PandoraPartyProject

シナリオ詳細

其は黒き眼を持ち、奇怪なる声でなくモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●亜竜の襲撃
 フリアノンより少し離れたところ。亜竜種たちの住まう小集落がある。
 フリアノンを始めとする大きな三つの集落よりは規模ははるかに小さいが、独立した集落としての歴史は浅くはない。各集落と商品や食料品のやり取りをしつつ、静かに、しっかりと暮らしていた……。
「……此処か、今回の現場は」
 と、筋骨隆々のリザードマン風の男が言った。彼の名は、真我(マナガ)。背後には武装した亜竜種たちの姿もある。彼らは、別集落からやってきた、戦士の一団だった。この集落の危機を聞きつけ、こうして救援に訪れたのだ。
「おお、戦士団の皆様……!」
 出迎えた長老が、歓迎するように声をあげた。真我は頷く。戦力が来たことに喜ぶ長老に比べ、真我の表情は硬い。
「これで、我々も安心です……」
「……いや、油断はしないでいただきたい」
 静かに、真我は言った。
「皆の目撃条件が事実なら……俺たちでは、対処ができんかもしれん……」
 酷く沈痛な表情で、真我は言った。
「ああ、やはり……!」
 村長が一転、その顔を曇らせる。
「……だが、保険はかけてきた。ローレットのイレギュラーズ達を連れてきている」
 ごくり、とつばを飲み込みながら、真我は言う。そう、この場には、あなた達ローレットのイレギュラーズ達も、依頼という形で随行していた。
 真我にあなた達が言われたのは、以下のようなことだ。
 曰く、とある集落に、恐るべき亜竜が現れたのだという。
 それは、真我たちでは撃退できぬかもしれぬほどの存在。最悪の場合を想定し、イレギュラーズ達には対処をお願いしたいのだ、という。
 真我とて、鍛えられた戦士であることは、イレギュラーズ達にもわかった。その彼が、恐れおののく存在とは何か……?
 イレギュラーズ達にも、その場の張りつめた空気に、緊張感を覚えていた。あなたもその一人かもしれない。
「――でた! でたぞ!」
 と――。
 集落の男が、息を切らせてやってきた。
「出たのか! 奴で間違いないのか!?」
 真我が言う。男は頷いた。
「ああ、や、やつだ! 畑にいる!」
「よし……」
 真我は頷き、部下たち、イレギュラーズ達、へと向き直った。
「……いくぞ。覚悟は良いな……?」
 その剣幕に、誰もが息をのむ。死を覚悟しているかのような、そんな表情。見れば、真我の部下たちも、同様に蒼白の表情をしていた。だが、その恐怖を押しのけて、彼らは頷く。あなた達イレギュラーズ達も、覚悟を決めて、力強く頷いた。
「ついてこい!」
 真我はそう言って、走り出す。一同は、その後を追って、走り出した! 畑に近づくにつれて、ずず、ずず、と、巨大な何かが動いている気配を感じる! それも複数だ! 相手はなんだ? ワームタイプか? ワイヴァーンタイプか? それとも別の――。
「居たぞ……やはり奴らだ!」
 真我が叫んだ!
 ああ、そこにいたのは! 丸く、太く、巨大な――。
「ぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷい」
 それが叫んだ!
「ああ、やはり……モルヴァーンだ!!」
 部下が叫んだ!
「ぷいぷいぷいぷいぷいぷいぷい」
 モルヴァーンも叫んだ!
「いや」
 イレギュラーズの一人が、声をあげた。
「その。デカいモルモットに見えるが」
「モルモットだと!?」
 真我は、驚いたように叫んだ。
「どこがだ! あれはどう見ても……モルヴァーンだ!」
「モルヴァーン」
 イレギュラーズの一人が、呟いた。
「そうだ、背中のあたりをよく見ろ……あの辺。そう、あの辺だ。翼があるだろう」
 見てみれば、たしかに、モルモットの背中あたりに、ちょこっと、ワイヴァーンのような翼がある。
「亜竜の証だ……」
「そう……」
 困ったように、イレギュラーズの一人が頷いた。
「モルヴァーンは恐ろしい生物だ……特に畑でキャベツを食べる。後ニンジンとかトマトとかも……。
 それに、ぷいぷいとよくわからない声でなく。それから、なんかこう、可愛くて手が出だせない……」
「読めた。混沌によくいるヘンテコ生物退治依頼だこれ」
「なんだと!?」
 部下の戦士が叫ぶ。
「こ、こんな化け物が……外にはよくいるのか!?」
「いや、まるっきりこれがいるわけじゃないけど、変な生き物は。それなりに」
「……外とは恐ろしい世界なのだな……」
 ごくり、と戦士が息をのむ。
「倒せるのか、真我?」
 部下が声をかけるのへ、真我はゆっくりと槍を構えた。
「俺とて戦士だ……命を懸けてでも……」
「あれモルモットだよね? そんなに? 命かけるようなものなの?」
 イレギュラーズの一人が声をあげる。
「行くぞ……!」
 ゆっくりと、真我が歩み出す。モルヴァーンが、此方に気づいた。ぷいぷい、とモルヴァーンが鳴いた。小首をかしげるように、顔を傾けた。途端! なんか魔力的なサムシングが、辺りに迸る! 衝撃的な感覚! かわいい! そのような感覚で、心が埋め尽くされる!
「うわーーーーっ!」
 真我が倒れた!
「真我ーーーっ!!」
 仲間達が駆け寄った!
「くっ……ダメだ、なんだこの魔術は……まるで手が出せん!」
「そう……」
 イレギュラーズの一人が困ったように頷いた。
「大丈夫なのか、イレギュラーズ!?」
 真我が尋ねるのへ、あなたは頷いて見せた。
「なるほど……これが世界を変えるものの加護なのかもしれんな……」
「いや、こういう事態になれてるって言うか……っていうか、いいの? 覇竜領域だよ? もうこんな面白生物だして大丈夫?」
 イレギュラーズの一人が尋ねるのへ、真我はなんか神妙に頷いた。
「すまない、俺たちは村人の避難に注力する……。
 お前達は、あのモルヴァーンを何とかしてくれ!」
 ずだだだ、と真我たちが走り去っていく! あとには、イレギュラーズ達と、モルヴァーンたちが残された。
「ぷい?」
 小首をかしげるモルヴァーン。かわいい。
「えーと」
 イレギュラーズの一人が困ったように声をあげるが、もうこの場には他に誰もいない。依頼も依頼だし、モルヴァーンたちを追っ払うしかないのだ。
「じゃあ、何とかするか……」
 呆れたように言う仲間に、あなたも困った様子で頷いた。
 何はともあれ。
 この場を何とかしなければならないッ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 恐ろしい亜竜です!!!!

●成功条件
 モルヴァーンを何とか追い払う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 フリアノンより少し離れた小集落からもたらされたSOS。
 いざ助けに向ってみれば、いたのはでっかいモルモットでした……。
 モルモット? いや違う、これはおそろしい亜竜、モルヴァーンだ!
 亜竜種の戦士たちもビビる恐るべきモルヴァーン! 皆さんは、これを何とかして追っ払わないといけません。じゃないと、畑のキャベツやニンジンやトマトが食べられてしまいます。
 なお、追っ払うだけで良いです。モルモットを撃破するのもなんか可哀そうだし……。
 作戦決行タイミングは昼。作戦フィールドは畑になっています。今回は、特にペナルティ的なものは発生しません。

●エネミー(?)データ
 モルヴァーン ×4
 2mくらいのサイズのでっかいモルモットにしか見えませんが、よく見れば背中にワイヴァーンの羽があるので、亜竜です。ぷいぷい鳴きます。
 魅了の魔術を行使し、此方をメロメロにしてきます。具体的には、攻撃する際に躊躇してしまい、攻撃が外れやすくなったり、攻撃力が下がったりします。
 戦闘で撃退するとなると面倒ですが、適当におやつをあげたり、適当に背中に乗って遊んであげたり、適当に追いかけっこをして遊んであげたり、適当に喉元くすぐってあげたりすると満足して帰ります。それを狙うのもいいでしょう。


●味方(?)NPC
 真我と戦士団のみなさん
  一緒に来た亜竜種の戦士たちです。モルヴァーンにメロメロにされたので戦えません。
  今は村人の避難誘導をしています……要るぅ? この仕事ぉ?

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 其は黒き眼を持ち、奇怪なる声でなくモノ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月22日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方

リプレイ

 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の反応値は67である。
 だが、この時! 目の前に突如現れた、ぷいぷいとなく、もふもふの可愛らしい生き物を目の前にしたその時!!
 仙狸厄狩 汰磨羈の反応は限界を超えた! 具体的に言うと、すさまじい速度でその生き物……モルヴァーンに滑り込みダイブをしたのだッ!
「もっふるもふもふ!
 ――ハッ!?
 あまりの愛くるしさに、初手から滑り込みダイブでもっふりとしてしまった」
 この限界を超えた反応速度によるモフモフダイブはこの時、小題(●で始まるいつものアレ)を置き去りにしたッ!
「わ、私が反応できなかった……!?」
 そのあまりの速度に、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は驚愕の声をあげる。鋭敏なクーアの反応速度、それを超えるは神速の域か――神速の滑り込みダイブもっふり。元の世界では超常の存在、仙狸である汰磨羈。その真の実力を、今ここでいかんなく発揮したといえよう……ちなみに、これは戦闘システムによる判定をしたわけではないので、「こういうことがあるのか?」とか思わないでいただけると助かります。
 さておき。

●モルヴァーンがやってきた!
「というか! 汰磨羈さんは猫でしょう!?
 生まれた世界は違えど、私と同じ……。
 ねことしての、プライド的なものはないのですか!?」
 クーアが叫ぶ。相手はモルモット。つまりはネズミの仲間である。ネズミの天敵と言えば猫。不倶戴天の間柄であるはずだ!
「いや……この際そういうのはどうでもいいというか……」
 汰磨羈がモルモット……いや、モルヴァーンの背中に乗っかって、丸くなった。
「ねこの本能的に……暖かでモフモフなものに包まれて眠れることには逆らえないというか……」
 うにゃん、と鳴き声をあげそうな表情で、汰磨羈が言う。むむむ、とクーアが唸った。
「それに! あなた達もあなた達です!
 モルモットならモルモットらしく、猫に対して畏怖や恐怖を抱くべきなのでは!?」
 腰に手を当て、胸を張って。クーアがそう叫ぶのへ、モルヴァーンたちは、「ぷい?」とないて小首をかしげた。まったくもって、猫とかそういうのを気にしていない。
「HAHAHA! まぁ、今回はミーたちの負けだなぁ」
 肩をすくめてそういうのは、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が肩をすくめる。
「戦士団の様子から、どんな血沸き肉躍るバトルが巻き起こるかのかと期待してたが……まさかモルモットのお守りとはな」
 皆モルモットと認識しているが、モルヴァーンは一応亜竜である! まぁ、モルモットみたいなものなんだけどね!
「なんだって覇竜領域にまで来てこんなおかしな生物と関わってんだろうなぁ、俺ぁ……?
 もっとこう、この土地に期待してたのは血沸き肉躍るような死闘であってだな……。
 こんなファンシーで平和な展開は想定してなかったんだが……」
 ふぅ、とため息などをついてしまう貴道。戦士団たちの怯えようから、相当の相手を期待していたが……出てきたのはモルモットみたいな生き物である。それも、気性もおとなしい。此方から余計なちょっかいを出さなければ、積極的に攻撃してくることもないだろう。
「あはは……真我さんや戦士団の人達が凄い顔をしてたから思わず身構えちゃってたけど、この子達だったなんてね」
 『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)が、ニコニコと笑いながら言う。
「郷田さんも、どんな怪物が出るんだーって楽しみにしてたのにね」
「おいおい、そう言ってくれるなよ! 本気で期待してたんだぜ、俺は!」
 大げさに天を仰いでみせる貴道。ふふふ、と花丸は笑ってみせた。
「まぁ、オレも期待してたからね。気持ちは分かるよ!」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が笑って言った。
「……というか、未だにちょっと、担がれてるんじゃないかな、とは思ってる。本当にちょっとだけ羽生えているだけのデカいモルモットだよ? アレ」
「もしドッキリだったら、村の皆も戦士団の皆も、ちょっと演技力あり過ぎだよ」
 花丸が苦笑した。戦士団や村の人々の慌てようは、演技の類とは思えない。まぁ、亜竜と呼ばれる恐るべき存在と、隣り合わせで暮らしているのが亜竜種たちだ。或いは、亜竜に対する恐怖心は、我々の想像を超えるのかもしれない。
「しかし、とんでも生物は覇竜領域にもいたんですね~」
 『メイジン』那須 与一(p3p003103)が感心したように、うむうむと頷きながら言った。
「見た感じどう見てもモルモットですが……此処で生活できるあたり、何らかの力は持っているのは確かでしょう。
 どうやら、魅了の魔術の様なものを使うようですが……?」
「恐ろしい魔術ですね……」
 と、両手をわきわきとしながら、『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が言った。
「確かに……こう……モフモフとしたくなるというか……いけません、キャベツの葉っぱあげて、カジカジする様子をいつまでも眺めて良くなるというか……モルヴァーンちゃん? モルヴァーンちゃん、って言うんですか?
 かわいいー……ふ、ふふふふふ可愛いー! なんですかこのもふもふ! つぶらな瞳! 可愛い鳴き声! いっしょうもふってられますよこんなのもふもf……はっ!?」
 気づけば、目の前に茶と白の模様のモルヴァーンの身体があった。いつの間にかふらふらと近づいて、両手でモフモフしながらほおずりしていたらしい。正純はこほん、と咳払い。そそくさと仲間達の元に戻ると、
「……恐ろしい魔術ですね。皆さんも、気を付けてください……」
「正純は手遅れだよ……」
 『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)が苦笑する。が、すぐに目を細めて、「うんうん」と頷いた。
「でも、気持ちは分かるよ……凄い分かる。もふりたくなるって言うか……あ、aPhone持ってきたんだ。写真とろ。
 ねぇ、正純、aPhoneで写真撮ってもらっていい? 並んでとりたいんだ!」
「良いですよ。あ、私も撮ってもらえますか? あとでデータ送ってもらえると助かります」
「いいよいいよー、いっぱいとろうね! どの子がいいかなぁ?」
「それはもう、四匹もいますし、一匹一匹思う存分!」
「おっけーおっけー! じゃあこの子からね~」
 と、正純とルビーでカシャカシャと写真を撮り始めたので、クーアはたまらず肩を落とした。
「だ、ダメです……皆すっかり骨抜きに……」
「まぁ、私達も、追い払え、としか依頼されていないからな……」
 モルヴァーンの背中で丸まった汰磨羈が言う。頷くように、ぷい、と白いモルヴァーンが鳴いた。
「とにかく、満足させて帰ってもらえばいいのだ。めいっぱい遊んでやるのも、一つの手だと思うぞ」
 喉でも鳴らしそうな勢いで汰磨羈がモフモフするので、クーアは諦めたような表情で言った。
「猫としてのプライドは……?」
「今日はお休みだな~」
 ごろり、と転がる汰磨羈。クーアは肩を落とした。
「気持ちは分かるぜ」
 貴道が言った。
「まぁ、でも、仕事は仕事だからね! この子達には、マンゾクして帰ってもらおうか!」
 イグナートが笑いながら言う。まぁ、イグナートの言う通りだ。実際のところ、そうせざるを得ない。
 ここで実力で追い払ってもいい。が、それには相応のリスクがあるし……この温厚そうな生き物が、たとえ亜竜と呼ばれるにふさわしい戦闘能力を持っていたとしても、実力行使はこう、はばかられる気持がある。
 けっきょく……遊ぶなりなんなりで、満足させて帰ってもらうしかない。
「分かりました。やりましょう」
 クーアが言うのへ、花丸がくすくすと笑った。
「じゃ、此処から先は花丸ちゃん達がマルっと解決、だよっ!」
 その言葉に、仲間達は頷く。
 かくして、モルヴァーンとの闘い(?)の幕が上がった!

●ぷいぷい楽しいタイム
「えーと。ひとまず、畑から離した方がいいかな?」
 と、花丸が小首をかしげた。そう、ここは畑。何をするにしても、ここで暴れさせるわけにはいかないだろう。
「ついてきて……言ったらついてくるかなぁ?」
「んー……単純にえさでつればいいんじゃないか?」
 貴道が言う。ちなみに、花丸の提案もあって、村人たちからクズ野菜などをたくさんもらっているし、汰磨羈(白いモルヴァーンの背の上で丸まっている)が牧草を見つけて用意しているので、エサには事欠かない。
「じゃあ……えーっと、ニンジンを……大きいからそのままでいいよね。
 おーい、こっち、だよー!」
 ふるふるとニンジンを振ってみると、ぷい! とモルヴァーンたちが気づいた。そのまま、茶と白を先頭に、なぜか一列になってぷいぷい鳴きながらついてくる。習性なのだろうか。
「あっ、来た来た! なんか一列になっててかわいいかも」
「かもじゃないですよ滅茶苦茶可愛いですよええ」
 目をキラキラさせた正純が、首をぶんぶん頷いた。
「ルビーさん、写真! とりましょう写真!」
「おっけー、ほら、花丸、こっちむいてこっち!」
 と、2人がきゃいきゃい言いながらパシャパシャと写真を撮り始める。
「うーん、動物園に来たみたいだ」
 イグナートが笑った。
「あー、そうですね。ふれあい動物コーナーのそれそのまま……」
 クーアも苦笑する。さて、花丸をリーダーにしたモルヴァーンたちの行進は、しばし続いた。ぷいぷいと声をあげながらついてくるモルヴァーンが、少し広めの広場についてから、
「はい、いいこいいこ」
 花丸はそれぞれニンジンを一本ずつ、差し出した。ぷいぷい、とカリカリニンジンを齧るモルヴァーンたち。
「えへへ、可愛いねぇ」
 と、頭のあたりを撫でてやると、茶色のモルヴァーンが嬉しそうにぷいぷい鳴いた。
「よーし、良いぞお前達。このままお前達が害獣……害竜? まぁとにかく、そうやって追いやられるのだけは避けねばならん!」
 むっ、と汰磨羈が白いモルヴァーンの背中の上で言った。ぷい! とモルヴァーンが声をあげる。
「ひとまず、ここには私が刈ってきた牧草や、花丸たちが用意したクズ野菜がある!
 それらを、クーアが料理して食べやすくしたものがこれだ! これでお腹をいっぱいにせよ!」
 ぷいぷい! とモルヴァーンたちが鳴いた。大きめの鍋に入れられた、ゆでられて甘さを引き立てられたカボチャやニンジン。或いはペーストにして食べやすくした果物たち。サイズがサイズなので、量が尋常ではないが、ひとまずクーアが料理したそれに、モルヴァーンたちがもっ、もっ、とくらいつく。かわいい。
「ふぅ。苦労したかいがあって、食べっぷりには気持ちよくなりますが……」
 クーアが額の汗をぬぐいつつ、呟いた。
「……こいつら、本当に野生動物なのです? 汰磨羈さんはもちろん、私にも警戒心を全く抱いていないようなのですが……」
「魅了の魔術があるみたいですからね。それでうまい事やってたのでしょうね。
 ほーら、キャベツもありますよー。ぱりぱりたべるー?」
 と、与一がキャベツを差し出すと、ぷいぷいと鳴きながら、大きなキャベツの葉をぱりぱりと齧る。
「……というか、この子たちが本当に、ここでやっていてけるのかよくわかりませんが……」
「うーん、フィジカル自体は大したものだと思うね」
 ぎらり、と目を輝かせる貴道。
「もふもふの毛に隠れてるが、筋肉自体は流石野生動物、しなやかだ。さっき触って確認した。
 本気で逃げたら逃げ足も速そうだし、正面からぶつかっても、なかなか手ごたえのある相手だと思うね?」
「……貴道さん?」
 と、正純がじろり、と視線を向けるのへ、貴道はHAHAHA! と笑ってみせた。
「別にやり合おうってわけじゃないさ! いや、ほんとだよ? ユー、その、すごく目が怖くないか?」
「正純はすっかりメロメロだね!」
 イグナートが笑った。
「さて、食べたら運動しようか! 貴道、テツダッテくれるかい?」
「ああ! ぶつかってきてもいいし、抱っこだってしてやれるぜ?」
 貴道がそういうのへ、ぶちのモルヴァーンが「ぷい?」と鳴いた。
「おっ、ユーはやる気か? いいぜ、来な!」
「ぷい!」
 と、モルヴァーンがぽーん、と飛んだ。そのまま、貴道に向かってダイブ! 強烈な体当たりだ! モフっとした衝撃に、貴道は両手を広げてそれを受けてめて見せる。
「HAHAHA! 思った通りのいいガッツだ!」
(……できれば派手にやりたい所だが……)
 胸中で呟く。が、すっかりモルヴァーンにメロメロの仲間達を差し置いて、派手に戦う……とやるような野暮な人間ではない。
「さて、何度でもぶつかって来な! HAHAHA!」
 モルヴァーンは嬉しそうに、じゃれつくように貴道にぷいぷいとぶつかっていく。これはこれで、楽しいだろう。
「ウホウッホホウホホホウホホ!」
 これは、『食糧が欲しければオレとショウブだ! オレにスモウで勝てたらオレたちが持ってきた食糧をやろう!』というニュアンスの肉体言語である。ちなみに発言者はゴリラである。いや、イグナートである。
「ぷい!」
 と、茶色のモルヴァーンが鳴いた。そのまま、ぷいぷいぷい、と鳴き声をあげると、ととととと、と走り出し、イグナートにタックル!
「んっ!」
 気合の声とともに、タックルに耐えるイグナート! 中々の衝撃、流石は亜竜ではあるのだろうか。
「オレ、お前より、ツヨイウッホ。オレとショウブウッホホ!」
 その言葉に、ぷいぷい、と茶色が楽し気に鳴いた。再び距離をとると、とととと、と走り出して、タックル!
「ああ、正面から、モフモフを……!?」
 正純がはわわ、って顔で言った。
「正純さんがやったら、普通に吹き飛ばされそうですが……」
 クーアが苦笑する。残っているのは、白とこげ茶のモルヴァーンだ。白の背中には相変わらず汰磨羈が丸まっている。
「やべぇ、極楽か」
 汰磨羈がなんか言った。
「羨ましいですね……」
 正純が言う。
「でも、お願いしたら背中にのせてもらえないかなぁ?」
 ルビーがそう言って、こげ茶のモルヴァーンに近寄ってみる。ちょんちょん、と背中のあたりに手を伸ばして、撫でてみた。小さな翼を、気持ちよさげにぱたぱたと動かしている。一応動かせるらしい。飾りじゃないんだ……。
「えーと、そうだね、君の名前はレッド! どう?」
「ぷい!」
 と、こげ茶が鳴いた。多分拒否じゃないだろう。
「ねぇ、あなたの背中にのせて頂戴! それで、一緒に走ろう! すっごく気持ちいと思うよ?」
「ぷい!」
 ルビーの言葉に、こげ茶……レッドが鳴いた。拒絶の色は視えない。
「ほら、大丈夫だって、正純も!」
「え、ええ? いい、のでしょうか……?」
 おずおずとやってきた正純。ルビーはぴょん、とレッドの背中に飛び乗って、正純に手を差し出した。正純を引っ張り上げて、ルビーと正純が、レッドの背中に乗る。
「ふわ、ふわ、ふわぁぁぁぁ……」
 正純が至福の表情を浮かべた。身体全身で感じる、もふもふの感覚、極上の絨毯のような……いや、それですらたとえとして物足りぬほどの、柔らかな手触り……!
「最高ですか……このまま埋もれて余生を過ごしたい……」
「あはは、気持ちは分かる。さて、じゃあ食後の運動だー! レッド、走るよー!」
「ぷい!」
 とレッドが鳴いた。それから、とととと、と走り出す。最初はゆっくり。だんだんとはやく。
「わ、結構速度が出ますね……」
 正純が目を丸くした。実際、中々の移動速度だ。伊達に亜竜を名乗ってはいない。
「ほらほら、どんどん行くよ! ……って、アレ?」
 気づけば、残りの三匹も、ぷいぷいと鳴きながら、ととととと、と走ってこちらについてきている。気づけば、それぞれのモルヴァーンの背中に、皆の姿があった。
「いや、なんだか乗って欲しかったみたいだから!」
 花丸が笑った。
「この子達も、楽しいのかもしれませんね」
 クーアが、穏やかに笑って言った。
「なるほど、こういうのも悪くない!」
 貴道も、些か楽し気な笑みを浮かべる。
「よーし、コンドは競争だ!」
 イグナートが、茶色をけしかけるように声をあげる。
「白いの、私が乗っているのだから一番を目指せ!」
 汰磨羈がそう叫び、
「行きますよー! レーススタート!」
 与一がそう笑った。
 モルヴァーンたちが走る。楽しそうに。友達を背にのせて。
 ぷいぷいぷい。
 楽しい鳴き声が響く。
 ぷいぷいぷい。
 笑顔が浮かぶ。
 ぷいぷいぷい……。

 そして、西の空に向かって、四匹のモルヴァーンがとんでいくのが見える。
「さようなら……皆……!」
 正純が涙ぐんだ様子でそう言った。
「……飛べたんだね、あの子達……」
 苦笑するように、花丸が言う。
「ひとまず、これで依頼は終わりか……いやー、リフレッシュできたなー」
 んー、と伸びをする汰磨羈。
「楽しかったねー。また遊びに来ないかなぁ?」
 ルビーが言う。
「私達は構いませんけれど、戦士団の人達の寿命は縮みそうです」
 クーアが応えた。
「まぁ、悪くないけどさ。次はがっしりした依頼がいいぜ」
 貴道がそういうのへ、
「そうだね。ま、これから色んなイライがあるよ!」
 イグナートが笑った。
「ひとまず、一件落着という事で!」
 与一の言葉に、仲間達は頷いた。
 めでたしめでたしである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お、お前達、あの怪物を……モルヴァーンを追い払ったのか……!
 これが、イレギュラーズ……世界を変える可能性の力か……ッ!

  って、戦士団の人達が言ってました。

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