PandoraPartyProject

シナリオ詳細

恋のレッスン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「とても、非常に、申し訳ないんだが……」
 ものすごく申し訳なさそうな顔をした――見ているこちらが逆に心配になるほどげっそりとやつれている――青年が、イレギュラーズの前で項垂れていた。
「……デートの様子を、見せて貰えないだろうか」

 ここに至るまでの経緯は、少しばかり時を遡る。
 依頼人の青年は幻想国の住人で、名をノイルと言う。自他ともに認める陰キャだ。そして年齢=彼女いない歴『だった』。そう、過去の話である。
 つい先日、近所のパン屋で働く女性に告白され、めでたく恋人同士となったのだ。パン屋には頼まれて行くこともあり、当然女性との面識もある。明るく接客する姿には、ノイル自身も少なからず想いを抱くところもあったようだ。
 まあ馴れ初めだとかこの先どうなるかだとか、その辺りは気にしなくて良い。当人たちの問題でもあるし、今回の依頼において重要なのは『彼が初めての恋人を作った』ということであるのだから。
 そうして――冒頭の発言に戻る。

 デート。それは恋人がいればほぼ当然というか、大多数がしたいというものだろう。ノイルの彼女についてもデートしたい側の人間であり、ノイルもしたくないと言えば嘘になる。彼女を喜ばせてあげたいし、自分だってデートしてわくわくドキドキしてみたい。
 だがしかし、そのためには致命的な問題があった。
「何も……何も案が出てこないんだ……」
 インドア派である彼はデートスポットというものに対し、全く以て知識がない。そういう場所でどのような事をすれば恋人らしいのかもわからない。そんな状態でデートをして恋人に呆れられたくない、というわけだ。
 故に参考としてイレギュラーズにデート、厳密にいえば『デートらしい』事をして見せて欲しいのである。基本的にノイルはこっそり後を付けるなどしているので、視界に入ることはない。『デートを見ている存在がいる』ということを気にしないのならば、イレギュラーズはただのデートをすれば良いのだ。
 もちろん恋人同士である必要もない。特別仲の良い友人だとか、夫婦だとかで『らしい』ところを見せるのでも良いと言う。何よりも必要なのは経験値なので。
「旅行ではないので幻想国内で頼みたいのと、流石に余所様の家に上がるつもりはないから、『お家デート』とやらは避けて欲しい。あと、その……健全で頼むよ」
 ノイルは顔を真っ赤にさせながら、そう告げた。



「そういうわけなので、この敏腕情報屋がデートスポットはリサーチしておいたのです!」
 ドヤ顔の『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がチラシらしき羊皮紙を抱えてくる。それをイレギュラーズたちも良く見えるよう、ばさりとテーブルに広げた。
「まずはこれなのです! さる貴族が愛した庭園の一般公開!」
 さっと出したのは幻想貴族の屋敷の庭が一般公開されているというチラシ。当代の曾祖母は身体の弱い人で、曾祖父は遠出せずとも景色が楽しめるよう、庭を植物園のように美しく装ったのだと言う。今も当時と同じように手入れがされており、グラオ・クローネの時期に合わせて一般公開がされているそうだ。
 庭園は非常に広く、眺めるだけでも十分に時間を潰せるだろう。ピクニックができるような小さな丘もあり、一般人もそのようにして良いと当代貴族から触れが出ているという。
「甘い物が好きならこういうのもどうですか?」
 次にユリーカが出したチラシには、幻想の首都で展開されているスイーツビュッフェの店舗情報が書かれている。
 こちらも今月限定の時間制ビュッフェだそうで、特にチョコレート菓子やケーキの種類が豊富だそうだ。他にもグラウンドメニューのケーキやサラダ、パスタなども食べられるし、飲み物だってかなりの幅から選べるのだ。うっかり食べ過ぎたらそれは自己責任。
「あとは……海辺の町で過ごすのもロマンチックじゃありませんか?」
 これですね、と最後のチラシを引っ張り出すユリーカ。幻想南部の海に面した町らしい。この店の岬はデートスポットで、夕陽を一緒に見ると1年幸せに過ごせるという。そのため、毎年の恋人記念日に夕陽を見に来る老年の夫婦などもいるのだとか。
 この町には揃いのアクセサリーを手頃な価格で売る店だったり、お洒落なカフェなども点在しているという。まだまだ肌寒いが、海辺を散歩してみるのも良いかもしれない。
「もちろん他のスポットに行くのだって大丈夫なのです。皆さん、しっかり場所を決めてお出掛けしてきてくださいね!」

GMコメント

●デートしましょう
 幻想国内でデートしましょう。なんならこの依頼に相方を誘う時点からプレイングに書いて良いです。それも含めてデートですよ。
 依頼人はその様子を観察するために後をつけていますが、デートの邪魔はしません。デートのお勉強してます。
 幻想内で依頼人の行ける場所であれば、OP上でユリーカが紹介していないスポットでも構いません。領地へのお出掛けもOKです。
 恋人だけでなくお友達やご夫婦で来られても問題ありません。『デートらしい事をする』のは忘れずに!
 当方のNPC(シャルル、フレイムタン、ブラウ)もご指名頂ければ依頼の相方として組んでくれます。

●ご挨拶
 愁と申します。
 プレイングみっちり書いて楽しくデート!
 それではよろしくお願いします!

  • 恋のレッスン完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年03月03日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
季 桜綾(p3p010420)
❀桜華❀
朱 雪梅(p3p010421)
天又雪

リプレイ

●あなたと来たかったなんて、内緒よ
「こんな事を頼める男の人は貴方しかいなかったの」
 そう言われてしまえば、『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)は断れるわけもない。どうして、とは思えど誘ってもらって嬉しい気持ちは本心だ。
「デートらしくですか」
「買い物してみる? ほら、洋服とか良さそうよ」
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)の提案でウィンドウショッピングを始める2人。途中でルチアが気になった店へと入ってみる。
「これとかどうですか?」
「あら。試着してきてみてもいい?」
 勧めたのだ、否やはない。頷く鏡禍にルチアは試着室へ入りかけて――。
「……覗いちゃダメだからね?」
 そう念押しをしてカーテンを閉める。鏡禍は目を瞬かせてからふふっと笑い、次に彼女へ着てもらいたい服を探し始めた。
 そうして何着か試してみて、ルチアはこっそり気に入った組み合わせをチェックしていたのだが、いざ買おうと店員へ声をかけた彼女は目を丸くする。
「すでに支払ってる……?」
「はい」
 ばっと振り向けば、鏡禍がショッパーを持っていて。彼が払ったのだと一目瞭然であった。
「ほら、それ貸して。流石に悪いわ」
「大丈夫ですよ。荷物持ちは喜んで」
 男ですから、と鏡禍。何としてでも渡さない意思を感じたルチアは閉口し、小さく「荷物持ち、覚悟しなさいよね」と呟いた。
 さてルチアの洋服選びは終わったので、次は鏡禍の……と思っていたのだが。
「いえ、いいですよ」
 鏡禍が固辞するので、そこまで嫌なのだろうかと首を傾げる。だがそれなら無理強いは良くないだろう。
 実際に興味がないわけではないし、むしろお揃い風とかは気になるのだが、付き合ってもいないのに出来る訳がない。

 そう。付き合っていないのである、この2人。

 目抜き通りをぶらぶらしつつ、あちらこちらと商品を見るだけ見て通り過ぎる。お金を使わなくても楽しめるのがウィンドウショッピングだ。
「あ、ルチアさん」
 不意に呼び止められたルチアは、鏡禍が立っている店を見て目を瞬かせる。上品な店構えだ。近づいていくと、それが宝石店であることに気付く。
「見るだけですし、こういうとこも覗いてみませんか?」
 なるほど、それも悪くない。ルチアは鏡禍に続いて店へ入る。展示されている商品と、オーダーメイドの商品があるようだ。
「ルチアさんはどういうのが好きとかありますか?」
「どういうの……むしろ、選んで欲しいわね?」
 キラキラと輝く宝石は目移りしてしまって、どれが良いなんて選べない。ルチアの言葉に鏡禍はそれらへ視線を滑らせる。
 勿論、『今日は』買わない予定だ。けれど彼女の好みが聞けたら良いなと思ったのは本当で。
(彼女に似合うものですか……)
 迷う。鮮やかな紅玉も、湖のような蒼玉も、彼女の色白な肌にはよく似合うだろう。アクセサリーだってネックレスやブレスレット、アンクレットにするという手もある。
 悩みに悩んだ鏡禍はそっと蒼玉のあしらわれたイヤリングを指さした。へえ、とルチアがイヤリングを見つめる。
「綺麗。悪くない……いい感じじゃない」
「それは良かった」
 こういうのが好きなのか。覚えておこう。鏡禍は心の中でメモをした。
 再び通りへ出て、目的なく色々覗いてみる。歩き疲れたらベンチで休憩して、お腹がすいたら露店で買って。1日なんてあっという間だ。
「お邪魔でなければ、家まで届けますよ」
 鏡禍は両手に掲げたショッパーを見せる。ここまで楽しかったのだ、最後に重い思いをしてその気持ちをしぼませてしまうのは勿体ないから。
「ねえ。今日、楽しかったわ。エスコートありがとうね」
「こちらこそ。ルチアさんと一緒に回れて楽しかったです」
 夕焼けの下、2人の影が長く伸びる。間の距離が縮むのは、いつの日か。


●君と一緒なら!
「今日はよろしくね、シャルル嬢」
 やる気満々の『諦めぬ心』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)に『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はくすりと笑って頷く。
「じゃあ先ずは、とっておきのお洋服のお店! ……手、繋いでもいい、かな?」
「もちろん。ほら、行こう?」
 彼女の華奢な手を握って歩き出す。本で勉強してきたけれど、心のことは書いていなかった。擽ったい気持ちになりながらイーハトーヴは目を細める。
「イーハトーヴ、楽しそうだね」
「そう? そうかも」
 ただ歩いているだけなのに、彼も、彼女も、なんだか心がふわふわするようで。
 辿り着いた洋服店はもう春服ばかりだ。イーハトーヴが目を輝かせて、シャルルにあれこれと勧め始める。が、これはデートと言い聞かせて。
「えっと、君が気に入るものがあれば、試着して見せてもらえたら嬉しいなって」
『……あら』
 やればできるじゃない、とちょっと誇らしげなオフィーリアは、いつかのように夢中になってしまうのではと心配していたのだろう。
「うーん、迷うなぁ……でも、似合うって言って貰えたから、こっち」
 シャルルはお勧めされたワンピースを試着して、くるり。ブティックを楽しんだ後はまた手を繋いで、ケーキ屋に寄ってみる。
「ここはイートインができるんだよ。それに見て見て、ひよこさんのケーキ!」
 まるでブラウみたいなそれにシャルルが笑みを漏らせば、お茶の時間へと誘われて。
「……イーハトーヴ、エスコートが上手いね?」
「しっかり勉強してきたからね! それに、こんなキラキラのデートになったのはシャルル嬢のおかげでもあるんだよ」
 そう? そうだよ!
 ふわふわのスポンジと、甘い紅茶。恋愛とは違うけれど、間違いなく楽しい時間だ。


●おそろいだよ
 お手本になってあげなきゃ、と恋人同士の2人はやる気を見せる。自分たちが幸せなのと同じくらい、ノイルたちにだって幸せになってもらいたい。
「ねえ、エスト? デートを彼女さんが望んでいるなら、向こうから沢山甘えてきたりしないかしら」
 どうかな、と上目遣いにじぃっと見つめる『雷虎』ソア(p3p007025)。おねだりの仕草に『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は微笑んで、彼女の腕を取る。
「えへへ、せいかいっ!」
 嬉しそうな彼女の声。腕を組んだ2人の歩幅は一緒だ。寄り添うように歩く2人は店の立ち並ぶ通りへ足を踏み入れた。
「あ、エスト! あれ見に行こうよ!」
 ソアが指したのはアクセサリーショップ。近づいてみれば、この時期に合わせてペアアクセサリーも多く用意しているようだ。ブレスレット、指輪、ネックレス、イヤリング……様々なそれらを肌に当てて見たりするけれど、どれもソアに似合うから困ったもの。
「ソア、他の店も見てみない?」
「うん!」
 他にも沢山の店と商品があるから。2人は連れ立ってあちこち見て回る。ペアでなくたって綺麗な髪飾りはソアに似合いそうだし、お洒落な栞が在ったら使ってみたくなるものだ。
(ノイル、すごく好かれているから。当日は緊張しちゃうかもしれないけど、頑張って欲しいな)
 眩しいソアの表情に目を細め、エストレーリャはそう思う。彼女の方だって、何でも完璧な彼のことを期待してるわけではないだろう。不器用にでも、ちゃんと彼女の事を見て、共に過ごして欲しい。
 表情であったり、仕草であったり。時には言葉でちゃんと相手に伝えること。他人から恋人になっても大事なことは変わらない。
「ソア。この貝殻のアクセサリー、良いと思うんだ。お揃いで、どう?」
 エストレーリャは知っている。彼女がさっき、これをじっと見つめていたのだと。ノイルはエストレーリャが観察していたことに気付いただろうか。
「うんっ! これにしよう!」
 ソアはぱっと笑顔を見せて、エストレーリャが買ったブレスレットを付けてもらう。お揃いってなんて素敵な響きなのだろう。
「この貝殻、ここの海岸で拾われてるのかな?」
「そうかもしれないね。ちょっと足を伸ばしてみようか」
 再び寄り添った2人は海岸まで歩き、波の音を聞きながら夕陽を眺める。その影はひとつに交わるかのようにくっついていた。
「ボク、この街のこと忘れないな。とっても楽しかった」
「うん。明日も、もっと楽しくなるといいな」
 この後、2人は仲良く同じ場所へ帰るのだけれど。それでも感慨深くなるのはこういう場所だからかもしれない。海辺にある公園を見つけると、ベンチへ隣同士に座って茜色の空を見上げる。
 まだ春には少しばかり早く、日が傾いてくれば肌寒さもやってくる。ぴとりとくっついたソアにエストレーリャは視線を向ける。
「……ね、」
 言葉少なに、けれどおねだりだと分かる視線。いつもの仕草にくすりと笑って、エストとソアの熱が交わる。静かな、2人だけしかいないような世界で、ゆっくりと沈んでいく日が時間を感じさせた。
「……沈んじゃったね」
「うん」
 夜の帳が落ちて来て、さらにひやりと空気が冷える。エストレーリャがぎゅっと彼女を抱きしめれば、触れたところは暖かい。
「もう一度する?」
 離れるのは名残惜しいから。エストレーリャが首を傾げ、悪戯っぽく笑ってみせると、ソアもまた同じような顔をして――彼の後頭部へ手を添えた。


●本当の本当に良かったんですか??
(簡単な依頼って聞いたんだけどなぁ!?)
 頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。いや、こうなったのはと言えば『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が内容を確認しなかったというのもあるのだが、それでも。
 そしてさらに問題となるのは、相手がいない事であった。依頼に見合うような人材をと、世界が苦し紛れに誘ったのは――。
「……本当の本当に良かったんですか??」
「いやあ……」
 何とも言えない表情のブラウ(p3n000090)と世界。これからが成長期らしいブラウなら、多少それっぽく見えるだろうと思ったのだ。本人からすれば納得がいかないかもしれないが。
「まあほら、俺のおごりだ」
「えっ!!」
 すぐさまぱぁっと目を輝かせるブラウ。お子様である。
 連れてきたスイーツビュッフェは世界の趣味であるが、周りは恋人や女性同士の方が多い。きゃっきゃと楽しそうなリア充空間が世界のメンタルへダメージを与える。
(くっ……! まだ恋人っぽいこと何もしてないのに挫けそうだ)
 そう、依頼を受けたからにはそうでなくてもそれらしいことをしなければならない。せめてテラス席の方がマシだったかもと思ったけどそれはそれで外からの視線が痛いかなあ!
 どうにかケーキをとって席へ戻って来た世界へ、ブラウが気づかわしげな表情を浮かべる。
「飲み物一緒にとって来ましょうか?」
「ああ、ありがとう……」
 素直に頷いた世界は、彼の持ってきてくれた紅茶に口を付ける。少し落ち着いた。落ち着いたついでに本来の依頼を思い出した。
「ブラウ君、ちょっとひよこになってくれないか?」
「ぴよ? 良いですけれども」
 首を傾げながら変化するひよこ。テーブルにちょんと乗った彼へ、どのケーキが好きか聞いてみる。
「このチョコレートケーキが良いです!」
「そうか。それじゃあほら、」
 フォークでひと口に切って、あーん。目をキラキラさせたブラウがぱくりと食べてご満悦な表情を浮かべる。
(……これで、良いんだろうか?)
 もうひと口! と言い出すひよこに皿ごと押し出しながら、世界は何とも言えない表情を浮かべたのだった。


●次は――
 ここにもね。内容をよく見ずに受けた男がいるんですよ。
 だがしかし、『❀桜華❀』季 桜綾(p3p010420)にとって幸いだったのは声をかける相手がいることだ。
(小梅しかいねぇけどな!!)
 仕事だ、仕方ないと桜綾は『天又雪』朱 雪梅(p3p010421)を誘う……にしては、上から目線であった。
「おい、小梅。ちょっとオレに付き合え」
 苦々しい表情の彼に雪梅が「何やの!」と眦を吊り上げるのは当然で。しかし先輩イレギュラーズに声をかけられるわけないだろうと桜綾は言い返す。
「……本当にアタシで良いん?」
「良いも何も、仕方ないだろう」
 その口ぶりは甚だ遺憾であったが、彼が雪梅以外を誘ったらそれはそれで憤慨ものである。絶対に理由なんて言ってやらないけれど。
 ともかくして。2人は連れ立って、海辺の街へ出かけたのだった。

「うっわー! パないわぁ!」
 目をキラキラと輝かせる雪梅。桜綾も里とは全然違うとしきりに目を瞬かせる。
「この匂いが潮の匂いで、あのでっけーのが海か。見ろよ、すげーぞ。夕方くらいに見に行こうぜ」
「ええねえ。でも桜綾、それまで逸れずに済むん? こぉんなちっちゃいのに!」
「そこまでは小さくない!」
 物凄く低い位置に掌をやる雪梅に吠えれば、彼女はニマニマと笑う。完全に遊ばれている。
「逸れたらアタシ泣いちゃうかも識れないなー……だから、ん!」
 彼に捕まる雪梅。露骨に嫌そうな顔をした桜綾だが、掴まりたいなら掴まれと彼女を退けることはしない。
「いつも女の子にこうなん? 『遊び人の桜綾君』が? 御手手が暇すぎて本格的な編み物とか始めちゃいそうやけどなー」
「ここで編み物なんて始めるなよ……」
 全く、と呆れた顔で桜綾は雪梅の手を握る。彼の手は存外大きくて、暖かい。雪梅は桜綾に見えないよう頬を緩めると、式神へノイルへのアドバイスを飛ばした。
 まあそんなごたごたがあれど、初めての場所にテンションは上がる。カプチーノアートに雪梅が惹かれれば、一緒に見に行って芸術的なそれに目を丸くする。
「あれええやない。桜綾描いてもらって――はっ。いや、あの、其の方が番っぽいかなって」
「そんな複雑なの描けねえだろ、ったく」
 一蹴した桜綾だが、後から彼女が『番』といったことに気付いて顔を赤くする。
「つ、番っぽいとか言うな! はしたねぇ!」
「桜綾、顔真っ赤やない」
「るせぇ」
 ふいっとそっぽを向く桜綾。珍しい表情を見られて満足する……わけもなく、カプチーノ自体は描いてもらった。初めてだと言うと可愛らしいネコを描いてくれた。
 いくつかの露店を回れば、あっという間に日は傾いていく。そろそろ行こう、と2人は海岸へ向かった。
「綺麗!」
 わぁ、と雪梅が声を上げる。茜色の空と、夕陽を映す海。夕陽をデザストルで見ないわけではないが、あそこは山岳地帯だし集落は洞窟などが主となる。こんな風に開けた場所で見られることはなかなかない。
「いやあ、一日遊んだな! デートコース、覚えたぜ!」
「あら。ここでも女の事遊ぶん?」
「お、お、おうよ!」
 冷や汗を垂らしながらそっぽを向く桜綾。言えるわけがない――本当は女性と付き合ったことすらない、だなんて。
 ふうん、と冷めた目を向けた雪梅は、でもと視線を落とす。結局手をつないでくれたそこには、揃いのブレスレットが身に付けられていた。彼女の我儘で買ってもらったそれは価値の高いものではないけれど、これくらいが丁度よい。
「……桜綾ったらめっちゃしおらしいやないの。駆けっこでもする?」
 あの夕陽に向かって、波がつま先をくすぐるところまで!
 言いだした雪梅が先に動き出せるのは当然で、追って桜綾も駆け出す。ぱしゃぱしゃと2人の足元で水が跳ねた。
「……小梅。次は、」
 ざざ――ん。
「何ー?! 波の音で聴こえん! わんもあ!」
「……なんでもねぇし!」
 言い直すのはなんだか格好悪い。桜綾は何時までも突っ立ってると風邪ひくぞ、と雪梅へ砂浜へ上がるよう促した。

 仕事ではなく、普通に2人で来るときは。その時こそ、自分が一緒に行きたいから行こうと伝えるのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 甘いぜ……。珈琲が美味しく感じました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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