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シナリオ詳細

亜竜の谷に、声は響き

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●集落から集落へ。
 覇竜領域。その前人未到の危険地帯に住まうのは、竜のような特徴を持つ人間、亜竜種たちだ。
 亜竜種たちはいくつかの集落に棲んでおり、特に巨大な三つの集落がある。その一つがフリアノンだ。
 さて、先ほども言った通り、フリアノンを始めとする三つの集落以外にも、いくつかの小集落は存在する。その集落同士はしっかりと連絡を取り合っており、時に物品や食料などを融通し合う事もある。危険な土地だ。助け合いも必要である。
 そんなわけだから、行商人のような存在も、勿論存在するわけだ。例えば、ここにいる隊商。今、覇竜領域の険しい谷を行くこの一団も、そんな商人のような人々だ。彼らは別の集落から物品や食料を仕入れ、それを別の集落で物々交換することで、自分たちの集落に物品を持ち帰る、というようなことをしている。
「……しかし、ここは何度通っても生きた心地がしねぇな」
 亜竜種の男が、そう言った。この隊のリーダーである。馬に似た陸生動物に車を引かせ、その車に交換したばかりの物品を満載にして、この谷を抜けている最中だ。
「だが、他にルートがないからな……」
 副隊長の男が言う。この領域に生きる彼らとて、この地を自由気ままに生きることができるわけではない。緻密に張り巡らされた「比較的安全な地帯」を、どうにかこうにかやりくりして生きているに過ぎない。その「安全な地帯」を抜ければ、待っているのは容赦のない死だけだ。この谷も、険しい道だが、他のルートに行けば、良くて亜竜、最悪は竜に遭遇して、命を落とすことは目に見えている。
「でも、ここも亜竜の住処に近い。さっさと抜けないとな……」
 今回の旅で、ここは最も過酷なルートだった。谷という事で、元より足場も悪く危険だが、ここは亜竜の住処が近い。何かの気まぐれで、亜竜が……ワイバーンがやってこないとも限らないのだ。
 そういうわけだから、隊のメンバーは、緊張の面持ちで、この谷を進んでいた。陽気な彼らも、ここを抜ける際には口数が少なくなる。だが、いつもはなんという事もなく進むことができた。そして、杞憂だったな、と笑い合うのが常であった。
 ……今日この日は不運だった。先日起きた小さな地震が、谷の地盤をわずかに崩していた。その上を、隊の荷車が通った時、その地盤の限界が訪れたのだ。
 ガラッ! と、意思が崩れるような音が聞こえた。刹那、荷車が大きく傾いた! 荷車を引いていた馬が、いななきを上げた。
「馬を落ち着かせろ! 何があった!?」
 リーダーが叫ぶ。御者の男が馬を落ち着かせているのを尻目に、裏手の方に回ると、隊の女性が蒼い顔をしていた。
「だ、脱輪です。地面がかけて、車輪が外れて……」
 軸が無残にへし折れて、車輪が転がっていた。荷車は斜めに沈んでいて、このままでは動きそうにない。
「直すまでにどれくらいかかる?」
「わかりません……総出でかかってどれくらいになるか……」
「まずいぞ、動物たちが騒ぎだした」
 別の男が、リーダーに言う。
「ワイバーン共の狩の時間かもしれん。もしかしたら、この辺まで飛んでくる可能性はある」
「まずいな」
 リーダーが頷いた。
「副長、集落に鳥を飛ばしてくれ」
 その言葉に、副長が顔を青ざめる。緊急事態だ。隊は緊急用に伝書鳩のような鳥を持っている。いざという時に、それを集落に飛ばして助けを乞うのだが、何せここは覇竜領域。のんきに鳥など飛ばしたところで、ワイバーンに食われる可能性は非常に高い。
 言い換えれば、その一縷の望みにかけても、助けを呼ばなければならない事態という事だ。
「わかった、祈っててくれよ」
 副長はそういうと、荷車の檻の中から、一羽の鳥を解き放った。白い鳥はばさり、と翼をはばたかせると、隊の祈りを乗せて、空を飛んでいった――。

●隊商、救出
「おい、ローレットってのはあんたらだな!?」
 と、あなたたち、ローレットのイレギュラーズは、そう声をかけた。
 あなた達が、この集落にいたのは、様々な理由があるだろう。仕事を探していたのかもしれないし、はたまたその帰りかもしれない。あるいは、たまたま現地を探検に来ていたのかもしれない。いずれにせよ、この場にあなた達イレギュラーズがそろった、これだけが確かな事実だ。
「たのむ、緊急事態なんだ! 話を聞いてくれ!」
 亜竜種の男は、あなた達にそう懇願する。そのあまりの剣幕に、異常事態を悟ったあなた達は、落ち着かせるように、力強く頷いて見せた。
「ありがてぇ。
 実は、他の集落と品物のやり取りをする隊が、事故って動けなくなっちまったんだ!
 よりにもよって、ワイバーンの住処に近い、亜竜の谷でだ!」
 男が言うのは、隊商が、最も危険なルートで立ち往生してしまったのだという。
 隊のメンバーは、替えの軸と車輪、そして帰還までの護衛を願っているというのだ。
「それだけじゃねぇんだ。さっきも言った通り、あそこはワイバーン共住処に近い。下手にぐずぐずしてたら、匂いを嗅ぎつけられて、皆殺しにされちまうかもしれねぇ!」
 なるほど、それは一大事。一刻も争う事態に違いない。あなた達は、頷いた。
「よし、わかった。救出と、護衛。それが依頼だな?」
 あなたの仲間のイレギュラーズが言う。
「一刻を争いますね。場所を教えてください。すぐに向かいましょう」
 仲間のイレギュラーズがそういうのへ、亜竜種の男が何度も頭を下げた。
「助かる! ちゃんと報酬は払うからよ! とにかく、すぐに向かってくれ!」
 あなたは、男から地図を受け取った。バツ印がついている谷が、現場だ。
 あなた達は修理用の軸と車輪を受け取ると、早速現場へと向かうのだった……。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 危険な谷で立ち往生してしまっている隊商を、助け出しましょう!

●成功条件
 隊商の荷車を修理して、谷から無事に脱出させる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 あなたたちに届いたSOSの声。それは、危険な谷で荷車を故障させてしまい、動くことのできなくなった隊商からの者でした。
 件の谷は、ワイバーンの住処に近い場所。今は無事でも、いつワイバーンが人の匂いをかぎつけ、飛来するとも限りません。
 速やかに、彼らを助ける必要があります。
 皆さんは、修理工具を持って現場に向かい、荷車を修理。そのまま彼らとももに谷を脱出してください。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は少々足場の悪い谷底になっています。
 
 今回は、荷車を修理する必要があります。何のスキルや道具もなくても、修理自体は可能です。
 スキルや道具、プレイングなどで、その修理時間を短縮することができるでしょう。
 なお、ワイバーンの襲来は確実にあります。警戒を怠らないでください。

●エネミーデータ
 レッサーワイバーン ×???
  いわゆる、空飛ぶ蜥蜴、ワイバーンです。シンプルな外見と性能ですが、高い生命力は、亜(デミ)でも竜の名を冠するにふさわしい高さです。
  前述したとおり非常にタフです。倒せないことはない相手でしょうが、今回は荷車の修理と、隊の人々を護らなければならないことをお忘れなく。
  また、どれだけの数飛来するかは、ランダムになります。当然10だの20だのは来ませんが、それでも、複数のワイバーンと戦う準備はしっかりとしてください。

●護衛対象
 隊商のメンバー
  総勢10名ほどの亜竜種の人々です。基本的に戦闘能力はありませんので、しっかりと守ってあげてください。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • 亜竜の谷に、声は響き完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ
カフカ(p3p010280)
蟲憑き
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
霞・美透(p3p010360)
霞流陣術士

リプレイ

●一刻を争う
 険しい山々と、一歩先に奈落の待ち受ける、峻厳なる大地。
 その、谷を構成する道を、イレギュラーズ達はひた走る。
 目的は、この地で立ち往生してしまった隊商たちの救出だ。
「覇竜領域はとても危険な場所だ。こういうふうに、危険と隣り合わせでも、どうしても通らなきゃならない場所はある」
 『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)がそう告げる。ドラゴニアである美透だ、この様な、危険と隣り合わせのルートは、美透の住んでいた集落にも存在したかもしれない。
 事実そうだろう。竜、或いは亜竜、そしてそれらに負けず劣らずの恐るべき魔物の徘徊する覇竜領域。安全の確保されたルートがある、とはいえ、それだって絶対ではない。
「皆、力を貸しておくれ。イレギュラーズとして、皆の仲間になったことはもちろん、それ以上に、同胞の命を救いたいんだ」
 美透の言葉に頷いたのは、『音撃の射手』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)だ。
「ええ、勿論です。これもまた、亜竜種の皆様との交流の形と言えましょうか。
 急峻な地形の多い場所であれば、そうしたトラブルもつきものでしょう」
「確かに、中々険しい場所だ」
 『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が言った。
「覇竜領域の外の国なら、間違いなくルートとしては避けるだろうな。
 だが、ここを通らなければならないほどに、安全な場所は少ない、という事か。
 美透の言葉の意味を肌で感じるよ」
「ええ。やはり、険しい場所なのですね。覇竜領域とは」
「まぁ、大変だが……悪い所ではないけれどね?」
 マクダレーナが頷いたのへ、美透が相槌を入れて見せる。
「じゃあ、ハヤく助けに行ってあげないとね?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が言った。
「きっと不安だろうからね! それに、オレ達だって、1体や2体くらいのワイバーンなら相手できるけど、この辺は巣が近いんだろう?
 5体や6体も出てこられたら、オレたちだって危ない!」
 イグナートは戦いを楽しむ闘士である。ワイバーンとも喜んで殴り合うだろうが、しかし、危険を理解できない無鉄砲というわけではない。
 自分たちの実力と、相手の脅威をしっかりと図ることはもちろんできる。というより、それができねば、戦いの中に身を置いて生き残ることはできない。
 その時奇妙な鳴き声が聞こえた。鳥のような、或いは爬虫類のような。その鳴き声に、イレギュラーズ達は表情を硬くする。
「……近くには居ないようですが」
 『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が、耳をわずかに傾けながら空を見上げる。急峻な岩肌に囲まれた空は狭い。だが、その合間を縫って、鳴き声の主が――ワイバーンが、いつ襲い来るかはわからない。
「急ぎましょう。イグナートさんのおっしゃる通り、物量で来られては、この人数では勝ち目はありません。
 私達の目的は、あくまで人命救助。ワイバーンの全滅ではないのですから」
 クーアの言葉に、仲間達は頷く。改めて、依頼の達成条件を胸に刻み込んだ。
 一行は、再び険しい谷道を行く。しばし進むと、前方から「おーい!」という声が響いた。視線をやれば、大きく手をふる男がひとり。
「商人さんですね?」
 『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)が声をあげた。小さな体に、荷車の替えのパーツを抱えたメリッサの姿を見た男は、
「こっちだ! それ、車輪の替えなんだろう!?」
 と声をあげたから、メリッサが頷く。
「はい! 伝書の鳥さんからメッセージを受け取りました。
 もう大丈夫……とは言えませんが、ひとまず安心してください」
 メリッサが、落ち着かせるように微笑んで見せる。ああ、と胸をなでおろした男が、
「リーダー! 助けだ! 助けが来たぞ!」
 と後方に叫んでから、イレギュラーズ達を迎える。
「俺はこの隊の副長をやってる、ジギンズだ。よろしく」
「ローレットのイレギュラーズ。私はモカ・ビアンキーニだ」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が頷く。
「とにかく、状況は一刻を争う。私達が、周囲の警戒と修理を手伝うから、隊商の皆は荷車の近くでまとまって、身を護っていてほしい。
 もちろん、何かあったら私達が戦う。その隙に、逃げ出してほしい」
「あ、ああ。すまねぇ。獣だの、弱い魔物だのなら何とかなるが、ワイバーンは流石に相手ができねぇ」
「いいんだ、その為の私達だ」
 モカの言葉に続くように、『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)が声をあげた。
「じゃ、荷車見せてもらえます?
 なんか、話やと、車輪の方がお釈迦になってるって聞きましたけど」
「ああ、こっちだ、ついてきてくれ」
「了解です。
 メリッサさん、パーツお願いします! 美透さんは、修理のサポートを!」
「はい!」
 メリッサが、パーツを抱えて宙を滑るように飛んだ。美透はカバンから、練達から仕入れた簡易修理工具を取り出した。
「これで道具は足りるかい?」
 美透が言うのへ、カフカは笑った。
「上々やね、2人のおかげで手早くやれそうや」
「パーツ、ここに置いておきますね」
 メリッサが、車輪と軸になる棒を、荷車の近くに置いた。
「私はこのまま、周囲の警戒にうつります」
「私も手伝おう。私は料理は作れるが、物の修理はできないんだ。崖の上で見張りをしてくるよ」
 ウインク一つ、モカが言う。メリッサは頷くと、二人は飛行し、崖の上へと飛んでいく。
「よし、じゃあ、隊の人も出来れば手伝ってください。
 美透さんも、頼んます」
「もちろんだとも」
 美透が頷き、隊のメンバーの中でも、体力のありそうな数名が頷いた。
 そして、早速、荷車の修理を始めるべく動き出したのだ。

●2つの戦い
 さて、イレギュラーズ達は大まかに、二つのチームに分かれている。と言っても、修理を担当する美透とカフカ、警戒と戦闘を担当する残りの6名、といった構図だ。
「基本的には偵察……とはいえ、修理が終わらない事には動けない。
 ならば、修理の方にも手を貸すべきだな」
 ふむ、と唸りつつ、エイヴァンが荷車へと近づく。
「何か手伝う事は――」
「ありますよぉ?」
 カフカは笑った。
「その辺から、台座になりそうな石を持ってきてほしいよ。ジャッキ代わりに使いたい」
「ジャッキ……車体を持ち上げて支える工具だな?
 支えられる石くらいなら持ってこれるが、持ち上げるのは大丈夫か?」
「それは、俺たちがやりますよ」
 と、隊商の男衆たちが頷いた。エイヴァンの筋力には及ばずとも、数名で力を合わせれば、車体を持ち上げることくらいはできるだろう。
「よし、では少し待っていてくれ」
 エイヴァンがその場から離れる。一方、イグナートは狭くも高い空を見上げていた。
「うーん、ここは左右に逃げられない。いざという時は、帰り道に向って突破する必要があるけれど……」
 切り立った岩場は、左右への逃げ道をふさいでいる。戦闘程度なら問題ないだろうが、隊商が逃げるためには、どうしても前進する必要がある。
「幸い、崖の出口からここは近いのです」
 クーアが頷いた。
「荷車がなおれば、脱出はできるでしょう。
 最悪の場合、商人さん達だけでも脱出させなければなりません。
 依頼としては、失敗になりますけれど」
「そうだね。品物は失われちゃうかもしれないけど、イノチには代えられないからね」
 ふわ、と、空に影が差した。ワイバーンではない。上空を警戒する、メリッサの影だ。
「……上空で見張っていただけるのはとても助かりますが。やはり、あそこでは一番にワイバーンの標的になってしまいます。すこし、心配ですね」
 マグタレーナが言った。もちろん、戦力として心配しているわけではない。半ば囮のような立場になっている仲間への、純粋な怪我の心配である。
「マグタレーナ、鳴き声とかは聞こえるかい?」
 イグナートが言うのへ、マグタレーナは頷いた。
「はい。確実に、近くに。出来れば、気づかれないまま脱出をしたい所ですが――」
 わずかに、マグタレーナが眉をしかめた。というのも、がん、と甲高い音が響いたからだ。それは、荷車を修理する際に、どうしても発生してしまう音だ。
「……あの音を、見逃してはくれないでしょう。異音として警戒して去ってくれるなら良いのですが……」
「それは希望的観測すぎるかもなのです」
 クーアの言葉に、皆は頷いた。警戒しすぎることはない。ここは危険地帯なのだ。この修理音を、餌(ニンゲン)の発する音だと理解したワイバーンがいたならば、此方に向かってくる可能性は低くはない。
 さて、視点を修理チームに戻そう。エイヴァンが持ってきた岩で、荷車の車体を支える。持ち上がったその下に、カフカはもぐりこんで、
「あっちゃぁ」
 と声をあげた。
「折れてるだろう?」
 隊商のリーダーが声をかけるのへ、カフカは頷いた。
「えらい派手に折れてますわ。こりゃ、応急処置でギリギリ……替えのパーツや工具を持ってきてよかったです」
「直せそうかい?」
 美透がそう尋ねるのへ、カフカは頷く。
「もちろん。ローラーシューズも無茶してよう脱輪するんで慣れてるよ……でも、せっかくパーツ持って来たんで、とっかえちゃえましょう。その方がかえって早い」
「よし、俺たちも手伝うぜ、兄ちゃん」
 隊商の男が言うのへ、カフカは、
「どうもです。エイヴァン君、新しい軸用意してもらえます?
 他の皆は、この折れた軸を抜いといてください。
 美透さんは、修理のサポート、頼んます」
「ああ、わかった。すぐに出交換できるように準備しておこう」
 エイヴァンの言葉に、美透が続く。
「サポートだね? 喜んで。それと、他の車輪の点検も必要だろうね」
「それはもちろん。折れた時にひびとか入っとるかもやし」
「では、君が本修理をしている間に、簡単に点検を行っておこう。大丈夫かい?」
 美透の言葉に、カフカは頷いた。
「ええ。じゃ、さっさと始めちゃいましょ!」
 本格的な修理が始まったのを、モカは眼下に眺めていた。崖の中腹あたり。飛行で飛んで足を降ろしたそこで、だ。
「下は順調に進んでいるね。こっちは――」
 モカがそう声をあげた刹那。
「近づいています、警戒を!」
 マグタレーナが、声をあげた。同時、メリッサがばさり、と翼を翻した。
「来ました! 3体! 近づいてきます!」
 メリッサが声をあげた刹那、メリッサに向けて、ワイバーンが口を開いた。ごう、と息を吐き出すと、こぶし大の炎球を生み出し、口から打ち出した! 低級の炎の術式だ! メリッサは、慌てて身を翻した。空中での姿勢制御は難しい。何とか直撃は避けたものの、メリッサは大きく体勢を崩し、炎の弾丸が巻き起こした気流に巻き込まれ、飛行のコントロールを失ってしまう!
「う、うっ!」
 メリッサが呻いた。うまく翼が羽ばたけず、地に向って落ちる――が、飛び出したのはモカだった。メリッサを受け止めると、自身の飛行能力を使って勢いを殺す。が、足りない。わずかに速度を上げたまま落ちる二人――それを受け止めたのは、イグナートだった。
「よし、キュウジョOKってね!」
「すまない、助かった!」
 モカが声をあげる。
「メリッサはダイジョウブかい?」
「は、はい。びっくりしてしまっただけです」
 元々、ワイバーンに見つかる前に地上に降りるつもりだったが、どうやら目に関しては敵の方が一枚上手だったようだ。先手を許してしまったが、此方に大きな被害はない。……が、ここからどうなるかはこちらの腕次第だろう。
「来ますよ、修理の方は?」
 クーアが叫ぶのへ、美透が応えた。
「もう少しだよ。恐らく、あと一分ほど……」
「了解です。追い払います!」
 クーアの言葉に、エイヴァンが頷いた。
「ああ、それでいい! なるべく逃げ道を確保しながら戦うんだ!」
 エイヴァンが、獲物を引く抜いて駆けだす――同時、彼らの眼前に、3体の亜竜が降り立った。どちらもシンプルな外見をしている。特異な個体ではなさそうだが、数を相手にするのは面倒。
「私が敵を引きはがします、馬車には近づかせないのです!」
 クーアが叫び、その手を掲げる。指先より放たれる雷の漁火が、ワイバーンたちを鞭うつように跳ねた! ぎゃぎゃ、と鳴き声をあげたワイバーンたちが、クーアへと襲い掛かる。飛び込んだワイバーンの、脚によるストンピング。クーアは跳躍してそれを回避――続いて、横合いから放たれたマグタレーナの歪曲術式が、空間ごとワイバーンの足を穿つ。ばぢん、と足元がはぜ、ワイバーンが中空へと飛んで逃げた。
「荷車のルートを開けましょう。恐らくは、撤退戦になります」
 マグタレーナの言葉に、モカが頷く。
「ああ、正直、隊商の皆を庇いながらワイバーンをせん滅するのは、難しいね」
「イグナート君、念のため、隊商の方についてください。
 万が一、ワイバーンが向かったら……お願いしますね?」
「そうだね、短期決戦は難しそうだ! 今回はゴエイにまわるよ!」
 マグタレーナの言葉に、イグナートが頷いた。ワイバーンたちが、威嚇するように吠え、イレギュラーズ達に迫る。鋭い爪、あるいは牙。シンプルながら凶悪な暴力の奔流が、イレギュラーズ達を傷つける。
「おおっ!」
 エイヴァンが、上空から飛来したワイバーンの爪を、その身体で受け止める。カウンターぎみに巨斧で殴りつければ、ワイバーンがぎゃあ、と鳴いて上空へと逃れる。
「行けるか、カフカ!?」
 エイヴァンが叫んだ。
「接続はできた! 美透さん、他の車輪は?」
 カフカの声に、美透は頷いた。
「ああ、問題ないよ。馬の方はすぐに動けるね?」
「ええ、大丈夫です!」
 御者の女性が頷く。
「では、このまま荷車を発進させよう。
 もし怪我をしているものがいたら、荷車に乗ってくれ。
 そうでないなら、可能な限り走って欲しい。
 前だけを向いて、周りを見ないで。
 私達を、信じて。走るんだ」
 美透の言葉に、隊商のメンバーたちが頷く。
「イグナート君、カフカ君、出発しよう!」
「リョウカイ! 皆! 隊商を脱出させるよ!」
 イグナートの声に、メリッサが頷いた。メリッサが生み出した小さなゴーレムが、ワイバーンの顔面にへばりついて、ぼん、と爆散した。泥がその目を潰し、ワイバーンを混乱させる。
「はい! 私達で、ワイバーンの意識を散らせます!」
 ぎゃあ、とワイバーンが鳴き声をあげて、暴れまわる。その爪が隣にいたワイバーンに突き刺さり、同士討ちのような様相を呈していた。
「今のうちです……!」
 メリッサの言葉に、応じるように荷車が出発する。必死の顔で、隊商のメンバーが走り抜けていった。ワイバーンが、それを追おうと飛び上がるが、
「させない、のです!」
 再び放たれるクーアの漁火が、ばぢばぢと走りワイバーンたちを撃つ。
「お前らの相手は、こっちだ!」
 エイヴァンが叫び、巨斧を叩きつける。ワイバーンたちは悲鳴をあげて跳躍。いらだつように、小さな火球を生み出して吐き散らす!
「やはり、下級といえど亜竜……油断はできませんね」
 轟轟と燃える火球が、マグタレーナの肌を焼いた。
「とは言え、倒す必要はありません。隊商の方はどうですか?」
 マグタレーナの言葉に、エイヴァンが頷いた。
「ああ、谷からは離れられたらしい!
 こちらもほどほどで離脱しよう!」
「はい。縄張りから抜ければ、追っては来ないはずです」
 メリッサが頷く。
「よし、では、皆も離脱を! しんがりは俺が務める!」
 エイヴァンの言葉に、仲間達は頷いた。
「わかりました、では、撤退を!」
 クーアが叫ぶ。仲間達は、ワイバーンにけん制打を打ちながら、撤退を開始した。ワイバーンの攻撃をエイヴァンが受け止めつつ、
「追い込まれた猫の一撃、亜竜にも引けをとらないと知るのです!」
 クーアの放つ光弾術式が、ワイバーンの翼を打ち、その脚を止めて見せた。一行は一気に、谷の出口むけてひた走る!
「よし、もう少しだ!」
 エイヴァンが叫ぶと同時に、一行は谷から抜け出た。ワイバーンたちがぎゃあぎゃあと鳴き声をあげながら、しかし縄張りから逃げだしたイレギュラーズ達を追う事は無い。向こうも、縄張りの中のみが安全地帯なのだ。わざわざ危険を冒してまで、その外に餌を追いに行こうとは思わないのだろう。
「ひとまず、離脱はできたね」
 モカの言葉に、メリッサが頷いた。
「はい。隊商の皆さんは……?」
「ああ、こっちはダイジョブだよ!」
 イグナートが声をあげた。そちらに視線をやれば、息を切らせてへたり込んでいる、隊商のメンバーたちの姿がある。
「ここまで逃げられれば、一安心だろうね」
 美透がそういうのへ、リーダーの男が頷いた。
「ああ、ここは亜竜の縄張りの外だ。助かったよ……本当に……」
 安堵の表情を浮かべる、隊商のメンバーたち。カフカも、ふぅ、と汗を拭いて見せた。
「なんとかなったみたいやな……あ、一応、集落に戻ったら、荷車を本格的に修理した方がええですよ」
「そうするよ……」
 リーダーの男が頷く。
「では、集落に戻りましょう」
 マグタレーナが言うのへ、仲間達は頷く。
「はい。道中の護衛もお任せください」
 クーアはにっこりと笑ってそういうのだった。

成否

成功

MVP

カフカ(p3p010280)
蟲憑き

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、隊商は無事に離脱。
 皆さんと共に、集落へと帰り着くことができました!

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