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シナリオ詳細

<咎の鉄条>荊棘の檻に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ファレン・アル・パレストがラサより深緑へと送った遣いはその往復に掛かる時間を越えても帰還しない。
 練達を襲った竜の一件もある。
 深緑へと向かったとされる竜の足跡を辿るならば、早期にかの閉鎖的な国との連携を取っておくべきだった。
 ディルク・レイス・エッフェンベルグに言わせれば『キナ臭ェ』、ハウザー・ヤークに言わせれば『乗り込め』。
 そして砂漠の幻想種と呼ばれる『レナヴィスカ』の頭領であるイルナス・フィンナに言わせれば――

「同胞達に何かが起こっているでしょう」

 ラサ――共同体で使用する合議の場でイルナスは真っ直ぐにそう言い放った。
 基本的には深慮を志す彼女の言葉だ。ディルクもハウザーも頷くしかあるまい。
 フィオナ・イル・パレストは「様子を見に行くって結論には変わりねぇっすよね?」と首を捻った。
「ええ。ファレン様、それにディルク、ハウザーの両者はローレットへの連絡をお願いします。
 閉鎖的な国家と言えども深緑は我々ラサを良き隣人として認識しています。リュミエ様が遣いを無視する訳もありません」
 ラサからの遣いは先ずはアンテローゼ大聖堂を目指し、聖堂の使者によりリュミエの元へと誘われる。
 アンテローゼは旅人の憩い。そこまでの道は今代の司教が整備している為に迷うわけがない。深緑で遣いの者の身に何らか起こったとも考えにくい。
 だが、竜の一件もある。想定にない何らかが起こった可能性もあるだろう。
「見に行きましょう。では、手分けして行動を開始します。私が先に偵察へ行きますので、フィオナさんはローレットのイレギュラーズを私の元へと連れてきて下さいますか?」
「良いっすけど」
「何かあったならば、様子見のためにも乗り込みましょう。森に何かが起こっている可能性があります」

 ――深き森。砂漠との境目は緑茂る息吹を感じさせた。だが、その姿は常とは異なった。
 幻想種達の生まれ故郷であるとされた大樹ファルカウ。その周囲をぐるりと取り囲んだのは茨。
 それは外部より入る者を拒むように伸び上がり、ずるりと蠢き続けている。
「こ――れは……」
 イルナスは息を呑んだ。
 永きを生きる幻想種達の中でもこの様な迷宮森林は見たことはない。
 まるで鉄条網のように伸び上がった茨が投げ入れた礫一つも逃さぬと言う様に伸びたのだ。
「中に入れ無いっすか……?」
 合流を果たしたフィオナの問いかけにイルナスは「どうでしょう」と呟いた。
「所々、茨の伸びが遅い場所があります。そこからならば国境近くに存在する集落までならば……。
 ですが、ファルカウへは辿り着けませんね。ローレットも『近くまで転移』することは難しかったのでしょう」
 誰ぞが言った。
 まるで『R.O.Oで起きた翡翠の一件のようだ』――と。
 深緑に入ることも出来ず、封鎖された森はR.O.Oよりも深刻だ。
 触れるだけでも傷つけ命をも奪わんとする茨に覆われた迷宮森林。『どうして』と問われて答えられる者はこの場には居ない。
「……一先ずは情報を収集しましょう。中に入るための手立てを探るのです」


「そんじゃ、簡単に説明するんで。
 練達の竜種の情報を聞いて、ラサは直ぐに深緑に状況確認と共同戦線の誘いを送ったんすよ。
 勿論、『外部』に対して余りよく思わない幻想種達にとってまだ共闘しやすいのはラサだろうって判断っす。
 ラサ(こっち)に懐疑的な幻想種は居るでしょーけど、リュミエ様まではそーじゃねぇっしょ。
 だから、様子がおかしい。……それで連れてきた訳ッスね」
 ラサの砂漠より迷宮森林を眺めるフィオナは最初にそう言った。
 イルナスは傷だらけになって倒れていたラサの遣いの一人を救出し、他にも茨の中に取り残されている者が居るかも知れないとフィオナに告げたそうだ。
「ラサから遣いに送ったのは三人っす。商人として良く交流をしていた者と傭兵二人。
 イルナスが救出したのは傭兵っすね。商人ともう一人の傭兵が茨にまだ絡まれてるかもしれないんすよね」
 フィオナ曰く、彼らは内部に居た。彼らならば何らかの情報を有している可能性がある。
 救出された傭兵はアンテローゼ大聖堂から安全な道を辿るようにと指示を受け、緑髪の幻想種と司教を名乗った人間種の魔女に先導されてきたらしい。
 彼らは近隣の集落を確認してからラサとの合流を行うと告げて居たらしい。
「先導者が誰かは何となく予想は付くっすけど、それも数日の後には会えるはず。
 今は、ウチの遣いを救出してやって欲しいんすよ。アレでもラサにとっては仲間なんでね」
 フィオナはお願いするとイレギュラーズの肩をぽんと叩いた。
 蠢く茨はまるで生き物のようである。その異質さを感じ取り、彼女は息を呑んだ。

GMコメント

 夏あかねです。グラオクローネも終わったので、深緑封鎖しちゃいました。

●目的
 ラサの遣い(商人/傭兵)を救出すること。

●ラサの遣い(商人/傭兵)
 ファレンが深緑に送ったお遣いのものです。商人を庇うように赤犬の傭兵が護衛をしていたようです。
 彼らは急な『茨』に出る事を拒まれ、肉体へと不安を感じながらも『緑髪の魔術師のような幻想種』と『人間種の魔女』の先導でなんとか国境沿いまでやってきました。
 茨に拒まれてまだ外に出れていません。戦闘を行う余力は残っていないでしょう。時間を掛けすぎると彼らは死亡する危険があります。

●『茨』
 それは何であるかは分かりません。有刺鉄線のように張り巡らされ、触れるだけで傷が付きます。
 近付く者を拒み、非常に鋭く攻撃を行わんと自由自在に鞭のように動き回ります。
 其れが何であるかは分かりません。ブロック不可。非常に広範囲、個体として認識すれば非常に多く存在します。
 外に面し、動き回り続けるこのシナリオでは一定ダメージを与える事でその動きを幾許か弱めることが出来そうです。

●ケルピー 2体
 森の中から飛び出してきた邪妖精です。妖精郷アルヴィオンに生息している者達と同様の種類のようです。
 それらはどうしたことか暴れ回り、近付く者を狙います。意思疎通は出来ません。
 非常に強力な攻撃を放ちます。蹴撃に加えて魔法攻撃も得意とするようです。

●味方NPC:イルナス・フィンナ
 皆さんとご一緒している砂漠の幻想種。弓兵です。後方から茨への牽制攻撃を行います。
 既に救出済みの傭兵の治療も行っているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>荊棘の檻に完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎

リプレイ


「不味いな」
 そう呟いた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の表情に滲んだ焦燥は何とも言い難いものであった。ジグリの家業は簡単に言えば隣国との貿易だ。故に、この様な事態に陥れば家業は大打撃を受ける。直ぐに砂の長耳乙女達、レナヴィスカとファレンが行動を開始してくれたことは助かったと言えるのだろうが――
「いや、今は頼まれたことを果たすのが先だな。仕事にかかろう」
「りょーかい」
 少しばかり間の抜けた返事をひとつ。『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)は救助対象が女性ならば俄然やる気も出たものだと嘆息する。その辺りの部分は現場にいる麗しの乙女達にアピールすることで自身の中で一度手を打っておこう。
 ウインクを受けたイルナスが首を捻り、その隣で「ファイトっすよ」と慣れた様子で投げキッスの一つでも送ってくれるフィオナには満点を与えたい。
「にしても深緑に良い思い出作りたいのに、何時も気持ち悪い事件起きてんだよなぁ。
 せめて気持ち良く解決しなきゃあ。こっちの面目立たんって寸法な~」
 砂漠と森の狭間。その場所に立った夏子は首を捻った。一歩、彼が近寄ればぞろりと這うように茨が蠢いた。まるで、入る事を許さずと言った様子だ。蛇の如く地を這い、音を立てて大地を削る。其れを一般的な植物と呼べるだろうか。
 荒れ狂う海よりかんばせを出した蛸の如き。そう感じたのは海辺に住まう辺境伯、コン=モスカの娘であるが故か。『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は「何じゃ」と呟いた。
「……一体、何が、起こっておる」
 息を呑むクレマァダに『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は「R.O.Oと類似したことはあったけど」と呟いた。
「……でも、ちょっと違う気がするな。前は幻想種を守ってたけど……他の場所では幻想種も被害にあってるみたいだし。
 それとも眠らされたのとは別……? 眠りと言えばかつてラサであった偽ザントマン事件を思い出すけど……」
「ザントマンか。いろんな事象が絡み合うよなあ。大樹の嘆きがゲームで再現されたんだから現実としても可能性は『ある』って話だったんだろ?
 しかし……茨? 茨といやぁなんつーか、眠り姫だとかそういう話を思い出すんだが……気の所為、だよな?」
 どう思うと振り返る『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)にサクラは「ザントマンは眠りの妖精だから」と唇を震わせた。
 考察は山ほどに。『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)は竜の襲来に備えた防衛反応ではないかと呟いた。それならばR.O.Oの木々が防衛反応を見せ外様であった冒険者(イレギュラーズ)を攻撃していた事と合致する。だが、そうだと決めつけることも出来まい。
「情報が足りねえ。まずは情報を集めないとな。それはそれとして、第一は人命救助は第一だ! 待ってろよ!」
「今回は討伐よりも救出優先だな……この『茨』の原因解明には必要な奴等だ、死なせはせん」
 少しでも手がかりを得ておきたいと『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は仲間達を振り返った。怯え顔の傭兵を一瞥し、残る救助対象が為に手を尽くす。
 そう――そうする事が深緑の未来に繋がっているのだ。『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は酷く苛立っていた。深緑への道が閉ざされたと言うことは妖精郷への道も又、鎖されたのだ。
「……くそ、早く茨を破壊しないと! あーでも今は救助優先か、やることが多いな!」
 焦燥感を抱きながらも、彼――本体が鎌である以上性別は存在していないが、妖精達を彼女と称するならばサイズの事はそう称そう――は茨を睨め付けた。


 事前に救助された傭兵を落ち着かせるように背を撫でたクレマァダは「少し話を聞いても?」と問いかけた。
「勿論です」
 傭兵は先導者であったというアンテローゼの司教に『茨が薄い部分がある』と声を掛けられたらしい。イルナスが言って居たとおり外周では茨が薄い部分が存在し、そうした場所から国境沿いに存在する集落程度には辿り着ける可能性があるとのことだった。
 そうした道を辿り、傭兵は襲い来る茨を斥けながら走ってきたらしい。共に行動していた傭兵は足を挫いた商人を支えている間に茨で分断された――と。だが、『茨の動きが少し鈍い場所があるみたい』という司教達の言葉を信じ、そうした場所を探して外周部まで遣ってきている筈だという。
「イルナス殿が彼を発見したのはこの周辺と言うことで大丈夫か?」
「ええ。丁度、夏子殿が立っていらっしゃるあたりに彼が倒れていました」
 茨が届くか届かないか。定かではない場所にまで命辛々やってきたという傭兵にラダは礼を言って立ち上がる。人の声や血、何らかの匂いを感じ取ることに注力する。
「それにしてもこの茨、どこから伸びてるんだ。植物なら根があるはずだが、森の奥か?」
「一度、倒してみるか」
 そうすることで何か見える物があるかも知れないとサイズは強力な魔力砲を叩き込んだ。美しき森の木々を護るように茨が伸び上がる。森の防衛反応とはよくいったものだ。木々を傷つけることは茨によって塞がれるが、その分茨は自身の防衛を行う動作を見せない。
「一度焼いてもまた伸びるか。何処かに根があるわけでもなさそうだな……そして、奴らは意志を持って『外部の者』を攻撃しているようだ」
 小石を投げ入れたウルフィンはどうした物かと呟いた。礫一つでも茨は勢いよく伸びて、その侵入を許さずと言った様子だ。
「……まるで生き物じゃな。いや、植物とて生きてはいるが……何かの意思を感じるというか?」
「傭兵が出られたならば『出る者は許せるが、入ることは許さず』だな」
 クレマァダはウルフィンに小さく頷いた。レディ達に負担を掛けたくはないと夏子は気怠げな頭をしゃきりとさせて『アンテナ』を高く捜索し続ける。
「助ける 眠い 辛い キツい 迷い 動揺 十秒単位で探査してくっけ どうかな~」
 傭兵は屹度、商人を助けるべく活動している。彼らはラサの傭兵商会連合より送り出された使者だ。決して見捨てることはないだろう。
「出来ればリュミエさんかフランツェルさんに会えれば一番話が早いんだけど!
 そうも言ってられないか……音を探しながら、此処から少し入ってみようか。傭兵さんが最後に一緒に居た所までを目指そう」
 サクラはサイズとウルフィンが開いた茨の先を目指すように踏み入れる。伸び上がる茨がそれでもイレギュラーズの行く手を遮るようだ。
「これを一人で走ってきたってんなら、随分だな」
 茨を切り裂き、木々に気をつけぬようにと軽快する風牙に確かにと言わんばかりに頷いたのはカイト。
「外縁だからこそまだ茨の繁茂も『この部分では』初動の可能性もあるし、残された痕跡からなるべく状況を整理できれば……ってトコか」
 呟く彼は茨を切り開くも、直ぐに軽快するように伸ばされる其れ等は根を張っているというよりも何らかの魔術であると感じ取る。
「ん?」
 夏子はふと首を傾いで「サークラちゃん」と呼びかけた。呼ばれたサクラが頷き、クレマァダと風牙に目配せする。
 人の気配が近い。傭兵が逸れた地点から僅かにずれた場所だがそれは外を目指してじりじりと動いているようだ。徐々に動きが鈍くなるのは茨による妨害と、重苦しく体を包み込んだ倦怠。
「眠たいって言ってんね」
「眠たい? ……ますます、眠り姫かザントマンかの二択になるな。もしくは――」
 カイトはちら、と『本体』を手にしたサイズを見遣った。
「怠惰」
 それはサイズが苛立ちを向ける相手である魔種の少女ブルーベルの『分類』だ。怠惰の魔種であった彼女が付き従う主人も又、怠惰である可能性。
 だが、全ては可能性の内でしか無かった。やれやれと言わんばかりに息を吸った夏子は勢いよく茨を吹き飛ばし道を開く。
「ま コレでケルピッピが寄ってくりゃソレはソレでめっけもんではある」
「今、飛び出してこられると厄介だがな」
 駆けるラダは商人と傭兵の近くに蠢く影を見付け「どうやら呼び出しに成功したらしい」と振り返る。
 憤ったのは邪妖精。ケルピーと呼ばれたそれは地を蹴り上げ勢いよく走り来る。
「ケルピー……邪妖といえど森の民であった彼らが、猛り狂っておる。
 一体、この森に何が……! ……いや。詮議は後ぞ」
 今はそれを鎮めねばならないとクレマァダは『かたわれ』の名を有した籠手と円盤に波濤の魔力を宿した。
 クレマァダの傍らで己が内に胎動する怒りを解き放つようにウルフィンは地を蹴り飛ばす。烈火の如く攻撃性をその身に宿し、火焔を放ちながら茨と共に邪妖精を巻込んだ。
 傭兵と商人を傷つけぬようにと気を配るウルフィンの攻撃とタイミングを合わせたラダは救出対象に向けて勢いよく走り出した。
「よく二人で纏まっていてくれた」
「あ、あいつらが現れたんで……」
 ケルピーに襲われ、二人で一度体勢を立て直そうとしたのだと震えた様子で告げる傭兵にラダは頷いた。手によく馴染んだ銃を構え、周辺を警戒する。
 サイズは直ぐ様に回復を行い「撤退まで待ってくれ」と囁いた。
「大丈夫か!? ……良かった、見つかって。邪妖精から距離を取るまで辛抱してくれ」
 風牙は水と食料を彼らに与え、安心させるように声を掛けた。進行を阻んでいた茨を切り裂きながらも辿った道に落ちていた流血の後は痛ましい。
 彼らの負担を鑑みても、蒼穹に撤退した方が良いだろう。
「さて、と」
 夏子はこっちへおいでませと言わんばかりにケルピーへと手招いた。
「茨はまさかこないよね ……ね?
 無駄な戦いしたくねーんだけど ヤラれてやる訳にもいかんからよ」
 夏子が槍を構えれば、同様にサクラも光あれと口上を口にして聖刀を振り下ろす。「一対一ならそう簡単には負けないよ!」と口にする彼女の剣は天空の竜を地へと落とすかの如き勢いでケルピーへと叩き下ろされた。
 其れから距離をじわじわと取りながら、茨を薙ぎ払う。ケルピーの追撃を出来る限り斥け、フィオナが待つ場所へと戻る事こそが最大の目的だ。
「全く以て、情報が少ないな。ケルピーは何を起こってる?
 ……元は深緑に居るんじゃないだろ。妖精郷の住民が、こうして襲い来る理由は何だ」
 困ったように呟いてから、死出を彩る舞台演出が如く魔弾がケルピーの足を穿った。
 ケルピーの悲痛なる声を聞き、サイズは唇を噛んだ。それらは『邪』とは分類されるが妖精である。この様な場所で姿を見るべき相手ではない。
 虹の橋を渡った先にあった常春よりも寒々しい気配を宿した深緑で活動するべきではない其れは何かに誘われて外にやってきたか。
(冬の王の気配に当てられたか……? 『冬の王の力』は今どこに――くそ、何も分からない!)
 サイズは歯噛みした。急ぎ、妖精郷の無事を確かめたいというのに。道は閉ざされ、謎ばかりが増えていく。
 今はその謎の一つでも解き明かすために彼らを救助せねばならないか。勢いよく茨を燃やし、道を開いた彼に続いてウルフィンが周囲を焼き払う。
 じりじりと後退するクレマァダはサクラと夏子がケルピーを相手取る支援を行いながら逃げ出す機を伺った。
 ケルピーを倒しきる前に茨が邪魔をする。茨を打ち払いながら戦闘を継続すれば救助対象である二人の負った傷がどのように命を脅かすかも分からない。
「……夏子さん、そろそろいけそうかな?」
「モチ。良く知らねーよ? 知らねーけど……どうしてお前らは何時もこんな感じになっちまうのか……ねぇッ!」
 夏子はぎ、とケルピーを睨め付けた。茨とケルピーの出方を伺っていた彼は『仲良しじゃなさそう』な両者を眺め、よしと頷いた。
 イルナスが「茨が来ます」と告げる声を聞きラダは頷いた。
「此の儘援護しながら走る。タイミングを伺おう」
 ラダは救助者を後ろに庇い、じりじりと下がる。ウルフィンが振り下ろした憤怒の焔が周囲を焼いた刹那。
「本当なら燃やしてやりたい所だが今はそんな時間もない……我のやれることをやるだけである」
 此の儘撤退をと促すウルフィンに傭兵達を支えるラダと風牙が頷いた。
「今欲しいのは、戦果より情報じゃ――走るぞ!!」
 邪妖精とイレギュラーズの間に伸びてきた茨。どうやら其れは対象を判別している様子ではない。
 両者に対して森に害する者だと言わんばかりの有様だ。邪妖精が木々の小枝一つを折ったことさえ許さぬと言う茨の勢い。
(……邪妖精と茨は仲間じゃないって事か?)
 カイトはふと、そう感じ取った。邪妖精をも傷つける茨。それより逃れるように走り出した己達もまた、茨に追い縋られる立場である。
 ラダは「辛抱してくれ」と傭兵に声を掛けた。しっかりしろと声を掛けるサイズに虚ろに頷く商人は青ざめた顔で後方を眺める。
 茨に絡め取られて叫ぶケルピーに対する恐れか。
 それとも、見たことのない深緑の有様への恐怖か。
「……森の茨が閉じていく」
 呟いた風牙は息を呑んだ。先程まで己達が戦っていた場所に強固な檻のように伸びた茨は立ち入ることを許さずと言った様子だ。
 走れ、と叫ぶクレマァダに背を押され茨に足を取られて嘶いたケルピーの声を聞きながら、イレギュラーズは救助すべき二人を支え、走り出す。
 深き森より抜け出して、目指すのは真白き砂ばかりが溢れたラサの太陽の下――


 サイズの考察は一部のみ正答に掠ったのかも知れない。彼の記憶に存在する『咎の花』――それは魔種ブルーベルが『主人』の指示を受け、妖精郷に奪取へと向かったものだ。
 決して、彼が考えているブルーベルの翼に絡んだ茨と彼の目の前に存在する茨に因果関係はない。そして、冬の王の力を取り込んだのはブルーベルではない。ましてやブルーベルという少女は冠位魔種ではない以上、ファルカウ全域を包み込んだ茨の『秘術』を起動させる力は無いのだ。
「サイズさんが魔種ブルーベルに浅からぬ殺意を抱いているのは理解出来ます。
 ですが、それでは真実が曇ってしまうかもれません。彼女はどうやら本件の大元ではありません」
「何? いや、けど――」
 彼の直感で感じられたのは茨は『植物ではない』と言うことだ。ブルーベルの翼に絡んでいた物は植物そのもの。
 サイズ自身が感じたのはこの茨はブルーベル本人とは関連がないという事実のみだった。『咎の花』の使用者は彼女ではなく――
「……ブルーベルと呼ばれた少女は『主人』が為と申していたと報告書で見ました。ならば、この茨はその主人のものでしょう。
 私が聞き及んだ限りでも冬の王の力は別人が持ち去り、ブルーベルという少女がこの茨を操る力は有しない。遠因はあるでしょうが……」
 イルナスが肩を竦めたその方向を一瞥し、ラダは「これは持ち帰れないだろうか」と呟いた。
 ナイフで茨を切り裂けば、それは手にする限りは植物そのものだ。だが、引き千切れば遠離るほどに霞み消える。
「イルナス、これは……」
「何とも……」
 首を振ったイルナスを見遣ってサクラは「ねえ」と要救助者となっていたラサの縁者へと声を掛けた。
「フランツェルさん達と会ったんでしょう? 何か言ってた?」
「別の方向から此方に向かって脱出すると。どうやら、『外周』部分は茨の影響が薄く私達のように逃れられた者も居るようです。
 ですから、おそらく――大樹ファルカウにいらっしゃる幻想種や、指導者リュミエ様は……」
 アンテローゼ大聖堂はファルカウの麓にある。だからこそ、ファルカウの変化から逃れるためにはいち早い退避が必須だったのだろう。
 商人と傭兵の両者、縁者の不安げな声を聞きサクラは唇を噛みしめた。ああ、そうだろう。この様な状況だ。大樹ファルカウを『中心にして茨が広がっている』ならば――
「リュミエ様はピンチってワケね」
 夏子は小さく頷いた。
「誰かが犠牲にとかそんな行動は絶対にさせん、これは皆が活きるための最善の道だ。
 救出後には商人共には何があったか事情を聴かねばな……早く何とかせねば本当にこの先面倒なことが起きそうだ……」
 一先ずは傷を負い治療を受けている商人達に事情を聞かねばならないとウルフィンは後方を振り返る。

 ――リュミエ様に謁見しにファルカウへ向かう前にアンテローゼ大聖堂で休息を取っていました。
 すると、突然……茨が伸び始めたんです。森の中には邪妖精が溢れ出して、アンテローゼ大聖堂は直ぐに扉を鎖しました。
 司教様とそのご友人は「外に救援を呼びに行く」「貴方達も連合(くに)に伝えて」と叫んで、我々を逃がして下さいました。

 茨が伸びた。それは、外から入る者を赦しはしない。
 邪妖精達はそれらと共謀しているわけではなく何らかに急き立てられるように姿を見せたか。
「……それ以上は分かりません。ただ、出るときの方が茨の動きは弱かったとは思います。もしかすれば、内部に人を入れたくないのかもしれませんね」
 それは外周に至れば茨の動きが弱くなる事を指していたか。彼らも、情報を全て得られたわけではない。
 何が起こっているのかを理解出来ない儘、斯うして巻込まれたというのだろう。
「……はてさて、何が深緑で起きているやら」
 胡乱に大樹ファルカウを望んだカイトは肩を竦めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 まだまだ始まったばかり――ですが、『咎の花』と呼ばれた妖精郷のアイテムが何らかの関わりを持っているのは確かなようです。
『咎の花』が気になるぞ!という方は妖精郷関連シナリオ『<アイオーンの残夢>』をご覧になってみて下さいね。

 それでは、深き森でまたお会いしましょう。

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