シナリオ詳細
<咎の鉄条>荊棘に落つるは涙雨
オープニング
●荊棘(おどろ)
その異変は突然だった。
昼間では何とも無く、村人たちは日々の営みを続けていた。親の手伝いを終えたのであろう子供たちが駆け回っては村の中に楽しげな声を伝播させ、それを見た大人たちは元気ねぇなんて笑い合う。国境近くの小さな村だ。住まう全員が家族みたいなものであった。日々の恵みに感謝し、分けあい、慈しみあい、そうして日々を重ねていく。今日も明日もその先だって、ずっと、そう。
そうなる、はずだった。
「あれ?」
「どうしたの?」
最初にそれを目にしたのは子供たちだった。
「茂みで何か動いたみたいだけれど、気の所為だったかも」
「ウサギでもいたのかな」
「木の実が落ちていたのかもしれないね」
子供たちは笑いあい、適当に手にした小枝を振り振り遊びに戻っていく。
賑やかに響く声。
人々が織りなす営みの音。
それらは突如、ぱたりと消えることとなる。
村は茨に覆われて、生命は静かに眠りについたのだ。
監視するように光る幾つもの赤いまなざしに、だぁれも気付かずに。
――ファルカウ全土が『荊に覆われ入ることが出来ない』状態に成った。
その情報は、国境線側の警備に出ていて難を逃れたルドラ・ヘスによってラサを介してローレットへと持ち込まれた。
まだ入ったばかりの情報だが、それは人々の口から口へと伝わっていく。
●心茨
――がらん。
何かが崩れる音がした――気がした。けれどそれは『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の裡だけで響いた音で、現実には陳列棚にパンを並べ終えた空っぽのトレーだけがからん床に転がっただけだった。
『……聞いたか、深緑の話』
『ああ、茨で覆われて入れなくなったんだってな』
『それってまるで――』
耳に飛び込んできた言葉に頭の中が真っ白になったフランを、お世話になっているパン屋の奥さんが背中を押してくれた。
『うちのことは気にしないでいいから、いっておいで』
そう言ってくれたのに、ちゃんとお礼を言えたかわからない。大慌てで荷物を持って、気付けばまろぶように石畳を蹴っていた。
(おとーさんっ、おかーさんっ)
前へ進まなくちゃ。少しでも早く、前へ。
転んでいる暇なんてない。俯いている暇なんてない。早く早く、行かなくちゃ。
嫌な予感がしていた。R.O.Oの時から、ずっと。
けど、そんなことないよね。だってR.O.Oは救ったんだもの。
――それは願望だ。そうあってほしいっていう、都合の良い希み。
不安に揺れ続ける胸を押さえ、フランは駆ける。駆けて、駆けて、ローレットへと飛び込んだ。仲間を募らねばならない。一緒に深緑へ――ノームの里へ向かってくれる仲間を。
「――フラン!」
「っ、ウィリアム先輩っ」
知った顔が見つけてくれて、フランがずっと溜め込んでいた熱い雫が零れ落ちる。
彼も同じ思いでローレットへと来たのだろう。大丈夫だとフランの両肩を温めてくれる『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)の指先が僅かに震えている。それでも彼が一見穏やかに接することが出来るのは、年の功なのだろう。彼もまたノームの里に妹が居る身なのだから、その心中は穏やかではないはずなのだ。
「君が一人で駆けていっていなくて良かったよ」
情報はローレットに持ち込まれている。単身で向かわず、情報と仲間を求めるだけの理性――或いはこれまでの経験に基づく習性とも言うべきもの――があって、本当に良かった。
大丈夫だ、と何度もウィリアムはフランへ告げる。けれどそれは、自分に言い聞かせるようでもあった。
ふたりはローレットで情報を聞き、仲間を募ると、すぐさま深緑へと発った。
頭の中に、愛しい面影を思い浮かべて――。
――おとーさん、おかーさん! あたし、すぐに行くから!
――ライラ、どうか無事でいて。
- <咎の鉄条>荊棘に落つるは涙雨完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●焦燥、胸を焦がして
どうしよう、入れない。どうしよう、どうしよう。
仲間を集って深緑との国境へと辿り着いた『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は、また目の前が真っ暗になりそうになった。噂は本当だった。深緑へと入れない。
どうしたって気持ちが逸ってしまう。何度大丈夫って言い聞かせたって、こころが口から飛び出てしまいそうになってしまうのを留めるだけで精一杯だ。
だってフランはもうすぐ二十歳の誕生日で、両親と初めてのお酒を呑もうって決めて手紙を書いたばかりだった。『待ってる』って返事が来て、それを楽しみにしていたのに――どうしてこうなってしまったのだろう。
……わからない。
わからないから、行くのだ。
茨が行く手を阻んだって、抜けれる場所を探して、仲間とともに!
「フラン殿」
憂いを帯びた表情の『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)と目が合った。けれど彼女はすぐにニッコリと花咲くような笑みを見せてくれる。心細気な彼女がこれ以上不安にならないように。
「抜けられそうな場所、あったのです……!」
二羽のファミリアーで茨のない道を見つけた『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)の声に、全員の視線がかれへと向かう。
こちらですと茨を指し示すニルの前には、ギリギリ人ひとりが通れそうなくらいの隙間があった。
(ここからなら……!)
イレギュラーズたちは顔を見合わせると、こくりと頷き合う。気持ちはみな一緒なのだろう。この先に何があるか解らぬとも、前に進む意思に変わりはない。
「ウィリアムセンパイ、逸る気持ちは抑えてくれよ」
気が急くせいか、歩む内に段々と進行が早くなっている。『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)の声にハッと気付かされた『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は髪を揺らして振り返る。知らず早足になってしまった彼が先行する形で、仲間たちを引っ張っているような形になってしまっていた。それぞれの歩幅は違う。フランは百合子のセーラー服をギュッと握って着いてきてはいるが、息が上がっているようだ。普段のウィリアムなら気付けることに、気付く余裕がなかった。ウィリアムの視野は彼が思うよりもずっと狭くなっていたのだ。
気を張り詰めているフランは弱音を吐かない――吐かないように、している。体力のあるうちはそれでいいかもしれない。けれど、どうなっているのかも解らない場所に赴かんとしているのだ。気持ちはどうしたって逸ってしまうが、体力は出来るだけ温存したほうがいい。
「……ありがとう、オルレアン」
ウィリアムもフランも、ひとりではない。
(そうだ、僕には)
支えてくれている仲間たちがいてくれる。家族の安否は心配だけれど、一歩一歩確実に、慎重に前へ進もう。
真っ直ぐ前を向いたウィリアムの後方で、『バミ張りのプロ』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)は胸の前でぎゅうと手を握りしめる。その手の内には『赤紙』――つまるところ、愛しい妻からの呼出状――があった。
(ああ、ジャネット……)
何が起きているのかわからない深緑へ向かうのも恐ろしいことだが、赤紙を無視して妻に血祭りにあげられるのも恐ろしい。恐ろしさに身はブルブルと震えるけれど、それでもクロサイトは前へ進まねばならない。
彼女は強い。けれどだからこそ無理をしないか心配なのだ。
(愛しいジャネット! どうか無事でいてください)
イレギュラーズたちは深緑の森林の中を進んでいく――。
●不安、されど諦めずに
森林を幾らか進むと視界が開け、村が見えてきた。しかし、駆け込むように向かったイレギュラーズたちは、村の入口で足を止めることとなった。
村が静か過ぎるのだ。生活音のひとつもしない。
けれど疑問は、浮かぶ前に瓦解する。村の入口からも人々が倒れているのが見て取れたからだ。
「何が起きたのでしょう……?」
「大丈夫ですか?」
「気分が悪いのか……?」
倒れている村の人々へと慌てて駆け寄る仲間たちを見送って、『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)は村の中にも伸びている茨へと視線をやった。この謎の茨は、深緑を囲む以外にも、森林内の至るところや村の中にも蔓延っている。どこから伸びてきて、何が目的なのだろうか――。
「この茨からは何やら不吉なものを感じますわね」
一面を覆う茨と昏睡の呪い。その茨は何の為にあるのか。確か物語では――。
近付きすぎないように気をつけながら一瞥した玉兎の胸には、いつかに耳にした異郷の御伽噺が湧き上がりかけ――消える。今は想いにふけるよりも目の前の人々や茨を調べることが先だ。
「息は、あるみたいです」
「うん。こっちの人も大丈夫そうだよ」
「何故か解らないが寝ているようだね」
点々と転がっている村人たちの前に屈んで顔の前に手を翳せば、吐息をしっかりと感じられた。その身に触れれば温かく、『観光客』アト・サイン(p3p001394)が寝ているだけだと判じれば、仲間たちからも「こちらもそうみたい」と同意が返ってくる。
「飛んで見てみたが、人が倒れているだけで何も無さそうだな」
木々があるから高くは飛べないため軽く見て回った程度だが、倒れている人々と蔓延る茨以外に異変は感じられない。
されど目下行うべきは、倒れている人への対処と、村の先にも行けるかどうかを調べる事だろう。茨の事も気になるが、優先すべきは前者のふたつ。イレギュラーズたちは手分けをして、村の中を探索した。
「この村より先にはいけないみたい……」
村の周囲は何処に行っても茨があり、怖いけれど少し触れてみたが、茨は拒絶するかのようにフランを傷つけるばかりだった。触れた指先がじんわりと痺れるような倦怠感から毒があることも解ったと、肩を落としながらも皆へとフランは告げた。そしてこの毒を魔法では払う事が出来なかったことと、茨へいくら呼びかけても感情が聞こえないことも。
「俺も話しかけてみたが……」
植物自身ではなく精霊的なものがあるのならばと声を掛けてみたオルレアンも頭(かぶり)を振る。もしかしたら、植物ではないのかもしれない。
じっくりと観察しなくてはわからないが、茨はゆっくりと動いている。何処かへ行く目的があるのだろうか。それとも、深緑全体を埋め尽くすために伸び続けているのだろうか。
「……今、何か動きませんでした?」
不安そうに胸元にしまった赤紙を服の上から撫でていたクロサイトが、ふと唇を開いた。眼鏡の奥の視線は、家々の影へと向けられている。
「茨?」
「いいえ、もっと何か……生き物的なものだと思います」
「獣の類だろうか……」
「……そう言えば、鳥や小動物の気配も感じませんわね」
「茨に怯えている、のでしょうか」
仲間たちの言葉に玉兎が木々を仰ぎ、ニルも追うように視線を向けた。
深緑の森林にある村は、本来ならば森の生き物たちの気配を常に感じているはずだ。愛らしい小鳥が囀り、木々の上にはリス、ときおり顔を覗かせて耳をピンと立てるウサギ……それらが当たり前のようにいるはずなのに、何一つ感じられないのは不自然だ。
「怯えて息を潜めておるのかもしれぬな」
「……早く、なんとかしなきゃ、なのです」
人も動物も、元の暮らしが送れるように。森奥を警戒するように見つめる百合子の傍らで、きゅうと手を握ったニルは眉を寄せるのだった。
●奇襲、されど立ち向かう
この村のことも、現状も、何ひとつわからない。
茨以外の脅威が潜んでいるかどうかすら解らない状況だが、それでも少しでも希望の芽を見つけるため、イレギュラーズたちは気をつけ合おうと声を掛け合い村の中で調査を進めていく。
纏まって調査をしている分には脅威らしい脅威は見当たらず、イレギュラーズたちは各々の出来ることを行っていった。脅威らしい脅威がないと思えてくると、気は緩むもの。出来るだけ離れないようにしていたイレギュラーズたちの捜索範囲も次第に広がっていく。
そんな時だった。
「ひい……!」
村の何処かでクロサイトの悲鳴が上がった。
何処からともなく現れた黒い獣の姿に、やはり先程の勘は気の所為ではなかったことをクロサイトは知った。
「大丈夫であるか!?」
「怪我しているね!? 今、治すから!」
クロサイトが咄嗟に反撃した獣が後方へ飛び退き、その空いたスペースに駆けつけた百合子がクロサイトを背に庇うように立つ。頼もしい背中を見上げたフランはそのままクロサイトへと視線を向けて彼の傷を癒やすことに専念した。ダバダバと腕から零れ落ちる血が、なかなか止まらない。
「っ、邪妖精(アンシリーコート)!?」
「あなたが怯えさせているのですね」
ウィリアムとニルも駆けつけ、力を振るうが――。
「消え……!?」
「いいえ、影の中に消えたようにわたくしには見えましたわ」
多勢では分が悪いと踏んだのか、黒い獣はとぷんと墨に落ちるように、影の中に消えてしまった。
その場に集ったイレギュラーズたちは顔を見合わせる。
茨だけでなく、影にも気をつけて行動したほうが良さそうだ、と。
「俺に任せてくれ」
「ニルのファミリアーもいけます」
影の差す場所が少なく、住人を巻き込まないような場所。それから茨も攻撃してみてはいないからどうなるかは解らないが、一応巻き込まない場所。イレギュラーズたちはその条件が当て嵌まる場所を探し、獣をおびき出すことにした。
影が少ない場所となると遮蔽物の少ない広場になるが、そこには遊んでいたと思われる子供やおしゃべりをしていたと思われる村人たちが多かった。人が少ないところを探せば必然的に影が多くなってしまうことが解ると、イレギュラーズは人的被害が少ないことを最優先とした。
そこに、オルレアンが一人で立つ。囮である。
茨に話しかけて調査をしている振りを暫くしていても、獣はやってこない。
獣の縄張りに踏み入れた場合、獣はどうするだろうか。まず踏み入れた者たちを観察する。潜んだまま、踏み入れた者たちの監視を怠らない。つまるところ、他のイレギュラーズたちが『待機しています』の姿勢では引っかかってはくれないのだ。
暗がりに潜む獣をおびき出すには、待機しているイレギュラーズたちが『不自然ではない』行動を取りながらも囮から離れ、囮は隙を見せ続けねばならない。黒い獣は警戒心が強いのか、これには更に暫くの時が必要となった。
(……毒、か)
仲間たちが出来るだけ纏まって調査をする中、アトはひとりで調査を進める。
人を動かしてみようとしてみたところ、非常に苦しんだ。その苦しみようが尋常ではなかったため流石に無理を強いては人道に悖ると対人の調査は早々に切り上げ、おもむろに茨へと手を伸ばした。
触れるだけで傷つけてくる茨を思いっきり握る。仲間から先に聞いていた通り、痺れやズキズキとした持続的なダメージが触れた手から腕を駆け上っていく。思いっきり掴んだからだろう、毒のまわりが早いのかくらりと靄がかった頭が揺れると、手は自然と茨から離れた。
知識を総動員させる。しかし、わからない。思考が明快でない点を差し引いても、それが何なのか解らない。
――彼は期間してから知ることになるだろうが、全ての場所の茨が毒を持っている訳ではない。たまたまこの村に伸びていた茨にそういった能力を帯びていただけであり、アトの知識にある毒とはいずれも違っていた。
そして毒に蝕まれても村人のようには眠りに落ちはしないことを身を以て体験したアトは――。
「まずは一体……!」
百合子が幾度も拳を叩き込んだ黒い獣――ブラックドッグの身がドロリと崩れるように消えていく。
「すまない、クロサイトセンパイ!」
「……っ」
オルレアンが獣に襲われみなが駆けつけた後、集まったのを待っていたかのように、最後尾に居たクロサイトがまたも奇襲を受けた。美味しそうなのだから仕方がない。
正気を失った彼にはどんな言葉も回復魔法も効果がなく、厄介ですわねと玉兎を唸らせた。その上仲間を敵視して攻撃を仕掛けてくるし、その間にクロサイトをそうさせた元凶は逃げ、混乱に乗じて茂み等から飛び掛かりイレギュラーズたちを攻撃した。
光を消そうと然程まばゆくはない光を放った者の足元から影は消えるが、その分周囲の仲間たちの影は伸びる。影に入らずとも素早い獣はイレギュラーズたちを撹乱して攻撃を仕掛けた。
されど一体が倒れれば、再度獣からの攻撃の手が止んだ。不利を察すれば、すぐに後ろに下がって森の中へ、そして影へと消えるのだ。
「あ、アト様」
誰かが向かってくる気配がして視線を向けたニルが、ご無事だったのですねと微笑む――が。
「待って。おかしいよ」
ウィリアムが一歩前へと出ようとしたニルの身体を手で制し、杖を握り直す。すぐに他の仲間たちはクロサイトのようになったのだろうと察し、迎撃する姿勢を見せた。
きっと先程と同様、意識を向けている隙を狙うであろうことも解っている。
最後まで気を抜かず、イレギュラーズたちはひとまずの休息を得られる時まで奮闘し続けたのだった。
――――
――
アトへの気付けを百合子が行い、フランと玉兎が癒やし、そして追加で二体の獣を倒した後も、イレギュラーズたちは警戒を解かずにいた。
「これでおしまい、でしょうか?」
「……わからないね」
何せ目撃情報を聞いて来たわけでもないのだから、敵の数は解らない。
「また来るかもしれない」
「気を抜かず、いつでも対処出来るように動きましょう」
影を移動できることは解ったから、出来るだけ物陰に近寄らないように。
どうしても近寄らねばならない場合は、光で影をできるだけ遠ざけて。
「それにしても先程の獣……邪妖精、でしたかしら? あれ等はわたくしたちしか攻撃をしませんでしたわね」
昏睡している村人の前にしゃがみこんで様子を診ながら、玉兎が口にする。茨も邪妖精もイレギュラーズという侵入者を排除する動きは見せたが、眠り込んでいる村人たちには危害を与えていない。村人たちが傷を負っていないのは村を見て回った際に他の仲間たちも確認済みで、少し触れるだけでも傷つけてくる茨も、邪妖精も、村人たちに直接の危害を与えるつもりはないように思えた。
茨によって閉鎖されたと聞いて訪れた深緑の地。幾日も経過しているはずなのに、今のところ村人たちには衰弱した様子もなく、ただ眠っているだけだ。しかし、今後もその状態が維持される保証はないし、起こす手立てもないのが問題だ。
「ニルは、倒れている人や場所を記しておきますね」
「吾も手伝うのである」
年齢や性別、場所。全てを注視して回ってみたが、規則性はない。『ただ普通に生活していて、突然倒れて眠りについた』としか思えない状況であることしか解らない。けれども、また訪れた時にひとりも欠けていない――状況の変化があった際にそれを知るためにも、記録するのは大切なことだ。
「俺は……そうだな。動かせねぇってなら、何か被せるものを探してくるか」
勝手に家に入らせてもらうぜと言いおいて、オルレアンは外で倒れている村人たちにかける毛布を探しに行き、クロサイトも私もお手伝いしますと他の家々を覗きに行った。
けれど気をつけて、互いが互いの姿を認められる場所を保つことを忘れない。
人々の状態の確認を終え、毛布を掛け終え、出来る範囲での茨への呼びかけも行った。攻撃をしなければ茨が襲いかかってくることもないが、それ以上はわからない……というのが現状だ。
「ごめんね、何も出来なくて……」
「フラン殿、口惜しいが一旦情報を持ち帰るしかあるまい」
「うん、そうだね。あたし、絶対また起こしに戻ってくるから!」
その時は、焼きたてのパンを腕いっぱいに抱えて!
(ライラ――待っていて)
イレギュラーズたちはひとりではない。
何度だって調査をして、きっと少しずつ謎を解き明かしていくことだろう。
だからその時まで、どうか――。
ウィリアムの金髪を、森の奥から吹き抜けてきた風がふわりと浚う。
その風はいつもどおり優しくて。
けれども、嗚呼、怯えて姿を隠しているのだろうか。
精霊の気配を感じないことに、胸の奥がしくりと痛むのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
行ってみなければ解らない、調べてみなければ解らない、接敵してみなければ解らない……な場所への調査でしたね。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
どんなに小さな情報でも、数は力です。少しずつ前進していきましょう。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
深緑が茨で覆われてしまいました。
●目的
茨に覆われた深緑の調査
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●シナリオについて
ラサの砂漠地帯から深緑へと向かった皆さんは、迷宮森林を覆う茨の前まで行きました。
茨は不明点も多く危険そう。ですが、そこで引き返すことなんてできない。辛抱強く周囲の探索を行い、何とか人一人分入れる隙間を見つけて森林内へ入り、国境線近くの村へとたどり着きます。
そこであなたたちが見たものとは――。
●フィールド
村は静まりかえっており、歩いている人の姿は見られません。どこにいっても不気味な茨があります。よくよく観察をすると、茨がうぞうぞと蠢いていることが解ることでしょう。
村の中の探索を進めると、家の中や地面に倒れている人々を見つけます。呼吸の有無を確認すれば、彼等には外傷はなく、眠っているだけなことが解ります。けれど揺すっても、気付けの魔法を使っても、彼等が目を覚ますことはありません。
また、移動させようとした途端、彼等は苦悶の表情を浮かべだします。それでも強引に動かそうとするとそれは増し、あなたはこう思うはずです。これ以上は命が危うそうだ、と。
今回は、ノームの里ではありません。ノームの里はもっと奥ですが、この村より先には進めそうにありません。
●『茨』
有刺鉄線のように張り巡らされ、少し触れるだけで怪我をします。
この村に蔓延る茨には毒があり、触れてしまった場合はこのフィールドにいる間中永続的に毒によるダメージと倦怠感がつきまといます。布等で直接触れずとも侵食します。これは深緑から離れることによって解除されます。
茨はよくよく見るとゆっくりと這うように動いています。茨に対して害をなそうとすると敵だと判断されて攻撃されます。
●『邪妖精』ブラックドッグ ×3体
村の中で行動をしていると森からぐるると唸りながら『死角から』出てきます。村中を監視しているため、纏まって行動しているとは限りません。纏まって行動していない人から順に襲い、仕留めていきます。
機敏に動き回り、影の中に消え、影から影へ移動したりもします。BS耐性がかなり高いです。
主な攻撃方法は噛み付きや引っ掻き。毒や出血、また幻覚と幻聴が現れます。術中に嵌ると味方が敵に見え、掛けられる声も敵のものと判断するようになります。幻覚と幻聴は3ターン経過、または気絶しそうなくらい痛い物理攻撃等で解除されます。
味方半数が術中に陥った場合、ブラックドッグたちは影の中に潜み、相打ちして共倒れするのを待ちます。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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