シナリオ詳細
<咎の鉄条>茨の結界と吠える炎霊
オープニング
●深緑のクローズ
「……此処もダメみたいね……」
木の上から双眼鏡を除きつつ、そう呟くのはエリザ・スカーレットという名の女性旅人(ウォーカー)である。双眼鏡から覗く先には、茨のようなものがびっしりと、壁のように生えており、まるで意思持つようにうねり動いている姿が見えた。
「……まるで、深緑全土が、あの茨に覆われているみたいね。
どうして急に……」
口元に手をやりながら、エリザは考える。彼女は、深緑のはずれにあるとある街で、酒場の切り盛りをしていた。仕入れのために、つい先日深緑からラサへと向かっていたのだが、その最中に、深緑がトラブルに巻き込まれたらしい。
慌てて戻ってみれば、深緑は茨に覆われ、元の街に戻ることもできない。仕方なく、ラサの民の力も借りて調査を行っていたのだが、わかったことは、この茨が本当に、まったく深緑を覆ってしまった事くらいだ。
「……それから、一部部分は、まるで意思持つようにこちらを攻撃してくること。無理矢理分け入ろうとしても、眠るように意識を失ってしまうものが出る事。
それに……」
ちらり、と視線を送ってみれば、巨大な精霊獣が、茨に食らいついているのが見えた。大樹の嘆き、と呼ばれる、深緑の神樹の防衛機構だ。本来は無差別に暴れるような存在なのだが、どうやらあの茨は、彼らにとっても敵として認識されているらしく、時折衝突し、そして返り討ちにあっている姿が見受けられた。
「……深緑の内部に敵がいるのかしら……でも、こんな事ができる存在なんて……」
わずかに、エリザが悩んだ刹那。轟、という音と熱風が鳴り響く! エリザが慌ててきから飛び降りてみれば、先ほどの茨の近く、大樹の嘆きの獣と戦う、巨大な炎の巨人の姿があったのだ!
「炎の……精霊? あれも大樹の嘆きなのかしら?
でも……」
おかしなことに、『茨』は炎の巨人を襲おうとはしない。むしろ、その手を伸ばし、炎の巨人をサポートするようにも見えた。茨がその手を伸ばし、大樹の嘆きの身体をからめとり、炎の巨人が、灼熱に燃え盛る拳を、大樹の嘆きへと叩きつける。轟、と燃え盛る炎が嘆きを燃やし尽くし、後には何も残らなかった。
「……あの炎の精霊、茨と組んでる……?
どうして? あの精霊、敵なの……?」
……調べる必要がある。最悪、戦って消滅させる必要があった。万が一あれが、茨の制御下にある嘆きであるのだとしたら、調査中のメンバーにけしかけられる可能性もあり、調査チームの安全が脅かされかねない。
だが、あの炎の巨人は、エリザの感覚からすれば、かなりの強敵に値すると理解できた。あれと戦うことができる人物に、心当たりは……。
「……シャルレィスちゃん、結構活躍をきくのよね。それに、深緑での戦いで慣れてるイレギュラーズ達がいれば……」
勝機は、あるかもしれない。エリザは頷くと、すぐにその場を離れた。後には、強烈な熱気が、夏の風邪のようにあたりを蒸し返している。
●フレイム・ジャイアント
「エリザさん、街に帰れなくなっちゃったの!?」
と、シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は目を丸くしていった。
深緑とラサの境目、異変調査団のキャンプ。呼び出されたシャルレィスは、既知の相手であるエリザの存在に驚き、その境遇にさらに驚いた。
「ううん、でも、あの茨の中にいて、囚われてる、よりは良いのかなぁ……。
ああ、ごめん、街の友達が囚われてるのに、良かった、は無いよね、うう、なんて言ったらいいか……」
わわわ、と目をぐるぐるさせるシャルレィスに、エリザは微笑んで見せる。
「ううん、いいの。ありがとうね、シャルレィスちゃん」
「それで、依頼、というのは。例の茨の調査、かしら?」
シャルレィスと同様、深緑にて名高いイレギュラーズであるとして直接指名を受けたゼファー(p3p007625)が声をあげた。その隣には、アリア・テリア(p3p007129)の姿もある。アリアもまた、深緑で活躍する高名なイレギュラーズとして、声がかかったのだ。
「心配だね……まだまだ謎の多い茨だし、中に入れた例もないんだよね?」
アリアの言葉に、エリザが頷いた。
「ええ。それに今回は、その茨に協力するような動きを見せる炎精霊か、大樹の嘆きのような存在。それが現れたの」
「炎の精霊か、大樹の嘆き?」
アリアが目を丸くした。
「深緑では火が厳禁だから、あんまり印象ないけど、居るには居るのかな?」
シャルレィスが声をあげる。もちろん、いないことはないだろう。だが。
「問題は、精霊か嘆きが、異変に与しているように見える事だよね。
精霊や、大樹の嘆きを操れるような存在が、敵にいるかもしれない、って事になるから」
アリアの言葉にエリザは頷いた。
「その辺の情報はあるのかしら?」
ゼファーが尋ねるが、
「いいえ、全然。だから、これはその調査も兼ねての依頼なの」
エリザが告げるには、とにかく敵の脅威は未知数だという事だ。その上で、調査チームの安全性の確保のためにも、討伐を依頼したいとの事。
「炎の……そうね、仮に炎の巨人と呼びましょう。とにかく、巨人を放置していたら、危険よ。
速やかに倒してもらって、周囲の安全を確保してもらいたいの。
ラサの調査チームも、それを望んでいるわ」
「わかったよ! おかしな精霊をやっつければいいんだね!」
シャルレィスが頷く。
「じゃあ、ラサの調査団として、正式に依頼するわ。
どうか、よろしくね」
エリザの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた――。
- <咎の鉄条>茨の結界と吠える炎霊完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●炎上の大地
「これは……」
『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は、その光景を目撃し、たまらず絶句した。
高熱の何かかが、大地を焼いたように見えた。
青々と生い茂っていたであろう木々は、無残に焦げた黒を見せ、あちこちに焼ける木々の、場違いなほどの香ばしい香りを漂わせている。
不快な香りではない。
だが……これは、木々の放った、悲鳴に違いないのだ。
「……っ、酷い状態……!
どうしてこんなことに……」
ユーフォニーが辛そうに顔を背けるのへ、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)も、またわずかに表情を曇らせた。
「……元より、大樹の嘆きは無差別な破壊を繰り返すもの……しかし、ここまでとは。
現実として目の当たりにすると、その無残な光景には、流石に心が痛むというものですね」
「ひどい……此処にもたくさんの精霊たちが住んでいたはずなのに」
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が悔しげにつぶやいた。小精霊たちも住んでいたであろうこの場所に、もはや生命の気配を感じることは無い。すべて焼かれてしまったのだ……今ある生命も、これから生まれるであろう者も。
「……冬の王とは真逆の力か。だが、やっていることは同じだ。生命の否定か……?」
『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)が沈思黙考する。
「だが……何故だ。何故、曲がりなりにも森の防衛機構であるはずの嘆きが、自らを焼くような炎の形をとる? 何かの意志が介在しているのか?」
「件の茨が、外部からの力である証拠かもしれませんね」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が言った。
「茨そのものが、深緑が本来持っている防衛機構なのか、それともまったく関係のないものなのか、そこまでは分かりません。
ですが、嘆きが明確な敵対行動を持っていると考えれば、おそらくは、深緑の意志とは異なる運用をされている可能性は高いでしょう」
「それ故に、茨に味方をする『炎の巨人』もまた、常ならぬ存在という事か。炎の形をとったのは、幻想種たちの潜在的な恐れを感じ取って象ったのか? それとも……何かないだろうか。例えば、深緑のおとぎ話の様なものでもいい。現象が発生するには理由があるはずだ」
クロバが口元に手をやり、深く思考を巡らせる。もし、ここにあの男が……クオン=フユツキが関わっているとしたら。だが、奴の目的は『力』そのもであったはずだ。その目的は達成されたのではないのか? わからない。まだ。何も。
「事情を探るのは大切ですけれど」
『雪風』ゼファー(p3p007625)が声をあげた。手にした槍を肩に担ぎ、とんとん、と肩を叩いて見せた。
「今は、目の前の怪物を何とかしましょ。多分、もうすぐ茨と巨人にお目見えできるわ。確かに、夏かな、ってくらいに熱くなってきてるもの」
確かにゼファーの言う通り、周囲の気温が上がっているのが分かった。恐らく、高熱度の何かが、周囲にいるのだ……。
「……この高熱……木々の悲鳴が聞こえるようです。これでは、新たに芽吹くはずの者すら、生まれる前に焼け落ちてしまうでしょう」
悔し気に歯を食いしばる、『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)。ここに来るまでも、前述したような、炎に焼かれた木々の光景を幾度も目にしてきた。炎の巨人が、暴れた証左だ。
「許せません。あれが嘆きであったとしても、何者かに操られたものだとしても……森を焼いたという罪、その罰を与えなければなりません。
森を焼くという事は、そこに住む幾百幾千の生命と未来を奪ったも同じこと。見た目だけの損害では済まないのですから」
ハンナの怒りももっともだろう。今回の件で、多くの生命が……人も獣も、虫も木々も、失われたことだろう。
「……ついたみたいだよ」
『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が、声をあげた。果たして眼前には、遠くからすでに見えてはいたが、茨のドーム、その一辺が見えた。うねうねとうごめく茨の蔦、その茨を守る様に、巨人は静かにたたずんでいる。
「……話の通りだね。あの二体、仲がよさそう」
シャルレィスが、ごくりとつばを飲み込んだ。シャルレィスの友人でもある、情報主、エリザによれば、多くの大樹の嘆きが茨と敵対する中、おそらく同質の存在であるだろう炎の巨人は、茨と敵対することなく、むしろ連携をとるようにこちらを襲ってきたというのだ。
「あの中に、多くの人が囚われているんだよね。エリザさんの、街の友達たちも……」
ぐっ、とシャルレィスが、刃の柄を握った。巨人はさながら門番を気取っているのか、「近寄るならば殺す」と言っているようにも感じる。
「……なんだろう、実際に見てみると、あの巨人……」
アリアが不思議そうにつぶやいた。
「なんだろう、この違和感……? 精霊の力も感じる。大樹の嘆きの力も感じる……?」
「分かります。変なんです。二つの音が、重なり合ってるみたいな……でも不協和音じゃないんです」
ユーフォニーが、頷いた。二人が感じ取ったそれが何なのか……今は答えは出ないだろう。だが。
「ひとまずは置いておきましょう」
寛治が言った。
「茨は、巨人と連携している。しかし見た目通りに、茨は動くことができない。なら、連携を断つのは簡単です。
『茨から炎の巨人を引き剥がして孤立させて撃破』。シンプルな作戦です。
無限に再生する茨、「適当に」であっても相手にするだけ無駄ですからね」
寛治の言葉に、仲間達は頷く。
「じゃあ、引き付け役はわたしのお仕事ね?」
ゼファーがするり、と槍を構えた。巨人がぴくり、とその身体を震わせる。
「ゼファーさん、大変な役をありがとうございます。気をつけてください……!」
ユーフォニーが言うのへ、ゼファーはひらひらと手をふった。
「お熱い声援ありがとう。前も後ろもお熱いんですもの? いい感じにローストされない様に頑張ってくるわ?」
「サポートはお任せください」
アリシスが言った。
「見たところ、強大な敵ではありますが……ええ、私達とて、負けるわけにはまいりません。
全力を尽くしてまいりましょう」
「よぉし、エリザさんのためにも、頑張ろう!」
シャルレィスが声をあげて、刃を抜き放つ。それに応じるかのように、巨人は雄たけびを上げた。
(喜んでいる……戦う事を?)
アリシスが胸中で呟いた。まるで、『抵抗者が現れたことに歓喜しているかのよう』。
(やっぱり、何か変だ、この巨人……)
アリアもまた、胸中で呟いていた。何か、拭い去れぬ違和感。透けて見えるのは、この巨人を使役しているものの意志? それは茨を操るものと、本当に共有する意志なのか?
だが、いずれにせよ――。
「森を焼いた罪は、償ってもらいます!」
ハンナの言葉通り――如何な理由があろうとも、この巨人を討伐しないという選択肢はない!
「行きましょう!」
ハンナの声に応じるように、イレギュラーズ達は、そして巨人と茨もまた、その歩を進め始めた。
●炎と茨と
「予定通り、私が巨人を引き付けるわ!」
ゼファーが叫ぶ。
「ええ、お願いします!」
アリシスがその手を振るった。手に握られるは戦乙女の槍。仄かに発光するその輝きは、残骸から再生されたことの喜びか、或いは再び戦いに身を投じることになった事への嘆きか。いずれにせよ、槍身に刻まれた力ある言葉は、その込められし魔力を存分に発揮する。
「エンシス・フェブルアリウス――之は浄罪の剣なりと」
振るわれる、光の刃! 放たれたそれが、巨人の身体を貫く。おお、と巨人が吠えた。だが、身体の周りの炎が、すぐさまその穴を埋め尽くす。
とはいえ、その分、巨人の抵抗にも隙が現れる。
「今です!」
「りょうっ、かい!」
ゼファーが槍を振るい、巨人にたたきつけた! ぼう、と焔が軌跡を描き、鮮血のように飛び散る。「さぁ、こっちよ!」ゼファーが叫び、飛びずさる――のを、妨害するように、茨が鞭か、或いは毒蛇のごとく飛び跳ねた! その牙は、ゼファーの足に絡めとる。
「足止めを――っ!」
するわよね、当然! 胸中で叫び、ゼファーは反射的に、槍を頭上へと掲げた。振り下ろされた巨人の手が、ゼファーを叩く! 剛! 炎と膂力、二つの力が、ゼファーを打ち叩いた!!
「ゼファーさん!」
シャルレィスが叫ぶ。ゼファーはしかし、やけどを負いつつもにっ、と笑った。
「問題なしよ、予定通りにお願い!」
シャルレィスは頷くと、茨へと躍りかかった。蒼い刀身の刃が、荒れ狂う茨たちを一撃のもとに切り伏せる。大した抵抗もなく、ゼファーの足にしがみついていた茨が斬り落とされ、休息に枯れて散った。が、それを補充するかのように、壁の中から再び茨が現れる。それに喉があったなら、雄たけびを上げていただろか? 威嚇するように鎌首をもたげる茨のつる、だが、ユーフォニーの放った殺傷の霧が、茨を次々と枯らし散らしていった。
「ドラネコさん! 上からお願いします!」
ファミリアーを上空へと飛ばすユーフォニー。ドラネコさん(ファミリアー)の空からの視点を見れば、やはり茨の壁から無数の茨が、まるで染み出すように生まれ出のが見える。
「援軍の様なものは見受けられません……けど! やっぱり、茨はきりがないです……!」
「ええ、そうでしょうとも」
アリシスが頷く。
「あの、山のような茨の壁をすべて相手にしているようなものです。全滅などは、まさに雲をつかむような話」
「けど、ある程度は相手しないと、ゼファーさんが邪魔されちゃう!」
シャルレィスが叫びながら茨を切り裂く。いくつもの茨は、斬られて生え、巨人のサポートを開始している。その攻撃の矛先は、ほとんどがゼファーへと向いていた。それを阻止するように、仲間達は茨への攻撃を続けている。
「とにかく距離をとるまで……頑張ろう!」
「はい!」
「ええ、もちろん」
シャルレィスの言葉に、ユーフォニーとアリシスは頷く。一方、ゼファーに引きつられる巨人に、ハンナとクロバが決死の攻撃を仕掛ける。
「……! 流石に、大樹の嘆きを相手にして下しただけのことはありますね……!」
ハンナが、ガンエッジの弾倉に弾丸をリロードしつつ、呟いた。がちゃん、と弾倉をしまい込み、一気に斬りかかる。トリガを引きながら放たれる三連の斬撃が、巨人の炎の身体を斬り飛ばすが、しかし燃え盛るそれは再び身体を埋め尽くし、まるで聞いていないかのように振る舞う。
「結構。消えてなくなるまで刻んであげましょう。ハンナ・シャロン、参ります!!」
再度の斬撃が、火花を散らすように巨人の身体を切り裂いた。飛び散る炎が、自身の身体をあぶるのを自覚しつつ、ハンナは巨人へと肉薄する。巨人の拳が振り下ろされる――ゼファーが飛び込み、それを槍で受け止めた。高熱の炎が、ゼファーの身体をじりじりと焼くのを、ハンナは目撃した。
「くっ……交代しますか!?」
「いいえ、まだまだ!」
ゼファーが槍を振り、巨人の拳を振り払う。同時、
「うおおおおおっ!」
雄たけびと共に、クロバが突撃!
「虚を突く一刀、結晶をも断つ――滅・虚ロ斬雪!」
振るわれた絶剣が、辺りを包む窒息の黒煙を散らしつつ、巨人の右腕を切り裂いた。ぼぐおん、と破裂音がなり、爆発するように切り落とされた腕がはぜて消える。轟、轟、轟! 巨人が痛みに震える。暴、と巻き起こる炎が再び右腕の形をとるが、先ほどよりもはるかに勢いは落ちていた。
「どうやら、無限に炎が供給できるというわけではなさそうだな」
クロバが再び、刃を構えた。大地を蹴って、巨人の顔面へ。
「断つも振るうも、一刀の禍――滅・断禍一刀!」
顔面に叩き込まれた刃が、巨人の顔面を真っ二つに切り裂いた。鮮血のごとく火の粉が飛び散る。その炎に身を焼かれつつも、クロバは距離をとった。顔面を再生した巨人が、その両腕を振るう。飛び散る炎が、イレギュラーズ達を叩き、周囲の大地を、炎でさらに焼いた。
「くっ……長引けば、本当に大地が死んでしまいます……!」
ハンナが苦し気に叫んだ。
「厄介だな……まるで、攻撃衝動をそのまま形にしたような奴だ!」
クロバが叫ぶ。その通りかもしれない。炎の巨人は傷つきなお止まることは無い。むしろ、力比べを楽しむかのように、イレギュラーズ達にさらに襲い掛かる! その苛烈な攻撃に、最も深く傷ついたのは、勿論ゼファーだ。
「ちぃっ……!」
振るわれる炎腕に、ゼファーの身体が炎にあぶられる。チリチリという痛みと、煙による窒息が、ゼファーの身体を如実に傷めつけていた。
「ゼファーさん、後退を」
寛治が、長傘を構え、ステッキのトリガを引いた。先端から放たれる銃弾が、巨人を貫く。
「しばらく引き受けます。申し訳ありませんが、打たれ強いわけではありませんので――」
「ええ、ごめんなさい。待ち合わせには遅れないわ」
ゼファーが飛びずさる。同時、巨人の注意が寛治へと向いた。寛治は後方へと跳躍しつつ、トリガを引く。がん、がん、と連続して銃砲が鳴り響き、都度巨人の身体に穴が開く。ぼう、と焔が巻き起こり、その穴を銃口に見立てたのか、炎をの弾丸を打ち放つ。それが、寛治の身体をかすめて、後方の大地を抉った。ひゅう、と寛治が口笛を鳴らす。
「良い狙いで。ですが、正面からの撃ち合い、などは私の柄ではありませんので」
寛治が駆けだす。それを追うように、炎の弾丸が大地を走った。飛び散る火の粉が、寛治の身体を焼いた。痛みに、しかし寛治は紳士的な涼しい顔を浮かべながら、あれはたてた大地を疾走する。
「アリアさん、攻撃を! 奴とて消耗しているはずです!」
「まかせて! 仮に同族だとしても手加減はしないよ!」
アリアが頷き、跳躍。至近距離まで一気に飛び込むや、手にしたニョアの細剣(ナイフ)を突き出した。
「君はここで止めるっ!」
ナイフの先端から放たれる、強烈な魔力衝撃波が、巨人にぶつかって強烈なソニックブームを奏でた。まるで金管楽器が低音をかき鳴らしたような音が空気を震わせて、炎と魔力が衝突する。その衝撃に身体を預けるように、アリアは後方へと跳躍、距離をとる。すぐに飛びずさると、巨人の放った火炎が、アリアの居た場所を抉った。アリアは走り、再びの跳躍。巨人の上空から接近すると、ナイフを構え、再度のゼロ距離魔力衝波!
「奏でるは衝裂の楽音! 穿ちて響け! フルルーンブラスター!」
気合の言葉と共に放たれた衝撃波が、再び、ぶおう、と音を立てて巨人を叩く! 音の力でその炎を消し去るかのように、衝撃が炎を吹き飛ばした!
「新田、こっちはもう大丈夫!」
態勢を立て直したゼファーが、再び巨人へと躍りかかる。
「待ち合わせ五分前。ええ、流石は淑女です」
腕時計などを見やりつつ、寛治は笑ってみせた。長傘から銃弾を放ちつつ、傷ついた体をおして後方へと退却。ゼファーが再び盾役を引き継ぐのへ、巨人は早速の拳をお見舞いした。ゼファーは、槍を回転させてそれを受け止める。
「さあて。ペイバックタイムと行きましょうか」
ゼファーの挑発に乗る様に、巨人は炎の弾丸を打ち放つ。ゼファーがそれを受け止め、
「トドメ! お願い!」
叫ぶ! 巨人は、イレギュラーズ達が最後の攻勢に出たのを理解するように、自身もまた最後の力を振り絞った。この時、ゼファーや寛治によって巨人は茨から相当引き離された距離にいる。茨は必死にツタを伸ばすが、此方に届くようなことは無い。
「ならっ! あとは君だけだっ!」
シャルレィスが、茨の蔦を振り払いながら、巨人へと駆けだす。
「蒼き風の狼……その牙は、止められない! たとえ、大地の炎の中とてっ!」
シャルレィスが剣を構え、巨人へと突撃! その身を激しく炎に焼かれながらも、しかし奥へ、奥へ、炎の根源、その中枢を狙うように、奥へ!
シャルレィスの放つ蒼の斬撃が、巨人の動体、炎を切り裂いた! さながら心臓部のようなところにあったのは、巨人の炎、その根源。それは、小さな火種――。
「消去させていただきます」
ハンナが飛び込み、そのガンエッジを突き立てた。火種を真っ二つに切り裂いた刃。火種は、まるで水をかけられたかのように、しゅう、と小さな煙をあげる。途端、巨人の身体を構成していた炎が、強烈な煙を上げ始めた。水をかけられ、上記となってきていくかのように。おう、と巨人は吠えるや、瞬く間にその姿を消滅させたのである。
「茨はどうなっています?」
寛治が声をあげるのへ、
「……引き上げているようですね」
アリシスが答えた。もはや、戦う必要は無いと察したのだろうか、茨はするすると壁へと戻り、沈黙している。
「茨は」
クロバが、足元の茨の残骸を手にしつつ、言った。
「沈静化したのか……どうやら、完全に巨人のサポートに回っていたようだが」
「分からないことが多すぎるわね」
ゼファーが言った。
「うん。そもそも、茨と巨人……同質のものとは、どうしても思えないの」
アリアが言った。
「茨を作ったものと、炎の巨人を使役しているのは別で、手を組んでる……って事?」
シャルレィスが尋ねるのへ、アリアは頷いた。
「うん……でも、まだまだ情報が足りないね」
「ひとまず、今回の件を報告して、他の状況と付き合わせましょう」
ハンナが言った。仲間達は頷く。
……謎はまだ解決はしない。
だが、一歩一歩、事件を解決しながら進むしかあるまい。
イレギュラーズ達が踏み出したのは、その一歩目なのだ。
「どうか、雨が降りますように。新しい緑で満たされますように」
ユーフォニーが静かに祈った。炎で焼かれた大地が再び緑で包まれることを、願わずにはいられなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
まずは、異変解決のための第一歩を。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
突如深緑を覆った茨。その茨と協力するそぶりを見せた、炎の巨人。
謎は尽きませんが、ひとまずこの巨人を排除し、周囲の安全を確保してください。
●成功条件
フレイム・ジャイアントの撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
深緑を突如覆った茨。ラサと、異変を逃れた数少ない深緑の住民たちは、合同で異変の調査チームを立ち上げます。
その中の一人でもあるエリザ・スカーレットは、調査中に『茨と共闘する炎の巨人』を見つけました。
その炎の巨人が、精霊か、大樹の嘆きなのかはわかりません。ただ、元来みられるそれらとは、違った意志の下動いているようなのは事実です。
皆さんは、エリザの依頼を受け、この奇妙な巨人の排除を請け負う事となりました。
謎は残りますが、やることはシンプルです。
炎の巨人を討伐してください。
作戦決行時刻は昼。周囲は炎の巨人が暴れたこともあり、広く焼け野原になっています。
●エネミーデータ
フレイム・ジャイアント ×1
炎に包まれた、人型の何か。恐らく精霊か、大樹の嘆きの様なものだと思われますが……。
他の精霊や嘆きと違い、明確に茨に味方し、その他の陣営へ攻撃を加えているようです。
詳しい戦闘能力は不明ですが、見た目通りに体力は高そうです。また、炎に関する攻撃は、単体のみならず、広範囲に攻撃を行ってくるでしょう。使用してくるBSも、炎に関連したものが多そうです。炎上したり、或いは煙によって窒息してしまうかもしれません。
茨の手 ×無限
基本的に、戦闘は深緑を包む茨の付近で行われます。フレイム・ジャイアントを援護するように、茨の付近では、茨による援護攻撃が予測されます。
茨一本一本は、さほどHPも高くなく、あっさりと倒せるでしょう。が、全滅することはなく、一定数以下まで『茨の手』が減少すると、増援として無限に生成されますので、足を引っ張られない適度に相手をしつつ、フレイム・ジャイアントの討伐を最優先としてください。
なお、茨は射程が長いですが、移動自体はしません。フレイム・ジャイアントを遠くに引っ張るのも、手かもしれません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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