PandoraPartyProject

シナリオ詳細

湖底の財宝

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●湖の女主人
 ふわふわと昇っていく。
 幾つもの泡が、ふわふわと昇っていく。
 揺らめく景色を映してふわふわと昇っていく。
 何かが動いている。
 映し出された視野の下半分、ゆらゆらと何かが動いている。
 それはまるで草のようで。
 それはまるで風に靡くようで。
 けれど風に靡くというにはあまりにも不自然な動きのそれを、そっと撫でた。
 手に触れるそれは――あまりにもごつごつとしていた。
 よく知っている何かのような。どこまでも続くような、ゆったりとした円のような何か。
 伸びていく手を戻そうとして、撫でた手には硬くて鋭利な何かが触れている。
 チクリとした痛みに呻けば大きな泡が昇って行った。
 ――あぁ、そうか。今更になって気づいたけど、私は、沈んでるんだ。
 ゆっくりと顔を下へ降ろしてみて、自分に巻き付いて湖底へ降りていく蛇のような怪物の眼と視線が合った。
 それでようやく、自分が触れていたものがこの怪物の身体だったことを思い出した。
「ごぶっ、ごぼぼっ」
 ――そうだった。私、襲われたんだった。
 思い出した。
 気づいてしまった。
 あぁ――そうやって思い出した途端に、身体が締め付けられる。
 ――お父さん、お母さん。黎兄さん。ごめんなさい。私は――私は。
 大きく零れた空気の泡が、水面へ昇っていく。
 矮小な女の――餌になるしかない女の、最後の景色なんだろう。
 そう思うと、すごく――綺麗に見えた。
『おまえ、水の中にいてもなお、生きているの?』
 凛とした声がした。
 そこは湖の中、到底聞こえるはずのない――言の葉を紡ぐもののないはずの水底で。
『そういう者もいるのね……』
 視線が合う。知性を湛えた瞳は青く澄んでいた。
「ごぼぼ……」
『……何を言ってるのか分からないけれど、今日のご飯にするにはとても興が削がれるわね』
 告げられた言葉が目の前の亜竜から脳裏へとじかに語り掛けられたことだとは、何となく理解した。

●湖の問答
 イレギュラーズがその依頼を受けたのは、ある日の事であった。
 亜竜集落ウェスタ近郊に存在するという地底湖、その付近に地下水の流れる川がある。
 その川の上流の1つに流れ落ちる水源が滝になっている場所がある。
 そこへ薬草を探しに行った女性の亜竜種が、2日間ほど戻ってこないという話が合った。
 覇竜トライアルと呼ばれるこの一連の雑用の中で、君達はその亜竜種を助けに行く依頼を受けたというわけだ。
「あの子は水中呼吸できるから、滝の中に入っても問題はない。
 でも、あの滝には亜竜が住んでいるって噂があってね。水面に影を見たやつも何人かいる。
 最悪の場合を考えて探しに行ってほしい――」
 依頼人はそんなことを言っていったか。

 辿り着いた先の滝は、静謐さを湛えていた。
 もちろん、滝の水が落ちているのだから完全なる無音ではないが――心地よい安らかさだ。
 ここが覇竜領域でなければ――亜竜がいるという噂を聞いてなければ、探し人がいなければ。
 眺めているだけで済ませたいほどに。
『何者ですか』
 聞こえてきたのは落ち着いた声だ。
 水面に影が浮かび、水しぶきが上がる。水に溶けるように青く美しい鱗が、きらきらと輝く。
 まるで蛇のような滑らかでしなやかな生き物が姿を見せた。
「亜竜……!」
 咄嗟に武器を構えるが、今のところその存在からは敵意を感じない。
 思わず構えを解けば、亜竜はこちらを知性に満ちた穏やかな瞳で見下ろしている。
『私の縄張りを荒らすつもりであれば――殺してあげますが』
「待ってほしい! 人を探しているんだ!」
『……人とは、貴方達のような生き物の事ですね?』
「あぁ――」
 そのまま探し人の情報を提供すれば――その亜竜は静かに目を伏せた。
『なるほど――確かに私はそんな存在を知っていますが、彼女を渡すわけには行きません』
「それはどういう――」
『ここは私の家。あの子は私の宝物の1つ――どうしても欲しいのであれば、力づくで奪って見せなさい!』
 刹那――その亜竜の全身から魔力が溢れ出し、甲高い咆哮が響く。
 周囲の草木が軋みを上げ、水面が激しく波を打った。
 竜の中には、財物を住処に蓄えるモノもいるというが。
 ――なるほど、『亜』竜にすぎぬ目の前の存在にも、どうやらその性質があるらしい!

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 比較的友好的な亜竜と亜竜種の百合っていうと素敵なお話な気がしますね。
 最初は餌判定だったようですが。
 ともいえ、水底へと攫われた亜竜種の女性を助けに行きましょう。

●オーダー
【1】蛟に認められる。
【2】『蛟の宝物』の救出。

 なお、討伐まで言っても構いませんし、生かしても構いません。

●フィールド
 ウェスタ近郊にある地底を落ちる滝の滝壺です。
 蛟はこの滝壺から出ることなく戦闘を仕掛けてきます。
 湖に関してはフレーバーです。
 飛行能力、水中行動系列の非戦スキルなどがあれば湖にて戦えますが、
 無くても湖の淵から跳んで攻撃して帰ってくる、と言った感じの戦闘になります。

●エネミーデータ
・『滝湖の女主人』蛟
 東洋龍風の雌亜竜です。知性は高く、口調は大人びた女性風。
 皆様の事を挑戦者として判断してます。
 誘拐された相手を助けるには彼女に勝って願いを告げなくてはなりません。
 一見すると友好的ともとれますが、近づいてきた者を引きずり込んで餌にする、と考えると100%善良とは言い難いでしょうか。

 水にまつわる魔術を行使する神秘攻撃の他、物理的に巨体を叩きつけてくる、
 咥えて放り投げるなどの物理攻撃が考えられます。
 HP、防技、抵抗、神攻が高め。

 再生能力を持ちますが極めて微量です。
 長期戦はお勧めできませんが、純アタッカーならば問題なく通るでしょう。
 その他、鱗は滑りがよく【反】相当の効果を持ちます。

 口から打ち出す水流には【ブレイク】と【飛】相当の押し出し効果があり、
 範囲相当へ放たれる泡には【足止め系列】【乱れ系列】【呪縛】効果があります。

●NPCデータ
・『蛟の宝物』明
 救出対象。餌判定されて湖に引きずり込まれた亜竜種。
 水中呼吸できることと知性を感じることから蛟に興味を持たれ、餌判定から宝物判定になってしまった女性。
 呼吸できるので普通に生きてますが、2日間ほど何も食べておらず、めちゃめちゃお腹がすいている様子。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 湖底の財宝完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月20日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
シラス(p3p004421)
竜剣
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き

リプレイ

●亜竜問答
 亜竜の身体を魔力が層を描いて揺蕩う。
 まるで水面に反射する光のような輝きに、一種のカモフラージュ効果でもありそうだ。
「縄張りに踏み込んだ俺達への紳士的な対応への感謝とか、
 宝物というが、人間は物じゃあないとか、言いたいことは色々とあるけれど──」
 叩きつけられた水しぶきをふるりと払って、『竜剣』シラス(p3p004421)がいえば。
「うーん、まあニンゲン以外にアタシらの倫理観を押し付けてもねぇ……?
 とは言っても、放っておく訳にもいかないし……こっちの事情で悪いけど、女の子は返してもらわないとね!
 悪いけど、その子は餌じゃないのよ?」
 ゆらゆらと動く亜竜に告げる『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)の言葉もしかり。
「近づいてきた者を引きずり込んで餌にする、か。
 ヒトとしては迷惑かもしれないが、人里に攻め込むようなものではないようだし。
 これがここにいる事で、この辺りを避ける危険性物もいるだろうしな」
 互いの動きを見て、隙を窺いあう中で、『Utraque unum』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も思う。
「そもそも、縄張りに踏み込んでしまったのは亜竜種の彼女や我々だしな。
 向こうさんはこっちの生き死にを勘定してはくれんだろうが、勝てば認めてくれるっていうなら全力でやるまでだ」
 『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は大盾を構えながら亜竜を見上げる。
「宝物が欲しいなら戦いで認められろ……滾るねえ
 これぞ冒険者って感じだ」
 分かりやすくていいというのは『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)とて同じく思う事だ。
「ラサの傭兵、ルカ・ガンビーノだ。名乗れよネーちゃん」
 愛剣を構えて見上げるように問えば、蛟は静かにルカの方を見て。
『ルカ、ガンビーノ。なるほど、ニンゲンのルカ・ガンビーノ……
 不遜な事ですが、良いでしょう。本来、私に個体名などありませんが……
 挑む者に問われて答えぬのも竜の端くれの恥でしょう。
 この辺りの古き名より頂きましょう。瀟と名乗っておきます』
 蛟――瀟と名乗った存在は静かに答えた。
「へえ、洒落た名前じゃねえか!」
 ルカが答えれば、瀟が静かに笑うように口を緩めた気がした。
「縄張りを荒らすつもりはない。ただ、その人を返してほしいだけだ」
 愛剣を構えた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が言えば、亜竜が静かにイズマを見下ろす。
『……準備は良さそうですね。それでは、改めて。
 私はこの湖の主、瀑布に住まう者。
 来なさい、挑戦者よ――』
 猛れば、瀟の周囲に幾つもの水の球体が姿を見せる。
「力尽くで良いんだよね、上等じゃん?
 ケンカしよー、ケンカ! 蹴っ飛ばしてやるから覚悟しときなさい!」
 自慢の美脚に力を籠めて、京が走り出す。
「さあて、蛟ちゃんって言ったっけ?
 アナタも力試しなんて、伊達や酔狂じゃなきゃやってらんないでしょ?
 だったら楽しまなきゃ、お互いに損ってもんよねー! あっはっはー!」
 全身から溢れ出す超高温のスパークを放ち、一気に踏み込み、跳躍。
 雷陣を纏う跳び蹴りを以って突っ込んでいく。
『燃えながら突っ込んでくるというのですか……!』
 口を開いたかと思えば、京と亜竜の間に魔方陣が浮かぶ。
 ぶつかった瞬間、一瞬の攻防が発生し――陣を破砕した蹴りが亜竜へ振り下ろされた。
「っとっと! シラスくん、アテにしちゃうぜ!」
 蹴りの勢いをそのままに落下する京の全身を加護が包み込む。
 それはシラスが放った魔術だ。
「先に突っ走ってから言うか。
 でもまぁ、力づくでいいってのは話が早い。俺も行かせてもらうぜ」
 その手に熱を。
 戦闘に抱く熱狂の魔力を、衝動に変えて蛟へ放つ。
『くぅ――これは、守りを越えてきますか! 良いでしょう、面白い!
 あぁ、とても興味が湧いてきますね!』
 爛々と輝く蛟、それが注意を引けているのか気質なのか分かりづらい。
「ハッハー! まったく運が悪いにも程があるぜ!
 俺達の運ではなく、アンタの運がなぁ!
 決して侮る心積は無いが、なにせ今回はメンバーがメンバーだ。
 ヌルゲーじゃねえか!」
 続けて跳んだ『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が愛刀片手に突っ込んでいく。
 振り抜く三連撃、連撃を刻む殺人剣が、苛烈に追い立てる。
 邪道なる斬撃は蛟の魔方陣を掻い潜り、鋭くその身体へ傷を加えていく。
「どうよドラゴン! 俺たちを単なる餌だと思っていると痛い目見るぜ!」
『まだまだ――足りませんね』
 刹那、蛟の口に大量の水が集束していく。
 砲撃の如き奔流となるであろうそれ。
「おっと――俺は守りは薄いからな。当たってやるわけには行かねえな!」
 跳躍して最低でも守りを固めんとブライアンは着地する。
(蛇っぽい体型の亜竜……成程、水棲ならばその方が泳ぎやすかろうな。
 鱗は爬虫類のように皮膚と一体化しているだろうか、
 それとも魚のように独立して粘液に覆われているタイプか……滑りの良さを考慮すると後者だろうか?)
 アーマデルは思考しながら剣を振るい。
「魚のようであれば、これで削げるんじゃないか?」
 しなる蛇のように愛剣を向ける。
 狙うのは、亜竜の身を覆う鱗。
 斬撃の軌跡が音色を奏で、やがて魔方陣を破って鱗の幾つかが散って水面に落ちた。
「水の相手なら任せろ」
 大盾を構え、その身に不退転の忠誠心を滾らせれば。
『――良いでしょう、受けようというのであれば』
 刹那、大瀑布を思わせる衝撃がエイヴァンへと放たれた。
「ぐっ――おぉぉ!!」
 盾が水の奔流を凍てつかせど、激しい衝撃がエイヴァンを圧迫する。
 それでも後ろに下がらずに済んでいるのは高い防御技術の賜物だった。
『――なるほど、言うだけはありますね。ならば、こちらはいかがですか?』
 放たれた水は全てを断ち斬るほどに洗練された刃となって、戦場を走る。
「……~~~~っ!!流石にやるな。効いたぜ、今のはよ!」
 ルカは身を削る刃のような水を受ければ、そのまま笑う。
「悪くねえ。いや、むしろ楽しいぐらいだぜ! こっちも行くぜ!」
 自らの身に殺人剣の極意を宿し切り開く三連撃。
 二度に渡る追撃の斬撃が瀟の魔方陣を掻い潜って再び傷を浮かび上がらせる。
『なるほど、あまり当たりたくない傷ですね』
 微かに怯んだような動きを見せる瀟が、雄叫びを上げた。
 それはルカ――ではなく、イズマに向けられたもの。
「っ、なるほどな。硬い……! だが!」
 洗練された奇襲技術より放たれた文字通りの意表を突く刺突だった。
 しかしそれはまるで見透かされていたように魔方陣で勢いを殺されていた。
「――もう一度!」
 亜竜の魔方陣へ着地したイズマの瞳が赫く染まり――閃くは覇竜を穿つ一撃。
 美しく描かれた刺突は描かれている魔方陣を切り裂いてその内側へ斬撃を撃ち込んだ。
『それほどの力量でありながら小癪な小技を使うというのですか』
 亜竜の声を聞きながら、イズマは水の上へ。
「……ったくたかだか亜竜が調子に乗りやがって、如何にも傷が付きませんって感じのオーラだし。
 何より私泳げないの! 耐水魔法はあるし仲間も私に使うみたいだけど全滅したら……はあ」
 凄まじく乗り気で戦う男どもを見ながら、思わず愚痴るは『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)である。
「正直、嫌ですけど……まぁ、能力的には親近感もありますし? 積極的に行きましょうか」
 魔剣へと渾身の力を込め、雷鳴と稲光を纏い、刺突を放つ。
 苦難を破り、信念を貫き通すための渾身の刺突。
 その場で、利香は亜竜を見上げた。
「貴女が何故彼女を宝としたかは存じませんが人は脆い生き物ですよ?
 貴女も手に入れた宝が朽ち果て骨となるのは見たくないでしょう?」
 魔力を籠めた利香の魅了と同時に、そう告げれば、それは懇願のようにも聞こえただろうか。
『今までの人間とやらは確かにそうでしたが、あの子はなぜか生きています。
 私はそのような人とやらを知りませんが、人とは水の中でも呼吸ができるのですか?』
 そう言われれば、そうかもしれない。今までと知らない存在を見て、興味が出てきたのか。
「確かにそうかもしれませんが、呼吸を必要とせずとも日の当たらぬ場所へ長く居れば生気を失いますし、
 数日食物を口にしなければ息絶えます。それでもいいのですか?」
『貴女の言葉は道理なのかもしれませんが、あの子が食事をしないのはあの子の意思。
 どうしようもないではありませんか』
 利香の問いかけに、亜竜はそう返してくる。

●貴女が落とした物は
 イレギュラーズと亜竜の戦いは激化の一途を辿っている。
「ルカ、合わせろ!」
「――任せな! 真正面から打ち砕く。それが俺のやり方だ!」
 後ろから頼もしい声を聞くや、エイヴァンは大盾を台座に斧砲を構えた。
 幾度となく受けてきた奔流の終わりを見るや、引き金を引いた。
 全霊を以って叩きつけるように撃ち込むそれは絶対零度の冰砲撃。
『――なんと、私の身体を凍らせるつもりですか』
 魔方陣をも凍てつかせ、貫通して亜竜の身体が凍てついていく。
「他人からは馬鹿げた戦い方に見えるのかも知れねえが、このやり方が最強の俺だ!」
 踏み込み、跳躍。警戒するように瀟が幾つもの魔方陣を描く。
「もっと上手いやり方はあるかもしれねぇ、でもよ、これは俺のプライド――だぁ!」
 全霊を籠めて撃ち込んだ斬撃が、幾つもの魔方陣を破砕して、強烈な傷を瀟に刻む。
『くぅぅ!! ぁぁぁああ!!』
 反撃とばかりに魔方陣から水刃が放たれ身体を貫くが、知った事か。
「さぁ、ここからだ!」
 亜竜の動きを妨げていた氷が割れていく。
 その様子を見ながら、イズマが跳び込んだ。
 その剣身には雷霆。細剣は雷鳴を旋律に変えて、青白い輝きを放ち閃光を散らして亜竜の身体を切り刻む。
「まだまだいくぞ!」
 その上手くわからぬ表情を見ながら、イズマは第二撃の雷光を迸らせた。
『あぁ、全く。久方ぶりに動くと楽しくて仕方ありませんね。
 これも性という物でしょうか』
「あぁ――もう、口で言ってわからないうなぎ野郎には、こうやるしかないわよねえ!?」
『なにをなさるおつもりです?』
 苛立ちを見せ、その剣に魔力を籠める利香は、亜竜の視線が向いていることを確かめた。
「叩っ斬ってあげるんですよ!」
 跳躍と同時、振り抜くのは対城剣技。
 雷光を手に、城をも断ち斬る光が放たれる。
 狙い澄ますのは亜竜の鱗。
 ボロボロとそれらが落ちていく。
『きゅぅぅおぉぉ!』
「顔を斬らないだけ温情と思ってくださいね!?」
 その言葉に、亜竜が雄叫びで返す。
「さぁ、流石にそろそろ終わりかな!」
 飛翔する京はその身に宿る炎熱の全てを脚へと集めていく。
 光輝を纏いて放つは凡ゆるモノを両断する脚閃。
『おぉぉ――何という輝きでしょうか』
「まぁ、亜竜相手に手加減なんてできないよね!」
『それでこそ!』
 振り下ろすように落下すれば、合わせるように展開された亜竜の魔方陣全てを抵抗なく破壊して、その身体へ叩きつけた。
(狙うべきは腹部……いや、正直どこにしたって魔方陣である程度の勢いは殺されるし……
 やるなら、寧ろ鱗が剥がれ落ちた所か)
 相手の反応を観察していたシラスが動き出す。
 その手に術式を起こして手刀に変え、飛び込んでいく。
「――そこだ!」
 浮かぶ魔方陣をも掻い潜って、既に血の止まっている鱗のあった場所へ手刀を叩きつけた。
 続け、ブライアンが動く。
 なしえる限りの自己強化を振りなおして、握りしめた愛刀に全霊を籠める。
「お宝を頂戴するぜ! 亜竜!」
 一気に爆ぜるように跳び込んで、全力の三連撃を刻んでいく。
 削り落とされた鱗の内側、柔らかそうな肉の部分へ、陣の守りなど関係ないとばかりに打ち付けていく。
 体勢を崩したことで終息させた連撃の後、ブライアンは顔を上げた。
「――っと、ここらでいい加減認めてくれねーか?
 これ以上やるとどっちにしても厄介なことになるんじゃねぇか?」
『……そうですね。少しばかり我を失っていました。
 良いでしょう、貴方達の力を認めましょう。少しばかり待っていなさい』
 そう言うと、亜竜が水の中へと入っていった。

●湖の女主人
『この子で間違いないですね?』
 戦いを終えた亜竜の隣、水球に包まれた亜竜種が地上に上げられた。
「貴方達は……?」
「明殿、無事か?」
「ええ、彼女も私を殺すつもりを無くしたようだったから」
 アーマデルが声を掛ければ、明は頷いて後ろで湖からこちらを見る亜竜を見上げる。
 思いのほか、元気が良さそうだ。
 イレギュラーズが思ったあたりで、彼女の腹の虫が大声で鳴いた。
 ハッと顔を上げて、明がお腹を押さえる。
「おかえり、明さん。……お腹空いてる?」
「う、うん。彼女がくれる物って、人間が食べる物じゃなくって」
 イズマの問いに、未だ恥ずかしそうに明が頷いた。
 聞いてみれば、亜竜からもらった餌は全部生だったという。
 火を入れて調理をする、なんていう工程を湖の中に住んでいる亜竜がするはずもない。
 いや、そもそも料理、調理の概念すらないのも当然というべきか。
「とりあえずこれを……胃薬だ、いきなりものを食べると胃が驚くだろうからな。大丈夫、わりと美味しい」
「ありがとう……」
 アーマデルから受け取った胃薬を、明は直ぐに受け取って呑み込んだ。
「よし、一緒に食べようか。多分、他の皆も持ってきてるだろうから」
 頷いて、イズマは持ち込んだ弁当を広げていく。
「胃薬飲んだんなら、これぐらい食べても大丈夫だろ」
 そう言ってルカが持ち出したのは、漢豚丼だ。
 明のお腹から元気な鳴き声がきゅるると響く辺り、彼女の気持ちも惹かれていよう。
「まぁ、弁当類に比べりゃあんまり美味かねぇだろうけど、俺も保存食ぐらいなら持ってきたからな」
 そう言うのは、ブライアンだ。
「それだけ物があるなら、このチョコレートはデザートにするといい」
 続けてエイヴァンがチョコレートを明の手にのっけてやれば、彼女はそれをそっとしまい込んだ。
 目を輝かせていた所を見るに、好物なのだろうか。
「あとできれば、人間を攫うのは控えてくれると嬉しいな。
 また連れ去られてまた取り返して……なんて俺達も困るし、そっちも家を荒らされたくないだろう?」
「そうだな……今後も襲われないようにするためには、薬草と餌を取引するってのはどうだ?」
 イズマとエイヴァンが言えば、蛟は静かに否定の意を告げた。
『明は家畜という物を人が飼うと言っていました。
 だからと言って野に放たれた家畜と野生動物を『区別できない状態で』目の前にいて、どっちが家畜か当てれますか?
 取引と言っても、私の眼には訪れた者が『そう』なのか、それ以外なのか判断をできません。
 私の眼には全て同じにしか見えないのです。ゆえに、嫌ならば私を殺すか、貴方達が来ない。それしか選択肢しかありません』
 そう言われてしまえば、どうにも言えない。
 前提として価値観の違う生物同士でどちらかの価値観を押し付けるのはそれこそ傲慢というもの。
「まぁ、なにも手を取り合う事だけが『共存』ではない筈だ。
 ヒトは時にそれ以上を求め、縁は捩れ、絡み、縺れる事もあるが……
 今回の件ならば、此処に立ち入らぬように亜竜種達に言っておく方が早いだろうな」
 アーマデルが続けて言えば、蛟は静かに肯定を示す。
『無暗に湖の近くまで来ないのであれば、私は関知を致しません。
 好きにすればいい。それが私から言えることです』
 そう言って、緩やかに蛟が身を屈めた。そろそろ湖の中に帰ろうというのだろう。
「そうだ、これ、あんたにやるよ」
 シラスはその様子を見ると、近くの木に置いていた物を持ってきた。
『なんですか、それは』
 それは格好いいポーズを決めたシラスの象だ。それも等身大の。
「これなら世話要らずだぜ、存分に宝物にしていいから」
 隣に起き上がらせてみれば、瀟の不思議そうな眼が像とシラスを交互に見る。
『……ふふっ、まぁ、良いでしょう。
 よくわかりませんが、献上された物を戴かねばこの地の主の名も廃るというもの』
 そう言うや否や、ふわりと水球が現れ、シラス像を中へ包み込んだ。
『見事な腕でした、挑戦者たち。貴方達に祝福を。
 ――とはいえ、大した力を与えることも出来ませんけれど』
「じゃあな瀟! またやりあおうぜ!」
 ルカが声を掛ければ、瀟が確かにうなずいた。
『ええ、機があるのであれば。
 ――機会が無い方が、そちらはきっといいのでしょうけれど』
 そのまま、瀟は湖の中へと飛沫を上げて去っていった。
 きらきらと、湖上に水滴が煌き、虹が掛かる。

●細やかな後日譚
 しっかりと休憩した後、明を連れて撤退したイレギュラーズは、その帰路にて『敵性動植物はおろか、動物とは全くと出会わず』に帰還を果たした。
 それが偶然だったのか、あるいは湖の女主人からの細やかな加護であったのか――そればかりは分からないが。
 帰還したイレギュラーズを迎えた亜竜種達は、明という生き証人とイレギュラーズの発言から、今後は湖に近寄ることを止めたという。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お見事でした、イレギュラーズ。
討伐ルートであれば、これほどの最高の終わりはなかったでしょう。

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