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シナリオ詳細

<咎の鉄条>鮮烈なる毒花

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「一体何が起こってるんだ……?」
 静謐な――あまりにも静かすぎる、森の中。小鳥たちが木々を飛び移る様子もなく、小動物が草むらを揺らすこともなく。いつもならそこに存在する人の気配も、精霊のそれすらも感じられず。ただただ、深緑の内外を断絶した茨が動くモノに襲い掛かる。
 それらを避けて進む青年は突破口はないものかと辺りを見回すが、あるのは迷宮森林とそこに浸食した茨のみ。鋭く迫る茨を精霊の張ったヴェールが優しく押し返した。
「ああ、ありがとう」
『ココ、危険。逃ゲナイト』
 そう告げる精霊自身も、この一帯に居続けたくないようだ。精霊の気配を視線で追った青年――イヴェール・イフォラは、後ろ髪を引かれる思いで深緑の国境へ向けて走り出す。
 この世界に生を受けて100年にも満たない時間だが、いつだってアルティオ=エルムの緑と共にあった。それが、これまで見たこともない状況に陥っている。
(周囲の木に異変が起きているわけではないようだけど、断定はできない)
 走りながら横目で見る迷宮森林は、『茨が覆っている事を除いて』いつもと変わらないように見える。しかし、少なくともこの一帯は精霊の気配が感じられない。共に逃げる精霊も仲間たちを見つけられないようだ。
 一旦国境まで退却し、友人に助けを求めるべきか。いいや、普段だって無茶や無理をしていないか心配しているというのに、自らそのような場所へ向かわせるのは躊躇われる。
「これじゃ、何時でも帰っておいでなんて言えないな……」
 呑気な事を言った過去の自分を思い返して、自嘲混じりに苦笑を浮かべる。しかし不意にその視線はあらぬ方向を向いた。
『――嫌ナ気配』
 遅れて精霊も気づいたらしい。イヴェールの傍へ戻ってくると同じ方向を見た。
 茨を撒くのであれば、このまま国境まで走るのが最善だ。けれど精霊が嫌な気配と称したそれを見逃していくことなどできない。イヴェールの足はそちらへと向いた。
 気配を追ってまず感じたのは臭い。腐ったようなそれに口元を覆えば、今度は肌を刺すような空気を感じ始める。眉を顰めるイヴェールの視界に、不意に鮮やかな紫が揺れた。
(花……? いや)
 それは人をも越えてしまうような巨体を持っていた。枯れ木のような人型の体に、頭の代わりとでも言いたげな毒々しい花を咲かせている。その花弁が放つ毒素が周囲の環境に穢れを巻いていることに気付き、イヴェールは顔を顰めた。
 早急に治療する必要がある――が、このままでは迂闊に近づけないことも事実。そして彼の背後からは着実に、茨という魔の手が迫っていた。



「イヴェールさんという方が、帰ってこないらしいのです」
「イヴェール?」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉にクルル・クラッセン(p3p009235)はぱちりと目を瞬かせる。曰く、彼女の飲み友達であるらしい。
 イヴェール・イフォラ。彼は植物研究者にして樹木医であり、よく深緑内の各地を回っている。そのフィールドワークが幸いしてか、ファルカウ全土を覆う茨からも逃れていた。故に、彼は国境付近の見回れる範囲を巡り、異変や内部に至れる道がないかを確認しているのである。
 時に茨に襲われることもあるが、精霊魔法の使い手として名高い彼が致命傷を負う事はそうそうないと見てよい。だが、帰ってこないというのは何かがあったのだろうということだった。
「彼が向かったのはこの辺りだそうなのです。皆さん、イヴェールさんの無事を確認してくてくれませんか?」
 何事もないのなら良い。だが場所が場所なだけに、確認してきた方が良いだろうと。
 クルルは心配という言葉を顔に貼り付けるが如く、表情を曇らせながら地図を受け取った。

 ――どうか、無事で。

GMコメント

●成功条件
 魔物の討伐
 イヴェール・イフォラの生存

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 深緑の迷宮森林。木々の根っこなどがあるので多少足場は良くないでしょう。昼間なので視界は明瞭です。
 目的地はエネミーに汚染されており、ダメージ50、ロスト50が全員にかかります。移動すれば解消しますが、エネミーが居続ける限り汚染が拡大します。

●エネミー
・『鮮烈なる毒花』ルツール×3
 全長は3m程度。枯れ木のような胴体に、鮮やかな紫の花が頭部として載っています。人語を解するかは不明です。
 その辺をうろついているだけですが、いるだけで自然を侵食し、汚染します。そのままにしては辺り一帯が枯れはててしまうでしょう。
 今にも折れそうな胴体に反して防御技術が高く、【棘】を持ちます。若干初動は遅いようですが、大きい体で攻撃を行うと周囲の木々を巻き込んでの二次災害を起こしそうです。
 腕をぶん回す、足で蹴るなどの攻撃をしてくる他、撒いてくる花粉に【毒系列】【窒息系列】【麻痺系列】のBSが含まれています。

・茨
 ファルカウ全土を覆った茨。イヴェールを追ってここまで来ました。
 国境付近まで退却すれば引いていくでしょうが、イヴェールが交戦しているあたりだとまだ仕掛けて来るようです。空中にいても狙ってきます。
 攻撃力が高く【失血】BSを持ちます。手数も多いですが、防御技術はそこまででもない様子です。一旦叩きのめせば引いていくでしょう。

●NPC
・イヴェール・イフォラ
 クルル・クラッセンさんの関係者。植物研究員いして樹木医であり、精霊魔法の使い手としても名高いです。
 精霊魔法にて攻撃・回復ともにそれなりの動きをします。皆さんが発見時、エネミーと戦っているでしょう。戦況は思わしくありません。
 イレギュラーズの指示があれば従います。また、エネミーに汚染された自然は戦闘後に治療してくれます。

●ご挨拶
 愁と申します。
 彼の元へ颯爽と駆けつけましょう。自然のためにも、早急な撃破が必要です。
 どうぞよろしくお願い致します。

  • <咎の鉄条>鮮烈なる毒花完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 静かであるはずなのに、どこかざわざわとした空気が拭えない。落ち着かない空気の向こう側に見えたものに、『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)は表情を曇らせる。
「どこもかしこも、茨……本当に、なんなんでしょうか」
「……分かっていた事ですが、胸が痛いですね」
 『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)にとっては故郷だ。知人の安否もわからないこの状況が、早いところどうにかなると良いのだが。
「クルル様のお知り合いも、心配ですね」
 ニルは頭上を見上げるが、木々の間を飛んでいくファミリアもまだその姿を捉えられない。『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)はうん、と僅かに沈んだ声音で頷いた。
 ユリーカからその名前を聞いた時、息が止まるかと思った。あの人が行方不明だなんて。
(神様、大樹ファルカウ。どうか、彼が無事でありますように……!)
 元気な姿を見せてほしい。貴方がいないと『ただいま』が言えないのだから。
 イレギュラーズは迷宮森林の中、茨との戦闘を避けながら彼を探す。見つける前に戦って時間を無駄にしたくない。
「とはいえ、迷宮森林のいたるところで茨の影響が出ていますね」
「本当よ。それに魔物と静謐な筈の森が、騒がしい事この上ないわ」
 『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)と『炎の剣』朱華(p3p010458)は普段と異なる森の様子に眉根を寄せる。とはいえ朱華は深緑自体が初めてだから、仲間たちに元々の状態を聞いていなければ納得してしまっていたかもしれない。
(どうせなら異変が起こってない時に訪れてみたかったわ)
 この騒動が落ち着いたなら、ちゃんと観光として来られるだろうか。何が起こっているのかもわからない状況では、しばらく先の話にもなりそうだ。
「いずれにせよ、私は深緑に領地を頂いている身。お手伝いさせていただきますよ」
「わたしも、精一杯、できることをやりますの!」
 グリーフの言葉に『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)がこくこくと頷く。茨が何だというのだ。この身はその程度でどうにかなるほどヤワじゃあない。
「無事で見つかってくれると良いのだけれど……」
「ええ。その為にもさっさと見つけましょう」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)へそこ気をつけて、と隆起した木の根を示す朱華。道なき道は慣れていないものにとって一苦労だ。
 周囲の植物たちの意思を感じ取る『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は、そこに怯えのようなものを感じ取る。それは進むごとに強くなっているような気がして、はて何に怯えているのかと首を傾げた、その時だった。
「――今、何か聞こえた。硬そうな音と……人の声だ!!」
 鋭い聴覚が捉えたそれは切迫していた。一同ははっと顔を見合わせ、一斉にその方向へと駆け出していく。暫くすれば異変の生じた場所へとまろびでる。
(これを植物たちは怯えてたんだね)
 Я・E・Dは周囲を見渡す。辺り一帯の植物に元気はなく、ともすれば枯れてしまいそうだ。恐らく彼はこれを生じさせているものと戦っているのだろう。
 そのさらに先――何かの争う音を聞き、クルルが真っ先に飛び出していく。
「イヴェール!!!!!!!」
 きっと彼女の背を見ながら、彼女を知るものは目を丸くしていただろう。これまで聞いたこともないくらいに大きな声で、彼女が彼の名を――イヴェール・イフォラを呼ぶのだから。
(勝手にいなくなったりしないで。無事でいて)
 大切な友人で、許嫁のヒト。貴方を失ってしまったら、私は帰ってきた時寄り添う相手がいなくなってしまうから。
「クルル……!」
 返ってきた声を頼りにクルルはイヴェールの前へと滑り込む。次いでアレクシアが駆けつけ、イヴェールの横に膝をついた。
「大丈夫? 助けに来たよ!」
「とりあえず、茨をぶち抜くから気を付けて!」
 アレクシアが彼の傷を癒す前方でЯ・E・Dが迫る茨を吹き飛ばす。動けるまでにイヴェールを回復させたアレクシアも、間髪入れず火花のような魔力の花弁を散らした。
「まだまだ! ぶっ飛ばすわよ!」
 ばしばしと叩きつけてくる茨の中に飛び込んで、朱華も黒の斬撃を放つ。細かい説明は知己であるクルルからした方が早いだろう。
「君たちは、どうしてここに?」
「イヴェールが帰って来ないって、ローレットに依頼を出してくれた人がいたんだよ」
 そうか、と呟いたイヴェールは、しかしイレギュラーズたちが戦う茨と、その先にいる魔物へ視線を向ける。あれらが周囲の異変を引き起こしているのだろう。
「俺はこのまま引くなんてできないよ」
「うん、そういうと思った。だから全部倒しちゃおう!」
 弓と矢を構えるクルル。その胸の内では沢山の言葉が渦巻いているけれど、まだ言わない。全てちゃんと終わったら、だ。
「イヴェール、援護よろしくね!」
「……ああ。任せてくれ」
 少しだけ前に立つクルルの後ろから、ふっと笑う気配がする。彼についている精霊がイレギュラーズたちの頭上を駆け、柔らかなヴェールの加護を齎した。
 その力を感じながらクルルの第一矢が飛ぶ。着弾するその音はまるでマンドレイクの絶叫だ。音によってがんじがらめにされるようなその場所へ、ノリアはふよふよと向かっていく。
(海の水は、苦手におもってしまう、でしょうか)
 そんな心配は杞憂で、か弱く隙だらけなノリアに茨やルツールが寄せられていく。けれどその身が本当はか弱くも、隙だらけでもないのだと触れてから気づくのだ。
「ふふ……グリーフさんにも、あげますの!」
 何事にも動じない、大いなる海の力がグリーフを優しく包み込む。グリーフは残されていたルツールを引き寄せるべく声を上げた。
(これ以上外へ向かわせてはいけない)
 彼らの起こす異変は『彼らがいる周囲』のみだ。ならば動かせば動かすだけ被害は拡大するだろう。周囲の草木がじわじわと弱っていく辺り、彼らは居心地の良い場所へ変えているつもりなのかもしれない。
「大樹の嘆き……では、なさそうですね」
 魔黒銀の銃弾を装填し、まずは茨へと照準を向ける。茨にしてもルツールにしても不明点が多いが、これは只々森の害悪となるもの。そこには何かに対しての怒りや嘆きなどを感じない。
「ニルも、頑張るのです」
 美しき術式をくみ上げ、高位の霧氷魔が目の前の敵を凍らせんとする。その余波を受けるニルは、しかしすぐさま降りかかった精霊の光にはっと視線を巡らせる。
「彼らには棘がある、気をつけてくれ」
 イヴェールが彼ら、と指示したのはルツールだ。こくりと頷いたニルは、再びダイヤモンドダストを展開しながら、複数のルツールを巻き込まないようにと位置を調整する。
 茨の抵抗もさるものながらイレギュラーズの猛攻も相当だ。大人しくなってきた辺りでイレギュラーズたちはルツールへ標的を切り替える。ハンナを援護するようにヤドリギの矢を番えたクルルは、その瞬間に火力を込める。
「フォローはするからどんどんいこう!」
 アレクシアを中心として浄化の魔力が拡散し、色とりどりの花弁が舞い踊る。薄紅の花はノリアを飾り、癒しの力を促進した。
「うーん、あの花粉がちょっと邪魔かなぁ」
 Я・E・Dは小さく唸り、頭頂部へ向けて攻撃を放つ。あの花さえ吹っ飛ばしてしまえば花粉は出てこないのではなかろうか。
(棘も十分痛いから厄介だけど)
 ただ殴れば良いだけなら気にせず殴るのだが、如何せん棘のダメージもまた尋常じゃなくなってしまう。厚いヒールを受けながら出なければ、あちらを倒す前にこちらが倒れかねない。
「花粉だけじゃなくて、ここにいるだけで嫌な感じだわ。大樹の嘆きまで発生させそうよ」
 もう、と眉根を寄せる朱華も応戦する。周囲の汚染は刻一刻と広がっているのだ、敵に翻弄されている暇などないというのに!
「皆さん、木が倒れます……!」
 グリーフの声にはっと顔を上げれば、ぐわりと木が傾いているのが見えた。メリメリと嫌な音も聞こえてくる。それはやがて大きな音を立てて森の中へと倒れ込んだ。
(下敷きにならないよう気をつけなければ)
 グリーフは簡易飛行の補助を使いながら攻撃を躱していく。受けてもそれが物理的なものであれば大したことはない。……ないのだが、流石に大きなものに潰されたらどうなるかまではわからない。
「呼吸をしなかったら楽になったり……はしないです、よね」
「ええ、そのようですよ」
 グリーフの言葉にニルはコーパス・C・キャロルで仲間たちを癒す。呼吸不要のグリーフとて、効かなくともそれを受けていることはわかるのだ。肌に触れている時点で関係ないのだろう。
「目には、目を。棘には……棘を、ですの!」
 ノリアは攻撃を受けやすい者たちへ駆けていた大海の加護を再び皆へ降ろす。これが確実にダメージリソースを稼いでいるので、降ろさない選択肢はない。
 ――が、初手で潰したはずの茨がいつの間にか戻ってきていたか。グリーフはいち早くその気配に気づくと、激しく瞬く光で茨たちを懲らしめる。
「もう戻ってきたの?」
「いつまでも鬱陶しいのよっ!」
 Я・E・Dと朱華が残っているルツールごと、茨を攻撃でぶっ飛ばす。もうここまで来たらあとは攻撃を叩き込むのみ。ルツールの反撃はイヴェールたちが必死に回復を施してもたせていく。
 不意に淡い白と赤の混ざったような花弁が辺りに散り、次いで色とりどりの花が舞っていく。誰も倒れさせず、息切れもさせない――アレクシアの覚悟がより鮮やかに花々を咲きほこらせる。
「どれだけ侵そうとも、自然は……草花はそんなものには負けないって、見せてあげる!!」
「ええ、植物達は強い。あなた方を倒せばまた生命力あふれる姿を見せてくれるでしょう」
 だから、此処で倒すのだ。ハンナは心強い仲間の支援を浴びながら、体が動く限り最後まで舞い続ける。
「あともう少しですの……熱水流をくらえ、ですの!」
 ノリアが向けた杖の先端が開き、そこから勢いよく高温高圧の熱水流が飛び出す。追いかけるように駆けた一矢は神をも殺めし呪いを帯び、ルツールの花弁を貫いた。そこへニルが必殺の一撃を解放する。
(これを使うのは、今です!)
 圧倒的な破壊力を抱く一撃を、ゼロ距離から放ったニル。ルツールの体は文字通りに消し飛んで――その余波を喰らったニルは、しかしどうにか倒れることなく踏ん張ったのだった。



 骸を残していたルツールたちはやがて黒い灰のようになってさらさらと崩れ落ち、清涼な風がどこかへとそれを運んでいく。ニルは風の吹きあがった空を見上げて、それからイヴェールへ視線を向けた。
「ルツールがいなくなったら、周りの木々とかもこれ以上傷つかないです……よね?」
「一気に汚染地域が広がることはないだろうけれど、この程度で済んでいる内に『治療』は必要だね」
「手伝えることはありそう?」
 周囲の環境を見回していたЯ・E・Dの言葉にイヴェールは少し考えこみ、新たな魔物がやってこないか見回って欲しいと告げた。汚染された場所は魔物が溜まりやすくなるし、治療途中に襲ってこられると身の危険がある。
「わかった。じゃあ行ってくるよ」
「ありがとう。……ちゃんと元通りになるよ。安心して」
 後半はニルへと投げかけられた言葉だ。それを聞いたニルはぱっとイヴェールを見上げて、ほっとしたように表情を緩める。もしどうしようもないと言われたら悲しくなってしまうところだった。
「イヴェール!」
 治療を始めようとしたイヴェールへクルルが駆け寄る。前のめり気味に心配した、無事でよかった、怪我は大丈夫なのかとまくし立てる彼女に、イヴェールは目を瞬かせてから優しく笑った。
「うん、とても心配をかけてしまったね。君の仲間のおかげですっかり元気だよ」
 いつも通りの表情に安堵がこみ上げる。咄嗟に彼が支えていなければ地べたへ座り込んでしまっていたかもしれない。
「君こそ大丈夫?」
「あはは……安心しちゃっただけ。ごめんね、治療するところだったでしょ」
 クルルがニルに支えて貰うのを見ると、イヴェールは彼女を気にしながらも治療を始めた。精霊が遊ぶように宙を舞い、彼の魔法が草木の穢れを洗い流していく。
 その様子を見て大丈夫そうだと判断した朱華は、Я・E・Dのように見回りをしながら、ルツールたちがどこから現れたのかを探すことにした。ハンナはルツールの肢体が消えてしまったので、イヴェールによって治療された草木たちに彼らの印象を訪ねてみる。
「結局あれは何だったのでしょうか……?」
 その問いに応えるものはなく。草木たちはただただ安堵と、怖かったのだという意志を伝え続ける。ノリアはそれを聞くと、茨の向こうへ行く手段はまだ見え無さそうだと肩を落とした。
「深緑は、連絡用運河づくりで、かかわった国ですの……こんな形で、封鎖されてしまったら、意味が、ありませんの……!」
 もう! とぷりぷり怒り出すノリア。これまで積み上げてきた努力の結晶が大事な時に使えないもどかしさはいかばかりか。
「こちらの治療は終わったよ」
「ありがとう、イヴェールさん。それじゃあ一旦国境付近まで戻ろう」
 アレクシアは再び茨が向かってくるのでは、と推測していた。戦闘中も乱入してきたし、早い所撤退するに越したことはない。
「国境はあっちだね、行こうか!」
 クルルが足元に気をつけながら歩き、その後ろ姿に目を細めるイヴェールが続く。一同は得られた情報の共有などを挟みながら、無事に迷宮森林の端まで辿り着いたのだった。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 無事にイヴェールを連れての帰還となりました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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