シナリオ詳細
違う君、番う僕
オープニング
●
「……×××」
たいせつなひとの、なまえをいいました。
いつもどおり。おとうさんにたたかれて。はだかで、さむいへやにいれられて。
ふるえていた、ぼくのからだを。とびらをあけた×××は、ぎゅっとだきしめてくれました。
「ごめんね。ごめんなさい。ぼくのせいで」
きれいなふくをきて。あたたかいからだをして。
なみだをこぼす、×××に、ぼくは、せめてほほえんで。
「……いいの。いいんだよ。ぼくたちは、いっしょだから」
さむいけれど。おなかが、へったけれど。
×××がないている。そのすがたが、いやだったから。
ぼくは、せめてわらって、めをとじたのです。
『そんなの、悲しいよ』
けれど。
あとはただ、ずっとずっと、ねむるだけだった、ぼくに。
『何も悪くない君が、悪い人のように死んでしまうことが、悲しいよ。
それが、君にとって、自分勝手な思いに聞こえても――――――それでも』
やさしいこえが、きこえてきて。
『どうか、手を取って。僕の声に、応えて。
間違いでも。過ちでも。君がやり直す切っ掛けを、もう一度だけ与えさせて』
おとうさんとも、×××ともちがう、あたたかい、きれいなこえに。
ぼくは、ちいさく、こたえをかえしたのです。
●
「……或る幻想貴族の子息が、魔種と化した」
某日。殊に冷え込んだ空気が漂う『ローレット』の一角で、死んだ目の情報屋が依頼を切り出した。
時節がグラオ・クローネの直後であったためか、その日の人影は疎らだった。集められた特異運命座標の内、一人……『不墜の蝶』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)が、緩やかに片手を挙げて問う。
『……目的は、その子の討伐?』
ギフトを介した思念の通達に対して、情報屋は是と頷く。が、
「正解だが、それに付帯する。
討伐対象である魔種には双子の兄弟が居り――その片割れは当然純種であるわけだが――両者は傍目には見分けがつかん」
……「まさか」。
そう考えるアイラに、情報屋は再び、一つ頷いた。
「依頼主である魔種の親……幻想貴族は、血筋を何より尊ぶ考えらしくてな。
それ故、彼奴は今回の依頼の達成条件にもう一つ付け加えた。『純種の片割れを無事に生かし』、魔種の片割れを殺害すること、と」
「――――――っ」
ひう、と呼気が止まる音がした。
兄弟の片割れを殺すという事実。『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は、其処に自らの近似した過去を重ねて。
「魔種である片割れは、その能力のほぼ全てを偽装に割り振っている。
ひとたび見つければ殺害は容易であろう反面、少なくとも身体、物理的内面からの特徴で純種の片割れとを差別化する方法は皆無と言っていいだろう」
ならば。
ならば、放っておいても。そう言おうとした者が居ないことだけが、唯一の幸いであっただろうか。
「……原罪の呼び声を持つ以上、魔種となった片割れを放置するという選択肢はない。
何より、それは貴様ら特異運命座標達には許されていないことだ」
情報屋は努めて冷静に息を吐き、言う。
自らが集めた、双子についての資料を手近にいたチックに差し出し――彼女は、言葉を紡いだ。
「貴様『ら』の選択は、たった二つだ。
彼らの運命を他者に預け、見届けるか。或いは自らが背負い、自らの手を下すか」
言葉は、眼前の冒険者たち全員に向けられたもの。
但し、その視線だけは。
「望まば――地獄を見てこい、特異運命座標。
唯一方を選ぶだけの依頼で、その選択に至るまでの懊悩こそが、貴様たちの担う業と知れ」
――「大丈夫。おれが、ちゃんとまもるから」
何時の日か。
大切な弟に、そんな手向けの言葉を贈った一人の飛行種は、青ざめた顔で情報屋の瞳を見ていた。
●
――×××よ。弟に学業で負けて恥ずかしくはないのか。
「父さんはそう言って、何時も僕を鞭で叩きました」
――×××よ。兄の成績の良さに少しでも追いつき給え。
「父さんはそう言って、何日も僕にご飯をくれませんでした」
「僕たちは、どっちが秀でていても、どっちが劣っていてもだめで」
「×××が大好きだったから。でも、自分が痛い思いや、苦しい思いをするのも嫌だったから」
「だから、どっちも同じになろうと決めたんです」
「僕たちは、ずっと一緒。頭の良さも、運動も、考えてることや、普段のクセだって」
「だから、後は同じように、一緒に『ヒト』をやめるだけ」
「だから、」
「だから、」
「だから、」
「だから、」
「だから、」
「……でもね。×××。
僕たちは本当に、こうすることしか、出来なかったのかな」
- 違う君、番う僕完了
- GM名田辺正彦
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年03月08日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「ようこそいらっしゃいました、特異運命座標様」
「僕の、いいえ、僕たちの名前はベリテと言います」
――貴族の邸宅を訪れた特異運命座標達は、そのまま屋敷の主である幻想貴族に己れの子供たちを紹介される。
碧髪と、金の瞳をした利発そうな子供達。それを目の前に置いて……『不屈の』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)は、何処か諦観を交えた視線で彼らを見遣った。
(……初めての依頼としてはなかなかハードじゃねぇの)
或いは、これが特異運命座標となった者の『日常』なのか。そう考える彼の表情に、少なくとも明朗さは存在しない。
――何故と言って、此度彼らが双子の前に集められたのは、そのうち一方の命を奪うため。
ずっとずっと、共にあることを願い、他方の似姿となるために自らの力全てを注ぎ込むほどに。それほどの強い双子の絆を理解し……その上で、『我、深川飯を所望する』暁明(p3p010408)はそれを否定する。
(……どんな理由があってモ、反転ってのは今持つものの否定。
大切なもの、愛しいモノがあるのなら尚更、その手を取るべきじゃ無かったのデースよ)
それを。この小躯なドラゴニアが仮に口にしたとして、間に合いようもなかったそれらに対して子供たちは何を想うだろうか。
「こんにちは。お父さんから話は聞いてるかな?
僕たちは今回、君たちのコミュニケーションの訓練相手として依頼を請けたんだ」
「伺っております。よろしければあなた様のお名前をお教え頂けますか?」
「ああ……マルク・シリングだよ」
問いに言葉を返すマルク・シリング(p3p001309)は、子供たちの言葉に対しても柔和な笑みを返す。
事前に雇い主である貴族との間で取り決めておいた『設定』は、少なくとも表面上こそ子供たちに疑心を抱かれてはいないようだった。
……それがこの先も通用しうるかは、危ういものではあろうが。
「――――――」
物腰柔らかく応対するのがマルクであるならば、その状況を遠巻きに見守るのが『星雛鳥』星穹(p3p008330)だった。
(救おうとするから。手を掴もうとするから、傷付くだけなのに)
元より、殺すしかない片割れ。
残された者を、或いは手向けを送る当人の心すらも、叶わくば一抹の救いを願う者たちの中で、星穹の思考はひどくドライだが、同時に。
――……お願いだから、これ以上俺を不安にさせないでくれないか、星穹殿。
くっ、と言う音と共に、小さく唇を噛む。況や救い上げられた側であった星穹だからこそ、その考えはいっとう双子たちに『寄り添った』ものだとも言えよう。
「……アタシの名前は咲良、皿倉咲良だよ。ベリテ君……ベリテさん? 今日はよろしくね」
「僕たちに敬語などは要りませんよ、皿倉様」
「それじゃあ、ベリテ君、で!」
ぱっと、それこそ花が咲いたような笑顔で双子に相対したのは『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)だった。
自らの役目を理解し、最後には彼らを離れ離れにしなければならないと解っていながらも、「せめてそれまでは」と努めて明るい表情を浮かべ続ける彼女は、ともすれば人によっては痛々しく映るだろうか。
「ボクはアイラと言います。魔法を使うのが得意で、好きな食べ物は苺です!
ベリテさんたちも、折角出会えた縁ですからね。色々教えてくれると嬉しいです!」
同様に、『不墜の蝶』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)も。
双子のそれぞれと目を合わせ、握手をして、自分のことをハッキリとした口調で伝える彼女に、子供達も好感触を抱いたようである。
――「騙している」。
或いは、そうともとれる自らの接し方に対し、当のアイラ自身が覚える痛みは小さくない。
(……ボクはずっと、弱いままだ)
多くの依頼を、人との交流を越えて、自らは成長できたと思っていた。
強くなれた。きっと変われた。言い聞かるようなそれらの言葉は――ほら、こうして現実を目の当たりにすれば、容易く剥がれる鍍金にも似ている。
「………………」
自分も、その輪に加わろうと歩を踏み出す刹那。
『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は、応接室の扉の前に居た家主の幻想貴族を視界に捉えた。魔種となった自らの息子を、気味悪げに見つめる表情を。
……先ほどマルクが言ったように、『コミュニケーションの訓練相手』としての名目で接触することをこの貴族に伝えた際、チックは同時に幻想貴族に問い掛けた。子供達は同年代の子供達と遊ぶ機会が、お話を楽しむ機会があったのか、と。
その答えが、彼にとって望まないものであると察していながら。
(……君達が、おれ達の本当の役目を知った時)
名目上の役目であると解っていながらも。
この短い時間を、双子が『双子』でいられる最後の時間を、せめて心に残るものに出来るよう。そう考えるチックは、同時にこうも思うのだ。
(君達は、おれを『嘘つき』と呼ぶのだろうか。
それとも、『ヒト殺し』と謗るのだろうか)
――――――若しくは、そう願わじと。
●
双子との交流は、先ず簡単な質問を絡めた会話から始まる。
「これからいくつか質問をするね。回答は紙に記述してもらっていいかな?」
「ええ。何だか少しだけ緊張しますね」
問うたマルクに対しても、言葉とは裏腹に何処か余裕すら感じさせる笑顔を浮かべる子供達。
初対面の冒険者たちに対しても淀みなく対話を行う二人に僅か、驚嘆するマルクが一通りの質問を終え、他の仲間に役目を譲ったあたりで……その横に、『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が並んで立つ。
「……発見は在ったか?」
「あの子たちの仕草や動作は全く同じ。其処までは事前情報にあった通りだけど。
問題は、それ以上……その思考の差異に於いても、多分、彼等に違いは見られない」
目線だけを送るエクスマリアだが、その実彼女の髪の毛の先がぴんと張り詰めた。
「僕に『そう言うスキル』は無いから、あくまで推測の類だけど。
恐らくあの子たちは、リーディングや感情探知のように、精神を探知するようなスキルの範囲までなら、それらをごまかす程度に模倣が可能だと思う」
「……用意していたプランでは厳しいと?」
「そうでも、無いと思う」
エクスマリアの問いかけに答えたのは、二人の間に近づいたチックであった。
「咲良さんとか、暁明さんとか、おれも含めて。みんなで色々な質問を、してみたんだけど。
あの子たちは、僕たちの行動に大きな衝撃を受けたとき、その『心の模倣』が少しだけ、綻ぶんだ」
――それは、双子との質問の折、常に感情探知を機能させ続けていたチックだからこそ分かった小さな隙。
「今までで1番嬉しかったことハ?」
「どんな大人になりタイ?」
「お互いの為に、これから自分は何ができると思ウ?」
暁明が二、三の質問の中に織り交ぜた……「魔種と純種の決定的な違いを突き付ける」ような質問に対して、返答こそ同じものであったが、二人の感情は確かに小さなズレが存在していた。
尤も、彼が言う綻びが見えた際の思考の違いとて、両者が魔種か純種かを分けるには乏しい。
「……ならば。マリアたちのすべきは、両者の違いを明確に読み取れる段階になるまで、その心を剥き出しにするよう叩き続けることか」
……殊更に容赦ない言葉を使うのは、当のマリア自身、己の行いが非道に近いものだと理解している為だろう。
うつむき加減のチックを、ただ目を閉じるだけのマルクを無視して、エクスマリアは自分が質問する番を迎えた時、一切の前置きも無く、淡々と問うた。
「もし、二人の内片方しか助からない状況になったとしたら、自分と片割れ、どちらが助かる事を選ぶ?」
双子は、何を躊躇うことも無く答えた。
「どちらとも生きたいです」
「それが叶わないなら、どちらとも死にます」
「それじゃあ、一緒に遊びましょう!」
――双子への質問が終わった後、アイラは仲間たちと双子を屋敷の中庭に連れ出し、元気いっぱいな様子でそう言った。
対する双子は、その言葉に興味を持ちつつも、困惑を隠せずにいる。
「申し訳、ありません」
「僕たちは、遊ぶという経験が、あまり無くて」
「なあに、誰だって慣れないことや初めてのことはあるもんさ」
快活に笑ったジェラルドが、一瞬だけその視線を屋敷の側――正確には、その中に居るのであろう双子の父親――へと向けて、直ぐに何事もなかったかのように彼らの手を優しく引いた。
「ルールは知ってるだろ? 先ずは俺たちが鬼の役だ。
試しに『絶対見つからない』って言う場所に隠れてみな。決めた時間までに俺たちが見つければ、お前たちの負けだ」
互いに顔を見合わせて。その後、よしっと決意を込めた表情で早速特異運命座標らの元を去っていく双子たち。
「それじゃあ、アタシも頑張って見つけようかな! ……あ、星穹さん」
「……そもそも私は参加しませんよ。アドバイスもしません」
ぐっとこぶしを握る咲良の言葉に対して、星穹は歎息交じりにそう返答する。
双子が何らかの企みを抱いていた場合を懸念して、出会ったその時より常にファミリアを介して彼らを監視していた星穹からすれば、子供たちの隠れる様子は稚拙そのものだ。無論子供の遊びである以上、その程度であっても当然なわけだが。
……寧ろこの状況、子供たちの監視の目が隠匿されかねない状況や、ハイテレパスの都合上すべての仲間を視界に収めづらいかくれんぼと言う遊びからして、星穹からすれば「それどころではない」と言う思いが先に立つ。
「そっか、分かった。 ベリテ君、そろそろ探し始めるよー!」
腕を回しつつ何処かへと向かっていく咲良は、そうした星穹の懸念を知ってか知らずか。
ともあれ、全力で遊びに付き合うという彼女や、アイラ、ジェラルドたちのスタンスを諫める者も、今この場に於いては存在しないだろう。
――――――二人にとっての初めての『遊び』。それを以て、彼等を永遠に離れ離れにする。その作戦を知っているのならば。
●
アイラの誘いから始まったかくれんぼは、予想以上に子供たちのお気に召した様子である。
生まれてから現在までを過ごした屋敷の中で、特に見つかりづらそうな位置に隠れる子供達。非戦スキルなども意図して使わず、それを探す仲間たちの必死な様子を隠れ場所から伺う二人はそれを楽しそうに見ている。
その末に見つかったら今度が二人が鬼になる。これもまた知り尽くした屋敷の中であるならば、子供たちは隠れた特異運命座標らを次々に見つける。
その笑顔が、その楽しそうな態度が、心からのものであることは疑いようも無くて。
「……そろそろワタシたちもこのお屋敷に慣れてきマシタからね。
次は二人一緒じゃなく、別々に隠れてみマセンか?」
――「二人とも見つからなかったらワタシたちの負けで構いマセンよ」と。そう自信満々に言う暁明の誘いに、双子は少しだけ驚き……互いの顔を見合わせる。
「……どうしよう?」
「どうしようか」
「それじゃあ、一度だけ」
「うん、この人たちなら、きっと大丈夫だよ」
……最後の言葉に対して、表情を強張らせる迂闊を見せるような者は、冒険者たちの中には居なかった。
両者が分かれて隠れた後、特異運命座標らはそれまで行使しなかった非戦スキルや装備品等をフルに活用して、彼等の姿を探し始める。
時間は、そう長くかからなかった。星穹とのハイテレパスを経由して、双子が十分に離れた場所で隠れていることを確認した後、二班に分かれた彼らはそれぞれの元へとたどり着き、言葉を掛けた。
「……わ、皆さん凄いですね。今までで一番早く見つかりました」
「ああ。もうこれ以上は『隠す』必要もないと判断してな」
ジェラルドの言葉に対して、少年はその表情をぴたりと止めて「ああ」と呟く。
「……それは、皆さんが『僕たち』の何れかを殺す役目についてですか?」
「分かって、たんだね」
「魔種と、純種。そして貴方達特異運命座標についても。一通り教わりましたから」
咲良の言葉に苦笑じみた笑みを浮かべる少年へ、ジェラルドは沈着冷静に、暁明はそれまでの子供らしさを失くした態度で彼へ語り掛ける。
「魔種である以上……特異運命座標はアンタらの一方を放っては置けねぇんだろうよ。
俺個人の意志は兎も角、それにとやかく言うようなことはしねえさ。センパイ方は皆通ってきた道なんだろうしな」
「魔種はいつか殺される。呼び声に答えれば、今は純種であるもう一方も。
貴方達二人が一緒にいられる時間はもうそう長くない。それは察しているでショウ?」
「……だからこそ、僕たちはそれを隠していました。
隠せるようにしていました。けれど――――――」
「狡いなあ」と。
少年はそう言った。先ほどの苦笑いとは違う、涙を堪えた必死の笑顔。
「……君が何方であっても、もう兄弟と会わせるわけにもいかない。
君たちを永遠に離れ離れにする。君がそれを理由にアタシたちを憎むというなら、アタシはそれを受け入れるよ」
「仮に、僕が魔種であっても?」
「そうであっても、なくても。君たちが互いを想う心はきっと正しいし、アタシたちが特異運命座標と言う役目でなければ、君たちを引き裂く理由なんてあっていいはずじゃないんだ」
「……優しいんですね。皆さんは」
何かを堪える様な咲良の言葉に、少年は力なく、眦を落として呟いた。
「……貴方は」
そんな彼を見て、一度だけ。
それまで少年たちに対して言葉を発さなかった星穹は、その読心の異能を発露したそのままに、己の想いを彼へとぶつける。
「貴方はこの状況を、悔やんでいますか?」
馬鹿だと。愚かで、可哀想だと、そう思いながらも。
生まれた時ですら『二人』だったこの少年たちが、死ぬときは『一人』になれることなんてあるはずないと思いながらも。予め仲間たちと決めておいた形式的な問いの中に、星穹は確かに自らの感情を秘めていることを自覚して。
……それに、少年は、諦めたような口ぶりで答えた。
「悔しいです。けれど、それはきっと、僕が自分に対して抱く感情だ」
場所が変わり、星穹と同じ問いを向けたエクスマリアに対して、他方の少年はそのように答えた。
「あんなに楽しい『弟』は初めて見た。
既に変わってしまった僕では、きっともう、あの表情を浮かべさせてあげられることはもう出来ないと、理解できてしまったから」
「……それじゃあ、君が」
自らを繕う仮面を捨てた少年に対して、マルクが静かに問い、彼もまた静かに頷いた。
――両者の違いを見分ける大前提は確かにその読心の異能、或いはそれに準じる行動だったのかもしれない。
ただ、それが見出せるほどの心の隙を作り出す方法は……何のことは無い、ただ、『残された側』を心から笑わせればよかった。日向のような希望を見せてあげるだけで良かったのだ。
ただそれだけで……「そうすることが出来ない」ことを、魔種である彼は理解し、今こうして共に在ることを諦めたのだから。
「血の繋がらぬ兄弟姉妹なら、指の数で足りぬほどに居る。
が……双子というのは、どういった感覚なのだろう、な」
あまつさえ、その在り方を魔種へと反転させてでも、共に在りたいと言うほどの想いの強さ。
それに対する疑問を零したエクスマリアに、少年は頭を振って応える。
「それは、僕たちが互いしか居なかったからです。双子だからと言う理由じゃない」
「……それでも、ふたりはひとつにはなれないんだ」
「そうですね。僕たちは、それに気づくのが遅すぎた」
代わって言葉を返したアイラは、悲しげな表情のまま、静かに己の剣の柄に手を当て……けれど、鞘から抜くことはしない。
「ボクにキミを殺す覚悟はない。キミを悪いとは思わないから」
「それが、あなた達の役割から外れた行為だとしても?」
「ボクが生きるのはボクの役割のためじゃない。ボクが望む在り方のためだよ」
ふと、笑う少年。
どこから取り出したのか、小振りな果物ナイフを取り出した彼はそれを己の首に当てて。
「……っ、駄目、だ!」
――それより先に、チックが少年の首を絞めた。
少年も、仲間たちも瞠目する中、チックはぼろぼろと涙を零しながら、言う。
「君を殺すのは、おれだ。
君の弟がおれを憎むように、憎しみのためでも、生き続けるように、おれが――!」
とりとめのない言葉。それを、きっと薄れゆく意識で聞いているのだろう少年は、最後に一言だけ。
「――――――」
口の形だけでそれを伝えて、ゆっくりと、その目を閉じる。
「……君に、聞きそびれて良かったと思うよ」
最早物言わぬ少年。その傍に寄って膝を着いたマルクが、もう届く筈も無い言葉を掛ける。
「魔種だから、と命を選別して殺すことは……正しい事だと思うかい、なんて」
きっと、彼はその答えを躊躇わず口にしたことだろう。そうマルクは胸中で思う。
最後の最後、自らを殺そうとした彼は、確かに自身の命を選別した。
けれど、その理由は弟の為でも、自分の為でもなく。
――彼等特異運命座標と言うカタチを取って、その存在を許すまいとしたこの世界から逃げられないと悟った、それ故だのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加、有難うございました。
GMコメント
GMの田辺です。この度はリクエストいただき、有難うございます。
以下、シナリオ詳細。
●成功条件
・『双子』の内、魔種である片方を殺害すること
・『双子』の内、純種である片方が「無事に」生存すること
●場所
『双子』、並びにその親が住む貴族の邸宅です。時間帯は夜。
シナリオ開始時は広い応接間に『双子』と参加者の皆さんが同席している状況です。
屋敷内は広く、参加者の皆さんが希望するなら好きな部屋に移動することや、望むものを用意することも可能です。
●登場人物
『双子』
討伐対象である魔種の可能性を持つ男性の双子です。年齢は共に10歳。
伸ばした碧髪と金の瞳が特徴。常に柔和な笑みを浮かべ、感情の振れ幅に乏しい応対を行います。
成人までの学業と習い事を一通り履修し終えているため、頭の回転も速く、参加者の皆さんとの会話も問題なく行えます。
お互いのことが好き。そうでない人も少し好き。反対に「ヒト」を区別する人は嫌いで、比較する人はもっと嫌い。
奪い取ることなく、勝ち取ることなく、分け合ったもの、与えられたものと共に、何もしない時間を過ごすことが幸せで、それはつまり不条理に奪われることと、義務や責任に縛られた時間を過ごすことが苦痛と言う意味でもあります。
また、『双子』のうち純種である片方は、その心の奥底に「今この状況に対する悔恨」をほんの少しだけ秘めております。
●敵
『魔種』
本依頼の討伐対象です。上記『双子』の内どちらか一人。
双子の他方の実力の高さを比較して、自身を叱責する親の罰によって命を落とす寸前、『原罪の呼び声』に惹かれ、怠惰の魔種として反転した経緯を持ちます。
その能力は『双子』の片割れと全く同じ性質となること。其処にリソースのほぼ全てを割かれたため、こと戦闘面では一般人レベルの力しか有しておりません。
注意すべきは、この能力はあくまで片割れの「模倣」であり、そこに自身の考えが付随することはありません。
特に魔種は純種に対して利己的な視点で思考するため、対応や質問の仕方によっては純種である片割れとの区別がつくこともあるでしょう。
そして同時に、この魔種は自らが反転することを選んでしまえるほどに、純種である片割れを想っていることも覚えておいてください。
或いは其処に、「魔種か否か」と言う判断を狂わせるほどの愛情を見せる可能性もあります。
●その他
『幻想貴族』
上記『双子』の父親である幻想貴族です。年齢40台始め。
優れた血筋には優れた素質があり、また優れた素質を磨き上げた者には優れた血が宿るという、完全なる血統主義者。
それ故自らの子供たちを、何かと理由につけ虐待じみた教育方針に就かせました。
結果として、それが元で双子の内片方は反転。
「血筋に負けた弱者」である魔種を殺害することを参加者の皆さんに依頼し、また残った純種の片割れについては「弱者に染まらぬようより強固な教育を施す」予定です。
基本的にはシナリオに登場しませんが、参加者の皆さんが希望された場合登場することも可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
討伐対象である魔種、またそれを含む双子自身に関する情報は上述した点しか報告されておりません。
それでは、リクエストして頂きました方々も、そうでない方々も、ご参加をお待ちしております。
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