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シナリオ詳細

再現性東京202X:あれは■■だった

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●平穏を享受する
 いつもと変わらない日々が、今日も始まる。
 起きたら朝食を食べつつニュースを見て、傍らに表示される時刻が無音で『07:45』へ変化する。そろそろ行かなくてはと着替えて、ネクタイを締めて。
 カバンの中には定期券と妻の作った弁当。コートとマフラーを身につけたなら、玄関で靴を履く。
「今日は遅くなるの?」
「どうだろうな。間に合わなければ連絡するよ」
 行ってらっしゃい、気をつけてね。
 その言葉を背に家を出れば、ちらりと白いものが空を舞った。そして肌を刺すような空気に包まれる。
(大雪にならないといいんだが)
 なにせ雪が降るなんて珍しい場所だ。積もれば交通網が全滅するだろう。
 しかしこんな中でも出勤しなければならないのがサラリーマンである。会社の退社連絡は大体遅いのだ。
 歩きながら雪を見上げていれば、否応なく目に入るのは建物を抉ったような痕である。近くではランドセルを背中で跳ねさせる子供たちが騒いでいた。
「あれのできた理由知ってるか!? UFOなんだって!」
「ちがうよ、ドラゴンが来たんだ!」
「何言ってんだよお前。あれは隕石だよ! ニュースで言ってたろ」
 口々に別のことを言い始める3人。きっとどれも違うんだろうなと思いながら通り過ぎ、駅への道を急ぐ。その間も、後ろから甲高い子供達の声は聞こえていた。
 確かに最近、建物の破壊される事件が起こったという。隕石と言っていたような気がする。
 嗚呼、けれど。近所でも起こっていたのに、何も見ていなかったのだろうか?

 ――いいや、見ていないのだ。自分も、妻も、あの子供達だって。『突如建物が破壊された』ことだけが事実なのだから。


●『あれは■■だった』
 噂話や都市伝説、そこから齎される恐怖は怪異を呼ぶ。
 それは再現された現代に住まう者には気付かれないように潜み、人を襲うのだ。しかし襲われていることにさえ人々は気付かない、いや、気付きたくない。
 『非日常』を恐れる彼らにとって、仮初の現実に浸って『日常』を繰り返すことが最たる望みなのだから。
 篝谷 啓一郎もまた、それに近い望みを抱く1人である。最も彼においては、非日常を知らぬなど状況が許さなかった。
「ここにも夜妖が……!」
 もうじき日が完全に暮れる夕時。それにしては下校する学生も、帰路につくサラリーマンもいない時点で違和感はあったのだ。
 啓一郎は気づかれる前にとゆっくり後ずさる。まだ夜妖はこちらに気付いていない。今なら何事もなく『日常』へと帰ることができるだろう。
 けれど。
「……子供?」
 剣呑な表情を浮かべる啓一郎。夜妖の視線はそちらへ向けられていた。子供は――意識はあるようだが、へたりこんでしまっている。そうでなくとも未知の化け物から一般人が逃げおおせるなんて難しい。
(俺も普通が良かったんだけどな)
 そうもいかない力が啓一郎にはある。そして彼は目の前の状況で誰かを見捨てられるような性格でもない。
「全く、ままならないな」
 苦笑交じりにそう呟いて、啓一郎は拳を握った。その身からあふれ出した力が炎のように揺らめき、冬の寒さを押し返すほどの熱を持つ。啓一郎は駆けだし、夜妖の横っ面を勢いよくぶん殴った。一瞬視線のあった子供がぽかんと口を開ける。
「怪我は? ないなら立て!」
「え、あ」
 啓一郎の言葉に子供はさかんな瞬きをして、それからようやくノロノロと体を起こす。その頃には近所の塀にぶつかった夜妖も体勢を立て直していた。標的を変え、向かってきた化け物の攻撃を受け止めた啓一郎は、背中に庇う子供を見ずに叫ぶ。
「カフェ・ローレットまで走ってこの事を伝えるんだ!」
「でも、」
「早く!!」
 子供は弾かれたように駆けだしたが、視界いっぱいに夜妖を映した啓一郎にそれは見えない。ただ、小さな足音と共に追いかけようとする夜妖を押しとどめる。
 恐らく、この夜妖を倒しきることは難しいだろう。けれど子供の後を追わせず、援軍まで持ちこたえるくらいはできる。
 一方の子供は、完全に暗くなった道を必死に走っていた。もうすぐ家につこうという学生が、全力で走る子供を見て「門限が近いのかな」と友人同士でこぼす。もう間近という場所に見えた看板に、子供はぱっと顔を上げた。
 あそこだ――カフェ・ローレット。

GMコメント

●成功条件
 夜妖の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●フィールド
 希望ヶ浜の住宅地。大人が3人くらいは並べる広さですが、周囲を気にするのであればさほど広い場所とは言えません。
 夜妖の効果か、一般人の姿はありません。周囲の家にも灯りはついていません。不在なのか眠っているのかは不明です。

●エネミー
・夜妖『シャッフェン』
 人々の想像から形どられた化け物。3メートル越えの全長を持っており、翼がついていたり、岩のように固い部分があったり、目がピカピカ光ったりします。【飛行】能力を持ちます。
 意味不明な言葉を喋ることもあるようですが、意思疎通は難しいでしょう。
 会敵時、全員に【狂気】【混乱】BSの判定がかかります。
 攻撃は主に突進や殴り掛かるなど単調ですが、異様に手数が多いです。
 また、靄のようなものをイレギュラーズへ吐き出してきます。靄については不明ですが、恐らく良くないものでしょう。この靄は誰かがぶつかる事で消えます。
 目から発される光もどの様な効果を及ぼすのかは不明です。
 一定時間ごとに『タズィー』と呼ばれるモノを複数体吐き出します。
 啓一郎の応戦により、若干のダメージを受けた状態からスタートします。

・タズィー
 シャッフェンから作り出されたもの。空想のかけら。人サイズの様々な姿で、半透明です。たとえ翼があっても高く飛ぶことは出来ないようですが、地面に近づくにつれその身は透けています。こちらも意思疎通は難しいでしょう。
 どんな造形であっても、攻撃の種類は同じとなります。シャッフェンによって吐き出された靄を吸い込み、蓄えると強い衝撃派を起こします。

●NPC
・篝谷 啓一郎
 メイ=ルゥさんの関係者。皆様が現地に駆けつける直前まで、夜妖が他の一般人に被害を出さないよう引き付けてます。十分戦えるだけの実力があります。
 ただし、彼はその力を知られたくないと思っています。そのため、皆様が駆けつける直前に気配を感じ、撤退するでしょう。
 リプレイ上では直接会わないかもしれませんが、『ついさっきまで誰かが戦ってくれていたらしい』ことはわかります。

●ご挨拶
 愁と申します。
 練達の被害により、夜妖が出現しているようです。
 どうぞよろしくお願い致します。

  • 再現性東京202X:あれは■■だった完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
カフカ(p3p010280)
蟲憑き
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 客足のピークは過ぎて、人もまばらなカフェ・ローレット。今日は平和だったのです、と『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)はフロア掃除の手伝いをしていた。手拭きを手にあちらのテーブルを拭いて、カウンターを拭いて。
 ――バタン!
「いらっしゃいませなのですよ!」
 笑顔と共に振り返るメイ。しかし子供の血相を変えた様子にポカンとして、それから拙い口ぶりながらも夜妖が出たのだと分かると顔色を変える。
「た、大変なのです!」
「どうした?」
 ただならぬ様子に『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)もキッチンから顔を出す。仕込みの途中だが、それは他のバイトに任せるとして。
「夜妖なのです」
 その言葉にカフカがエプロンを外し、店内にいた他のイレギュラーズも手伝おうと駆け寄ってくる。メイは急ぐのです! と我先に――着ていたメイド服もそのままに――カフェを飛び出していった。
 子供からの情報を手早くまとめ、事情を把握した『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は安心させるように子供の頭を撫でた。
「お化けなどすぐ追い払って差し上げます。ここでお待ちくださいね」
 頷く子供。珠緒は『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と目配せし、他のイレギュラーズも伴ってローレットから目的地への最短ルートを駆け出す。
「……あの子の慌てよう、尋常じゃなかったわね」
「はい。再現性東京の子供は大人びた印象でしたが」
 蛍の言葉に珠緒は視線を伏せる。子供は慌てた様子で助けてもらったのだと言っていた。きっとその誰かは、今もなお戦っているのだろう。早く駆けつけてあげなければ。
「でも、こんなことがなくても……きっと皆、不安なんだよね」
 表情を曇らせる『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)は頷く。
 夜妖というのは、怪談が形として成しているようなモノなのだろう。
 例えば、破壊の痕。
 例えば、漠然とした不安。
 例えば、曖昧な噂。
 未知なるものに想像を膨らませ、それが夜妖となる。いや、それに夜妖が吸い寄せられるのかもしれないが。
(流石に誤魔化し切れるはずもないものね)
 R.O.Oをめぐる一連の事件でマザー『クラリス』がセフィロト全土へもたらした影響は大きい。この地域だって突然電気や水が使えなくなったり、まるで現代ではないかのような現象が起こった筈だ。
 しかも、その騒動も冷めらやぬうちに亜竜たちが訪れている。その光景を見た者もいるだろうし、見ていなくとも爪痕は街に残っている。不安にもなるだろう。
「復興の筋道も中々に険しいのかしらね」
「そうかもしれない……でも、あの子を逃がしてくれた人もいるんだ」
 怯えるばかりではないと思うから、焔もそうでありたい。これ以上この街の人たちが不安にならないように、夜妖は退治せねば!

 メイとその他一同は目的地のすぐ近くで合流を果たす。メイより出遅れた一同だったが、最短ルートを駆けたお陰で追いついたようだ。
「夜妖はこの辺りで出たんだよね?」
 珠緒へ確認した焔がすぐさま神域を展開させる。意図的に壊されたら如何ともし難いが、そうでない限りは壊れない。戦った跡を極力残さないようにと結界で物質を保護すると、焔は手当たり次第に神炎をつけようとして――近くの路地で何かが揺らめいたことに気づく。
「なんだろう、あれ。炎みたい……?」
「行ってみましょう」
「ええ。あの子を逃がしてくれたって人かもしれないし」
 怪訝そうな焔に珠緒と蛍が促す。あそこで何かが動いたのは確かなのだ。
路地を曲がりざま、焔の燃えない炎が地面や壁に散って辺りを照らし出す。カフカがうわ、と顔を引き攣らせた。
 大岩が翼を広げて飛んでいる――にしては大層醜悪な見た目で。メイはひゅっと息を呑みながらも、気を落ち着かせようと自分の頬を軽く叩く。
「メイは中学生のお姉さん……負けないのですよ!」
「か弱くないし、おねーさんよりちょびっとおっきいみたいね……」
 残念そうな『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はその見てくれに臆した風もない。ものすごく冷静にその姿を観察してため息を吐く。
「朱華ちゃん、離れちゃダメよ?」
「ええ……」
 『炎の剣』朱華(p3p010458)は一つ深呼吸をした。飲まれてはならない。飲まれてなるものか。呼吸を整え敵へ駆けだした彼女は「待たせたわね!」と夜妖を抑えてくれていたであろう誰かへ声を上げる。
「ボク達も一緒に戦うわ!」
「朱華たちが来たからにはもう安心……って」
 あれ???
 蛍と朱華は目を瞬かせる。先ほど焔が見た炎のようなものはなんだったのか、そこには夜妖がいるばかり。これにはイレギュラーズたちの調子も狂う。
「ひとまず、話の夜妖はこれのようですね」
「……え、ええ。ともかくやることは同じよね」
 一体どこに、と視線を巡らせる珠緒に頷く蛍。最後までともに戦わないのは、この街では『普通ではない出来事』は許容されないからだろうか。聞く相手もいないのだから、問うてみても答えなんて出る訳がない。
(まっ、夜妖をこの場に引き留めてくれただけ上出来よね)
 ここからは自分たち、イレギュラーズの出番である。
 蛍と珠緒が息の合った動きで結界を展開し、刃を煌めかせる。舞い散る桜吹雪の中を肉薄した珠緒の刃は、硬いものに遮られて思ったほどの傷にはならない。
(あそこは随分と硬いのですね)
 翼や触手だろうか、得体の知れない部位は柔らかさそうであるが、狙いやすい大部分は大岩のようなそれだ。見掛け倒しではないことを感じながら、珠緒は休む間なく刃を振るう。
「皆、しっかりせえ!」
 カフカの力強い号令が大なり小なり、あの醜悪な見た目に惑わされていた心を晴らす。舞花は小さく息を一つ、倒すべきが明確になった相手を見据えて力強く地を蹴り上げた。
「まさに噂話のキメラと言った風情ね」
 急所になりそうな場所を狙った三撃。間近まで迫るとなにやらモニャモニャと呟いているのが聞こえたが、如何せん小さな声なので何と言っているのかわからない。しかし――理解しない方が良さそうだと舞花の直感が告げる。
「逃がさないよ! ここで倒れて貰うからね!」
 どこか鬱々とした雰囲気を吹き飛ばすかのように焔が飛び込んだ。その闘気がゆらりと揺らめき、夜妖へと猛攻をしかける。続いてメイも度の懐へ飛び込むと、速度に任せて敵を強かに叩いた。
「硬いのですよ……!」
「でも、あのにょろにょろしてる部分は良く逃げるんだよね」
 ひええ、と敵の頑強さにおののくメイ、敵を睨みつける焔。そんな彼女らに夜妖はふぅーー……と息を吐きだすようにして。
「2人とも、退いてください!」
 珠緒の言葉に後退すれば、2人がいた場所には薄灰色の靄溜まりが湧く。ひとつだけではない、いくつも吹き生まれた靄はその場に固まっているようだ。
「あら可愛いじゃない! やる気出てきたわー!」
 先ほどまで朱華の守りを粛々と行っていたガイアドニスがぱっと表情を輝かせる。その先にいたのは――。
「……幽霊?」
 カフカが首をひねり、焔が顔を引きつらせる。それはどうやら、夜妖の吐き出す靄とともに零れ落ちてきたようだ。人の姿もあれば小さなドラゴン、海月のような生物……どれもイレギュラーズたちと大差ない程度の全長だが、シルエットははっきりしている割にその詳細――顔だとか、色だとか――は判然としない。そこにいるのだということだけが分かる、幽霊にも似た存在であった。
 彼らはイレギュラーズを視認して近づいてくるものもあれば、靄へ向かって進むものもある。ガイアドニスとカフカはその視線を追って、試しに靄へ近づいてみた。
「気をつけてね!」
 焔の言葉を背に、靄へ突入する。呼吸が要らない分吸い込まないからマシなのだろうか、と思っている間にガイアドニスを包んでいた靄が消失する。同時に力をいくらか奪われる感覚がして、ガイアドニスは眉根を寄せた。
「うーん、これは触れない方が良さげやな」
「うん、これやっぱなし! 嫌な感じもするわね」
 2人は異常状態にかからない――というと正確ではないが。かかってもその影響を受けない加護がある。故に見た目は何ともないが、それでも生命力を奪われるのは避けようがない。あの幽霊モドキ、タズィーに吸収してもらった方が良さそうだ。
(にしたって、通りかかった某かはどうしたんやろ。それとも何もおらんかった?)
 イレギュラーズが到着した直前の状態を思い出すカフカは、しかし追憶もそこそこに仲間たちの支援へ力を入れる。
「こちらへ来てもらいますよ!」
 舞花の放つ玲瓏たる銀閃がタズィーを引き付ける。複数体をそうして自身の元へと寄せた彼女は、靄を迂回するように路地を駆けた。そんなもの関係ないと言わんばかりのタズィーたちは靄を次々と取り込んでいく。
「一網打尽にしちゃうよっ!」
 焔の手に握られた炎の槍が火力を増し、タズィーを越えてシャッフェンまで届くように力強く投擲される。間髪入れず朱華も鋭い乱撃で彼らを圧倒した。半分ほどが掻き消えるが、残ったタズィーがふるふると輪郭を振るわせ始める。そして――仲間へ注意を促す間もなく、周囲を衝撃波が荒らした。
「……っ!」
 蛍が珠緒を、ガイアドニスが朱華を庇う。随分な力だが、靄を十分に蓄えたからこそということか。皆へ回復を施すカフカを横目に、珠緒は蛍へ回復を施す。
「奇妙な靄に配下の放出……ほかにも何か隠しているのかもしれませんが、なかなか多芸ですね」
「ええ。でも皆がこっちに戻ってくるまでひと踏ん張りよ」
 蛍は敵を引きつけ、珠緒をかばいながらキッとシャッフェンを見上げる。ずっと前線に立ち続けて来た者として、珠緒のパートナーとして。彼女に傷一つだってつけさせやしない。
 一方のタズィーと相対するイレギュラーズたちは、どれだけ靄を吸収させるかコツを掴んできたらしい。不定期に靄が追加されるので立ち回りに注意は必要だが、焔の神炎が照らす路地は靄も見つけやすい。
(とはいえ、油断はならないですね……!)
 タズィーたちも学ぶのか、倒される前に衝撃波を放とうとしてくる。さほど靄を吸収しているわけではないので最初の一撃よりは軽いが、それも重なればダメージは蓄積する。間髪入れず迫ってくるそれに、身の内に宿る可能性が自身の体を押し上げる感覚があった。
 地を蹴った体は想定よりも高く跳躍し、当たるはずであった衝撃波を飛び越える。舞花は上空から刀を構え、タズィーの1体を切り裂いた。
 そうしてタズィーたちを一網打尽にした頃、ばさりと大きく翼をうつ音が響く。
「夜妖が……!」
「行かせないのですよ!」
 すぐさまジェットパックで飛び立つメイ。都会メイド拳法――今名付けた空中殺法である――を繰り出し果敢に戦う彼女に続き、蛍が夜妖を引き戻そうと大きな桜吹雪の結界を張り直す。夜妖の眼がピカピカと光るが、蛍の前へ立ちはだかるガイアドニスが思うようにはさせない。
「ガイアドニスさん、大丈夫?」
「任して~、おねーさん頑張っちゃうわ!」
 にっと笑みを浮かべるガイアドニス。その力は今こそが全盛期と言わんばかりに高められ、シャッフェンの攻撃もものともしない。その間にも珠緒が蛍を癒し、力を分け与える。
「キミの相手はボクたちだよ!!」
 焔が跳躍すると、路地の壁を蹴って更に上へ。まるで猫のように身軽な動きでさらに上空へと上り詰め、デッドリースカイを叩き込む。体勢を崩したその片翼を、朱華の黒顎魔王が噛みちぎった。
「皆気ぃつけて!」
 カフカも蛍の回復をしながら、落ちてくる夜妖を見て声を上げる。その間にも夜妖はずしゃりと地面へ叩きつけられた。再び翼で飛ぼうとするが、傷つけられた片翼では高く飛べまい。
(なんというか、気味の悪さはアレそっくりやな)
 思い出したくもないアレ。この世界的に言えばこういう存在と同等なのだろう。今ここで夜妖が倒れたとてアレの存在が消える訳もないのだが、人様に迷惑をかける夜妖はキッチリ倒す必要がある。
 しかし、夜妖も諦めが悪い。再びタズィーと靄を吐き出し、イレギュラーズへとけしかけていく。
「あっちは任せて!」
「ええ、私たちでどうにかしましょう」
 その総数は先ほどより少なく、夜妖の余力のなさを物語っているようだ。舞花がタズィーを引き付け、焔は夜妖へ当たるように炎の槍を構える。
「あともう少しや!」
 カフカのクェーサーアナライズに背中を押され、朱華の乱撃がほとばしる。あちらは大丈夫そうだ、とメイは夜妖怪へ向けて突撃していった。柔らかい部分を強打すると感触は気持ち悪いが、見るからにダメージを受けたと知れる。
「決めに入りましょう。これ以上暴れられても厄介です」
 いけると確信が持てるのは、終始かの化け物と相対していたからか。回復をやめ、自らのタガを外す珠緒を、蛍の咲かせる狂い桜が後押しする。
 少しだけ季節の早い花吹雪。その中で煌めいた一閃は、醜悪なるモノを塵屑へと還したのだった。

「……ふぅ」
「大丈夫!?」
 大きく息を吐く蛍に焔が心配そうな声を上げるが、彼女は問題ないと軽く手を振る。だって信頼する珠緒が傍に居るのだ、倒れる訳もなければ倒れる訳にもいかなかった。
 当の珠緒は蛍が無事なことなど分かり切っていた様子で、周辺の状況を確認している。それが済むと、報告の為にカフェ・ローレットへ帰還する事となった。
「あの敵さん、ちょっと弱ってたですよね?」
「そうね。やっぱりボク達が来るまで抑えてくれていたヒーローがいるんだと思う」
 どこの誰だったのかはわからないけれど、と呟く蛍の傍らでメイはキラキラと瞳を輝かせた。やはり都会にはヒーローがいるのだ。
「後で坊に聞けそうなら聞いてみようかね」
「それはダメなのですよ! ヒーローは姿を隠しているのですから、聞いたらもう会えなくなってしまうかもしれないのですよ!」
 ぼそりと呟いたカフカはメイの言葉に目を瞬かせ、それもそうかと小さく苦笑した。きっと誰よりも、彼女が『謎のヒーロー』というものを信じたいのだろう。
「謎のヒーローは変身するのでしょうか? 必殺技とか撃つのでしょうか!?」
「さてなぁ」
 興奮しっぱなしのメイをカフカはのらりくらりと躱す。それだってメイは気にしないけれど――不意に彼女は振り返った。
「どうしたの~?」
「何か気になることがあった?」
「……ううん、なんでもないのですよ!」
 ガイアドニスと朱華ににぱっと笑って、メイは仲間たちの元へ駆けだしていく。

 ――そんなこっ恥ずかしいことできるわけないだろ、と聞こえたのはきっと気のせいだ。

成否

成功

MVP

久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

状態異常

久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 謎のヒーロー、またどこかで気配を感じることがあるかもしれませんね。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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