PandoraPartyProject

シナリオ詳細

大渦の中を突っ走れ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●潮の匂いは奥底へ導く

 分野が違うと、その冒険家貴族は叫んだ。
 彼は幻想の王都に住む若き冒険家(になる事を夢見る)の青年であった。そんな彼はつい最近、王都郊外にある自身の敷地内で迷宮と思しき地下空間に遭遇した。
 その地下空間は結局彼の力では踏破に至らなかったが。
「確かに私はいつかあの迷宮を攻略するに相応しい天才なのは間違いないが、これは何か違う!! 断じて! 冒険家とか人為的迷宮攻略には関係ない!!」
「何を今さら後悔してるんだ! あぶねえから貴族の坊ちゃんは船内に引っ込めって言ったろ!」
「馬鹿めっ! それでは状況を記録も考察も出来ないだろうが!」
「オクビョーなのか勇敢なのかハッキリしろい!!」
 冒険家貴族は従者たちと共に辺りの写真を、状況を逐一手元の手帳に書き記している。
 そんな彼等は今まさに大型の帆船に乗って海のど真ん中に沈む瀬戸際に立たされていた。というのも、彼等の船は巨大な渦潮に飲まれている最中だったのである。
 それも渦を発生させている黒幕と交戦しながら。
「クソッ、舵が効かねえ……小型船ならまだマシだったのか!? 船長、大砲を当てられないぞこれじゃ!」
「操舵手! この渦は右向きだが合っているか!」
「聞く相手が違え、聞くなら船長の俺だ! 確かに右向きだがそれがどうした坊ちゃん!」
「渦から逃れようとするのをやめろ! さっき確かめた、この渦は底から海上に向かって水流が続いている! 我々は、逃げられると言ってるんだ!!」
 千切れたロープを片手に叫ぶ冒険家貴族。渦に抗っていても中央に見える大穴へ引き摺り込まれつつある中、果たして本当なのかと誰もが疑心に駆られる。
 そうしている間にも、恐るべき敵は侵入者である彼等を排除すべく無数の魔弾を撃ち込んで来る。
 時には水面から呼び出した、先端に刃を持つトビウオのような魚が彼等を切り裂く。技量さえ伴えば、船さえもう少し小型なら、これらを回避したり渦に逆らいながら周囲を回る事も出来たのかも知れない。
 船長の男は決断する。
「舵を離せ!!」
「ええええええ!!?」
 舵を離そうとしない操舵手を蹴り飛ばして、船長の男は勢いで舵が回り過ぎない様に掴み。直後にそれまで軋んでいた船体が大きく揺さぶられ、信じられない速度で海上へと弾き出されるのを願った。
「うわあぁぁぁ!!」
 船員たちの身体が宙に浮き、何人かは船外へと投げ出されてしまう。
 奇跡か、或いは最初からそういう仕組みだったのか。本当に彼等の船は海上へ弾き出されたのだ。
「落ちた奴等を回収しろ! 急げよ、まだ渦は近いんだ! 船ならまだしも生身で巻き込まれたら溺れ死ぬぞ!!」
「だ、旦那様! 旦那様ー!!」
「どうした!」
「旦那様が! 旦那様が、渦から脱出の際に落ちてしまったのです……中央の大穴に!」
「なんだと……!!」

●海の底へ迎えに
 カツッカツッ、とヒールを鳴らして『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)が卓へ現れる。
 胸元の薔薇を模したブローチを手で弄びながら、彼女は資料をいつの間にか出したホワイトボードに張り付けた。
「今回の情報屋オペレーターを務めさせていただくミリタリアです、皆様宜しくお願い致します。
 依頼主はネオフロンティア海洋王国の海上警備隊。これまでとは違い、近海から少し離れた地点へ向かっていただく事になります。
 近頃は皆様が海洋と友好を深めた甲斐もあり、頼りにされてる面もあるようです。これを機に覚えを良くして貰うのも良いでしょう」
 サイドテールをぶるぉぅんと振ってボードを平手で割ってから新しいボードを出す。
 彼女は手慣れた様子でペンを取り出して説明を始めた。
「依頼内容は救出を前提とした討伐依頼となります。
 事の起こりは数日前、海洋近辺の諸島から出ている漁船や貿易船、客船が次々と海上に現れた『渦巻き』に飲まれそうになったのです。
 これに対して幻想のとある貴族も調査に当たったのですが、調査は失敗。挙句に調査隊の要であった彼自身が渦に落ちたという事です」
「救出が前提、ということはその貴族を? ……もう既に助からないような」
「ええ、作戦失敗の報告がされた当初はその見解だったようです。海底に飲まれて助かる筈がありませんからね。何より【敵】が彼を見逃す筈がありません」
 ……一同が顔を見合わせた。そうだ、これは討伐依頼なのだ。
「ですが先日ファミリアーによる偵察を飛ばした所、件の渦の中央に奇怪な魔術師の様な人影と件の貴族の生存が確認されました。
 彼と共に調査に当たった警備隊もこの魔術師らしき人物に撃退されており、環境と合わせて厄介な相手のようです……渦を発生させている目的は不明。謎に包まれています」
 ミリタリアはボードに幾つかの絵を描き始める。
 そこに表されているのは、大きな穴の中を二つの船が大砲を撃っている図だ。
 中央には棒人間が棒を掲げているが、これはなんだろうとイレギュラーズは首を傾けた。

「これを討伐する為、推定で海底までの深さは100mの渦の中で戦う必要があります。皆様にその勇気はありますか?」

 フッ、と冷徹に笑って。ボードをとペンで小突いた彼女は直後にボードがまた割れて悲鳴を上げた。

GMコメント

 またお会いできて嬉しく思います、イレギュラーズの皆様。
 冒険家貴族は果たして無事なのか……!

 以下情報(冒頭OPでの情報は皆様に伝わっております)

●依頼内容
 冒険家貴族の救出、共に『渦巻き』の発生要因である魔術師の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●渦について
 皆様には渦の中央に向かって【支給小型船】或いは該当小型船のアイテムを用いて突入して貰う事になります。
 小型船は人数分あったりするとすんごい事になります(ある判定を飛び越して確定処理)
 渦の内周はその規模から小型船が複数入り込んでも問題が無さそうです。
 しかし、後述の海中からの迎撃によって一定のダメージを受けると船外に投げ出されたり、沈没する可能性があります。万一に備えて水中行動や飛行といった対策スキルやプレイングが必要かもしれません。

●海底の魔術師
 冒険家貴族の考察が意味を為さないレベルで明らかに魔術師が元凶っぽいので倒してください。生死は問いません。
 上手く小型船を操れる者が居れば或いは渦の流れに存在する隙間を縫って下降したり、それによって近接攻撃が出来る前衛の味方を魔術師の元へ降ろす事が出来るかもしれません。
 現状明らかとなっているのは、魔弾やそれを弾幕の様にして撃つ攻撃、更に『青い宝玉の付いた杖』を掲げる事で海中から怪魚達を操って至近~遠距離を広く対応出来る迎撃魔術を放ってきます。

●冒険家貴族
 何故か生存している様ですが、戦闘時や戦闘後、場合によっては【海底からの脱出方法を考えておいた方が良いかも知れません】。
 戦闘力は皆無。持っているのは浮輪だけという頼りなさ。上手く彼が死なない様に連れ帰って下さい。

 以上です。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 大渦の中を突っ走れ!完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月04日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ライネル・ゼメキス(p3p002044)
風来の博徒

リプレイ


 『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)は舵を手に目元にかかった海水を拭った。
「やれやれ、こんな目立つことして何を企んでいるのやら」
「……本当にどうしてこのような事をしたのか……」
 上下に揺さぶられる船上から見下ろすのは、恐ろしく深い大穴だ。
 地上に出現したならそこには何があるだろうと想像を巡らせるかもしれない。だがここは海上。海に空いた大穴は渦を巻いて、その勢いで生半な船を転覆させかねない猛威を振るっていた。
 しかしこれらは内側へ引き摺り込む為の物ではなく、凡そ自然界で知られる渦潮では有り得ない、『外側へ弾く為の渦』なのだ。
 『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は胸元で手を握った。

「……さぁ、仕事を片付ける、時だ。操舵に問題無いか」
「ええ……幸い、船を譲ってくれた商人さんのツテで操船技術を教わっているもの。……はじめての航海としては荒波だけれど」
 ライネル達が駆る小型船に並んで渦潮へ突き進むのは『儚き花の』はぐるま姫(p3p000123)と悠然とした姿で甲板に立つ石動 グヴァラ 凱(p3p001051)である。
 大型船ならばバランスを保とうと渦から逃れようとするか、その場での航行を維持してしまうかも知れない。だが彼等の駆る小型船は海洋でも知れた性能に優れた船だ。
 小さな体のはぐるま姫でも操船が出来る様にカスタムされ、そして相応の技術を有しているならば、ただ中央の大穴へ向かう事は充分に可能であった。
 尤も……そこに妨害が無いとは限らないのだが。

「洗剤を持って来ておれば洗濯が出来たのにのう」
「この状況でそのセリフが出て来る余裕……妬ましいわ」
 洗剤に満ちた渦潮なんて地獄を想像した『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は不意に気配を感じて、手に握る舵(ハンドル)を全力で回した。
 瞬間、エンヴィも『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)も直視出来なかったものの、明らかに尋常ではない速度で鋭い影が渦の中から飛び上がった。
「今の……!」
「不可解な事ばかりじゃな。気を付けて挑まんとなエンヴィ」
「分かってるわ……海底に何かあるのかしら……攻撃をしてくるという事は、何かしら敵対的になる理由がありそうだけど……」
 事前の話では調査隊が撃退されている。その話から、渦を発生させている者が敵意を持っているのは間違いないだろう。
 エンヴィはライネル、はぐるま姫達の船とは逆回りに渦の中を突き進み、小型船を全速力で操る。

「海のイロハを知らぬ幻想の貴族殿が全く無茶をしたものだ」
 前方、エンヴィ達の船を狙った奇怪な魚の奇襲を見た『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は、今回の依頼が一筋縄では行かない事を悟った。
 想定を上回る事は無くとも、想像の外を行くに違いない、と。
「……仮初めの衣を捨てる」
 背から広げられる黒翼。
 依頼の為とはいえ気乗りしない表情のまま。彼は静かに背後の『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)へ視線を向けた。
 『司書』と偽名を告げている彼女は荒ぶる船上で尚も果敢にバランスを保っている黒馬、ラムレイの体を撫でて落ち着かせている様だった。
 数瞬して視線に気づいた司書はレイヴンに小さく首を傾げて見せる。
「それは?」
「うん? ああ、ワタシも飛行種だからね。それよりどうだい、例の作戦はやれそうかい」
「角度は大体わかったわ。大体想定通りよ、外側へ弾こうとする渦は言ってみれば洗濯槽の中身ね。
 遠心力で回っている様なのは確かかしら……それと、速度を出そうにも中腹までねこれじゃ。船が穴に真っ逆さまなんて怖いもの」
「だろうね。実際に舵を握っている身としては相当『引っ張られている』感じがするよ、流れに逆らわなければいいなんて単純なモノではないだろう」
「自信が無くなって来た?」

「――――まさか。
 海洋流の操船術をお見せしよう――――」
 前を見据えて、レイヴンは船を巧みに操って行く。

●渦潮の迎撃戦
 渦による波飛沫の向こうを把握、索敵する事は困難を極める。
 そも、巻き込まれた海流域に生息していた魚類も相応の規模で渦の中にいるのだ、純粋な目視では幸運(クリティカル)に恵まれる要素を足しても三割が良い所だろう。
 故にイレギュラーズが大渦へ進撃を開始して数分。数が増して来た怪魚による迎撃行為を最も回避する事が出来たのは、一艇の船。
 操舵手がはぐるま姫の船であった。
「並走、潜水……来るぞ」
「わかったわ」
 船底に張り付くようにして寄って来た怪魚の姿は、敢えて名を呼ぶなら『剣魚(ソードフィッシュ)』と言った所だろうか。
 背ビレから頭部にかけて鋭利な輝きを秘めた其れは刃のそれ。頭部から更に十フィート近く伸びている細長い角も名工が鍛え上げた長剣と違わない。
 凱はそれを捉え、魚影が彼の視界から消えた瞬間にはぐるま姫に一言声を挙げる。
 はぐるま姫はそれに短く応じると船体を急速カーブさせて上へ回避行動を行う。直後、三体の剣魚がバリスタに発射された太矢の如く船尾を削って宙を舞った。
 剣魚はその勢い故に中央の大穴へ落ちて行く。が、落下死するわけではないらしい。
 その姿は空中で霧散して溶けて行ったのだから。
「……俺の、『目』で捉えられるのは船底が限界だ。それ以外は、防ごう」
「任せたわ。わたしも出来るだけ迎え撃つけどね」
 凱は揺れる甲板をギフトによる機械鎧を纏い緩やかに構えた。

 構え、ココロは強かに手に持つ盾を振り抜く。
 甲高い金属音が連続して、同時に彼女の傍に剣魚が突き立って小型船を微かに振動させた。
「っ! 直撃か、船底に喰らってないのが幸運だな。ココロお前無事か?」
「大丈夫です……! ただ、攻撃を全ては防げないかもしれませんっ」
「そこは俺もどうにかする。半分運任せだが、まあその点は任せろ―――これでも運には恵まれている方だ」
 操縦桿から伝わって来る振動。手応えを、ライネルは微細な『抜けた感覚』を頼りに舵を切る。
 後方ではぐるま姫達の船が僅かに上昇したのと裏腹に、ライネル達は上手く下降する事が出来た。これは技術に加えて、僅かな運も絡むだろう。
 ライネルもこれは後続に口頭で伝えても無駄だと悟った。
「一番乗りが望ましいが、さて……!」
 目の前で飛び上がった剣魚を前に彼は足元に敷いていた盾を蹴り上げ、操縦桿ごと防御しようとした。

「今のは軽く冷やりとしたな……」
 頬から流れる血が海水に流され、ヒリつく痛みにレイヴンは不快感を覚える。
 咄嗟の防御は間に合った。だが次はどうか。
 軽打(ライトヒット)……たったそれだけで操舵が揺らぎ、船体のバランスが損なわれただけで海底までの距離が伸びた様に思えてしまう。
 転覆はしなくとも後退はしてしまう事がこれほど厄介とは、レイヴンは背後から聞こえてきた剣戟を耳にして振り返らずに声を挙げた。
「そちらはどうだい、何か見えるかな!」
「まだのようね。考えたくないけれど、もう少し内側へ寄りながら下降しないと海底の様子は見えないかもしれないわ」
「そうだろうね……この妨害がなければワタシも攻め切れるのだけど」
「攻め切れる筈よ」
「……?」
 司書を名乗る彼女の応えにレイヴンは横目で視線を向けた。
 そしてその後。彼女が仲間へ回した言葉によって状況が変わって行く。

●水底のどん底で海の底
 反応が鈍くなった。
 何故、などとは言えない。分かり切っている事だったのだから。
「迎撃魔術のパターンを読まれ始めた……? コイツを救出に来たのは余程の精鋭か……」
 ローブの奥で呟く者は、天上を仰ぎ見る。
 度々降り注いでくる海水に混ざって煌めいている光の残滓は、数百匹の魚の死骸を媒介に作られた魔術の消滅痕である。
 四艇に分散していなければ常時十二連撃を浴びせる強力な攻撃が売りだ。だがしかし設置型であり、一度設定した術式の変更が海底という事もあって出来ない事が難点だった。
「私をまだ試そうというのか。面白い、尽くを撃退した上で私は目的を達成して見せよう」
「もう無駄な抵抗は止めたまえ! きっと我が国が誇る神託の者、特異運命点達だ。
 このまま続ければ取り返しがつかない事になるのだぞ、海洋の魔術師よ……!」
 四肢を縛られて尚も喚き散らしている青年は、数日前に幻想から調査隊と共に来て置き去りにされた冒険家貴族だった。
 彼は魔術師の素性を知っていた。
 この数日間で自ら明かして来たのだ。
「あれが特異運命座標……噂通りだな。私の輝かしい未来の礎とするには相応しいじゃないか」
 魔術師が冒険家貴族の口を塞ごうと杖を向けた瞬間。先端に付いた蒼き宝玉が跳ね上がった。
 向かった先は……魔術師と冒険家貴族の頭上である。
「な……!?」
 周囲で渦巻く海水が鉄砲水のように噴き出して受け止めたのは、今現在海上から侵入しつつある小型船達には不釣り合いな中型船用の『錨』だ。
 自身を狙った物か、と舌打ちした魔術師は錨を横合いに捨てさせる。
 それがまさか相手に有利に働かせるとは知らずに。

 一滴。二滴。底に降る潮。
 幾つかの轟音と甲高い音が鳴り響き、海底に放り出されていた『錨』が天高く伸びる鎖に引き寄せられて岩を削り激しく動いた。
 直後に『錨』は一度跳ねて魔術師の真横にあったサンゴ群に突き刺さって動きを止めたのだった。
 そして。

「行きなさい!!」
「気を付けろよ、ココロ!」

 三艇の小型船が中腹より僅かに下方、渦巻く大穴が狭まり滝とほぼ変わらないそこで。
 彼等の声が交差して多量の飛沫と共に影が複数海底へと降り立った。
 正確には、彼等を海水が受け止めたのだ。
「やっぱりね」
 鎖が渦の中で軋む音が鳴る中。司書が自身の愛馬に跨って仲間達と共に同じく水の膜へと着水する。
 それ以上何も落ちて来ないでいると、自然と水の膜は渦の一部へと還って行く。
「迎撃パターン。言ってみればターン数に応じて命中の下がる高威力魔術ね、それに加えて渦の流れも技術さえあれば操船に差支えも無し。
 ここまで上手く行くとは思っていなかったけれど、落下物を受け止める魔術まで……相当のお人好しか、随分と『ワンパターン』しかできないのね?」
「ッッ、きっさまぁ……!!」
 魔術師が杖を振り乱す。
 その様子を見ず、司書は転がっている冒険家貴族へ「ごきげんよう」と微笑んで見せていた。
 彼女の乗る馬の陰ではレイヴンが背の翼を広げて様子を伺っている。
「すまないローレット……! 頼む、彼女を止めてくれ!」
 蒼き宝玉が光を放った瞬間。

―――「全員、って言うからにはこっちも相手になるってことだぜ」

 剣魚が四方から飛び出そうとする所へ、頭上から魔弾が降り注いで爆散した。
 ライネルとはぐるま姫の魔法が軌跡を残して炸裂した直後、海底に立つ全員が躍り出た。
 目指すは魔術師の足元で縛られている貴族の身柄の救出である。
「フッ……!!」
 レイヴンの手から魔力で編まれたロープが乱れ飛ぶ、しかしそれが届く前に魔術師は貴族を咄嗟に水を操って後退させる。
(下がらせた……?)
 ロープが巻き付き、絡め取ったのを見て引き寄せようとする。しかし動きを満足に止められない。
「蜂の巣に、してくれるァア!!」
「ッ、ラムレイ!」
 黒馬が疾走したと思った時には飛び交う弾幕を駆け抜け、魔術師の眼前へと司書の剣が迫る。だが半ば強引に進んだ事で被弾した愛馬はあと一歩で直撃を受けて体勢を崩してしまった。
 それでも刃は通る。魔術師の胸元を切り裂いていたのだ。
 横薙ぎに鮮血が飛ぶ中短い悲鳴が上がる。髪から燐光を散らし、瞳から光の尾を引き微笑む司書は刹那に魔術師の姿を哀れむ言葉を囁いていた。
 魔性の瞳。
「づぅ、あッ! この、お前達なんかぁぁあぁ!!」
 杖を薙いだ魔術師は司書のみを狙って周囲の渦から剣魚を召喚して貫こうとする。
 だが、それは所詮迎撃の要だった筈の魔術でしかない。
 ましてや単騎を狙ったのなら……
「させない……!」
「ココロ!」
「なぁ!? く、この! 離せぇ!?」
 隙は生まれる。例えば司書の駆る黒馬の後ろへついて接近した者の存在に、魔術師は果たして気付けるか。
 杖を掴み取り、奪い取ろうとするココロを魔弾で撃ち抜いたものの。それでもココロの手は離れなかった。
 フードが脱げた魔術師の素顔には明確に焦りの色が見えていた。
 常人なら十数人を瞬殺出来るはず、それなのにイレギュラーズは相当撃ち込んでいても或いは魔力を霧散させ、魔法鎧で防ぎ切る。
 ここ一年で名を挙げて来ただけの連中だとばかり思い込んでいた『彼女』は、悪夢でも見る様な目でココロを見た。

「道中感謝、する……標的捕捉」
――――ズッン!!

 数瞬の空白へ割り込んだ凱の握る機械仕掛けのシールドが魔術師の側面を打ち、炸裂。火薬が弾けた事でノックバックを発生させずに魔術師を焼き焦がした。
 それを切り口に。
「うあああああああ!!!」
「……!」
「きゃ……っ、っ!?」
 遂に魔術師はローブを脱ぎ捨て。その手にあった筈の杖をココロに押し付ける様に捨て、突き飛ばした。
 懐から投げた黒い塊から閃光が迸り、露わとなった金髪碧眼の魔女の周囲に剣魚を展開。イレギュラーズへ向けて射出されたのだ。
「追い詰められたか、皆わしの近くへ!」
 潮の周囲に癒しの光が広がる。それは温かなオーラであり、海の底を照らす灯火に近い。
 司書と凱が彼の前に並び構える。
 ココロがステップを刻み、剣魚を上手く回避し、盾で弾き返す。その片手間に彼女は唯一狙いを集中されている司書へ補助魔法を掛ける。
「ありがとう!」
「実は、杖を奪いました。彼女はもしやこれがなければ決定打を与える物は使えないのでは……?」
「ありえるのう、この面倒な魚も最初に比べて防ぎやすいわい」
「……ならばこれで、依頼の『半分』は達成した、か」
 凱の目が僅かに細められる。
 一同が剣魚の猛攻を防ぐ最中、彼等の位置とは真逆にして離れた場所で転がされていた冒険家貴族は自由の身となっていた。
 自動迎撃が叶わないならそれはもうイレギュラーズ単騎に劣る。
 ましてや人間種の、上位の魔術師でもない、戦闘の素人に過ぎないただの魔術師の女はとてもレイヴンにまで目が回らなかった。
「は……!! そこのお前、何をしてい……ぐぁぁあお!?」
 気付いた時には黒翼を羽ばたかせ、陽が僅かに届く天へと向かって飛び立とうとしていた。
 懐から触媒を取り出そうとした魔術師の腕が止まり、首元にまで不可視のロープに締め上げられる。
「落ちると痛いから暴れないでね」
 不敵に微笑むレイヴンを、言葉にならぬ罵声と共に魔術師は手を伸ばす。
 その手がどん底から掬い出されるわけでも無いと言うのに。

●底から顔を出す
「くそ、ぉぉ……!!」
 かくして魔術師は膝を着いた。
 頭上から降り注ぐ狙撃魔術。死霊弓はエンヴィの物だろうか。絶え間なく続けられる攻撃に剣魚は消滅し、余剰魔力で編み出した魔弾も最早脅威とすら思われず。
 ココロが奪った杖を睨みながら彼女は遂に凱と潮の二人によって薙ぎ倒される事となったのだ。
「……あなたは何故、こんな事を?」
 戦いは未だ終わりの時を見せない、故にココロは問いかけた。何が理由なのか、と。
「ぜぇっ、ぜぇっ……私は……学院の奴等を見返す為に! あの女王派の、貴族共を見返してやるために……!」
「たったそれだけの為に……?」
「これは私の誇りを賭けた戦いだ!! この海底の地下には島を作るに必要なエネルギーがある、
 こんな事、連中はきっとできやしない! お前達がこなければ、勝てたんだ! 私は、私は負けてない……!」
 司書が哀れむような、何かを思い、静かに目を閉じた。
 魔術師の女はココロを見上げた。
「……あの貴族を生かしていたのは偶然さ……偶然助かった奴を、なんとなく近くに置いていただけ……だっ」
「!」
 魔力が切れ、重傷にまで追い詰められていた魔術師は意識を失った。
 線の細い体が鈍い音を立てて倒れ伏せた時、辺り一帯に地揺れに似た振動が襲う。
「術者が気絶した所為……? 不味そうね、脱出しましょう」
「待て。今此奴を縛る、司書の馬に乗せてやってくれんかのう」
「構わないけれど、急ぐことをお勧めするわ。こんな海底で水圧に潰されたら死ぬもの」
 潮のロープで拘束した魔術師を黒馬へ載せ、司書の彼女が機を見て錨から伸びる鎖を辿って小型船まで脱出させる。
 凱が跳躍してはぐるま姫と合流し。渦が明らかに狭まって足元が激しく揺れ出した頃、ココロは杖の宝玉にヒビが入った事に気付いた。
「ココロ、手を……!」
「司書さん!」
 岩場に突き刺さっている錨に登り、司書は紅き戦旗のオーラソードを抜いて立つとココロへ手を伸ばして叫んだ。
 杖を抱き締め、その手を掴む。

「レイヴン! 飛ばして!!」

 渦が完全に停止した、その瞬間。鎖を断ち切って彼女達は一気に上空へと体が連れて行かれる。
 小型船を全速力で海上の出口目指して発進させたレイヴンは僅かに冷や汗を流した。
 仲間達は既に海上へ飛び出すが、彼等は崩れ行く水の壁に包まれ……!


 刹那、一艇の小型船が小さな渦巻きの中から飛び出して出てきたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ~後日~
 イレギュラーズに捕縛された魔術師は彼等に告白した通り、海洋首都リッツパークに在る魔術学院の生徒だった事が発覚した。
 彼女の犯した罪は貿易や開拓船団に影響を与える行為であり未確認の自作魔術による意図的な地殻変動を引き起こそうとする危険的実験。
 それらを相乗した罪状はとても貧困層だった彼女に償い切れるものではなく、今後の処遇は長い時間をかけて決められて行く事だろう。
 ……尤も、真に評価を受ける事さえできればきっとその限りではないのだろうが。
 
 一方で、今回救出された冒険家貴族は。
 件の魔術師の作成した宝玉をさりげなく持ち出して何やら試したいことがあるらしい。
 上手く持ち帰ってくれたイレギュラーズに感謝を、という事だった。きっと余計な事をして怒られるのはまた別の話に違いない。

 お疲れ様でした皆様、またの機会をお待ちしております。

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