かされるようなことが、あったのじゃろうか」
 諦めずに問いかけるフィラは、再び魔術を行使する。
 己が身に宿る血を活性化させ、術式を起動する媒介として呪文を唱える。
 不可視の魔術が凍哭氷姫の身体を締め付け、球体を斬りつける。


 凍哭氷姫との戦いは多少の問題こそあったものの順調に進んでいる。
「貴女が何を守ろうとしているか知りたいな。
 悲しそうにしているし、何か伝えたい事があるのかな? って」
 イレギュラーズへ全てを託し後退していったことを受け、ある意味で余裕が出てきていたスティアは凍哭氷姫へ声をかける。
 うすうすと分かってきつつあったものの、それとの意思疎通は出来ない。
 雰囲気から、嘆いていることは、何かを守ろうとしていることは分かるが、それだけだ。
 大いに嘆き叫ぶ凍哭氷姫の氷は、スティアへと何度か振り下ろされている。
 それらさえも引き連れて、スティアは悠々と相対していた。
 前衛で凍哭氷姫を止めるのはイレギュラーズでもトップクラスの堅牢さを有する2人。
 守りを固め、対象を前後に防ぐ現時点では敵が取る攻撃手段は限られてくる。
 一つ一つも油断ならない威力がある氷姫の攻撃は、その数も多かった。
 1つ1つの攻撃を巧みに守り切れど、数が増えれば傷は増える。
「――でも、僕達ならやれる。支えられる」
 マルクは言いながら魔方陣を展開する。
 強烈な閃光を放つ幻想の鐘の音が鳴り響き、福音となる恵みが耳にした者を落ち着かせ、体力を整える時を与える。
 青はマルクの様子を見ながら、参考にしようと試みていた。
 これが初陣だった。
 幼い頃から、ずっとこの世界を独りで生きてきた。
 慣れぬ状況、慣れぬ戦場、どれをとっても新鮮で、どれをとっても恐ろしく。
 そして、あまりにも奥が深い。
 それは、触れるにはあまりにも複雑で――きっと、自分だけで何かをするのは難しいのかもしれなかった。
 それでも、彼の様子を見ていて、参考になることは多くあるように思えた。
 誰かを頼るのは、少しばかり怖い。
 けれど、きっと、何も知らぬ今、それは必要な事だから。
 ここにいる彼らは、いつか、大切な友人になれるかもしれないのだから。
 凍哭氷姫が哭く。
 既に罅の入った月桂冠を抱き、慟哭を上げる。
 刹那、地表を盛り上げた氷の柱がイレギュラーズへと走り抜けた。
 それはどうしようもない悲しみを殺意へと転換したように。
 そのまま、鋭い怒りを露わに、氷の塊が降り注ぐ。
 暴れる氷姫の姿は、さながら自らの死を自覚し、足掻くかのようだった。
「ごめんなさい。でも、貴女を放っておくわけには行かないのです」
 ハンナは再び引き金を引いた。魔力などとっくに尽きた。
 ――けれど、その身には大樹の奏でる詩があるから。
 例えファルカウのそれでなくとも、氷姫から聞こえる声は嘆く詩のようだ。
 一呼吸を入れて、心に積み重ねてきた努力を思う。
 描くは積み重ねてきた研鑽。
 双剣(このみち)は生涯に比べれば短けれど、それ以前にも磨き続けた力は、たしかにあるのだから。
 憧れた剣が、すぐ傍にあるのだから。身体が軋むような斬撃を、ただ――振るうだけでいい。
「心成しか、気温の下がり方が緩やかになった気がするな」
 ベネディクトは槍を構えなおす。
 眼前で慟哭を上げる氷姫の攻撃はそろそろ浴び慣れてきた。
(それでも、少々きついが、問題はない)
「――さらばだ、全霊を以って打ち勝って見せよう」
 その身を包み込む紅の闘志は、限界を知らぬとばかりに溢れあがる。
 どこまでも遠く、手に届かぬ本来の使い手を思い、振り抜いた軌跡が雷光となって鮮やかに輝いた。
 その身は別れの属性。
 ヴェルグリーズは静かに自身とよく似た武骨なブロードソードを構える。
 青みを帯びた剣身へ、揺らめくは青は、この身の本質。
「人型となると親近感があることは否定しないよ。
 ……いや、だからこそ君は止めないわけにはいかない」
 意思疎通ができるわけでも、言葉を交わせるわけでも――そもそも根本的に違うけれど。
 嘆き、怒る防衛機構へと、振り払う強かな一撃が根源を切り裂き、それの持つ運命に終わりを与えていく。
「貴様に我の言葉が通じるか判らんが――」
 ロックはより一層と抱きしめた氷姫の核へ手を伸ばす。
 その手には、全霊の力が籠っていた。
「泣き続ける凍哭氷姫(きさま)もただこの茨を止めたかったのだろう。
 故、あとは任せておけ」
 球体に触れる。
 想像を絶する冷気が、ロックの手を、腕を切り裂く。
 雄叫びと共にそれすらも文字通り握りつぶし――軋む球体が割れた。
 その刹那、少女が悲し気に哭いて、泣いて、光の粒子と化していく。
 溶けて消えていく。嘆く音さえいつの間にか消えて、音も無く静かに消えていく。
 その姿が全て消失した後、そこには月桂冠が1つ、落ちていた。


フィラは月桂冠をそっと拾い上げると、自然会話を試みる。
 眠りについたような、或いは怯え逃げていったような静謐さに満ちたその空間で、ふと顔を上げてみれば、美しき霊樹が佇んでいる。
 種別を見れば、月桂樹であることは明らかだ。
 その根元へ、そっと冠を手向け、眼を閉じた。

 その後、ひと通りに調査を行ってから、眠りについた人々のためのバリケードを作成し、毛布をかぶせてやってから、イレギュラーズはその場を後にした。

成否

成功

MVP

ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPは貴方へ。
その一言はきっと、彼女の救いになったでしょう。

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