シナリオ詳細
ゴラぐるみを吸うと苦痛がやわらスゥーーーーーーーーー
オープニング
●苦痛に耐えられぬ時に吸うが良い
「スゥーーーーーーーーー」
イーリン・ジョーンズ (p3p000854)がぬいぐるみのおなかに顔を突っ込んでいた。
なんか、なんだろ。おひさま? お日様にずっと干してたお布団みたいなにおいがするの。あとなんかちょっとだけ甘いラベンダーも。
思考が小学二年生になっていたイーリンがぬいぐるみに顔を突っ込んだまま動かなくなったことを受けて、物部・ねねこ (p3p007217)はゆっくりと首を振る。
口を「NO」の形にして眉をよせてである。洋画の緊迫したシーンでしか見れない動きである。
「皆が喜ぶと思って作ったゴラぐるみ……まさかこんな中毒性があったなんて」
「ももももふふふももふふふうーも」
「イーリンさん吸いながら喋らないで」
「もふふーも」
テーブルを挟んだ向かいの席ではエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)が同じぬいぐるみに顔を埋めていた。
「スゥーーーーーーーーー」
「ああっ、もう! まともに会話できる人が……!」
立ち上がるねねこ。
ファミレスの一角。四人がけのソファー席。
見渡すかぎりのテーブルで、ぬいぐるみに顔を埋めて「スゥーーーーーーーーー」てしてる人しかいなかった。
っていうかウェイトレスも「スゥーーーーーーーーー」てしたし厨房からも音がしない。多分吸っている。
興味本位で高純度のヤクを作り出したせいで周辺地域が地獄になってしまった科学教師みたいな気持ちで震えるねねこ。
が、そこでふと思考が止まった。
「待って下さい。私手縫いで作ったしこんなに沢山売ったりしてないはず……」
店内で確認できるだけでも、ねねこの生産数を遥かにこえていた。
「おかしいです! これは……何かが起こっています!」
●耐えられぬ。吸う。
薄暗い路地裏に、男がひとり横たわっていた。
とても清潔とは言えない地面に、同じくらいにみすぼらしい服装の男が長くだらしなく伸ばした髪をつけている。
鼻からは血が流れ、服にもべっとりと血がしみていた。その量と赤さから、彼自身が今まさに脇腹から垂れ流しているものだと分かる。
男はうつろだった目を動かし、地面にあかいあとを残しながらゆっくりと這いずり始めた。
道の端にそっと置かれたサンタ・ムエルテ像……をぺいって押しのけ、その隣に鎮座するゴラぐるみを両手で鷲掴みにするとそこに顔を埋めてた。
「スゥーーーーーーーーー――ハァーーーーーー↑↑↑↑」
裏返った声をあげ白目を剥いて顔をあげる男。
なんかしらんけど笑顔で立ち上がり、ゴラぐるみを抱えてスタスタ立ち去っていく。
スキンヘッドに『地獄』『殺します』『ムラハチ重点』というタトゥーを焼き付けた男達がその様子を横目に路地へと入り、そしてリュックサックから丁寧にゴラぐるみを取り出した。
だらしなく笑み崩した顔で、そのおなかに鼻ピアスバリバリの顔を突っ込む。
「ヘヘヘタマンネェー! スゥーーーーーーーーー」
「闇残業に逆モラハラ。冷たく孤独な過酷社会にゴラが染みるぜェ……」
「コイツなしじゃあよお、へへ……生きられねえ身体に、へへへ……なっちまったなあ……ヘッヘェースゥーーーーーーーーー」
気付けば裏路地はゴラぐるみジャンキーたちで一杯になっていた。
そう。
視聴者の皆さんもお気づきであろう!
「違法ゴラぐるみが巷に蔓延しているんです!」
テーブルをバァンて叩いたねねこ。
その向かいに座ったフラーゴラ・トラモント (p3p008825)。
その頭を両手でがしっと掴み、なんかふわふわした髪に顔を埋めるイーリン。
「スゥーーーーーーーーー」
「お師匠先生?」
「――ハァーーーーーー↑↑↑↑」
「お師匠先生!?」
ゴラを挟んで隣に座っていたエクスマリアもがしりとゴラヘッドを掴むと、頭を突っ込んで「スゥーーーーーーーーー」しはじめる。
「マリー!?」
しばらくそのままでいたイーリンたちはスッと真顔で椅子に座り直すと、ゴラヘッドをゆっくりと(なんかスペイン映画の悪役がワイン片手に猫を撫でる動きで)撫でながらシリアスに語り始めた。
「煙草が人体を害することは紀元前から知られていて、同時に精神の均衡を保つ作用があることも知られていたわ。これを住民に配り接種させることで、多少厳しい環境でも精神の安定を保つことができ、税をあるていど安定してとることができたわ。これは千年単位で発展し財力に応じたブランド力を付加するなどして利用され続け、時として国によっては違法とされるような物質も自由化することで幸福度の確保材料としたのよ。わたしが言いたいのは、ゴラぐるみに罪はないということ。罪があるとすれば、それをルールの外で過剰に生産、販売する人間たちだわ。それは過剰な幸福であり、過剰な幸福は得てして生産力を初めとする社会性を破壊するものだもスゥーーーーーーーーー」
「お師匠先生途中で屈しないで……」
割と使い物にならなくなったイーリンたちを前に、ねねこはゆっくりと席を立った。
そう。店へ入ってきたあなたの存在に気付いたからだ。
「ああっ、大変なんです! 違法ゴラぐるみが町に蔓延していて……生産拠点はなんとか差し止めることができたんですが、出回った違法ゴラぐるみの売人、通称『ゴラプッシャー』が町に残っている状態なんです。
彼らを見つけ出して、違法ゴラぐるみを回収し尽くさなくてはなりません。この依頼……受けてくれませんか!?」
要約すると、ゴラプッシャーを見つけてノしてゴラぐるみを回収しつくせということである。
この依頼を受けちゃったあなたは……。
- ゴラぐるみを吸うと苦痛がやわらスゥーーーーーーーーー完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年02月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●スゥーーーーーーーーーーーー
まだ地方によっては雪深い、冬の二月。幻想王都の街並に雪解けの香りがした。
あと『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はさっきからゴラぐるみに顔を埋めていた。
「全く(スゥーーー)、偽物を売り捌き(スゥーーー)、利益を貪るなどと(スゥーーー)一刻も早く(スゥーーー)、フラーの肖像権を守らなければ(スゥーーー)」
「なんて?」
仲間が謎の中毒に冒されたみたいになった『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)は、困惑と共に問い返す。
「だから(スゥーーー)」
「だめだ、ゴラ吸いに夢中で人語がおぼつかない」
ライは恐怖した。このアンゴラウサギの毛皮から作られているというぬいぐるみにそこまでの中毒性があろうとは。
「確かに見た目も可愛いし手触りもいい。それになんだかいいにおいもする……偽物はどれだけ」
「スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……ふぅ」
『泡沫の胸』アリス・アド・アイトエム(p3p009742)が軽くキマった顔をあげた。
「スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「あ、だめだこっちだ」
仲間が人語すら解さなくなったと感じて恐怖に震えはじめるライ。
今まで様々なダンジョンを攻略し危険なモンスターとも対峙してきた冒険者の彼だったが、仲間がぬいぐるみに夢中で人語を忘れた経験はきっとないだろう。たぶん。あったらすごい。
「所で、依頼の目的は覚えていますか?」
『氷翼断ち』鏡(p3p008705)がゴラぐるみを手のひらにのせて軽く回している。
後ろでガッツポーズした『竜眼潰し』橋場・ステラ(p3p008617)が声を張った。
「悪人を見つけて退治すると聞きました! 腕が鳴りますね! それで……どういう悪人なんですか?」
黒い日傘を差していた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)がセレブマダムみたいな目で振り返る。
「違法ゴラぐるみを売買するゴラプッシャーを捕まえるのよ」
「ゴラ……え?」
どこからともなく取り出したゴラぐるみに顔をがぼっと埋めるイーリン。
「もももふももふももももふも」
「なんですか!? なんて言ったんですか!?」
「ゴラ文科学に精通し博士号まで取得したこの私にかかれば」
「なんですか!? なにを言ってるんですか!?」
「『ゴラがそれを望まれる』」
「イーリンさん!? イーリンさん!?」
仲間が自分を置いてアクセルを踏み込んだことを理解したステラが、助けを求めるように『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)へと振り返る。
「ふえぇぇ…皆、お疲れ過ぎません?効きすぎじゃありません?
ゴラぐるみがまさかこんな事になるとは……むむむ…これ責任もってゴラ抜きセミナーとはやらないといけない奴じゃないですか?」
「ゴラ抜きってなんですか?」
「後で中毒性が無い様に作りなおさないと……」
「中毒性はある作りだったんですか!?」
「もももふもふももももふも」
がぼっとゴラぐるみに顔を埋めるねねこ。
仲間がみんな行ってしまった。そんな気持ちに苛まれたステラに残された希望は『進撃のラッパ』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)だけだった。
「現代社会は疲れ果てたひとたちが、グラオ・クローネのチョコレートの代わりに用意したゴラぐるみに沈んでるんだね……許さないよ。社会の闇につけこむわるいゴラプッシャーはお仕置き棒でぺちーってやるからね! ぺちーって!」
『おしおき』と描かれた謎の棒をひゅんひゅんするフラーゴラ。
その間ずっとゴラのヘッドに両サイドから顔を埋めているイーリンとエクスマリア。
ステラとライは震えた。
社会の闇は、自分達のすぐ隣にあるのだと知って。
●ゴラプッシャーを探せ(難易度G)
王都大通りをゆきかう人々は、その舗装された道を馬車が通り抜ける車輪の音に交じり賑やかでどこか上品な話し声がする。
これが王国の光の面であるならば、通りを曲がって更に奥、光の当たらぬ闇の面もまた存在する。
そこは静かで、路上に座り込む者もちらほらと見える裏通り。
イーリンはそんな場所には似つかわしくないような上品な服装をして歩いていた。
後ろにはエクスマリアとステラがそれぞれ付き従うように歩き、道ばたからの好奇の視線に対して睨みをきかせている。
どこか育ちの良さそうなステラと、褐色肌の少女にしか見えないエクスマリアの組み合わせはより好奇の視線を集めるようで、ステラの睨みもかえってそれを強めているようだった。手を出してこないのは、やはりステラの眼光の鋭さゆえだろう。
先ほど裏通りに似つかわしくないと述べた理由は、彼女たちの着る服の仕立てにある。
裏通りを歩く者ならまず着ないような上品な仕立てと高級な布によって作り出されたであろうその服は、おそらく視線を向ける彼らの年収に匹敵するだろうとも思われた。
(事実そうであるかは、別だけれど……)
視線の意味を理解しながら、イーリンは心の中で呟く。
そんな彼女がスッと手を出すと、エクスマリアはしずしずと鞄を開き、ゴラぐるみを取り出した。
オオ、と道ばたから眺める者の目にこれまでと異なる光が宿る。
裏で出回っている違法ゴラぐるみとはまるで異なる、それは純正ゴラぐるみであった。
まるで餌をぶら下げられた獣のようにゴラぐるみを凝視した彼らは、思わずその腰を浮かせていた。
(やはり、な……)
エクスマリアは己の調べが確かであったことを確信して、口の中でその言葉を転がす。
ゴラぐるみが王都内に広がったのはここ最近のことである。であるならルートは限られ、バックにあるものも探りやすい。エクスマリアは王国でもかなりの(裏の社会でも)知名度をもち、コネクションもまた深い。
これまでゼロストロングなるブツが流行っていたエリアを塗り替えるように広がる違法ゴラぐるみのルートを暴き出すことは、そう難しいことではなかった。
そうして見つけ出した『背景』がプッシャーの情報を売り渡したのは、彼らもまた違法ゴラぐるみの急速な拡散に頭を悩ませていたからに他ならない。
(情報の漏洩は自らの出血に繋がる。それでも血を流したのは、外科的切除のため、か……)
エクスマリアはこの世の理を考え、目をわずかに細めた。
「もし、そこのあなた?」
イーリンが道ばたのひとりに声をかけた。
口元にゴラぐるみを翳し、深く吸う。目を瞑る。きゅっと寄せた眉から力の抜けるその様は、見る者に快楽を思わせるに充分だった。
ステラがその熟れた吸いっぷりに『日常的にやってるな……』という目を向けたが、それも一瞬のこと。
「これと似たの、私一杯ほしいのよ」
そうイーリンが言うと、一人が口元にゴラぐるみを当てるようなジェスチャーをしてからきびすを返し、歩き始めた。
売人が取引について言葉を発することは少ない。黙って必要な情報だけを交換し。必要な物だけを交換する。繋がりは浅く刹那的であるほどよい。
イーリンのようにこれみよがしに購入希望者であることを主張するのは素人の動きだ。
そして当然ながら、イーリンはそういう演技をしていた。
一方こちらは幻想南部湾岸倉庫区画。
無数の倉庫が並ぶ海沿いの道を、フラーゴラはてくてくと歩いて行く。
たどり着いたのは、あろうことかぬいぐるみショップだった。
倉庫区画に突如たつぬいぐるみ屋は最近OPENしたばかりらしく、ガレージを改装して作られた店はビンテージ感とファンシーが混ざった不思議な空間であった。
腕に『ゴラは世界を救う』という意味の古代語タトゥーをしたふとっちょの男の前に、フラーゴラが立った。
付き従うように後ろに並んでいるのはライとアリスの二人である。
二人は『あくまで自分は付き添いだ』と言わんばかりに距離を取り、フラーゴラの様子をやや遠巻きに見守っている。というか、アリスに至ってはクマのぬいぐるみを撫でたりして注意すら向けていないように見えた。
ライもライで、フラーゴラをというより店内の雰囲気を観察するかのように視線をめぐらせている。
ふとっちょ男は半眼のまま、フラーゴラを見た。
「なんだ、お嬢ちゃん……」
低く唸る、それは大型の肉食獣めいた声であった。
対するフラーゴラは可愛らしいリュックサックを下ろして腕に抱くと、男を見上げる。
「可愛いぬいぐるみを探してるんだけど」
と、言った途端ふとっちょ男はその顔をもちっと崩した。
「あ、やっぱりー? 俺可愛いぬいぐるみ大好きなんだァ!
何が欲しい? クマちゃん? ウサギちゃん?」
なんだこいつという目でライが見ているが気にしない。ふとっちょ男は取り出したアルパカのぬいぐるみに頬ずりしていた。
「いいえ。ワタシが探しているのは……アンゴラウサギの毛皮を使ったぬいぐるみだ」
フラーゴラの口調が、いや雰囲気が変わった。
その豹変ぶりはふとっちょ男の比ではない。百戦錬磨の商人を思わせる雰囲気に、男はおもわず息を呑む。
そして、店に入ってきた時のしかめっ面とも、ぬいぐるみを取り出したもちもち顔とも異なる、鋭く重いナイフのような表情を作った。
「……どこでその噂を聞いた?」
答えようによっては対応を変えるべきだろう。などという考えは当然浮かぶだろう。
男はアルパカのぬいぐるみに作られたスリットからそっと手を入れ、中にある無骨な拳銃を握る。
が、そこまでだった。
アリスがピッと手を不思議なフィンガーサインで伸ばした途端粘着質の糸が放たれ男の手が後ろの壁へと貼り付けられる。まるで雲の糸につかまった蝶のようにはりついて離れないそれから苦労して腕だけ抜くと、ライの額から放たれた赤い光線が男の胸をうった。
「自分で選んだ方法とはいえ、こうして匂いで捜査してると本当の動物みたいで精神的に来るな……町の奴らがゴラぐるみに癒しを求める気持ちも分からなくはない」
ライがそこで初めて言葉を口に出した。
「違法ゴラぐるみで町をヤバいことにしたのは許されない。しっかりぶっ倒されて反省してくれよな」
ライの言葉の意味するところを察し、男は従業員用のドアを開いて逃げだそうとしていた。
だが、その動きは既に見切られていたようだ。なぜならカウンターを素早く飛び越えたフラーゴラがドアの前へと立ち塞がり、その足でバタンと開きかけた扉を閉めてしまったからだ。
身体の小さな彼女を押しのけようとふとっちょ男が拳を振りかざす。
常人ならば怯えたかも知れないシーンだが、フラーゴラにとってはひどく緩慢な動きに見えた。
「商人は仮の姿。くらえー!」
フラーゴラはゴララーと言いながらフラーゴラッシュ(今考えた必殺技。↓→B+B連打)を繰り出した。
魔法の連続パンチが炸裂し、ふとっちょ男は店の壁へと叩きつけられ大量のぬいぐるみが転げ落ちる。
アリスが掛けより男を拘束する間、ライはカウンターを飛び越えその裏側を覗き込む。
「やはりな」
ライの嗅覚はこの店に隠された違法ゴラぐるみの存在を感知していたのだ。
そして、フラーゴラは従業員扉を開き……。
立体駐車場。薄暗いそのアスファルトの上。
ニット帽の男がリュックサックを胸に抱えて走っている。
背負わないのはそれだけ中身を大事にしているからか、それとも混乱からか。
足をもつれさせ転んだ彼とすれ違うように、スキンヘッドの男達が四人ほど前へ出る。
頭に『ゴラ文化』『ゴラ吸い重点』『スゴイかぐわしい』とタトゥーをいれた彼らのすごみに対して、カツンと靴音を鳴らして止まったのは鏡とねねこだった。
「少し、『お話』しませんか? 他のプッシャーの場所を吐けばあなたを追うのは最後にしてあげますよ?」
交渉のようなものをもちかけるねねこに、プッシャーはぜえぜえと荒い息をしながら振り返った。
ボディーガードたちに守られ安全だと思ったのだろう。表情に余裕の色が浮かぶ。
「ハッ、ふざけんな。他のプッシャーのことなんで知るわけねえだろ。そういうのは元売りに聞けよな」
「嘘ですね」
ねねこは穏やかに微笑んだような表情を浮かべたまま、たすんと一歩だけ足を進めた。
その言い知れぬ迫力に、ボディーガードの男達がいぶかしげに顔をしかめる。
「プッシャーにも縄張りがあるはず。少なくともあなたと重なる範囲のプッシャーとは連絡を取り合っていなければ、あなたはこんな風に取引が行えないはずです」
既に似たような業界から知識を仕入れていたのだろう。ねねこの言葉にゴラプッシャーの男はリュックサックを強く抱きしめた。
それを肯定ととった鏡が、もう一歩踏み出す。
「優しく尋ねてあげますよ? 優しく優ぁしく……」
鏡がもう一歩踏み出そうとした所で、男達が流石にこれ以上はと鏡に掴みかかる。
いや、掴みかかろうとした。
最初に彼女の肩を掴んだ男の手首は切り落とされ。グギャアと悲鳴をあげて地面を転げ回り始めた。
その様子に瞠目する他のボディーガード。だが選択の時間は与えない。鏡は彼らをあまりに美しい剣さばきで素早く斬り伏せると、刀をぶら下げたままプッシャーの男の前に立った。
へたりこんだ彼に、顔を……そして刀を近づける。
つぷりと頬に差し込んだ切っ先が鋭い痛みを走らせ、一筋の血を流す。
鏡はそっとその頬に口づけをすると、世にも美しく笑った。
「ねねこさん。もう一度さっきの台詞を」
「『他のプッシャーの場所を吐けばあなたを追うのは最後にしてあげますよ?』」
●ゴラ焚き上げ
夜。ぱちぱちと音を立て燃える大きなキャンプファイヤーがあった。
鏡は『映し鏡』の能力で擬態していたゴラプッシャーの姿を解除すると、フウと息をついて中身がぱんぱんに詰まったリュックサックを炎の中へ投げる。
そこにはライやアリスもあつまり、ねねこもまた炎に目を細めている。
「こんど、中毒性がないゴラぐるみを作りなおして、禁煙セミナーならぬ禁ゴラセミナーを開催しないと……」
「禁ゴラ?」
ステラが首をかしげた。今回イーリンたちの探り上げたゴラプッシャーを追い詰め、ボディーガードたちを千切っては投げちぎっては投げしていたせいでくたくただったが、最後はこうしてキャンプファイヤーでゆったりしているのだった。
ステラの左右に立っていたエクスマリアとイーリンが、小さく息をつきながらバッグをそれぞれ炎の中へと投じる。
「些か勿体ない気もするが、これでフラーのブランドを、貶めることも、ない」
「人形とはいえ、本来の目的から外れたからね。
祈りましょう、この子達が正しく生まれ変わることを」
フラーゴラはのぼる煙に、小さく声をかけた。
「ばいばい」
空に昇る煙を、名残惜しげに見つめる男達の姿があった。
フラーゴラやステラたちにボコボコにされたゴラプッシャーやゴラ中毒者たちである。
そのまんなかで、ふとっちょ男がゆっくりとクマさんのぬいぐるみを撫でる。
去り際フラーゴラがそれを手渡し、『この子たちもかわいいよ』と呟いたのを思い出して。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
こうして街に広がる違法ゴラぐるみは排除されました
ゴラ中毒者たちもやがてゴラセラピーなどを通してゴラを克服することでしょう
あとこのリプレイ中にゴラって何回言ったか調べてみよう
GMコメント
ゴラぐるみだ。苦痛に耐えられぬ時に吸うがよい。
ゴラぐるみの過酷体制が変な方向にキいてしまった町。
この町の売人たちを見つけ出し、ゴラぐるみを回収しましょう。
今回では特に大きな意味も無くこの売人をゴラぐるみのプッシャー略してゴラプッシャーと呼びます。
街中をフツーにうろうろしていても見つからないことはないですが、ウラの情報網を使ったりあえてゴラを求めるふうを装ってスラム街を歩いたりすると見つけやすいでしょう。
ゴラプッシャーは生産のとめられた違法ゴラぐるみを奪われては大損なので、皆さんから必死で逃げようとするでしょう。
これを追いかけたり、先周りしたり、あるいは暴力に訴えるやからを叩きのめすなどしましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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