シナリオ詳細
其は未だ小さな力
オープニング
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ぴちょん。ぴちょん。
断続的な水のしたたる音。それ以外は聞こえぬ鍾乳洞。水流は慣れた足取りでその奥へと進んでいく。家族たちはここの事を知っているから危険はない。水流だけの、安全な練習場所だ。
空気には水の気配が満ちている。小さい頃からずっと、それらは水流とともにあった。けれど家族は水流ほどそれを感じ取れないらしくて、水との親和性が高いのね、なんて言われるけれど。
(使いこなせなきゃ、そんなの……)
今日もダメだろうか、と勝手に足取りが重くなる。思わず立ち止まってしまいそうになって、そのことにその時ようやく気付いた。
(……こんな気持ちじゃ、出来なくて当然だよ)
上手くできるようになれば、自信だってつくかもしれない。
心の中で自らを奮起させて、再び足を踏み出す。練習場所はもうすぐそこだ。
水流が立ち止まったのは行き止まり。少し広くなったそこは隠し部屋のようでちょっとワクワクする。けれどすっかり通いなれた水流は早速と魔術の特訓を始めた。
周囲に満ちる水の気配へ語り掛ける。自らの力を流し、思うがままの姿へと変化させる。イメージするのはそう、物語の挿絵に描かれていたようなドラゴン――。
――と、水の気配が跳ねた。
「あっ」
ばしゃん!
途中まで形を作ろうとしていた水の流れは大きくうねり、小部屋の天井近くをのたうち回って弾ける。バケツをひっくり返したような水が水流の頭上へ振って来た。
その水はほとんどが被っていたレインコートで弾かれて、髪の先が多少濡れてしまった程度。風邪をひくこともないだろう。けれど水流は周囲の水たまりを見て、大きなため息を吐き出してしまう。
まただ。水の気配が遊びまわるものだから、水流の制御を外れてしまう。水流の事が好きで、嬉しくて仕方がないのかもしれない――が、それならそれで従ってくれれば良いのに、と思う事は仕方ないだろう。
けれどこれでもまだ良くなった方なのである。以前は途中まで形作るほどもいかなかったけれど、もう少しでできそうなのだ。これも兄が教えてくれた、水の気配を落ち着かせる香草のおかげである。
(そういえば、そろそろ香草の効果が切れるかも。……あれ?)
予備はまだあっただろうか。この前買いに行った時は品切れだったような気がする。今日の練習が終わったら、すぐに確認しに行かなくちゃ――。
●
「ええと、その、えっと」
「ゆっくりで大丈夫よ! 時間はいっぱいあるわ。ねえ、リチェ」
キルシェ=キルシュ(p3p009805)の言葉に傍らのジャイアントモルモットが元気よく鳴く。水流はその声にびくっと肩を震わせながらも、こくこくと頷いた。
「まずはあなたの名前を教えてくれるかしら?」
「す、すいる。水の流れで、水流です」
亜竜種の子供――少女らしい見た目をした水流が、此度イレギュラーズへの頼み事をする住人であった。ただの採取依頼と言えば聞こえは良いが、この覇竜領域デザストルにおいて採取が簡単に出来るという訳もない。特に水流が頼みたいのは多少危険な場所に生息する植物だ。
「『沈力草』という、小さな紫の花を付ける植物で……多分、今なら花が咲いている時期だと思います」
必要とする部位は花弁でないのだが、咲いているなら見慣れている亜竜種でなくても見つけられるだろうということらしい。他に間違うような種類の花もないそうだ。
「それなら取ってこれるわね! 任せて、わたしたちなら大丈夫よ!」
「そ、そう……?」
元気のよいキルシェは、しかし水流とさして年の差もないだろう。少し不安そうな表情を浮かべる水流だが、フリアノンの長が彼らへ覇竜領域トライアルを提案したと言うのだから、大丈夫という言葉もきっと嘘ではないはずだ。
「で、でも……気を付けて、無事に帰ってきてくださいね」
「ええ! 絶対に皆で届けに来るわ!」
かくして。イレギュラーズたちはウェスタからフリアノンへ地下通路で移動し、沈力草集めを始めるのだった。
- 其は未だ小さな力完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「オーホッホッホ! 姫たる私が来たからには必ずや! 沈力草を集めて帰りますわよ~~!!」
自信満々な声が良く響き、併せてピカピカと(物理的に)光り輝く『(自称)姫』劉・麗姫(p3p010422)。少年、いや少女の努力に負けないよう全力で取り組まねば。日々姫としての研鑽――研鑽と書いて筋トレと読む――を積む者として、親近感と好意を抱かずにはいられない。
「沈力草……私たちの感覚で言えば、ウィッチクラフトの類なのかしらね?」
不思議な香草ですこと、と『雪風』ゼファー(p3p007625)は首を傾げた。力を安定させる、補助的なアイテム。香草と呼ぶからには特徴的な香りがあるのだろうと『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は期待に胸を膨らませる。
「沢山採れば、少しくらい分けて貰えるだろうか」
「ええ、きっと! リチェの分も少しだけならいいって言っていたし、マルベートお姉さんにも分けてくれると思うわ!」
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は待っていてねリチェ、と気合を入れた。こんな岩場に連れて来るのは危なすぎるから、水流とともに待っていてもらうことにしたのだが――あの時の残念がりようといったら!
目に見えた衝撃を受けたリチェルカーレ。本当に置いていくの?とその瞳は雄弁に語り、ぷいぷいと悲しみの声をあげていたがキルシェもぐっとこらえた。今頃は水流と一緒に待っていてくれているだろうが、早く香草を持って行ってあげよう。水流と仲良くなって気を紛らわせていたら良いのだが。
「水流お姉さんのためにも、いっぱい集めないと……!」
「ま、事情はどうあれ、期待には応えたいものよね」
やる気に燃えるキルシェにゼファーは小さく笑う。様々な国へ訪れてきたが、この地でも人助けをすることは変わらないらしい。
(此処に限って言えば、其れで私達を試してるんでしょうけど……)
腕試し半分、人助け半分といったところか。それだけ危険な土地に来ているのだとゼファーは空を見上げる。乾いた風が彼女の髪をさらりとなびかせた。
「小さな紫の花を咲かせるのでしたか」
「ン。フリック 詳細 調査シタ」
大自然と意思を交わそうとした『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)に『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)がより詳しい情報を共有する。
例えば、紫の花はどれくらいの大きさで、どのように咲くのだとか。
例えば、亜竜の他にどのような生物が好んで近づいて来るのかとか。
例えば、沈力草と同じ気候で育ちやすい植物だとか。
「ありがとうございます。助かります」
頷いたリュティスは改めて大自然と意思を交わし始める。その後方では『宝石ぱくぱく』ユウェル・ベルク(p3p010361)がきょろきょろと辺りを見回していた。
「沈力草って外でたまに見るやつだと思うんだ。見ればわかるとおもう!」
一見、見通しにくい岩場を見回しているようにしか見えない。けれどその視界は岩の裏側も覗き込めるし、敵性存在が現れないか五感で気を付けている。戦いは頼りになる仲間に任せる分、その他のサポートはきっちりやらなければ。
『薬師』紲 冥穣(p3p010472)もユウェル同様に探索へ力を入れる。が、その様子を見れば依頼を抜きにしてこの状況を楽しんでいることが見て取れた。
(水の気配を落ち着かせられるなら、水属性の竜に対する薬にも使えそうじゃない?)
彼もまた、マルベートやキルシェ同様に少しばかり香草を頂きたい。いや、少量で良いから持ち帰って育てたい。それを使った薬が作りたくて仕方がない――というように、ちょっとだけワクワクしているのだ。
「沈力草サン ドコ?」
フリークライは植物たちへ呼びかける。声は返ってくるだろうかとほんの少し待ってみるが、応えはない。ここにはいないのか、そもそも自身が『沈力草』と呼ばれていることを知らないのか。
ひょこりと岩場の影を覗いてみると、沈力草ではないものの薄青色の花がいた。コンニチハ、と声をかけると友好的な雰囲気が伝わってくる。
「紫 花 知ッテル?」
周囲に他の植物はないようだが――そうフリークライが思った通り、薄青色の花はずっと1輪だけで咲いているそうだ。ここにいるおかげで亜竜には食べられずに済んでいるが、他の花の種も岩に遮られているために風で吹き込まないらしい。
寂しそうな気配に、フリークライは花の許しを得て自身の体へ花を植える。ここなら沢山の草花と会えるだろうし、戦ってもフリークライの命がある限り散ることはない。
「行コウ。紫 花 一緒ニ 植エル」
その言葉に、薄青色の花は嬉しそうに揺れた。
「このあたりがよく生えている場所なのよね!」
キルシェは水流から聞いた情報を仲間に確認して、それから周囲の植物に紫色の花を知らないか聞いてみる。マルベートは戦闘に備え、黒きマナを解放した。
(今のとこ、其れらしい気配はなさそうですけど)
どうかしらね、とゼファーは敵の気配を探る。その耳に「あったわ!」とキルシェの嬉しそうな声が届いた。
「これが沈力草?」
「ええ! 全部つまないように気を付けるわ」
自身へ言い聞かせるようにして。見える範囲の凡そ2割を残して摘んだキルシェは、興味深げなマルベートにどうぞと1輪の花を渡す。受け取った彼女は顔の近くに持っていき、その香りを存分に吸い込んだ。
その間にキルシェはいそいそと摘んだ沈力草をバックパックへ入れる。肩掛けのようにしているから、摘んで入れるという動作がしやすいのだ。軽くて丈夫なそれはどんな冒険だって一緒に行けるのだ。
「今日の天気は上々、なんですけどねえ」
変わらず索敵を続けるゼファーは青い空を見上げる。飛べたら気持ちよさそうだ。けれどこの地で飛んだなら、あっという間に亜竜に見つかってしまうだろう。
やだやだ、とため息交じりなゼファーの視界でユウェルが跳ぶ。それは飛ぶというより、武器を利用して跳んだという表現が正しい。ハルバードを足場に少し高い場所へ上がったユウェルは、見つけた沈力草を素早く採取した。
「次はー……あっちかな!」
ぴょんと飛び降りて、見えた沈力草まで走るユウェル。そんな姿を広域俯瞰する麗姫もまた、仲間たちどうように植物と意思疎通をしながら沈力草を集めていく。不意に影が差した――と思えば、薄青色の花が風で揺れた。
「フリック 元気ナラ 植物 元気。フリックニ 植エル?」
「まあ、新鮮なまま持ち帰れますの?」
凄いですわ、と麗姫が感心しながらフリークライへ沈力草を植え替える。仲間がやってきた、と薄青色の花が喜ぶ気持ちが2人へ伝わって来た。
(皆、順調じゃない。アタシも頑張らないとね)
冥穣も気合を入れ、香草採取に取り掛かる。彼にかけられたテスタメントで、植物たちの存在がより明瞭に見える気がする。これならあっという間に集まってしまうのではないだろうか?
しかし、この覇竜領域デザストルにおいて、そんな簡単に物事は進まない。
「奴さんも気づいたみたいね」
ゼファーが走り出す。同時に視認できた空の黒い斑点は、瞬く間に地上まで飛び込んできた。マルベートもグランクトーとグランフルシェットを構える。
「やあ、食べられに来てくれたのかな? 生憎と、香草は上げられないのだけれどね」
爛々と光る赤の眼差し、そして挑発に亜竜たちがマルベートとゼファーへ襲い掛かる。リュティスはスカートの裾を翻らせてその合間を縫うように踊る。
「最初から全力でいきましょう」
「ン。ヒーラー フリック 負ケナイ」
フリークライの支援が味方を包み込む。短期決戦とするならば火力は必須、であればそのための力は自分が支えようと。その力を受けながら麗姫は空中を舞う敵へ姫ビームを打ち放つ。
「そんな場所にいると打ち抜いてしまいますわよ!」
「もしくは飛べなくしてしまうのよ! こんな風に!」
キルシュから放たれた絶対的冷気が亜竜へ襲い掛かる。翼の羽ばたきが緩慢になり、亜竜は逃げるようにしながらもイレギュラーズと同じ高度まで降りてきた。
(こうして見ると、随分大きいじゃない)
冥穣はマルベートとゼファーに引き付けられた亜竜たちを横目で見ながら移動する。子供を1人丸呑みにできるほどとは聞いていたが、これは確かに。亜竜にとって動きにくい場所で採取を続けた方が、仲間たちも動きやすいだろう。
「大丈夫、だいじょーぶっ! いつでもどこでも平常心!」
ユウェルも近くで行われる戦闘にドキドキしながら香草を採取する。あちらに気を取られてはならない。2人が頑張れば頑張るほど、早く撤退できるのだから!
イレギュラーズたちは苛烈な火力で亜竜たちを制圧しにかかる。戦っているうちに他もやってきたら本末転倒だ。
「来てくれないなら、こっちから行くわよ?」
ゼファーが強く踏み込み、力強い雷撃と共に遥か遠くにいた亜竜を捉える。追いかけるようにリュティスの素早い射撃が亜竜の鱗を傷付け、息つく暇もなく彼女から発せられた号令が仲間たちを鼓舞した。
フリークライの紡ぐ福音を聞きながら、マルベートは大きなディナーナイフ&フォークで斬撃とともに黒炎を叩きつける。じゅわり、と肉の焦げる音がした。キルシェの放つ呪いの歌がその傷口を苛んでいく。
「とどめですわー!!」
そこへ飛び込んだ麗姫。その姫パンチが亜竜を撃墜すると、彼女は拳を握りしめる。
「やはり物理! 物理こそがさいきょー! ですわ!!」
まだまだ行きますわよー! とドヤ顔で次の敵へ向かっていく麗姫。イレギュラーズになった時期は大して変わらないと言うのに、と冥穣が感心していると、その頭上に大きな影が差す。咄嗟の事に冥穣はその場所を飛び退こうとした。間に合わないか――そう思われたが。
(こんなところで倒れたら、自分用の沈力草も持ち帰れないじゃないの!)
倒れてたまるかという思いにパンドラが反応し、その運命を回避する。小さく息をついた冥穣は、すぐさまマルベートに引き付けられた敵を見送るのもそこそこに、沈力草の採取を再開した。
「沈力草を!」
「はーいっ!」
ユウェルはファミリアーへ香草を持たせ、送り出す。水流が心配しているのだから、必ず全員で帰らなくては。
「モウ少シ。ミンナ 守ル」
フリークライはその大きな体でマルベートの前へ立ちはだかる。敵の鋭利な爪などを受けながらもマルベートを回復すれば、彼女はありがとうと小さく笑った。
「時に、これは私の嗜好なのだけれどね? 同じ地の食材を合わせるのは好ましいと思うんだ」
例えば――摘みたての香草と、新鮮な亜竜肉とか。
その不穏な笑みに嫌な気配でも感じ取ったのか、亜竜たちが警戒の色を見せる。だがここで退かない選択肢をした時点で、彼らの未来は決まったと言うべきだろう。
「ランチに選ぶ獲物を間違ったわね?」
「私としてはありがたい限りだけれどね。ランチが向こうからやってきたんだ」
そうねえ、と呟いたゼファーは亜竜の急所を気によって貫く。痛む体をものともせず、絶命した亜竜からまだ生きているそれへと視線を移して。
「ぶち抜いてやりますわー!!」
そこへ突っ込んだ麗姫が手練れのイレギュラーズに引けを取らない威力で姫パンチをくらわせる。この士気を下げてはなるまいと、キルシェは濡れない雨を降らせた。心を温かくするような、春に咲く淡い桃色の花弁を思わせるような、優しい慈しみの雨。
「これで仕舞いです」
その雨に活力をもらって、リュティスが踊る。死へ誘うその舞は、容赦なく亜竜の命を刈り取った。
●
戦いが終わるたびにリュティスが怪我人を治療し、動ける者から再び採取を始める。幸いにしてリュティスが最後の手段を使うまでもなく、少しずつでも順調に沈力草が集まっていた。
「岩の影にも咲くんなら……やっぱりね」
ゼファーはジメジメした場所へ足を踏み入れ、そんな環境でも力強く咲く花を前に膝をつく。優しく手折って、袋の中へ。
「こっちの方にもあるみたいだ」
顔を上げるとマルベートが向こうだよ、と指でさしている。それからあっちとこっちと、と的確に見つけ出していくマルベートは、すっかり匂いを覚えたようだ。
「水流お姉さんの分良し、リチェの分良し!」
「こっちも大丈夫だよ」
「アタシもよ」
マルベートと冥穣もキルシェへ頷く。必要数が集まったのなら、余計な戦いが起こる前に急いで帰ろう!
リュティスが殿を務め、一同は足元に気を付けながらフリアノンへ。それから地下通路を渡ってウェスタへと移動する。外はドラゴニアにとっても気の休めない場所で、ユウェルなんかはひたすら草むしりをしていたのだからすっかりクタクタであった。
(でも戦ってるせんぱいたち、めっちゃかっこよかったなー。わたしもがんばるぞー!)
まだ、あんな風にはなれないけれど。ちゃんとイレギュラーズとして活動していたなら、いつかきっとなれる気がするのだ。
「あ、いた! 水流お姉さーん! リチェー!」
キルシェが大きく手を振れば、水流が振り返ると同時にリチェルカーレが走り出す。馬並みの速度を出すジャイアントモルモットは、しかしキルシェへ突撃する前に減速し、甘えるようにそっとすり寄って来た。
「リチェの分もあるのよ!」
「け、怪我とか……っ」
「この通りよ」
ゼファーが余裕ありげな笑みを見せ、水流は安堵と同時に尊敬のまなざしをイレギュラーズへ向ける。本当は多少の怪我も残っているが、数日休めば直る程度の傷をわざわざどうこう言うまでもないだろう。とはいえ、傷をものともせず次の依頼へ出発するイレギュラーズもいるだろうが。
「水流お姉さん、これ!」
「こんなに……! これなら……沢山、練習できます」
キルシュから受け取った袋の中を見て嬉しそうに笑う水流。その言葉に麗姫はまあ、と言葉を漏らした。自分より年下だというのに、かなりの努力家だ。今だって完全とは呼べずとも、途中までは操れていると聞く。そこに至るまでも並大抵の練習量ではないはずだ。
「水流様。素敵な努力家の貴方なら、いつか絶対に出来ますわ。自信を持って、でも気負い過ぎても駄目ですわよ!」
彼女の言葉に水流は目を丸くする。続くようにフリークライが自身へ植え替えていた沈力草を渡した。
「草花 実ルヨウニ 努力 実ル」
「そうですわ。ですから……いつか水流様の操る水龍を見せてくださいませ!」
「いいわね! 水流お姉さんの練習するところも見せて欲しいわ!」
「え、えっ、」
麗姫とキルシュの申し出を聞くと水流は途端に視線をうろつかせる。出来るだろうかと不安そうな水流には、しかし目標があった方が上達するというキルシェの言葉に心を決めたようだった。
「……来るときは、雨避けのような……もしくは、濡れても良い服とか……そ、そういうのを、用意してきて、くださいね」
「「!!」」
ぱぁっと瞳を輝かせる2人。練習を見る程度でそんなに喜んでもらえるのか、と目を瞬かせた水流を見てゼファーはふいに瞳を眇めた。
(んー……?)
ははあ、という呟きにフリークライは顔を向けるが、ゼファーは自身の内で解決したらしく、それ以上の言葉が出てくることはない。
(まあ、事情があるんでしょう)
水流のそれは知らないが、わざわざ聞くようなことでもない。必要があれば――あるいは、話しても良い程イレギュラーズが仲良くなったら――話してくれるに違いないから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
水流もこれで続きができるようです。
それではまたのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
沈力草を一定量回収する事
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●沈力草
デザストルの岩場に生えることがある植物。今の時期は小さな紫の花を咲かせています。これを水流から預かった袋いっぱいに詰める必要があります。バレーボール1つ分くらいの大きさの袋です。
沈力草であればどの部位でも問題ないそうなので、丁寧に根っこから採取する必要はありません。
岩場の影になる場所などでも逞しく育つため、見つかりにくい場合があります。根本的にそこまで群生していないため、見つかる量は少ないです。しっかり探しましょう。
●フィールド
亜竜集落フリアノン周辺の岩場です。ごつごつとしていて、場所によっては足場が不安定かもしれません。
空が良く見えるため、亜竜に見つかりやすいです。『依頼達成が見えたら速やかに撤退してください。』
●エネミー
・バクーナ×??
亜竜の一種です。黒紫の身体を持ち、2対の翼で力強く空を飛びます。その口を開けば子供1人丸呑みに出来るでしょう。彼らは非常に攻撃的で、沈力草の生える辺りをテリトリーとしているため、イレギュラーズを見つけ次第襲い掛かってくるでしょう。
反応速度が非常に高く、あっという間に餌へと接近します。また、牙や爪による攻撃は肉を抉るほどに鋭いです。【出血】【ショック】等のBSが想定されます。
ただし、沈力草をひとつかみ食べさせることで攻撃力を軽減させることができます。依頼された分と兼ね合いを考えながら使用するのも一つの手です。
●NPC
・水流
キルシェ=キルシュ(p3p009805)さんの関係者。亜竜集落ウェスタ出身の『少年』ですが、ワケあって娘として育てられています。口調などは少女らしいですが、中身はれっきとした男です。イレギュラーズは見てすぐ少年と気づいても、気づかず少女だと思っていても構いません。
水との親和性が高いものの、制御する力はまだ未達です。故に今回依頼した植物の力を借りながら練習しています。基本的に自信がなく、おどおどしています。
採取依頼にはついていきませんが、リプレイの最後で届ける時に多少の言葉は交わせるでしょう。
●ご挨拶
愁と申します。
覇竜領域トライアル、無事に成功させましょう。ただし無理はし過ぎないように。依頼人は無事での帰還も望んでいます。
それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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